スウィートハニィに助けられたシャドウガール。だが、彼女がとある場所――即ち某県某所に秘かに作られた『虎の爪』本部に戻ると、既にプールの一件は、クロウレディからシスターに報告されていた。

「シャドウガール、威勢の良い事を言っておきながら何というザマだっ!」
「申し訳にゃいニャ……でもスウィートハニィはそんなに悪い奴じゃないんだニャ」
「バカモノ! 我らの組織に逆らうものは全て敵だ。指輪の奪取に失敗し、あまつさえスウィートハニィを庇い立てするとは、全くあきれ果てた奴っ」
「ご、ごめんだニャ」
「シスター、シャドウガールは初陣です。どうか大目に見てやってください」
「シャドウレディ……貴様、妹を庇っていられる立場にあると思っているのか?」
「くっ! も、申し訳ありません……」
「全く姉妹揃いも揃ってブザマな……誰かスウィートハニィを倒し、指輪を奪い取ってくる者はおらぬのかっ!?」

 居並ぶ怪人の前で二人を叱咤するシスター。だがそれに答える怪人は無く、その場はシーンと静まり返っていた。だがその時、優雅な足取りで広間の中に入ってきた一人の怪人がいた。

「シスター、その役目、私がいたしましょう」
「おお! お主戻ったのか。……して、南米での首尾は如何であった?」
「主だった国の首脳は既に我が配下と入れ替えました。南米は我らの思うままです」
「よくやった。で、入れ替えた首脳共は如何いたした」
「皆女子供に変えてやりました。もう誰も、彼等の言葉に耳を貸さないでしょう」
「ご苦労。しからばスウィートハニィの処分と指輪の奪取、お主に任せるぞ」
「彼女とは浅からぬ因縁があります。それに以前、指輪こそ奪い損いましたが、スウィートハニィはこの手で確かに倒したはず。何故今頃になってスウィートハニィを名乗る者が現れたのか分かりませんが、今度こそ私が止めを刺してご覧に入れましょう」
「よし、任せたぞ。皆のもの、今後指輪の奪取に関しては、このパンツァーレディの指揮に従うのだ」
「ははっ!」
「あいつ……帰ってきたのか――」

 指揮権を剥奪されたシャドウレディは、パンツァーレディの姿を見詰めながら、そっと呟いた。




戦え!スウィートハニィ

第5話「最強の敵(前編)」

作:toshi9





 その夜、光雄は夢を見ていた。それは、いつか見たスウィートハニィと『虎の爪』の怪人が戦っている夢だった。相手がどんな怪人なのか、その姿は相変わらずシルエットになっていてよくわからない。しかし剣を交えているハニィの動きにはやはり余裕がなく、明らかに苦戦していた。ハニィの剣筋はことごとく怪人に見切られ、受け流されている。

 やがて怪人は何事かを呟くと、一気にハニィとの間を詰めてきた。風のように向かってくる怪人に対してハニィが渾身の一突きを繰り出す。だがハニィのサーベルは、怪人の光り輝く剣に軽々と弾き飛ばされてしまった。
 弾かれたサーベルはくるくると回転しながら空高く舞い上がった。それを呆然と成す術も無く見詰めるハニィ。そして舞い上がったサーベルがその剣先を彼女に向けて落ちてくる。

「逃げろぉ! ハニィ! ……はっ!?」

 光雄はそこで布団からがばっと跳ね起きた。その体はびっしょりと汗で濡れていた。

「ゆ、夢……またあの夢か。……いやな夢だ」
(先生、何か嫌な予感がする……)
「大丈夫だハニィ。何があろうと指輪は必ず俺が守ってみせるさ」
(ありがとう。でも、何だろう、この感じ……)





 それから1週間後。南高校の全体朝礼で、教頭先生が新しく赴任してきた教師を紹介していた。生徒の列の前に立つ教頭先生の横には、教師には相応しくない真っ赤なスーツを着た若い女教師が立っていた。

「先週、鈴木先生が急病で長期入院されることになってしまいました。そこで鈴木先生が復帰されるまで、この朝霧先生が代理で教鞭を取ることになりました」
「朝霧唯です。鈴木先生の代わりに英語を教えることになりました。それから如月先生のクラスの副担任もさせて頂く事になりました。短い間ですがよろしくお願いいたします」

 光雄にとってもそれは突然の話だった。

「鈴木先生の代理でしかもうちのクラスの副担任か……またえらく急な話だな」
(せ、先生、朝霧唯……違う、あいつ、あいつは)
「どうした? ハニィ」
(い、いや……いやぁああっ!!)
「ハニィ!? どうしたハニィ!?」

 だが光雄が心の中でいくら呼びかけても、それっきりハニィから何も返事がなかった。

「……ハニィの意識が途切れた。彼女と話ができるようになってこんなこと初めてだな。朝霧唯か……彼女とハニィ、何か関係があるんだろうか?」

 じっと見詰めていると、唯がこちらを見て、にこっと笑い返したように見えた。 





 全体朝礼が終わって光雄が職員室に戻ると、教頭先生が彼の席に朝霧唯を連れてきて紹介した。

「じゃあ如月先生、朝霧先生を頼みますよ」
「わかりました。朝霧先生、うちの生徒たちに紹介しますから一緒に来てください(それにしてもハニィ、さっきから相変わらず意識が途切れたままだ。いったい何が起こったんだ?)」
「はい。よろしくお願いします」

 朝霧唯、きれいだが不思議な雰囲気を持った女性だな……
 そんなことを考えながら、光雄は唯の先に立って廊下を歩いた。後ろを歩く彼女は光雄の指を見詰めながら、意味有りげに、にやり……と笑っていた。





「起立……礼……着席」

 クラス委員長の相沢謙二の声が教室に響く。
 教壇には光雄と唯が並んで立っていた。

「朝礼で紹介されたように、今日からうちのクラスの副担任になった朝霧唯先生だ。みんな良く言うことを聞くんだぞ」
「朝霧唯です。皆さん仲良くしてくださいね」

 朝霧唯が軽く微笑みながら自己紹介するのを聞きながら、桜井幸と相沢謙二は二人でひそひそ囁き会っていた。

「きれいな先生だな」
「そうかな、あたしは何となく冷たい感じがするけれど」
「おいおい、そんなこと言うもんじゃないぞ」
「そうかな、私達に笑いかけているけれど目が笑ってないもん。……何だかいやな感じ」
「へぇ、お前そんなとこ……よく観察しているな」
「だって如月先生にちょっかい出されちゃかなわないもんね」
「はいはい、そういうことですかい」

 この二人、何だかんだ言っても気軽に話のできる間柄にはなっていた。これも謙二の努力の賜物だろう。尤も幸にとってはそれは恋愛感情などとは無縁なものであったが。





 ホームルームが終わり、光雄が教室を出て行った後も、唯はまだ教室に残っていた。……いや、残らざるをえなかったと言うべきか。
 何故なら光雄が出て行くや否や、クラスの男子生徒の大半は唯の周りに集まり、彼女を質問責めにしていたのだから。

「先生、年いくつなんですか?」
「付き合っている男性っているんですか?」
「年下は好みじゃないですか?」

 唯は一瞬「やれやれ」といった表情を浮かべたが、すぐににこやかな表情に戻った。

「はいはい、そういう質問は無し。……ねえあなた?」
「は?」

 唯は謙二に視線を向けた。

「さっき号令かけていたわね。あなたがこのクラスの委員長かしら?」
「はい、相沢謙二です」
「ねえ、相沢くん。あなたスウィートハニィのことを知っているわよね」
「え? 先生どうしてそのことを」
「ふふっ、どうしてかしらね。で、どうなの」
「それは……お答えできません」
「あらそう、残念ね。まあいいわ。ところで相沢くん、放課後職員室に来てくれる?」
「え? 何か?」
「クラスのこととか学校のことを、もっと詳しく教えてくれないかしら?」
「わかりました。じゃあ放課後伺います」
「うふっ、ありがと」





「近くで見ると、ほんときれいな先生だな」
「おい、謙二、お前役得だな」
「こんなことなら俺が委員長に立候補するんだったな」
「お前、それって調子良くないか? 立候補の時、委員長なんか面倒臭くってできないって言ってたくせに」
「あれ? そうだったっけ」
「そうだよ」
「あ〜あ、あんな先生に個人授業してもらいてえなぁ」

 唯が出て行った後、ますます喧騒に包まれる教室であった。

「もう、うちの男子ってみんな馬鹿ばっかり」

 幸たち女子生徒は、そんな男子を冷ややかに見詰めていた。





 唯は職員室に戻ると、光雄に声をかけた。

「如月先生」
「あ、朝霧先生、終わりましたか。全くうちのクラスの生徒たちときたら……いきなり大変でしたね」
「いいえ、大したことありませんわ。ところで先生」
「は? 何ですか?」
「先生と桜井幸という女子生徒ってどういうご関係なんですか」
「え? いや関係なんて。ただの担任と一生徒ですよ。ははは、誰かが先生に何か吹き込みましたか?」
「ただの担任と一生徒……そお……」

 唯は小さくにやりと笑ったが、いきなり幸との関係を聞かれてうろたえまくっている光雄は、その意味に気づきもしなかった。





「先生……朝霧先生、何処ですか?」

 放課後、謙二が唯に言われた通りに職員室に行ってみると、そこに彼女はいなかった。
 他の先生から「視聴覚教室に来て欲しい」という伝言を聞いた謙二は、言われた通りに視聴覚教室へ来て、扉を開けた。

「ここよ、相沢くん」
「あ、先生」
「あなたにはいろいろと聞きたいことがあるの」
「はい、クラスのことでしたら何でも聞いてください」
「そお、じゃあスウィートハニィの正体を教えて」
「そ、それはお答えできないと言ったはずです」
「ふふっ、彼女の正体、桜井幸って女子生徒なのかな、それとも……」
「それをどうして。朝霧先生、あなた誰なんです? まさか――」
「まさか、なあに?」
「――『虎の爪』の一味」
「あら、相沢くんってそんなことまで知ってるの。ふふっ、これはますますこのまま帰すわけにはいかないわね……」
「え?」
「あなたには囮になってもらうわ」
「囮? どういうことだ?」
「あなたを囮にしてスウィートハニィをあぶり出すの。彼女は今間違いなくこの学校にいる……そうでしょ?」
「そ、それは……」
「ふふ、スウィートハニィの正体が如月先生でも桜井幸でもどっちでもいいの。指輪を持って出てきてくれればね」

 唯の目がが妖しく光った。

「え? うわぁああっ!?」





 放課後といっても、その時間まだ生徒達の大半は校舎に残っている。
 突然、校内にスピーカーから声が響き渡った。

「出てこいスウィートハニィ。お前がこの学校の中にいることは分かっている。出てきて大人しく指輪を渡してもらおう。さもないと相沢謙二がどうなっても知らないぞ」
「何だ? この放送?」
「おいっ、グラウンドを見てみろ! 何か変だぞっ!」

 誰かが叫んだその声に誘われて生徒達が校庭を見ると、そこには滲みのように真っ黒な影が現れていた。そしてそれはどんどん広がっていき、その中からはそこに有る筈の無い物が音も無くせり上がってきた。
 それは十字架。
 そこに磔にされているのは相沢謙二だった。縛り付けられた彼はぐったりとうなだれている。
 校庭にいた生徒はその異様な光景に悲鳴を上げ、慌てて逃げ出した。

「キャー!!」
「何なんだ、あれは!?」
「あれ……相沢じゃないのか!?」
「ねえ、下から変なのが出てくるよ!」

 影の中からは十字架に続いて数人の人影が浮き上がり、十字架の周囲をぐるりと取り囲んだ。それは遠目から見ても怪しげな者たちだった。鳥のような姿の怪人、恐竜のような怪人、蜂のような怪人……





「何の撮影ですか? 困りますなぁ許可無しに我が校の校内で」

 騒ぎに気づいた教頭先生は彼らに歩み寄ると、怪人の一人に向かって注意した。しかし……

「うるさい、失せろ!」

 恐竜のような女怪人……ティラノレディの尻尾が振られたかと思うと、その瞬間教頭先生は花壇まで吹っ飛ばされていた。そしてそのままぐったりと動かない。

「ば、化けもんだっ!!」
「に……逃げろっ!! 誰か警察を――いや科特隊でもGUYSでも、誰でもいいから何とかしてくれえええっ!!」

 校舎の窓から校庭の騒ぎを眺めていた光雄は、ぐっと唇を噛んでいた。

「あいつら、相沢をよくも……」
(う、うーん)
「ハニィ、気が付いたか。変身するぞ、相沢を助ける」
(え!? だ、駄目っ!! 先生、変身しちゃ駄目!)
「どうしたんだハニィ? あいつら『虎の爪』の連中だろう。連中の目的はこの俺と指輪だ。相沢は関係ないっ」
(……あいつが……あいつが来た……)
「ハニィ、今日はおかしいぞ? もっと落ち着いて話せ」

 その時十字架を取り囲む怪人たちに、朝霧唯がすたすたと歩み寄ってきた。

「朝霧先生、危ない」

 しかし唯はにやにやと笑いながら怪人たちの前に立ち止まると、くるりと校舎のほうに振り返った。

「出て来いスウィートハニィ。あと10数えても出てこなければ、この相沢謙二を串刺しにしてやるぞ」
「え? 朝霧先生?」

 その時唯のシルエットが陽炎のように揺らいだかと思うと、次の瞬間彼女の姿は精悍な豹柄のボディスーツに包まれていた。

「ひとーつ……」

「あの姿、まさか彼女も『虎の爪』の一味だったのか」
(そう、そしてあたしはあいつに敗れた)
「え? 何だって!!」
(彼女は『虎の爪』の首領『シスター』が自ら改造を施した『虎の爪』最強の怪人。名前はなつ……いいえ、名前はパンツァーレディ。先生、お願い変身するのは止めて。あいつ、強すぎる……)
「弱気だなハニィ。俺は君じゃないんだ。最強の怪人か……でも勝負はやってみなきゃわからないさ」
(でも……でも、先生っ)
「相沢がピンチなんだ。いくぞ!」

 光雄は廊下を駆け出しながら胸に指輪を当てて叫んだ。

『みつお・フラァッッシュ!』

 光雄の体が光に包まれる。
 階段を駆け降りる彼のワイシャツとスラックスが粉々に飛び散り、一瞬何も身につけない裸の状態になってしまう。
 そしてまわりの空気が再びまとわり付き始め、光雄の姿が別のものへと変化し始めた。
 身長が少し低くなるとともに体のラインが優しくなっていく。肩のラインがどんどん滑らかになり、腰がぐぐぐっと絞れていく。胸とお尻が大きく張り出すと同時に股間の一物は消え失せ、そこは縦のすじを刻んだだけの何も無いのっぺりしたものになった。大きく盛り上がった胸を滑らかで真っ赤なノンスリーブシャツが優しく包み込み、下半身を黒いタイツが覆っていく。それは腰のところでジャンプスーツのように一つにくっついていった。踵がくっと持ち上がり、両足は白いブーツに包まれる。同時に髪が伸びて赤く染まりながら毛先が跳ね上がっていった。
 そしてぎゅっと握り締められた右手には、細身のサーベルが握られていた。

「ここの〜つっ」

「待ちなさい!!」
「ふふふ、やっと現れたわね、スウィートハニィ」
「あなた、『虎の爪』のパンツァーレディね!」
「よく憶えていたわね。そうよ、お久しぶり、ハニィ」
「早く委員長を放しなさい。あなたたちの目的はこの指輪、委員長は関係ないでしょう。でも指輪はあなたには絶対に渡さない。取れるもんなら取って御覧なさい」
「……でも、あなたは確かあたしが倒したはず」
「スウィートハニィは不死身よ。あたしは……このスウィートハニィはあなたなんかに倒されやしない!」
「うふふ、相変わらずかわいいわね。でも今度こそ息の根を止めてあげる」
「何を!? あたしは以前のスウィートハニィじゃない。返り討ちにしてやる!」
「……さあ、いらっしゃい」
「やああっ!!」

 パンツァーレディに向かってハニィは二度三度とサーベルを振るった。
 だが、自然体で立つパンツァーレディは、ハニィの太刀筋を見切ったかのようにことごとくかわしてしまう。それは何度繰り返しても同じだった。徐々に息が荒くなるハニィに比べ、パンツァーレディには全く呼吸の乱れが無い。
 パンツァーレディの見切り方には余裕さえ伺えた。

「ふふん、ハニィ、あなた腕が落ちたんじゃないの?」
「何故だ? 何故かわされる!?」

 足さばきだけでハニィの剣をかわしてしまうパンツァーレディの余裕振りに、次第に焦り始めるハニィ。

「はぁ、はぁ、はぁ……」
「どうしたの? もうお終い?」
「なにお! くそう、これならどうだっ! おおりゃああああ〜っ!!」

 ハニィは片手で振るっていたサーベルを両手に持ち直し、パンツァーレディに向かって大きく踏み込むと、袈裟懸けに薙ぎ払った。
 それは剣道のさばきだ。光雄にサーベルを振るうセンスがあったのは、指輪の力やハニィの手助けのためだけではない。剣道部の顧問も務めていた光雄は、光武流免許皆伝の腕前なのだ。
 そしてその剣先は今度はパンツァーレディをかすめ、彼女のボディスーツの胸元を切り裂いていた。パンツァーレディの胸が顕わになる。だがその肌に血の滲みはおろか、切り裂かれた傷跡さえも無かった。だが、そこには奇妙な形の手術跡が浮かんでいる。

「その傷跡は……?」
「あら、少しはやるようになったわね。それじゃお返しよ」

 パンツァーレディがハニィの腹部に蹴りを放つ。

「は、はや――ぐふっ!!」

 その動きの速さについていくことができず、まともに蹴りを受けてしまったハニィの体が堪らず吹っ飛ばされる。

「う、うう……っ」

 衝撃にぼんやりと視界がかすむハニィ。頭を振って顔を上げると、その目の前に悠然とパンツァーレディが立っていた。





「どうしたの? もう終わり? まだ汗もかいていないわよ。……つまらない。じゃあこっちからいくわよ」

 パンツァーレディが右手を頭上に差し上げる。手の平が光り輝いたかと思うと、そこに光り輝く剣が現れた。

(先生……っ、逃げて!!)

 光雄は彼の中のハニィがぶるぶると震えているのを感じていた。そして彼自身もパンツァーレディがその全身から氷のような殺気を発しているのを肌で感じ取っていた。

「こいつ……確かに今までの『虎の爪』の怪人とはものが違う。……俺に勝てるのか? ……でも駄目だ、ここで逃げたら――」

 気力を振り絞って立ち上がったハニィは、再びパンツァーレディと対峙した。そして両手で握り締めたサーベルを下段に構え直すと、パンツァーレディを睨みつけた。

「今までのは小手調べ……今度は本気でいくわよっ!」

 しかしパンツァーレディはそれに反応するでもなく、右手に持った光の剣の剣先を地面に垂らしたままゆったりとした足取りで近づいてくる。

「く――くそぉっ! いちかばちか……でぇやあああ〜っ!!」

 ハニイは下段の構えから上段にサーベルを振り上げると、渾身の力でサーベルをパンツァーレディに振り下ろした。

 ……あれ? どこかでこんなこと、あったっけ?

 剣を振り下ろしながら、光雄はふと、そんなデジャブ感覚に陥っていた。

 バチッ!

 次の瞬間、ハニィの渾身の一撃はパンツァーレディの体に触れることなく、光の剣に弾き飛ばされていた。
 くるくると回転しながら空高く舞い上がる、ハニィのサーベル。
 呆然とそれを見上げるハニィ。
 そして舞い上がったサーベルがハニィに向かって落ちてくる。その剣先をまっすぐ彼女に向けて……



(続く)



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