これまでのあらすじ
 会社の仲間と一緒に東北の温泉にスキーに来た十萬田新一は、土産に買ったまんじゅうを食べたことから、女の子に、さらにはまんじゅうになってしまうというとんでもない体験をすることになってしまう。そして失踪してしまった新一の消息を追って、妹の初音もその温泉を訪れる。けれども不思議なマントの力によって、新一は初音の姿で復活し、今度は初音がマントと化してしまう。その後初音は温泉の伝説の八仙人の子孫であるアイニス、佐登静、吉兎守の活躍によって元の体に戻ることができた。しかし、新一は元の体に戻ることができず、今度は小学生の女の子の体になってしまい、結局そのまま温泉に留まることになってしまったのだった。

(これまでの話を詳しくお読みになりたい方は、下記の作品をお読み下さい)

 第1話「温泉まんじゅうこわい」・・・夢幻館(まんじゅう企画に投稿)or TS解体新書
 第2話「赤いマント」       ・・・TS研究所(まんと企画に投稿)or TS解体新書
 第3話「青いマント」       ・・・TS研究所(まんと企画に投稿)or TS解体新書

 





「・・・というわけだ」

「成る程、じゃあ静のところにいる女の子をここに連れて来れば良いんだな」

「そういうことだ。その後で俺が・・・ふっふっふっ」

「そういうことかい」

「どうだい、できるかな」

「わけないさ。これを使う」

「・・・それは、アイニスの・・か。お前いつの間に」

「これを被れば誰が見ても俺をアイニスだと思うさ。油断させて連れてくる」

「この好き者め」

「お前に言われたくないな」

「ふふふ」

「はっはっはっ」 






十萬田兄妹と温泉の八仙人

第4話「
初音再び」

作:toshi9






 あれから一ヶ月が過ぎた。
 初音は佐登静が用意した新一のカルテを持って新一の会社に行くと、事情を新一の上司に説明した。結果新一は半年の休職扱いとなった。勿論カルテには新一が小学生の女の子の体になってしまったなどとは書かれてあるはずもなく、現地で重傷のため長期入院ということになっていた。

 実際のところは、温泉に留まった新一はアイニスの夢幻館に居候し、昼は佐登と共に元に戻るための修行の毎日を送っていた。

 初音は毎週でも兄に会いに行きたくて堪らなかった。東京に戻ってからも毎日のように夢幻館に電話したが、その度に電話の向こうの新一に押し止められた。

「どうして、兄さん。あたし、こんなに会いたいのに」

「まあ待て、今の俺は修行している身だ。それにまだお世話になり始めていくらも経っていないのにアイニスさんや佐登さんに迷惑だろう。ゴールデンウィークになったら、ゆっくり来たらいいじゃないか」

 携帯電話から聞こえる声はかわいい女の子の声だが、口調はまぎれもなく新一のそれだ。

「・・・わかった。じゃあゴールデンウィークになったら必ず行くよ。兄さん待っててね」

「ああ、俺もしっかり修行しているさ。お前が来るまでに元に戻れているといいんだがな」




 そして初音が待ちわびたゴールデンウィークになった。彼女は今「夢幻館」の前に立っている。

「ああ、やっと兄さんに会える」

 万感の想いを胸に、深呼吸して入り口の扉を開く。中に入ると丁度そこにアイニスがいた。

「ああ、アイニスさんお久しぶりです」

「どなたかしら? ご予約の方ですか?」

「え? あのう……初音ですけれど」

「初音さんと言われるんですか? 今日のお泊りですか?」

 何か話が噛み合わない。アイニスさんあたしのことを忘れたのだろうか。

「アイニスさん、兄さんは何処」

「兄さん? はて、私は一人娘ですけれど誰のことかしら」

「?????」

 にっこり微笑んで答えるアイニスに初音は二の句が告げなかった。

 どういうことなの。

 何かおかしい。

 そう感じながらも初音はアイニスに何と言っていいのかわからず、途方に暮れてしまった。

「すみません、勘違いだったようです。どうもおじゃましました」

「もし良ければ今晩お泊りになりませんか」

「ちょっとあたりをまわってきますので、それからまた考えます」

「そうですか、ではいつでもどうぞ」

 腑に落ちなかったものの、とにかく兄がいるはずの佐登さんの研究所に行って見よう。内心そう決めた初音だった。

 初音が玄関でアイニスに挨拶して夢幻館を出ようとすると、突然旅館の門の外から初音を呼ぶ声がした。

「初音さん、そいつはアイニスじゃない! ニセモノだ」

「あ! 吉兎さん」

「ちっ、余計なことを」

 初音が後を振り向くと、それまでとは一転妖しげな表情をしたアイニスが初音のほうに向かってまさに抱きかからんとしていた。

「アイニスさん!」

 偽アイニスは少し後ずさり、和服を一瞬で脱ぎ捨てた。和服の下には赤いレオタードとスパッツを着込んでおり、和服を脱いだ偽アイニスはそのしなやかな肢体を初音と吉兎の前に晒していた。

「俺の名は佐為啓介、また会おう」

 佐為啓介と名乗ったアイニスのニセモノはアイニスの顔で不敵に笑うと、夢幻館の塀に飛び上がり、そのまま塀の向こうに飛び去ってしまった。

「さい・・けーすけ・・それって」

「ああ、あれは男だ。アイニスに化けていたんだ」

「おとこ・・だってあの人アイニスさんに・・女性にしか見えませんでしたけど」

「あいつも八仙人の子孫のうちの一人なんだ。そういう技を使える」

「アイニスさんは?」

「多分静のところじゃないかな。あいつら、お前が此処に来ることを何かで知ったんだろう。それでアイニスがいないのを見計らって、彼女に化けてお前を捕まえようとしたんだな」

「私を? どうして? それに兄さんは無事なの?」

「まあ話は後だ。とにかく静のところに行こう」



 それから初音は吉兎に連れられて佐登の研究所に行った。以前「郷土史研究所」と聞いていたのだが、その研究所は古い民家を改造していて、一見普通の家と変わらない落ち着いた佇まいを見せていた。

「おい、静。初音さんを連れてきたよ」

「あら、初音さんお久しぶり」

「あ、アイニスさん、今度は本当にアイニスさんですよね。それに佐登さん、お久しぶりです」

「なに? その本当にって」

「佐為の野郎がアイニスに化けて夢幻館で初音さんを待ち構えていたんだ」

「まあ、なんてことを、私に化けるなんて」

「でも佐為くんが動いたっていうことは、初音さんがここに来たってことがあっちにばればれってことね」

「そうだな。でもあのアイニスのレオタード姿、色っぽかったなぁ」

「あいつ私の姿でそんな格好を・・・吉兎くん、あなたこんな時に不謹慎でしょう」

「・・すまん。つい・・な」

「ところで兄さんは何処に?」

「その事なんだけど、実はあいつらに拉致されてしまったの」

「ええ!」

 

 佐登がこれまでにこの温泉で起きた出来事を説明してくれた。それによると、八仙人の子孫を二つに分けた争いが起きているということらしい。

 あの時杜氏九郎丸が話していた「あのお方」というのは、佐登によると温泉一帯の鎮守神『喜生迦神』だということだ。『喜生迦神』は昔八仙人を率いてこの温泉の為に戦ったこともある。 しかしスキー場開発の折に無為に多くの動物が殺され、木々が倒され、あろうことかスキー場予定地のど真ん中にあった自身の神社まで別の場所に移されてしまった。今まで温泉を守ってきたこと、自分のしてきたことは何だったのか。その時『喜生迦神』はある答えを出した。それは街の人々に復讐すること。特に直接スキー場開発に関わった村の男どもを根絶やしにする。そのために最初に杜氏に宿ってまんじゅうを作らせ、また伝説のマントの在りかを彼に教えた。

 『喜生迦神』はその後も何回か杜氏に宿ると、八仙人の子孫達に自分の決意を語り、協力を呼びかけ、その決意に佐為と狭霧が賛同したらしい。その時丁度あのまんじゅう事件とマント事件が起きた。そのため、佐登、アイニス、吉兎の三人は新一と初音を助けたが、その後杜氏に宿った『喜生迦神』が佐登の元に訪れ、改めて3人の協力を求めたらしい。でも3人はマント事件のような『喜生迦神』のやり方に納得できず、結局『喜生迦神』と袂を分かつことになったということだ。

 八仙人の残る2人、鄭羅と指五はまだどちらのグループにもついていないらしい。



「・・・というわけなの」

「そうですか、そんなことが・・・でもどうして兄さんは拉致されてしまったんですか」

「拉致したのはどうもさっきアイニスに化けていた佐為くんらしいんだけれど・・」

 温泉にやってくる初音を夢幻館で迎えようと、アイニスが研究所に新一を迎えに来たらしいのだが、その後また研究所にやってきたアイニスからそんなこと全く知らないと言われ、これはもしや佐為の仕業じゃないかと考えたということだ。それで吉兎に電話して夢幻館に行ってもらったところ、丁度偽アイニスが初音を拉致しようとするところに出くわしたということらしい。

「何故新一さんがさらわれたのか、よくわからないのよ。でも、もしかしてあなたたち兄妹ってこの温泉に纏わる何か秘密があるんじゃないの」

「それは・・いえ私がこの温泉に来たのは、この間兄さんを探しに来たのが初めてですし、思い当たることはありません」

「そう、でも何か思いついたら些細なことでもかまわないから教えて頂戴」

「はい、わかりました」

「それで新一さんの行方なんだけれど」

「兄は何処に」

「この温泉街の中には何処を探してもいないのよ」

「そうなんですか」

「ただちょっと心当たりがあるんで、私の友達に調べてもらっているんだけどね」

「アイニスさんのお友達? やっぱり八仙人の子孫なんですか?」

「いいえ、彼女は違うんだけれど、若女将仲間とでも言ったらいいかしら。・・・あら来たみたい。何かわかったのかな」

「アイニスちゃん、わかりましたわよ」

「公恵ちゃん、ありがとう。それじゃやっぱり・・・」

「ええ、確かにあそこに。でもびっくりしましたわ。アイニスちゃんがあられもない格好で中に入って行くんですもの。思わず声をかけるところでしたわ。あれって佐為くんなんでしょう。すごいですわ」

「あいつ、いつまで・・・許せニャイなぁ」

「ほらほらアイニス、落ち着いて。耳が出てるわよ。それで公恵さん、新一さんの様子はどうなの」

「どうやら何かで眠らされているみたいですわね」

「そうか、どうするよ、静」

「お願い、兄さんを助けて」

「わかってるわよ、初音さん。このままにはさせないから。でも公恵さん、あっちには他に誰がいるの」

「アイニスちゃんの姿の佐為くんと狭霧さんの二人だけですわ。杜氏さんはいないみたいですわね」

「今なら何とかなるかもしれない。よし奪回に行きましょう」

「よっしゃ、行こうぜ」

「私も行きます」

「危険だから初音さんはここにいて頂戴」

「でも、あたし居ても立ってもいられないんです。お願いします。危険は覚悟の上です。一緒に行かせてください」

「うーん、何であいつらが新一さんを拉致したかその理由がわからないし、さっき初音さんも拉致されそうになったでしょう。あなたが行くのは危険すぎるのよ」

「お願い、佐登さん・・・」

「・ ・・ ・・・ わかったわ。でも私達の側を離れるんじゃないわよ」

「はい!」

「公恵ちゃん、どうもありがとう。助かったわ」

「そんな、水臭いですわよ。私とアイニスちゃんの仲でしょう♪」

「う! ま、まあね」

「じゃあみんな、行くわよ」

「よっしゃぁ、じゃあ行くか」

 佐登、アイニス、吉兎、初音の4人は研究所を出発した。途中で公恵と別れ、向かった先は・・・

「アイニスさん、兄は一体何処に」

「山の神社よ。新一さんは、その本殿の中に眠らされていたということね」

「それって、どういう・・」

「どうしてだかはわかりません。もしかしたら罠かもしれない。でも取り戻さなくっちゃね。ね! 初音さん」

「はい、ありがとうございます」

 そんなことを道すがら話しながら歩いていると、後から早足で歩いてきた拳法着の男が一行を呼び止めた。

「おい、何処に行く」

「あ! 六郎さん」

「あら、指五くん、久しぶり」

「お前最近見かけないと思ったけれど、何処に行ってたんだ」

「俺か・・俺はまだ修行中の身だ」

「お前も付き合わねぇか」

「何事だ」

「実は・・・」



「そうか。じゃあ俺も行こう。何かいやな予感がする」

「ありがとう。あなたが一緒だと心強いわ」

「あのう、この方は」

「あ、ごめんね、初音さんは初めてだね。紹介するわ、彼は指五六郎くん。八仙人の子孫の一人で拳法の達人なの」

「俺は達人じゃない・・まだまだ修行が足らん」

「十萬田初音です。お願いです、どうか兄を助けてください」

「ん、とにかく行ってみるさ」

 心なしか、六郎の頬がちょっと赤らんだようだ。その後では吉兎がふて腐れていた。



 1時間程山に向かって歩くと、移築されたという神社に着いた。その本殿の中を覗いてみると、白いブラウスに紺のスカートを穿いた新一が一人で力なく横たわっていた。

「他に誰もいないわねぇ」

「何か怪しくない。罠っていうのが見え見えのような気がするけど」

「うーん、でも新一さんはあそこにいるんだし、助けるしかないわよね。私が行くから、皆は変なことが起きないか周りを見張っていて頂戴」

「そういうことなら任せな。結界も張ってやろうか」

「いえ、却って気付かれる恐れがある。このまま行くわよ」

「佐登さん、お願いします」

 佐登は一人で倒れている新一に近付き、そしてその小さな体を抱き起こした。

「新一さん、新一さん」

「う、うーん」

「大丈夫、新一さん」

「え、あ、ああ」

「良かった。さあ背中に乗って。おぶってあげる」

「へへ、ありがとう」

 佐登さんの背中に背負われる新一。初音には心なしか背中に乗る時に新一がにやにやと笑っているように見えた。

「兄さん、無事で良かった」

「ひひひっ、まあな」

「兄さん? 何か変よ」

「ひゃっ、止めて、新一さん」

 佐登の背中に背負われた新一はその手を佐登の胸のほうにまわしたかと思うと、彼女の乳房を弄り始めた。

「兄さん、何やってるの!」

「へぇ〜、佐登の胸ってでかくなったなぁ。あんなにぺちゃぱいだったのに」

「何ですって! あなた本当に新一さんなの?」

 新一が今度は佐登の首を締め始めた。

「ぐ、ぐう」

「兄さん、止めて」

「へっへっへっ、死ねや」

「く、苦しい」

「あなた・・兄さんじゃない」

「いや俺はお前の兄さんさ、確かに十萬田新一だよ。さあ、初音ちゃん、こっちに来な」

「ち、違う」

「違うもんか、女の子になったこの小さな手、このかわいい顔、元男だなんて思えないよなぁ、あ、あん」

 新一は佐登の首にまわしていた両手を緩めて佐登の背中から降りると、今度は右手で自分の胸を撫で、左手をスカートの中に差し入れ股間を弄り始めた。

「こ、こほっ、こほっ」

「な、なにやってんのよぉ」

「あ・・あ・・あぁ・・ん、く・・くふぅ、へへ、女の子の体って、柔らかくって気持ち良いなぁ」

「あなた、まさか・・鄭羅くん。でもどうして」

「ばれちゃったかい、俺も『喜生迦神』に協力することにしたんだよ。だからお前らは俺の敵ってわけ。この新一の体に憑依して待ち構えていたんだよ」

「早く出て行くなさいよ」

「いやだね、俺は出て行かないよ。くふっ、は、はぁぁん、はぁはぁ、この体小さいのに感度良いよなぁ」

「止めてぇ、兄さんの体で変なことしないで」

「や、止めなさい」

 ようやく回復した佐登が神剣を鞘から抜き放つ。

「ほう、佐登、それをどうする。俺を斬るのかい」

「くっ!」

「よし、俺がやろう」

 そこに割って入ったのは、途中からついてきた指五六郎だった。

「おい、鄭羅、お前ちょっとやり過ぎだぞ」

「ふん、お前に説教される云われはないね」

 その時、指五はすっと拳法の構えを取った。

「俺のこの手が真っ赤に燃える」

「なに!」

「お前を倒せと輝き叫ぶ」

 指五が組んだ左手を新一に向かって突き出す。

「シャアァイニング・・フィングァァー」

 左手が光輝いたかと思うと、その光が新一の体を貫いた。

「ぐはっ!」

「見たか、我が秘術『輝指弾』の威力」

「兄さん!」

「大丈夫、ダメージを受けたのは憑依していた鄭羅だけさ。あいつはもう離れている」

「う、うーん・・・」

「兄さん、兄さん」

「こ、ここは、あれ・・・えっと、アイニスさんと初音を迎えに出掛けて、それから・・・あれ、初音・・」

「もう、兄さん大丈夫なの」

「え、ああ大丈夫・・って何かあったのかい」

「何って、大変だったんだから」

 初音は自分より小さな新一を思いっきり抱きしめた。

「おいおい、初音、苦しいよ。そう言えば、何か体の芯が熱いような・・これって」

「・・・新一さん、ひとまず帰りましょう」

「そうはさせんぞ」

「!」

「九郎丸おじさん」

「お、また現れたかい、九郎丸のおやじ」

「わしは杜氏ではない」

「まさか『喜生迦神』ですか」

「お前達、あくまでもわしに逆らうのか」

「お怒りはわかりますが、少しやり過ぎです。もっと他に方法が・・できることなら私たちも協力したいのですが、今のあなたのやり方にはついて行けません」

「そうか、では死ね」

 杜氏が佐登、アイニス、吉兎、指五に向かって手をかざす。その途端4人は苦しそうに喉を押さえ始めた。

「い、息が」

「く、くぅ」

「ううぅ」

「ちくしょう、結界張り損なったぜ」

 新一と初音だけは、その時何の苦しさも感じなかった。

「止めて!」

「止めろぉ!」

 二人して杜氏の両腕にしがみつく。すると杜氏ははっとしたようにきょろきょろし始めた。

「ありゃ、『喜生迦神』が」

「はぁはぁ、九郎丸おじさん、あなた・・・」

 佐登が神剣を杜氏に向かって構える。

「や、止めてくれ。わしじゃないぞ」

「何言ってるの、許さニャイ」

「俺のこの手が真っ赤に燃える」

「いや、それをやられてはかなわん。狭霧〜、助けてくれぃ」

「だらしないぞ、杜氏さん。あんたも八仙人の子孫だろう。自分で何とかしたらどうだい」
 
 天井から声がする。

「わし一人でこの4人相手は無理だ、佐登の嬢ちゃんだけでも手に余るのに」

「取り敢えず今日のところは退散しようぜ、ほれ!」

 天井からはらはらと2枚の紙が降ってきた。それらは床に落ちる前に人型になり、立体化していった。

 それらの人型はゆらりと立ち上がると、グラマラスな裸の女性の姿になっていた。顔が佐登とアイニスにそっくりだ。そして裸の佐登もどきとアイニスもどきは無表情に4人に迫ってきた。

「いやぁ、見ないで」

「何これ、狭霧のばかぁ」

「おお、これは! 」

 目がハートになる吉兎。

「さあ今のうちだぜ」

「すまん」

 4人がうろたえている間に杜氏は本殿の反対側の階段を降りていった。

「くそ! こいつら手ごたえがないぜ」

「駄目、触らないで」

「だって静よぉ、触らなきゃ倒せないだろう、うへへ」

「何処さわってるのよ。もういやだぁ」

「よし、もう一度やるか。吉兎、どけ」

「あいよ」

「俺のこの手が真っ赤に燃える」

「・・・・・・・・・・・」

「お前を倒せと輝き叫ぶ」

 指五が組んだ左手をゆっくりと向かってくる佐登もどきとアイニスもどきのほうに向かって突き出す。

「シャアァイニング・・フィングァァー」

 左手が光輝いたかと思うと、その光が裸の佐登もどきとアイニスもどきを貫いた。そしてその瞬間2体は塵になって消えてしまった。



「結局逃がしてしまったな」

「そうね、それに『喜生迦神』は新一さんと初音さんを拉致してどうしようとしたのかもわからず終いね」

「あいつら今度会ったら許さないニャ」

「アイニス、ほら耳が出てる」

「『喜生迦神』の目的ってほんと何だったんでしょうか」

「うーん、新一さんと初音さんには『喜生迦神』の力が効かなかったみたいだよな。その辺りと関係ありそうなんだが」

「私もそう思う。やっぱり二人には何か秘密があるんじゃないかしら」

「何はともあれ無事で何よりだニャ」

「アイニスさん、言葉まだ変ですよ」

「え? 興奮するとなかなか戻らないのよ。気にしないで、新一さん」

「は、はぁ」

「じゃあ研究所に戻りましょう。これからどうするか皆で考えなくっちゃ」

「そうだな」

「兄さんとまた一緒にいられるのね。うれしい♪」

「初音、お前抱きつくなって。苦しいんだから」

「はーい」

「まぁ、初音さんったら」

「「ははは」」

 一行の笑いはいつまでも山の間にこだましていた。




 さて、二派に分かれてしまった八仙人の子孫たち。これから争いは激しさを増すのであろうか。それとも『喜生迦神』の怒りを解いて収束するのか。また十萬田兄妹の秘密とは・・・


(取り敢えず了)

                                         2003年5月21日脱稿





後書き

 こうけいさん10万ヒットおめでとうございます。これからもサイトの運営と女珀館の経営がんばってください。
 さて、この作品はサイト10万ヒット記念連作として書いている「十萬田兄妹と温泉の八仙人」シリーズの4作目になります。単独作品としても楽しめ、サイトを越えて続けて読むと一層面白いという作品を目指しています。今回は八仙人の能力のお披露目話になりましたが、さて如何でしたでしょうか。まだ続きは何も考えていませんが、また次回をお楽しみに・・って次回は何処でお会いできますやら(笑)
 それではお読み頂きました皆様、どうもありがとうございました。

 toshi9より感謝の気持ちを込めて。




 
付録:八仙人の子孫(前回よりバージョンアップしています)

十萬田兄妹擁護派
 「佐登静」  :さとしずか。神剣の使い手。神剣を自在に呼び出し使いこなす。
 「愛爾e壬翔」:あいにすみか。通称アイニス。動物霊使いで自ら変身する。猫霊を好んで
          使う。
 「指五六郎」 :さしごろくろう。拳法の達人。得意技は「輝指弾」。
 「吉兎守」  :よしとまもる。結界の達人。その結界はいかなるチカンも寄せ付けない(笑)

『喜生迦神』派
 「杜氏九郎丸」:としくろうまる。神降ろし。『喜生迦神』を降ろし強力な術を使うように
          なった。
 「鄭羅志郎」 :ていらしろう。幽体離脱師。修行を積んで憑依師にレベルアップしたらしい。
 「佐為啓介」 :さいけいすけ。符術師。最近写真機を駆使する皮師にジョブチェンジした
          らしい。
 「狭霧達彦」 :さぎりたつひこ。式神使い。自ら描いた絵を式神として様々に使いこなす。


 ふーむ、こうして見ると武闘派と妖術派に分かれてしまったなぁ・・

そして八仙人ではありませんが、今回特別出演ということで(笑)
 「佐藤公恵」 :さとうきみえ。アイニスの幼馴染。温泉旅館の若女将同士でもある。

inserted by FC2 system