女が夢を見ていた。


……日差しの入らない薄暗い部屋の中、その女と学生服を着た高校生らしき男が机を挟み、向かい合って座っている。
 昔の記憶なのだろうか、座っている女は現在の女よりも幾分若く見える。
 二人は机の上に広げられた書類の内容について議論していた。
 声高に持論を主張する男、反論する女。
 討論は白熱していたが、やがて女はこれ以上話しても無駄とばかりに椅子から立ち上がると両手を広げ、首を左右に振りながらぷいっと男に背を向けてしまった。
 男はそんな女の背中を、怒りで顔を真っ赤にしながら睨みつけていた。
 その体がわなわなと震えている。
 突然男はポケットから薬らしきカプセルを取り出すと、それを己の口に中に放り込んだ。
 ごくりと喉を鳴らして飲み込んだ男は、天井に向かってふーっと息をつくとがくっと頭を垂れ、椅子に突っ伏して眠ってしまった。
 突然、女がびくっと体を震わせた。

「やめて! いやぁ! あ、あああ」

 女は苦しそうに悲鳴を上げたが、やがてその表情は狡猾そうな笑い顔に変わっていった。
 彼女はいきなり胸元のボタンを外してその中を覗き込む。
 そしてにやにやと満足そうに笑った。

「俺の計画を素直に受け入れればいいものを、馬鹿なひとだ。
 今日からこの俺が、いいえあたしが生田幸枝。この研究所はもうあたしのもの」

 女は眠ったままの男を残して、静かに部屋を出て行った……。





 女が目を覚ました。
 女の目の前にカラスがじっととまっている。
 そして女の目覚めを待ちわびたかのように口を開いた。

「ギッ、シスター、お目覚めですか?」
「クロウレディか」
「ギッ、パンツァーレディが指輪を奪取に成功しました」
「そうか、さすが我が最高傑作、ふふふ」

 満足そうに女が笑う。

「してスウィートハニィはどうした」
「ギッ、パンツァーレディによって幼女に変えられてしまいました」
「とどめは刺さんかったのか」
「ギッ、ですがあの姿ではもう二度と我らに盾突くこともないかと思われます」
「指輪を奪取したのはいい。だがとどめを刺せんとは、調整が完全ではないのか……いや、そもそもスウィートハニィは以前の戦いで間違いなく死んだ筈。何故復活した……まあいい。ご苦労、下がってよい」
「ギッ」

 カラスは開いた窓から何処かへと飛び去っていった。

「ふふふっ、これでようやくあの指輪がこの手に入る。そうだ、久しぶりにあいつの様子でも見に行くとするか」

 女はベッドから起き上がると、姿見の前に立った。
 そして半ば透き通ったネグリジェ姿の己の姿を見ながら満足そうに笑うと、身に纏ったネグリジェのボタンを外した。
 ネグリジェがはらりと床に落ち、下着一枚だけのその見事な肢体が顕わになる。

「幸枝さん、今日もきれいだね」

 女は鏡に映った己の姿に頬ずりしながらそう呟くと、いつもの黒いドレスに着替えて部屋を出ていった。 





「久しぶりね」
「お前か、もう二度と俺の前に姿を見せるなと言ったはずだ!」
「あら、あなた、妻に向かってそんな冷たいこと言わないで」
「冗談を言うな! お前なんか幸枝じゃない。幸枝を返せ。奈津樹を元に戻せ」
「ふふん、何を言ってるの、あたしのどこが幸枝じゃないって言うの? この顔、この体、誰が見てもあたしは生田幸枝。あなたの妻じゃないの。ねえあなた、早くあたしに協力してくださいな」
「断る!」
「……全くいつまでもしぶといね。そろそろ観念したらどうなんだい」
「うるさい!」
「今日遂にあの指輪を手に入れたよ」
「あの指輪を? 蜜樹はどうしたんだ、指輪は蜜樹が持っていたんだろう、生きていたんだろう。元気なんだろう。お前、まさか蜜樹を」
「さあてね。だが指輪はもうすぐ俺のもの。これでこの世界の全ても、もうすぐ俺のものになる。あっははは」
「蜜樹、蜜樹ぃ……」

 高らかに笑う女。
 そんな女を見つめながら、鉄格子の向こうの男は呆けたように呟いていた。





戦え!スウィートハニィ

第7話「ダークサイド・ハニィ」

作:toshi9





前回のあらすじ
 圧倒的なパンツァーレディの力の前に完敗した光雄は、幼い少女の姿に変えられた上に遂に指輪を奪われてしまった。指輪もスウィートハニィとしての力も、共に戦ってきたもう一人のハニィも、そして如月光雄としての存在さえも失ってしまった光雄。だが、指輪の奪回を決意した彼はシャドウ姉妹の助けを借りて『虎の爪』の本拠「生田生体研究所」に潜入しようとする……。
 



 シャドウガールは光雄を伴って「生田生体研究所」の正面玄関の前に立った。
 自動ドアが、まるで二人を招き入れるかのようにすっと開く。

「おい、そっと忍び込むんじゃなかったのか?」
「ここは『虎の爪』の本部、見張りは厳重なんだニャ。裏口から入ったりしたら、却って怪しまれるだけなんだニャ」
「なるほど」

 度胸がいいのか単に能天気なだけなのかわからないが、シャドウガールの言うことも一理ある。かわいい姿に似合わぬその大胆な行動力に、彼女のことを少し見直した光雄だった。まあかわいいと言っても、シャドウガールの今の姿は謙二の体を借りた仮の姿なのだが。

「さあ、中に入るんだニャ」
「おう」 

 ドレスの裾を翻して玄関ホールに入る二人。
 中に入ると、ミッションが終わって骨休めしているのか、ティラノレディが床に寝そべっていた。

「ティラノレディ、元気かニャ」

 よっとばかりに手を上げて朗らかに呼びかけるシャドウガール。それに気づいてティラノレディがのそりと上半身を起こす。
 シャドウガールの後ろから隠れるように入ってきた少女、いや光雄は、はらはらしながら二人のやりとりを見守っていた。

「シャドウガールか。パンツァーレディがかんかんに怒っていたぞ。お前どうするんだ」
「後で謝りに行くんだニャ」

 事も無げに言うシャドウガール。
 そんな飄々とした彼女の様子にやれやれといった表情で彼女の後ろに立つ光雄に視線を移すティラノレディ。

「後ろの連れは」
「シスターのお世話をさせるために連れてきたんだニャ。これからシスターに紹介しに行くんだニャ」
「そうか。その少女、どこかで見たような気がするんだが……」

 爬虫類特有の三白眼で光雄をじっと見つめるティラノレディ。
 光雄は幼い少女らしく少しおどおどした表情でぺこりとお辞儀した。

「シスター様のお噂を聞いて、是非お仕えしたいと思ってきました。こんにちは、とっても『強そうな』お姉さま」

 『強そうな』というところに力を込めて挨拶する光雄に、ティラノレディはまんざらでもない表情でにやついた。

「そうかそうか、強そうか。なかなか素直ないい子だ。シスターにもきっと気に入られるだろうよ。だがシャドウガール、お前、シスターに今回のことはよ〜く謝るんだぞ。首尾よく指輪を奪取したんでシスターは上機嫌らしいが、クロウレディがお前のことをとっくに報告をしているはずだ。あのお方の機嫌を損ねたりしたら、あたしたちがとばっちりを受けるんだからな」
「分かっているんだニャ。ところであの指輪は何処なんだニャ」
「パンツァーレディがとっくに献上したんじゃないのか?」
「ということは、もうシスターの手に?」
「さあな、そこまではわからん」
「わかったニャ。じゃあ今からシスターに会いに行くんだニャ」
「ああ、じゃあな」

 再び床に寝そべるティラノレディを後に残して、ドレス姿の二人は建物の廊下を奥に向かって進んだ。

「シャドウガール、どうするつもりだ?」
「とにかくシスターの部屋に行ってみるんだニャ。パンツァーレディが一緒にいなければ何とかなるかもしれないんだニャ」
「隙を見てシスターから指輪を奪う?」
「その通りだニャ」

 シスターの部屋に向かってずんずんと歩いていくシャドウガールの後ろを光雄は緊張した面持ちでついていった。

「おい、シャドウガール、何だか変じゃないか?」
「何が変なんだニャ?」
「ここは『虎の爪』の本拠なんだろう。それなのに人が少な過ぎやしないか? 何で誰とも出会わないんだ」
「うーん、きっとみんな休憩しているんだニャ。これなら指輪を取り返せるかもしれないんだニャ」

 楽観的に答えるシャドウガール。だが光雄の中では不安を募っていた。
 いくらなんでも入り口でティラノレディに遭遇した以外に誰も出会わないなんて出来過ぎている。
 だがそんな不安をよそに、二人はすんなりとシスターの部屋にたどり着いた。

「ここだニャ」
「ここがシスターの部屋か。こんなにすんなりたどり着くなんてやっぱり妙じゃないか? 本当に中に入って大丈夫なのか?」
「そうだニャア、それじゃあたしが先に入って様子を見るんだニャ」

 シャドウガールは扉をそっと開けると静かに部屋に入った。そして中にシスターがいないのを確かめると光雄を招き入れた。

「シスターはいないようなんだニャ。丁度良かったニャァ。今のうちに指輪を探すんだニャ」
「よし、わかった」

 二人は棚をひっくり返し、机を引き出しを開け、必死で指輪を探した。しかし指輪は何処にも見つからなかった。

「無いな」
「うーん、そうだニャァ」
「ということは、指輪はシスターが持っているということか……」

 途方に暮れる光雄とシャドウガール。だが、突然二人の背後から声が掛かる。

「探し物はこれかしら? ハニィ」

 二人が振り返ると、パンツァーレディが閉まった部屋の扉にもたれ掛かるように立っていた。
 差し出した手の平の上に指輪がある。

「お前、パンツァーレディ!」
「何でわかったんだニャ」
「シスターはご不在のようね。でもその代わりにまさかあなたたちがいるなんてね。全く命だけは助けてあげたのに、そんなに死にたいの? 仕方ないわねぇ」

 ふふんと鼻で笑うパンツァーレディ。

「……そうだ、良いことを思いついた。ハニィ、今から最高のおもてなしをしてあげるわ」

 そう言うと、パンツァーレディは手に持っていた指輪を自分の右手の指に嵌め、そして胸に当てた。

「あ!」
『パンツァーレディ・フラァッッシュ!』

 光に包まれるパンツァーレディの体。
 その体が一回り小さくなり、真っ赤なボディスーツがその形を変えていく。顔形が徐々に別なものへと変わっていく。髪が赤く染まり、毛先が跳ね上がっていく。そしてその手には細身のサーベルが握られていた。

「その姿は……ハニィ、スウィートハニィ!?」
「うふふふ、この姿であなたを殺してあげる。自分自身に倒されなさい、ハニィ」

 呆然とする光雄の目の前にスウィートハニィが立っていた。
 パンツァーレディが変身した姿、それはまさしくスウィートハニィ以外の何者でもなかった。

「俺が……この俺がハニィに殺されるだと? そんな、そんな馬鹿な!」

 だが混乱する光雄を尻目に彼の目の前のハニィはヒュっとサーベルを振ると、一歩一歩迫ってきた。氷の微笑みを浮かべ、その全身に殺気を漂わせながら……。

「ふふっ、確かこうだったかしら」
「え?」
「このスウィートハニィから指輪を奪おうなんて百年、いや千年早いわよ。奪えるもんなら奪って御覧なさい」

 ハニィに変身したパンツァーレディは、抑揚のない声でハニィの口上を真似た。

「くっ、黙れ! にせもの」
「にせもの? あっははは、違うわよハニィ。今のあなたはスウィートハニィじゃない。ただの幼い少女よ。だからこの世にはあたし以外にスウィートハニィは存在しないの。わかる? 指輪の力で変身したあたしこそが今はたった一人の本物のスウィートハニィなの。そしてあなたはあたしに、このスウィートハニィに殺されるの。幼くか弱い少女としてね」
「そ、そんなこと……」
「愛と正義の戦士スウィートハニィはもう、幼い少女を平気で殺す、悪の戦士スウィートハニィなのよ。その最初の犠牲者があなた。あっははは。どお、いい趣向でしょう」
「スウィートハニィが悪の戦士!? そ、そんな……」
「さあ、覚悟はいい?」

 サーベルの剣先を小さな光雄の体に向けるハニィ。サーベルを握る指に嵌めた指輪が部屋の明かりを反射してきらりと光る。

(何とかならないのか、何とか。このまま俺はこいつに、ハニィの姿をしたこいつに殺されるのか?)
「死になさい!」

 ハニィがサーベルを振り上げる。思わず目をつぶる光雄。
 だがその時、振り上げたハニィの腕に、シャドウガールがむしゃぶりついた。

「やめるんだニャ!」
「何をするシャドウガール、これ以上邪魔をすると容赦しないわよ」

 シャドウガールを強引に振りほどくと、パンツァーレディはハニィの顔でシャドウガールを睨みつけた。

「パンツァーレディ、お前のやり方は汚いんだニャ。お前なんか嫌いだニャ!!」
「黙れ、裏切り者! ふふっ、わかったわ。それじゃあお前もこのスウィートハニィが倒してあげる」

 ハニィのサーベルが一閃した。その剣先が部屋の空気を水平に切り裂く。

「危ない!」

 シャドウガールに自分の小さな体をぶつけて突き飛ばす光雄。
 切り裂かれたシャドウガールのピンクの髪の毛がはらはらとその場に舞い落ちる。

「ハニィ、また助けられたニャ」
「何の、当たり前じゃないか」

 もつれあったまま起き上がる光雄とシャドウガール。だがその二人にすっと近づいたハニィは、再び剣先を向けた。

「ふっ、今度は逃がさないわよ」
「フギャァ!」

 再びハニィのサーベルが一閃した。
 次の瞬間、ばたりとその場に倒れるシャドウガール。
 着ているドレスの背中が真横に切り裂かれている。

「シャドウガール!」
「だ、大丈夫、かすり傷だニャ」
「貴様、よくも……」

 光雄はハニィをキっと睨みつけた。

「なあに、その目は。何をしようっていうの? そんな体でこのあたしに歯向かおうっていうの? か弱くて幼い女の子に過ぎないあなたが。くっくっくっ、おっかしい。今の自分の立場がわかっているんでしょうね。あっははは」
「くっ!」

 確かに何の武器も力もない今の光雄には、目の前のハニィに立ち向かう術はない。

(何か方法はないのか、何か。このまま俺はハニィのサーベルに貫かれるしかないのか?)

 じっと睨んだまま動かない光雄に再び剣先を向けるハニィ。

「さあ、死になさい」
「まだだ!」

 光雄は素早く立ち上がると、倒れたままのシャドウガールから飛び離れた。
 ハニィは走る光雄に向かってすっと近づき間合いを詰めると、サーベルを二閃、三閃した。
 その度に光雄のドレスの裾が切り刻まれていく。
 だが紙一重の間合いで光雄は剣筋を避け続ける。
 姿は変わっても剣の間合いを見切る彼のセンスは健在だった。
 そして今の光雄にとって唯一の力は、小さな体を生かしたすばしっこさだけだった。
 しかし、それもやがて限界を迎える。
 遂に光雄は部屋の隅に追い詰められてしまった。

「うふふっ、どうしたの、もう逃げ場はないわよ」

 壁を背にした光雄に、勝ち誇ったようにハニィがサーベルを突き付ける。
 確かにもう逃げ場はない。
 さすがに次の一撃は避けられそうも無かった。

「くっ、これまでか」

 半ば観念して目を閉じる光雄。
 だが絶体絶命と思ったその次の瞬間、ようやく立ち上がったシャドウガールが声を張り上げた。

「出会え! 出会えだニャ。ハニィがシスターの部屋に潜入しているんだニャ!」
「シャドウガール、お前、出会えって、そんな時代劇じゃあるまいし」
「あたしは時代劇が好きなんだニャ。一度言って見たかったんだニャァ」
「それにしても、本当に誰か来るのか?」

 シャドウガール、全く能天気なのか機転が利くのかよくわからない。
 しかし次の瞬間、シャドウガールの声を聞きつけた一人の怪人がドスドスと足音高く部屋に飛び込んできた。
 太い尻尾を持つ大柄の怪人、それはティラノレディだ。

「ややっ! いつの間に。今度こそ逃がさんぞ、スウィートハニィ」
「あれれ、本当に来たよ」

 すっかり本物のハニィが潜入したものと勘違いしたティラノレディは、ハニィに体当たりを食らわせた。
 堪らずすっ飛ばされ、壁に叩きつけられるハニィ。

「ば、馬鹿者! 何をする、ティラノレディ」
「今度こそお前を捕まえて、シスターにお褒めの言葉をもらうんだ」
「止めろ、止めるんだ!」

 ハニィとティラノレディは揉み合いになった。

 ティラノレディ……その馬力は『虎の爪』の怪人の中でもトップクラスだが、頭はあまり良いほうではない。よくよく考えればおかしいとわかりそうなものなのだが、必死にハニィを捕らえようとする彼女の行動は、指輪の秘密を知らされていないのだから止むを得ない所だろう。

「さあ、今のうちだニャ」

 光雄を引っ張って部屋から飛び出すシャドウガール。

「また助けられたな」
「ニャははは、あたしもさっき助けられたし、お互い様なんだニャ。さあハニィ、こっちだニャ」

 廊下を一気に駆け抜け、階段を地下に下りていくシャドウガール。

「ここはシスターから誰も入っちゃいけないって言われている部屋なんだニャ。ここにしばらく隠れるんだニャ」

 光雄を伴って、シャドウガールは地下にある一室に飛び込んだ。
 しかし誰もいないと思われた部屋の中には二人の人間がいた。部屋の真ん中を仕切った鉄格子を挟んで。
 鉄格子の手前には、胸の下で両腕を組んで鉄格子の向こうを見ている黒いドレスを着た女性が立っている。そして鉄格子の向こう側には、四十過ぎかと思われる憔悴し切った男性が肩を落として椅子に座っていた。

「だれだ!」

 二人の気配に気づいた女性が振り向いた。

「あ!」
「どうした、シャドウガール。この女は誰なんだ」
「シスター、どうしてシスターがこんなところにいるんだニャ」
「シスター? こいつがシスターだって? これがお前たちの首領なのか?」

 ドレスの女性を見つめる光雄。
 美人だった。

「シャドウガールか。ここはお前が入る場所ではないぞ。去れ。……ん? 隣にいるその子供は誰だ?」
「この子供は、その……シスターのお世話をしたいと言うんでつれてきたんだニャ」

 ずたずたに切り裂かれたドレスを着た少女……光雄をシスターはじっと見つめる。

「お前、ただの子供ではないな、何者だ」

 ごまかせない。

 シスターの目を見て、光雄はそう直感した。

「俺か、俺は如月光雄だ」
「如月光雄? ほう、その名前は確か怪人どもがスウィートハニィの正体だと言ってた名前の一つだな。その如月光雄がなぜここにいる」
「指輪を返してもらいにきた」
「指輪……ようやく我が手に入る。あれはもう我れのものだ。返すわけにはいかないな。ところで如月光雄」
「な、なんだ」
「お前はスウィートハニィなのか? そんな筈はない。我らの邪魔をし続けたスウィートハニィの正体は……」

 その時、未だハニィの姿で部屋の中にパンツァーレディが飛び込んできた。

「お前たちここにいたか。小ざかしい真似を。あ! これはシスター」

 光雄の向こうにシスターがいることに気づき、驚くハニィ。

「ハニィ、スウィートハニィか!」
「いえ、シスター。……パンツァーレディです」
「指輪を使ったのか。お前がそのような戯事をするとはな」 

 ハニィの指に嵌められた指輪を見止めて、シスターはハニィを睨みつけた。

「も、申し訳ありません。少し遊びが過ぎたようです」
「蜜樹!」

 突然、鉄格子の向こうの男が顔を上げて叫んだ。

「蜜樹、蜜樹、蜜樹」

 男は鉄格子に取り付くと、がたがたと両手で揺らしながら取り憑かれたように叫び続けた。

「蜜樹、蜜樹、みつき〜〜〜!!」



(続く)



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