或る家族

作:toshi9



(1)

「いってきま〜す」

 そう言って、あたしは勢いよく家を飛び出した。
 あたしの名前は有坂こずえ、小学六年生。
 学校までの道路を元気一杯駆けるあたしに、商店のおばさんが声をかける。

「こずえちゃん、いつも元気だね」
「うん、おばさんもいつもきれいだね」
「まあ」

 おばさんに走りながら答えると、おばさんがにっこりと笑う。

「慌てると危ないからね、車に気をつけるんだよ」
「は〜い」

 おばさんの声を背中に走る走る。
 そして四つ角で友達と合流した。
 同じクラスの親友の有香ちゃんだ。

「こずえちゃん、おはよ〜」
「あ、有香ちゃん、おはよ〜」
「今日から水泳だね、あたし泳げないから憂鬱だなー」
「そお? あたしはとっても楽しみ。水泳得意だし、それに」
「それに?」
「え? ううん、何でもない。授業に遅れるから急ご」
「うん」

 優子先生の水着姿を見るのが楽しみだなんて言えないよね。
 あたしは内心でぺろりと舌を出しながら美紀ちゃんと一緒に校門を走り抜けた。
 今日もがんばろ〜っと。

 ……ふっ




(2)

 あたしの名前は有坂さつき、35歳。専業主婦をしています。
 娘も主人もお寝坊さん、いつまでも起きてこないから、毎朝ほんとに大変。
 あたしの1日は、お掃除、お洗濯、お買い物、夕飯の支度と瞬く間に過ぎてしまうんです。
 ほんとに主婦って大変よ。 
 でもあたしには、成長が楽しみな娘がいる。そして大好きな夫がいる。
 体がうずく時は、夜、おねだりするの。

「あなた」

 主人の目を惹く悩ましい赤いショーツに履き替え、そしてピンクのネグリジェに着替える。
 鏡に映る自分の姿を確かめると、見ているあたしのほうがどきどきしてくる。
「素敵よさつき、これだったら彼も「かわいいよ」って言ってくれるわ」
 ブラジャーを外した胸にネグリジェの上からそっと触れると、乳首が敏感になっているのがわかる。
 主人に抱かれる自分の姿を想像して内股がきゅっと締まる。
 そう、今からあたしの中に主人のモノが入ってくるんだ。
 あたしのココが主人のモノにかき回される、奥まで突かれるのって気持ちいいの。
 はぁはぁと興奮が高まる。
 早く主人のモノを受け入れたい。抱かれたい。
 あたしは主人の寝ているベッドにもぐりこむと横からトランクスの中に手を差し込み、主人のモノをそっと握った。

「あなた、寝てないで今夜は、ねえ、して」

 だが主人はす〜す〜と寝息を立てたまま、一向に起きる気配がない。

「駄目なの? それじゃ」

 あたしは、最初はゆっくりと、そして少しずつ早く握ったモノをしごく。
 すると主人は眠ったままなのに、そこだけはみるみる大きく、そして硬くなっていく。

「うふふ、すっかり大きくなったわね」

 ソコはビンビンと元気になっているのに、全然起きる気配のない主人のモノをしごき続けながら、あたしはもう片方の手で自分の胸先をなでる。
 乳首をつまんで、しごき出す。

「あふっ」

 段々乳首がこりっと硬くなり、つんと盛り上がっていく。

「あ、ああん、いい、気持ちいい」

 乳首を刺激するほどに、びりびりした快感がそこから全身に広がっていく。
 じゅんと湿ったものが奥から湧き出してくる感覚を下半身に感じる。
 乳首を弄んだ指を胸から離すと、今度は下に滑らせる。
 ネグリジェの裾を掻き分けて、ショーツの中に指を潜り込ませる。
 指を繁みの中にかき入れるともうすっかり濡れていた。
 そう、主人とのエッチを想像するだけで、あたしは興奮してしまう。

「はふっ、あ、ああ、いい、く、くふぅ、もう駄目、我慢できない」

 眠ったままの主人を仰向けにしてトランクスをひき下ろすと、主人のペニスがピンと天井に向かって聳え立つ。

「今更だけど、ほんとに大っきい」

 早く入れたい。
 我慢できなくなったあたしは、主人の上にまたがると、硬くなってビンビンと動いているそれをあたしの股間に宛がい、ゆっくりと腰を下ろした。

「は、はひっ!」

 にゅるんと中に入ってくるその感覚に、あたしは全身に鳥肌が立つような興奮を感じた。

「ああ、入ってくる、あたしの中に主人のモノが」

 あたしはそのままゆっくりと腰を上下に動かした。
 あたしの中の一番奥を、ペニスの先がつんつんと突っついているのがわかる。
 その度にビクンビクンと快感が全身を駆け巡る。

「あ、あん、あん、いい、気持ちいい気持ちいい〜」

 もうたまらない。
 あたしは主人にむしゃぶりつくように抱きついた。
 あたしの胸が主人の胸板に押しつぶされる。

「ああん、あなた」

 主人の腕を手にとって、あたしの胸を揉ませる。
 そして再び腰を動かす。

「ああ、いい、あなた、あたし気持ちいいの、ああん、駄目、もうだめぇ」

 腰を繰り返し繰り返し動かす。
 もう何も考えられない。

「ああん、いいの、いく、イク、いっちゃう〜〜〜」

 主人のペニスがあたしの中で急速にその膨らみを増すのを感じる。
 そして、あたしが絶頂を迎えようとしたその時、主人のペニスから勢い良く精液があたしの中に放出されるのを感じた。

「あひっ! ああああああんん」

 そしてその瞬間、あたしもイッてしまった。
 愛する主人の精液を受け入れる瞬間の、この感覚ってたまらない。
 ほんとにいい気持ち。

 あたしは主人と体を重なるように、その上にもたれ込んだ。

「はぁはぁはぁ、こずえに弟か妹ができちゃうかな。でもとっても気持ちよかった。
 うふふ、これだから主婦ってやめられないわ。あなた、また楽しみましょうね」

 あたしはそう言うと、寝たまま全く起きようとしない主人の頬をそっと撫でた。


 ……ふっ





(3)

 俺の名前は有坂洋一、33歳。ごく普通のサラリーマンだ。いや、だったというべきだろう。
 食品会社に勤める俺の生活は、ある日を境にがらりと変わってしまったのだ。

 それは俺と妻と娘の3人でドライブに出かけた時のことだ。
 高速道路で居眠り運転の大型トラックに追突され、俺たち家族は車ごと高架から転落してしまった。
 転落した瞬間のことを、俺は覚えちゃいない。
 目が覚めると、そこは病院のベッドの中だった。
 ぼやけていた焦点が合ってくると、俺のことを若い女性看護師が嬉しそうに覗き込んでいた。

「先生、気がついたようです!」
「うむ。あの事故でかすり傷ひとつだなんて奇跡だ」

 隣に立つ白衣の男に女性看護師が声をかけている。白衣の男も嬉しそうに俺を見て頷いていた。
 白衣の男、即ちその病院の医者によると、俺たち3人は大事故にもかかわらずかすり傷を負っただけで救出されたが、意識は事故以来1週間の間ずっと戻らず、3人とも意識不明のままだったらしいのだ。
 体は無事でも脳が損傷した可能性もあったわけだが、検査の結果、脳にも異常のないことがわかった。

「ただしだ」
「はあ」
「脳の一部が異常に活性化しているように見える」

 医師は説明しながらf-MRIとやらで撮られた脳Iの断層画像を俺に見せる。何でも活性化している箇所の色が変わるらしいが、確かに脳画像の一部が赤く色づいているのがわかる。

「単に炎症を起こして発熱しているのかもしれん。いずれにしてもし、もうしばらく安静にして様子を見ることだ」
「はあ、異常じゃないんですね?」
「原因が見当たらんし、発熱は一時的なものだろう。まあ他の検査データーに異常は認められておらんし、事故による異常ではなかろう」

 病室に戻ると、俺のベッドの隣のベッドに妻と娘が眠っている。
 そう、目覚めたのは俺だけで、娘も妻も目覚めることなく、未だにこんこんと眠り続けているのだ。

「さつき、こずえ、痛つっ!」

 二人に声をかけるが、二人から返事は無い。そして俺の頭に鈍い痛みが走る。

「有坂さん、脳の炎症が消えるまで無理しないでくださいね」
「え? あ、ああ」

 入ってきた看護師が俺を気遣うように声をかける。
 俺はこめかみを押さえながら、自分のベッドに腰を下ろして返事するしかなかった。

 それから1週間、脳の炎症が完全に消えると、俺は病院に家族全員の退院を申し出た。
 医者は心配顔ではあったが、俺も眠り続けている妻と娘も検査の結果異常が無かったこと、そして病院のベッド数が不足しているという病院側の事情も手伝って、ほどなく許可が下りた。

 ぶつけられたトラックの運送会社から莫大な慰謝料をもらったこともあり、退院と同時に眠り続ける妻と娘を窮屈な病院から自宅に移した俺は、看護と自分自身の療養の為、会社を長期休職することにした。
 眠ったままの二人を一人で世話するのは大変だが、いつか目覚めることを信じて二人の看護を続けたのだ。

 ところがある日の朝、俺が目覚めると、とんでもないことが起きていた。
 おれの体が娘のこずえになっていたのだ。
 目覚めた時、俺の体は華奢な女児の体になっていた。
 胸は思春期の少女らしくかわいらしく膨らみ、手は俺の手の半分の大きさもない。立ち上がると背が低くなったために天井が遠く見える。そして鏡の前に立つと、そこには長い髪のパジャマ姿のこずえが映っていた。
 慌てて自分の部屋に入ると、ベッドには俺が眠っていた。
 つまり何故だかわからないが、寝ている間に俺の意識が娘の体に転移してしまったとしか思えなかった。

「どうしてなのよ」

 声を出して、はっと口を押さえる。

「え? 何? このしゃべり方ってこずえのままじゃないの」

 頭の中で思っていることを口に出すと、何故か言葉がこずえの口調になってしまう。しかも記憶をたどってみても、思い出すのはこずえの記憶ばかりだ。
 どうやら意識がこずえの体に移っている間、俺はこずえとしてしか振舞えないようなのだ。

「何よ、何なのよこれって」

 突然のことにパニックに陥った俺は、頭を抱えてその場にしゃがみ込むしかなかった。
 だが事態はそれだけでは終らなかった。
 次の日、元の体に戻ってほっとしたのもつかの間、その翌日には俺の意識は今度は妻の体に移ってしまっていた。そしてその次の日には再び娘の体に転移したのだ。
 どうやら眠っている間に、俺の意識は俺と妻と娘の体をランダムに移動してしまうようになったらしい。

「信じられない、何でこんなことになってしまったのよ」

 再び妻の体で目覚めた俺は、眠っている俺の体と娘の体を前にして、妻のしゃべり方で叫ぶしかなかった。
 だが、しばらくすると、この現象がそれほど不自由ではないということに気がついた。それどころか、段々と楽しいと思えるようになってきたのだ。

 こずえでいる時は、復学した小学校に小学生の女の子として通学する。
 算数や国語、或いは音楽や体育の授業をこずえとして受け、給食を食べる。子供同士、わいわいとおしゃべりをし、そして遊ぶ。屈託の無い毎日は、サラリーマンとしての厳しい毎日を送っていた頃に比べると天国のようだ。
 担任は小原優子という、まだ大学生と見間違うような若い、そしてきれいな女性教師だった。
 教室でその授業を受けることも楽しいが、体育がまたいい。しかも先日から水泳が始まって、間近に優子先生の競泳水着姿を拝むことができるのだ。
 優子先生だけではない。クラスには小学生とは言え発育のいい同級生が何人もいる。体育の時間は女の子と一緒に同性として着替えたり、戯れたりするのだ。羞恥心も無く胸をさらす同級生たちを前に、「俺はロリコンじゃないぞ」と心の中で叫びつつも、どきどきしてしまった。

 そして妻でいる時は、女盛りの人妻として振舞うのだ。
 家事は妻になった時に一気に片付ける。家事をやりたくてたまらなくなるし、していて楽しいのだ。
 ふんふんと鼻歌を歌いながら掃除、洗濯、お買い物と一気に片付ける。

 そして夜は、恋しさに体がほてってくると、俺のことを思いながら胸を揉み、指を下にすべらす。そう、さつきとして自慰に走るのだ。
 それは多分、妻の体になっている時には妻の記憶が俺の物になっているからなのだろう。夫を愛して止まない、さつきの気持ちも俺の物となっている。
 オナニーをして女体の快感を体験する。心の中の一部で妻の体を弄ぶことに対する罪悪感もあったが、今は俺自身が有坂さつきだと思うと、当たり前のように体がうずいてくる。そして夫である俺に抱かれることをつい想像してしまう。
 そして自慰だけでは我慢できなくなった時には、ベッドに眠る俺の体にほてった体を重ねるのだ。
 眠る俺のモノを挿入し、そして歓喜の声を漏らす。
 俺は幸せだった。




 この一人三役の生活は、いつまで続くのだろう。
 妻と娘はいつ目覚めるのだろう。
 不安でたまらないが、一方で今の生活にまんざらでもない俺がいた。
 そして、この体験を小説に綴ってみようと、俺は俺の体に戻った時には、パソコンを前にキーボードを叩いている。
 今日も俺はパソコンを起動するとワードを開いた。



「或る家族」

作:有坂洋一


「いってきま〜す……」





(了)





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