その日の会社帰り、親友の仲村裕二と待ち合わせていた西川高志は、喫茶店で一通の白い封筒を手渡された。


「何だこれは」

「招待状だよ、俺と美弥のな」


 高志が封筒をひっくり返すと、その裏側には仲村裕一郎、吉田壮一、即ち二人の父親の名前が連名で印刷されている。


「お前と美弥の? どういうことだ」

「実は俺たち結婚するんだ。今まで俺たちが付き合っていたのを、その、お前に黙っていて悪かったと思っている。でもお前には俺たちのことを一番祝福して欲しいんだよ。だからこの結婚式の招待状は一番最初にお前に手渡したかったんだ」

「お前と美弥が? お前たち俺に隠れてつき合っていたのか。そんな、そんなことって……それじゃ一緒にいた俺がまるで馬鹿みたいじゃないか」

「そんなことない。俺たちは親友じゃないか。俺にとっても美弥にとっても、今までも、そしてこれからもお前が親友だということに変わりは無いさ」

(くっ、確かに俺と裕二と美弥は幼馴染同士、小さい頃からずっと親友だった。いつも三人一緒に行動して、周りからは男性二人と女性一人のグループなんて上手くいきっこないと言われたもんだ。
 でも俺はそんなこと気に留めていなかった。何よりもいつも三人一緒でいるのが楽しかったんだ。
 それなのにこんなことになるなんて。俺だって、俺だって本当は美弥のことを……)

 封筒をぎゅっと握りしめると、よろよろと立ち上がって歩き出す高志。


「お、おい、高志」

「ほっといて……くれ」


 喫茶店のドアを開けてふらふらと出ていく高志。その後ろから再び裕二は声を掛けた。


「高志、必ず来てくれよ」






 翌日、高志は1日中上の空だった。そして終業のチャイムが鳴ると同時に職場を出て行こうとする。


「おい西川君、今日は早いじゃないか」

「はあ、課長、すみません。ちょっと体調が優れなくて」

「そうか、まあ気をつけるんだぞ」


 残業が当たり前の彼の職場ではあるが、一応終業時間が過ぎていることもあり、彼の上司もそれ以上引き止めることはなかった。
 そしてそのままふらふらと街に繰り出した高志は、ぶらりと入った居酒屋で一人生ビールを何杯も煽った。
 だがいくら飲んでも彼の気持ちは癒されることはない。 

(今から美弥の家に行ってみようか。だが俺は彼女と会ってどうしようと言うんだ。今更俺も好きでしたなんてとても言えないし……)

 悶々としながら居酒屋を出て、再びふらふらと街中を歩く高志だったが、ふと一枚の看板に目が止まった。


『TSショップ! あなたの密かな願いを叶えます』

(TSってなんだ? 願いを叶える? むちゃくちゃ胡散臭いな。胡散臭いが……)


 高志にはその看板が何故か気になって仕方なかった。
 しばらく迷った挙句、結局彼はそのビルの階段を上がっていった。
 そして十数分後、右手に数本のペットボトルの入った袋をぶら下げて高志は階段をおりてきた。

 その表情に、ある強い決意が秘めながら……。







ドリカムを聴きながら(前編)

作:toshi9







「あら高志じゃない、いらっしゃい。急にどうしたの、それにこんな時間に一人でうちに来るなんて珍しいね」

「昨日裕二から招待状をもらったよ」


 固い表情のまま美弥の部屋の玄関のドアの前に立つ高志は、しかし美弥の質問には答えなかった。


「へぇ〜、もう印刷出来上がったんだ。でもあたしと分ける前にあなたに? ふふっ、裕二らしいね。とにかく上がって頂戴」


 玄関に立つ高志を部屋の中に迎え入れる美弥だった。

 高志は部屋の中に上がると、リビングのソファーにどかっと腰を下ろした。
 そして美弥も彼と向かい合うようにしてクッションの上に膝を揃えて座った。
 彼女は丸の内の有名商社に勤めるOLだが、いつも残業で帰りの遅い高志や裕二と違って5時ぴったりに仕事を終えている。


「おめでとう、美弥」

「ありがとう。高志ならきっとそう言ってくれると思ってた」


 高志の祝福の言葉に嬉しそうに答える美弥。


「昨日裕二から聞くまで全く気が付かなかったよ。ほんと俺って馬鹿みたいだ」

「ごめんね、黙っていて。あたしは裕二と高志とあたしの今の関係がずっと続けば良いなってずっと思っていたの。
でも裕二は、その、親友以上になっちゃって……いつか話さなくっちゃって思っていたんだけれど、
話したらあなたがあたしたちの前から離れて行っちゃうような気がして、言い出すのがとっても怖かったの。
だって裕二も高志もあたしの大切な親友なんだもん」

「ああ、確かにショックだったさ。でも裕二は潔く俺に話してくれた」

「うん」

「だからもうそのことはいいよ。たとえお前たちが結婚しても俺たちは親友さ、ずっとな」

「高志、ありがとう」

「それよりお祝いと言っちゃ何だが、こんなものを買ってきたんだ」


 買い物袋を美弥の目の前に差し出す高志。


「なに? それ」

「とっても面白い飲み物が入っているんだ。俺からのささやかなプレゼントさ」

「へぇ〜そっか、ありがとう。……そうだ、じゃあ9時頃に裕二も来るから、それから三人一緒に飲まない?」

「裕二も今日ここに来るのか」

「うん、いつもはもう少し早いんだけれど、今夜は遅くなるってさっき電話があったんだ」

「ふ〜ん、そうなのか……でもまだ9時まで時間もあるし、これだって何本もあるから俺たちで先に1本飲んでいようよ。
美弥、せめてお前と二人だけでお祝いさせてくれよ」


 彼が袋から出したもの、それはペットボトルに入った黄色い飲み物だった。


「うふっ、わかった。じゃあグラスを持ってくるね」


 美弥は立ち上がるとキッチンから二つのグラスを持ってきた。


「ほら、面白いだろう」


 高志はペットボトルのキャップを開けるとグラスに向けてゆっくりと飲み口を傾ける。
 だがその中身は一向に出てこようとしない。


「へぇ〜、どうして出てこないの? 不思議だね。それって本当に飲み物なの」

「ああ、ゼリージュースって言うらしいぜ」


 今度はペットボトルの横腹を押して、むりむりと中身を二つのグラスに捻り出す高志。


「ほら」

「へぇ〜、こうして見るとジュースにしか見えないね」

「ああ、じゃあ乾杯だ、乾杯!」

「かんぱ〜い」


 グラスがカチーンと乾いた音を立てる。


「ありがとう。じゃあ頂くね」


 こくっこくっ。


 興味深げに、グラスの中身を確かめるように飲む美弥。
 それを見てにやりと笑いながら、自分のグラスのゼリージュースを飲み干していく高志だった。


「ふーん、これってパインジュースの味がするんだ。それに見かけはジュースなのにゼリーだなんて、面白〜い」

「ああ、でも本当に面白いのはこれからさ」

「え? どういうこと……あれ、高志?」


 美弥が顔を上げて高志のほうを見ると、目の前の高志の姿が何となくすーっと薄れていくように見えた。
 肌の色も髪の色も段々と薄くなり、段々と透き通っていく。
 何時の間にか美弥には彼の後ろにある部屋の壁紙が透けて見えるようになっていた。
 そう、実際に高志の身体は透明になり始めていたのだ。そしてついに彼の顔も手足もすっかり見えなってしまった。

 美弥がはっと気が付くと、彼女の目には高志が着ている服と空になったグラスだけが空中に浮かんでいる。


「え? え? なんなの、どういうこと?」

「美弥、自分の体を見てみな」

「自分の体って……え? うそ!」


 自分の身体を見下ろした彼女が見たもの、それはやはり空中に浮かんでいるように見えるグラスだった。
 自分で持っている筈なのに、持っている自分の腕が見えない。
 そう、彼女自身の身体も何時の間にか透明になっていたのだ。

 彼女の身体の形に膨らんだピンクのトレーナーと膝丈のスカート、そして脚の形をしたストッキングだけが、
彼女がそこにいることを示していた。だがその中身である彼女の身体は美弥自身にも全く見えなくなってしまっていた。


「なんなの、これって! どうして……どうして見えないの? 高志もあたしも着ている服しか見えない。
あたしの体ってどうなっちゃったの? 高志、ねえ高志ったら」


 パニックに陥る美弥だったが、その蒼ざめた表情も透明になっている為、誰にも見ることはできないのだ。


 ことっ。


 高志は黙ってグラスをテーブルに置くと、自分の服を脱ぎ始めた。

 スーツ、ワイシャツ、下着、靴下。

 そして彼が服を全部脱ぎ終えると、透明の身体になった彼が何処にいるのか美弥にはもうわからない。
 そう、今の高志はすっかり透明人間状態だ。


「高志、ねえこれってどういうことなの? 今飲んだゼリージュースのせいなの? ねえ、ねえったら。
高志ったら何とか言って、ねえ何処にいるのよ」


 飲み干したグラスをテーブルに置いてあたりをきょろきょろとする美弥。
 と、突然その身体に何物かが掴みかかり、彼女の服を脱がそうとし始めた。
 尤も誰が彼女に掴みかかっているのか、その姿は全く見えない。


「ちょ、ちょっと高志でしょう。何するのよ。やめて、やめてよ」

「どうだい、面白いだろう」


 耳元から高志の声がする。何も見えないが其処には確かに高志がいる。
 高志は服を脱ぐと、密かに彼女の後ろに忍び寄っていたのだ。
 高志はあっという間に美弥のピンクのトレーナーとスカートを彼女から引っぺがす。


「ふふふ、下着だけのシルエットだけっていうのもなかなか色っぽいもんだな」


 空中に浮かんだブラジャー、美弥の腰から脚へのボディラインを浮かび上がらせたパンティストッキング、
そしてその中に包み込まれた白いパンティだけが彼女が其処にいることを示していた。


「さあ、これも脱ぎな」

「いや! 高志、もうやめて」


 美弥は再び己の身体に力が加わるのを感じた。彼女も抵抗しようとするものの、高志の姿が見えないためにうまくいかない。
 やがてそのブラジャーもパンティストッキングも、そして最後に残ったパンティさえも高志の手で剥ぎ取られてしまった。

 美弥のパンティが床に落ち、部屋の中で動くものは何も無くなった。だが部屋には未だ二人の男女がいる。
 お互いの姿を全く見ることのできない透明人間状態になった二人の男女が。


「何なのよこれ。ねえ、高志、高志ったら、何処?」

「・・・・・・・・・・・・」

「ちょっと、高志、どこにいるのよ。ねえ、もうこんなことやめようよ」


 部屋の中をきょろきょろする美弥。


 その時高志は彼女の声のする場所に向かって両手を広げ、じっと黙ったまま覆いかぶさろうとしていた。
 だがその事に美弥は全く気が付かない。


「・・・・・・・・・・・・」

「ねえ、ねえったら、ひっ」


 突然美弥は誰かにぎゅっと抱き締められるのを感じた。抱きついたのは勿論高志だ。
 部屋の中には姿の見えなくなった美弥と高志しかいない。


「やめて、高志でしょう、いや、やめてよ。え? そんな……なにこれ。うっ、や、やだ」


 姿の見えない高志に抱きつかれた美弥は、その時異様な違和感を感じた。
 それは美弥の腕を掴んでいる高志の腕が、そして背中から抱きついている彼の身体がぬるっと溶けて
彼女の皮膚を通して少しずつ身体の中に滲み込んでくるような感覚だった。
 生暖かい何かが美弥の背中から、そして脚や腕の皮膚からどんどんと身体の中に入ってくる。


「なに? や、やだ、気持ち悪い」

(なにこの感じ、これって何が起こっているの)


 自分も高志も姿が見えなくなった上に、今度は何かが自分の体の中に入ってこようとしている。
 そのおぞましい感覚に思わずその場にうずくまる美弥だった。


「いや、いやいや、い……や……」

 やがて彼女に覆いかぶさった高志は、自分の体をすっかり美弥の身体の中に潜り込ませてしまう。
 それと共に彼女の心を心地良い喪失感が覆い始めていた。
 まるで溜まりに溜まったおしっこを出すような、そんな心地良い喪失感が何度も何度も彼女を呑み込もうとする。


(気持ち……いい。でも……ああ、何かがあたしの中から出て行く、駄目……)

 夢心地の中、無意識に叫ぶ美弥だった。


 やがてその喪失感は逆流するかのように変わり始める。
 美弥は今度は何か別のものが空っぽになってしまった自分の中に無理やり押し込まれるような感覚を感じ始めた。


(ありがとう、代わりにそれをあげるよ)

(え? だれ? な、なに?)


 その不思議な感覚はそれから約10秒程続いた。
 やがて美弥の中に入った高志は再び彼女の中から抜け出してくる。
 一体化していた二人の透明な身体は再び二つに分かれようとしていた。
 そして再び強烈な喪失感に襲われる美弥。


(いやあ、駄目、持っていかないで。え? 持っていく? 何を?)

「え? はっ!」


 一瞬意識を失っていた美弥は自分の叫び声に意識を取り戻した。
 そしてふと自分の身体がその肌の色を取り戻し始めているのに気が付いた。


(なに? 今まで何が起こっていたの?)


 ぼーっと座り込んだままの彼女の目の前に少しずつ人の姿が浮かび上がってくる。


「高志でしょう。もお、何なのよこれ。あのゼリージュースのせいなの。
変なドラッグか何か入っていたんじゃないでしょうね。え? こほん」


 ふと美弥は自分の声が妙に低くなっているのに気が付いた。
 裸にされて風邪ひいた? そんな風に思いながらしきりに咳払いをする。


「こほん、こほん、なんなのよ、急に」

「くすくすくす」


 目の前に浮かび上がってくる人物が、その時笑い声を上げた。
 高志の声じゃない。


「誰? だれよ。そこにいるのって高志じゃないの? 誰なの?」

「高志だよ」

「うそ、高志はそんな声じゃない、あなた、女性でしょう。でも何処から入って……こほこほ」

「俺がこんなかわいい声を出している。半信半疑だったけれど、本当にできたんだ」

「どういうこ……え!」


 やがてぼんやりとしていた目の前の人物の姿がくっきりと浮かび上がってくる。
 しかしそれはやはりがっちりした高志の姿ではなかった。
 肩に垂れたセミロングの髪、華奢な肩、か細い腕、ふくよかに膨らんだ胸、細い腰とむっちり膨らんだお尻。
 そうそれは確かに女性の姿だ。だが驚くことに、それは裸になった美弥自身の姿だった。


「え? 鏡? 違う、でも……」


 唖然とする美弥の目の前に立った裸のもう一人の美弥は、美弥の意志を全く無視するかのように、にやりと笑った。


「だから、俺は高志だって」

「高志、ほんとうに高志なの? だってまるであたしみたい。どうして……」

「あのゼリージュース……ショップで聞いた時は半信半疑だったけれど嘘じゃなかったんだなあ」

「だから何がどうなって、それも裸のあたしなんて、どういうことなのよ、こほん」

「自分の姿も見てみたらどうだい? 美弥」

「自分の姿? え!」

 何時の間にか自身もすっかり肌の色を取り戻していたことに気が付いた美弥だが、
高志に言われて自分の身体を見下ろした彼女は思わず息を呑んだ。
 其処にはふくよかに膨らんでいた乳房は無くなっていた。つるんと平らで広い胸、筋肉の付いたお腹、そしてその下には……。


「え? え? あたしの胸が」


 ぺたぺたと自分の胸に触る美弥。しかしいくら弄ってもそこに彼女が慣れ親しんだ柔らかな乳房はない。
 硬い筋肉の感触が返ってくるだけだ。


「股間も触ってみたらどうだい。ふふふふ」

「股間って……ひっ!」


 己の股間に手を伸ばした彼女の手の平に触れたもの、それは女性である美弥には有り得ざるものだった。


「こ、こ、これ、お、お」

「そうだよ。男の、俺のムスコ」
 
「そんな、どうしてあたしに」

「君はもう女じゃないからさ」

「女じゃない? どういうこと」

「全く鈍いなあ。ほら、鏡を見てご覧」

「鏡? あ!」


 部屋に掛けられた鏡に映っていたのは、股間に手を伸ばし顔を蒼ざめさせている裸の高志と
それをにやにやと笑いながら見詰めている裸の美弥の姿だった。


「俺たち姿が入れ替わったんだよ」

「入れ替わった? うそ、そんなこと」

「うそじゃないさ。鏡に映った俺たちの姿を見ればわかるだろう。そして自分のことは君自身が一番よく判る筈だ。
美弥は俺に、俺は美弥になったんだ」

「そんな、い、いや、こんなの。元に戻してよ。すぐに戻して。裕二が来ちゃう」

「うるさいなぁ、俺の声でそんなに喚かないでくれよ。さすがに気持ち悪いぜ。さ〜てと」

 美弥の姿になった高志は椅子に置かれたままのゼリージュースを入れていたビニール袋に手を突っ込み、
中から荷造り用のガムテープを取り出すと、美弥の前に立った。


(あたし、ほんとうにあたしが目の前にいる)

「うーん、こうしているとほんと鏡の前に立っているみたいだな。さてと、美弥、それじゃあ両手を出してくれないか」

「え? どういうこと」

「いいから早く」


 未だ気が動転したまま、訳もわからず両手を差し出す美弥。

 ピーーーー

 その揃えた両手首をいきなりガムテープでぐるぐると巻き始める高志。


「ちょ、ちょっと何するのよ……ん、んんん」


 今度は美弥の口にぴっと切られたガムテープが貼られる。手の自由を奪われた彼女にはそれを剥がすことができない。


「んんん、んんんん」


 目で抗議する美弥に構わず、高志はその両足首にもガムテープをぐるぐると巻いていく。
 バランスを崩して床に倒れる美弥。


「ん〜ん、んんん〜ん」

「何か無様だね。でもこれって俺の姿なんだよなぁ。さあてっと」


 高志は深呼吸すると、にっと美沙に向かって笑いかけた。
 自分に笑いかけるもう一人の自分の姿を見たとき、美弥の背筋をぞっとしたものが襲った。
 高志、あなた何をしようって……。


「ね〜え〜、高志」

「んん? んんん?」


 縛られて床に転がされた美弥の脇にしゃがみ込んで語りかける高志だが、高志は美弥に対して自分の名前を呼びかけた。
 それは勿論今の美沙の姿なのではあるが……。


「高志、あたし本当は裕二よりも高志のことのほうが好きだったのよ。
ずっと待っていたのにどうして今まで告白してくれなかったのよ」

「んんんんん」

「あたし、心の中でずっとあなたが告白してくれるのを待っていたんだよ。
そしてやっと告白してくれたんだね。嬉しいよ。あたしも高志のことが大好き」


 転がった美弥の鼻の頭をぺろりと舐める高志。


「んん〜。んん〜」

「ええ? 高志ってあたしとえっちしたいの。今すぐに? 高志のエッチ。ふふっ、でもいいよ。
あたしも高志とえっちしたいんだ。こうして二人とも裸だしね」

「んんんん、んんんん」


 違う! 必死で首を振る美弥。しかしそんな彼女の様子を全く意に介さず、
高志は床に転がった高志の姿をした美弥の上にまたがった。


「ふふふ、この高志のモノがあたしのココに入ったらどんな風に感じるのかな」

 美弥そのもののすっきりとした己の股間に右手を添えた高志は、左手を美弥の股間のぐにゃりと萎えたものに手を伸ばそうとする。


「んん、んんんん〜ん」


 首を振って必死に抵抗すしようとする美弥。
 だが体の自由を奪われている彼女には高志にソコを握り締められてもどうすることもできない。


「高志のコレちょっと元気ないね。でもあたしがすぐに元気にしてあげるからね」


 高志は美弥にまたがった体の向きを逆にすると、美弥の股間のソレにその顔を近づけていった。
 頬に垂れ下がる髪をかき上げ、その美しい顔でにやりと笑う高志。


「こっちから見ると何か変な感じ。でも……はんむ」


 寝転がされた美弥の股間に顔を埋め、その元気なく垂れ下がったモノを口に頬張る高志。
 いや見た目には高志の股間のモノを口に頬張っている舐めている美弥にしか見えないのだが……。


「ん、んん、んん〜んん〜」


 みるみる高志の口の中でソレが大きく膨らみ始める。顔を紅潮させ、何かを堪えるようにしている美弥。
 しかし彼女の意に反し、高志がその舌を使うにつれて彼女の股間のモノはどんどんとその硬さを増していく。
 一方高志の股間の閉じられた溝は口を開き、ツツッと粘液が滴り始めていた。


 ちゆばっ、ちゅばっ、ちゅばっ

「ん、んんんん、んん、んんん〜〜〜」


 美弥の全身にびくっと緊張感が走る。途端に口を離す高志。


「おっと、これ以上続けると出ちゃいそうだね。それじゃあ硬くなった高志のコレを、今からあたしのココに入れてあげるね。うふっ」


 濡れて少し口を開いた己の股間をぐっと指で広げる高志。
 そして美弥の硬く直立したものの上に体を乗せると、踏ん張っていた足の力を緩めていく。
 ゆっくりと高志の体が美弥に向かって沈み込んでいく。
 そう、美弥のモノは高志のソコの中にずぶずぶと呑み込まれていった。


「あ、ああん、いい。あたしの中に高志が入ってくる。あたしは今高志のモノを受け入れているんだね」

「んんん、んんんん、んん〜」

「高志もあたしの中って気持ちいいでしょう。でももっと気持ちよくしてあげるね」


 ゆっくり腰を上下させる高志。その動きに合わせて股間に呑み込んだモノが出たり入ったりする。
 それは二人に強烈な快感をもたらしていた。


「あ、はああん、ん、んあん、いい、いいよ、ああ、あああん」

「ん〜んんん」


 既に涙目になっている美弥は何度も首を振る。
 しかしその気持ちと裏腹に、彼女は己の股間のモノから何かが出てこようとしているのを止められなくなっていた。


(あ、駄目、もう我慢できない、出る、出ちゃう、あ、あ、ああああ)

「ああ、いく、いく、ああ、いいいい」


 美弥の体に一瞬緊張感が走る。
 そして次の瞬間、高志の股間に咥え込まれた硬くなったそのモノからどくっどくっと勢いよく白濁したものを噴出していた。
 その時、彼女の目からは幾筋もの涙が流れ落ちていた。





「はぁはぁ、はぁはぁ、とっても良かったよ、高志。あたしたちってとうとうえっちしたんだね」


 相変わらず美弥の振りをしながらシャワールームから出てくる高志。
 バスタオルで体を拭きながら出てきた裸の自分の姿を、涙を両目に溜めつつ見つめる美弥だった。 


「さあて、9時までもう時間がないな。まだ何か気持ち悪いけど、我慢するか、へへへ」


 高志は元の口調で独り言を言いながら、未だ床に散らばったままのさっきまで美弥が着ていた服を拾い集め始めた。


「これってあたしの服だもんね」

 美弥を見てにやっと笑いながら、高志は拾い集めた美弥の服を着込み始めた。


「ちっちゃなパンティだね、こんなの入るのかな」

 そう言いながらパンティに脚を通し、腰にぐっと引き上げていく。


「いててて、おっと、これ以上はくい込んで……何か頼りないけど、まあいいか」

 今度はブラジャーを拾い上げる。


「これどうやるんだ、うっなかなか」

 やがてパチッとホックがはまる。胸をカップの中に入れると形を整える。


「それにしてもふにゃふにゃして、いいねこれ。何かまた変な気持ちになってくるよ」


 床に転がされたままの美弥は、高志が彼女の服を着込んでいく光景をただ涙目で見上げているかしなかった。
 彼女にその下着姿を見せ付けるようにゆっくりと回る高志。


「ふふふ、素敵だろう。さて次はパンティストッキングか。おっ、まだ暖かいね。美弥の肌の温もりだ」

 あられもない格好でパンティストッキングを穿き込む高志。 


「ふーん、脚を締め付けられるこの感じ、パンティストッキングって何か安心感があるんだな」

 がに股姿で、自分の内股をさする高志。


「さて、あとはトレーナーとスカートだな」

 ピンクのトレーナーを頭から被り、そして膝丈のスカートに脚を通すと、腰でそのホックをパチンと留める。
 そして高志はくるりと美弥に向かって振り向くと、両手を広げてポーズを取って見せた。


「どうだいこの姿。さっきまでのお前、でも今は俺の姿」

 にやにやと笑う部屋着姿の美弥、いや美弥の姿を奪った高志。そしてそれを涙目で見上げる美弥だった。


「ん、んんん、んん〜んん〜」

「じゃああなたはしばらく大人しくしていてね、あ、心配しないで、あたしが好きなのは高志だけなんだから。だから……」

「んんん〜」

「だからあたしが裕二を振ってあげる。裕二が来たら言ってあげるわ、今日でばいばいだって、
あたしは高志のことが好き、高志と結婚するんだってね、うふふふふ」

「んん〜んんん、んん〜んん〜」


 顔を蒼ざめさせて必死でテープを外そうとする美弥、しかし高志はベッドルームから毛布を持ってくると、
彼女の上から被せて紐でぎゅっと縛ってしまった。


「・・・・・・・・・」

「ふふふ、もう何を言っているのか聞こえないよ。さあここで大人しく聞いているんだな」


 高志はその華奢な腕で毛布に包んだ美弥の身体を引っ張ってクローゼットの中に押し込むと、ガチャリと鍵を締めてしまった。


「ふふふふ、これでいい。さあ早く来い、裕二」


 今やつい先程高志を部屋に迎え入れた美弥そのものの姿になった高志は、CDラックから一枚のCDを取り出すと、
それをCDプレーヤーにセットした。
 やがて部屋の中に静かにバラードが流れ始める。


 ふ、ふん〜ふふん〜


 高志はソファーにどかっと腰を下ろして脚を組むと、その曲に合わせて鼻歌を歌い始める。


 ピンポーン


 その時ドアホーンが来客を告げた。


「ちょうど9時だな。裕二、楽しみにしていろよ。ふふふふっ、あっはははは」




(続く)

                             (2004年8月20日脱稿)

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