さわりたい 第1話 作:toshi9 俺は女の尻が好きだ。 女子が歩いている姿を後ろから眺めていると、無性にむらむらとしてくる。 大きい尻、小ぶりで張りを感じさせる尻、女子のお尻にもいろんな形があるが、きゅっとした細い腰から膨らむ丸いその形を見ていると、無性に触ってみたくなる。 だが恋人でもないのにそんなことをしたら犯罪者だ。いやいや、たとえ恋人だって……。 そう、断じてそんなこと街中ではできない。 先輩の話によると昔のキャバクラはおさわりもOKだったらしいが、最近はホステスに勝手にさわると何かとうるさいし、後からどれだけ金を請求されるのかわかったもんじゃない。 金のない俺には、そんな遊びは縁がない…… でもさわってみたい、あの柔らかそうな張りのありそうな双肉の盛り上がりにさわってみたいんだ。 そんな悶々とした日々を送っていたある日、俺は妙な出来事に巻き込まれてしまった。 それは行きつけの小さな居酒屋で飲んだ帰り、繁華街を歩いていた時のことだ。 家に向かって歩くうちに、俺はいつしか普段使わない通りに入ってしまっていた。 ふらふらと歩きながら、ふと、居並ぶ店のショーウィンドウのひとつを覗いてみた。 そこには綺麗な女性の写真がたくさん飾られていた。 「ガールズバーかな? こんなところにもあったんだ」 写真を一枚一枚見ているうちに、なんとなく昔の彼女のことを思い出してしまった。デート中にお尻を執拗に触っていたら、頬をひっぱたかれた挙句、振られてしまった会社の女の子だ。 彼女と似た子の写真がないかちょっと探してしまったが、そんな子などいなかった。 ま、俺には縁のない店だな。 そう思って立ち去ろうとすると、後ろから声をかけられた。 「お兄さん、寄ってかない?」 振り返ると、店の入り口に青いバニースーツをまとったバニーガールが立っていた。 俺と同じくらいの170cmを超える長身でプロポーションも抜群。長い金髪にうさぎ耳の飾りのついたカチューシャ、バニースーツに包まれた魅惑的なお尻には丸く白い尻尾状の飾りをつけている。 俺が振り向くと同時に、バニーガールは腰をきゅっと振ってお尻をこちらに向け、俺に投げキッスを寄越してきた。 綺麗だな。それにお尻もさわり心地も良さそうだ。 そう思って、思わず立ち止まってその白い尻尾のついた尻に見とれてしまう。 「ほらほら入って。楽しみましょうよ」 見とれていた俺の腕をつかむと、バニーガールは強引に店の中に引っ張り込んでしまった。 店内に入ると、フロアをバニーガールやら女子校の制服を着た女の子やら、メイドやらがうろついていた。 「あ、あの、ここってコスプレバー?」 「男の心の悩みを解決するお店よ、さあ座って」 バニーガールからバトンタッチするように赤いノースリーブのロングドレスを着た女性が近寄って来ると、俺にソファーに座るよう促した。 俺より年上だろうか。この女性も大きいお尻をしている。 滑らかな生地の上からさわったら気持ちよさそうだな。 そう思いながら、促されるままにソファーに座ってしまった。 「私の名前は綾乃真矢(あやの・まや)。お兄さんの名前は?」 そう言って、女性が名刺を差し出す。店のマネージャーの肩書きがついていた。 「綾乃さんですか、俺は嶋進(しま・すすむ)」 「嶋さんか、どうしたの? 元気ないんじゃないの? このお店はあなたみたいな男性を元気づける為にあるのよ。あなたの悩みは何かしら?」 「う〜ん、それは」 「それは?」 「それは」 「それは? ねえ、早く言って」 綾乃さんは俺の煮え切らない態度に業を煮やしてきたのか、笑顔のまま口元をひくひくさせはじめた。 「ええっと、さっきの青いバニーガールのお尻をさわってみたい」 「は!?」 「俺は女の尻を思いっきりさわりたいんだ。でもそんなこと街中じゃできないし」 まだ残っている酒の勢いもあったのだろう。普段はとても人に話せない自分の性癖を思わずしゃべってしまった。 どんな反応が返ってくるかと思ったら、綾乃さんは右手を口に当てて笑い出した。 「ぷっ、そんな事でいいの?」 「そんな事はないでしょう」 「だって……くくっ、ここではお尻にさわるだけじゃなく、もっといろんなことができるのよ」 「でも、料金が高いんでしょう、あのバニーに見とれているうちに強引に引っ張りこまれて入っちまったけど、金なんか大して持ってないし」 「料金か。うーん、そうね」 綾乃さんはちょっとだけ小首をかしげて考えいたが、にこっと笑った。 「お尻をタダでさわれる方法があるわよ」 「そうか、タダでできるのか……え? おい、そんなうまい話があるのか?」 俺は彼女の顔をまじまじと見つめた。 「ええ、ちょっとしたモニターになってもらえれば……ね」 「モニター? 何の?」 「ふふっ、ここでしばらく待っていてちょうだい」 綾乃さんはそう言い残して席を外すと、店の奥に消えた。 一人で待っている間に店内を見回してみる。中はそれほど広くはないが、数組が踊れそうなダンススペースを取り囲むように何組かのソファーが置かれた、古典的なバーの作りだった。たぶんコスプレバーになる前は普通のクラブかキャバレーだったんだろう。 店内に7〜8人ほどいるコスプレした女性店員は概ね若そうで、みな20代かそれ以下に見える。 なにせ、女子校生の制服やブルマーの体操服姿の子もいるのだ。 「お待たせ」 綾乃さんは席に戻ってくると、机に1本の薬ビンを置いた。 片手でつかめる位の大きさの広口の茶褐色のビンで、彼女がビンの口を開いて中身を手の平に出すと、転がり出てきたのは大中小と大きさの違う3種類の黒褐色の丸薬だった。まるで正○丸のように見える。 「うちのオーナーが香港で仕入れてきたものよ。ちょっと不思議な効果のあるお薬。この店で使い道がないか考えていたところなの。でもなかなかいいアイデアを思いつかなくって。それで女のあたしが考えるより、あなたみたいな男性にお客さんが喜びそうなアイデアを考えてもらったほうが早いんじゃないかなって思ったの。これの使い道を見つけてほしいんだけど、どお?」 「その薬の使い道だって?」 「小さいほうから『脱魂丹』、『分魂丹』、そして一番大きいのが『結魂丹』という名前らしいわ」 「名前はともかく、不思議ってどんな効果があるんだ、それ」 「う〜ん、それが正直よくわからないのよ。オーナーは『名前のまんまだよ』って言ってたから、『脱魂丹』は幽体離脱効果っていうのは何となくわかるわ。でもあとの『分魂丹』と『結魂丹』って魂を分ける? 魂を結びつける? 何それって感じなのよね。だからあなた自身で使ってみてどんな効果があるのか教えて欲しいの。どんな使い道があるのかアイデアを考えてほしいの。ビンごとあげるから」 綾乃さんは薬をビンの中に戻すと俺に差し出した。 幽体離脱? なんじゃそりゃ? 言ってる意味がよくわからない。 差し出したビンを受け取ったものの、俺はいぶかしげに彼女を見た。 「あなた、有香ちゃんのお尻にさわってみたいんでしょう。あ、有香ちゃんって、あなたを案内してきた青いバニースーツの女の子のことよ。その『脱魂丹』を飲んだらできるかもよ」 彼女は俺の心を見透かすように話しを続けた。 「この薬を飲んだら彼女のお尻にさわれるのか?」 「『脱魂丹』を飲めば魂が体から抜けるわけでしょう。魂だけになったら誰にも見えないから、堂々とお尻をさわっても有香ちゃんには見えないんじゃないの? ほんとにそんな事ができたら新しいプレイとして店の隠れ目玉になるかもしれないわね。でも実際に使ってみないと本当にさわれるかどうかわからないし、もしかしたらもっと面白いことになるかもしれないし、だからいろいろ試してほしいのよ。お店の利益にもなるし、あたなはただで女の子のお尻にさわれるのよ。一石二鳥でしょう」 「ちょ、ちょっと待て。今、さらっと恐ろしい事を言わなかったか? 魂が抜けるって、幽体離脱って魂が抜ける事なのか? 俺は死にたくないぞ」 「大丈夫よ。死ぬようなことはないみたいだから」 「本当なのか?」 「いろんな効果があるらしいけど、でも薬の効果が切れたら元の体に戻れるそうよ。死ぬことはないってオーナーが言ってたし〜、心配ないと思うわ……たぶん」 最後の『たぶん』が気になるが、別に嘘を言っているわけじゃなさそうだ。 「ふ〜ん? 本当にそんな事ができるんなら面白そうだな」 「そうそう、面白いわよ。さあ、早速試してみましょうよ」 綾乃さんに促されて、俺はビンの中から一番小さな丸薬を取り出した。 どうしても俺に試して欲しそうだな。でもなんか胡散臭い。 「ひとつ聞いていいか? 面白いなら、あんたが自分で試してみたらいいんじゃないか」 「あら、あたしはこう見えてもこの店のマネージャーなのよ。そんなテストしている暇なんてないし、ほら、さっきも言った通りただで女の子のお尻にさわれるのよ、こんないい話ないと思うけどな。薬を飲むのに水はいらないそうだから、そのまま飲み込んでみて。そしたら体が浮いてくるらしいわよ。あ、体というか、魂が体から抜けて浮くのか」 「なんか、心配だな」 「大丈夫、大丈夫よ、ほら、飲んでみてよ、ね」 胡散臭くはあるが、妙に熱心な彼女の言葉に促されて段々興味を持ってきた俺は、取り出した薬を思い切って口に放り込むと、ゴクリと飲み込んだ。 しばらくすると、視界が一瞬ぼやけた。そして視界が戻ると、座っている綾乃さんを上から見下ろしていた。 「え?」 気がつくと、俺のカラダは宙に浮いていた。 部屋の中をふわふわと漂っているのだ。 足元では俺がソファーに座ったままいびきをかいて寝ていた。 よく見ると、俺と俺の体の間に細い赤い糸が見えた。自分の体とはこの糸でつながっているようだ。 「どうやらうまくいったようね。そこにいるんでしょう〜。今のあなたは誰にも見えないのよ〜。あなたがさわりたがっていた有香のお尻をさわってきたら〜?」 綾乃さんは寝ている俺の体にではなく、そして魂だけになっている今の俺に向かってでもなく、俺の体と俺の中間あたりに向かって小声で呼びかけていた。 本当に俺のことが見えないんだな。 魂だけになったら誰にも見えない、それは間違いないらしい。 だが魂になって体を抜け出したのはともかく、どうすれば動けるのかよくわからない。平泳ぎのように空気を両手でかいてみると、ようやく少し体が移動した。 「どお、うまく動けてる〜? どこに行きたいか念じれば、ちゃんと移動するらしいわよ〜」 俺の苦労を見透かすように、また綾乃さんがあさっての方向にアドバイスを送る。 彼女のアドバイス通り、有香というバニーガールのほうに行きたいと念じると、ようやく体が動き始めた。 ふわふわと漂いながら、ゆっくりとバニーガールのいる場所にたどりつくと、俺は彼女の前に立った。 バニーガールの有香ちゃんは、目の前に立つ俺を全く見ていない。 魂になって浮いている俺に全く気付いていないようだ。 その時、彼女が後ろを向いた。 当然、俺の目の前、すぐ手の届くところにあの白い尻尾のついた魅力的なお尻があった。 よし! 俺はバニーガールのお尻に片手を伸ばした。 「ひっ!」 「どうしたの、有香」 いきなり背筋を伸ばし、びくっと直立した有香に、傍らのメイド服姿の同僚が声をかける。 「な、何かがお尻にさわったような」 俺が手を放すと、彼女はもぞもぞと自分の尻をさすっている。 その手の動きとぷるぷる動くお尻を見ていると、むらむらしてきた。 「こんな至近で見られるなんて、ふ〜ん、こりゃいいな」 気づかれない事がわかると、俺はもう一方の手も目の前のバニースーツに包まれたお尻に伸ばし、両手に力を込めてさわりまくった。 「な、なによ、誰? あ、いやん、だめ」 バニースーツのすべすべした合皮の生地に手が滑り、お尻の双肉の間に手が伸びてしまう。 「なんなの? もういや〜」 彼女は顔を赤らめて股間を押さえると、フロアの従業員出口に向かって逃げ出した。 「あ、ちょっと待って」 まだ揉み足りない俺は、慌てて彼女の後を追おうとした。 だが体をうまくコントロールできない。急に動き出した俺の体は、勢い余って彼女とぶつかってしまった。 いや、ぶつかると思った瞬間、俺の全身は彼女の体と重なるように吸い込まれていた。 「え゛?」 気が付くと、生身の体になっていた。しっかりと両足でフロアに立っているのだ。 だが己の体を見下ろすと、むちっとした黒いストッキング包まれた長い脚、はいている靴はピンヒール、着ているのはノースリーブのレオタードのような青いレザー生地の服、その股間はすっきりとして何も膨らみがない。 要するに、俺はバニースーツを着ていた。 どうやらぶつかって弾き飛ばされるのではなく、彼女の体の中に吸い込まれてしまったらしい。 そして俺は今、有香というバニーガールになっていた。 「有香ったら、急にどうしたの?」 「どうしたって言うか、ええっと……」 手を見ると、ほっそりした手首に白いカフスをつけてる。 頬に金色に染められた髪が触れる。 着ているバニースーツとストッキンングが体にぴたっと密着している。 不思議な感覚だった。 お尻に手をやり、撫でてみる。 ぷりっとした感触。 いい感触だ。これぞまさしく女性の尻の感触。 俺は興奮して何度も自分の尻をもみもみと揉んだ。 「有香、お尻どうかしたの? 大丈夫? それに顔が赤いよ。少し横になってたら?」 白い体操シャツと、今時の学校では見ることのなくなった紺色のブルマーをはいた少女が心配そうに寄ってくる。 ブルマー! しかもブルマーに包まれたこの子のお尻もいいお尻だ。 俺は、その子のお尻にも手を伸ばすと、さわさわと撫でた。 「ひゃあん、いきなり何するのよ。心配したのに、もう、有香のばかぁ!」 少女が怒り出す。 「うーん、これだよ、この感触。自分の尻より他人の尻だよな」 お尻の感触が手のひらに残る。俺はこぶしを握り締め、思わずガッツポーズをしてしまった。 「なによそれ。もう、わけわかんない。知らない!」 あきれ顔で体操着の少女は離れていった。 「あ、もったいない。でも……この店はコスプレバーで、今の俺はこの店のバニーガールなんだよな……ってことは……」 店内を見回すと、フロア内にはチャイナドレスにAK○48の制服、ミニスカポ○スといったコスプレした女性店員がそこかしこで接客していた。 ブルマーの少女は、接客に加わらずにカウンターに立っている看護婦姿の女の子に寄ってこっちを見ながらひそひそと耳打ちしていた。 その様子を眺めていると、ふと思いついた。 「ブルマーの子をさわったのは、この有香ってバニーガール、怒られるのもこの子……ってことは、よ〜し、今なにをしても、やったのはこの有香という女の子の仕業になるんだよな。それなら、へへへ」 俺は両手の指をポキポキと鳴らすと、店内の女性たちの尻にさわりまくった。 「ひゃっ、ちょ、ちょっと、いやあ」 「やめて、なにするの、ちょっと!」 いきなり店内の女の子たちの尻を次から次へとさわりはじめたバニーガールに、店内は大混乱に陥った。 コスプレ姿の女の子たちがフロアを逃げまどう。その後ろから追いかけまわしては、俺は尻にさわりまくった。 男の客たちは、どんなイベントが始まったんだと、にやにやと見ている。 だが騒動の中、突然何かに体を引っ張られるような感覚を覚えたかと思うと、俺はいつの間にか元の俺の体に戻り、ソファーに座っていた。 「どうやら薬の効果が切れたみたいね。それにしても、派手にやってくれたものね」 綾乃さんが、俺の目の前で腕組みしていた。 心なしか、こめかみに血管が浮いているように見える。 「すみません。やりすぎました」 彼女に頭を下げる。 「あら素直じゃない。まあいいわ。薬のモニターを頼んだのはあたしだし、今日のところは許してあげる。で、使ってみてどんなだった?」 「『脱魂丹』の効果が体から魂が抜けるのは間違いないです。魂になっても尻に触れたのには驚いたけど、姿が見えずにやり放題だったのは良かったなぁ。不思議だったのは、バニーガールの有香ちゃんにぶつかったら今度は彼女の中に吸い込まれて、気が付いたら自分が彼女になっていた事かな」 「なるほど、魂になって行動できるだけじゃなく憑依することもできるってわけか」 「え?」 「なんでもないわ。で、どうして有香ちゃんの中に入れたのかわかる?」 「う〜ん……彼女の尻を揉みたいと思ってさわったら揉めたんですけど、さわるという心構えなしにぶつかったら彼女の中に入り込んでしまったんですよねぇ」 「なるほどね。わかったわ。じゃあ、今日はもういいから、またいらっしゃい」 綾乃さんの顔には、これ以上店で騒ぎを起こされたらたまらないと書いてあった。 「あ、残りの薬の効果がわかったら、必ず教えてね」 「わかりました。じゃあ、試したらまた来ます」 俺はソファーから立ち上がると店を出た。 ポケットの中の薬ビンを左手でいじりながら、右手に残る、店の女の子たちのお尻の感触を反芻してにやけていた。 (第一話終わり) |