それは9月の新学期が始まる1日前のこと。 如月光雄は自分の中のハニィと、ある戦いのことを振り返っていた。 「今度の戦いはほんとに苦しかったよ。もう二度とあんな思いはごめんだ」 (すみませんでした先生。でもまだまだ『虎の爪』には手強い怪人がいますよ。 がんばってください) 「そうだな、この指輪は守らないといけないものな。それにしても……」 光雄はワイシャツ越しに、ふと自分の胸を撫でていた。 (どうしたんですか? 先生) 「いや、全くあの戦いは悪夢だったよ……」 戦え!スウィートハニィ 番外編「夢幻の狭間で」 作:toshi9 話は1週間前の登校日に遡る。その日光雄はクラスの女子生徒の一人、内田美咲の様子がおかしい事が気に掛かっていた。ホームルームの間じゅう、彼女はずっと俯き、そして時々肩をびくびくっと震わせていたのだ。両手は机の下に下ろしている。 肩の動きから何やらもぞもぞと机の下で手を動かしているのがわかる。 そして時々顔を上げると、その目にはうっすらと涙がたまり、その口は上気したような吐息を立てていた。 気になった光雄はホームルーム後、教室を出て行く彼女を廊下で呼び止めた。 「おい、内田、元気が無いみたいだったが、どこか体調でも悪いのか?」 「え? いえ、何でもありません」 振り返った内田美咲の目元はほんのりと桜色に染まっていた。ミニのプリーツスカートから伸びる太股には奇妙に色気が溢れている。 だが、光雄が次の言葉をかける前に、美咲はそそくさと駆けていってしまった。 (先生、あの娘……) 「どうしたハニィ」 (確かに何かおかしいですね。それに怪人の気配を感じる) 「え? でも彼女は紛れも無く内田本人だと思うぞ。何かを隠していたようではあるが」 (もう少し彼女のことを調べられませんか? 嫌な感じがする) 「そうか、でも俺相手じゃ何も話してくれそうもないな。よし」 うなずいた光雄は、職員トイレの個室に駆け込むと、指に嵌めている指輪を胸に当てて叫んだ。 『みつお・フラァッッシュ!』 光雄の体が光に包まれる。 ワイシャツもズボンも、その下にはいているトランクスも粉々に飛び散り、一瞬何も身につけない裸の状態になってしまう。 そして空気が再び光雄の周りにまとわり付き始め、光雄の姿は別のものへと変化し始めた。 身長が低くなると共に体のラインが優しくなる。肩のラインがどんどんと狭くなだらかになり、腰がぐぐぐっと絞れていく。胸とお尻が大きく張り出すと共に股間の一物は消え失せ、そこは縦のすじが入っただけの何も無いのっぺりしたものになった。そして胸に生まれたかわいらしい双丘とむっちりした下半身を白い滑らかな生地が包み込んでいく。きりっとした男らしい彼の顔は、かわいらしい少女の顔へと変貌していた。 輝きの中から現れたのは、南高校の制服を着た少女。それは光雄のクラスの女子生徒の一人、栗田宏美だった。 誰もいないことを確かめながら個室から出ると、鏡で己の姿を確かめる光雄。 「確か栗田は内田と仲が良かったはず。この姿だったら話してくれるんじゃないかな」 (安直ですけど、まずは当たって砕けろですね) 「ははは、砕けないようにがんばって聞いてみるさ」 栗田宏美の姿で、職員トイレを出た光雄は、内田美咲の後を追いかけた。 「みさき〜!」 「え? あら宏美」 「一緒に帰ろうよ」 「あなた、もう帰ったんじゃなかったの?」 「うん。図書室で調べ物してたんだ。で、出てきたら美咲がいるじゃない」 「そっか」 並んで歩きながらはなしかける宏美 「ねえ美咲」 「え?」 「あなた今日ちょっと変だったよ」 「え!?」 「ねえ、訳を聞かせて」 「そ、それは……」 「あたし、あなたの力になりたいの」 正面に回りこんで立ち止まった美咲の目をじっと見る宏美。 「心配してくれてありがとう、宏美。実は最近変な夢を見るようになっちゃって」 「変な夢?」 「夢の中に見たことの無い変な化け物が出てきて、あたしに、その、強要するの。 ……えっちなこととか。あたし眠るのが怖くて」 顔を俯かせる美咲。 (先生、やっぱり『虎の爪』の怪人の仕業です。彼女の中に弱い気配を感じる) 光雄の中で確信したように話すハニィ。 こくっとうなずく光雄。 「美咲、あたしで力になることなら何でも言って」 「宏美、ありがとう……それじゃあ今夜一緒に泊まってくれない? 今夜は両親が旅行で出かけちゃって一人なの。またあの化け物が夢の中に出てこないかと思うと、眠るのが怖いの。 もしあたしがうなされたら起こしてくれないかな」 「わかった」 「あ、でも宏美のご両親が心配するかな」 「大丈夫大丈夫。お母さんには美咲んちでパジャマパーティだってちゃんと言っとくから」 「うん。それじゃお言葉に甘えて。ありがとう宏美」 「どういたしまして」 こうして栗田宏美の姿に変身した光雄は、その夜、内田美咲の家に泊まることになった。 そしてその夜、二人が寝ているベッドの傍らに、象のような長い鼻と細長い尻尾を持った 毛むくじゃらの本物の化け物、いや「虎の爪」の怪人が現れたのだ。 「ふふふふ、今夜こそお前をわれのしもべにしてやる」 長い鼻を伸ばして、その鼻先を寝ている美咲の顔に近づける怪人。 「待ちなさい!」 「誰だ?」 美咲の傍らから起き上がって、睨みつける宏美。 「だ、誰だお前は」 パジャマ姿の栗田宏美、いや光雄はベッドから降りると、指に嵌めている指輪を胸に当てて叫んだ。 『みつお・フラァッッシュ!』 宏美の体が光に包まれる。かわいらしいその顔はきりっとした表情の顔に変わっていく。同時にショートカットだった髪先が伸びると共に赤く染まり、毛先が跳ね上がっていった。右手には細身のサーベルが握られている。 「ある時は高校教師、またある時は友だち思いの女子高生。しかしてその実体は、愛と正義の戦士『スウィートハニィ』」 「お前が噂のスウィートハニィか。だがなぜここにいる」 「『虎の爪』の陰謀なんかお見通しよ、このスウィートハニィが全てを打ち砕く!」 プラチナフルーレを抜いて剣先を怪人に向けるハニィ。 「われの名は『バクゥマン』。貴様に用はない」 「あなたに用がなくても、こっちには大有りよ。覚悟しなさい」 ここで解説しよう。 バクゥマンの目的は、『虎の爪』に従う人間を増やしていくことだ。 夜な夜な眠る人間の中に入り込んではその人間の夢を自由に操り、いつしかその人間の身も心も支配してしまうのだ。 言うまでもない事だが、『虎の爪』の怪人たちの中には、ハニィの指輪奪取の為に活動しているグループ以外にも様々な目的で活動しているグループが存在しているのだ。 ひゅっと剣を振ったハニィは、バクゥマンとの間を一気に詰めると、その体に向けて剣を袈裟懸けになぎ払う。 「そんな剣に殺られるものか。あばよ」 そう言うと同時にバクゥマンの体は、のみように小さくなっていく。そして眠る美咲の耳の中に入ってしまった。 「しまった!」 ぱちりと目を開ける美咲。そしてゆっくりとハニィに顔を向けた。 「ふふふ、どうだ、これで手を出せまい」 バクゥマンに体を支配されてしまった美咲は、抑揚の無い声で話す。 「くそう、卑怯な、美咲から出てきなさい」 「いやだね、さあ殺れるものなら殺ってみろ。さあさあ、さあさあ」 両腕を広げ、無表情にハニィに迫るパジャマ姿の美咲。ひるむハニィ。 「ふふふ、そうだ、この際お前もわれが支配してやろう」 「なに!?」 突然美咲は自分の胸を揉み始める。 「こことっても気持ちいいのよ。あなたもこの気持ちを味わってみたくない? ねえハニィ」 胸を揉みながらハニィににじり寄る美咲。 その怪しげな雰囲気にたじろいたハニィは、一歩二歩と後ろにさがる。 「そんなに怖がらないで、ほら、あたしが気持ちよくしてあげるから」 そう言って突然ハニィに飛び掛った美咲は、ハニィに抱きつくとその大きな胸を揉み始めた。 「はうっ」 今まで感じたことの無かった快感に、思わず顎をピクンと上げて、悶えるハニィ。 「うふふ、気持ち良さそう。そうよね。だってこんなに大きいんだもん」 ハニィの胸をもみ続ける美咲。その手の動きに合わせて、バトルスーツ越しにハニィの胸がくにゅくにゅと変形する。 「やめろ、やめて……」 「やめてもいいけど、それじゃこっちのほうはどうかしら」 美咲はハニィの胸を揉みしだいていた手を、今度は股間に移してまさぐり始める。 「あ、あふっ、い、いや、止めて、お願い目を覚まして、美咲」 「ふふふ、や・め・な・い」 美咲の指は、ハニィの股間をまさぐり続ける。唇をかみ締め堪えるハニィ。その頬が徐々にピンク色に染まっていく。 「やっぱりここも気持ちいいよね。でもほら、もっともっと感じちゃいなさい」 ハニィの下半身をぴっちりと覆うバトルスーツは、見た目にはわからないもののその股間がうっすらと濡れ始めていた。 「そんな……こと……だめ……やめ……あん♪」 首を振って、これまで体験したことのない快感に耐えるハニィ。 「ふふふ、チャンスだな、シャドウマンが苦戦していると聞いていたが、なんと他愛の無い。指輪はわれからシスターに献上してやるとしよう」 美咲の耳から飛び出したバクゥマンは、今度は悶え続けるハニィの耳の中に飛び込んでしまった。 ばったりとその場に倒れるハニィと美咲。 そしてハニィに変身していた光雄を悪夢が襲う……。 光雄とハニィは、いつのまにか二人で寂しい路地の真ん中に立っていた。 周囲には誰もいない。 「こ、ここは?」 「おかしいですね、さっきまで美咲さんの部屋の中に……そう言えば美咲さんは?」 「そうだな、どこに行ったんだ。ん? え?」 「どうしました? 先生」 「ハ、ハニィ、お前……」 「え? あっ!」 お互いの姿を見て驚く二人。 「どういうことなんだ、俺とハニィが別々に?」 「おかしいです。こんな事って、ありえない」 「ほう、ハニィの中に男もいるとは、これは面白い」 突然、二人の前にバクゥマンが現れる。 「き、きさま、ここはどこだ」 「ここか? ここはお前たちの夢の中だよ。男、ハニィの中にいるお前は誰だ」 「俺は如月光雄だ」 「如月光雄? 知らんな。だがお前もわれのしもべにしてやる」 光雄に向かって距離を詰めるバクゥマン。だがその間にプラチナフルーレを抜いたハニィが割って入る。 「先生に近寄らないで。お前の相手は私よ」 ぐっと剣を突き出すハニィ。だが、剣先は怪人の体に触れることは無かった。 「ふむ、おかしい、お前は本体じゃないな。だがハニィの本体があの男の筈はない。 わからん、どういうことだ」 「お前なんかに説明する言葉はない。覚悟!」 次々と剣を繰り出すハニィ。だが間合いは見切られていた。 バクゥマンは巧にその剣を避ける。 「邪魔だ。静かにしていろ」 その声と共に、空から突然透明な筒形の檻が下りてくると、ハニィを中に閉じ込めてしまった。 どんどんと檻を叩くハニィ。だがびくともしない。 「しばらくそのままじっとしているんだな。さて如月光雄と言ったな。もしも貴様が本体だとしたら……ふむ、こんな趣向はどうだ?」 バクゥマンの声と共に、光雄の姿はハニィそっくりの姿に変わってしまった。着ていた服も教師らしいワイシャツにスラックスから全く違うものに変わってしまう。黒いスカート、白いパフスリーブのブラウス、そしてスカートに巻いた白いエプロン。頭には白いカチューシャ。首には鎖のついた首輪がはめられている。 「ふふふ……はははは、どうだその衣装は。如月光雄と言ったな。なかなかかわいいぞ」 それはメイドの衣装だった。首輪は絶対服従の証しだろうか。 「今からわれがお前のご主人様だ。さあ、われに奉仕するのだ」 「だ、誰がお前なんかに」 身構える光雄。 だが、バクゥマンは勝ち誇ったように笑う。 「くははは。夢の中ではわれの力は絶対だ。われに逆らえるかな? さあ、ひざまずけ。 われをご主人様と呼ぶんだ」 そう言って光雄に向けて指差すバクゥマン。 その言葉と同時に、メイド姿のハニィになった光雄は、がくっと膝をつく。 「な、なんだ、体が勝手に……言う事をきかない」 「さあ、われの前にひざまずけ、そしてこの靴を舐めろ」 「かしこまりました…ご、ご主人様……だめだ、口が勝手にしゃべって……こんなの…違う」 「ふははは、いい様だな」 バクゥマンはひざまずいて靴に向かって舌を伸ばそうとする光雄の後ろに回り込むと、両脇からその大きな胸をむんずとわしづかみに掴む。 「いひやっ!」 「どうだ、気持ちいいだろう。しかも夢の中だ、快感はいくらでも調節できるぞ。もっと敏感に してやろうか」 「や、やめ……いひぃ」 胸をひたすら揉まれ続ける光雄。その頬が赤く染まっていく。息がはぁはぁと荒くなっていく。 「快感に溺れてわれのものになれ、いや、お前はもうわれのしもべなのだ」 「ち、ちがう、俺は……こんなことに……負けるものか」 「しぶとい奴め。ではこれでどうだ」 バクゥマンがパチリと指を鳴らすと、突然場面が変わる。 気がつくと、光雄は酒場のような場所に立っていた。 着ているのはいつもの赤い戦闘服……ではない。それとは少し様子が違っていた。 透明な肩紐と胸の下半分だけを包むようなカップで強調された豊満な胸、股に食い込む赤いレザー生地のハイレッグレオタード、両脚を包み込んだ網タイツ、両腕にはカフス、そして頭に二本の長い耳のような飾りのついたカチューシャ、肉付きのいいお尻の上につけられた丸く白い尻尾に赤いピンヒール。 それはバニーガールの衣装だった。 いつも間にか右手にウィスキーグラスが乗せられた銀のトレイを持っている。 「持ってこい。そして、われに酌をするのだ」 「いらっしゃいませ、ご主人さま。お待ちして……いや違う違う、なんだこの恰好は」 頭の上の耳飾りに左手を伸ばし、唖然とする光雄。 「ははは、スウィ−トハニィならぬスイートバニーだな、どうだその姿でわれのしもべにならぬか」 「い、いやだ」 「ふむ、ではお仕置きだ、ウサギ跳び100回、あ、ほれ、ほれ」 その掛け声とともにトレイを放り出した光雄は、ソファーに座るバクゥマンの目の前で両手を耳元に添えてうさぎの耳のようにかざすと、ウサギ跳びを始めた。ソファーの周りを50回、70回、80回、それは延々と続く。だがやがて膝を落とし、両手を床についてへたり込んでしまう。 「はぁ、はぁ」 「どうしたどうした、続けろ、両手をもっと上げて、ほれ、ピョン、ピョン」 「ピョン、ピョン」 再び両手を耳のようにかざすと、勝手に口が言い始める。 汗だくになりながらバニースーツでうさぎ跳びを続ける光雄。だが完全に力を使い果たすと両手をついて四つん這いになってしまった。 「汗びっしょりだな、どうだ、我に従うか?」 「い、いやだ」 「ふむ、ではこうだ」 うつ伏せに横たわる光雄のお尻の間から股間に長い尻尾を伸ばしてうねうねと動かすバクゥマン。 その刺激と奇妙な快感に苛まれ、そして光雄は気を失った。 気がつくと、光雄は両手両脚を縛られていた。そしてその豊満な胸と腰を覆うようにスクール水着を着せられている。勿論体はハニィの姿のままである。 「な、なんだ、この格好は」 「ふふふ、さあご主人様と言うのだ。おねだりをしてみろ」 「ご主人様、あたしをもっと苛んで……くっ、また口が勝手に」 「よしよし、良く言えたな。さあご褒美だ」 バクゥマンはそう言って水着を着たハニィの姿になっている光雄を鞭状の尻尾で叩く。 「あうっ!」 「どうだ気持ちいいか」 「はい、とっても気持ちいい……違う、痛い、やめろ」 「ふははは、もっともっと気持ちよくしてあげるぞ。そして快感の中で自我など全て無くしてしまえ」 「いひぃ、いやだ、負けるものか……」 「ふん、いつまで耐えられるかな、これならどうかな」 またまた場面が変わる。 今度は、光雄はウェディングドレスのような純白のきらびやかなドレスを着せられ、何者かにお姫様だっこさせられていた。 「何だこの服。今度はなんだ!」 「ふふふふ、待っていろ、お前の処女は俺が今すぐに奪ってやるからな」 「え? なに!?」 光雄をお姫様だっこしていたのは、逞しい筋肉を晒した上半身裸になった光雄だった。 そして光雄はやさしくベッドに降ろされる。 「お前自身のモノで今からお前を貫いてやる。たっぷりと味わうがいい。悶えるがいい。そして何もかも忘れてしまうのだ。自分が何者だったかも全てだ」 ウェディングドレス姿のハニィになった光雄は、身動きできないままベッドに寝かされ、その上にもう一人の光雄が覆いかぶさってくる。 「さあ、われに身も心も征服されるのだ」 ウェディングドレスを巧に脱がされ、光沢のある真っ白なシルクの下着姿になる光雄。いや、その下着さえも全て脱がされてしまう。そしてその眼前に自分の顔が迫ってくる。 「や、やめろぉ!」 唇を塞がれたまま、下腹部にぬるりと押し込められる異物感を感じ、光雄は意識を失った。 : : 「やめろ、やめろ! もうたくさんだ」 「ふふふ、お前はもうわれの従順なしもべだ。さあ、ご主人様と呼ぶのだ。心の底からわれに従え」 意識が戻る度に、光雄はハニィの姿で様々なシチュエーションでバクゥマンに弄ばれ続けた。 そして少しずつ従順になるよう調教させられていったのだ。 それを檻の中で見せつけられ、檻を叩き続けたもう一人のハニィも、いつしか檻の中で膝を落として泣き崩れていた。 「さあ指輪を私に渡すのだ、ハニィ」 「い、いや、いやです」 「ご主人様の命令だぞ、お前のご主人様はだれだ」 「ご…しゅ…じん…さま?」 「さあ、言ってみろ」 「バクゥマン……さま」 「ははは、そうだ。さあわれの命令に逆らうな。さあわれのモノを握るのだ。優しくな」 「は……はい……や、やめろお、そんなもの握りたく……にぎり……たい」 一瞬意識を取り戻す光雄、だがそれも一瞬の事。チャイナドレス姿のハニィの姿となっていた光雄は、すぐにバクゥマンの言いなりに、ナニそっくりの尻尾の先をそっと握り締める。 「ふふふ、屈辱だろう、プライドも何もかも捨ててしまうのだ。いや、もうそんなものも残っていまい」 バトルスーツを着たハニィの姿になった光雄は、目の光を失って四つんばいにひざまずいていた。 「さあ、最後の仕上げだ。立て、スウィートハニィ。そして指にはめたその指輪をわれに捧げるのだ」 バクゥマンの言葉に、光雄はゆっくりと立ち上がる。 「はい、ご主人様」 指輪を外そうとする光雄。 「だめぇ、先生」 光雄が苛められる一部始終を見せつけられていたハニィが再び顔を上げて檻の中で叫ぶ。 「先生、気がついて。先生は先生、あたしじゃないの。お願い、思い出して!」 「ふふふ、無駄だ、もうこいつに自我はない。そしてここで指輪を差し出すという事は、現実世界でも指輪はわれのものとなる」 「先生あなたは教師でしょう。美咲さんを救わなければいけないんでしょう、そんな奴に負けないで!」 「…………」 光雄はハニィの必死の叫びに答えない。だがピクリとその動きが止まる。 「これはご主人様のもの……違う、違う…これは……」 指輪に手をかけたまま光雄の動きが止まる。 「先生、まだ意識が、先生、先生……こんなものぉおおおおお」 その時、檻に閉じ込められたハニィの指輪が眩く光り輝く。 百万燭光の光の中、ハニィを閉じ込めていた透明の容器は粉々に砕かれてしまった。 「なにぃ、俺の檻を破るとは」 「先生、先生」 ハニィの姿でぼーっと立つ光雄に駆け寄り、その体を揺さぶるもう一人のハニィ。だが光雄は目の光を失ったままだ。 「お願い、元に戻って、あたしの大好きな先生に」 そう言って光雄を抱き締め、口付けをするハニィ。その両目から涙がこぼれる。 一方、光を失っていた光雄の瞳に光が戻り始め、その手がハニィの手を求める。 そしてお互いの手を求め合う二人の手の指輪と指輪が触れた瞬間、二人を百万燭光の光が包んだ。 「うおっ」 顔を腕で覆うバクゥマン。だがその腕を顔から除けた時、その目の前にはハニィが仁王立ちでバクゥマンを睨んでいた。 「きさま、よくもよくも」 「貴様、正気に、いやまさか……そうか、お前の正体は……気がつくのが遅……」 「いっけええ」 「ぐげええええええ」 下段の構えから一気にバクゥマンの身体に振り上げられるプラチナフルーレ。 そして次の瞬間、まっぷたつになったバクゥマンの身体は霧散していた。 その瞬間、ぱちりと目を覚ます光雄。その姿はハニィに変身したままだ。起き上がると、傍らには美咲が未だ気を失ったまま倒れていた。 「ハニィ、俺は今までどうしていたんだ。怪人は倒した。でもひどい夢を見てたような……」 (人の心をここまで弄ぶなんて、なんてひどい。先生、夢の事はもう忘れて、忘れてください) バクゥマンに勝利したものの、徐々に夢の中の出来事を思い出して落ち込む光雄。 そんな光雄を、優しく慰めるハニィだった。 「今回の怪人は手強かった、というか本当に危なかったよ。ありがとうハニィ」 (いいえ、先生ががんばったおかげですよ。先生の心の奥底が最後まであいつに支配されなかったから、あたしもあの檻を破ることができたんです。とは言え、もっと早く助けられると良かったんですが。本当にすみませんでした) 「ハニィのせいじゃない。それに、どうしようもなくひどい夢だったけど、少しだけいい事もあったからね」 「え?」 「夢の中で君に出会えた事。そして告白と、キスさ」 (うわぁ、先生、それも思い出さなくても良いんです。忘れてくださいったら、お願いです) 光雄には、恥ずかしそうに顔を真っ赤にしたハニィの姿が目に浮かぶようだった。 「わかったわかった。とにかく美咲も助けることができたし、めでたしめでたしだよ」 (はい。でもまだまだ手強い『虎の爪』の怪人はいくらでもいます。がんばりましょう、先生) 「ああ、そうだな」 『虎の爪』との戦いに、決意を新たにする光雄とハニィだった。 だが、新学期にさらなる強大な敵との死闘が待っていることを、この時の二人はまだ知らない。 (【番外編】終わり) (後書き) 番外編となりましたが、久々のスウィートハニィの物語いかがでしたでしょうか。ところでこの時考えた、ハニィが悪夢の中で苛まれマインドコントロールされようとするというアイデアは、「少年少女文庫」版スウィートハニィUの第7話「悪夢の中のハニィ」で、少し違う形で生かしております。勿論、向こうはじゅうはちきん的表現はなく、心理攻撃的要素の強いものになっています。 それでは最後までお読みいただき、ありがとうございました。 (2012.10.12) |