由紀さんのマンションで、僕は摩耶ちゃんの体から離れる為にトイレに入った。それは、この青のゼリージュースも赤のゼリージュースと同じように、体の中からゼリー出せばその効果が失くなって摩耶ちゃんの中から出ることができるって確信していたからだ。

 ゼリーを出した後、トイレの中で座ったまましばらくじっとしていると、果たして段々と体がむずむずしてきた。やがてそのむずむずに我慢できなくなって立ち上がると、立ち上がったのは僕の透明の体だけ。つまり摩耶ちゃんの体からうまく出ることができたんだ。摩耶ちゃんはまだ意識が戻らないのか、僕の目の前でぼーっと座ったままだ。

 よし、今のうちに

 すぐにトイレから出ると、間もなく僕の皮膚は徐々に元の肌色を取り戻し始めた。

 でもすっかり肌の色が元に戻ると、今の自分って裸だっていうことに気が付いた。こんな格好でどうすればいいんだ〜





ゼリージュース!外伝「今宵ブルーハワイをご一緒に(後編)」

作:toshi9





「きゃははっ、お、おかしいぃ、そうか、体から抜けた後って裸なんだ」

「笑い事じゃないですよ。まあ、摩耶ちゃんのほうはまだしばらく気が付かなかいみたいなんで良かったものの・・・それにここが由紀さんのマンションだっていうのが不幸中の幸いなんですがね」

「そうも言ってられないんじゃない。もしかして摩耶ってそろそろ気が付くんじゃないの」

「げっ! それは」

「俊行さん、私の服貸してあげましょうか・・ぷっ」

 由紀さんはまだ笑いを堪えきれないようだ。全く・・・

「それもまずいでしょう」

「じゃあこれ使ってみる」

「あ! 巨峰じゃないですか。何でここに」

「以前あなたに調査用の試作品を作ってもらった時にもらった1本よ。家に持って帰ってきてたの。結局そのまま使わず終いだったけどね」

「じゃあ、何か写真」

「そうね、うちのパンフレットがあったかな」

「あ、それで充分ですよ。恵利華ちゃんが写っていますよね」

 恵利華ちゃんならもう何度も変身しているのでイメージを浮かべやすい。僕はそのプロトゼリージュースを飲むと、高原ビューティクリニックのパンフレットをじっと見詰めて恵利華ちゃん・・中田恵利華の姿になった。しかしこのプロトタイプは相変わらず完全に変身できないな。今日も結局ナニは元のまま・・・

 まあ「服を着ればわからないわよ」って由紀さんが言うんで、取り敢えず由紀さんの下着とTシャツとスカートを借りて、それを着込もうとしたんだけれど、ブラジャーはサイズが合わないんで、仕方なしにノーブラの上にTシャツを被った。

 けど、うう、乳首がこすれる。

 何とかTシャツを被ってスカートのファスナーを引き上げた時、丁度摩耶ちゃんがトイレの中から出てきた。

「ここって先輩のおうちですかぁ・・私どうしてここに、それにあたしったらいつの間にお手洗いに・・」

「あら、摩耶酔っちゃったの。あなたお泊まりに来てたんじゃない」

「ええっと・・そうでしたっけぇ。あらぁ、恵利華さんも来てたんですかぁ」

「え、ええ。でももう帰るところだから。またね摩耶ちゃん」

 こうして由紀さんのマンションを出ると、何とかうちに帰り着くことができた。

 結局青のゼリージュースを使って他人に憑依した後で元に戻る為には、赤と同じようにゼリーを体外に出せば良いということはわかった。排出した後、憑依している体からは約2分程度で外に押し出される。押し出された後透明なゼリー状の体から元の体に完全に戻るまでは約5分あった。憑依されていたほうは、こちらが離れた後しばらくは意識を無くしているらしい。だからその間にその場所から離れれば良いという訳だ。


 さて、由紀さんも言っていたけれど、もっともっとデーターを取ってみなければいけないな。ふふふ。

 僕は、恵利華ちゃんの姿のまま椅子に座って脚を組むと、色々な女性に憑依してみる自分を想像してにやけてしまった。雪菜と同じ女子高生になって高校に通ったら学校ってどう見えるんだろう。デートしている女の子になったらどんな風に感じているんだろう。小学生の女の子になってお母さんとお買い物してみるってどうかな。イベント会場でコンパニオンになって多くの人に見詰められたらどう感じるのかな。そういえばあのファミレスのウェイトレスになって振舞ってみるってのもいいよな。いろんな女性になって色々な男とセックスしてみたらどう感じるだろう。セックスも人によって感じ方が違うって言うよな。
 その時はどれだけ色々な女性になってみようか、どんなパターンのデーターを取ろうかということに夢中だったけれど、それが何時の間にか自分の欲望にすりかわっているんだということに、僕はまだ気づきもしなかった。




 そして翌日から一週間の社外勤務扱いにしてもらった僕はデーター取りに励んだ。


 一日目

 最初に実行してみようと思ったのはアパートの近くのファミレスに行ってみることだった。そう、そこは以前由紀さんと一緒に入ったファミレスだ。あの時から何故かずっとここの制服・・・白いブラウスとピンクのミニスカートに同じ色ののエプロン・・・を身に付けてみたいって思っていたんだ。

 僕はゼリージュースを飲んで透明になると、件のファミレスに向かった。

 しかし、いくら他人に見えないからと言っても裸で外をうろつくというのはさすがに恥ずかしい。まあ、これもデーター取りのためだ。

 ファミレスに入ると、どのウェイトレスに憑依しようかと女の子を物色した。そして厨房のほうを向いて料理が出てくるのを待っている20歳くらいのかわいい女の子を見つけると、そっとその娘の後に立ち、そして両手を広げてゆっくりと彼女を抱きしめるようにしてみた。

 僕の手はそのまま彼女の中にじわじわと入っていく。

「ひっ」

「どうしたの裕子、変な声上げちゃって」

 この子、裕子って言うのか。ぶるぶる震えているな。僕の体が彼女の中に入ると運動神経が失調するのかな。

 摩耶ちゃんに憑依した時は事故みたいなものだったんでよくわからなかったけれど、今度はじっくりと自分が憑依する様子の観察と分析をすることができる。

「あ、あ」

 僕はそのまま一歩前に踏み出してみた。すると僕の透明の体は目の前にある裕子ちゃんの中にそのままずぶずぶとめり込んでいった。

 そして僕の顔が彼女の後頭部に入った瞬間、視界が暗転した。でもそれはほんの一瞬のことで、それから徐々に視界が戻っていった。僕の目の前には出来上がった料理が並んでる。

「ほら、裕子早く持っていって。6番テーブルでしょう」

「は、はい」

 横から声をかけられて思わず返事をするものの、それは最早僕の声ではなかった。透き通った女の子の声。うん、成功だ。

「どうしたの」

「あ、すみません。6番テーブルでしたね」

 僕はこの裕子って子になりきって料理を持っていくことにした。これも経験だ。

 ひらひらとミニスカートをひる返してテーブルに料理を持っていく。

「お待たせしました」

 テーブルには高校生くらいの男の子が一人で座っている。

「ああ、ありがとうございます」

「ご注文は以上でお揃いですか」

「うん、これでいいよ」

「はい、それではごゆっくりどうぞ」

 僕はにっこりと微笑むと、お決まりのセリフをその男の子に投げかけた。彼は少し赤くなっている。ふふっかわいいな。ちょっと胸の先がきゅんとする。

 ・・・あ、そうか、この感じ。これってこの裕子って子の感覚なんだ。この男の子の様子を見てこんな風に感じるんだなぁ。



「すみません、ちょっとお手洗いに行ってきます」

 お昼の忙しい時間が過ぎて、ちょっとお客さんが減ってきた頃、僕はもう少し自分の姿をじっくりと観察してみることにした。

 間違えないように女子トイレに入ると、手洗い場にある大きな鏡の前に立った。そこに映っているのは勿論僕ではなく、頭に白いカチューシャを付けたエプロン姿のかわいいウェイトレスだった。

 へへっ、これがぼくか、なかなかじゃないか。

 スカートを摘み上げてちょっとポーズを取ってみる。

 うーん、いいね

 いろいろなポーズを取って思う様自分のウェイトレス姿を堪能した僕は、取り敢えず満足だった。新しいデーターも取れたし、今日はこの辺にしようか。そう思ったとき、はたと気が付いた。

 しまった、下剤がない。便意も無いし、ゼリーが出せないゾ。

 結局その日は、交代時間まで裕子ちゃんとして目一杯働くことになってしまった。

 ゼリーを出すことができたのはその後のことだったんだけれども、ゼリーを出した後元に戻るまであまり時間がないということを思い出した僕は、裕子ちゃんの姿で一旦自分のアパートに戻るとうちのトイレでゼリーを出したんだ。それから服を着て、裕子ちゃんが気が付かないように担いで外に出て・・・

 つ、疲れた。




2日目

 ゼリージュースを飲んで透明になると、今度は女子大のキャンパスに入ってテニスコートに行ってみた。

 丁度コートに入ろうとするテニスウェアの娘がいる。うん、この娘にしよう。

「由美子、遅くなってごめーん」

「遅いよ美香、早くやろうよ」

「うん、ひっ」

「どうしたの」

「あ、ああ、・・・っと、ううん何でもない。さあ始めよっか」

「うん。じゃあそっちから打って」

「あ、あれ」

「ど、どうしたの、美香って急に下手になったみたい。体調でも悪いの?」

「ううん、そんなことないんだけど・・・いくわよ」

 すかっ

「なに空振りしてんの」

「ごめんごめん」

 テニスの上手な子に憑依すればテニスが全く駄目な僕でも上手くテニスができるんじゃないかって思っていたけれど、この子の運動感覚と自分の感覚にずれがあるみたいで、上手くボールがラケットに当たらない。結局この美香って娘と同じようにプレーすることはできないみたいだった。

 なかなか上手くいかないものだなぁ、ちょっと残念。




「美香、今日はどうしたの。ミスばっかりしちゃって」

「由美子ごめーん。それより早く汗流そうよ。もうべたべた」

「そうだね。でも今度はこんなの無しだよ。美香ほんと今日は変だったよ。それに虫でもいたの、何だか自分の脚やお尻をしきりに気にして触ってたし、かと思うとあたしのほうばっかり見ていたみたいだし」

「だってスコートの中が丸見えだし・・とと、なんでもない」

「もうどろどろだね。早くシャワー浴びようよ」

「そうだね、行こう行こう」

「美香ったら何にやけてるの」

「え? ううん、何でもないよ」

「変な美香」





「気持ちいい〜」

「まあ、どうしたの美香ったらそんなに喜んじゃって」

「シャワーってほんと気持ちいいね。ねえ由美子」

「ひゃっ、何するの」

「由美子の胸ってきれいなんだもん。それにやわらかーい」

「まったく、何言ってるんだか。それお返しだ」

 むにゅ

「ひゃん、やったな、じゃあ両手攻撃だぞ」

「い、いや、あ、ああん、こっちもお返しだ」

「あ、あん、いい、いいよぉ」

「あんた何悶えてるの、今日はやっぱり変だよ」

「へへっ、何でもない。でもシャワーも由美子に揉まれるのも気持ち良かったよ」

「まあ」 

 運動した後のシャワーは爽快だった。いつもアパートで浴びるシャワーとは違う心地よさがある。それにしても女の子同士ってのも良いもんだなぁ、へへへっ。




3日目

 ラブホテルの近くを通ると、丁度カップルが入ろうとしていた。ショートカットの女の子はスタイルが良くって結構美人だ。男もまあまあだし、よし、今日はあの子の中に入って、久しぶりに女の子のセックスを味わってみるか。


「あ、ああぁ」

「どうした、涼子」

「か、何か入って、かはっ」

「おい、大丈夫か」

「はぁはぁ、え、う、うん大丈夫。さ、続きしよっ」

「おう、でも本当に大丈夫か。今日は止めとくか」

「駄目、大丈夫だからはやくしようよ」

「そうかい、おっとそんなに強く抱きしめるなよ」

「好きっ」

「何か急に積極的になったな。よしじゃあ行くぞ」

「う、うん、ひゃっ、あ、ああ、この感じだ」

「え?」

「ううん、なんでもない。気持ちいいよ。もっと動いて」

「こうか」

「あ、あん、い、いい。いいよぉ、ねぇ、胸も吸ってぇ」

「よし、んん、んん」

「はあん、ああぁ、いい、いいよ、はぁはぁ、あ、ああん」

 男が腰を動かす度に僕のアソコの中を男のアレが出たり入ったりしてクチュクチュといやらしい音を立てている。そしてその度に僕の中の快感はどんどん体全体に広がっていった。

「ああ、うっ、も、もういきそうだ」

「うん、いいよ、私もいきそう」

「う、ううぅ」 

「あ、あああ、あああん」




「はぁはぁ、何かお前今日はいつもと感じが違うな」

「はぁはぁ、そお、どんな風に」

「今日のお前、いつもよりかわいかったぞ。何か初めてした時みたいだった」

「へへっ、そうかな。ねぇ今日のあたしといつものあたしとどっちがいい?」

「そりゃ勿論今のお前さ。好きだぜ涼子」

 チュッ

「あん、ありがと」

 本人より僕のほうが良いってか。こいつ僕が自分の彼女に成りすましているって気が付かないんだ。僕もなかなか・・・それにしても気持ち良かったな。ただの快感とは違う、体全体が包み込まれるような心地よさ、女の子が愛されるってこんななんだな、へへへっ。




4日目


「今日は雪菜とあの友達がサロンに来る日だったよな。今日は・・・よし」

 最近エステサロンに雪菜と一緒に来ている同級生らしき娘、今日はあの子に憑依してみるか。しばらく雪菜の友達として振舞ってみるのも面白そうだな。

 勿論、雪菜はまだ僕がここに出向していることを知らないはずだ。僕は午後になって高原ビューティクリニックに行ってみた。

 由紀さんは丁度部屋にいないようだったので、エステサロンのスケジュール表をチェックしてみた。丁度雪菜たちはボディマッサージが終わる頃だということを確かめると、青のゼリージュースを飲んで透明な体になり、エステサロンに行った。マッサージルームにそっと入ると、そこには丁度水着姿のあの子が毛布一枚で台に寝そべっていた。

 僕は彼女の足元に立つと、寝ている彼女に気づかれないようにゆっくりとベッドの上に上がった。

 彼女はうつ伏せに枕を抱いてすーすーと寝息を立てている。

 よし

 僕は彼女の足元に立つと自分の右足をそっと彼女の足の上に乗せた。そして右足をゆっくりと降ろすと、僕の足は何の抵抗も無く彼女の右足にずるずると沈み込んでいく。

 うっ

 彼女はぴくっと顔をしかめたようだ。でもまだ起きる気配はない。

 続いて左足。これもずぶっと沈んでいく。

 膝を折って膝からふくらはぎまでを彼女のものに重ねていく。

 よし、あとは一気に

 僕は、彼女の後ろからゆっくりと自分の上半身を重ね合わせるように下ろしていった。

 僕の腕が、お腹が、胸が彼女の中に沈んでいく。そして最後に頭を沈める。

「う、うーん、い、いや」

 僕が頭を沈み込ませる直前に彼女は無意識に呟いたが、もう遅い。

 頭を沈み込ませると、一瞬視界が暗くなったけれど、徐々に視界を取り戻していった。

 腕や体に毛布の感触を感じるようになる。

 胸には軽く締め付けられるように何かを巻かれている感覚。この感覚、ブラジャーだ。
 自分の体の感覚が段々と戻ってくるけれど、それは勿論今までの僕のそれではなかった。

 胸とベッドの間で何かが潰れている感触、股間に力を入れても何の感覚も無い。

 上半身を起こすと、赤いビキニブラジャーに包まれた僕の胸がぷるんと揺れた。あの子の胸。いや、今は僕の胸だ。

 よし、今日も成功だな。

 僕はベッドから立ち上がると、彼女の制服に着替えた。ビキニの水着を上下とも脱ぐと、脱衣籠に入ったシンプルな柄のショーツを代わりに穿き、ブラジャーを胸につける。白いブラウスを着て短いチェックのプリーツスカートに脚を通し、腰のところでホックを止め、ファスナーを上げる。赤いリボンタイを付け、紺のソックスを穿くと、僕は雪菜と同じ高校の制服を着た女の子になっていた。

「あら、亜樹ちゃん今日は終わりなの」

 いけない、この声は由紀さんか。

「あ、ゆき、いや、あの、すみませんゆきなちゃんは」

「小野さん? まだもうちょっとかかるかな。あの子最近がんばるわね」

「そうですか。じゃあ私、外で待ってます」

「じゃあ彼女に伝えとくわ。あ、あなた」

「え! な、何ですか」

「・・・いえ、何でもないわ」

「じゃあ今日はこれで」

 由紀さんがちょっと考え込むような仕草を見せたので慌てて部屋を出た。

 由紀さん感が鋭いからな。気をつけなくっちゃ。

 しばらく待っていると、雪菜が出てきた。よし、女の子らしく話さなきゃな。

「あ、亜樹ちゃん、待ったぁ」

「ううん、全然平気だよ」

「ごめんね待たせちゃって。さあ行こっか」

「うん」

 僕たちはそれから二人で近くの甘味処の店に入った。

「何になさいますか」

「亜樹ちゃん、何食べようか」

「雪菜ちゃんは」

「あんみつ!」

「ダイエット中じゃないの」

「えへっ、だってここのあんみつおいしんだもん」

「あたしも同じでいいよ。すみませーん、あんみつ二つ」

 しばらくして、あんみつが二つ、お茶と一緒に出てきた。

「おいしーい」

 雪菜がおいしそうに食べている。こいつこんなもんが好きだったのか。

 さて僕も・・うわぁ、でもちょっと甘そうだな・・・

 スプーンでひとすくい食べてみた。

 ・ ・・ ・・・おいしい

 こんなに甘いのにどうして。

 不思議だった。甘いものは仕事柄苦手じゃないが、あんみつはさすがに甘すぎると思っていたのだが・・そうか、これってこの子の味覚なんだ。これが女子高生の味覚・・か。

 ゼリージュースって・・こういう使い方ができるんだな。

 青のゼリージュースで憑依すれば、わざわざ飲料の試作品の味覚調査をしなくても自ら対象になれるんだ。女子高生向け飲料の時には女子高生に憑依して飲めばいいし、小学生や老人向けだってそうだ。今まで感想を聞いても、微妙なニュアンスを理解するのに苦労していたけれど、これを使えば一発じゃないか。

 それは思わぬ発見だった。憑依している体の感覚を自分のものにできるのだから当然なんだが、今までちっとも気が付かなかった。

「亜樹ちゃん、どうしたの」

「え、ううん、このあんみつおいしいなって」

「へへ、そうだね」

「ねえ雪菜ちゃん」

「え、なに」

「雪菜ちゃんって、お兄さんがいるんだよね」

「うん、二人、下の広幸お兄ちゃんと上の俊行兄さん」

「二人ってどんな人なの」

「そうね、二人ともあたしに優しいんだ。広幸お兄ちゃんは年も近いし小学校の時まではいつも一緒に泥だらけになって遊んてたんだ。ちょっとおっちょこちょいで軽いのが玉に傷だけど、あたしのことになるとこっちがおかしくなるくらい一生懸命になるんだ」

「ふーん、じゃあ俊行さんってどんな人なの」

「そうね、俊行兄さんとは年も離れているし、あたしが小学校の時にはもう家を出ちゃったからたまにしか会えないんだ。でも」

「でも?」

「近くにいないはずなのに、いつも見守られているような感じ。いつでも俊行兄さんに包まれているような気がするんだ。中学の時にあたしが危ない目に会った時、あんな所にいるわけないのにいきなり現れてあたしを助けてくれたことがあるの。あの時は・・・」

「どうしたの、急に黙っちゃって」

「ううん、何でもないよ。とにかく暖かいんだ。それに真面目で、たまに帰ってくるといつも世界中の人に飲んでもらえるような飲料を開発するんだって理想に燃えていて、へへっ」

「ゆきな・・ちゃん?」

「あたし、将来結婚するなら俊行兄さんのような人としたいなって、そう思うの。あれ、あたし何話しているんだろう」

 そうか、雪菜まだあの時のこと・・それに僕のことを・・・でも今の僕って。

 その時はっと気が付いた。

 僕は何をやっているんだ。

 自分の欲望が気が付かないうちにどんどん大きくなってコントロールできなくなっている。最初は面白い飲料を作ってやるんだって取り組んでいたはずだ。それが、なぜこんなことになったんだ。何で僕はここにいるんだ。ゼリージュースのせいなのか。

 くそっ

「どうしたの亜樹ちゃん。ぼーっとして」

「ううん、何でもない。ありがとう、雪菜・・ちゃん」

「え? どうして?」

「へへっ、秘密」

「変な亜樹ちゃん、うふふ」

 雪菜、ごめんよ。僕はお前が思っているような立派な男じゃない。こうしている今だってお前を騙しているんだ。でもお前のおかげで目が覚めたよ。

 ゼリージュース。こいつはいろいろな可能性を秘めたすばらしい飲料だ。でも使い方を間違えると自分の欲望に自分自身が潰されてしまう。由紀さんには悪いけれど、このまま高原ビューティクリニックにレシピを出すわけにはいかないな。



 その日は雪菜と一緒に帰りながら久しぶりにいろいろ話ができた。勿論彼女の友達亜樹としてだが、それでも僕にとっては楽しいひと時だった。

 でも今日で終わりだな。

 僕はもう二度とゼリージュースを自分の欲望の為に使うのは止めようとその時心に誓っていた。






 ・・・今回のお話はここまでといたします。雪菜のおかげでようやく何時の間にか見失っていた自分を取り戻すことができたようです。でもその後高原ビューティクリニックや由紀さんとの関係がどうなったのか、何故ゼリージュースが販売されるようになったのか、そして裏ゼリージュースの成立とまだまだ語らなければならない話が残っています。その話はまた次回。




ゼリージュース!外伝(3)「今宵ブルーハワイを御一緒に(後編)」 ・・・終わり




                              平成15年6月28日脱稿  



後書き
 どうもお待たせいたしました。1月に「今宵ブルーハワイをご一緒に(中篇)」を「Ts・TS」にアップして頂いてからあっという間に約半年が経ってしまいました。この半年の間にTiraさんに勧められて私も自分のサイト「TS解体新書」を立ち上げましたが、今度は「Ts・TS」のほうが休止ということになり、本当に半年前とはがらっと状況が変わってしまいました。
 さてその「Ts・TS」も今回リニューアルオープンし、新しくゼリージュースのシェアワールドも公開されました。そんな中、久しぶりに書き上げた「ゼリージュース!外伝」如何でしたでしょうか。今回は外伝の中のターニングポイントとなる話です。欲望の袋小路に陥っていた俊行が、雪菜の一言でようやく目覚めました。これからまた彼本来の研究者魂が発揮されることになると思います。
 次回の「気分はトロピカル」は黄色のゼリージュースのお話ですが、外伝の最後のシリーズでもあります。さて、これからどういう風に本編に繋がっていくのか。お楽しみに!
 それではお読みいただきました皆様、どうもありがとうございました。
 
 toshi9より
 感謝の気持ちを込めて。





「ゼリージュース!外伝」
作品予定(あくまでも予定ですが)

第1話    始まりはハーブと共に(Ver.1.02)   (プロトタイプ・変身) 2002年 7月12日脱稿
第2話    いちごの誘惑               (赤・変身)     2002年 7月27日脱稿
インターミッション  プリティフェイス/ラブボディ   (プロトタイプ・部分変身) 2002年 8月25日脱稿
第3話    今宵ブルーハワイを御一緒に(前編)(赤・変身)     2002年10月 2日脱稿
        今宵ブルーハワイを御一緒に(中編)(青・憑依)    2003年 1月13日脱稿
        今宵ブルーハワイを御一緒に(後編)(青・憑依)    2003年 6月28日脱稿
第4話    気分はトロピカル            (黄・入れ替わり)











inserted by FC2 system