ドリカムを聴きながら(後編)

作:toshi9






 ピンポーン!

(ふふふ、来たな裕二。さあ、この美弥ちゃんがお前ときっぱりと別れてやるぜ)

 TSショップで買ったゼリージュースを使って美弥と己の姿を入れ替えた高志。
 手に入れた美弥の姿でさっきまで美弥が着ていた服を着込んだ彼は、もう誰が見てもこの部屋の主、美弥そのものだ。
 高志はソファーから立ち上がると、玄関に歩み寄った。


「あたし、あたし、あたしは吉田美弥……よし」

 高志は深く深呼吸すると、ゆっくりとドアを開けた。 


「裕二、遅かったね」

「ごめんごめん、どうしても仕事が終わんなくって」

「……待ってたんだから」

「ああ、ほんと悪かったよ」

 美弥のふりをして俯き加減に話す高志。そんな彼を裕二は美弥だと信じて疑う気配は全くない。


「さっき高志が来たわ」

「高志が? そうか、昨日あいつに俺たちのことを話したからな」

「高志ったら、かなり落ち込んでいたよ」

「うーん、あいつもお前のことを好きだというのは何となくわかっていたんだが、でもいくら高志でもこれだけは譲れないからなあ」

「全く、裕二ったら抜け駆けしちゃうんだもんね」

「おいおい、そんな人聞きの悪いことを言うなよ」

「ふふっ、ごめん」


 ぺろっと舌を出す高志に、苦笑いしながらドアを閉めて部屋に上がる裕二だった。
 部屋の中には高志がセットしたばかりのCDの曲が静かに流れている。


「お、ドリカムか」

「うん」

「ドリカム……俺たちの大好きな曲だな。お前も俺も、そして高志も」

「……ねえ、裕二」

「え?」

「今日のあたしっておかしくない?」

「おかしい? いいや、別にいつもと変わらないと思うけど」

「いつもと変わらない? ほんとにそう思う?」

「ああ、いつもの美弥じゃないか。それともお前、高志に何か言われたのか?」

「え? うん、まあね。でも……そっか、いつもの美弥か」

「そうだよ。高志に何を言われたのか知らないけれど、あんまり気にするな」

「ふふっ、気にするっていうか……そうだ、ねえ裕二」

「どうした?」

「キスして」


 目を瞑って唇を突き出す高志。


「ええ? どうしたんだ、お前からそんなこと言い出すなんて」

「ふふっ、だから今日のあたしはいつものあたしじゃないの」

「やれやれ、わかったよ」

(確かにいつもの美弥とちょっと様子が違うな。でも今日の美弥って、何かかわいいぜ)


 そんなことを思いながら、高志を己の胸に抱き寄せる裕二。
 いつもは背丈の変わらない二人だが、美弥の姿になっている今の高志は裕二より頭一つ低い。
 高志は肩の上から裕二にぎゅっと抱きしめられてしまっていた。


「あん」

 高志の盛り上がった胸が裕二の胸にぎゅっと押しつぶされる。その瞬間、高志の背筋をぞくりとした快感が突き抜けた。


「好きだよ、美弥」

 裕二はそう言いながら、高志の唇に己の唇を寄せた。


「ゆう、あん、んんん」

 唇を触れ合わしたまま裕二はさらに力を込めて高志を抱きしめる。
 高志のほうも自然とその両腕を裕二の腰にまわしていた。
 そしてそのままじっと抱き合う二人。




 CDの曲がゆったりしたバラードから速いテンポのロック調の曲に変わる。

 そして二人の会話の止んだ部屋の中に激しく響いていた。




 裕二と唇を合わせて抱き合っている高志は、ふと己の下腹に裕二のモノが当たるのを、
そしてそれが段々と大きくなってきているのを感じていた。

(ふふふ、裕二の奴、俺に欲情してるのか。まあ仕方ないよな、俺のことを美弥だって思い込んでいる訳だからな。
だが、遊びは終わりだ。さあて、そろそろ引導を渡してやらなきゃな。
 それにしても……あ、ああん……こいつ上手いじゃないか)

 目を瞑り、愛らしい美弥の表情で裕二とキスしている高志は、思いがけない心地よさを感じながらも、
その心の中でくっくっくっと笑っていた。しかし……。


 ガタッ!


「え?」

 何かの物音に思わず唇を離す裕二。
 突然キスを止められ、美弥の顔で不満気な表情を見せる高志。
 勿論それは演技のつもりだったのだが、高志本人にとって予想外の感情、
もっと続けていたいという気持ちも心の中にもやもやと湧き上がっていた。


「あん、裕二ったらもう止めちゃうなんて」

「おい、美弥、何か物音がしなかったか」

「え? そ、そお? 気のせいじゃないの」

「そうかなあ」

「ね〜え〜、裕二」

 スーツ姿の裕二の首に両手を絡める高志。
 裕二にとってその顔、その仕草は自分に甘えかけてくる美弥のようにしか見えない。


「お前、今日はどうしたんだよ」

「だから言ったでしょう、今日のあたしは変なんだって。ねえ裕二、実はあたしあなたに話しておかなきゃならないことがあるの」

「話しておかなきゃならないこと? 何だよ」

「実はね、あたし……」

「うん」


 ドン! ドン! ガタッ、ガタガタッ!


「え? おい、さっきから何なんだあの音。そこに何かいるんじゃないのか」

 音はドレッサーの内側から聞こえてくる。


「いいじゃない、そんなこと。だからあたしは裕二と今日で……あ!」


 ドサッ!


 突然ドレッサーの鍵が外れて扉が開いたかと思うと、中から毛布に包まれた何かが落ちてきた。


「な、何だこれは」

「ちっ!」


 抱きついている高志を引き離して、落ちてきたものに恐る恐る近寄る裕二。

(これって人か? 一体誰なんだ。何だってこんなところに?)

 だが、裕二は縛った紐を解いて毛布をめくった瞬間絶句した。


「ん〜ん〜ん〜」


 広げた毛布の中から出てきたもの、それは両手両足をガムテープでぐるぐる巻きにされ、
口をガムテープで塞がれた裸の高志だった。そしてその顔は涙でぐしゃぐしゃだ。


「え! 高志、どうしたんだお前。それにその格好は」

 裕二は美弥の口に貼られたガムテープを外そうとする。だが、その裕二を制するように高志が後ろから叫んだ。


「た、高志ったら部屋に入ってきて、落ち込んでいたかと思ったら、いきなり服を脱ぎ捨ててあたしに襲い掛かってきたの!」

「何だって!?」

「あたしのことが好きだって。お前を裕二に渡す位だったら、今すぐ俺のものにしてやるって」

「高志、お前って……お前って奴はそんな男だったのか」

 激しい怒りの目で縛られた美弥を睨みつける裕二。彼の目には勿論その姿は高志にしか見えない。


(違う、あたしは高志じゃない。あたしは美弥よ。裕二の後ろ立っているあたしが本当の高志なの)

 目で裕二に必死に訴えかけ首を振る美弥、しかし……。


「怖かった、あたし必死で抵抗して……高志がテーブルに頭を打って気絶した隙にガムテープで動けないよにしてやったの」

 わっと裕二の背中に抱きついて顔を埋める高志。しかしその顔はくくくっと笑いをかみ殺していた。

(美弥の奴、まさか外に飛び出してくるとは、くそう、予定が狂ってしまったな。
仕方がない、このまま美弥に成りすまして裕二の様子を見るとするか)

「そうだったのか。いくら親友だからって、美弥のことが好きだったからって言っても、高志、何でそんなことを……。
 でも美弥、お前どうして高志をドレッサーなんかに押し込めたんだ」

「だって……もうすぐ裕二が来ちゃうって思ったら焦ってしまって……。
 ぐすっ、裕二に変に誤解をされたくなかったんだもん、ぐすっ」

「そうか、美弥、辛い思いをしたんだな」


 両手で顔に覆って泣き始める高志……勿論嘘泣きだ。
 その高志の頭を優しく撫でる裕二。
 そしてその二人を見て、涙目で必死に首を振る美弥だった。


「ん〜んんん」

(違う、裕二、違うの。それはあたしじゃない、それは高志よ、お願い気が付いて)

 裕二に撫でられながら、覆った手の中で高志はにやにやと笑っていた。


(こんなに美弥は必死なのに、裕二、お前は気が付かないのか)

 高志は顔を覆った手を離して裕二を見上げると、美弥を指差して言い放った。


「ねえ、このまま高志を警察に突き出して!」

「お前、いくらなんでもそれはやり過ぎだろう。確かに高志はひどい事をした。でも高志だって気が動転していたんだよ。
 その気持ち、わからなくもないし、俺たち3人の仲じゃないか。美弥、許してやろうよ」

「あたし本当に怖かったんだから。裕二はあたしがどうなっていても良かったって言うの!」

「いや、そうは言ってないが……うーん」

「裕二が電話できないのなら、あたしが電話してやる」

「待て! 止めるんだ。勿論お前のことは大切だけれど、高志だって俺の大事な親友なんだ。
 高志を警察に突き出すような真似は俺にはできない。
 美弥、落ち着け、お前のとっても高志は親友じゃないか、そうだろう。
 なあ、高志のこと、許してやろうじゃないか。俺たちは3人は今までも、これからも親友なんだ。今日のことは忘れてやろうよ」

「だって、だって」

「俺と美弥が結婚するって話したのがよっぽどショックだったんだな。
 高志、本当にすまん。黙っていた俺が悪かった。許してくれ!」

 縛られたままの美弥に頭を下げる裕二。


「裕二……」

「ん〜ん〜」




 三人の動きが止まる。

 CDの曲は軽いアップテンポのフォーク調の曲に変わっていた。




 頭を下げ続ける裕二を黙ってじっと見ていた高志は、ふう〜っと息を吐くと、ゆっくりと美弥に歩み寄った。びくっとする美弥。
 勿論裕二には美弥が高志に歩み寄っているようにしか見えない。
 高志はビッと美弥の口に貼られたガムテープを外した。


「裕二ぃ、違うの」

「え?」

「あたしが美弥なの、このあたしの格好をしているのは高志なのよ」

「はあ? 高志、お前何言ってるんだ」

「高志に変なジュースを飲まされて、体が透明になって、気が付いたらあたしたちの姿が入れ替わっていたの」

「そんな馬鹿な、信じられん」

「嘘じゃない、本当なの、信じて裕二」


 高志のほうを振り返る裕二。
 その裕二を真顔でじっと見返す美弥の姿をした高志は、ゆっくりと口を開いた。


「あたしと自分のことをあたしだと言っている高志、裕二はどちらを信じるの」

「そ、そりゃあ高志の言っていることはあまりにも突飛で信じられないよ。お前が紛れも無く美弥だ。
 でも高志の目は嘘やでたらめを言っているとは思えないし、それに高志の目、何だか……」

「じゃあ裕二は高志の言うことを信じるって言うのね」

「いや……それは……」

 何事か考え始める裕二。そして突然口を開いた。


「おい、美弥、明日は何の日だ」

「明日? え?」

 不意に裕二に質問され、高志は返事に窮してしまう。
 だが高志が言葉を詰まらせていると、縛られたままの美弥が叫んだ。


「明日は二人でホテルに行くの、ホテルに行って式の打ち合わせをする日、
そしてその後で裕二が予約した南青山のレストランに行くの!」

「……そうか、うん、それを知っているのは美弥だけだ。高志の姿をしているけれど、確かにお前は美弥なんだな」

 美弥の横に座り、その手足に巻かれたガムテープを丁寧に剥がす裕二。 


「裕二、裕二、裕二」


 ようやく手足が自由になり、美弥はぎゅっと裕二に抱きついた。まあ見た目には高志が裕二に抱きついているようにしか見えないのであまり気持ちの良いものではない。
 しかしその美弥を裕二は優しく受け止めた。そして目の前にじっと立っている美弥の姿をした高志を睨みつける。


すると貴様はやっぱり」

「ふっふっふふふ」

 顔を伏せ、突然唸るような笑い声を上げる高志。


「そうさ、そうだよ、俺が本物の高志だよ」

「本当にそうなのか。俺はまだ半信半疑なんだが……それにしてもお前、どうしてこんなことを」

「昨日お前から結婚するって聞いて、俺は本当に落ち込んだよ。
 俺だっていつか美弥に告白したいってずっと思っていたんだ。
 でも俺は俺たちの関係が壊れてしまうのが怖くてそれを言い出すことができなかった。
 それなのにいきなり結婚するだぁ、ふざけるな!」

「高志……」

「あれから俺はもうどうしていいかわからなくなったんだ。頭の中が空っぽになったよ。
 俺の気持ちも美弥に伝えるべきなのか、でも今更告白したところでどうなる訳でもない。
 却ってみじめになるだけだ。もう何も考えられなくなってふらふら町をふらついている時に見つけたんだよ。
 あのゼリージュースをな」

「何だったのよ、あのジュース」

「あれを飲むと二人ともゼリー状の透明な体になってしまうんだ。そしてお互いの体を重ねると姿が入れ替わってしまうのさ」

「そんな馬鹿なことが」

「何言ってるんだ、裕二。お前も認めたじゃないか。今の俺は美弥の姿をしているけれども間違いなく俺だ。
 西川高志だ。俺と美弥の姿はゼリージュースの力で完全に入れ替わったんだよ。
 それにしても面白かったぜ、さっきまで俺だって全くわからないんだからな。
 お前、抱きしめながらこの俺に欲情するんだもんなあ」

「ま、まあそりゃあそうなんだが……ば、馬鹿やろう、そんなこと」

 美弥の声でそう言われて思わず顔を赤くする裕二だった。


「俺はこのゼリージュースを手に入れた時に閃いたんだ。
 これを使えば美弥とお前を別れさせて、この俺が美弥と結婚できるんじゃないかってな。
 まあ今考えると無茶苦茶な計画だったかもしれないが、俺はまずゼリージュースを使って美弥と自分の姿を入れ替えた後で強引に既成事実を作ってやろうと思ったんだ。
 その上で、お前をこの美弥の姿で思いっきり振ってやろうって思ったのさ。
 そしてそれはもう少しで上手くいきそうだったんだ。でもまさか美弥が閉じ込めたドレッサーから出てくるとはな。
 そう言えば今の美弥は俺の体力だったんだな。全く誤算だったよ」

「だって、あれ以上もうじっとしていられなかった。二人の会話を聞いていられなかった。必死だったの。
 必死で扉に体をぶつけて、そしたら扉が開いて……。
 でもひどいよ高志、あなたがこんなひどいことをするなんて」

「すまん、美弥、俺はあの時もうこうするしかないって思い詰めてしまっていた。
 でもさっき裕二が俺の姿をした美弥に潔く頭を下げた時はっとしたんだ。
 俺は何をやってるんだ、俺たちは親友じゃなかったのかってな。
 確かに俺だって美弥と結婚したかった。でも美弥の気持ちはどうなんだ、裕二の気持ちは。
 俺たちはいつでも一緒だったのに美弥は裕二を選んだ。それは紛れもない事実だ。
 それを今更壊して美弥と一緒になったとしても何が残るっていうんだ。

 全く俺は何でこんなことをしてしまったんだろう。

 美弥に襲いかかった筈の俺に対して黙って自分が悪かったと頭を下げてくれた裕二、それなのに俺はそんな親友を裏切るような真似をして、美弥にもひどいことをして……。
 美弥、ほんとお前にはひどいことをしたよ。謝って済むもんじゃないが謝る。ごめん!」

「高志……。ねえ高志、あたしもあなたに黙っていて悪かったって思っていたの。
 きちんと話さなきゃいけないのに言い出せなかったあたしも悪いの。でもちょっとひどすぎる」

「……すまん」




 CDの曲がスローテンポのバラードに変わり、部屋の中を優しく満たしていく。

 そしてその中、じっと高志の顔を見つめる美弥だった。




「ふふっ、あたしの顔でそんな情けない顔しないで。わかった、許してあげるわ」

「美弥、俺は……」

「もういいから、それに高志に……男になって経験するなんて普通できないしね」

「え゛」

「あ、いえ、ね、ねえ高志、あたしたちって、これからずっと入れ替わったままなの」

「大丈夫だ、安心しな」

「じゃあ元に戻れるのね」

「ああ、トイレに行って、お腹のものを外に出してしまえば元の姿に戻れるよ。美弥、本当に悪いことをした」

「高志……」


 黙ってその場で目を瞑る高志。

 そして流れている曲をじっと聴いていた高志は再び目を開いた。


「これ、『LoveLoveLove』だな」

「え?」

「ふっ、お前たちが許してくれても、俺にはこれ以上お前たちに会わす顔がない。
 もうお前たち二人の前には二度と現れないよ。あばよ」

「お、おい、高志」

「二人で幸せにな」

 美弥の姿で二人に背を向け手を振ると、机の上の残ったゼリージュースを手に取った高志は美弥の部屋を出て行った。

 バタンとドアが閉じる。




 そして部屋の中に流れていた最後のバラードが終わった。

 残された二人を静寂が包む。




「高志。お前にも俺たちを祝福して欲しかったのに」

「高志、式に来てくれるかしら」

「あいつのことだ、気持ちが落ち着いたら必ず来てくれるよ」

「そうだね」

「ところで美弥」

「え? なあに、裕二」

「早くトイレに行ってきたらどうなんだ。その格好はちょっと……」

「え? あ、きゃあ〜、裕二のエッチ」

「馬鹿、いくら裸だからって高志の裸じゃあな」

「もお」

 裕二に促されて、毛布を被ってトイレに駆け込む美弥だった。


「美弥の奴、あんな格好で入って着替えはどうするんだ、はぁ〜」

 閉じられたトイレのドアの音に思わず苦笑する裕二だったが、彼は思いついたように窓際に近寄った。


「高志……」

 窓の外をじっと見つめる裕二。
 

「高志、すまなかった。美弥は必ず俺が幸せにするぜ。必ずな」

 裕二はCDプレーヤーに歩み寄ると、止まっていたプレーヤーの再生ボタンを押した。



 そして再びドリカムの曲が部屋の中に流れ始める。




(了)




                               2002年8月27日 脱稿

後書き
 久しぶりに表ゼリージュースの作品を書きました。男2人と女1人のグループの中の二人が結婚することになった時、残された一人がもしゼリージュースを手に入れたら・・そんなテーマで書き始めてみた作品です。当初の案では後半もダークな展開に突っ走っていたのですが、後編はドリカムの曲がバックに流れる中での展開でと決めたましたら、結局このような結末になってしまいました。
さて、高志は結婚式に出席するのか、それとも……。

 それではお読み頂きました皆様、どうもありがとうございました。







(蛇足)

 数時間後、TSショップに美弥の姿が、いや、美弥の姿をした高志の姿があった。

「なあ店主、この姿のままでずっといることってできないのかい」

「そうですねぇ、申し訳ありませんが、あなたが買われたゼリージュースではそれはできないんですよ」

「頼む、そこを何とか」

「そう言われましてもねぇ……。じゃあこの方を訪ねてみたら如何ですか。もしかしたら何とかしてくれるかもしれませんよ」

 そう言いながら、TSショップの店主は高志に一枚の名刺を差し出す。

「そうか、ここに行けば俺は……」

 差し出された名刺を受け取った高志は、そこに書かれた名前を見つめながら小さく呟いていた。



   エステティックサロン
  『クリニック・YUKI』

   院長 柳沢由紀




(おわり)

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