クリスマスイブの夕暮れ、明かりの灯り始めた道を一人歩く俺の目の前に、ふわりと白いものが降ってきた。
 拾い上げると、それは真っ白な女物の下着、即ちパンティだった。

「ラッキー」

 きょろきょろと辺りを見回してポケットの中に押し込んだ俺は、にやにやとアパートに戻った。




幸せの価値は

作:toshi9




 部屋に戻った俺は、早速ポケットに突っ込んだ下着を広げてみた。
 清楚でシンプルなデザインのパンティは、透きとおるように白く滑らかな生地でできている。
 股間のところに鼻を当てて、くんくんと匂いを嗅いでみると、何ともいい匂いがする。

「新品かな。いやこの匂いは使用済みかな? へへっどんな女性がはいてたんだろう」

 色気むんむんの人妻か、可憐な女子高生か、それとも小学生とか。
 このパンティを履いた、胸を両手で隠して恥ずかしそうに赤を赤らめている女性の姿を想像していると、どんどん興奮が高まってくる。

「くぅ、もうたまらん」

 自分のトランクスを脱ぎ捨てて広げたパンティに足を通すと、くいっと自分の腰に引き上げた。
 ぴちっと俺のムスコを白い伸縮性のある生地が覆う。

「ハァ〜、はいちまったよ」

 俺の下半身に密着したパンティの股間は 俺のムスコの形そのままに、もこっと膨らんでいる。
 手の平でゆっくりと俺のムスコに張り付いている滑らかな生地を撫でてみると、その感触に堪らなく興奮してくる。 

「う、ううっ、気持ちいい」

 刺激された俺のムスコがむくむくと硬くなり、パンティから頭を覗かせる。
 撫でる俺の手の動きが段々早くなってくる。

「あ、ああっ、いい、いきそうだ」

 だがあとひとこすりで絶頂に達しようかというところで、それは中断された。

「あんさん、それ以上もうやめといてや」
「え? だれ?」

 俺しかいない部屋の中で、突然どこからか妙な関西弁が聞こえてきたのだ。
 キョロキョロと見回すが、部屋にはやはり俺以外誰もいない。

「あんさん、こっちやで」

 声は俺の下半身から聞こえてくる。

「え? 下着がしゃべってる!?」

 そう、声の主は俺の履いているパンティだった。どこに口があるのかわからないが、確かに声はパンティから聞こえてきた。

「そうや。わてや」
「げげっ、間違い無くしゃべってるよ、気持ち悪りい」

 俺は慌てて履いていたパンティを脱ごうとした。
 だがぴたっと俺の下半身に密着したそれは、引き下ろそうとしてもびくともしない。

「な、なんだこれ、張り付いて外れない」
「あんさん、慌てんと、ちょっと待ちなはれ」
「慌てるも何も、こんな気持の悪いものを履いていられるか! そもそもお前は何なんだ」
「わてはパンティどす」

 胸を張って答えるパンティ。
 いやパンティが胸を張る訳ないが、俺にはそんな風に聞こえた。

「そんなこと見ればわかる。って言うか、何でパンティがしゃべるんだ」
「へえ、実はわて道に迷ってしもうて」
「道に迷った?」
「へえ、わては幸せのパンティどす。サンタはんがわてらを人間に配っている最中、わてを掴み損なってしもうて、そのままひらひらと地上に舞い降ちてしまったんどす」
「幸せのパンティ?」
「へえ、めでたくわての持ち主に認められた人間はたちまちスタイル抜群、わてがよく似合う姿になって幸せになれるんどす」
「ふーん、エステ効果があるってことか?」
「ちょっと違うおます。『たちまち』というところがミソどすな」
「はいたら、たちまちスタイル抜群? 俺の姿は特に変わっていないようだけど」

 俺はぶよっとたるんだ腹の肉をつまんだ 

「それはどすな、あんさんがわての持ち主と認められていないからどす」
「持ち主じゃない? どうすれば持ち主って認められるんだ?」
「どうすればも何も、わては女物どす。あんさんは女じゃおまへんから」
「そりゃあまあ……」

 突然しゃべり始めたパンティに最初は驚いたものの、どうやら本物のサンタのプレゼントだと納得した俺は、はたと考えた。

 せっかくの幸せのパンティだ。このまま「確かに俺は男だ」って言ったらそれで終わりだよな。

「いいや、実は俺は女なんだ」
「はぁ? あんさん、冗談はあきまへんで」
「冗談? 冗談なんかじゃないぞ。こう見えても俺は実は女なんだ。だから俺はお前の持ち主ということでいいな」
「そ、そんな、無体な」
「いいな」

 はいているパンティをぐいっと引っ張って俺は凄んだ。

「だから早く俺をスタイル抜群にするんだ」
「駄目どす、そんなの認められまへん」
「なにぃそれじゃあ」

 俺は再びパンティ越しに股間を猛烈にこすり始めた。硬くなったムスコの亀頭から、先走りがちろちろと漏れ出し、パンティを濡らし始める。

「う〜気持ちいいぜ、このまま、あ、出る」
「ひゃぁ、やめておくんなはれ、わかったどす、わかったどす、あんさんがわての所有者どす」
「わかりゃいいんだ、さあ答えろ、お前の持ち主は誰だ」
「そりゃあもうあんさんしかおまへん」
「よおし、それじゃ早速抜群のスタイルにしてくれよ」

 この太りきった姿ともおさらばだ。今日からすらりと脚の長い、鍛えられた体になるんだ。
 水泳選手のような引き締まった体になった自分の姿を想像し、俺はにやにやとにやけながら待った。
 クリスマスイブはずっと一人だったけれど、そんな寂しい日々ともおさらばだ。
 どんなに声をかけても女の子に無視され続けたけれど、これからは選び放題だ。今夜はナンパしまくるぞ〜。

「仕方おまへんな。そんじゃ、いきまっせ〜」

 一瞬ぐらりと視界が歪む。

「え? はっ」

 気がつくと何故か天井を遠い。
 両手を目の前に突き出すと、妙に白くか細くなっている。まるで子供の手のようだ。
 身体を見下ろすと、わずかに膨らんだ胸、そしてパンティの中で硬く膨らんでいた筈の俺のムスコは姿を消し、膨らみを無くした股間はすっきりとしている。

 慌ててドレッサーを開いて鏡を見ると、そこにはポカーンと口を開けた10歳ほどに見える少女が立っているではないか。

「こ、これ、俺?」

 俺が指差すと、鏡の女の子も俺を指差している。
 俺は小さな少女になっていた。

「いやあ〜あんさん、ぎょうさんわての似合う素敵な姿になりましたどすな」
「待て待て! なんでこれがスタイル抜群なんだ、違うだろう」
「わてがよく似合うスタイル抜群の少女になったんどす。さらさらとした長い髪、人形のような顔立ち、脂肪の無い引き締まったウエスト、そしてカモシカのような脚、いいでっしゃろ、さあ早くクリスマスパーティに行きまっせ」

 パンティがそう言うと同時に、俺の手が勝手に動き出した。
 開いたドレッサーから入っている筈のないジュニア用のパーティドレスを取り出すと、俺はそれを着始めた。

「身体が勝手に……お前の仕業か!」
「ほら、とってもかわいいどすえ」

 鏡に映る白いパーティドレスを着た少女は確かにかわいい。でもこれはどう見ても小学生じゃないか。

「おい、スタイル抜群って違うだろう、もっと背が高くてだなあ……」
「ご不満どすか?」
「当たり前だ!」
「クリスマスパーティに行ったら人気の的どすえ。勿論小学生同士のパーティどすけど」
「お前はロリコンか? 俺は20歳だ、小学生相手に注目されてどうするんだ。間違えるな」
「失礼どすな。そもそもわては子供へのプレゼントどす」
「おい」
「なんどすか?」
「子供にパンティをプレゼントする奴がいるのか?」
「……確かに変どすな」
「だろう、だからもっとこう出るところがぼーんと出ているむちむちしただな」

 俺は自分の胸の前で両手で大きなおっぱいのような形を作った。
 鏡には、ガニ股で両胸に両手を当てている清楚なワンピースドレス姿のかわいい少女の姿が映っている。
 それはなんとも奇妙な姿だ。

 あれ?

 何か違う。俺は奇妙な違和感を感じていた。

「あんさん」
「なんだ」
「あんさんは女どすな」

 俺の意思を確かめるように、低い声でパンティが問いかける。

「も、勿論だ」
「わかったどす、それじゃあこれでどうだす?」

 再びぐらりと視界が揺れる。
 そして気がつくと、胸が妙に重い。何かが両胸にぶら下がっているような妙に突っ張る感じがする。

 え!?

 見下ろすと、俺の胸には巨大なおっぱいが盛り上がっていた。パンティは遮られて全く見えない。
 再びドレッサーの鏡を見ると、そこにはむちむちとしたプロポーションの髪の長い美女が立っている。
 鏡に映る姿を下からゆっくり見ていくと、脚がすらりと長く、むちっとした太もも、そしてその付け根から急激に膨らむ大きなお尻を包む白いパンティ、そしてきゅっと引き締まった腰、魅惑的な形の良いへそ、胸はGカップはあろうかという巨乳だった。肩幅は狭く、首筋はすっと長く細い、そして男を惹きつける魅惑的な顔立ち。

「これ、俺なのか?」

 鏡の中の美女は、ぽっと目元を赤らめてこちらを見返している。

「はいな、スタイル抜群、20歳の美女どす。衣装は、そうどすな」

 俺の手が再び勝手に動き出すと、ドレッサーから一組の衣装を取り出して着始めた。

 それはさっきのジュニア用パーティドレスと同様、何故俺のドレッサーにあるのかわからないレースクイーンの衣装だった。
 青色と白色を組み合わせた柄のセパレートのボトムと超ミニのスカート それを着た自分の姿にごくりと生唾を飲み込む。

「うう、何ていい女なんだ」

 俺は思わず股間のムスコを擦ろうと手を伸ばしたが、手は空しく空を切ってしまう。
 そう、美女になった俺の股間にムスコは無い。

「おい、俺の男のシンボルはどうした?」
「そうそう、後は男どすな」

 スカートの下のパンティがそう言うと同時に、風呂場から一人の男が出てきた。

「やあ、待ったかい?」

 シャワーを浴びてきたばかりのようにトランクス一枚にバスタオルを両肩に羽織った男の顔立ちは俺そっくりだが、体は俺と違ってボディビルをしているかのように筋肉隆々としている。それは俺が望む理想の姿だ。
 だが、俺を見た男の股間がみるみるもっこりと盛り上がってくるのを見て、ぞくっとした恐怖が背中を通り抜ける。

「おい待て、まさか」
「さあ、おいで」

 男は怯える俺を軽々と抱き上げると、ベッドに放り出した。

「きゃっ」

 俺の口からかわいい声が漏れる。

 俺の横に寄り添った男は、レースクイーンの衣装を着たまま俺を愛撫し始める。

「あ、やや、やめ、あふっ」

 男が俺の胸を、わき腹を、首筋を撫で、ゆっくりと揉み、或いは舐める。

「やめろ、やめろ、うぷっ」

 抵抗しようとする俺の唇が男の口で塞がれる。
 ぬめっとした男の舌が口の中をかき回す。
 くらくらとした快感が頭を駆け巡る。

「ぷはっ、やめろ、俺は男になんか抱かれたくない」
「何でどす? クリスマスイブの夜に理想の男性に抱かれる。これこそ20歳の女の子の幸せでっしゃろ」
「違う!」
「何が違うんどす」

 一瞬躊躇して俺は答える。

「俺は、俺は男だ!」
「……今何とおっしゃったんどすか?」
「俺は男だ。さっきは嘘をついたんだ」
「あんさん、そりゃあきまへんな。規定違反どっせ」

 俺を抱いていた男の姿がすっと消える。
 そしてパンティがスカートの下からするりと抜け出てくると、俺に向かって襲い掛かってきた。

「う、うわぁ」

 レースクイーン姿のままでベッドの上をじりっと後ずさる俺の頭からずぼっとパンティが俺の頭に食いつくとおれをむしゃむしゃと食べ始めた。

「や、やめろやめろ」

 パンティの中に飲み込まれていった俺は、遂にパンティに食べ尽くされてしまった。







 気がつくと、俺はふかっとした布地に囲まれてぎゅうぎゅうと圧迫されていた。
 俺の周りは白や赤、青といった色とりどりの生地で埋め尽くされている。

 ここはどこだ、俺はどうなったんだ。

 身体を動かそうとしても全く動けない。そんな俺の頭にパンティの声が響く。

「あんさん、あんさんはパンティになったんどす」
「俺がパンティになった?」
「そうどす。わてを騙した罪は重いんどすえ。次のクリスマスイブまであんさんはパンティとして暮らすんどす」

 そう、俺は一枚の白いパンティになっていた。どうやらここはランジェリーショップらしい。
 俺は他のパンティに混じって売られていたのだ。

「うわぁ、かわいい」

 俺を女子高生らしい制服姿の女の子が手に取る。

「これください」

 女子高生が女性店員に俺を渡すと、店員が丁寧に俺を包装する。

「うわぁ、俺はこの子にはかれるのか」
「罰どすえ、しっかりお勤めしておくんなはれ」

 パンティの声は、それを最後に途絶えた。

「まあ、それもいいかもな」

 女の子にはかれるってどんな感じなんだろう。
 妙にどきどきしながら俺はその時を待った。
 そして部屋で着替え始めた女子高生を前に、俺はにやついた。
 早く俺をはいてくれ。

「あれ? これってピンクだったっけ」

 首をかしげながら、俺に両脚を通してはき始める女子高生。
 俺の顔に女の子の股間がぎゅっと押し付けられる。

 うぷっ

「幸せだ〜、でもこれが1年続くのか!?」

 これって罰と言えるんだろうか。
 女の子の匂いに頭がくらくらとなっていく俺の頭に あのパンティの声が遠くで響いていた。

「わては幸せのパンティどすえ〜」




(了)
                                2008年12月21日 脱稿





後書き

 今年ももう少しで終わりですね。あまり作品を書くことのできない1年になってしまいましたが、特にえっち系作品が少なかったなって思います。もう少し書けるといいんですが、なかなかままなりませんでした。
 最後にクリスマスネタでちょっとえっちな作品を書いてみました。おバカな作品ですが、年忘れも兼ねて笑って読んでもらえれば幸いです。そしてこれが私の今年最後の作品です。
 ということで、来年もよろしくお願いします。




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