二日目 魔物(その2)


 自転車を戻し、かばんを掴むと再び昇降口へ戻った。多くの生徒が下校したとは言え、まだ居残っている生徒もいた。あれだけみんなの前で泣き喚いていたから、一年生の教室前は通りたくなかった。結局、昨日と同じ二階に上がり、二年生の教室前を通った。昨日より時間が遅いせいか、運が良かったのか今日は誰にも会わず図書室までやってこれた。
 少し緊張しながら、図書室の扉を開ける。左手に貸しだしカウンターがあり、上級生が作業していた。閲覧用のテーブルは長机で左右に三本づつ、計六本ある。長机の一辺に四人座れるので一本あたり八人、一度に48人座れる計算だったが、凛太郎が入学してから一ヶ月、全部埋まったのは見たことがなかった。せいぜいその半分20人程度だった。
 長机の向こう側、扉の真向かいには書棚が配置されている。七つの書棚が列を作り並べられている。凛太郎は閲覧用テーブルに目を移し、空いている席を探した。運良くいつも凛太郎が利用している入って左側の窓側の席が空いている。凛太郎はそこにかばんを置き、席を確保した。
 立ち上がって、自分の身体を元に戻すきっかけを探そうと、書棚に向かおうとした時、一人の生徒と目があった。阿部だった。
(ここに来てるの見たことないのに。今日に限っているってのは……なんかやだな)
 無視して書棚に移動すると、案の定阿部も着いてきた。どんどん近づいてくる。尚も無視していると阿部の方から話しかけてきた。
「山口、山口」
「なに」
 本を探しながら阿部の方は見ずに答える。
「お前と三組のあいつって付き合ってんのか?」
 全く予期していない質問に、思わず振り返り阿部を見た。
「はぁ? 付き合うって、男と女の話でしょ? 僕と諸積君は中学からの友達だよ。大体僕が男だって知ってるでしょ」
 小さな声で、しかしはっきりとした口調で凛太郎は言った。
「いやー、さっきのあれ見てたけどさ、まるっきり痴話喧嘩じゃない。前から付き合ってたんなら男同士でってことだから、二人はホ、」
「ホモじゃない。友達だ。あんまり変なこと言ってるといくら僕でも怒るよ」
 凛太郎は冷たい目で睨み付けたが、効果はなかった。
「そんな可愛い顔して怒っても似合わないって。山口すごい好みなんだ。身体女なんだから、中身もその内女になるだろ? 今のうちに立候補しとくよ」
 凛太郎の顔や胸をじろじろ見ながら、寒気がするような事をいいだした。
「……もう一度言うけど、僕も諸積君もホモじゃない。だから僕は男と付き合う事はない。身体は女でも中身が変わることはない。ずっと男。だから立候補しても絶対当選しない。本読まないならここから出てってよ。すごく邪魔。みんなの迷惑だよ」
 凛太郎はそれだけ言うと、分厚い医学書を取り出し自分の席に戻っていった。阿部は小声で「覚えておいてくれればいいよ」と言っていたが、当然凛太郎はそれを無視した。
 せっかく肌が綺麗になって、自分のコンプレックスが消え友達も増えると思ったのに、寄ってくるのがあんなのばかりでは遣りきれない、そう感じながら学術書に没頭した。

 * * * * * * * * *

 部活が終わり修一が図書室に来る頃には、殆どの生徒が退出していた。自転車置き場に自転車を取りに行くと、辺りも暗くなってきた。
「図書室でさ、」
 凛太郎が阿部の話を始めた。
「クラスに阿部っているんだけど、修ちゃんと付き合ってるのかって聞かれたよ」
「なに? リンタ、そんでお前なんて答えたんだよ」
「僕たちはホモじゃないし、付き合ってないし、友達だって言った」
 修一は内心ホモじゃないけど、付き合ってないけど、友達って訳でもないよなと思っていた。出来れば、凛太郎がもしこのままなら友達以上になりたい、正直そう思っている。
「まぁ、そうだよな」
 凛太郎が併走する修一を見ながら続ける。
「そしたらさ、僕の事好みで中身も女になったら付き合いたい、みたいな事言われたよ。今までもそういう目で見てたんなら、あいつ絶対おかしいよ」
「なんだぁそりゃ。リンタそんな気ないんだろ?」
 修一は自分の事は一時棚上げにした。
「ある訳ないよ。男同士だよ? やだよそんなの。でさ、元に戻れるかどうかって言うので色々本探して見たんだけど……」
 凛太郎の何気ない一言で、修一は自分の立場に漸く気づいた。そう、阿部と殆ど変わらないのだ。凛太郎は自分を男として見ている。身体は女の子だけど、心は男。修一も阿部も男。つまり通常考えられるカップルの組み合わせでは無かった。肉体は結ばれても心は結ばれない。
(リンタがいくら可愛い女の子でも、俺がいつもそばにいても、リンタの心が女の子にならない限り、どうしようも無いって事か? ずっと元に戻らなくて、ずっと待ってても、リンタがその気にならないとダメなのか?)
 そして凛太郎が女の子である事を受け入れない限り、修一は告白も出来ない。今更ながらに凛太郎が男だった事を思いだし、強烈なジレンマに陥り、修一は凛太郎の話を聞くどころでは無くなっていた。
「……だから、日曜には……修ちゃん、聞いてる?」
「え、ああ、聞いて、なかった。悪い」
「なんだよ、もう。図書室にはめぼしい本が無かったから、やっぱり日曜に市立図書館行こう、って事」
 少々勾配がきつい坂に差し掛かって、凛太郎はサドルから腰を上げた。
「で、日曜だけど、笑ちゃんも、連れてきて、よっと」
 修一も少し腰を上げる。
「え、いいのか? リンタ無理しなくていいんだぞ」
 凛太郎は漕ぐ力を強める為に、ハンドルを握る手に力をこめ上体を前傾させた。
「いい、よ。やっぱり、たくさんが、早く、調べ、あ〜、だめだ。押していこうよ」
 坂道の途中でさっさと自転車を降りてしまった凛太郎に、修一も同じように押し始めた。
「もうちょっと体力つけた方がいいぞ、華奢すぎだって」
「しょうがないじゃんか、ちっちゃい頃に運動する癖が付いてないんだから」
 小児喘息だった頃、殆ど外で遊ぶ事が無かった凛太郎は、その頃から本が好きだった。外で遊ぶより家の中で、という習慣は、結局小児喘息が治った後も続き今に至っている。
「で、ほんとに笑の事連れてっていいのか?」
「だからいいってば。前向きに行くことにしたから。一緒にいてくれる親友がいるし」
 ニッと笑いかける凛太郎の顔を見ながら、修一は作業棟裏で抱きしめた事を思い出していた。細く華奢な身体、それに似合わず柔らかかった胸。あの場では凛太郎には嗅いでないと言ったが、実際にはリンスの匂いを堪能していた。
 近づけば近づく程、修一には凛太郎が女の子として実感されてしまう。顔も身体も声も、何もかもが女の子だった。凛太郎が男だと言うことは、最早記憶に残った姿と凛太郎自身が言う言葉の中にしか存在していない。
 凛太郎にとっても、修一は特別な存在だった。アトピーの酷い肌を見ても普通に接してくれた大事な友人・親友。そして今の凛太郎の苦しさを一番解ってくれている。抱きしめられた瞬間の、あの安堵感は、千鶴に抱かれたのとも異なる心地よさがあった。勿論、男だった自分にはない、逞しさへの憧れもあったけれど。
 昨日、今日で、凛太郎にとってどんなに修一が大きな存在か解ってしまった。ただそれが同性の友人としてなのか、異性として見ているのか、答えは出したく無かった。同性の友人として見ていると答えたら、凛太郎の中に芽生え始めている「何か」が壊れてしまいそうで嫌だったし、異性として見ていると答えたら、これまでの自分の存在を否定してしまいそうで怖かった。
 そんな思い思いの事を考えながら、二人は思わず見詰め合い、お互いが少し顔を赤らめながら視線を外し、言葉もなく自転車を押し続けた。

 * * * * * * * * *

 家に着き、修一を見送るともういい時間になっていた。洗面所で手を洗おうと鏡を見ると、今日も泣いてしまった自分の顔が目に入った。
(あー、まぶた腫れちゃってるよ。修ちゃんにこんな顔見せてたんだ。もうちょっと感情コントロールしなくちゃな……)
 水で濡らしたタオルをまぶたに充てる。冷たくて気持ちが良かった。 二階に上がりジャージを脱ぎ、部屋着に着替えた。ポケットを探り修一のハンカチを取り出すと、ちょっと見つめてから匂いを嗅いでみた。吸い込むと修一の体臭がしたような気がした。
(……修ちゃんの匂い……? じゃなくって、洗濯石鹸の匂いかな。って、なんで匂い嗅いでんだ? なんか段々おかしくなってないか、僕。抱きしめられた時もいい気持ちに……なってない、絶対なってないって)
 無造作に修一のハンカチを机の上に置くと、急いで夕食を採りに部屋を出て行った。

 * * * * * * * * *

 夕食、シャワーを済ませ凛太郎は部屋へ戻ると、すぐにベッドに寝転んだ。これまで起こった事を考えてみる。
 自分の肌を綺麗にしたい一心で、あのお店に行き、入浴剤を買った事。綺麗な肌を思い浮かべた時女性の身体も思い浮かべた事。何故か女の子になっていた事。女性化した事で色々な不都合や人々の無遠慮な視線を浴びた事。混乱、戸惑い、羞恥、様々なマイナスの感情が渦巻く日々だった。わずか五日間の話なのに、とても長い時間が経過したように思えた。
 でも、マイナスだけではなかった。プラスもあった。修一という存在がプラスマイナスゼロにしてくれていた。女性化した凛太郎を受け止め、一緒にいると守ると誓ってくれた逞しい男子。あの腕で抱きしめられた時、女性化してからのマイナスがプラスに転じたと思えた。
 作業棟の影での出来事を思い出し、胸の高鳴りが抑えられなくなってしまった。頭から振り払おうとすればする程硬い胸や力強い腕、修一の体臭が頭の中で駆けずり回ってしまう。
 ベッドの中で身体を丸め、自分の腕で肩を抱いた。何か自分の中に生じたイケナイ想いを、外に出さないようにしたかった。
(どうして、男同士なのに、修ちゃんに抱きしめられた事が……気持ち良かったなんて……)
 どんどん身体が火照ってくるようだった。
 彼の胸に触れた頬が、胸が、肩が、熱くなってくる。そして自分の肩を抱いている右手も熱くなっているのに気づいた。彼に抱きしめられてると思うと、これまでの不安も困惑も焦燥も全て無くなってしまう。
(あ、昨日の、握手……。修ちゃんの……)
 右手を肩から鎖骨に、そして首筋に、つつっと移動させてみると、身体に震えが走った。昨日と同じように唇を撫でると、自分の口から熱い吐息を感じる。
(修ちゃんの手……気持ちいい……あ)
 唇が物足りなさを訴えるように震える。何かないかと上体を起こし、室内を見回すと、修一のハンカチが目に入った。
(修ちゃんの、匂い)
 ここで止まらないと、もう帰って来れないような気がしていた。だけど止められない。
 左手でハンカチを握り締めながら、もう一度ベッドに潜る。布団を頭から被ると少し息苦しかった。ハンカチを口元に持ってくると、布団に籠もった自分の体臭と、ハンカチに染みている修一の体臭が混じり合い、凛太郎は陶然としてしまった。匂いだけれど、自分と修一が混じり合っているという想像が、自分の肌と修一の肌が触れ合うイメージにまで膨らんでいった。
 そのイメージが暗い布団の中で大きく映し出されると、下腹の辺りがキュッと動いたように思えた。身体の外だけでなく、内側から熱いモノがにじみ出て来る感覚。
(あっ……濡れてきた?)
 キュッと目を瞑り右手を胸の辺りまで下げる。服の上から左の乳房を掌で円を描くように触った。それだけでゾクゾクと背中から子宮の辺りへ、そして濡れ始めた膣まで快感が走り抜けていく。
(はぁ、気持いい。手が、すごく熱い……)
 トロトロと次第に膣から愛液が流れショーツにシミを作っていく。凛太郎は尚も乳房をまさぐった。大きく手を開き、乳房の下から持ち上げるように、ゆっくりと揉みあげる。胸の奥の方から気持ち良さが出て来た。はぁはぁと息が荒くなる。ハンカチの匂いを嗅ぐと、頭の芯がじーんと痺れてきた。
 自分のすべすべした肌に直接触りたくなり、ゆっくりと右手でパジャマのボタンを外していく。上から下へ。一つ一つ外すと少しづつ乳房が露になっていく。ボタンを全部外し終わると、何も包まれていない乳房に手で触れてみた。
「はっあ……」
 ビクッと身体に痙攣が走り、赤い可愛い唇から思わず快感を知らせる声が漏れる。さっきと同じように、下から持ち上げるようにやわやわと揉んでいくとそれだけで下半身がトロけそうになった。
(手、修ちゃんの、僕の身体、触ってる……ああぁ……)
 大胆に揉み上げながら、次第に親指と人さし指の距離を縮めていくと、指先で乳首を挟めるようになった。最初は軽くさするように、徐々に捏ねるように、摘むようにしてみる。
「ひぁ、あ、いぃ」
 乳首から新たな愉悦が体中に発信されると、凛太郎は声を抑えられなくなっていた。身体は膣から大量の粘液を吐き出し続ける。
 左手で持っていたハンカチを使って乳房を触ってみると、今まで感じていた以上に敏感に身体が反応した。
「……あ、くぅ……」
 愛液をしたたらせるソコが疼き、下半身はそれを何とかしようと腿を摺り合わせもじもじしていた。しかし甘美な感覚はそれで打ち消せる訳もなく、右手でショーツの上からソコに触れてみる。指の感触から既にショーツの外側まで、ぬるぬるの液体で覆われてしまっているのが解った。パジャマも少しづつ濡れて来ていた。
(すごい、べちゃべちゃになってる……)
 恐る恐る割れ目に中指を這わせる。クリトリスの部分を優しくうねうねと刺激すると、じりじりとした快美感に襲われた。
(うあ、あ、いぃ、きもち、い)
 割れ目に沿って指をさすると後から後から愛液が湧き出てしまう。しかし布一枚隔てている為に、突き抜けるような甘美な感触が得られない。
 凛太郎はもどかしさに悶えた。そのもどかしさをなんとかしようと、シミ出た愛液で濡れた手をショーツのサイドに入れ、脱がして行く。片手だと脱ぎ辛かったので、左手に持っていたハンカチを口に銜えた。お尻が引っかからないように軽く腰を浮かせると、ショーツは簡単にスルッと脱げていった。
 ねっとりした愛液がクロッチの部分から糸を引き、短い間に冷え、腿にひんやりとした感触を残し垂れた。
 女性器が完全に露になると、被った布団の中は噎せ返るような女の匂いで充満した。その匂いを嗅ぐと、凛太郎は羞恥心が溢れ、たまらなくなってしまった。
(こんなに、すごく、ぅ、どうしてっ?)
 どうしてこんなに濡れてしまったのだろう? 親友だと自分で言っていた相手を、自分の性の対象としてしまっている。男の自分が男を求めて、女になった身体を濡らしている。その後ろめたさを思うと余計に濡れて来てしまった。
 赤く充血し大陰唇から飛び出し蠢く小陰唇を、左手の人さし指と中指で掻き分ける。
「!」
 外気に陰裂の中身が触れるだけで、愉悦が込み上げてくる。肉裂の上にあるさやに包まれた肉の芽を右手の中指を使い今度は直接嬲った。
「ふぁっ」
 愛液でたっぷり濡れた指がクリトリスに触れると、全身が痺れた。
(うそっ、この前より、すごっ、しゅう、ちゃん、ああぁっ)
 指先で捏ねるだけでは空き足らず、乳首と同じようにクリトリスを人さし指と中指を使ってしごく。下に下がる時は人さし指で包皮をめくるように、そして上げる時は二本の指で絞り上げるように。ヌチヌチといやらしい音が凛太郎の耳に届いてくる。その音を聞くと一層身体が熱くなるようだった。
(なんでぇ、こんなにえっちに……)
 強烈な刺激が、脳髄を焼いているみたいだった。止めないと、ほんとに戻れなくなる、女の子になっちゃう、そう凛太郎は思ったけれど、身体から得られる快感に溺れ、指が止まらない。いや、指を止めたくなかった。
 肉芽を扱くスピードを徐々にあげる。一扱き毎に性感が高まり、その愉悦に身体は少しづつ筋肉を強張らせていく。
 さっきまで小陰唇を開いていた指は、イヤらしく涎を垂れ流す膣口をいじめ始めた。左手の中指をほんの少しだけ埋め、振動させる。くちっくちゅっと湿った音が聞こえはじめる。
 クリトリスを扱く音と膣に指を入れる音が重なり、「ぬち、くちゅ、くちっぬち」という音になった。次第に音は大きくなり、それに伴って凛太郎の膣はキュッと絞めつけて来る。
(ああ、気持ちいい、しゅうちゃん、もっと、もっと、もっとっ!)
 修一の指が、身体が自分の中に入って来ている。そう思うだけで凛太郎の身体は悦びを示し、膣の襞がざわざわと指に刺激を加えていた。
 いつの間にか膣口を行ったり来たりしている中指は、愛液の助けも借りて第一関節までリズミカルに出入りしている。
 指で扱き、指を膣に突き入れ、その指を膣に絞められ、膣の蠢く襞を堪能した。その快感は凛太郎の意識を溶かして行った。
「あ、あ、あ、あ」
 中に入れた指を手前に少し曲げ、愛液で満たされたぬるぬるの膣壁を指の腹でなで上げた。これまで以上の快美感が膣から広がる。小さなつぶつぶやひだがぎゅーっと指を喰い絞めようとした時、右手の指がクリトリスをキュッと扱いた。
 噛んで唾液まみれになった修一のハンカチがポロっと口から落ちた。小さい叫び声が上がる。
「あっや、だっ、ぁい、くぅっ!」
 愛液でたっぷり濡れた指がクリトリスを扱いたその瞬間、それまで溜まりに溜まって、高まっていた性感が大きく弾け、凛太郎は絶頂を与えていた。身体は全身がピンクにそまり、伸びをするように腰が浮き上がり、足の筋肉は硬直した。クリトリスは大きく堅く包皮から飛び出し、愛液でヌラヌラと光っている。膣は最初指を喰いちぎらんばかりに絞めたかと思うと、びくびくと痙攣してを始めた。
「あ、はぁぁぁ……」
 のろのろと収縮から弛緩に移行してしまった膣は徐々に指を放し始める。
 凛太郎は激しい快感で蕩けた脳をなんとか動かした。
(修ちゃんでイッちゃうなんて……。サイテーだ。でも……)
 股間に置かれていた手を横に離した。
(僕は修ちゃんの事……好…………き……?)
 凛太郎はこれまでの緊張と疲労がオナニーで増幅され、半裸のまま寝入ってしまっていた。自分の気持ちに気付かないまま。

 * * * * * * * * *

 真っ暗な空間の中で凛太郎はゆらゆらとその身体を漂わせていた。上も下もない空間。鼻をつままれても解らない。ただ自分と言う意識だけがあるように感じた。
(……あれ、ここは?)
 当然の疑問にも答えられる材料は持っていなかった。手で身体に触ってみると感覚がある。ただ胸には乳房がちゃんとあったし、股間には何も無かった。
 何か得体の知れない恐怖の様なモノが、次第に凛太郎の心に入り込んでくる。凛太郎はその身体を丸くし膝を抱え込んだ。
(……誰もいない? ……誰かいませんか? ……あれ、声が出てない?)
 辺りを見回そうにも、目を思い切り見開いても何も映ってこない。声を出したはずなのに、音となって鼓膜を振るわせていない。ただ頭の中では、思ったことと同じようにしゃべった言葉も聞こえてくる。
(怖い……)
 怖くなった凛太郎は右腕をぶんぶんと振り回してみた。しかし何も当たらないし、腕の産毛には風が当たる感触がない。勿論腕が風を切る音さえ聞こえてこない。
 考えを巡らせてみる。
(昨日寝る前に何したっけ? ぅ……ひとりえっちしたんだ……。修ちゃんで……その後は? えっと、寝ちゃった、のかな? あ、パンツ穿かずに寝た?)
 昨日の事を思いだし、多分真っ赤になって記憶を追っていく。しかしショーツを穿かなかった事、ちゃんと体液を拭き取っていない事位しか思い出せない。
「だいぶ、慣れちゃったみたいね」
(ひぇっ?)
 耳元で突然話され、凛太郎は当惑した。自分の声は頭に響くだけだったのに……。
(あ、この声は!)
「あら、お覚えていてくれたのね。お姉さん嬉しいわぁ」
(これは夢? また夢見てる?)
 もう戻れないと言われた夢を思い出した。自分の見てる夢の中で、夢を見てると解るなんて変な感じがしていた。しかし。
「残念だけど、これ夢だけど夢じゃないのよ。前のもそう。ほんとは気づいてたでしょ?」
(……ほんとは気づいて、って思ったこと全部出ちゃうの? ええっなんで? あんたのせいでこうなったんだから、戻せ無いって嘘だ、どこにいるんだよっ)
「あらら、何か混乱してるわね。それもそうか。そんな言葉使い、その身体に似合わないわよぉ」
 あの店員の「声」は凛太郎をからかうように、嬲るように話してくる。凛太郎は必死に精神を落ち着かせ、冷静に話しをしようとした。
(あなたなら、どうにかして僕の身体元に戻せるでしょう? お願いだから戻して下さい)
「え〜? 昨晩はあんなに楽しんでたのにぃ?」
(う、ち違っ、楽しんでなんかないっ、気持よくってまたしたく……修ちゃんが……修ちゃんの……違う、考えてない! 楽しんでない!)
「ほらほら、君が何を欲しているか、素直に話せば楽になるわよ」
 凛太郎は打ち消そうとすればする程、昨日の記憶が鮮明になってくるのを止められなかった。
(違う、修ちゃん好きだけど、男だから、女にならないと、なっちゃダメだから、修ちゃんホモじゃない……戻してっお願いだからっ……?! あ、やっ)
 自分の思考がめちゃくちゃになり始めた時、何かが首筋を撫でていった。思わず凛太郎の嬌声が漏れる。
「ふふっ。あたしにももう戻せないのよ、君の身体は。君に残された採るべき道っていうのはね……、」
(あ、あ、やだっ、きもちいい、もう、っと、さわってよさわらないでよっ)
 するすると、「手」のようなモノが凛太郎の首筋から脇腹へ、そしてそのままお尻の方へ延びていく。夕べの感覚が蘇り、次第に凛太郎の性感が呼び起こされていった。
「……今の自分を全部受け入れる、これだと幸せになっちゃうからあたし達的にはメリットないのよ。だから却下。で、もう一方が、女の子になるのを否定し続ける事、もっともっと罪悪感を持ち続けてね」
 「手」はそのままお尻から陰裂へ回っていった。ゆっくりと割れ目に「指」を這わせると、既に潤い始めたピンクの肉が戦慄いている。染み出た愛液を「指」にまぶすと、少し膨らんできた肉の突起に触れた。
(あふっ、ああっだめ、触っちゃ、いいっ)
 必死に「手」と「指」の動きを制しようと、凛太郎は自分の股間を探った。しかし触られている感触はあってもそこに「手」は存在していない。それにその何かが邪魔して自分の股間にも手を触れられない。
(あ、あ、いやっ)
 ぬるぬるの「指」が赤く充血した肉芽を、円を描くように撫でていく。その度に凛太郎の身体がビクビクと踊ってしまう。
「今感じてる快楽を否定していいの。本当は求めてるのにこれからずっと求めていない振りをするの。えっちな事はいけない事なの。しちゃいけないのよ」
 そう「声」は語りかけながらも、「指」は尚も凛太郎の宝石をなぶる。快感によって開ききった小陰唇は、大量に分泌された粘っこいジュースでテラテラと濡れている。しかしその様は凛太郎には見えなかった。
(やぁあ、きもちいい、もっとぉ!)
「そうよお、女の子のここは気持いいのよ。でも男の子はいじったりしたらダメでしょう? 男の子は男の子に触って欲しいなんて思わないでしょう?」
(おんなのこっきもちぃいいのお、おとこのこっダメ、あ、やだやだぁいいきもちいいよお、しゅうちゃあん! あっんうっ!)
 トロけそうな快美感が腰から全身に広がってきた。「声」ははっきりと、凛太郎の心に女の子の身体を弄ることを、修一への気持が罪悪だと刷り込もうとしていた。そして「指」の数が増し、濡れそぼった穴の中へ「づぷっ」と入っていった。
 凛太郎はもう快感に狂いそうだった。自分の指でなく、修一の指でもなく、「指」らしきモノが自分の陰核をぬるぬると撫で、身体を弄び内蔵をぐちゅぐちゅと抉っている。そこから紡ぎ出される愉悦は、凛太郎がこれまで経験した事のないものだった。快感に咽び、涙を流し、半開きの唇から「つー」っと涎がこぼれた。
 「指」はどんどん奥に行き、ついには処女膜を確認した。
(あーあーあー、もうだめっだめっ)
 厚みを増した小陰唇は大きく捲れ返り、膣は「指」をきゅっと絞め上げている。
「男の子が男の子の事考えて一人えっちするのはいけないことよ。悪い事よ。ほら、昨日も今も男の子の事考えると罪悪感が募るでしょう」
(もうっもうっいきそう、あ、あ、しゅうちゃん、だめっいっちゃだめっやっあふっ)
 ぬちゅ、ぐちゅっと、いやらしい音を立てながら、激しく膣から出し入れされている「指」は、凛太郎の内壁を思う存分蹂躙していく。
「指が喰い千切られそうよっ。スケベなまん○ねっ。それ、もっと抉ってあげるっ」
 そう「声」が言うと、凛太郎に残った理性が猛烈に罪悪感を駆り立てる。「指」を絞め上げる自分の膣が、堪らなく卑猥に感じていた。
(うああ、しゅうちゃん、だめっ、考えちゃだめぇ、そんなとこ……いじっちゃっだめっ)
「いいのよ、求めて。ここに彼を銜え込みたいって。彼の太いおち○ちんをこのいやらしいま○こで絞めあげてあげたいって、気持ち良くしてあげたいって、そう思っていいの。可愛い女の子なら当然だわ。あ、でも駄目ね。君は男の子だもの」
(そんな、そんなの、思ってっ、しゅうちゃんの、しゅうちゃんの、ああっしゅうちゃあん、きてっきてっ)
 言葉で弄られる度に、絞め付ける力が強くなる。そしてその度凛太郎は切なく声を上げた。 「ぴくぴく絞めちゃって。もうイキそうなのね、ふふっ可愛いわよ。でもまだイカせてあげなーい」
 凛太郎の股間で蠢いていた「手」や「指」がピタッとその動きを止めてしまった。凛太郎はイケない焦燥から、自ら腰をうねうねと動かし、動きを止めてしまった「指」から少しでも快楽を引き出そうとしていた。
(ああっ、いやあ、もっとぉ、もっとしてぇ、早くっ早く動かしてよぉ……)
 もどかしそうに、自分の乳房を乱暴に揉み、乳首を抓り上げる。股間に手をあてがっているが、「手」が邪魔して股間まで自分の手が届かない。凛太郎は自分でも何をしているのかよくわからなくなってきていた。
 「声」はその姿を見ているのか、満足そうに言った。
「よく、覚えていてね。君は女の子の身体、その快感に夢中なの。これからもずっと求めていくの。でも男の子だからそれはイケナイ事をしてるの」
 「声」はゆっくりと指の注送を再開した。
(ん、はぁっ、これっ、これがっ、いいっ!)
 抽送される「指」が二本に増える。突かれ引き出される度に、膣口から大量の粘液が掻き出されていく。
「君は男の子なのに女の子の身体を使って、親友を誘惑してるのね。これからもずっと彼が欲しくて堪らないの。でも男の子だからそれはイケナイ想いよね」
 凛太郎には、最早その声が届いていないように見えたが、それでも「声」は続けていく。
「彼は君の親友なのに、いっぱい色んなえっちな想いを募らせてるの。君の身体が好きになっちゃたのね。でも君自身じゃないのよ。君の身体が欲しいの。君の身体に恋しちゃったの。君の身体を使って、このすけべなまん○を使って、おちん○んしごきたいの。気持ち良くなって精液どぴゅどぴゅ中出したいって思っているの。でも彼は悪くないのよ。男の子は誰だって女の子とヤリタイでしょう? 悪いのはね、親友をたぶらかそうってま○こからヨダレ垂れ流して、処女のクセに指を二本も入れられて、クリトリスぱんぱんに膨らませながらヨガッてる君と君の身体が悪いの」
(あっあっ、もう、イキそっ、あ〜っ、いくっいくっもっだめ!)
 凛太郎は喉を大きくそらせ、体中の筋肉を緊張させた。イク少し前から乳房が硬くなった気がしていた。膣がぎゅーっと「指」絞め付ける。これまで以上に絞め付けている。足を突っ張り力が自然と入っていた。攣りそうなほどの緊張。呼吸をしていないのも忘れてしまった。真っ暗だった目の前が、チカチカとネオンのように光っているようだった。
(や、あああああああああああっ!)
 頂点に達すると徐々に意識もはっきりとしてくる。が、相変わらず凛太郎の膣は「指」を絞め付け、今度はビクッビクッと間歇的に蠢いていた。その自分ではどうしようもない浅ましい筋肉の動きと、修一を想いながらイッテしまった凛太郎の心は罪悪感と羞恥で一杯になってしまった。
(……こんなに、まだ欲しがってるみたいに、動いてる……。僕が、修ちゃん欲しがってるの? そんな……、僕……)
「そうねぇ、まだ欲しいのねぇ、浅ましいわね、君って。彼が欲しくて喰いついてきてるわよ」
 しばし膣内で休憩していた「指」再び内壁を捏ね回し始めた。火が点いていた凛太郎の身体は、容易に快楽の頂点付近まで持ち上げられてしまう。
(うあっ、あ、もう、やっ、また、すごいぃっ! もっとお、いじってぇ! 修ちゃん、しゅうちゃん!)
「身体は女の子になったけど、心はずーっと男のままよ。彼が君を好きでも、君が彼を好きでも、永久に結ばれないの。男同士だから。君が悪いの、そう望んだから。肌を気にして変わりたいって願ったから。女の子みたいになりたいって思ったから。これから先味わう苦痛も罪悪感もやるせなさも、全て君が悪いの。願った君が悪いの。……それを君の可愛い身体に刻み込んであげる」
 体内にねじ込まれた「指」の動きに、凛太郎は魅了され逆らえない。「くちゃくちゃ」と直接頭に響く、自らの股間が発する湿った音に、変わってしまった自分の身体を呪いたかった。しかしこの脳も蕩けるような快楽を与える身体を、手放そうとは思えなくなっていた。
(やだっ、身体っ、女の子でもっ、ああっ気持ちいいよぉ。もうもうこのままでっ、いいっああっ!)
 捻るように膣から出入りする「指」に翻弄されながら、届かないクリトリスに指を這わそうと股間をまさぐった。しかしやはり届かない。あまりのじれったさにいやいやと首を振るけれど、どうにもならない。
 もう一つの「手」が凛太郎の変わりにクリトリスをなぶり始めると、凛太郎の身体は待ってましたとばかりに、その感触を貪った。
(もぅ、いくっ、いっちゃうぅぅっ!)
 二回目の絶頂は早かった。トロトロに熟れきった肉裂を守る小陰唇は真っ赤に充血しながら、ぱくぱくと動き、その中はぎゅーっと絞めたかと思うと、ぴくぴくと痙攣する。凛太郎の心も身体も、その愉悦を存分に堪能し、果てた。
(あ…………)
 思考が次第に閉じていく中、凛太郎は自分の心に何か鍵が掛かってしまったような気がした。
「あら、我慢が足りないわねえ。でも一通りは仕掛けたからいいかしら。ふふっ、これからまたしばらくいい感じになるわあ」
 凛太郎の髪を「手」が優しく撫でる。
「……今与えた快楽は、君のオモテの思考には出ないわよ。そう、心の深いところで、澱のように残るの。君が君の肌を、身体を、それから彼との恋を思う度に、浮かび上がって罪悪感と絶望を与えてくれるの。幸せには絶対にしてあげないわ。こんなにおいしいコ……。この身体に慣れたらまたしてあげる。ふふっじゃあね」
 既に意識がない凛太郎に、「声」は語りかけていたが、一通り話すとそのまま虚空へ消えて行った。
 残された凛太郎は、自分の部屋でオナニーの後の姿のまま、寝息を立てていた。


(3日目へ)


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