叶えられた願いU(その4)

 作:toshi9  挿絵:あさぎりさん




 数時間後、美保子は行きつけのレストランで一人食事を済ませると寮に戻った。いや、
正確には美保子に成りすました明雄は、何食わぬ顔で警察の女子寮に潜り込んだのだ。

「ただいま」

「あ、先輩お帰りなさい」

 部屋に入ってきた美保子を、飾りッ気のないスエットの上下に着替えて机に向かっていたゆかりが明るい顔で迎えた。

「あれ? その服どうしたんですか」

「衝動買いしちゃったの。どお」

 ゆかりの前でくるっと身体を回す美保子。

「素敵ですぅ」

「ふふ、ありがと」

「先輩、今日は1日中何だか楽しそうでしたね」

「わかる? うふふ、ちょっといいことがあったの。ところでゆかり、あなたもうシャワーは浴びたの」

「はい」

「そお、じゃああたしも入ろうかな」

 そう言いながらバッグと服の入った紙袋を床に下ろすと、美保子はドレッサーの前に座って化粧を落とし始めた。

 実際明雄には勿論化粧なんてどうやって落とすのかわからない。それどころかシャワーを浴びる前に化粧は落とすものだということさえも知らなかった。

 だがシャワーを浴びようと思った途端、美保子の身体はごく自然に化粧を落とし始めていたのだ。

(俺、化粧を落としてる。やり方なんて知らない筈なのに、何でできるんだ。……これってこの身体が覚えてるのか? ふふっ、全く便利なもんだぜ)

 クローゼットの引き出しを開けると、きちんと畳まれて中に収められた色とりどりの美保子の下着が目に飛び込んできた。

 そう、それらは今や明雄のもの。何を選んで着ようとも明雄の自由だ。

(こんなのを身に着けるのか。この俺が、この身体に。きししっ)

 黒いブラジャーとショーツを選び出した美保子は、ぎゅっとそれを握り締めると、バスルームに入った。

 ドレスを脱ぎ、大きな己の胸を覆ったブラジャーを外し、パンティストッキングを脱ぎ捨てる。そして最後に残ったショーツをもぐいっと引き下ろした。

 洗面台の鏡に、一糸纏わぬ美保子の姿が映し出されている。

 Eカップはあろうかという大きな張りのある胸先の乳首はピンと突き出し、腰はぎゅっと絞れ、そしてボリュームあるお尻は大きく張り出している。全く見事なプロポーションだ。その股間の翳りには勿論明雄が見慣れているものはない。

「これ、これが……おれ」

 鏡の中の美保子は目元を桜色に染め、扇情的な眼差しで明雄のことを見返していた。

 明雄がゆっくりと手を両胸に持ってくると、鏡の美保子も胸に手を添える。

 上目遣いでぺろりと舌を出し唇を舐めると、鏡の中の美保子は、まるで明雄のことを誘惑しているように見えた。
 
「ふぅ〜、これが俺なんてな。ほんと堪んないぜ」

 今日何度目かになる呟きを漏らした美保子は、バスルームに入るとシャワーのコックを捻った。

 吹き出した熱いシャワーを肌が弾く。

「きもちいい〜」 

 ボディシャンプーを手につけ、体中を摩っていく。柔らかい胸が、お尻が、美保子の手つきに合わせてくにゅくにゅと変形する。

「あ、あひぃ〜、い、いい、いい気持ち」

 ひとしきり体中を揉みまくった明雄は、今度は勢い良くお湯の噴き出すシャワーのノズルを股間に当てた。

「あくぅ〜、いい、あ、あひっ、あひっ」

 さらに美保子はシャンプーのついた指を己の股間に滑り込ませ、ゆっくりと前後に動かす。

「はぅうう、ああ、うくぅ、いい、いく、いく、ああ、いい、いくぅ〜〜〜」

 身体を突き上げるように湧き上がる快感に、しゃがみ込み、そしてそのまま果てた明雄だった。






 やがてバスタオルを身体に巻いて、美保子はバスルームから出てきた。

「ふう〜気持ちよかった」

 姿見の前に座ると、ドライヤーを当てながら美保子はゆかりに声をかけた。

「ねえ、ゆかり」

「え? なんですか、先輩」

「あなたってまだ19よね」

「は、はい」

「20歳前か。髪も肌もほんとつやつや。いいわよねぇ若いって」

 明雄は美保子になり切ってゆかりに話しかけた。

「そんな……何言ってるんですか。先輩だって若くて、美人で、スタイルよくって……私先輩に憧れているんです。私も先輩みたいな素敵な婦警になりたいなって」

「ふふっ、くすぐったいわね」

 くすっと笑った美保子はドライヤーを止めて立ち上がると、長い髪をツインテールに分けてブラッシングしているゆかりの傍らに歩み寄ってきた。

 長身で美人の美保子、現役女子高生と言っても通用するようなあどけなさを残したゆかり。姿見に二人の姿が映っている。

 座っているゆかりの肩に手を置く美保子。

「ねえ、ゆかり」

「え? 何です……ん、んんん」

 見上げたゆかりの唇に、突然己の唇を合わせる美保子。

「んん、んんん……んはぁ〜」

 ゆかりの口に舌を突っ込み、美保子はゆかりの舌と己の舌を絡め合わせる。

 にゅるにゅるとしたその感触が、箱入り娘で未だセックス経験のないゆかりの身体に、痺れるような快感をもたらす。

「ん、んはっ。はぁはぁ、せ、せんぱい、だめ、こんなこと……はぁはぁ」

「ゆかり、好きよ」

 美保子はパジャマの上から彼女の胸にそっと触れると、包み込むように優しく撫でた。

 手の平にぽちっとした乳首の感触を感じた美保子は、さらにゆっくりと撫で続ける。

「え? どういう……んんん、んんん、んあっ……はぁはぁ、だ、だめ、せんぱい、だめです……あ、あうっ」

 びくっと身体を震わすゆかり。

 美保子はゆかりのパジャマの胸元のボタンを一つ一つ外すと、すっと中に右手を差込んで直接指と手の平でゆかりの胸をこね回し始めた。

「あ、あうん、だ、だめぇ、そ、そんな、せんぱい、女同士で……そんなぁ、あ、ああん」

 だが言葉とは裏腹に、やがてゆかりは自分のほうから美保子にぎゅっと抱きつき、唇に吸い付いてきた。

 ファサリと美保子の体に巻かれたバスタオルが床に落ちる。

 二人は抱きついたままベッドに倒れ込んでいた。

「せんぱい、せんぱい、せんぱい、んんん」

 美保子の体中に口づけを始めるゆかり。

 美保子の太ももに、臀部に、ゆかりのキズマークが浮き上がっていた。

「あう、あ……ああん」

 思わぬゆかりの行動に驚きながらも、さらに激しく愛撫する美保子。

「あ、いい、せんぱい、とってもいい気持ち」

「ふふふ、もっと気持ちよくしてあげる」

 そう言いながら、美保子はゆかりの濡れた股間に顔を埋める。

 ぴちゃ、ぴちゃ、ぴちゃ

「いやぁ、せんぱい、そんな、きたない」

「きたなくなんかないわよ。ゆかりのココ、とっても素敵よ」

 そう言いながら盛んに舌を使う美保子。その舌が動く度に何度も体を仰け反らせるゆかり。

「あ、あひぃ、いい、いく、いく、あああ、いいいい〜〜〜」 

 幾度となく湧き上がる快感に突き上げられ、やがて果てるゆかりだった。
 




 はぁはぁ、はぁはぁ

 美保子の傍らに仰向けに寝転がったまま、ゆかりは美保子を見詰めていた。

「せんぱい、とっても気持ち……よかった……です」

(はぁはぁはぁ、俺も楽しめたけれど、こいつほんとに気持ちよかったんだな。ちょっと羨ましいぜ。ふふふ、そうだ)

 目に星を浮かべたままぼーっと横たわっているゆかりを見詰めながら、美保子は、いや明雄はピンと閃くと、起き上がって机の上の人形をゆかりに放り投げた。

「ほら、ゆかり」

「え!?」

 慌てて人形を受け止めるゆかり。

「あ、ひっ」
 
 その瞬間明雄の視界が暗転する。

 そして次の瞬間、明雄はゆかりになっていた。






「あ、あれ? あたし今まで何を、はぁはぁ……ゆかり、え!? どうしたのその格好。あ、
あたしも裸? どうして、はぁはぁ、どうしてこんな」

 自意識を取り戻した美保子は、自分がゆかりと裸で同衾しているのに気がつき、訳も分からず驚いていた。

 一方ベッドに横たわったゆかりは、自分の中に残る快感の余韻を楽しむかのようにぶるっと体を震わすと、目の前に座る美保子を見て一瞬にやりと笑った。その目は最早さっきまで美保子にされるがままだったゆかりのものではない。獲物を見詰める目だった。

「せんぱ〜い、どうしたんですか?」

 ゆかりは体を起こすと、肩で息をしている美保子に向かってわざと甘えるような声で話しかけた。

「はぁはぁはぁ、ゆかり、あ、あたしたちまさか」

「うふっ。せんぱいのテクニックってすごいですね。あたし何度もイッちゃった」

「ええ〜〜〜!? そんな、まさかあたしがあなたを???」

「うん。すごかった」

「そんな、そんなこと……」

「覚えていないんですか?」

「そう言えばあたし、なんだかとってもゆかりがいとおしくなって、ゆかりを攻めて、あたしの舌でゆかりのアソコを、胸を……でもどうしてあたしがそんなことを?? 何が何だか……」

「せんぱい、今度はあたしがせんぱいをイカしてあげる♪」

 混乱している美保子をゆかりは上目遣いに見詰めた。

(ふふふ、そうさ、今度は俺がゆかりになって……うふふ)

「えっ、えっ!? ええ〜〜? ゆかり、あなた何を……キャッ!!」

 右手を美保子の左手にきゅっと重ね合わせると、ガバっと抱きつくゆかり。

 それを力なく受け止める美保子。





「せんぱい、好きです。あたしずっとせんぱいのことが」

 ゆかりに成りきって美保子に抱きついた明雄は、そう囁くと美保子の唇に己の唇を重ねた。

 美保子の舌に己の舌をねっとりと絡める。

(は、はふぅ、いい、いいよ、この感じ。美保子の時より……いい)

 口の中に広がる快感に目をとろんとさせるゆかり。

 ゆかりを引き離す美保子。二人の唇の間に繋がったよだれが糸を引いて弧を描く。

「ふはぁ〜〜〜、あ、あたしどきどきしている。好きですせんぱい」

「あたし、はぁはぁ、あたしだって、はぁはぁ、なに、この気持ち……なんだかわからないけど、ゆかりのことが……いとおしい」

 疲れ切った表情を見せながら、美保子もそんな言葉を漏らす。

(ふふふ、やっぱりそうだ。さっき俺が考えていたことが、そのまま今の彼女に影響してるんだ)

「はぁはぁはぁ先輩、もっとあたしを愛して」

「ゆかり、はぁはぁはぁ、好きよ」

「う、うくぅ」

 ゆかりをぎゅっと抱きしめる美保子。二人の胸がこすれあい、つぶれあい、くにくに変形する。

「あひぃ〜、い、いい〜」

 ぴんと立ったままの乳首がこすれあった瞬間、ゆかりの背筋に電気が駆け抜けた。 

「あ、あひぃ、いい……いい、こんな……ああん…」

「あ、あう、あう、あああ」

 ゆかりと美保子が同時に甘い吐息を漏らす。

「う、う、うん、うあっ、はぁはぁ、いい、ああん、先輩、だいすき」

 ゆかりは抱きついた両脚を美保子の身体に絡ませ、己の股間を美保子の股間に重ね合わせる。

「あううぅ、あたしも……ゆかりのこと……すき……はうっ、はぁはぁ、い、いい、あん」

 切なそうに重ねた股間をお互いにこすり合わせた二人は、再び抱き合い唇を重ね合わせる。

(はううう、いい、気持ちいい……女って、なんて気持いい)

 こすれ合う股間はお互いの身体の芯からあふれ出てきたものでぬらぬらと濡れていた。そして二人が動く度にぐちゅぐちゅと嫌らしい音を立てる。

「いい、いく、あああ、いくぅ……」

「あたしも、いく。いい、いく、いく、いっちゃうぅ」

 絶頂を迎えようとするベッドの上で重なり合った二人の身体がびくびくっと震える。

 だがその瞬間、体を硬直させたゆかりの足に跳ね飛ばされた人形がベッドから転がり落ちた。そして床に落ちた人形の背中の扉がぱかりと開き、中に納められていた明雄の髪の毛はこぼれ落ちてしまった。

「いく……い………え?」

 その瞬間、ゆかりの中の明雄の意識は、アパートにいる元の自分の体の中に戻ってしまった。

 そう、気がつくと明雄はヘッドホーンをつけてベッドの上に寝そべっていたのだ。

 明雄がヘッドホーンを外してきょろきょろと見回すと、そこは自分の部屋だった。

「俺、戻ったのか。自分の体に戻っちまったのか」

 ゆかりとして美保子とえっちしている最中、それもその感じやすい身体でいってしまう寸前に元の自分の体に戻ってしまったことに気が付いた明雄は、悔しそうに呟いた。

「くそう、もう少しでゆかりのいくって感じがわかるところだったのに。それにしてもあれが女の快感なのか。気持ちよかったよなぁ」

 さっきまで感じていた女の快感を反芻する明雄の目の前の机に、あの人形がちょこんと座っていた。

「ありがとうよ、いい思いをさせてもらって」

 人形を手に取ると、明雄はその顔をじっと見詰めた。

「さあて、こいつの使い方もわかったし、明日からもっともっと楽しませてもらうぜ。ふふふ、次は誰がいいかな。会社一の美人、社長秘書の頼子ちゃんになってみるとか、いや毎朝電車で見かけるあのかわいいOLもいいよな。待てよ、女子高生になって私立女子高に潜り込むってのも面白そうだし……ほんとにこりゃあ素晴らしい人形だぜ、えへへへ」

 いろんな女性になってえっちしている自分を想像して、一人にやける明雄だった。






 さて、その翌日、明雄がうきうきと歩いていると、駐車違反を取り締まる二人の婦警の姿が目に飛び込んできた。それは美保子とゆかりだった。

 足を止めて二人の様子を見ていると やけに仲の良さそうに見える。そう、女同士なのにまるで恋人同士のような雰囲気だ。

「ありゃりゃ、あのふたりって結局できちゃったのか。面白い、こりゃあほんとに面白い」

 明雄の中に、美保子になってゆかりと、ゆかりになって美保子とえっちした昨夜の記憶が蘇る。

「さてと、次は誰になってみようかな」

 バッグの中に入れた人形をちらりと見てにやりと笑うと、明雄は再び歩き始めた。

 豊満なお尻をぷりぷりとふりながら。





(終わり)


                                (脱稿2005年11月27日)




後書き
 「夢幻館」100万ヒット達成おめでとうございます!
 オープンされて3年半、すっかりTS界の中の老舗サイトの一つになりましたね。愛に死すさんこれからも活動どうぞがんばってください。
 私も「夢幻館」でいろいろな企画や同人活動に関わらせてもらいましたが、この作品は同人誌「夢幻館Vol.2」に投稿した「叶えられた願い」の続編にあたる作品として書いてみたものです。「叶えられた願い」は完結しておりますが、作品を発表した後で「人形の設定を使った新しい話を読んでみたい」というリクエストを頂いていたので、ずっとどのような形で続編を書こうかと暖めていたものですが、ようやく完成させることができました。それにしてもこの作品を書き始めたのが8月10日、書き上げたのが11月27日ですから結局三ヶ月近くかかってしまったことになります。いや、ほんとに執筆ペースが落ちてしまいました。
 それから今回もてんこもりの内容になってしまいましたが、最後のパートではあさぎりさんのお絵書き掲示板に掲載されていたあさぎりさんのあるイラストのモチーフを取り入れて書いてみました。で、あさぎりさんにそのイラストを挿絵として使わせてもらえないかとお話したところ、何と新たに書き起こして頂けました。あさぎりさん、イラストどうもありがとうございました!
 私の作品としては長い部類に入るこの作品、さて如何だったでしょうか。楽しんでいただけたら幸いです。
 それではお読み頂いた皆様、どうもありがとうござました。


inserted by FC2 system