「吉川くん」

「え? なに、津和野さん」

「変なメール寄越さないでくれる。あたし、迷惑なんだ」

「変なメールだなんて、俺は……」

「全く、あたしがあなたと付き合う筈ないじゃないの、この身の程知らず、はん!」

 そんな、津和野さん、俺は君のことが好きなんだ。
 そりゃあ確かに君と俺じゃああまりに不釣合いかもしれない。
 俺だって今までずっとそう思ってきた。
 告白しようとしてもできなかった。
 でも勇気を出したんだ。
 勇気を出して、君にメールを……それなのに、あんまりだよ。



 その日以来、俺は自分の部屋に閉じこもった。
 外界との繋がりを閉ざして部屋に閉じこもったまま、偶然ネットで見つけた
あるゲームにのめり込んでいった。

 そして遂にそのゲームをクリアした土曜日の夜、俺は『スキンマスター』になった。





スキンマスター(前編)

作:toshi9





 それは津和野渚に振られた後、俺がゲームにのめりこんでから数日が過ぎた
土曜日の夜のことだった。

「起きろ、起きるのじゃ、吉川修二」

「う、うーん、誰だ、おやじか」

 ベッドに寝ていた俺は、部屋に響く低い声に起こされた。
 でも寝ぼけ眼で見上げた俺の目の前に立っていたのは、おやじではなく黒ずくめの
服を着た見知らぬおっさんだった。

「吉川修二、慣例に従い、そなたに『スキンマスター』の称号を授けようぞ」

 起き上がった俺に向かって、おっさんは厳かに宣言した。

「『スキンマスター』? 何だそりゃ」

 いきなり起こされてそんなことを宣言されても、訳のわからない俺にはそう答える
しかなかった。
 そもそもこのおっさんは何者だ。どっから俺の部屋に入ってきたんだ。
 だがそんな疑問を口にする前に、大げさに驚くおっさんに俺は気圧されてしまった。

「な、何と! そなた『スキンマスター』の称号を要らんと申すか」

「ちょ、ちょっと待て。要るも要らんも、俺は、それは何だと聞いているんだ」

「ふーむ、久し振りに皮師を極めたる者が現われたと思うて喜んでおったが、これは
どうしたことじゃ……」

 黒ずくめのおっさんは、難しい表情で腕を組むと、ぶつぶつと独り言を言っている。

(あぶねえおっさんだなぁ。いやそれよりこのおっさんって何者だ。
 何で俺の部屋にいるんだ。
 ん? 待てよ、おっさん今『皮師』って言ったな)

「おいおっさん、あんた今『皮師』って言ったな。
 それってもしかして『マスターゲーム』の『皮師』のことか」

「おう、それよそれ。『スキンマスター』の称号を受けた後、そなたは極めたる皮師の
力を自在に振るえるぞよ」

 確かに俺はここ数日の間のめりこんでいた『マスターゲーム』というオンラインゲーム
を遂にクリアした。
 そしていつの間にか眠ってしまったけれど、さっきまでそのエンディングを見ていたんだ。
 そう言えばゲームのエンディングテーマが流れる中、画面に『おめでとうございます。
あなたにはマスターの称号が授けられます』という文字が大きく映し出されていた。
 『スキンマスター』の力、皮師の極めたる力って、まさかゲームで俺のキャラクターが
使っていたアレなのか。
 あの力を俺自身が使えるなんてこのおっさんは言ってるけれど、そんな馬鹿なことが……。
 ……でも……もし本当だったら。

 俺が唾をごくりと飲み込んだ。

「よしおっさん、その『スキンマスター』の称号を受けるぜ」

「おお、ようやくその気になったか。よしよし、それでは今からそなたがわしに代わって、
新たなる『スキンマスター』となるのじゃ。
 ふぉっふぉっふぉっ。これでようやくわしも解放されるわい」

 黒服のおっさんはにこりと含みのある笑いを浮かべると、俺に向かって何かを
差し出した。

「え?」

「ほれ」

 それは平たくて細長い小さな金属状のものだった。

「ゲームを極めたお主なら知っておろう。『スキンマスター』の必須アイテムじゃわい」

 おっさんはその一辺をシャツの上から俺の胸元に押し当てた。

 そう言えば確かに皮師のアイテムにこんなものが…でもさっきの言葉。

「おっさん、ちょっと待て! おっさんに代わってって、どういうことだ!?」

 だがおっさんは俺の疑問に答えず、服の上にくっついてしまったかのように見える
その金属片を胸から腹のほうに向かって一気に押し下げた。

 シャッ。

 まるでファスナーを開くような音が上がる。

「・・・・・・・・・・」

「え? なに?」

 おっさんが何かの呪文を呟いた。

 だがおっさんが何と呟いたのか、そして俺の体に何が起きたのかを確かめる間もなく、
俺はそのまま気を失ってしまった。





「くぅ〜、何なんだ、今のは……あ、あれ?」

 目を開けると、俺はパソコンの前で椅子に座ったままうたた寝している自分に
気が付いた。

「え? 夢? 今のって夢? そうか、ゲームの途中で寝ちゃったんだな」

 そう、どうやら俺は夢を見ていたらしい。
 部屋の中にいるのは俺一人だけ。
 黒ずくめのおっさんはどこにもいない。

 机の上のパソコンのディスプレィを見ると、点いたままのその画面には『FIN』という
白い文字が映されたままだった。

「そう言えば夢の中であのおっさん、確か『スキンマスター』って。
 でもあれって本当に夢だったのか? それにしては、やけにリアルな夢だったよなぁ」

 一人呟きながら何気なく自分の手を見る。
 すると、何時の間にか右手に何かを握り締めているのに気が付いた。

 握った拳をゆっくりと開くと、その中から平たくて細長い金属片が現われた。

(それを使えば、そなたの望みのままぞ)

「望みのままって、え? さっきのおっさんか? おい、どこだ、どこにいいる。
 どういうことだ」

(ふぉっふぉっふぉっ、さあ『スキンマスター』の力、存分に使うが良い)

 その言葉を最後に、おっさんの声は二度と聞こえることはなくなった。

 静寂が部屋を包む。

「い、今のって確かにさっきのおっさんの声だよなぁ。
 やっぱ、あの夢って現実だったのか」

 俺は手の平の金属片をじっと見詰めた。

「そりゃあ確かに部屋に閉じこもって、ずっとアレにはまってたけど。
 そしてクリアしたけど。でもなぁ」

 アレ、即ち俺がさっきまでプレイしていた『マスターゲーム』とは、ゲームの中で
自分のキャラの職業を選択し、その特殊能力を駆使して様々なダンジョンをクリア
していくオンラインゲームだ。

 津和野さんに振られた後自分の部屋に閉じこもった俺は、ネットでこのゲーム
のことを知った。

 早速『皮師』という職業を選択してゲームをスタートした俺は、たちまちこのゲームに
夢中になった。
 そしてあっという間に数日が過ぎたものの、さっきゲームの中に仕掛けられた
全てのダンジョンを遂にクリアした。

 俺の目の前にあるディスプレィの画面に大写しされてる『FIN』という文字の下には、
 「おめでとうございます。あなたには、マスターの称号が授けられました」
 という文字がちかちかと点滅していた。

(はて? こんなテロップだったっけ……)

 ちょっと違っていたような。
 そんな疑問を持ちつつも、俺は『スキンマスター』の力の使い道について考えてみた。

 そう、俺がそのゲームで選んだ『皮師』という職業の特殊能力というのは、現実では
とても考えられないものだ。
 でも仮にそれが本当に使えるとしたら……。

 『そなたの望みのままぞ』というおっさんの言葉が頭の中に蘇り、思わず俺はごくりと
生唾を飲み込んだ。

 でもなあ……。

「ふっ、まさかな。まさかあんなことができる訳ないさ」

 そう、できる訳がない。
 そう思いながら、俺は再び手の平の金属片をじっと見詰めた。

 それは見れば見るほどゲームの中で特殊能力を発揮していた俺のキャラが使っていた
金属片にそっくりだった。

「そうだ、この金属片は何で俺の手の中にあるんだ。これも幻だっていうのか」

 俺は、椅子から立ち上がった。

 窓からは朝日が差し込んで、外はすっかり明るくなっている。
 そう、週末ということもあって深夜までゲームに熱中していたが、もうすっかり日曜の朝
になっていたのだ。

「朝か。よし、これがおっさんの言った通り、果たして本物かどうか試してみるとするか」

 パソコンの電源を切りながら、ゲームの中で使ったいくつかの呪文を心の中で反芻する。
そして着替えずに寝てしまっていた俺は、そのまま部屋を出ると一階に降りた。

 リビングを覗くと、ナディアがソファーの上で寝そべっている。

 ナディアというのは、うちで飼っている雌の子犬だ。

「母さん〜、ナディアを散歩に連れて行ってくるよ〜、それから食事はいらないからね〜」

 返事は返ってこない。

 全く母親のくせに朝に弱いんだから。そう思いつつも、俺はとにかくナディアを抱いて
外に出た。






「さて……と」

 近くの公園に着くと、周りに誰もいないのを確認して、俺は抱いてるナディアに金属片を
そっと押し当ててみた。

 ナディアがきょとんと俺を見上げる。

「あのおっさんの言葉が本当なのか、そしてこの金属片が本物なのか。
 すまないけど、ナディア、お前で試させてもらうぜ」

 俺は金属片の片方を持って、ナディアの体にくっついてしまったそれをすっと下ろしてみた。

 シャッ。

 ファスナーが開くような音を立てて、ナディアの胸から腹にかけての金属片が動いて
いった跡には、黒い隙間が開いていた。
 手をその中に差し込むと、そこには何も手ごたえが感じられない。

「ナディアの体の中に空間がぽっかり開いている。
 これってゲームと同じだよ。
 よおし、フェーーード・イン!」

 ゲームで使った呪文を唱えると同時に、ナディアがびくりと体を震わせる。
 そして俺は自分の体がナディアの腹にできた空間に向かってぐいぐいっと引っ張られる
のを感じた。
 
「ほ、本物だぁぁ!!!」

 そう、「フェーーード・イン!」と唱えた俺の体は、ゲームと同じようにナディアの腹にできた
空間に吸い込まれていった。






 小さなナディアの体にどうやって俺の体が入ってしまったのか、そんなことは俺にも
わからない。
 でも気が付くと、俺の体は小さなナディアの、子犬の体になってしまっていた。

 腹ばいになっていた俺が二本足で立ち上がっても、公園のベンチが俺の目線よりも
高いところにある。
 俺の体はまるで小人のようにちっちゃくなってしまっていた。
 手足を見ると毛むくじゃらで、手の平には肉玉が……そう、それは犬の手だった。
 お尻には尻尾が生え、自分の意思で振ることだってできる。

(成功だ! 俺は金属片と呪文の力でナディアになったんだ)

「わんわん」

(犬の口じゃ人間の言葉は喋られないんだな。
 それにこれって間違いなく犬の体、犬の手だよ。
 おまけに体の大きさもナディアと同じくらいに小さくなってる。
 うん、間違いなく俺がナディアになってるんだ。
 ふふふ、こりゃあ面白い)

 『フェード・イン』とは、金属片をくっつけた相手の中に自分の体を潜り込ませて、
その相手に成りすますことのできる皮師の呪文だ。
 人間にも動物にも、いや、例え生き物じゃなくても金属片をつけて中に空間を作れば、
その中に潜り込んで成りすますことができるんだ。

 そう、俺はさっき唱えた呪文によって、ナディアの体の中に潜り込んだ。
 そして今の俺の姿は、さっきまで自分で抱いていた子犬のナディアになっていた。

(おっと、犬がいつまでも二本足で立っているのも変だな)

 そう気が付いた俺は四つんばいになると、ゆっくりと公園の中を歩いてみた。

(四つんばいでも結構歩きやすいもんだな。
 しかし小さな体でしかもこうして四つんばいになって歩くと、景色って全然違って見える
もんなんだなあ)

 公園の中をを四つ足で駆け回る。
 まあ普通の人間だったらそんなこととても出来やしない。
 でも今の俺は子犬。
 誰が見てもそれを変だなんて思わないだろう。
 だってそれは子犬にとってごく自然なことなんだからな。

 「入ってはいけません」と書かれた芝生の上を、誰に気兼ねすることなくごろごろと
転がり回る。
 そう、今の俺は犬なんだから、何をしたって自由だ。

(俺が何をしても、今の俺って犬がじゃれているようにしか見えないんだよなぁ。
 へへへ、気持ちいいぜ)

 俺は、しばらくの間公園内を思い切り駆け回った。それはとっても爽快なものだった。

 だが突然吠えかけてきた犬の鳴き声によって、それは中断させられてしまった。

「わん!」

「え?」

 振り向くと、ナディアと同じ子犬が俺に向かって駆け寄ってくる。

(ふ〜ん、こいつ俺のことを本物の犬だって、仲間だって思っているんだ。
 それじゃあご挨拶しなきゃいけないな)

 俺はくぅ〜んと鳴き声を上げると、ぺろっと舌を出した。

 駆け寄ってきた子犬は、俺の周りをぐるぐると回り出すとくんくんと俺のお尻に鼻を
近づける。

(へへへ、こいつ俺が人間だとも知らないで)

 ところがかわいい奴とたかをくくっていると、その子犬は突然俺の後から背中に
圧し掛かってきた。

 雌犬のナディアのモノになっている俺の股間にぬめっとしたものが触れたかと思うと、
ぐいぐいっと棒状のものが押し込められてきた。

「ぐはぅ!」

「はっはっはっ」

 犬の荒い息遣いが後ろから聞こえてくる。

(こいつ、雄犬か……ま、まさかナディアに、俺に発情? 
 俺と交尾しようって……そんな、やめろ、やめろぉ)

 慌てて離れようとするが、がっちりと前足で俺の体を掴んだ雄犬は俺の体から
離れようとしない。
 そしてぐいぐいと腰を突き動かし始める。
 俺の股間に、そいつのものがにゅるにゅるくちゅくちゅと出たり入ったりしている。

「わ、わん!(やべぇ……こいつ、やめ、やめろ!)」

 だが俺の声など全く無視して、雄犬は腰を動かし続ける。

(だ、駄目だ、こいつ離れねえ。このままじゃあ俺、この犬に犯される)

 マジでヤバイ。
 自分の息が段々と荒くなってくる。
 犬のモノを受け入れている自分の股間が熱くじんじんしていくのがわかる。
 そして雄犬の硬くなったモノは、さらにずんずんと俺の奥深くに入ろうとしていた。

(はぁはぁはぁ……あうう、うはっ……く、くそう……だめか。
 いや、そ、そうだ、解除の呪文だ)

「フェーーード・アウト!」

 そうだ! ナディアの体から離れればいい。
 そう思いついた俺は、慌てて解除の呪文を唱えた。
 その途端に、ナディアの体にぱっくりと隙間が開く。

 俺の体はその隙間からナディアの体の外に弾き出されると、みるみるうちに
元の大きさに戻った。
 手の平にはしっかりと金属片を握り締めている。

「た、助かった〜。
 全くとんでもない目に遭ったぜ……こいつ、よくもこの俺を犯そうとしてくれたな」

 俺は未だにナディアの後ろから抱きついて腰を動かしている雄犬を、強引にナディア
から引っぺがすと、両手で持ち上げて睨みつけた。

 俺に持ち上げられた雄犬はだらしなく舌を出したまま、まだはっはっはっと息をしている。

 毛皮に覆われたその股間には、長く伸びた赤いチ○コが剥き出しになったままだ。

「ふぅ〜コレがさっき俺の、いやナディアの中に入っていたのか。ほんとにやばかったぜ」

 俺が安堵しているとその時、俺の後ろから俺のほうjに向かって誰かが叫んだ。

「ジャ〜ン!? はぁ、はぁ、はぁ」

 振り向くと、大学生くらいのお姉さんが息を切らして走ってくる。
 どうやらこの雄犬の飼い主らしい。

 はて? でもこのお姉さんってどっかで見たような。

「ちょっと、あたしのジャンに何するのよ!」

(……そうだ、このお姉さん、確か津和野さんの姉貴だ)

 文化祭の時に、確か津和野さんがうちのクラスの女子に彼女のことを「姉貴の美波よ」
って紹介してたけど、何か美人だけどやたらタカビーな女だったよな。

「何見てんのよ」

「いえ……あ、こいつってお姉さんが飼っているんですか?」

「そうよ。早くジャンを放しなさい」

「こいつ、俺のナディアにいきなり交尾しようとしたんです」

「はあ? 何言ってるの。うちのジャンがそんなことをする訳ないでしょう」

 全く自分のことばっかり……この人ったら相変わらずの性格してるよ。
 何かぎゃふんと言わせてやりたくなるよな。

 まてよ、そうだ……ふふふ。

 俺はお姉さんに気づかれないように抱いているジャンに金属片をジャンに押し付けると、
そっと引き下ろした。

 ジャンの背中に空間が開く。

 空間が出来たことを確かめると、俺は驚いた顔で彼女の後ろに視線を向けた。

「え? あれは何だ!!」

「え? どうしたの?」

 俺に釣られて彼女が後ろを振り向いた瞬間、俺は小さく呟いた。

「フェーーード・イン!」

 途端に、俺の体は抱いている小さなジャンの体の裂け目の中に吸い込まれていった。

「なんなのよ。何もないじゃないの。
 え? あれ? 君、どこにいったの? ねえ」

 彼女がきょろきょろと辺りを見回している。
 勿論彼女の目の前には二匹の子犬しかいない。

 ふふふ、俺はここにいるのに。

「く〜ん」

 ジャンになった俺は、お姉さんに向かって甘えるように鳴き声を上げた。

「ねえジャン、今の男の子、どこに行ったんだろうね」

(成功だ、へへへ……。
 よおし、このままこの子犬に成りすましてお姉さんの家に付いて行ってみるとするか。
 ナディア、すまないけどお前は一人でお帰り)

 俺はナディアのほうを見た。
 ナディアはきょとんとした表情で俺を見ていたが、やがてとことこと家に向かって
駆けていった。

「不思議だなぁ。どこに行っちゃったのかしら」

「わん!」

 俺はお姉さんに向かって今度は小さく吠えた。

「わかった、わかった。ジャン、じゃあ帰ろうか」

 再び小さな子犬の体の中に入った俺は、低くなった目線で彼女を見上げた。

 白いミニスカートの中、穿いているピンクのショーツが丸見えだ。
 しかも俺に対して見えていることを恥ずかしがる様子もない。

(ふふふ、こりゃいいや。こんな綺麗なお姉さんのスカートの中身が見放題だぜ)

「どうしたの、ジャン。そんなにあたしを見て」

「わんわん」

 俺は尻尾を振って彼女の足元に歩み寄ると、体をすりすりと擦り寄せた。

「まあ、どうしたの」

「くーん、くーん」

「ジャンったら、お腹すいたの」

「わんわん」

「わかったわかった。じゃああ帰りましょうか」

 お姉さん……美波さんは俺をひょいと抱き上げると、自分の胸に抱いた。

 その大きな胸が俺の体を柔らかいクッションのように包み込む。

 足で蹴ってみると、ふんわかとしたおっぱいが足を優しく跳ね返す。

(ひゃあ、き、気持ちいい〜)

「どうしたのジャン、くすぐったいよ。ちょ、ちょっと暴れないで」

(はぁはぁはぁ、こ、こりゃあいいや。しばらくジャンに成りすましていようっと)

 俺は美波さんに抱きかかえられたまま、幸せな気分に浸っていた。
 そしてそのまま彼女の家、即ち津和野渚の家でもあるマンションに入っていった。






 子犬のジャンになった俺を胸に抱いて家に戻った美波さんは、自分の部屋に入ると
俺を下ろしてドレッサーから真新しい下着を取り出した。
 どうやらシャワーを浴びようとしているらしい。

(へっへへ、それじゃあ折角だから美波さんの裸も拝ませてもらうとしましょうかね)

「わん」

 俺を部屋に置いて出て行こうとする彼女の後についていくと、俺は一緒にシャワールーム
の中に入ろうとした。

「どうしたの、ジャンったら。普段はお風呂が嫌いなくせに。あなたも入りたいの?」

「く〜ん」

「じゃあ一緒に入ろうか」

「わんわん」

 美波さんは俺の目の前で、着ていたセーターと白いミニスカートをさっと脱ぐと、
ブラジャーも、そしてショーツさえも何の躊躇もなくも脱いでしまった。
 そう、俺の目の前で美波さんは惜しげもなくその肢体を晒している。

 胸とお尻が見事に大きくって、腰はきゅっとくびれていて、その肢体は大人の女性の
魅力を発散していた。

(き、きれいだあ)

 俺はうるうるとそれを見つめていたが、脱いだ下着をぽいっと洗濯機に放り込んだ
美波さんは、そんな俺をひょいと胸の上に抱き上げた。

 柔らかいマシュマロのような胸の感触が、今度は直接俺の肌に伝わってくる。

(は、はひぃ、天国だあ)
 
「さ、入ろ」

 そう言いながら、美波さんは浴室に入る。

(裸……裸……生の胸……柔らかくって、ふかふかで、気持ちよくって……)

 下腹にふかふかした美波さんの胸の感触を感じて、俺はもう自分の興奮を抑えることが
できなくなってきた。

(た、たまらん)

 俺は、伸び上がると大胆にも美波さんの顔をぺろぺろと舐めた。

「こらジャン。悪戯しちゃあ駄目でしょう。くすぐったいよ」

 構わず今度は彼女の乳首をぺろっと舐める。

「ひゃっ!」

 びくっと顎を上げ、手で胸を遮る美波さん。

「もお〜、ジャンったらほんとに今日はどうしたのよ、悪戯ばっかりして。
 でも、気持ち……いい」

 胸を抑えている美波さんの手が緩む。
 俺は再び晒されたピンクの乳首をもう一度ぺろぺろと舐めた。

「あ、あん……あ、あ、あん、ああん」

 気持ちよさそうに嬌声を上げて、美波さんは床に座り込んだ。

(はぁはぁ、本当はこの俺に舐められているなんて知ったら、彼女何て思うのかな。
 はぁはぁはぁ、そ、それにしてもほんとに気持ち良さそうだよ。
 こっちも楽しませてもらっているけれど、女ってそんなに気持ち良いのかぁ)

「はぁはぁ、ジャンったら、駄目ぇ。でも…………ねえ、ジャン……ここも……」

 床にぺたりと座り込んだ美波さんは、閉じていた両脚をゆっくりと開いていった。

「ジャン……ほら……」

(美波さん、まさかいつもジャンに自分のアソコを舐めさせているのか!? 
 俺が美波さんのアソコを? いいのかなぁ、そんなことして
 ……へへへ、でもいいんだよなぁ、今は俺が彼女のペットのジャンなんだから。
 それじゃあ遠慮なく、いただきま〜す)
 
 俺は美波さんの股間に顔を埋めると、ソコをぺろぺろと舐めた。

「あうっ……う、は、はん……はぁはぁ……う、ううん……はぁはぁはぁ」

 美波さんの息遣いがますます荒くなっていくのがわかる。

 今度は少しずつ開いてきたその隙間の中に向かってちろちろと何度も舌を
出し入れしてみた。

 美波さんのアソコは、舌を出し入れする都度に、段々その外唇の膨らみを増し、
俺の鼻先で開いていった。
 段々と両脚を大きく広げていった美波さんの股間は、
舐めてる俺の唾液と奥のほうから溢れてくる粘液が混じりあって、
シャワーを浴びる前に、もうぬらぬらと濡れたようになっていた。

「あふぅ、う、ううう、ジャンったら、こんなこと、駄目ぇ、あうん……はぁはぁ」

(はぁはぁはぁ、こんなことが堂々と出来るなんて、全く『スキンマスター』様様だぜ。
 はぁはぁはぁ……はぁはぁはぁ)

 俺のほうも美波さんのアソコを舐めながら段々と興奮してくる。
 そして彼女のその隙間の中に出し入れする舌の速さも、どんどんと速くなっていった。

「あ、あうぅ、あ、ああああ、ジャン、いい、はぁはぁ、いい、いいよ〜」

 突然びくびくっと体を震わせた美波さんは、広げた両脚を床に投げだしたまま
ぐったりとしてしまった。

 はぁはぁはぁとその息が荒い。

(美波さん、よっぽど気持ちよかったんだな。
 俺も興奮したけど、女って舐められるとそんなに気持ちいいのか)

 俺の脳裏に雌犬になって交尾された時のことがよぎる。

 気持ち悪かった、ほんと気持ち悪かった。でも……。

 腹の中を棒状のものが動く、かき回されるようなその感触。
 あれがもし雌犬じゃなく人間の女性だったら……。

 美波さんが味わった女性の快感を、俺も味わってみたい。
 そんな欲望に捉われた俺は、ちょっとした悪巧みを思いついた。

 そして俺は、ジャンの体に付いたままの金属片をすっと動かしてその体に隙間を空ける。
 ジャンの中から出てこの場で元に戻る? 
 いいや、俺が心の中に思い浮かべたのは別の呪文だった。

 隙間を作ったまま、金属片を一旦外すと、俺はぐったりしたままの美波さんに
外した金属片を不自由な手で押し当てた。
 そしてすっと動かして彼女の体にも隙間を作ると、俺はジャンの体に空いたままになった
隙間をそこに押し当て、頭の中に考えていたその呪文を唱えた。

「スキーーン・チェェィーーンジ!」

「え? 何? あうっ」

 その瞬間顔を上げた美波さんは、俺の呪文を聞いた途端白目を剥いて気を失ってしまった。

「ふふふ、美波さん、ごめんね」

 俺も視界がぐらりと揺れ、そして瞬間目の前が真っ暗になってしまった。




(後編)に続く


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