警部さんは金髪がお好き

作:toshi9
挿絵:◎◎◎さん





 古い洋館の中で 三人の男と三人の美少女が対峙していた。
 男の一人は40歳くらいであろうか、ぼさぼさの長髪の上にサファリハットを被りよれよれのコートを着た中年男だ。もう一人はバットを構えた小学生の男の子。そしてもう一人は高校生らしき精悍な顔立ちの少年だ。戦闘スーツに身を包んだ彼は、レイガン(光線銃)を美少女たちに向けていた。



 一方の三人の美少女は三つ子だろうか、皆同じ顔立ち、同じ長い手足の見事なプロポーション、そして同じ赤いタンクトップと白いミニスカートを着ている。そして何よりもツインテールにした長い金髪が、その美貌を一層印象付けていた。

 6人はじっと向かい合ったまま動かない。

 だが、無表情な眼差しで男たちをじっと見詰めている少女たちに、突然中年男が飛びかかる。
 戦う為に? 
 いや、だらしない表情は、そうではないようだ。

「ガミアちゃ〜ん、好きだぁ〜〜〜」
「ナ、ナンダコイツハ」
「リカイフノウ、リカイフノウ」
「ガミアちゃ〜〜ん」
「チッ、ウルサイヤツ」

 美少女たちのツインテールの金髪がひゅんと空中を舞い、男にまとわりつく。次の瞬間、男の服はバラバラに切り刻まれ、男はすっぽんぽんになっていた。

「うゎお、ハレンチ」

 ひるむ中年男の脇をすり抜け、美少女たちは一斉にレイガンを構えた少年に襲いかかる。

「ヤルゾQ3」
「ハイ、……キャア!!」

 少年の構えたレイガンが、収束した光線を放つ。
 それは美少女の一人を見事に貫いていた。
 ばたりとその場に倒れる美少女。

「Q3ガヤラレタ。クソウ、ワレワレノカラダヲツラヌクトハ……シカタナイ、Q2、ツギノサクセンダ。レイノバショニムカウ」
「デモQ3ハ?」
「ワレワレニハ、ジコシュウフクカイロガソナワッテイル。Q3ハジキニカイフクスル」

 貫かれた腹部から淡い煙を上げて倒れている少女を置き去りにして、少年に背を向けて駆け出す2人の美少女。
 倒れた少女に駆け寄った裸の中年男が傍らにしゃがんで抱き起こす。
 目を開いたまま、糸の切れた操り人形のように動かない少女の様子を見て、中年男は少年を睨みつける。

「お前、俺のガミアちゃんに何てことをするんだ!」
「安国寺のおっさん、そいつは危険な殺人アンドロイドなんだ。始末しなければ俺もあんたもやられてたんだぞ」
「俺のことなんざぁどうでもいい、ガミアちゃ〜ん、目を覚ませ〜」
「全くこのおっさんときたら……四郎、俺は奴らを追いかける。お前はここにいろ」
「ええ? やだよ、僕も行くよ」

 裸の中年男を残して、逃げ出した美少女たちの後を追いかける二人。
 一方、中年男は動かなくなった美少女を抱え上げようとした。

「うおっ、重い」

 動かない、いや活動を停止したそれは、よく見ると少女ではなかった。いや、人間でさえもない。
 名前を『ガミアQ3』という。瞬時にあらゆるモノを切り刻む極細の超合金製金髪を武器にする殺人アンドロイドだ。逃げた姉妹、いや同タイプの『ガミアQ1』『ガミアQ2』と共に戦闘スーツを着た少年の刺客として送り込まれたのだ。

 彼女たちに狙われた少年の名前は蕪戸功児、狂信的な天才科学者を首領とする悪の組織と戦うスーパーロボットの操縦者だ。そして小学生は彼の弟の四郎。美少女だったモノを抱き上げようとしている中年男は安国寺警部。警視庁きっての肉体派だ。彼は功児をつけ狙う彼女たちに、いや、殺人アンドロイドに初めて遭遇した時、一目惚れしたのだ。
 その後功児の護衛をかって出た彼の本当の目的は、実は美少女刺客が再び現れるのを待つことだったりする。
 そしてこの日ようやくの再会に安国寺警部が喜んだのもつかの間、破壊された1体を残して、残る2体は逃げ去ったという訳だ。

 しかも……

「カブトコウジガオイカケテクル」
「フフフ、コレデヤツモオシマイダ!」

 後から追いかけてくる功児の姿を確かめたガミアQ1が、手に持つ携帯電話状の起爆コントローラーのスイッチを押す。
 一瞬、グワンという鈍い振動。
 それと共に古い洋館は屋根からガラガラと崩れ始めた。

「にいちゃん、天井が!」

 功児の後を追いかけてきた弟の四郎が叫ぶ。

「罠だったんだ。四郎、急げ」
「でも安国寺のおじさんが」
「間に合わん、逃げるぞ」

 功児は弟の手を引っ張り、間一髪のところで崩れゆく洋館から脱出した。





「安国寺のおっさん、気の毒なことをしたな。南無阿弥陀仏」

 洋館の跡に残った瓦礫の山に向かって手を合わせる功児。

「にいちゃん、安国寺のおじさん死んじゃったの?」
「うーん、これじゃ助からないだろう。後で警察に来てもらうことにしよう」
「……ぐすん」
「泣くな四郎、俺たちはまだやらなければならないことがあるんだ。Dr.HELLの野望を打ち砕くというな。さあ行くぞ」

 功児は弟を連れて彼の機体に向かって歩き出した。


 さて、安国寺警部とガミアQ3は本当に瓦礫の下敷きになってしまったのだろうか。


「う、う〜ん」
「気がついたようですな」
「うっ、まぶしい!」
「おっとこれは失礼した」

 照らされたライトの明かりが弱められる。

「う〜ん、俺はどうしたんだ。少年に撃たれたガミアちゃんを抱き上げて、それからええっと……な、なんだあ!?」

 安国寺警部は両手をチェーンで繋がれ、天井から吊るされていた。
 そこはひんやりしたレンガの壁で囲まれた部屋だった。

 ファサリ

 左右を見回す彼の頬に、長くしなやかな金髪がかかる。

「金髪!?」

 それが己の髪だとわかり、警部は慌てて体を動かす。
 しかし様子がおかしい。
 繋がれた状態だとは言え、動きがぎこちない。思うように体が動かなかった。しかも手も脚も普通の人間では脱臼しそうな妙な曲がり方をしている。
 ふと自分の体を見下ろした警部は、絶句した。
 それは彼の体ではなかった。いや人間でさえもない。彼の体は作り物になっていた。
 人肌とそっくりなものの、明らかに皮膚は人工のモノだった。しかも膨らんだ大きな胸、きゅっとしまった腰。何も無い、本当に何も無い股間。そして長い金髪をツインテールにまとめた髪。
 それは彼が一目惚れしたガミアそのものの姿だった。



「なんだ! これは俺じゃない、ガミアちゃんじゃないか。俺がガミアちゃん? いったいどうなっているんだ!?」

 興奮する彼の精神に呼応するかのように、長い金髪がざわざわと空中をうごめく。

「ふむ、意識はしっかりしているようだな」

 部屋の中で機材のパネルを操作していた男の声に、警部はようやくその男の存在に気がついた。それは口髭をたくわえた白衣姿の男だった。

「誰だ、貴様!」
「私か、私の名前はDr.KENZOだ」
「Dr.KENZO?」
「うむ、ロボット工学の権威だ」
「自分のことを自分で『権威』という奴にろくな奴はいないぞ」
「なにぃ!!……ふふふ、よくも私のことを馬鹿にしてくれたな」

 声を荒げた白衣の男がパネルを操作すると、警部を吊るしていたチェーンがゆっくりと下ろされた。
 床に降り立ち、自由の身となる警部。
 彼は改めて自分の体を確認する。
 紛れもなく、それは少女の姿をしたアンドロイド、ガミアの体だった。
 長い金髪が、生き物のように彼の意思のままに動く。

「こいつ、何でこんなことをしたのか教えろ!」

 束ねられた髪を振り上げて男を威嚇する警部。 
 だが白衣の男がポケットから取り出した装置のスイッチを押すと、途端にガミアの体になった安国寺警部は直立し、そして彼の前にひざまずいた。

「体が勝手に……なんだ、どうしたんだ」
「リモートモードにさせてもらったよ。これでその体は私の思うがままだ。そうだなガミアQ3」
「ハイ、ゴシュジンサマ……って、なんだ? 口が勝手に」
「肩を揉んでくれないか」
「カシコマリマシタ」
「その前に何か着なさい」
「ハイ、ソレデハサッソク」

 安国寺の意思を全く無視してくるりと裸体を回転させたガミアQ3は、次の瞬間ミニのメイド服を着ていた。
 ひらひらと舞うスカートからチラリと白いパンティが覗く。

「うむ、それでいい。それでは肩を揉んでくれ」
「ハイ、ゴシュジンサマ」

 ガミアQ3はしなしなと白衣の男に近寄ると、その後ろに回って彼の肩をもみ始めた。

「や、やめろ、俺はこんなことしたくない」
「ふふふ、お前のご主人様は誰だ?」
「ハイ、ワタシノゴシュジンサマハDr.KENZOサマタダヒトリデス……って違う、何がご主人様だ」
「わかったかね? 今の君は私に忠実なアンドロイドなのだ」

 そう言ってスイッチを切るDr.KENZO。

「アンドロイド?」
「そうだ、その体は我がかつての盟友Dr.ハインリッヒが作った人間、いや美少女そのものの姿をした傑作殺人アンドロイド『ガミアQ3』だ」
「言っている意味がわからん」
「これだけ説明してもわからんのか。仕方なかったとは言え、もっと頭のいい奴にすればよかったな」
「だから、何のことかちゃんと説明しろ!」
「何度も言っているだろう。その体は君が追いかけていた殺人アンドロイドだ。だが今や君自身がそのアンドロイドになったのだ。なぜならこの私が君の記憶をガミアQ3に移植したのだからな」
「俺の記憶を移植だと!?」
「そうだ、だから君はもう安国寺警部ではなく『ガミアQ3』なのだ」
「俺がガミアちゃんになっただと……そんな、信じられん」
「事実は事実だ。それを受け止めるのだな」
「何が『事実は事実だ』だ、勝手にそんなことをしやがって」

 白衣の男に向かって飛び掛ろうとするガミアQ3。
 だが、その手がDr.KENZOのク首元に達する前に、その動きはピタリと止まった。

「言っただろう、私は君のご主人様なのだ。ロボットはご主人様には決して手を出せんのだよ」
「貴様ぁ、何でこんなことを、この人でなし!」
「失敬だな、助けてあげた恩人に向かって」
「助けただと?」
「そうだ。危うく瓦礫の下敷きになりかかった君をこの地下室に避難させたのは私だ。だが運悪く瓦礫が頭に当たったらしく、君の体は瀕死の重傷を負ったのだ。そこでガミアの人工頭脳に君の記憶を移植したという訳だ」
「おい、それで俺の体はどうなった」
「頭部がぐちゃぐちゃ……いや、こほん、手術したが絶対安静状態だ。君を死なせない為には記憶を一旦体から切り離す必要があったのだ。それに」
「それに……なんだ」
「アクシデントではあったが、これは私にとっても都合が良い事だった。君の記憶を移植することでその機体のリモートモードをリセットし、ガミアを1体手に入れることができたのだからな」
「ガミアの体を手に入れたかった?」
「そうだ、私の息子たちと妻を我がライバル、Dr.HELLの手から守る為にな」
「息子たちと妻?」
「功児と四郎、そして二人が滞在している旅館の女将のことだ」
「あいつらと、あのキップのいい女将が? ということはあいつら親子なのか」
「そうだ。功児たちはあの女将が自分たちの母親とは知らんがな」
「そうだったのか。だが三人を守るとは……それじゃ、あの旅館が狙われているのか?」
「うむ。奴は功児たちを暗殺する為にDr.ハインリッヒから3体のガミアを奪ったのだ。逃げた2体のガミアは再び功児を襲うだろう、その時君に息子たちを守ってもらいたいのだ」
「話はわかった。だが1対2じゃ勝てんだろう」
「いや、そうでもないさ。その為にも君の記憶を移植したのだ」
「どういうことだ?」
「オートモードの君、即ちガミアQ3は、リモートモードの2体よりはるかにスピードが出るはずだ。Dr.ハインリッヒからかつてそう聞いたことがある。しかも今の君は自分で考え、行動できる。例え性能は同じでも他人が命令を下してから動くリモート型アンドロイドと自律型アンドロイドが戦えば、結果は自ずと明らかだろう」
「なるほど、事情はわかった。だが、いつまで俺にガミアちゃんの体でいろというんだ?」
「なあに、奴らを倒したら、体が回復次第元に戻してやるさ。約束しよう。まあそれまで惚れた美少女アンドロイドとしての生活を楽しんでみてはどうだ」
「き、貴様どうしてそれを!」

 Dr.KENZOの言葉に焦るガミアQ3。

「功児たちをずっと見守っていたからな。君の行動もずっと拝見させてもらっていたよ」

 Dr.KENZOがにやっと笑う。
 ぽっと顔を赤らめるガミアQ3。
 無表情な殺人アンドロイドだったガミアQ3だが、安国寺警部の記憶が移植されたことで実に豊かな表情を見せている。

「こ、こののぞき魔!」
「まあそんなことはどうでもいい。それと、私も一緒に行かせてもらうぞ」

 そう言うと、彼は頭からすっぽりとゴム製のマスクのようなものを被り始めた。
 両手を使ってズレを調節し、そしてサファリハットを被ると……

「お、俺!」
「そうよ〜ん、国家権力の使者・安国寺警部で〜す」

 ガミアQ3になってしまった安国寺警部の前に白衣姿の安国寺警部が立っている。Dr.KENZOが変装した姿だ。

「この野朗、俺の口真似をするな」
「ガミアちゃ〜ん、好きだあ」
「や、やめろぉ!!」

 頬ずりしてくる元の自分の姿をしたDr.KENZOをひっぺがすガミアQ3。
 ひっぺがされた白衣の安国寺警部は、突然真顔になるとガミアQ3に言い放つ。

「ひざまずけ、ガミアQ3」
「ハイ、ゴシュジンサマ……って、またか」
「ふふふふ、この姿に変装しても私がガミアQ3のご主人様であることに変わりはない。安心しろ」
「何が『安心しろ』だ!」
「とにかくだ、この姿なら3人とも私だと気づかんだろう。熱海に行くぞ、ガミアちゃ〜ん」
「だから俺の真似はやめろって」
「それからガミアQ3、自分が安国寺警部だと功児たちにばらしてはいけないぞ。いいな」
「カシコマリマシタ、ゴシュジンサマ……って、なんだその命令は」
「正体がばれないようにしなくてはな。私も君もだ。さあ答えろ、お前の名前は何だ」
「ワタシノナマエハ『ガミアQ3』……くっ、わかったからもうやめてくれ!」




 こうしてガミアQ3になった安国寺警部と、安国寺警部に変装したDr.KENZOは熱海の旅館に向かったのだった。(作者注:ややこしいので、今後名前は姿の名前で表記します)




「へぇ〜、それじゃこのガミアがあたいらの味方になるって言うのかい?」
「ああ、危うく瓦礫に下敷きになるところを助けてくれた男が、このガミアQ3を改造してくれたんだ」

 旅館に着いた安国寺警部とガミアQ3は、旅館の従業員たちに取り囲まれていた。
 功児を暗殺しようとしていた殺人ロボットが正面玄関から到来したことに最初のうちは警戒していた一同だが、安国寺警部の話にへぇ〜という表情を見せる。

「助けてくれた男って、どんな奴なんだい?」
「誰かわからんけど、あいつのおかげでガミアちゃんは俺の物だ。ねっ、マイハニーQちゃ〜ん」

 一同の前でガミアに抱きつき、その頬に何度もキスする安国寺警部。

「……私はQちゃんではない、『ガミアQ3』だ」

 抱きついた安国寺警部を払いのけようともせずに無表情でガミアが答える。
 だが、その眉がピクピクと動く。

(自分にキスされるなんて……うぇ〜〜〜)

「ふ〜ん、このガミア、何だか知恵もつけたようだねぇ」

 ガミアQ3の顔を覗き込んで、女将がにやっと笑う。

「まあ、奴らと戦うには戦力が多いほうがいい。それじゃ、早速彼女にも仲居として働いてもらおうかね。安国寺の旦那、いいね」

 そう言って安国寺警部をじっと見る女将。

「ガミアちゃん、いいよね〜」
「……問題ない」

 ガミアQ3がくるりと体を回す。すると着ていた黒いマントは仲居の和服姿に変わっていた。

「へぇ〜便利なもんだねぇ。そういや今夜は団体さんが予約していたんだったっけ。ちょいとがんばってもらおうかね」

 ガミアを見る女将の目がキラリと光る。




 やんややんや

 宴会の中、団体客たちがはやしたてる。
 宴会場の舞台には、メイド服姿のガミアQ3が上がっていた。

「金髪のねえちゃん、いいぞ〜、さあ次はなんだ!」
「ナースだぁ!!」

 誰かが叫ぶと、途端に「ナース、ナース」の大合唱。
 ガミアQ3がくるりと体を回すと、彼女の衣装はメイド服から白いナース服に変わっていた。

 うぉ〜〜〜

 団体客から歓声が上がる。

「いいぞ〜、かわいいぞ、ねえちゃ〜ん」
「次はなんだ〜!」
「バニーガールだあ!」

 バ・ニ・イ、バ・ニ・イ

 再び大合唱が巻き起こる。
 ガミアがくるりと体を回す。
 彼女の衣装は、ナース服から今度はバニースーツに変わっていた。

 うぉおおおおお!!!

 団体客の大歓声があがる。



 その後も、客たちのリクエストに応じて、次々と変身を繰り返すガミアだった。
 客のリクエストが何だったか、それは上のイラストを見ての通りである。

「さあて、そろそろショータイムもお開きだよ。ガミア、最後に皆さんにサービスサービス」

 ガミアがくるりと体を回す。すると……

「「「裸エプロンだあ!!!」」」

 立ち上がってはやし立てていた浴衣の男たちは、一斉に股間を押さえて座り込んでしまった。

(くっそ〜、何で俺がこんな格好しなくちゃ……くくくく)

 裸エプロン姿でしなを作りながら舞台を下りたガミアは、団体客一人ひとりに酌して回る。
 酔っ払って肩に手を回して抱きつく者、むき出しのお尻をなでなでと触る者。
 そのたびに、ガミアの人工皮膚の高感度センサーから安国寺警部の意識に気色の悪い感触が伝わる。

(こいつら、やめてくれ〜〜)

 裸エプロン姿のガミアQ3の体の中で、安国寺警部は悲痛な叫び声を上げていた。

 と、その時

 ガチャン!!

 庭のほうから何かが壊れる大きな音が宴会場に飛び込んでくる。

「何事だい?」
「女将、出入りですぜ」
「出入りだって?」
「へえ、金髪美人が二人。やつらめっぽう強くで、あっしら手が出ねえんでやす」
「金髪美人って、こんな子かい?」
「あん」

 女将がガミアQ3のむき出しのお尻をさわさわとなでる。それにピクンと顎を上げて反応するガミアQ3の頬は、心なしかピンクに染まっていた。

(ひい、もうやめてくれえ、段々変な気持ちになって……)

「あ、こいつでやす、でもどうしてここにいるんで?」

 その時安国寺警部が宴会場に駆け込んできた。

「ガミアちゃ〜ん、奴らが来たぜ。功児を助けに行こうか」
「し、承知した」

 裸エプロンのまま駆け出すガミアQ3。




 さて、庭で何が起きていたのか。時間を少しだけ遡る。
 功児と弟の四郎が宿の露天風呂に入っている最中、突如現れたガミアQ1とQ2に襲われたのだ。
 庭の生垣を金髪で切り裂いて露天風呂の中に侵入した2体の黒いマント姿の美しき殺人アンドロイドは、湯船の中に功児の姿を見つけて氷のような微笑を浮かべる。

「こ、こいつら!」
「兄ちゃん!」
「くっそ〜、レイガンが無い」

 そう、露天風呂の中、裸の功児には戦おうにもその術がない。股間を木製の湯桶で隠し、四郎をかばってじりじりと後退するしかなかった。
 功児の体を切り刻もうとガミアたちの金髪が空中を舞う。だが紙一重で、それをかわし続ける功児。
 しかし生身の人間である功児の表情に、段々と疲労の色が浮かぶ。
 そして二人は遂に露天風呂の片隅に追い詰められてしまった。

「くっそ〜、これまでか。はぁはぁはぁ」
「フフフ、カブトコウジ、シネ!」

 まさに絶体絶命!
 だがその時、騒ぎを聞いた安国寺とガミアQ3が駆けつけたのだ。
 功児を庇うように己の金髪でガミアQ1とQ2の金髪を払いのけるガミアQ3。

「待ちなさい!」

 ガミアQ3の声に振り返るガミアQ1とQ2。

「ガミアちゃ〜ん、頼んだよ〜」

 安国寺の言葉に、こくりと頷いたガミアQ3はQ1、Q2と功児の間に飛び込んだ。

「Q3、ドウシタノダ」
「功児は俺が守る」

 功児の目の前に、割って入ったガミアQ3のむき出しのお尻が迫る。

「え、え〜と」

 間近にガミアの生尻を見せ付けられた功児の顔が真っ赤になる。

「Q3、ナニヲイッテイル、カブトコウジヲヤルノダ」
「うるさい!」

 黒マント姿の2体のガミアと裸エプロン姿のガミアがじっと動かずにらみ合う。

「お前ら、今のうちに逃げるんだ!」
「あ、ありがとう」

 ガミアQ3に庇われ、窮地を脱した功児と四郎は安国寺警部と合流する。

「カブトコウジヲタスケルダト? クルッタカ」
「ふん、狂っちゃいないぜ。それよっか、お前ら覚悟するんだな」

 睨み合うガミアQ3とQ1&Q2。
 そこに女将と宿の従業員も駆けつける。

「おいおい、裸エプロンの金髪のねえちゃん、男言葉だぜ」
「へえ、変な感じでやんすね」
「ふ〜ん、なるほどね。ねえ、安国寺の旦那、どう思う?」
「さ、さあてね。俺のガミアちゃ〜ん、がんばって〜」

 声援で女将の問いを誤魔化す安国寺警部。それに答えるかのようにガミアQ3の金髪がひゅっと動く。途端にガミアQ2の黒いマントが切り裂かれた。
 ガミアQ2はマントの下に何も着ていなかった。

 すっぽんぽんだ。

「うわっ!」

 思わず両手で四郎の目を押さえる功児。
 不思議なことに、手を離しても股間の湯桶は何かに引っかかって落ちることはなかった。
 まあ不思議でも何でもないのだが、木製の桶を支えるその力は大したものである。



「に、にいちゃん、どうしたんだ?」
「四郎、見るんじゃない!」
「ぷっ、器用だな、蕪戸功児。さすが若いねえ」

 女将が笑いながら言う。

「う、うるせえ、あんなもの見せ付けられたらしょうがないだろう」
「そんなことより、ほら受け取りな」

 女将が袖から出したレイガンを功児に放る。

「おお! ありがてえ」

 放られたレイガンにガミアQ2も気がつき、功児に向かって空中をくるくると飛ぶレイガンをその金髪で捕えようとする。
 だがスピードに勝るガミアQ3の金髪は、Q2がガミアQ3から目を離した瞬間その体をバラバラに寸断していた。

「Q2ガ! クソッ」

 金髪を空中のレイガンに向けて振るガミアQ1。だがQ3は金髪をぶつけてそれを阻止する。
 レイガンは功児にキャッチされた。

「よし、こいつさえ有れば」

 レイガンを手に持ち安全装置を外す功児。

「カブトコウジ、シネ!」

 ガミアQ1の金髪が空中で鞭のようにしなり、再び功児を襲う。
 だが功児の構えたレイガンから発せられた光の束がその額を捉える。

「ギャアアア、モウシワケアリマセンDr.HELL。グガガ……」

 その言葉を最後に完全に動きを停止するQ1。

「とどめだ!」

 ガミアQ3の振るった金髪が宙を舞う。
 そして棒立ちのQ1の体を、修復できないよう真っ二つに切断してしまった。

「やったな」
「ガミアちゃ〜ん、お見事!」
「こりゃあいい戦力になりそうだねぇ」
「ああ、これからもよろしくな、ガミアQ3」
「え? あ、ああ」

 握手の手を伸ばす功児と握手するガミアQ3。
 エプロン1枚でかろうじて隠されたその肢体はあくまで美しく、その顔はどこまでもクールだった。だが……

(俺はいつになったら元に戻れるんだ〜)



 露天風呂から熱海の町並みを見下ろす4人と1体。
 そう、戦いはまだ始まったばかりなのだ。






(終わり)




*このお話は「真マジンガー衝撃Z編」のガミア登場話(第10話、第21話等)をヒントに書いた妄想です。◎◎◎さん、素晴らしい挿絵を制作していただき、ありがとうございました!







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