さわりたい 第3話
作:toshi9  挿絵:kenziさん


翌朝、俺は最後の丸薬『結魂丹』を持って家を出た。
扉をあけると、ちょうど隣の部屋からも真澄ちゃんが出てきた。
「おはよう」
「おはようございます、進さん。昨日は夜分にすみませんでした。それにあたしあんなことをするなんて……でも嬉しかった。あの、またお部屋に遊びに行ってもいいですか?」
「え、は、はい」
「ありがとうございます。じゃあね♪」
彼女は嬉しそうに手を振ると、マンション前で俺と別れて大学に向かっていった。
あんなによそよそしかったのに、今朝は距離感が全く違う。


会社に向かう電車の中、俺はぎゅうぎゅうの車内で人ごみに揺られながら、丸薬についてわかったことを頭の中を整理してみた。
『脱魂丹』と『分魂丹』は効果が違っていたが、魂が体から抜け出る事、魂だけになって行動できるという点では同じだった。
『脱魂丹』は魂が抜け出て自由に行動できる、そして魂になっても人にさわれる。しかも誰かに乗り移る事もできる。小さいせいか、効いてる時間は短かった。
『分魂丹』は魂が抜け出るが、魂の一部が体に残る。残った魂が自分の体を勝手に動かしてくれるから魂と体がそれぞれが別々に動ける。
面白かったのは薬の効果が切れて自分の体に戻った時、俺には部屋に突然入ってきた真澄ちゃんとエッチした記憶と、真澄ちゃんに憑依して俺とエッチした記憶の両方が残っていたことだ。つまり真澄ちゃんをさわって俺にさわられて、真澄ちゃんに挿入して俺に挿入されてと、それぞれの行動や快感の記憶が両方とも俺の中にあった事だ。おまけに……おまけに乗り移った相手の心にも影響を及ぼすことができるみたいだ。俺が真澄ちゃんに乗り移って俺の体とえっちしている時に、自分から積極的に受け入れたり思わず「好き」って言った行動が彼女の心に影響を及ぼしているのは、さっきの彼女の言動でも明白だった。

残った最後の一粒は『結魂丹』。一番大きな丸薬だ。
さて、こいつにはどんな効果があるんだろう……。魂を結びつけるという名前だ。もしかしたら3種の中でも一番乗り移りやすいとか、いろんな相手をコントロールしやすい薬なのかもしれないな。小さい『脱魂丹』や『分魂丹』でもあんなにいろいろな効果があったんだ。大きさも一番大きいし、持続時間も長いのかもしれない。

いろいろと思いをめぐらすが、とにかくひとつだけはっきりしている事があった。
これを使えばもう一度他人に乗り移れるということだ。
他人に乗り移る。
ほんとにあんなことができるなんて。
昨夜2回、それも限られた時間での体験だったが、それは俺の心の中に大きな衝撃を残していた。
他人に乗り移れれば、自由にさわりたいお尻を揉む事が可能だろう。
この『結魂丹』を使えばもう一度それができる。
乗り移るとしたら誰がいいかな……それはもちろん。

考える間もなく、すぐに結論が出る。
そう、俺にはこの丸薬を使って乗り移ってみたい相手がいた。
それは以前振られた秘書室の森山深雪だ。
彼女のお尻は、俺が今までさわった中で最高に素敵なお尻だった。
デートに誘えたのは全く偶然だったが、初デートでお尻をさわりまくったのはやっぱりまずかったのだろう。
思いっきりひっぱたかれて、彼女とはそれっきりだ。
だが彼女と別れた後も、ずっと手の平にあの柔らかな感触が残り続けている。
もう一度あの美尻を思いっきり揉んでみたい。
俺は、ずっとあのお尻に思い焦がれていたのだ。
だが恋人でもないのに、いやたとえもう一度恋人になったとしても、彼女のお尻にさわるとなると至難の業だった。でもこの丸薬さえあれば、魂になって見えない姿でさわりまくる事ができるかもしれない。いや、同僚の女子に乗り移って女同士の気安さを装ってさわれるかもしれないし、彼女に乗り移れば自分のものになったお尻を思いっきりさわりまくる事ができる。
どの方法でも有りだ。

俺は会社に着くや、チャンスを待った。だがなかなか職場を抜け出す時間が作れない。
結局、昼休みまで何もできなかった。
なるべく時間を無駄にしたくない。魂になってあのお尻を楽しむとしたら昼休みの今だ。今できなかったら会社が終わった後になってしまう。
休憩時間になって女子社員同士で食事に向かう彼女の姿を確かめるや、俺はすぐにトイレの個室に駆け込んだ。そして大ぶりな丸薬『結魂丹』をごくりと飲み込む。

すぐに視界がぼやける。
そして視界が戻った時、俺は個室の中で宙を浮いていた。
よく見ると、俺の魂と体はやはり一本の細い赤い糸でつながっている。
俺の体は、目を開いて個室で座ったままだった。いや、すぐにすっと立ち上がると勝手に出て行ってしまった。
「へぇ、この『結魂丹』も『分魂丹』みたいに体が勝手に行動してくれるんだ。よっしゃ、急ごう。なにせ時間は限られてるんだから」

俺はトイレのドアをすり抜けると通路に出た。
そのまま社内食堂に向かおうとしたが、その必要はなかった。
向こうから淡いピンクのタイトミニ制服を着た森山深雪が同僚の2人の女子社員たちと一緒に歩いてくる。
そして深雪たちはそのまま女子トイレに入ってしまった。
「探す手間がはぶけたけど、俺、入ってもいいのか?」
一瞬ためらったが、今の俺は透明な魂の体だ、誰にも気づかれやしないだろう。
改めて透けている自分の体を確かめると、俺も彼女たちの後に続いて女子トイレに入った。

トイレの中では2人の女子社員が化粧直しをしていたが、俺が入ってきた事を気づいた様子はない。
深雪は鏡の前の彼女たちを横目に、静かに個室に入っていった。
音消しの水を流す音とトイレットペーパーをからからと回す音。
そして彼女が出てきた。
その間に、化粧直ししていた二人は出ていってしまい、トイレの中は深雪ひとりになっていた。
「よし、チャンスだ。あのお尻にさわるんだ」
俺はまずタイトスカート越しにお尻に触れてみようと彼女の尻に手を伸ばした。
俺の手がスカートの生地に触れる。
だが、その時驚くべき事が起きた。
彼女のお尻に触れて軽く押したとたん、彼女の体から彼女の姿をした魂が押し出されてしまったのだ。

「え? どうして?」
全く想定外の出来事に、驚くしかなかった。
魂が抜け出てしまった森山深雪の体はじっと立ったまま動かない。意識を失っているようだが、幸いその場に倒れるというようなことはなさそうだ。
抜け出た魂のほうは何が起こったのか全く気付いていないようだ。振り向くと、俺の背後にある手洗い場に向かってくる。
「ちょ、ちょっと待って、森山さん、俺がここに……んぷっ」
動揺していた俺は、向かってくる彼女の魂をうまく避けられずにぶつかってしまった。
いや、ぶつかったのではない。ぶつからずに俺の魂は彼女の魂の中に入り込んでいた。
そして彼女の魂と俺の魂が完全に重なり合った瞬間、俺の意識は真っ白になってしまった。


意識を失っていたのはほんの数秒だったかもしれない。
だが意識が戻ると、俺はさらに驚かされることになった。
俺は魂のままで宙に浮いていた。だが半ば透き通った自分の姿は元の俺の姿ではなくなっていたのだ。
俺の魂の形は、なんと彼女の姿に変わっていた。
「な、なんなんだ、これは」
彼女の姿になった俺の魂は、驚く間もなく何かに引っ張られていた。
よく見ると彼女の姿になった俺の体から細い赤い糸が彼女の体に伸びている。その糸が俺を彼女の体に引き寄せていた。
俺の赤い糸は、さっきまで俺の体のほうに向かって伸びていた。だが彼女の魂の中に入ってしまったと同時に俺の赤い糸は無くなってしまっていた。赤い糸は1本。彼女の体にだけ伸びていた。
「何が起きているんだ、ちょ、ちょっと待て」
だが、抗うことのできない力で俺は彼女の体に引き寄せられ、立ったまま意識を失っている彼女の体に潜り込んでしまった。

「う、うーん」
ぼやけていた視界がはっきりする
俺は、薄いピンクの女子のスーツを着ていた。
それは彼女が着ていた秘書の制服、しかも体にぴったりだった。
手を広げてみる。
白く細いしなやかな指。
頬に触れるとすべすべとしている。
ブラウスとベストに包まれた胸が生地に圧迫されて窮屈に感じる。
べスト越しにさわってみると、無理やり押し込めた感のある巨乳がそこのあるのを感じた。
下半身に視線を下ろすと、ミニスカートから伸びるすらりとして脚。
お尻に手を伸ばすと、気持ち良い弾力を感じる。
手洗い場の鏡には、自分のお尻を揉みながらにやけている森山深雪の姿が映っていた。
「俺、やっぱり森山深雪になってる。これだよ、このお尻だ、間違いなく、森野深雪のお尻だ」
鼻の孔を広げて、自分のお尻の感触を堪能していると、そこに女子社員が入ってきた。
だが入ってくるなり、自分のお尻を揉んでいる俺、いや森山深雪のあられもない様子を目の当たりにして呆気にとられている。
「え〜っと、ちょっとお尻がかゆくなっちゃって……ごめんあそばせ、おほほほ」
言い訳にもならない事をぽかんとして俺を見ている女子社員に言い残し、俺は慌てて女子トイレを出た。

「さて、どうしたものか、もう昼休みも終わりだよな。午後は……えっと、社長は外出中だから大きな用事はなしか、昨日の経営会議の報告書をまとめれば今日の仕事は終わり……って、何で彼女のスケジュールがわかるんだ」
記憶をたどっていくと、彼女の記憶が自分の記憶として理解できることがわかった。
「へぇ〜面白いな。じゃあ深雪は俺のことをどう思ってたんだ?」
自分の中の俺の記憶を探ってみた。
「デートでいきなりお尻を揉むなんて、ばっかじゃないの? でもあの率直なところって嫌いじゃないかな……ってなんだよ、結構好意持たれてるんじゃん。きちんと謝ればまだ何とかなりそうじゃないか。もう一度よりを戻して、そしたら今度こそこのお尻は俺のものだ」
そう思ってにやけた。
「うん、彼女のお尻が揉めて、しかも俺のことをどう思っているかわかっただけでも大収穫だ。しかし……これっていつ元に戻れるんだ?」
この姿で俺の仕事場に戻るわけにもいかない。俺は仕方なく秘書室に向かった。

「森山さん、運転手の芝山さんから連絡があったわ。社長は予定通り今日は会社に戻られないそうよ。それと明日は急遽吉田コーポレートの会長との会食が入ったそうよ。手配をお願いね」
「は、はい。わかりました」
戻るなりの秘書室長からの指示に答えて、電話を手に取る。
あれ、どうするんだ俺?
だが、俺の戸惑いを他所に、体が勝手にテキパキと会食の段取りを取っていく。
うん、さすが森山さん……って、どうなってるんだ。
その後も深雪の記憶を頼りに秘書室で仕事を続けたが、彼女の体は卒なくこなしていった。誰も深雪に俺が乗り移っているなんて気が付く人間はいなかった。
そして会社の定時が過ぎるころになっても俺の魂は彼女の体から抜け出ることはなかった。

昨日使った『脱魂丹』と『分魂丹』は、割り合い短い時間で効果が切れて元に戻っていたと思う。『脱魂丹』で30分、『分魂丹』は2時間といったところだろう。
だが今回はいつまでたっても元に戻らない。
「これって、どうすれば元に戻れるんだ」
俺はその時初めて乗り移った体から抜け出す方法を知らない事に気が付き、心の中に後悔と焦りが湧き出していた。
「俺の体はどうしているんだ」
焦る気持ちもあって俺の職場の様子を覗きに行ってみると、俺の体のほうは何事もないように仕事を続けているようだった。ごく自然に机に座ってパソコンに向かい、キーボードを叩いていた。

「嶋君」
「え? 森山さんわざわざこんな所に来て、何か用かい? 今ちょっと手が離せないんだけど」
「あ、いいえ、なんでもないわ」
深雪の口調で答える。自分で違和感なく女言葉が口に出ていた。
元の俺の体のほうは森山深雪が声をかけても全く動じることはない。『結魂丹』も残った魂が体を動かしていた『分魂丹』と同じように残った魂がそのまま体を動かしているんだろうか。
だが妙に俺の体が堂々として頼もしく見えることに、どこか不安を感じていた。
自分の体が自分ではなく他人のように見えたのだ。そして話をすることにどこかときめきを感じていた。

不安になった俺は会社が終わるなり、急いであの店に向かった。
マネージャーの綾乃さんが使い方がわかったら教えてちょうだいって言ってた。彼女なら元に戻る方法を知ってるだろう。

飲み屋街を女性の姿で一人で歩くのは、なんとも気恥ずかしい。
道々で何度も「彼女〜一緒に飲もうよ」と声をかけられる。
それだけ今の俺、深雪は美人だった。

ようやく昨日入った店を探し出して中に入ると、まだ日も暮れていないにもかかわらず、既にいろんなコスプレをした女の子たちと、数人の男性客がいた。
「おい、マネージャーは、えっと、綾乃さんはいるか?」
見かけは美人OLなのに乱暴な言葉使いの俺に、店内の女子従業員が怪訝な表情を見せる。
ほどなく綾乃さんがやってきた。
「ええっと、どちらさまで?」
「俺だよ、俺」
「俺っていいましても……ああ、もしかして」
「昨日のモニターになってくれと頼まれた嶋進だ」
「あら、嶋さんだったの。でもそんな美人になっちゃって、ふーん?」
綾乃さんが改めて俺の全身を嘗め回すようにじろじろと見る。
「事故だよ事故、『結魂丹』を試したら、いつまでたっても元に戻れないんだ」
俺は今日の出来事を彼女に話した。
「ふ〜ん、なるほどね」
「俺はどうなったんだ。いつになったら元に戻るんだ」
「言ったでしょう、丸薬の効果はあたしもよく知らないのよ。だからモニターをお願いしたのに。そうねぇ、試しに『脱魂丹』を飲んでみたら?」

ソファーにすわって彼女が持ってきた『脱魂丹』を飲むと、ほどなく俺の魂は森野深雪の体から抜け出ることができた。だが……
魂は体から抜け出せたものの、魂になって浮いている俺の姿は彼女の姿のままだった。
そして『脱魂丹』の効果が切れると彼女の体に引き寄せられ、俺は再び彼女の体でソファーから起き上がっていた。

「だめなの?」
「ああ、魂は体から抜け出たけど、抜け出た魂はこの森山深雪の姿のまま。薬の効果が切れたらやっぱりこの体に戻ってしまった」
「魂がその子の姿に? そんな馬鹿な……いいえ……そうか、そういう事か」
彼女が納得したように何度もうなずく。どこか棒読みのように聞こえたのが気になったが、「そういう事」ってどういう事なのかのほうがもっと気になった。
「何か元に戻る方法がわかったのか? 教えてくれ」
「あなたはもう魂までその森山深雪という女性になっちゃったということよ」
「はぁっ? そんな馬鹿なことが」
「『結魂丹』の働きってそういう効果なのね。魂までもが完全に望む相手になってしまう。もうあなた自身が彼女そのものなのよ。へぇ〜面白い」
「面白くない! そんな、いやだよ俺が女になるなんて。まさか一生このままじゃないだろうな。何とか元に戻してくれ」
「う〜ん、そう言われても私も元に戻す方法はわからないしぃ……そうね……そうだ、元に戻す方法がわかるまでうちで働かない? あなたならきっと売れっ子になるわよ」
そう言って、綾乃さんが俺の手を握る。
「え? 俺がここで? いや、この子はうちの会社の秘書でここで働くなんて事……」
「夜だけここに来ればいいでしょう。善は急げ、さああっちで着替えてらっしゃい。カオルちゃんお願い、彼女にあのコスチュームを準備してちょうだい。きっと似合うわよ」
某宇宙戦艦アニメの青い女性隊員服を着た、眼鏡の女性が寄ってくる。
「ふ〜ん? 『あのコスチューム』って、やっぱりアレですか? 確かに今までぴったりの子がいませんでしたけど」
「彼女の雰囲気ぴったりだとと思わない? 男性客に大人気になるわ」
「そうですね。私もそう思いますわ」
意味ありげに、カオルと呼ばれた女性の眼鏡が光る。
「さあ、いらっしゃい」
「いや、俺はまだ彼女と話しが、ちょ、ちょっと」
「いいからいいから」
俺はそのまま強引に更衣室に引っ張り込まれてしまった。


それから10分ほど経っただろうか。俺は全身にぴたっと密着した黄色いライダースーツのような衣装に着替えさせられていた。
「あら、よく似合うわよ、源氏名はユキで決まりね」
「このコスチューム……ユキ……それって、やっぱり」
「ほら、鏡を見てごらんなさい」
フロアの壁に張り巡らされた鏡に俺の姿が映る。
薄暗いフロアの天井から照らされたスターライトに浮かび上がる俺の姿。
そう、それは某宇宙戦艦アニメに出てくる森ユ○そっくりの姿だった。



「これが……俺」
凛とした中に色気を漂わせている自分の姿を見ていると、思わず自分で自分に見惚れてしまう。
体にピッチリと密着した女性隊員服の生地を盛り上げるお尻がとっても魅力的だ。
そう、それは俺が見惚れたお尻だった。
このお尻にさわってみたい。
そう思ったが、尻に手を伸ばす前にカオルさんが俺に声をかける。
「ほらほら、男たちが見てるわよ」
確かに、フロアのあちこちから視線を感じる。
「おいおい、今出てきた彼女、見てみろよ。森ユキそっくりじゃないか」
「そうだな、あのお尻いいねぇ、バックから俺の波動砲をぶっ放してみたいもんだな」
「お前のじゃせいぜいパルスレーザーだろう」
「うるせえ」
そんな会話が聞こえてくる。
男どもが、ぎらついた目で俺を見ているのがわかる。
「おーい、そこの森ユキちゃん、こっちにハイボール3つ持ってきてよ」
グループのひとつから声がかかる。
他のグループからは「やられた」「先越された〜」という声が上がっていた。
「ほら、早速ご指名よ。ユキちゃん、持っていってらっしゃい」
「いや、まだやるなんて決めてないし」
「何言ってるの、そんなに色気を振りまいて、お客さんが放っておかないわよ。ほらほら」
俺はカオルにハイボールを乗せたお盆を渡されると、声をかけたテーブルに強引に向かわされた。
「いや、だからやると決めてないって」
「ほらほら、よろしくお願いしますね」
カオルが俺を強引に男たちの間に座らす。
「おう、持ってきてくれてありがとう。そこに置いて、さあ座って座って」
促されてテーブルにハイボールをおろすと、ソファに座る。
「ひゃっ」
ソファーには隣の男の手の平が広げられており、その上にお尻を乗せたのだ。
男の頬が緩む。
「あの、すみません」
「いいっていいって、いやあ、いいお尻だねぇ」
男は、俺の尻の下の手の平をもぞもぞと動かす。
「すみません、お尻にはさわらないで」
「何言ってるの、いかにもさわってくださいって服着てそんな事言われてもつい、な」
「素敵なお尻だよ、もっとさわらせて」
「お前だけずるいぞ、俺にもやらせろ」
「いや、俺も」
俺の周囲に、お尻にさわらせろというテーブルの男どもが客が取り囲んでいた。
いや、隣のテーブルからも客が寄ってくると、かわるがわるに俺のお尻が揉まれていく。
「揉むな、さわるな、俺はお尻にさわりたいけどさわられてくなんかない」
だが、寄ってくる男どもは聞く耳をもたない。
俺は手で尻を押さえて逃げ出した。



その様子を遠目で見て、綾乃真矢がほくそ笑む。
「これでまた新たな人気ホステスの誕生ね。……全く、どの男もみんな同じ。あの薬のモニターを頼むと次の日にちゃんと店に来てくれる。しかもみんなかわいい女の子の姿になって『俺を元に戻せ』だ。まあ人の事は言えんが、でも『結魂丹』を使ったらもう元に戻れないんだから、気が済むまでずっと働いてもらうよ。いやあ仕入れた甲斐があったな、ほんとにいい薬だ、ふふふ」



綾乃さんがこっちを見て笑っている。だが俺はそれどころじゃない。
こいつら、いい加減に、ひゃっ、やめてくれ。
いやだ、これは俺のお尻だ。
誰にもさわらせない。
い、いやだ〜


(終わり)





あとがき
 今回二度目の憑依モノ祭りを企画したものの、私自身は憑依系の作品を読むのは好きですが、作品を書くとなると一番苦手なジャンルです。さてどんなテーマにしようかと悩んだ末、選んだのは「お尻」。女性に憑依したいというより、魂になって好き放題にお尻をさわるという透明人間系に近いテーマを元に書き始めました。それでも当初はなかなか筆が進みませんでしたが、3種の丸薬の効果を決めると後は早かったです。当初は考えていなかった展開になりましたが、楽しんでいただけると幸いです。
 最後に第3話の挿絵についてですが、「お尻」がとっても魅力的でkenziさんのサイトで初めて元イラストを見た時からずっと心の中に残っていました。今回の作品で是非使わせてもらおうと思いお願いして一部を挿絵にさせてもらったものです。kenziさん、改めてありがとうございました。






(半年後)

半年経ってもあたしは元に戻ることはなかった。
結局昼は会社の秘書、夜はあの店でコスプレホステスの二重生活を続けている。
嶋進だった頃の記憶は段々とうすらいで、今では「俺」というより「あたし」と言うほうがしっくりくる。
そしてある日、元の自分、嶋進が現役女子大生と結婚するらしいという噂を同僚の女子社員から聞いた。どうやらあれ以来、真澄ちゃんが猛アタックして結婚にこぎつけたらしい。
あの二人が結婚か、あたしも嶋君のことちょっと好きだったのに残念。
そういえば、真澄ちゃんのお尻もなかなか良かったな。
今度綾乃さんに『脱魂丹』をもらおうかな。
あの二人が結婚したら嶋君に憑依して、たくさんさわらせてもらおうっと。
夫婦ならいくらさわっても大丈夫よね。


(了)




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