「ゼリージュース!外伝」アフターストーリー いるこさんのお店 作:toshi9 挿絵&ゲスト:いるこさん このお話はフィクションです。 僕の名前は小野俊行。とある研究所の責任者をしている。 研究所の名前は「ゼリージュースを基原とする新エネルギー開発研究所」通称「JJDEL(Jelly Juice deveropment of energy lavoratory)」。政府直属の機関「次世代エネルギー開発機構」の傘下で、官民一体でゼリージュースの有効活用を目指す研究所だ。 元々は食品会社に勤めて飲料の研究をいた僕がどうしてそんな畑違いのような研究所の所長をしているかって? 「ゼリージュース!外伝」を読んだことがあればそれは当然の疑問だと思う。 僕が初めてゼリージュースの開発してから本当にいろいろな事があった。 紆余曲折はあったけれど、高原ビューティクリニックの高原社長の野望を叩き潰した後、表のゼリージュースは僕のコントロール下に置くことができた。でもレシピが漏洩して裏ルートで発売されている黒のゼリージュースをはじめとする裏ゼリージュースの供給ルートをどうしても掴むことができなかった。裏ゼリージュースが絡んだ事件をひとつひとつ解決していったものの根本的な解決にはほど遠い。販路をつきとめても首謀者には逃げられ別のルートでまた販売されてしまう。そう、まさにイタチごっこだった。 人をいろんな姿に変えてしまうゼリージュースはとてつもないパワーを秘めている。 裏ゼリージュースの裏社会への拡散といった問題も多いけど、その一方でその秘めている力をもっと引き出せないかと思った僕は、ある日試しにゼリージュースを脱水乾燥して粉末化してみた。そして粉末を礎研究部に調べてもらうと膨大なエネルギーを孕んでいることがわかった。エネルギーとしてのゼリージュースの有効利用、それは全く想定外の効果だったけど、由紀さんと共同名義で出願した特許が公開されるやエネルギー源としての共同研究の誘いが大手企業や国から舞い込んできた。 エネルギー開発という新しい研究はこれまでと全く違うジャンルの仕事になる。迷った挙句、僕はその誘いに応じることにした。食品会社を辞めてもっともっとゼリージュースの研究に専念したかった僕と、国のエネルギー問題の解決をしたかった国との思惑が一致したというわけだ。 それから数年経ったある日、研究所に日本有数のとある大手重工から何と極秘開発中のロボットの動力源としてゼリージュースのエネルギーを用いたいという提案が舞い込んできた。当初はロボット開発のプレゼンテーションと完成に向けたマイルストーンを聞いてもそんな事実現できるのかという疑問しか湧かなかった。でもこの国を侵略者から守りたいという担当者の熱意、そして僕自身の興味もあって、あれよあれよという間に研究所が改組され、動力だけでなくロボット開発の統括責任者として研究所の所長に就任することになったというわけだ。 それからの僕は新組織内に僕の要望で設立した調査部門によって裏ゼリージュースによって引き起こされる事件の解決と密売組織の撲滅を手掛ける一方で、巨大ロボットの開発にものめり込んでいる。勿論機械や電子、量子技術にAI技術と言った専門外のことはわからないけれど、所員として補佐してくれる専門知識豊富なメンバーと日々ディスカッションを繰り広げるのは楽しく、そしてそれは少しづつ形として実を結びつつあった。近い将来「ゼリージュース・ロボ」・・僕の考えたロボットの仮の名前だ・・のプロトタイプが完成することだろう。 由紀さんはどうしているって? 彼女には食品会社を辞めた後プロポーズした。 あの時言えなかった言葉、由紀さんに遮られてしまった僕の言葉、それを今度こそ彼女に伝えたかった。 そしてその日、きちんと彼女に告白した時、今度は彼女は最後まで聞いてくれた。そして頷いてくれた。 「いいわ俊行さん、一緒になってあげる」 「あ、ありがとうございます。僕、由紀さんを幸せにします」 「ふふっ、そんな通り一遍の言葉なんてどうでもいいわ」 「でも……僕は」 「ねえ、条件があるんだけど」 「え? 条件って?」 「私ね、心療内科をメインにしたクリニックを作りたいって前から考えていたの。ビューティクリニックも心療治療に役立つかなって勉強の一環で入社してみたの」 「そうだったんですか、それで由紀さんにはどこかあの会社のスタッフらしくない雰囲気を感じたんだ」 「そういうこと、今の世の中って身体だけじゃなく心も病んでいる人がどんどん増えているでしょう。何とかできないのかなって思っていたの。そんな時あなたが出向してきてゼリージュースを作ってくれた。ゼリージュースを使ったらいろんな人たちの悩みを解決できるんじゃないかってすぐにピンときたわ」 「へぇ〜、面白そうですね、そんな条件だったらもちろんOKです。由紀さんのクリニックにもゼリージュースを提供しましょう」 「良かった、俊行さんならOKすると思ってた。じゃあ全部のゼリージュースを使えるようにしてね」 「ぜんぶのって、まさか……」 「そう、裏ゼリージュースも使わせてもらうわ」 「そんな、駄目です! 裏ゼリージュースを使ったらろくなことになりませんよ」 「あら、そお? 裏の効能でないと解決できない事ってあると思うの。使い方さえ間違えなければ表の3つのゼリージュース以上に効果的だと思うわよ、いいでしょう」 そう言って由紀さんはパチッとウィンクする。 全くこの人の思考は読めないな、でもそんなところが僕には…… 「わかりました。ただしゼリージュースの管理にはくれぐれも気をつけてくださいね」 「りょうかい、任せてちょうだい」 もちろん、彼女は打算だけでOKしたわけではなかった・・と思う。 旧高原ビューティクリニックを退社した由紀さんがクリニックを開院したのとほぼ同時に、僕たちは結婚した。 純白のウェディングドレスに身を包んで僕の傍らに佇む由紀さんはどこか緊張しているように見えた。 式場の教会の中を祭壇に向かって歩くと、懐かしい多くの方たちが笑顔で祝福してくれているのが目に入る。 結婚式には僕の両親と広幸、雪菜はもちろん、研究室のメンバーのほとんどが出席してくれた。 由紀さん側はご両親は他界されていたけれど、彼女のお姉さんが二人の小さな娘を連れて来てくれていた。そして虹男さんとオルカさんご夫妻、旧高原ビューティクリニックで懇意にしていたスタッフ、さらにどこでどう聞きつけたのかお世話になったいろんな人たち。 式は宣誓、指輪の交換、そして誓いのキスと淡々と進んでいく。 由紀さん、僕はあなたを……一生大切にします。 そんな僕の心の声を知ってか知らずか、由紀さんは全てを受け入れてくれた。 彼女の目がそう語っていた・・と思う。 由紀さんが摩耶ちゃんを助手にして開院した「クリニックYUKI」で患者のココロと身体の悩みを解決していく一方で、僕たちは子宝にも恵まれた。 1年後に娘が生まれ、優希と名付けた。 子どもが生まれたということは、もちろん僕と由紀さんは結ばれたわけで、彼女とのエッチは・・まあ・・正直翻弄されっ放しだった。どんな風に初夜をリードしようかと思ってたけど、実際に彼女と同衾するとそれどころではなかった。全くどっちが夫なんだか。妊娠が分かった時には僕に産めなんて言い出すんじゃないかとドキドキしていたけれど、でも彼女はしっかり僕たちの娘を産んでくれた。 今の僕は長女の勇希とその後に生まれた次女の蜜希の二人の父親だ、ほんとがんばらなくっちゃね。 研究所の仕事が軌道に乗り出した頃、とある政府機関の働きもあって裏ゼリージュースが原因と思われる様々な事件もようやく落ち着きを見せていた。その頃から僕はそれまでの自分の体験やゼリージュースを使った人たちからの相談された事件を小説にしてみようと思った。ゼリージュースの啓蒙活動の一環になると思ったからだ。 ペンネームはtoshi9にした。そして小説という体裁ながら自分の経験、協力者の体験談を織り交ぜた多くの作品をネットで発表し続けた。ネットで知り合った今では親友とも言える関係になった友人に促されて小説専用のHPも立ち上げると、さらに多くの友人ができた。元々研究一辺倒で文才なんてないと思っていたのに、書き始めてみるとびっくりするくらい次々に作品を書けてしまう自分自身に驚いてしまったけれど、研究の合い間に小説を書くのは楽しく面白かった。 そんなある日、ビックサイトで開催されているコミケに併せてTS同人小説作家同士のオフ会に誘われた。ちょっと迷ったけどコミケにも興味があった僕はコミケとオフ会の両方に行くことにした。でも今の身分は世間に隠しておきたい。そう思った僕は新しいゼリージュースを使うことにした。それは「ココナッツ味」のゼリージュース。自分の記憶通りの姿になれるというある意味究極の変身タイプのゼリージュースだ。外見だけ見たまんまになる紫の巨峰味、相手の身体の中に潜って同じ姿に変身する赤のいちご味、そして他人の手で改造される白のカル○ス味と違って自分にしっかりしたイメージさえあれば外見はおろか身体の中身まで変身できるゼリージュースだ。まあ解除するのに排泄ではなく解除薬を使う必要があるのが長所でも欠点でもある。 そして僕が自分の姿に選んだのは親友の一人でもある絵師兼作家さんからいただいたイラストを元にした女の子の姿だった。20代半ばの、知っている人にはわかる青影さんの大丈夫ポーズをした美女のイラストだ。それは僕の大のお気に入りのイラストで、長い間ネット活動をする時のアイコンにも使っていた。まさに僕の分身とも言える姿だ。だからオフ会に行く時にはそのイラストの女の子になって出てみようと思ったんだ。 でもそこまで考えた時、はたと困ってしまった。 今の僕は女物の服は持ってない。さて、着ていく服はどうしよう。 由紀さんに相談しても女子化した僕はおもちゃにされるのがオチだよなぁ。 高原社長に小田みゆきとして変身させられた時の事を思い出してしまう。 結局、由紀さんではなく摩耶ちゃんに服を貸してくれないか頼んでみることにした。 「……というわけなんだ、週末のコミケに着ていくのに良い服があったら貸してもらえないかな」 「へぇ〜、小野さんそんな趣味もあったんですかぁ〜?」 摩耶ちゃんの口調には軽蔑の色はもちろんない。”そんな趣味”とは女装のことではなくコミケに行くことを指している。ただコミケと僕が彼女の中で繋がらなかったんだろう。僕を興味津々といった表情で見ている。 「まあ、小説を書くのも意外と面白いし、そっち方面の仲間もできたし・・」 「わかりました! でも条件があります。前の日に女の子の姿でここに来てくださいね、でないと何をコーディネートしていいかわからないし〜」 彼女の言う事ももっともだ。 「わかったよ、じゃあ女の子の姿でここに来ます。お願いします、貸してください」 そう言って手を合わせる僕に彼女はけらけらと笑う。 「小野さん、そんなにかしこまらなくても大丈夫ですよ〜。もちろん準備しますから。でも、うふふ、楽しみ」 彼女は早速頭の中でいろいろ想像しているんだろう、目をくるくる回して時折くすすと笑っている。 そんな彼女の様子にちょっと不安になったけど、摩耶ちゃんとは勝手知ったる仲だ、まあ大丈夫だろう。 そしてコミケの前日 女の子の姿で摩耶ちゃんに会いに来た僕に彼女がコーディネートしてくれたのは、ほたるさん・・枝垂ほたるの衣装だった。 「摩耶ちゃん、こんな服も持ってるんだ」 「はい、昔先輩とプレイする時に着た服……って、何を言わせるんですか。でも小野さん良く似合ってますよ」 「そ、そうかな」 「はい! 自信を持って行ってきてください」 自信って何の自信なんだ。ともかく、僕は着せられたほたるさんの衣装で翌日ビックサイトに赴くことにした。 国際展示場前を降りて人込みの中、妙に視線を感じながらビックサイトに入る。事前に調べておいたTS同人誌ブースを巡ると、ほどなく同人仲間が出店している場所にたどりついた。 「あ、toshi9さんですね」 「は、はい」 「アイコンそのままなんですぐにわかりました。まさか本当に女性のTS作家さんだったとは驚きました、ほたるさんのコスプレも似合ってます」 「ありがとうございます。描いていただいた絵師の方がお上手だったんです」 ネットでよくメールやチャットしている彼は、そうか〜と言った表情でこっちを見ている。 「○○さんtoshi9です、リアルでは初めてですね、改めてよろしくお願いします」 そう言ってぺこりとお辞儀をする。 すると同人誌が積まれた机に座った○○さんは顔を赤らめて俯いてしまった。 ふと視線を落とすと、僕の胸にはブラウスを破らんばかりの巨乳が。 あ、ちょっと盛りすぎたかな。 「それにしても、こんなに美しい人があんなえっちな小説を書いていたなんてびっくりしました。男の欲望がとてもリアルに描かれてて」 「それって褒め言葉ですか?」 「え、あ、えへへ」 照れる○○さんの表情を見ていると、この姿の出来が想像以上だったことがわかる。 その日は一日同人誌ブースや企業ブース、そしてコスプレ広場を巡った。 ほたるさんのコスプレをしている僕は、移動するたびにスマホのカメラを向けられてしまった。 それにしても……コミケで同人販売、いいな。 この熱気の中を巡っていると、僕も研究が一段落したら自分の作品を即売してみたいと思ってしまう。 そう、ここにはお金には代えられない楽しさがあるのがわかった。 「いらっしゃいませ〜、「TS解体新書」新作いかがですか〜、傑作選もありますよ〜」 思わず自分で即売している姿を想像してくすっと笑ってしまった。 ○○さんはそんな僕を怪訝そうな表情で見上げていた。 「toshi9さん、どうしたんですか?」 「あ、いえ、何でもありません、ちょっと考え事を。ごめんなさい」 「でもtoshi9さん、そんな笑顔もかわいいです」 「え? 何か言いました」 小声で呟いた○○さんに顔を近づけて聞き直すと、○○さんは「あ、何でもありません」と言うなりまた赤い顔を下に向けてしまった。 うーん…… それからもこの姿でオフ会に行くと、たいていの人はすぐに僕が作家toshi9だとわかったみたいだった。だからその後もコミケに行ったりネット上の知り合いとのオフ会に参加する時にはココナッツ味のゼリージュースを使って女の子の姿で出かけている。そのおかげもあって新しいネット友だちも増えた。 先日はそんな友人のひとり、いるこさんにお願いされて彼女が上京した際にリアルでお会いした。 彼女と何を話したかはここでは割愛するけれど、僕の小説のファンだという彼女とはすぐに意気投合した。 その時のいるこさんとの対談はいろんな話題で盛り上がって本当に楽しかった。そして対談の最後にいるこさんから地元の博多にオープンしたというお店に招待された。 「toshi9さん、今度博多にいらっしゃいません? 私、面白いお店をオープンしたんですよ。評判良いんですけど、追加の施設を考えていて、toshi9さんに体験してもらえるんだったらシステムの感想をお聞きしたいんですけど」 「面白いお店? どんなお店なんですか?」 「うふっ、来てのお楽しみ、今は内緒です。実際に体験してみていただけると嬉しいな。もしも博多に来られる時にはぜひご連絡くださいね」 そう言って、彼女は連絡先を教えてくれた。 博多・・福岡か、しばらく行ってないな。せっかくのいるこさんのお誘いだし、研究もちょうどキリが良いし行ってみようかな。 そう思った僕は、休暇を取って福岡に行ってみたいと由紀さんに相談してみた。僕が留守の間は副所長の彼女が研究所を仕切ることになるし。 「由紀さん、どう思います?」 「あら、あたしのことは気にしないでいいわよ、博多で遊んでらっしゃい」 「は、はあ」 「泊りがけで行ってきても良いわよ。俊行さんがいない間、あたしは摩耶と遊んでるから」 「由紀さん、僕がいない間の研究所の管理を由紀さんにお願いしたいんですけど」 「ふふっ、わかってる、冗談よ。でもそれはそれということで、いいでしょう。最近摩耶ともご無沙汰だし、たまにはお互い別々に楽しんでみるのも」 そう言えば、研究所を設立してから由紀さんにもずっと無理させていたかもしれないな。息抜きも必要かな、いやいや彼女は僕の奥さんなんだから。 「そうですね、じゃあそういうことでお願いします。日程は『クリニック・由紀』の休院日に合わせますから。でもできる限り日帰りで帰ってきますよ」 「りょうかい」 そう答えながら彼女は珍しくちょっぴり残念そうな、でも少し嬉しそうなそんな表情を見せてくれた。 それからいるこさんに連絡をとってみると、電話の向こうで大喜びだった。 「toshi9さん、本当にこっちに来ていただけるんですね、楽しみ〜。お待ちしてますから必ず来てくださいね」 「はい、もうANAの切符も押さえました。来週の木曜日、12時には福岡空港に着くと思います。よろしくお願いします」 「その日はお泊りなんですか?」 「いえ、日帰りのつもりなんですが」 「そうなんですか、お忙しいんですね。ちょっと残念ですねど、でもそのつもりで準備します。待ち合わせは・・キャナルシティの地下にスタバがありますから、そこで13時に待ち合わせということで。地図は大丈夫ですよね」 「キャナルシティは一度行った事があるので、たぶん行けると思います。再会を楽しみにしていますね」 「あたしもです」 そしていよいよ博多に向かう当日の朝、僕はココナッツ味のゼリージュースを飲んだ。 イラストの姿を思い浮かべると、髪が伸び、肩幅も狭くなり、さらに腰が絞れていく。胸が大きくふくらみ、股間のモノは姿を無くしてしまい、そこには縦のスリットが。腰がぐぐっと広がるとお尻もむっちりと膨らんでいく。 すらっとした脚、そして細長い両手。 鏡に映る僕の姿はまさに僕の理想の女性だった。我ながら由紀さんとはまた違う魅力を感じてしまう。 裸の自分の姿に一瞬見とれて、ハッと我に返った。 「いけないいけない、こんなことしちゃいられない」 用意した淡いピンクのショーツとブラジャーを身に着けパンティストッキングに足を通す。そして白いブラウスと膝上5cmの濃紺のタイトスカート、最後にブラウスの上からブレザーを着た。黒髪をブラッシングしてショルダーバックを肩にかけると自分の姿を鏡に映してみた。そこにはスーツ姿のビジネスウーマンになった僕がいた。 「じゃ、由紀さん行ってきますね」 「あら、素敵じゃない、それが俊行さんの作家姿なんだ……っていうより、そうねぇ」 「え、そうか、由紀さんにこの姿を見せるのは初めてでしたね。え? 何ですか、そうねぇって」 「俊行さん、今度、その姿でどお?」 そう言って由紀さんが妖しく目を光らせる。 「あ、そ、その話はまた今度ということで。じゃ、僕行ってきます」 「ふふっ、それじゃ気を付けてね、いろいろ、と」 「は、はい」 はて? 由紀さん、僕が小説を書いていること知ってたっけ。 ばればれか 全く、由紀さんにはかなわないや。 苦笑しながらマンションを出ると、リムジンバスに乗って羽田空港に向かう。 空港でも飛行機の機内でもどうも絡みつくような視線を感じてしまう。 通路を歩くと空港の椅子に座った男たちがちらちらとこちらを見ているのがわかった。 一方で男と組んだ腕に力を込めた女性の怨嗟の視線も受けていた。 僕に恋人や夫を取られまいといった視線だ。 「ふう、ビックサイトではこんな視線あまり感じなかったのに」 何が違うんだろう。 福岡空港に降り立つと地下鉄に乗ってキャナルシティに向かった。地下鉄で座っていると、何人もの若い男子たちがちらちらとこっちを見ている。スマホをそっとこちらに向けている学生がいたのでキッと睨みつけると、慌てて向けている視線とスマホを僕から逸らした。ふと自分の下半身を見ると、無意識に股を広げていた。これじゃタイトスカートの奥がはっきり向こうから見えてしまう。 「おっといけない、久々で気が緩んでる」 そう、女子になっている間は緊張感が必要だ。慌てて、スカートの裾を抑えて脚を閉じる。僕の油断だった。スタイルの良いスカートを履いた女性が股を広げて座っているのを見たら、まあそうだよな。うんうん。 恥かしいけどちょっと嬉しいような、久々だなこの感覚も。 博多駅で乗り換えて櫛田神社前で降りる。キャナルシティの地下にあるスタバに入ると、僕に向かって手を振るいるこさんの姿がすぐに目に飛び込んできた。 「お久しぶりですtoshi9さん」 「お久しぶり、いるこさん。招待ありがとうございました」 「私こそ、遠い所をようこそ。今日は来ていただいて本当に嬉しいです」 リアルでお会いするのは二度目ということもあるけれど、僕の手をぎゅっと握って微笑むいるこさんは、警戒する必要の全く無い同性の気安さを僕に感じているみたいだった。僕も女子同士になり切って再び談笑した。 彼女との会話はなぜか楽しい。波長が合うのか、彼女の話がうまいのか、本当に弾んでしまう。でも会話が進んだ時、彼女からさらっと言われてしまった。 「toshi9さんって本当は男性なんでしょう」 「え? あ、そ、その」 いるこさんに唐突に言われて絶句してしまう。 「隠さなくても良いんですよ、お話を聞いていると、あ、toshi9さんって男性なんだなってわかります。それにあんな風に男性の気持ちを描写したお話って生粋の女子には書けませんから」 「そ、そうかな」 なんだ、ばればれだったんだ。でもその上でこの間も今日もこんな風にお話できるなんて、いるこさんって良い人なんだな。 僕は苦笑いするしかなかった。 「はい、いるこさんのおっしゃる通り僕は男です。ゼリージュースの力でこの姿に変身しているんです」 「憧れの『ゼリージュース』、ほんとにあるんですね!」 「普通に販売できるようになるにはもう少し時間がかかるかな」 「うわぁ、楽しみです。でも、あれ? 初めて『ゼリージュース!外伝』を読んだのって何年前だったっけ……」 「え? どうしました?」 「toshi9さんって今おいくつなんですか?」 「それは……秘密です。今は女子同士なんで勘弁してください」 「まあ」 いるこさんが口に手を当てて笑う。 素敵な笑顔だ。 「ねえtoshi9さん、早速ですけど今から私のお店に行きません?」 「いるこさんのお店、どんなお店なのか楽しみです」 「まだオープンしたばかりなんですけど、toshi9さんには稼働前の新システムのモニターをお願いしたくって、試してもらうのをずっと楽しみにしていたんです」 「新システムのモニターですか、何か光栄です」 「私自身と親友で動作試験したんですけど、toshi9さんにもモニターをお願いできないかなってずっと思ったんです」 「ざっくり言うとどんなシステムなんですか?」 「ふふ、秘密です。実際に試して確認してください。いろんなtoshi9さんの魅力を引き出せるシステム、とだけ言っておきますね」 「プリクラの一種なのかな。それともコスプレみたいな? ちょっとどきどきしますけど、面白そうですね。実はこの姿になったのも久々で、服はこれ一張羅しかなくって。それでも良いんですか?」 「もちろんです。あ、久々ってことは、以前は女の子の姿になっていろいろ着こなしてたんですよね」 「オフ会の時はこの姿で出掛けてましたし、もっと昔だと不完全なゼリージュースの力で女の子になったまま男に戻れない時期があって大変な目に遭ったこともありますけど、でもあの頃はいろいろ着てたかな」 「まさに『ゼリージュース!外伝』のまんまなんですね」 「ええ、あのお話の半分は僕が実際に体験した事ですから」 「そうなんだ! じゃあ、どんな服でも大丈夫ですね」 「え? どんな服でも?」 「あっと、あまりここでネタをばらすより実際にマシンを試してみてくださいね。さあ、行きましょう」 いるこさんは立ち上がって僕の右手を握ると、引っ張って外に出るように促した。いるこさんのひんやりした掌の感触にちょっとドキッとしてしまった。 博多の街中を時折ウィンドウに飾られた服を覗き込みながら歩いているとあちこちで視線を感じたけれど、僕たちって姉妹か仲の良い女子同士のように見えるのかな。そんな僕の気持ちを知ってか知らずか、いるこさんが連れて行ったのは中洲の一角をさらに路地裏に入った場所にある古びた洋館風な建物だった。周囲の店舗とちょっと雰囲気が違う。 洋館の前に立ったいるこさんが扉を開けた。 「着きました。toshi9さん、中にどうぞ」 「お、おじゃまします」 中に入ると洋館の中はごく普通の喫茶店だった、何組かの女性グループがテーブルで座ってパフェとかを食べている。でも接客している女子店員さんって……店員さんなんだよな……着ていたはのがどっかで見たような制服だった。 白いブラウス、胸を強調した胸のところがハート型にカットされた色とりどりのジャンパースカートの制服。 あ、あれだ! 「いるこさん、あの制服って以前日本撤退が話題になったお店の制服じゃ?」 「そうです、あの店・・アンナ○ラ○ズさんに許可をもらって使わせてもらってるんです」 「へぇ〜」 でも別のテーブルではセーラー服を着た子や、チャイナドレスを着た子が接客していた。奥からはメイド服を着た子がケーキと紅茶を載せたトレイを持って出てきた。 いろんな制服?の女の子たちはどこか嬉々として接客していた。営業スマイルではなく、心の底から嬉しそうな、楽しそうな表情だ。 「toshi9さん、彼女たちどう思います?」 「コスプレ喫茶ですか? でも、それともちょっと雰囲気が違うような」 「あ、わかります?」 「うん、みんな楽しそうですよね。それに……そうか、お店の中に鏡が多いんだ」 「そう、接客している側にも自分の姿が意識できるように、見られるようにたくさん置いているんですよ」 「へぇ〜」 「さあtoshi9さん、どうぞこちらに」 スタッフONLYの扉を開けたいるこさんは、扉の奥階段を下りた地下の一室に僕を案内した。 「さ、入ってください」 「あの、この部屋は?」 中に入ると照明は薄暗く、部屋の中央に人一人が立てるくらいの小さく丸い舞台が置かれていた。後方にはスクリーンのようなものが貼ってある。天井には丸い舞台だけを照らすような感じのLED照明が並んでいた。円形に並んだその内側には数本ものノズルやダクトが見える。 「これが知人に頼んで開発してもらった新システムです。ある特撮番組と、そしてtoshi9さんのあの作品をヒントにして作った蒸着システムなんですよ。さ、そこに立ってください」 いるこさんはどうぞお乗りくださいといった感じで揃えた両腕で舞台を指した。 「じゃ、じゃあ」 促されてバッグを下ろすと、僕は恐る恐る舞台の上に立った。 「toshi9さんって綺麗でスタイルも良いから何でも似合いそう。ふふっ、まずはtoshi9さんのために特別に準備したこれよね」 いるこさんが壁のパネルを操作するとピンクの光が天井から注がれ、僕の全身を包む。それと同時にノズルとダクトからキラキラと光るミスト状の霧煙が噴射されるのがわかった。 「え`」 光とそのミストを浴びた僕は、自分の着ていたスーツが消えていくのに気がついた。 ブレザーもスカートもブラウスも粉々になって飛び散って消えていく。 「な、なんですか、これ」 「まあまあ、もう少し我慢してそこに立っててください、toshi9さん」 不承不承立っていると、スーツの下に着ていた下着・・ブラジャーもショーツも霧煙に溶け込むように消えてしまった。でも鱗粉のような光る粒子が僕の身体にまとわり付き始めると、ある形を取り始める。 上半身は胸の間が大きく開いた滑らかで真っ赤なノンスリーブのタイトな生地で、下半身もピタッと肌に張り付くような黒いタイツで覆われていく。それは腰のところでジャンプスーツのように一つにくっついていった。踵がくっと持ち上がり、両足は白いブーツに包まれる。滑らかな薄い生地のジャンプスーツは、今の僕の日本人離れした見事なボディラインを、くっきりと描き出していた。そしてブーツと同じ薄い白手袋をつけた俺の右手には、細身のサーベルが握られていた。その間、わずか0.01秒ほどだっただろうか。 「え? え? これってまさか」 「はい、toshi9さんのキャラクターの衣装ですよね」 「……スウィートハニィのバトルスーツ」 「ご名答」 そう言っているこさんはにっこりと微笑んだ。 僕は左手に握っているプラチナフルーレをヒュッと振って見た。しっかりした手応えを感じる。 ハリボテではなく本物の剣の重量感だ。 「この装置ってまさか」 「はい、toshi9さんのスウィートハニィと某宇宙刑事のシステムをヒントに、知り合いに作ってもらったんです」 「作ってもらったって……蒸着システムを実現できるなんてどんな知り合いですか」 「ふふっ。それは、ひ・み・つ」 そう言って、いるこさんは笑って人差し指を口に当てる。 「もちろん着ていただいた衣装がハニィのバトルスーツなだけで特殊能力なんてありませんけど、どうです? 自分が生み出したキャラになった気分は」 いるこさんに言われてみると、なんだか不思議な気分になった。僕がスウィートハニィだなんて。 もう一度プラチナフルーレを振ってみる。 僕が描いた作品の中で活躍したキャラクター、ハニィと一体になったような変な気分だった。 頭の中で「作者さん何やってんですか」とハニィが囁いたような気がした。 「じゃあ、撮りますよ。ハニィのポーズ、はい!」 いるこさんの声と同時に正面からカシャっという撮影の音。 違う角度からもライトがピカッと光る。 でもその光の本当の意味に僕は気づかなかった。 「ほら、見てください」 壁のスクリーンには剣を構えるハニィ、いや僕の姿が映し出されていた。 「美しくも凛々しいです、素敵」 いるこさんが左右の手を組んでうっとりと見ている、でも微かにその唇の端が歪んでいる事に僕は気づかなかった。 「面白いですね、この装置ってお店で使うんですか? 着替えないで一瞬で衣装を変えられるとしたらほんとに話題になりそうですね」 「そう、そうなんですよ。じゃあ次いってみましょうか」 「次?」 「ええ、蒸着システムには衣装データーをたくさんインプットしてますから、このシステムを使えばtoshi9さんもスウィートハニィばりに七変化ができますよ」 そう言っているこさんがまたパネルを操作する。 再び僕の身体を光とミストが包む。 ぴちっと僕の体に貼りついていたいたハニィのバトルスーツは消えて、僕はまた一瞬裸になってしまった。 それをいるこさんが見ている。 露わになる自分自身の女体に恥ずかしくなった僕は、思わず両手で胸と股間を隠してしまう。 でもすぐに僕の肌の上に別な服が現れ始めた。 僕の着ていた服はアンナ○ラ○ズ・・アンミラの制服に変わっていた。 白いブラウス、胸の大きさを強調したカットのピンクのジャンパーミニスカート、手に持っていたプラチナフルーレは丸いトレイに変わっている。そう、着ているのは上の店で最初に見た制服だ。 「なななんですか、これ」 「素敵ですよ、とってもお似合い。早速上で接客してみます?」 「ええ? そんな、無理ですよ。何を言っているんですか」 「でもtoshi9さんはファミレスでの接客経験があるでしょ〜。小説読みましたよ」 そう言っているこさんは少し首を傾けにこっと笑う。 「そうでした、あれはブルーハワイのゼリージュースでファミレスの女の子に憑依して……むにゃむにゃ……いや、やめておきます。でもこんな風にあっという間に服が換えられるって凄いですね」 そう言って思わずブラウスの白い生地に包まれた胸に手を当ててみる。 するとまたしてもピカッと眩い光が。 「toshi9さんポーズとって、さあ笑ってぇ、いらっしゃいませって言ってみてください」 「こ、こうかな……いらっしゃいませぇ」 またまた光、何なんだこの光は。 「そうそう、そうですよ、やっぱり経験があると様になってますね」 うーん、つい乗せられてしまった。 「すみません、さっきから光っているのって?」 「記録というか、記念に写真も撮れるんです。後でtoshi9さんにも全部差し上げますよ。それとも必要ないですか?」 「い、いえ、そ、そうですね、じゃあいただきます。HPの扉絵に使ってみようかな」 「あ、それ良いですね、じゃあ次いってみましょう、そうね〜、これなんてどうかなぁ?」 え、なに? 再び僕の全身が光と上からぶおっと吹き出すミストに包まれた。 そして光が消えた時、僕が着ていたアンミラの制服は体にピチッと張り付いたような競泳水着のような衣装に変わっていた。 そのハイレッグの青い水着のような衣装はレザー生地でできていた。脚は網タイツに包まれ、頭には青く長い耳、そしてお尻には白く丸い尻尾。下半身を包んだ網タイツ越しにレザーの生地が股に食い込んでくる。 「ば、バニーガール!」 きゅっと体全体を絞り上げる生地が食い込む股がきつい。思わず内股になってしまう。 これは予想してなかった。 「うわぁ、よくお似合いです、toshi9さん、バニーガールは初めてですか?」 「も、もちろんです」 「でも作品にはバニースーツを着せられたキャラが何人も出てきますよ。どうです? それを自分で着た感想は」 「ま、まあ悪くない、でもちょっと窮屈というか、股がきつくて」 「バニースーツって皮製ですもんね。アソコが刺激されて感じません?」 「い、いや、その……」 確かに食い込んで圧迫された股間がむずむずする、このままじゃ…… 「も、もういいでしょう、早く着替えさせてくださいよ」 「じゃあ、写真に撮らせてもらいますね。さあ、toshi9さん、もっと胸を張って」 「こうか」 言われるままにポーズをとってみる。もうやけだ。 「それじゃ腰に手を当てて、そのままこっちを向いて、そうそう素敵です」 「こ、こうか」 邪気なく微笑んで僕を見ているいるこさんを前にポーズをとると、頬が赤くなっているのを感じる。 「段々ノッテきたゾ〜。さてと次は〜よし、これだ!」 何度目かの光とミストがが僕を包む。 今度はなんだ。 身体を見下ろすと、青と白基調のへそ丸出しの衣装を着ていた。白いビキニの上下に青い色の短い半袖の上着。二の腕には同じ白い色のバンド。手には閉じられた傘を持っている。 「これって、レースクイーンの衣装。でもどっかで見たような」 「そうです、実はあの作品のコスチュームですよ」 「そうだ、『白い闇の中で』のアレだ、○〇さんにいただいた」 「toshi9さんの作品って、レースクイーンになったTSっ娘が何人か出てきますよね。私、あの挿絵もあって特にこの作品が好きでした」 「そうか〜、アレか」 「ほら傘を開いて、こっち向いて笑ってください」 久美子のあの笑顔を思い出すな。 パラソルを広げると、正面に向かって笑顔を向ける。 カシャッ 「いい笑顔ですよ。toshi9さん、また自分のキャラクターになった気分だったんじゃありません?」 「そ、そうですね。ほんとに不思議な気分というか」 「じゃあ、次いきますよ」 そしてまた光とミスト。 そして霧煙が晴れると僕は黄色い虎縞のビキニを着ていた。両脚にも同じ虎縞のブーツを履いている。頭に手をやると角がついていた。 「ラ、ラ○ちゃんか」 「かわいいですよ」 「でもこれは予想外というか……」 「かわいいんですから、まあ細かいことは気にしないでください。電撃のポーズとかできます」 「こ、こうだったかな……ダーリン、お仕置きだっちゃ!」 「あら、成りきってますね」 「もうやけです、こうなったら楽しまなきゃ」 「そうですよ〜、じゃあアニメつながりで、これとかどうですか?」 それからも次々と衣装をチェンジさせられ、ポーズととらされ、そして写真を撮られていった。 何やってるんだ、僕は…… 「じゃあだいぶ撮れたし、そろそろ最後ということで、コレいきましょう!」 黒のブラウスとミディアムスカートの上下に白いエプロンをつけたメイド服を着せられてポーズをとっていた僕の身体を光るミストが包む。僕は純白のウェディングドレスを着せられていた。頭にはティアラ、手にはブーケを持っている。胸元は大きく開き、巨乳がこぼれんばかりだ。腰が縛り上げられてきつい。 「ウ、ウェデングドレス!」 これは昔も着た事なかった。 「美人でスタイルが良くって、ほんとに何でもお似合いですね。お嫁さんの衣装ですよ、どうですか? 嫁ぐ乙女になった気分は」 「そ、そうですね・・」 花嫁衣裳って、何だか胸がキュンってするな。 由紀さんのウェディングドレス姿を思わず思い出す。僕がそのウェディングドレスを着ているかと思うと、ちょっと顔が引きつってしまった。カシャっという音とともに、この姿も写真を撮られる。 「あの、いるこさん、そろそろ」 「そうですね、ごねんなさい、toshi9さんのリアクションが面白かったんで、つい長く引き留めてしまいましたね、じゃあ終わりにしましょうか。お疲れ様でした〜」 そう言って機械を操作するいるこさん。でも、僕の花嫁衣裳はいつまで経っても変わらない。 「あー!」 「どうしました?」 「toshi9さんが着てきたスーツのデーターを保存してなかったんだ」 「ということは?」 「あのスーツはもうありません、出せるのはあらかじめこの装置にデーターを保存している衣装だけです」 「えー!」 「仕方ないから、どれか着て帰ってください。生地は本物なので外でも普通に着られますから。あ、送り返さなくてもそのまま差し上げます」 「でも今まで着せられた服だと、ハロウィーンならともかく・・今の時期に外を歩けるような服なんて無いじゃないですか。どうするんですか」 確か、ハニィのバトルスーツにアンミラの制服、バニーガールにラ〇ちゃんの虎縞ビキニ、…メイド服…、でこのウェディングドレスだったよな。ウェディングドレスのまましゃがみ込んで頭を抱える。 「そうですね〜。あ、まだ着てもらってないのがあった。これなら表を歩いても大丈夫じゃないですか? 多分」 パネルを操作していたいるこさんがそう言うと同時に僕の身体を光と霧煙が包む。裸になった僕の肢体に今度は白い清楚なブラジャーとショーツ、さらにその上にキャミソール、そしてブラウンカラーの上着とプリーツスカート、胸に赤いリボンが次々に現れてくる。プリーツスカートは短めで、脚は黒のニーソックスに包まれている。着せられたのは、どこかの高校の制服だろうか。 「これってどこの制服ですか? ちょっと恥ずかしいけど、でもまあ今までのよりマシか」 「toshi9さん、はいこれ」 いるこさんは質問には答えず、僕に黙ってトランペットを渡した。 「はい、構えて」 え? まだ続いているのか? 仕方なくトランペットのピストンに指を添えてを持ち上げた。 シャッター音と光。 く〜、この恰好も写真に撮られたんだ。 「toshi9さん、ほんとにすみませんでした」 いるこさんが申し訳なさそうにぺこりとお辞儀をする。 「まあ仕方ないです。それにほんとに楽しかったですよ。こちらこそ今日はありがとうございました!」 最後のセーラー服のままソファーに座っているこさんにお辞儀した。 「ほんとによく似合ってますよ。現役の女子高生みたいです」 「そんなこと……ないです」 恥ずかしさにうつむいてしまう僕を他所に、彼女はどこか満足そうな笑顔だ。 「ところでtoshi9さんはどれが一番お気にいりでした?」 「うーん、○○かな」 「私もそれです、やった〜意見が一致しましたね。じゃあそういうことで」 いるこさんがにやっと小さく笑う。 「え? いるこさん、何か言いました?」 「いいえ何も、こちらこそ来ていただいて本当にありがとうございました。また是非来てくださいね。toshi9さんが着てみたい衣装があれば先に連絡していただければデーターを用意しておきますから」 「う、うん」 「また会えます?」 「はい、今度は是非東京に来てくださいね」 そう、彼女のアイデアは研究に必ず役立つはずだ。 東京に来られたらスタッフにスカウトしてみようかな。 そんなことを思っていると、いるこさんがカメラで僕を撮る。 「ほんとにかわいいですよ〜、それじゃ道中お気をつけてくださいね」 そうだった、これを着て帰らないといけないんだ。 結局僕はセーラー服のままいるこさんのお店を後にすると、そのまま福岡空港から東京に帰ることになってしまった。 「ううう、やっぱり恥ずかしい」 地下鉄で、空港のロビーで、リムジンバスで、行く先々でまたもジロジロと見られている視線を感じる。 そしてスーツで出掛けたのに女子高生の恰好で戻ってきた僕が、その夜由紀さんに散々おもちゃにされたのは言うまでもなかった。 ------------------------------------------------------------ さて、toshi9が店を出たあとの事、いるこは一人新システムの前でほくそえんでいた。 「うふふ、toshi9さんには内緒だけど、本当はこれが欲しかったんだ」 いるこが装置の別のボタンを押すと、上部から濃い乳白色のミストが降り注ぐ。すると台座の上に徐々に人型が姿を現した。 それは〇〇の衣装をまとったtoshi9の姿をしたマネキンだった。もちろんマネキンはポーズをとったままぴくりとも動かない。 「やった〜!」 万歳したいるこはそのマネキンに抱きついて頬ずりをする。 「コレクションが増えた。それも一番欲しかったtoshi9さんの。すてき」 マネキンを台座から抱えおろしたいるこは部屋の壁のボタンを押す。 左右に徐々にスライドして開いていく壁。 壁の向こうには部屋が隠されており、そこには様々な衣装を着た女性のマネキンが数体飾られていた。 「〇〇さん、〇〇さん、あたしたちの先輩が加わりましたよ〜、かわいがってくださいね」 抱えたtoshi9のマネキンを他のマネキンと一緒に並べると、眺めて悦に入るいるこだった。 「ほんとに素敵、ずっとかわいがってあげるね」 そう言って振り向いたいるこはダークな笑顔を見せ、人差し指を唇に当てた。 「みなさん、この事はtoshi9さんには内緒ですよ、うふふふ」 あとがき TS解体新書21年目ということで書いた作品です。「ゼリージュース!外伝」シリーズは完結しましたが、最終話で書けなかった由紀さんとの結婚について触れておきたかったこと、そして外伝に繋がるお話として書いた「クリニックYUKI」、「ゼリージュースロボ」、「チョコレートトラブル」といった作品群と「ゼリージュース!外伝」を繋ぐ作品をいつか書いてみたいとずっと考えていたこともあって、今回この作品を書いてみました。また、作品の後半ではゲストとしているこさんに参加していただきました。20周年の対談企画でやりとりをさせていただいた後でいるこさんにコスプレさせられる展開を二人で考えていたのですが、いるこさんのところに遊びに行くという形でそのアイデアもひとつのお話にまとめてみました。もちろん、いるこさんには作品の初稿を読んでいただき出演許可をもらっています。また挿絵は今後追加していく予定ですのでお楽しみに。 では今回も最後までお読みいただきありがとうございました |