前回までのあらすじ

 大手の食品会社の研究所から高原ビューティクリニックに出向した私こと小野俊行は、柳沢由紀さんとチームを組み「ゼリージュース」の完成に取り組んだ。様々な困難はあったものの、少しずつ問題点を解決していき、遂にイチゴ味の「ゼリージュース(赤)」が完成した。早速自分で試すと変身は見事に成功したが、その時由紀さんがこの飲料に懸命に取り組んでいる理由も知った。その理由とは・・・


ゼリージュース!外伝(3)「今宵ブルーハワイを御一緒に(前編)」

作:toshi9


「あなた、女性の感覚をもっと知りたくない」
 由紀さんのその言葉に僕の心はグラグラと揺れていた。彼女には話していないけれど、僕はその感覚を一度体験している。あの時、体だけが巨乳の女の子になってレイプされた時だ。そう、あの嫌悪感いっぱいの中で感じた感覚、レイプされたのはショックだったけれど、不思議なことにあの感覚だけは心の中にずっと残っていた。
「さあ、どうするの」
「行きます。せっかく女性になれたんですから、思いっきり楽しんでみたいですよ」
「決まりね。じゃあ、早く服着て。一緒に帰りましょう」
「服ってこの体じゃあ、合いませんよ」
「ばかね、恵利華のがここにあるでしょう」
「だって、それじゃ恵利華さんが……」
「彼女っていつも会社に替えを用意しているから大丈夫よ。目が醒めたら摩耶がうまくやってくれるわ」
「じゃあ、これ着るんですか?」
「そうよ。ゼリージュースのことは社内でも極秘事項なんだから、他の人に気付かれないようにしなくっちゃね。さあ早くして」
「は、はあ、それじゃ」

 僕は恵利華さんのショーツをつまみ上げた。これまでにも女性の服は何回か着たことがあるけれど、さっきまで彼女が着ていたものなんて……このショーツまだ暖かいよ。
 レモンイエローのショーツを穿くと、その温もりが肌に伝わって来た。うーんうれしいような恥ずかしいような……。
 ブラジャーのホックを止める。つけ方には結構慣れてきた。
 ストッキングを穿く。でもこれどうやって留めるんだ。
「ふふ、それを使うのよ」
 由紀さんが取り上げたのは釣りガーターというものだった。
「ここをこうやって腰に付けて、ベルトをショーツの間に通したら、そのベルトにストッキングを留めるの」

 由紀さんに付けてもらうと、足を包み込み、ベルトで留められたストッキングがピタッと足に張り付いた。鏡に映った下着姿の恵利華さんは、細い腰がいっそう細く見え、長い足が一層長く見える。そんな自分の姿をじっと見つめていると、思わず生唾をごくりと飲み込んでしまった。

……すばらしいスタイルだ。これが僕。

 ショーツと同じレモンイエローのキャミソールを頭からかぶると、ノースリーブの白いミニのワンピースを身に付ける……ワンピースは初めてだな。背中のファスナーを由紀さんに上げてもらい、髪をブラッシングし直す。最後に首に青いスカーフを巻いてもらうと、出来上がりだ。鏡をじっと見つめていると、ついうっとりしてしまう。

……素敵だ。これも僕。

 でも鏡の端っこに映っている由紀さんがニヤニヤしているのに気がついて、慌てて我に返った。
「彼女ってこんな格好で会社に来ているんですか?」
「うちの専属モデルになっているからいいのよ。それに男どもは彼女が顔を出すのを楽しみにしているみたいだしね」
 ふわっとしたミニのワンピースは、ちょっと風が吹いたらガーターベルトはおろか、ショーツまで丸見えになりそうで、ちょっと憂鬱になった。でも鏡に映った恵利華さんの姿は本当に格好いい。僕がにこっと笑うと鏡の彼女もにこっと笑う。スカートの裾を両手でちょっと摘んでポーズをとると、鏡の彼女もポーズをとる。それは僕が今恵利華さんになっているんだということを改めて実感させた。そう言えば由紀さんと話している自分の声も、もう恵利華さんのソプラノなんだ。

「さあ、行きましょうか」
「はい」
 財布や定期等必要なものだけを由紀さんに借りたショルダーバッグに入れると、二人で地下の準備室を出て一階のロビーまで上がった。このまま何事も無く会社を出られると良いなあなんて思っていたら、突然後ろから声をかけられてしまった。

「やあ、恵利華チャン来てたの」
「は、はい」
(まずい、広報部の部長だ)
「丁度良かった、これからお得意さんと食事でね、頼むから一緒に来てくれないかな?」
「ええ! でもこれから由紀さんと打ち合わせを……」
「急ぎじゃないんだろう。こっちは大切なクライアントなんだよ。いいだろ柳沢君」
「ええ、いいですよ」
「そ、そんなあ」
「じゃあ恵利華、お得意さんに粗相のないようにね」
 由紀さんが僕に向かってウィンクする。
(ちょっと由紀さん、こんな展開聞いてませんよ)
(この部長じゃどうせ断り切れないわよ。それに女を楽しめる良いチャンスじゃない、行ってきたら。後で話を聞かせてよ、ふふ)

 僕は仕方なく由紀さんと別れると部長に付いていった。でも会社の玄関前で部長が待たせていたタクシーに乗り込む時に、ちょっと失敗してしまった。ズボンのつもりでタクシーに乗ろうとしてしまい、ミニワンピースの中身が部長に丸見えになってしまったんだ。ううう、恥ずかしい。
「お、今日は黄色かい。いいもの見せてもらったよ」
 隣りに座った部長が僕の肩を抱く。部長、それってセクハラ……って思わず言いそうになった。痴漢といいレイプ魔といい何でこんな目にばっかり合うんだ。


 タクシーで出発すると、車の後ろで由紀さんがニコニコしながら手を振っていた。全く何を考えているのやら。
 タクシーは南青山のフランス料理店の前で止まった。
「ここだ、恵利華チャン着いたよ」
 今度は慎重に足を揃えて降りる。
「じゃあ恵利華チャン、よろしく頼むよ。話を聞きながら相槌を打つだけでも良いから、先方の機嫌を損ねない様に、ね」
「私、こんな立派なお店は……」
「大丈夫、ここのオーナーとは懇意にしているから安心していていいよ」
 部長の後について店に入ると、個室に案内された。しばらく待っていると件の得意先とやらが入ってきた。40歳位だろうか、長身で精悍な感じの人だ。

「やあ、待たせたね」
「いえいえ、私達も今来た所です。本日はお越しいただきありがとうございました」
「いやいや、こちらこそありがとう。ところでこちらの女性は?」
「うちの今年のシンデレラコンテストで準優勝いたしました中田恵利華です。今は、我が社の専属モデルとしてデビューしております。御贔屓にしてください。中田君、こちらは中山さんだ」
「中田恵利華です。よろしくお願いします」
 僕は軽くお辞儀すると、恵利華さんとして挨拶した。
「ほう、さすがにお美しい。中山です。こちらこそよろしく」
 挨拶すると中山さんの歯がキラリと光ったような気がした。思わずこっちの頬が赤くなってしまう……ってなんで恥ずかしくなるんだ。


 その後中山さんとの会食は無事に終えることが出来た。普段の自分の生活ではとても飲めないシャトーマルゴーの2009年もので乾杯し、丁寧に作り込まれたフランス料理のフルコースをオードブルから順に食べていった。出て来る料理はどれも素晴らしくおいしいものばかりだった。結局、最後のデザートを食べ終える頃には午後10時を廻っていた。

「中山さん、では今後ともよろしくお願いします」
「ああ楽しかったよ。ところで恵利華さん、今夜はまだ平気かい。コンチネンタルに泊まっているんだが、ラウンジで一緒にカクテルでもどうかな」
「おお、願っても無いことで。中田君ぜひ行ってきなさい。中山さんのご要望だぞ、粗相のないようよろしく頼むよ」
「へ!? で、でも、僕はもう……」
「レインボーブリッジが良く見える夜景の素敵なところだよ。このまま別れるのは残念だからね。もう少し二人でゆっくり話しがしたいなあ」
 結局僕はそこで逃げることができなかった。部長と別れて中山さんと二人でタクシーに乗ると、ホテルの展望バーラウンジに連れて行かれた。確かに、窓いっぱいに見えるライトアップされたレインボーブリッジがすごくきれいだ。
「今日は楽しかったよ。君のおかげだ。さあ、何を飲む?」
「ありがとうございます。じゃあブルーハワイを」
「OK。君、ブルーハワイとマティーニを」
「かしこまりました」
 バーテンは鮮やかにシェイカーを振ると、馴れた手つきで二つのカクテルをカウンターに出した。
「君の美しさに乾杯だ」
(キ、キザなことを! でも何だかうれしいゾ)
 僕は中山さんと乾杯した。グラスが良い音をたてる。じっと中山さんの目を見ていたら何となく自分の頬が熱く感じられてきた。思わず手に持った冷たいブルーハワイを一気に飲み干してしまう。
「おかわり」
「お、いい飲みっぷりだね、でも大丈夫かい?」
「いいの」
 でも二杯目を飲むと、目の前がグルグル回ってきた。
 あれ、こんなに弱いはず無い……あ、恵利華さんか…しまった……


・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・


 僕は夢を見ていた。
 闇の中、僕は何者かから逃げるようと懸命に走っていた。後ろからは、何十本もの手が追いかけて来ていた。そしてとうとう追いつかれると、何本もの手がブレザーを無理やり剥ぎ取ってしまった。手は胸のリボンもむしり取ってしまう。着ていた白のブラウスも、紺のプリーツスカートも次々と引き剥がされ、気がつくと身に付けているのはシンプルな白のブラジャーと木綿のパンティ、それに足に履いている紺のソックスだけになっていた。そんな格好にさせられた僕は、何かに脅えるように胸を抑えてその場に座り込んでしまった。
 え、僕が着ていたのって、雪菜の制服?
 地面をふと見ると鏡のように僕の姿が映っていた……ええ? 雪菜じゃないか。僕が雪菜?
「いやあ、やめて、やめてよお」
 僕の口から出る叫び声は雪菜の声だ。何本もの手は僕の体を抱え、強制的に四つんばいにさせられる。パンティをぺロリと剥がされ、お尻が剥きだしになると、後から僕のアソコに何かが突っ込まれる。誰なのか何なのかよく見えないけれど、それが出し入れされる度に段々体の芯から吹き上がるように快感が込み上げてきた。たくさんの手が横から後ろから僕の体を触りまくっている。胸のブラジャーをはずされ、ムニュムニュとこねくり回される。
「う、う、うん、なにこの感じ、いや、いやー」
 嫌悪感の中、段々自分の中から何かが昇って来るのがわかった。涙が頬を伝わる。
……もうちょっと、ああもう少しで……
 もうどうでもいい、このまま流されても。そう思っていると、突然僕の腕を引っ張り、無数の手を引き剥がして強引に僕の体を手繰り寄せる力強い腕があった。
「バッキャロー、やめろぉ」
 厚い胸に体を受け止められギュッと抱き締められると、ほっと安心感に満たされてしまう。だけどそれが誰なのかよく見えない。

 誰? この声・・・どこかで聞いたような・・誰だったっけ・・


・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・


 目が醒めると、ふと体に違和感を感じた。何か股に挟まっているような異物感がある。胸が何かに潰されている。僕の上に何かが乗っかっている。
「う、うーん、え、何だあ」
「お、やっと目が覚めたのかい」
「え、ちょ、ちょっと何しているんですか?」
 目が冴えてくると、鼻先に中山さんの顔のアップが。僕は中山さんと一緒にベッドに寝ていて、服も脱がされていた。
 僕って何も着ていないの? 中山さんも裸? じゃあこの異物感は……
 そう、僕のアソコには彼の硬くなった一物が挿入されていた。
 彼がピストン運動を開始する。寝ている間にすでに何かされていたのか、僕のアソコはすでにぐっしょりと濡れているようだ。レイプされた時は痛かったのに、今は少しも痛くない。それどころか僕の中で中山さんの熱く硬いモノがズリッズリッと動く度に、擦れる感触が快感を呼び起こす。そして体の芯からどんどん込み上げてくる切ない気持ち。
「あ、あ、なにこの感じ、あん、あん、あん、これって、いい」
 けれども絶頂が訪れることは無かった。彼が先に達してしまったのだ。うっと唸ると、突然ペニスを引き抜き、僕の顔に向けて白いものを噴出させてきた。

 ひ、ひどい

「おっとちょっと早かったかな。でももう1ラウンド大丈夫だからな。さあ、口できれいにしてくれよ」
「ひどいじゃないですか、何でこんなこと」
「おや、君もそのつもりでいたんじゃなのかい。そうでないとあんな飲みっぷりで寝てしまう訳無いと思うがなあ」
「う、そんな、違う……は、はむう」
 強引に口にペニスを突っ込まれてしまう。
「さあ、ゆっくり舐めてくれよ。大きくしてくれたら今度は最後までいかせてあげるよ」

 く、苦しい、吐きそうだ

「ほらほら、どうした」
 僕は舌を彼の一物にからめていった。舌にべとべとした精液がくっついてくる。それは生臭くて苦かった。でもこのもやもやした気持ち何とかしてくれ。もう中途半端はいやだ。体の中ではそんな吐け口のない欲情がすでに渦巻いていた。
 男のものを口に入れるなんて屈辱以外の何者でもない。でもそういう気持ちとは別に、これをもう一度アソコに入れて欲しいという気持ちが芽生えてきている。

 コレで最後までいかせてほしい。

 どこを刺激すればいいのかはわかっている。ペロペロと舌を転がしてやると、ぐんぐんと大きくなってきた。
「よしよし、よくできたな。じゃあご褒美だ」
 中山さんの一物が再び僕のアソコにグッと挿入される。

 ひゃん

 ぎゅっと抱きしめられた。
 ああ、力が抜けていく。
 口付けをされ、胸を思う様揉まれる。
 き、気持ちいい、あん、痺れるような……
 腰を両手で押さえられ、すんなりと入ったそれをズンズンと力強くピストン運動されると、再び全身に快感が突き抜けていく。
「あん、あん、いい、いい、いいよぉ」
 快感は全身に広がり、やがて何も考えられなくなってきた。
「い、いい、いく、いく、いくう〜〜」
 遂に絶頂まで上り詰め、僕はいってしまった。男に入れられるってこんなに気持ち良いのか。自分で指でした時とは全く違うよ。ぼーっとした頭の中でそんなことがおぼろげに考えながら、また意識が遠くなっていった……


 目が覚めると朝になっていた。中山さんはもういなかった。ああ、まだ裸なんだ。起き上がると自分が何も着ていないことに気が付き、あわててシーツを体に巻いてしまう。でも、何となく恵利華さんの体には違和感を感じなくなっていた。
 ふと机の上を見ると……手紙?
『昨日は悪かったね。でも君はすばらしかったよ。こっちに来たら尋ねておいで。中山(携帯番号・・・)』
 なんて勝手な、男っていう奴は……って僕も男じゃないか。
 悪態を吐いてみるが、心の奥では何かが違っていた。心の中が何かで満たされていた。
 また満たして欲しいな……え! 何だ? この気持ち。
 ふと股の間に気持ち悪いものを感じた。指を入れて探ってみるとべとべとしている。指には白いものがこびりついていた。
 うーん、気持ち悪いんだけれど・・何だかいとおしい・・良かったな。これって中山さんの・・・と、とにかくシャワーを浴びよう。

 シャワーで自分の体を洗い流すと、すっごく気持ちがいい。シャワーをアソコの奥まで流し込み、よく洗ってやる。そこにはまだじんじんした感じが残っていた。これが女になったっていうことなのか。恵利華さんは処女じゃないんだろうけれど、僕にとってはロストバージンだったんだな。シャワーを浴びながらそんなことを考えていた。


 シャワーを浴び終え恵利華さんの服を着直すと、いったんアパートに帰ることにした。元に戻って会社に行かないと……ってそうだよ、男に戻らないといけないんだよな。
 アパートへの道は何だかいつもと違って見えた。妙に気持ちがうきうきしている。まだ股に何か挟まっているような感覚が残っていて、気を付けないとガニ股になってしまう。でもミニスカートの裾から入る風が心地よい。ああ、自分は今女なんだなと改めて実感してしまった。

 自分の部屋に帰り着くと、後ろ手で鍵を閉める。なんだかほっとした。おっと、でもゆっくりもしていられない。
 僕は体の中のゼリージュースを出すためにトイレに入った。
 でも……出ない。え? これって……彼女便秘なんだ。これじゃ元に戻れないよ!
 トイレの中でショーツを降ろし便座に座ったままの格好で愕然としてしまう。
 はぁ〜、取敢えず由紀さんに電話しよう。
「もしもし、由紀さん? ……俊行です」
「あら、俊行さん?どうしたのその声。まだ恵利華のままなのね。で、昨日はどうだったの。お相手は中山さんだったんでしょ。あの人だったら、ふふ」
「どうっていうか、まあ、そのお」
「ん、そう言えばあなた何か声に艶が出てきたんじゃない」
「え! いやそんなことは」
「冗談よ。で、どうだったの、したんでしょ」
「え、ええ……その……何と言うか……良かったです。男とは全く違う感覚ですね。自分が内側から満たされていく、そんな感じでしょうか」
「男とどっちがいいと思う」
「……女の方が良いかもしれません」
「ふーん、で、今どこから」
「自宅からです。実は元に戻れなくて……」
 僕は事情を由紀さんに話した。話を聞いた由紀さんは、電話の向こうで大爆笑だった。

「便秘ぃ、じゃあ出るまでそのままってことぉ? きゃははは、それじゃしょうがないわね、きゃははは、お、おかしいぃ……はぁはぁ、ご、ごめんね。そうねえ、会社には夏休みだと言っておくわ。」
「じゃあこのまま様子を見るということで……」
「そういうこと、あ、そうだ。今晩そっち行くから場所教えて」
「ええ、どうして」
「昨日何もできなかったしね。サイズの合う服も少し持っていってあげる」
「あ、ありがとうございます」
 アパートの場所を由紀さんに教えると、電話を切った。取敢えずはこれで大丈夫だ。由紀さんが来るまで何をしてようか。これからのことを考えているとまた昨日のことが思い出されてきた。何だか胸がアソコがまた疼いてくる。

 中山さん……会えないかな

 メモを見ながら携帯に電話を入れてみるが、繋がらなかった。
 仕方ないな。折角女になったんだし、もうちょっとぶらぶらしてみるか、・・っとその前に。
 僕はワンピースの上から自分の胸にさわってみた。ブラジャーに覆われているけれど、ふわふわと柔らかく、触ったところがプニっと凹む。気持ちいぃー。

 そうだ鏡だ

 バスルームに行くと鏡に恵利華さんが映っている。何だか昨日よりも馴染んでいるような気がした。スカートの裾をゆっくり持ち上げるとガーターベルトとショーツが露になる。後ろを向いて前屈みになると、ショーツに包まれた丸みを帯びたお尻が露になる。両手でお尻に触ると張りのある感触が気持ち良い。レモンイエローのショーツに手を突っ込むと、少し湿り気を帯び始めていた。鏡の中では淫らな格好をした恵利華さんの頬がぽっと桜色に染まってとても色っぽい。疼きは段々体全体に広がっていって段々ボーっとしてきた。

 僕は・・・僕は・・・私は・・・恵利華、恵利華は恵利華、恵利華はアタシ、誰か恵利華のこと・・・

 アタシはパンプスを履くとワンピースのまま再び出掛けた。でも駅に向かって歩いていると、何だか道を歩いている男の股間が気になる。微妙に膨らんでいるズボンの股間をさりげなく見ていると、体の疼きがどんどん強くなってくる。

……アタシどうしたの。体がアレを求めている?

 駅前広場に来ると、人待ち顔でぶらぶらしてみる。すると遊び人風の男が声を掛けてきた。
「お姉さん誰か待っているの? 一緒にお茶しない」
「うーん、すっぽかされたみたいなの。どうしようかなって感じ」
「じゃあ行こうよ、いい所知ってるんだ」
「うん、いいよ」
 アタシはその男について行った。思考力がほとんど働かなかった。ふらふらとついて行くと、車に乗せられた。連れて行かれたのはラブホテルだった。でも逃げ出すでもなく一緒に入ると、そこで女として2度目のセックスをしてしまった。中山さんほど上手じゃなかったけれど……気持ち良かった。そして疼きは治まってスッキリしていた。

 男とはホテルの前で別れて駅に戻ってくると、由紀さんとばったり会った。
「あら、丁度良かった。これからお邪魔しようと思って来たんだけれど、折角だからどこかで食べてから行こうか」
「え、由紀さんもう来たんですか。じゃあそこで食べましょうか」
 僕達は駅の近くのファミレスに入って夕食を摂ることにした。席に案内されると、程なくウェイトレスが注文を取りにきた。
「ご注文はお決まりですか」
「ええ、レディスセット二つ」
 頼んだのは由紀さんも僕もレディスセットだ。
「お飲み物は何になさいますか」
「ここってカクテルあるんですよね、私はブルーハワイを」
「じゃあ、私もそれで良いわ」
「かしこまりました。レディスセット二つ、お飲み物はブルーハワイお二つですね。ご注文は以上でよろしいですか」
「はい、お願いします」
 ウェイトレスはしばらくするとブルーハワイとレディスセットを持ってきた。
「「乾杯」」
「どう、何か変わったことは無い」
「ええ、街をぶらぶらしてましたけど、特には……」
 ラブホテルに行ったことは黙っていた。
「そう、ところでここのウェイトレスの制服ってどう思う」
 このファミレスは、胸を強調した制服が人気の某有名なお店だ。
「素敵ですよね。一度は着てみたいですよね。あこがれちゃうな」
「そうね、自分に自信のある女の子ならそう思うわね。でも俊行さん、あなた」
「え、僕何か言いましたか」
「ううん、なんでもないわ。恵利華さんの着替えここに入っているから、持って帰って。私帰るね」
「ええ、家に来るんじゃ……」
「気が変わった。今日は止めとく」
「そうですか、じゃあまた休み明けに」
「そうね。でも変わったことがあったらメールでレポート頂戴。じゃあね」
「はい、わかりました。それじゃ」


 次の日も便秘は治らなかった。僕は毎日新宿や池袋に行くと、これはと思う男について行った。恵利華さんの姿で歩いているとすぐに声をかけられてしまう。食事を奢ってもらい、服を買ってもらい、最後はセックスという自堕落な日々が続いた。

 便秘は結局1週間経っても治らなかった。その間自分では気付かなかったけれど、僕の中の何かが少しづつ変わっていった。
 毎日男をとっかえてのセックス。相手によってやり方は違うけれども、自分の身を任せて犯されるのは本当に気持ち良くって、もうセックス抜きの生活は考えられないと思える程になっていた。後から考えると麻薬でも飲んでいるような、そんな感じだった。

 1週間経って由紀さんがアパートに尋ねてきた。
「一体どうしたの、連絡もレポートも寄越さないで……俊行さん、あなた顔色悪いわよ、大丈夫?」
「ええ、へへ、でも未だに出てこないんですよぉ、アタシ自分でもどうしようかなって思っていたんですけれどもぉ」
 それは半分本当で半分ウソだった。依然として出てくる気配が無いのは確かだけれど、無理に元に戻ろうという気持ちも無くなっていた。
 アタシこのままでもいいな、だって気持ちいいんだもん。
「あんた馬鹿ァ、これ使えば一発でしょうに、俊行さんちょっとおかしいわよ」
 由紀さんが呆れたように投げてよこしたのは・・・CMで有名な某下剤だった。
「俊行? アタシ恵利華ですよぉ。由紀さん何言っているんですかぁ?」
「とにかく飲んでみなさい」
「そうですね、その手があったんですね、あ、あは、は……」
 2錠取り出してそれを飲むと、効果はてきめんだった。程なくお腹が鳴り出し、トイレに駆け込むことになった。そしてトイレから出てきた時、1週間ぶりに僕は元の自分の姿に戻っていた。
「大丈夫? さっきのあなた、ちょっとおかしかったわよ」
「ええ、もう大丈夫です。(それにしても、あの感覚は……)」
 頭はすっきりとしていた。1週間ぶりの男の体に違和感を感じてしまったけれど、それ以上にさっきまで自分の中に生まれていた感覚が気になった。自分は恵利華だって完全に思い込んでいた。それに男が欲しくてたまらなくなるなんて。


 翌日、1週間ぶりに出社した。
「で、結局どうだったの、ゼリージュース(赤)は」
「はい、効果は確かだと思います。完全に恵利華さんに変身できましたし、ジュースが体内にある限り変身が持続するのは間違いないですね。ただ……」
「ただ、何?」
「時間が経つ程、自分の心まで変身した体に同化して、しかもセックスに対する欲望がエスカレートしていくような気がするんです。今考えると何であそこまでと思うんですが、どうしようもなかったです。麻薬のようなもので、使い方間違えるとちょっと恐いと思います」
「そうね、本当にあなたおかしかったものね。まだまだ研究の余地有りってところ……か。ところで」
「ところで何ですか?」
「(赤)とは別のものにも少しずつ取り掛かりたいんだけど、どうかしら」
 今のゼリージュース(赤)では型になる人がいないと正確に変身できない。しかも寝ているような、意識が無い人でないと何かと危険だ。これを解消するには……
 突然インスピレーションが閃く。
「芳雄さんだ、自由に憑依してたじゃないか。あれがゼリージュースでもできればいいんだ。由紀さん、憑依にチャレンジしてみましょうよ」
「うーん、社長の指示は本人の変身なんだけれど、ま、やってみようか。思わぬ効果が出るかもしれないしね」
 早速以前会った時に聞いた芳雄さんのアドレスにメールを打ってみた。

『ゼリージュースを使って<憑依>はできますか?』
 翌日返事が届いていた。
『アルコールを試してみたら』
 お酒をゼリージュースにブレンド……か。よし、試してみるか。ゼリージュースに合うアルコールと言えば、甘いしカクテルが良いかな。
 試してみたのは、自分の一番好きなカクテル「ブルーハワイ」だった。
 まずブルーキュラソー、ラム、パイナップルジュース、レモンジュースをシェークして「ブルーハワイ」を作る。これを真っ赤なイチゴジュースの代わりにゼリージュースに加えると、澄んだ青い色をしたゼリージュースが出来上がった。

 まだビーカーの中で出来上がったばかりの新しいゼリージュース、本来なら由紀さんに話さなければいけないんだけれども……先に試してみよう。
 僕はビーカーのまま冷蔵庫で冷やしたゼリージュースをそのまま飲み込んだ。すると、5分後には体が青いゼリー状に変化していった。
 でも少し経つと青に染まった体は今度は徐々に透明化して、やがて僕の体は全く見えなくなってしまった。鏡には着ている服だけが人型に浮かんでいた。

 これって透明人間??


……今日の話はここまでといたします。
 今回はゼリージュース(赤)にすっかり翻弄されてしまいましたが、どうも変な副作用があるのかもしれません。まだまだ改良しなければとても売り物になりませんね。そして最後に試作した(青)には果たして考えていたように憑依できる効果があるのでしょうか。その話は、また次回。

ゼリージュース!外伝(3)「今宵ブルーハワイを御一緒に(前編)」 ・・・終わり





後書き

 お待たせしました。
 今回(青)の話に進むつもりで書き始めたのですが、(赤)の話の続きがどんどん長くなってしまいましたので、ここでいったん話を切ることにしました。次回は完全に(青)の話になると思います。
 俊行クンは今回どっぷりと快楽に浸かってしまいましたが、どうも本人の意思だけではなかったようです。しかし便秘って恐いですねえ。毎日お通じがあることって健康な生活を送るのに大切なことです。皆さん食物繊維は1日5g以上欠かさず摂りましょう(笑)
 次回もまた少し先になると思いますが、よろしくお願いします。
 それでは、ここまでお読みいただきました皆様、どうもありがとうございました。


toshi9より
感謝の気持ちを込めて





作品予定(あくまでも予定ですが)

第1話    始まりはハーブと共に(Ver.1.02)    (プロトタイプ・変身)   2002年7月12日脱稿

第2話    いちごの誘惑               (赤・変身)       2002年7月27日脱稿

インターミッション プリティフェイス/ラブボディ     (プロトタイプ・部分変身)2002年8月25日脱稿

第3話    今宵ブルーハワイを御一緒に(前編) (赤・変身)        2002年10月3日脱稿

       今宵ブルーハワイを御一緒に(後編)  (青・憑依)

第4話   気分はトロピカル              (黄・入れ替わり)
















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