高原社長に白色のゼリージュースを飲まされて、僕の体は女の子の身体に作り変えられてしまった。

 でも今の姿がいくらきれいだと言っても、僕にはこのまま女の子として生きていくつもりはさらさらない。そう、このままじゃいつまで経っても由紀さんに告白なんかできやしない。それに高原社長の野望は何としても阻止しなければならないんだ。

 でも僕のそんな気持ちを知ってか知らずか、由紀さんは相変わらずつかみ所がなかった。




ゼリージュース!外伝(4)「気分はトロピカル(後編)」

作:toshi9




 翌日、僕は由紀さんからもらったメイクセットを使ってメイクを済ませると、昨日ブティックで買ったばかりの服に着替えた。それは由紀さんと摩耶ちゃんが選んだ、淡いレモン色をしたノースリーブの思い切ったミニのワンピースと同じ色のジャケットのコンビネーションスーツだ。

 ううう、結局またこれを着て行くのか。

 そう、女体となった今の僕の体に合う女物の服はこのスーツしかない。高原ビューティクリニックに行くには、これを着て行くしかないんだ。

 はぁ〜〜〜。

 僕は鏡に映る自分の姿を見て、長いため息をつくしかなかった。

 そこに映っている僕は、あまりにもかわいらしかった。しかもその不安気な眼差しは、男なら誰でも思わずぎゅっと抱きしめずにはいられないような、はかなげな雰囲気を湛えていた。そして鏡の中のレモン色のミニワンピース姿に包まれた美少女は、じっとこちらを見ていた。

 じ〜っとその鏡の中のもう一人の自分を見詰めていると、盛り上がった胸の奥にある心臓がどきどきと高鳴ってくる。

 可憐だ。抱きしめたい……そんな衝動に突き動かされるように、僕は自分の体をぎゅっと両手で抱きしめた。

 鏡の中で、にやけた美少女が頬を紅潮させて自分の体を抱きしめている。

 かわいい。そう、かわいいけれど、これじゃあ……。

 僕はぷるぷると頭を振って、慌てて自分の衝動を打ち消した。

「いかんいかん、これって僕自身じゃないか。自分で自分のことを好きになってどうするんだ。それに僕が好きなのは……」

 そこまで呟いて次の言葉を呑み込んだ。

 そうさ……。

 興奮しかかった気持ちがようやく治まってくると、僕は服と一緒に買ってもらった皮のハンドバッグを片手に部屋を出た。

 小田みゆきとして、偽りの姿を映した写真入りのIDカードを携えて……。

 ドアの鍵を閉め、パンプスの高い踵を気にしながらゆっくりとアパートの階段を下りていくと、眠そうな顔をして上がってくる隣部屋の大学生とすれ違った。

 こくりと会釈すると、彼は驚いたような表情を僕に向け、次の瞬間顔を赤らめて会釈をし返してきた。

「あ、あの、どこかでお会いしましたっけ?」 

「え? あ、その、いいえ……」

 しょっちゅう会っているんだけどな。

 内心そう思いながらも、正体がばれてはまずいので、それ以上は無視することにした。

「すみません、急ぎますんで」

 そのまま横をすり抜けて行こうとする僕の細い二の腕を、彼はぐっと掴む。

「いたっ! あ、あの、放してください」

「え? あ、ごめんなさい。つい力が……すみません。あのう、俺、いや僕と付き合ってもらえませんか」

「はあ?」

 これって……ナンパ!? それもいきなりこんなところでなんて。

「あの、急ぎますんで……ごめんなさい!」

 僕の腕を握り締めた彼の手を振りほどくと、慌てて階段を駆け下りた。

 ふぅ〜全く朝から……でも何かちょっと嬉しいな……って、はっ!?

 朝の街中をミニスカートの裾を翻して颯爽と歩きながら、僕の心の中はうきうきと嬉しいような、誇らしいようなそんな気持ちで満たされていた。

 でも次の瞬間、男が抱く筈の無いそんな自分の感情に気が付いたとき、僕はその場に立ち止まって叫んでいた。

「何なんだ これは!?」

 横を通り抜けたサラリーマン風の男が、怪訝そうな表情でこちらを振り返る。

 そう、その時僕の心の中を満たしていたのは、まるで女の子そのもののような感情だった。

 これって、まさか体だけでなく心も女性化している? 
 そんな……うーん、これってもしかしたら、いつまでもこの姿のままでいると、心も女性に変わっていくのかもしれないな。

 そうだ。早くなんとかしないと、このままでいたら僕が僕でなくなってしまう。

 言い知れぬ不安を抱きながら、僕は再び歩き出した。

 だがその一方で不思議なこともあった。
 
 我に返った途端に、明るい街中をミニスカート姿で歩くことが急に心細くなってきたのだ。

 以前女の子として街中を彷徨った時にはこんな気持ちにはならなかった。女子大生やウェイトレスに憑依した時だってそうだ。むしろ僕はそんな状況を楽しみ、そして一方で己の性欲に呑み込まれていった。

 でも今は全く違う。

 そう、白のゼリージュースって、ほんとにいろんな意味で赤や青のゼリージュースとは違う。

 まあコントロールできないような欲望に振り回されるよりはいいんだけど、多分どっちのゼリージュースも僕の心の中の何かを狂わしているんだろうなぁ。

 赤や青のゼリージュースは増幅された自分の欲望の赴くまま。それも性欲がやたら強くなったけれど、この白のゼリージュースは何だろう。

 服従心、依存心、羞恥心、そんなものが強まっているのかもしれないな。

 赤や青が陽としたら、白は陰。赤や青が表だとしたら、白は裏だよなぁ。

 この違いってまだまだ研究する必要があるな。そうだ、それぞれの欠点を分析して補え合えば、ゼリージュースの完成度をもっともっと高められるかもしれないゾ。

 そんなことを考えながら駅に向かって歩いていると、昨日の帰りに感じたのと同じように、何処からか見られているような、そんな気配を感じる。

 この視線……何だかなぁ〜。

 そう、さっきの大学生の反応でも実感させられてけれど、今の僕がため息をつくようなかわいらしい女性に変身しているってことは自分でもわかる。でも僕は自分が思っている以上に、女としての魅力を発散しているらしかった。

 それを強く思い知らされたのは、駅に着いてからだ。

 やたらと周囲の男の視線が絡みつくのだ。それも一人や二人じゃない。

 駅の構内を歩きながら、ふと不安に陥った。

 何なんだこの感じ。

 ちょっと嫌な感じがしたけれど、とにかく電車に乗るしかない。僕はホームに上がるといつものように電車を待つ人の列に並ぶことにした。

 でもホームに上がると、そこはラッシュアワーで人が溢れ返っていた。

 あっちゃあ〜、もうちょっと早く出てくれば良かったな。う〜ん、何か悪い予感がするゾ。

 そんな心の中を黒い雲が覆っていくような不安を他所に、程なく電車が入線してきた。

 扉が開くと、僕は人の波に押されるように電車の中に押し込まれてしまう。

「きゃっ!」

 電車の中はぎゅぎゅっと押し込まれた人の熱気でむんむんしている。そして満員の電車の中、すっかり小柄になってしまった僕の周りは、気が付くと男だらけだった。いや、男しかいない。スーツ姿の中年のサラリーマン、ラフな格好の学生やフリーター。……そう、気が付くと僕はすっかり男性に取り囲まれていた。

 周りに立っている全員が、僕より背の高い男。そう、女性が一人としていないのだ。

 はぁ、はぁ、はぁ。

 何処からか男の荒い息遣いが聞こえる。

 暑いから? 混んでるから? いやこの息遣いって、どうもそんなものとは違う。

 僕の中で不安感がますます高まってくる。そう言えばこの電車って……。

 突然電車が走り出し、車体ががくんと揺れる。すると回りの男どもは必要以上に体を僕にのし掛けてきた。

「ぐぇうっ!」

 ううう、これって……まさか、わざと!?

 そう、それからも走る電車が揺れるたびに回りに立った男たちは一斉に僕に体を押し付けてくるのだ。いや、それだけならまだいい。

「ひゃうっ!」

 誰かの手が僕の胸元に伸びてくる。不可抗力を装うかのように僕の盛り上がった胸に手の甲が押し付けられる。それも二本三本と段々と数が増えてくる。

「な、何!?」

 次に電車が揺れた時 誰かの脚が僕の両脚の間に、穿いているミニスカートの両脚の間に分け入ってきた。再び電車が揺れると、膝を股間にぎゅっと押し付けられる。

「あうん」

 がくんがくんと揺れる度に、押し付けられた膝は僕の股間をぐいぐいと刺激する。

「ちょ、ちょっと、誰、だ、だめ、あふっ、や、やめ……て……はぁはぁ、はぁはぁ」

 ふっ。

 突然誰かが吐息を僕の耳元に吹きかけた。

「ひっ!」

 ビクっと体が震える。

 その刺激に思わずきゅっと目を閉じると、今度は背中のほうから脇の間に手が差し込まれ、ブラジャーごと胸をむぎゅっと握り締められた。

「だ、誰? やめ、やめて……はぁはぁはぁ、はぁはぁはぁ」

 何時の間にか、僕の体にはいくつもの手足が押し付けられ、弄られていた。

 胸に、股間に、そして次に電車が揺れた時、スカートが捲り上げられると、お尻をむぎゅっと掴まれた。

「ひぃっ!!」

 お尻を掴んだ手は、もぞもぞと後ろからパンストの中に侵入してくる。そして穿いてるビキニショーツの中にそれが強引に潜り込んでくるのを感じた。

 前からは膝を押し付けられ、後ろからは太い指が、太ももの付け根を、僕の割れ目をぐいぐいと刺激する。

「あ、あん、いや!!」

 じゅん。

「あ、だ、だめ、やめ、やめて、誰か……」

 力が抜けるぅ。あうう、股間の奥から……でる……駄目だ。

 僕の中に潜り込んできた指は、湿り気を増してきたソコを容赦なく刺激する。そして……。

「あ、あくぅ、ううう、やめ、やめて、やめてぇぇぇぇ!」

 




 渋谷に着いて満員電車のドアから転がるように吐き出された時、何も抵抗できずに立ったままいかされてしまった僕は、息も絶え絶えになっていた。

 歩くと、濡れた股間が気持ち悪い。

 慌てて駅の女子トイレに駆け込み個室に入ると、僕は穿いているパンストと濡れたショーツを下ろして便座に座った。そして情けない気持ちに浸りながら、トイレットペーパーで自分の股間とショーツの股間のあて布を何度も拭いた。

「はぁ〜〜〜全く、何で朝からこんな目に……」

 尚も湿り気の残ったショーツを再び股間にくいっと引き上げながら、僕は深いため息をつくしかなかった。

 そうだ、この電車って痴漢が多いって全国でも有名だったんだな。ふぅ〜、それにしてもこんなことがこれから毎日続くのか……。 

  





「おはようございます。はぁはぁはぁ」

 ようやく研究室に入った僕を、由紀さんはにこにこと笑いながら迎え入れた。

「おはよう、あら? どうしたのとし‥‥いえ、みゆきちゃん。そんなに疲れた顔をして」

「どうもこうもありません。由紀さん、毎日こんな目に遭ったらとても身が持ちませんよ」

「痴漢?」

「っていうか、集団で誰だかわからないんですよ」

「それだけみゆきちゃんが魅力的だってことよ。もっと自信を持ったら」

「自信って、何の自信を持てって言うんですか!」

 すました顔でそんなことを言う由紀さんに、女の子として痴漢されてしまった僕はちょっとむっとして言い返した。

「あら、女としてのに決まってるじゃない。あたしだって今のあなたを見てると何かこう、
うふふ……」

 にやっと笑った由紀さんが、目に妖しい光を漂わせている。

「き、着替えてきます!」

 僕は慌てて部屋を飛び出した。

「はぁ〜、全く由紀さんときたら」

 廊下を歩きながら、由紀さんの言葉に僕はため息をつくしかなかった。

 『自信を持て』と言った由紀さんの言葉、それが妙に耳の奥に残る。

 女として自信を持てって言われてもなぁ……

 でも由紀さんが半ば茶化して言ったその言葉の意味は、僕が考えていたものとはちょっと違っていた。

 それがわかったのはもう少し後のことだった。






 ロッカールームでピンクの高原ビューティクリニックの女子制服に着替えると、その上に白衣を羽織った。

「くぅ〜〜、この格好も妙に似合ってるよなぁ……」

 ロッカーの鏡に映る自分を見ていると、恥ずかしさと共にまた変な気持ちになってくる。

「駄目だ駄目だ。……もうなるべく鏡は見ないようにしよう」

 そんなことを考えながら研究室に戻った僕を由紀さんと摩耶ちゃんがにやりと笑って迎える。

 うっ、この二人。

「どうしたの、みゆきちゃん」

「どうしたって……」

 由紀さんにじっと見詰められて、思わず身を硬くする。

「みゆきさん、がんばってくださいねぇ」

「え? は、はい」

「ほら、時間がないでしょう」

 由紀さんがにこっと笑いながら近寄ってくると、僕のお尻をポンポンと叩く。

 ふぅ。

 仕事が始まると、由紀さんも摩耶ちゃんも真剣にディスプレイに向かっている。午後は二人ともクリニックの仕事で席を外したけれど、その間も僕は高原社長に言われた通りに今までの試作データーを整理していった。そして同時にデーターの中に僕が元の姿に戻る為の手がかりがないか一つ一つ洗い直してみた。

 でも、なかなかそれらしいデーターは見つからない。

 試作品のデーターはどれもこれも怪しげな肉体の変化を表すものばかりで、元の姿に戻るための手がかりに繋がるような事象はなかった。

 そんな作業を繰り返しながら、あっという間に何日かが過ぎた。






 その日摩耶ちゃんは有休で、研究室には由紀さんと僕の二人だけしかいなかった。

「俊行さん、どお」

 久しぶりに二人っきりということもあり、由紀さんは僕のことをみゆきちゃんと言わずに俊行さんと呼んでくれる。

「う〜ん、なかなかめぼしいものはありませんね」

 足を組んで椅子に座り、僕のまとめていたデーターに目を通していた由紀さんは、その時はっと何かを思いついたように僕に向かって小さく叫んだ。

「俊行さん。あたしたちってもしかしたら今まで勘違いをしていたかもしれない」

「え? どういうことですか?」

「何と表現したらいいんだろう。ねえ、ゼリージュースの作用そのものをチャラにする解毒剤みたいなものはできないの」

「解毒剤ですか?」

「そう、ゼリージュースの効果そのものを失わせてしまうものよ。素材の組み合わせ云々なんて関係ない、ゼリージュースの力を無力化するアンチゼリージュースとでも言ったらいいのかしら」

「……なるほど。まあ『表』は飲んだゼリージュースを体から全部出してしまえば良い訳ですから、下剤が言わば解毒剤みたいなものかもしれませんね。でも『裏』のほうは下剤でも無理ですからねぇ」

 いつしか僕は、体から排出すれば効果が無くなるゼリージュースのことを『表』、一度飲むと怪しげな効果を持続し続けるものを『裏』と分類して呼ぶようになっていた。

 『表』のゼリージュースは、まあ多少問題はあるけれど比較的安心して使うことができる赤と青の二つ。紫のプロトタイプもそれほど危険じゃない。

 問題なのは『裏』のゼリージュース。つまり赤、青、紫以外に作ってしまった試作品ということになる。効果がずっと持続し続けるし、中にはほんとに恐ろしい作用を持つものがいくつもあった。

 そう、恐ろしい。もし悪用されたら……いや『裏』のゼリージュースはまともな人間の使う代物じゃない。高原社長はこんな危なっかしいものをどうしようって言うんだ。

「俊行さん??」  

「え? あ、すみません。ぼ〜っとして。ゼリージュースの効果自体を失わせるものですか。
そう言えば基本的なことなのに、そんなことは考えたことがなかったですね」

「ねえ、俊行さん」

「え?」

「あなたもっと自信を持ちなさい」

「……女としてのですか?」

「違うわよ。この素晴らしいゼリージュースを作り上げたのは誰でもない、あなたなのよ。
今のあなたの姿はその証。ゼリージュースを作った自分にもっと自信を持てって言ってるの。確かにまだまだ未完成な部分はあるけれど、これから無限の可能性を秘めていることには間違いないのよ」

「自信ですか」

 そうだ、確かに今の僕は自信を失っている。ゼリージュースの欠点ばかりが目に付いて、ゼリージュースの為に自分自身も改造されてしまって……。

 そうか、あの時の由紀さんはそのことを言いたかったのか。

 ちょっとだけ心の中のもやもやが晴れた僕に、由紀さんは意外な提案をしてきた。

「ねえ、俊行さん。あなた一度虹男さんに会ってきたらどお?」

「虹男さんって、あのインドの山奥で修行してきたって……」

「そうよ。彼の居場所はあたしと芳雄さんしか知らないんだけど、ゼリージュースの鍵になっている成分は、虹男さんのハーブエキス……ハーブミックス・ダッシュセブンなんでしょう。もしハーブエキスの成分を分解するか無力化することができれば、どんなゼリージュースだってその効力を失うんじゃなくって。その手がかりをあなた自身が彼に聞いてきたらどうなの」

「ハーブエキスの成分を無力化ですか……なるほど。でもいくら僕が虹男さんに会いに行きたいって言っても、高原社長がそんなことを許す訳ないでしょう」

「あなたが行きたいって言ってもね。でもあたしが行くのなら何の問題も無いわ」

「由紀さんが行くのなら、そりゃあまあそうでしょうけど」

「じゃあそういうこと」

「そういうことって……まさか!」

「ふふっ、俊行さんがあたしの姿になって、柳沢由紀として虹男さんのところに行くといいわ。そして彼の意見をよく聞いてくるの。そう、アーユベータにも詳しい虹男さんなら私たちが気が付いていないハーブエキスの成分のことを知っているかもしれないし、その効力を失わせる方法を知っているかもしれない。もしかしたら彼の持っている他のハーブの中に、今使っているハーブエキスの解毒作用を持つものがあるかもしれない。それをあなたが直接彼に会って確かめてくるの」

「でも由紀さんの姿になるって言ったって、どうやって? 赤はもう手元には無いですよ」

「もう一つ残っているでしょう。まだ使っていない『表』のゼリージュースが」

「え?」

「あの黄色いやつのことよ」

「黄色い? ええ!?」

「ねえ、あれの効果の検証はもう済んでいるんでしょう」

「……はい。そうか、由紀さんはアレの効果を知っているんですね。確かにあれは『表』のゼリージュースです」

「ごめんなさい。机の上の俊行さんの検証レポート、勝手に読ませてもらったの」

「やっぱり読んでたんですね。盗み読みなんで、駄目ですよ」

「ふふっ、ごめんね」

 由紀さんがパチっとウィンクする。

「あの黄色いゼリージュースは入れ替わりのゼリージュース。二人で飲んでゼリー化した体を合わせると、二人の体が入れ替わる」

「そうね。だからあれをあたしたち二人で飲めば、あたしと俊行さんの体は入れ替わるんでしょう。そうしたらあなたはあたしとして堂々と虹男さんに会いに行くといいわ。あたしはあなたの姿でここにいてあげるから」

 僕が由紀さんになる。由紀さんと僕の姿を入れ替える。

 由紀さんのその思いがけない提案に、僕は思わずくらくらしてしまった。

 でも……。

「でも白のゼリージュースの効果が持続しているこの体で、その上さらに黄色のゼリージュースを飲んだらどうなるのかなんて検証してないんですよ」

「俊行さん、あなた怖いの?」

「い、いえ、そんな、怖いなんて……」

「これがチャンスってものじゃあないの。チャンスは自分の手で掴むものでしょう。それともデーターを全部高原社長に渡して、社長に『お願いですから僕を元に戻してください』って泣きつくの?」

「嫌です! それは……それは絶対に嫌です!」

「そうでしょう。あなたも男だったら覚悟を決めてみたら」

「……あたし、女の子だもん」

「ぷっ、こんな時だけ都合が良いわよ」

「えへへへ」

「ふふふ」

「「あっはっはは」」

 僕と由紀さんは大声で笑った。

 こんなに笑ったのはいつ以来だろう。

 そうだ、由紀さんの言う通りだ。今やらなければきっと後悔する。

 ふっ、『自信を持て』か。

 よし、やってみるか。

「わかりました由紀さん。僕のほうこそお願いします。この僕としばらく入れ替わってください。僕はこのままでいるつもりはないし、高原社長に無為にゼリージュースを渡したくない。
やりましょう」

「ええ、それじゃあ」

「はい」

 僕は冷蔵庫の奥に入った1本のゼリージュースを取り出した。

 それは黄色いゼリージュース。

 二つのグラスを取り出し、その中にむりむりと注いでいく。

 グラスに黄色いゼリージュースが満たされていく。

 その一つを右手に持ち、もう一つを由紀さんに手渡した。

「じゃあ先に飲みますね」

「ええ」

 ごくっごくっ。

 一気に飲み干すと、僕の喉をひんやりとしたゼリージュースがぷるぷると下りていく。

 僕の様子を見ていた由紀さんは真顔に戻っていた。そして僕に続いてグラスを傾け、
こくっこくっと飲み干していった。

「由紀さん」

「うん」

 グラスを持った自分の手が段々と透き通っていく。

 そう、僕の体はゼリー化し始めていた。






 ・・・今回のお話はここまでといたします。弱気になっていた僕を叱咤してくれた由紀さん。
この時の彼女のことは今でも忘れられません。
 さて、ようやく登場した黄色のゼリージュース。僕と由紀さんは無事入れ替わったのか。
そして虹男さんに会って解決のヒントはもらえたのか。その話はまた次回。

 ゼリージュース!外伝(4)「気分はトロピカル(後編)」 ・・・終わり




                                      平成17年3月20日脱稿




後書き
 「気分はトロピカル(中編)」をアップしてからもうすぐ1年が経とうとしています。このシリーズ、ほんとにお待たせしてばかりで申し訳ありません。でも必ず完結させますんで。
 今回出てきた虹男さんとハーブミックス・ダッシュセブンの設定は、第一話「始まりはハーブと共に」以来の登場になります。もともと普通の飲み物だったゼリージュースに虹男さんのハーブミックス・ダッシュセブンを加え、この二つをベースにしていろいろな成分を加えることで様々な効果を持たせたのが「TSゼリージュース」ですが、さて皆さんこの設定って憶えていましたでしょうか(笑
 次回から始まる第5話、今度こそ最終話にしたいと思います。前後編になるのか、前中後編になるのか、それはまだ私にもわかりませんが、どうぞお楽しみに。
 それではここまでお読みいただきました皆様、どうもありがとうございました。
 
 toshi9より
 感謝の気持ちを込めて。






「ゼリージュース!外伝」
作品予定(あくまでも予定ですが)

第1話     始まりはハーブと共に(Ver.1.02) (プロトタイプ・変身)  2002年 7月12日脱稿
  
第2話     いちごの誘惑               (赤・変身)   2002年 7月27日脱稿

インターミッション  プリティフェイス/ラブボディ (プロトタイプ・部分変身)  2002年 8月25日脱稿

第3話     今宵ブルーハワイを御一緒に(前編)(赤・変身)    2002年10月 2日脱稿
         今宵ブルーハワイを御一緒に(中編)(青・憑依)   2003年 1月13日脱稿
         今宵ブルーハワイを御一緒に(後編)(青・憑依)   2003年 6月21日脱稿

第4話     気分はトロピカル(前編)       (白・改造)    2004年 1月18日脱稿
         気分はトロピカル(中編)       (白・改造)    2004年 4月15日脱稿
         気分はトロピカル(後編)       (白・改造)    2005年 3月20日脱稿

第5話     幸せの黄色い・・・          (黄・入れ替わり)













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