A little night with the Pussycat
  作: メス牡蠣


「ただいま……」
「おかえり~!随分遅かったけど何かあったの?」
「ああ……いや、定時後だってのに客からクレームの電話が入って1人で対応しててさ…クッソ疲れた……」

くたびれた身体を引きずってリビングにカバンを下ろし、スーツのジャケットをラックに掛ける。
せっかくの連休前の金曜だというのにとんだ災難だ。いつの間にか時間は深夜11時を回っていた。

「あはは、お疲れ様。ご飯は食べてきたんだよね?」
「ああ、連絡遅くなって悪かったな」
「ううん、大丈夫だよ。それよりさ、疲れてるところ悪いんだけど、また試飲お願いできないかな?」

そう言うと、アキは黄色い液体の入ったグラスを差し出してきた。
何かを期待するように見つめてくるその瞳に、思わずたじろいでしまう。



アキと初めて出会った場所は、彼女が働いているバーだった。
学生時代に友人たちとジャズバンドを組んでいた俺は、時折ライブバー等で演奏をさせてもらっていた。
そんな中、とあるバーで見かけた彼女の美しさ目を奪われたのだ。
正直初めは下心で、あわよくばなんてお持ち帰りできないかと、そこでのライブが終わる度に絡んでは軽くあしらわれたりもしていた。
けど、そんな彼女を近くで見ていくうちにバーテンダーとしての仕事に真摯に向き合うその姿勢、そして不意に見せる少女のようなあどけない表情のギャップにいつの間にか本気で惹かれてしまっていた。
それからはライブがない日も足しげく彼女が働くバーに通いつめて粘り強くアタックし続けた結果、根負けした彼女がついに首を縦に振ってくれたのだった。あの時の呆れつつも嬉しそうに笑う彼女の顔は今でも目に焼き付いている。

それから交際期間を重ねていき、今では同棲するほどの仲になったのだが……
そんな彼女にも欠点と言えるようなものがあった。その、なんというか、性欲が強すぎるのだ。
付き合い始めはむしろこちらから求めることが多かったのだが、気づけばそれも逆転して今ではこちらが根を上げるほど身体を求められてしまう。特に同棲を始めてからはそれが顕著だった。

今目の前に差し出されているグラスが正にそれで、こうして出された酒を飲むのが暗黙の了解。新作の試飲という名目で酔わされてそのままベッドへ、というのが普段の流れなんだが、最近は仕事が忙しいということもあり勘弁してほしいと断ることが多かった。



「……ごめん、今日はほんとに疲れてるんだよ。すぐ寝たいからさ、また今度じゃダメか?」
「え?あ、べ、別にそんなつもりで出したんじゃないよ?いつもみたいにカズくんの意見が聞きたくて……」

彼女が外では絶対に見せないようなオロオロとした態度に、思わず気が緩む。

「ね、お願い。1杯だけ飲んでみて感想聞かせてよ。ノンアルだしさ、甘いカクテルだから疲れにも効くと思うよ?」
「はぁ…分かったよ、でも1杯だけだからな?」

いつも以上のしつこさに思わず折れてしまった。
まあ幸い明日から連休だし、もしそういう流れになっても少しくらいなら付き合ってやるかな……


「ほらっグラス持って、かんぱーい!」
「乾杯!」

グラス同士がぶつかりカチンと子気味良い音が響くと、中の液体がぷるりと揺れた。

「あれ、これゼリーかなんか入ってるのか?」
「ああ、うん。お客さんにパイン味のゼリージュース?っていうのをもらってね、それを使ってみたの」
「ふーん」

グラスに口をつけると柑橘系の爽やかな甘みと酸味が広がり、その中にある細かいゼリーの欠片が口の中で弾んだ。
ノンアルコールカクテルは普段あまり飲まないが、これはなかなか悪くない。

「うん、美味かったよ。見た目も綺麗だし女性受けしそうだな。何て名前で出すつもりなんだ?」
「うーん。元々あるカクテルの材料の一部をゼリーで代用しただけだから、その名前をちょっとアレンジしてみるとかかな?まあ店で出さないものだから名前なんてどうだっていいんだけどね」
「は?それってどういう……えっ?」

思わず口をつぐむ。目の前で会話していたはずのアキの姿が消えていたのだ。
アキがいたはずの空間には彼女が着ていた部屋着のシャツとショートデニムだけが浮かんでいる。夢でも見ているのだろうか。

「お、おいアキ?ってなんだこれ!?」

彼女に触れようと手を前に向けた時、更なる異常に気付く。
自分の腕も同じように消えてしまっている。いや、感覚はあるから実際に消えたというわけではないみたいだが、その姿は俺の目に映らなかった。

「あははっ!びっくりした?」
「そこにいるのか?一体何が起こってるんだよ、これ」
「さっきのカクテルに入ってたゼリーあるでしょ?あれを飲んだらこういう風に、身体が透明になっちゃうんだって、すごいよね。でもそれだけじゃなくてね……」

彼女が着ていた服がゆっくりとこちらに近づいてくる。そして何かに抱きつかれたかと思うと、ズブズブと、身体の中に何かが沈み込んでいくような感覚が身体の内から沸き起こった。

「ちょっ…何してるんだよ!?」

それが終わると同時に、互いの着ていた服がパサッと床に落ちた。
先程までは服のおかげでお互いの位置がかろうじて把握できていたが、これではアキが今どこにいるのか、いや、自分の存在すらも曖昧になって分からなくなっていくような奇妙な錯覚を覚えてしまう。

(……3、2、1、と。これでいいのかな)

頭の中にアキの声が響くと同時に、今度は身体から何かが引き抜かれていくような感覚に襲われる。
もはや何がなんだかわからないまま、ぼんやりと非現実的な心地を味わっていた。

「あとは待つだけ……あ!もう声は変わってるんだ!」

しばらくして男の声が聞こえた。……男の声?
この部屋には俺とアキしかいないはずだが……

「おい、お前誰……あ、あれ?なんだこの声」

おかしい。普通に声を出したはずなのに、裏声のような甲高い声が喉から勝手に発せられてしまう。
というかさっきから身体の感覚もおかしい気がする。心なしか、いや、明らかに胸のあたりに重みが……
すると、何もなかった空間にスーッと人影が浮かび上がってくる。
透明だったそれが色を取り戻した時、そこには俺に瓜二つの男が立っていた。

「お、俺……?」
「わ、すごい。ほんとにアタシになってる!うわぁ、アタシってこんなちっちゃいんだ」
「ぁぅ……」

不意に頭を撫でられ思わず心地よく……って違う!
そもそも180センチ以上ある俺がどうして俺のことを見上げてるんだ!?

「や、やめろ!」

頭に乗せられた手を振り払うと、胸のあたりで何かが跳ねるように感じると共に、胸が突っ張るような奇妙な感覚がした。
ゆっくりと胸に手をやる。やわらかい感触。それだけじゃなく何故か胸を触られているという感覚が、どうして。

「カズくんってばいきなりアタシのおっぱい揉んじゃって、エッチなんだから」
「カズくんって……も、もしかしてお前アキか!?」
「あははっ!そうだよ、まあ今はカズくんの方がアタシなんだけどね」
「嘘…だろ……」

そう言って目の前の男、アキが俺に手鏡を向けてくる。
鏡に映るその顔。口をあんぐりと開け呆然とするその顔は、間違いなくアキのものだった。



「―――さて、これが一体どういうことなのか説明してくれないか?」

とりあえず裸のままでは落ち着かないということでお互い着ていた服に着替えた頃、俺はある程度の冷静さを取り戻していた。
付け方が分からなかったのでブラジャーは付けなかったが、そのせいかどうも胸元のあたりがスースーとしてこそばゆい。

「あれ?言わなかったっけ?さっき飲んだゼリーの効果でアタシ達の身体が入れ替わったんだってば」
「入れ替わったってそんな馬鹿な……」

とは言ったものの、実際にこうして起きてしまっている以上は否定しようがない。
現に俺の身体はすっかり女の、アキの身体になってしまっていることは確認できているし、目の前にいる今も興味津々といったような顔で自身の身体をペタペタと触っている男も、言動からしてアキが中にいることは間違いなかった。

「まぁアタシも本当にこんなことができるなんて思わなかったけどね。けどこうしてみるとアタシのすっぴん顔もなかなか悪くないんじゃない?」

おもむろに近づいてきたアキに頬をグニグニと摘ままれる。顔が近い……

ドキリ

ふと、心臓の音が強く聞こえたような気がした。気のせいだろうか。
自分自身に迫られているような感じがしてどうにも調子が狂う。

「は、はなふぇ」
「あ、ごめんごめん。それにしても面白いよねぇ、どういう仕組みなんだろ」
「なんつー呑気な……なぁ、ところでこれっていつ頃になったら元に戻るんだ?」
「え?」

なんとなしに浮かんだ疑問を投げかけると、アキは素っ頓狂な声を上げた。まさかとは思うが……

「いやいや、え?戻れるんだよな?これ」
「あ、あれ?えーっと……」

冷汗がすーっと頬を伝わるのが分かる。

「あ、あはは。ごめん、戻り方聞いてなかった……まさか本当に入れ替われるなんて思ってなかったし……」
「ちょ、お前ふざけんなよ!?こんなになっちまって……来週からまた仕事始まるんだぞ!どうすりゃいいんだよ!」
「は、はぁ!?なんでアタシだけ責められなきゃいけないわけ!?大体元はと言えばカズくんが最近全然かまってくれないせいじゃん!」
「何が……ちょ、ちょっと待った」
「な、何?」

大声を出したせいだろうか、急に耐え難い尿意が俺を襲った。おかしい、ここまで余裕が無かった感じはしなかったが。
もしかしてアキの身体になって、身体が小さくなってるから……?

「ちょっと、どこ行くの!?」

制止する声を振り切り、一目散にトイレまで向かう。
身体が変わったせいか、尿を我慢する方法すら忘れてしまったかのようだ。すぐそこまで来ているのを感じる。
便座を立ち上げて急いでチャックを下ろして竿を……

「あ、あれ?無い!ああ、あぁぁぁぁ………」

履いているショーツがぐっしょりと濡れていき、その生温かい液体はデニム生地を通り抜けて足を伝っていく。
やってしまった。
もはや一度決壊してしまったそれを止める術など無く、ようやく解放されたと思った頃には足元に黄色く光る水たまりができていた。

「嘘だろ…この歳になって……なんで俺がこんな、こんな目に……グスッ」

あまりの羞恥とやるせなさに、思わず涙が零れてしまう。
流石にこのままにしておくわけにもいかないので濡れてしまったショーツとパンツを脱ぎ捨て、タオルで足元を拭いていくが……

「う……こ、ここも拭かなきゃダメなんだよな」

この身体になってから努めて意識しないようにはしていたが、この状況になってしまっては意識せざるを得ない。
消え失せてしまった慣れ親しんだ肉棒と、代わりにそこにできたのっぺりとした股間。自分の身体についているそれを見ることは男として気恥ずかしさはあるが、ポタポタと落ちていく雫をそのままにしておくわけにはいかない。
ゆっくりと便座に腰掛け、トイレットペーパーを取っていった。
胸が邪魔で見づらかったため少し前にかがむと、うっすらと茂みに覆われた女性器が目に入る。
何となく照れ臭くなり、そこから目をそらしつつ撫でるように水滴を拭いていく。

(カズくんの……欲しい……)

ふと、アキの声が聞こえた気がした。
もしかしてあいつトイレの前で待ってるのか?いや、でも今あいつは俺の身体のはずで……

「ひゃうっ!あ、あれ?」

不意に沸き起こった今まで感じたことの無いような感覚に思わず声を上げる。
いつの間にか俺の右手は手に持っていたペーパーを捨て、股間の奥の肉のヒダを2本の指で掻き分けてその中の壁をひたすら刺激していた。

「あ、あれ?な、なんで俺こんなっ…♡あっ♡こ、声が勝手に……♡」

俺の右手は尚も、一番気持ちいいところを執拗に刺激していく。
いつものように、満たされない寂しさを快楽で埋めていくように。

「なっ…なんでぇっ!?俺っ、こんなの知らな……んぅっ♡♡」

ドクドクと心臓の動く音がする。全身が熱くなってくる。
知らないはずなのに、おかしいはずなのに。俺の脳裏には『俺』が俺のことを抱きしめている光景が映っていて、何故かそれを思い浮かべる度に腹の中が熱くなっていくみたいに……

「はぅっ!!も、だ、だめっ♡♡♡やだっ♡♡♡あ、あぁぁぁぅぅぅ♡♡♡♡♡」



快感の余韻だろうか、全身がビクビクと震えている。頭が回らない。
こんなことをしている場合じゃないはずなのに、すっかりと愛液で濡れてしまった手が、更なる快楽を得ようと再び股間へと向かっていく。

「もっと……」
「ふーん、アタシの身体で随分と楽しんでるみたいじゃん?」
「え!?あ、アキ!?」

いつの間にかトイレのドアは開いていて、目の前には両手に腰を当てた俺の身体をしたアキが仁王立ちしていた。

「ち、ちがっ!これは…その……」
「違うなんてことないでしょ。喘ぎ声、リビングまで聞こえてたよ?」
「あ……」

カァっと、火照っていた顔が更に熱くなっていくのを感じる。

「まぁ身体が入れ替わって、異性の身体になるなんて滅多にできる体験じゃないもんね。大目に見てあげる。でも……」

腰を抱えられ、ヒョイと簡単に持ち上げられてしまう。

「な、何を……」
「んー?カズくんばっかり楽しんでずるいじゃん?アタシも男が、カズくんがどういう風に感じるのかって興味があるんだよね」
「ふ、ふざけるなって!離せ!離せよ!」

抱きかかえられながらも手足をバタバタと動かして脱出を試みるが、俺の身体になったアキはビクともしない。
というよりも、何故かさっきから身体に力が入らない。自分自身に抱きかかえられるなんて嫌なはずなのに、心が、身体が安心しきったかのよに脱力してしまう。
結局抵抗むなしく、抱きかかえられた俺は寝室のベッドにヒョイと投げ出された。

「お、おい。冗談だろ?」
「冗談なんかじゃないよ。なんでだろうね?今のカズくんはアタシの顔をしてるのに、なんでかすごく愛おしく思えちゃうの。変だよね?」
「あっ……や、やめろよっ!」

近づいてきたアキの手が股間に向けて太ももをスーっと通り抜け、気恥ずかしさに思わず両足を閉じる。

「ふふっ、カズくんってば恥ずかしそうにしちゃって、すごいかわいい」
「か、かわいいって……ば、ばかっ!やめろって!」

だが、閉じた両足は抵抗むなしくアキの力強い両手に掴まれ簡単に解かれてしまう。
止めようと思えば止められるはずなのに、隠すモノがなくなってしまった股間にアキの顔が近づいていくのを、俺は何故かドキドキ鳴り響く心音と共に心待ちにしていた。

「ひぁっ♡ひゃ、だめだってっ……♡♡あっ♡ぁん♡♡」

既に熱を帯びていた股間の突起を、舌先でぴちゃぴちゃと転がすように責められ続ける。
今まで感じたことの無いような、自分でコントロールできずなすがままにされる快感の連続で無意識に声が零れてしまう。

「イっ…イクっ!くぁ……♡♡さ、さっきイったばっかりなのになんでぇ……♡」
「アタシの身体、すっごい敏感でしょ。でも、まだまだ物足りないんじゃない?」
「あぅ……」

快感の余韻で未だ痙攣を続ける身体。俺は男で、こんなこと知らないはずなのに、蕩け切った頭は、身体はそれより先を知っていて何よりもそれを望んでいる。
アキが言ってたみたいに、俺も何かがおかしくなってしまったのかもしれない。目の前にある顔は俺自身のはずなのに、ずっと待ち焦がれていたような、切なくも嬉しいような感情が沸き起こってくる。

馬乗りになった俺の、アキの顔がゆっくりと近づいてくる。
気が付けば、近づいてきた唇にそっと自分のそれを重ね合わせていた。

「ん…んむっ……ぷは、も、もっと……」

――別に、特別セックスが好きというわけでもなかった。
でもこうやって彼に求められる度に、抱きしめられる度に。
これ以上ない程好きな人と深く繋がれているような気がして―――

「んん…ぷはぁ、い、今のって……?」
「え…?も、もしかして、カズくんも……?」

気のせいじゃない。さっきから俺のじゃない、アキの言葉が、考えがふと頭の中をよぎってくる。

「さっきからカズくんの声が頭に響いてて、その、アタシになったカズくんがどうしようもなくかわいく見えちゃって……」
「た、多分俺も……おかしいよな?自分の身体のはずなのに……って、アキ?お前何して……!」
「ごめんね、さっきからどうしても我慢が利かなくなってて、もう限界なのっ……!」

気づけば、目の前の俺の身体の肉棒はこれ以上ないほど怒張していた。
俺の身体になったアキは俺に覆いかぶさるように、ゆっくりとその肉棒を俺の股間へと近づけていく。
まさか、これが今から俺の中に……!?

「ごめんカズくんっ…い、挿れるね!?」
「ちょ、ちょっと待って……あっ!やっ、んぅぅぅぅぅ!!」

ズン、と、粘液にまみれたヒダの壁をこじ開けるように肉棒が一気に奥まで差し込まれていく。
指で感じたソレとは比べ物にならないほどの快感。
ただ気持ち良いだけではなく、まるで心まで満たされていくかのような感覚で脳内が満たされていった。

「あっ♡あっ♡やっ、やらぁ♡♡も、もっと…はぅっ♡♡」
「好きっ!好きだよっ!すきっ!」

俺の中に肉棒が差し込まれたまま、ズクズクと中で擦れるような感覚が続く。俺の声で「好き」と言われる度に、ジンとした快感で頭の中が満たされていく。
お互い初めての身体で、初めてのはずなのに。
俺の身体のアキは慣れたような腰の動きで執拗に俺の中の性感帯を刺激し、俺もそれに合わせるかのように膣内をぎゅっと動かしていく。

「んっ…!な、中できつく……ア、アタシの身体で感じてるんじゃないの…?」
「そ、そんなこと……♡あっ♡……くぅっ…ん♡♡♡」

否定しようにも、その声で、言葉で囁かれる度に、どうしようもない程の心地よさが全身に染み込んでいく。
もはや自分がどうなっているのか、快感で頭も全身もぐちゃぐちゃになり始めた頃、俺の身体のアキがおもむろに口を開いた。

「や、やばっ!で、出る!なんか出ちゃうっ!!」

俺の中で、俺のモノがビクビクと脈打っている。
そういえば今日、ゴムしてないよな?
今は俺がアキになっているとはいえ、ここで無責任に中出しさせるなんて―――


――だけど。
アキの身体になった俺は分かってしまっていた。
好きだからこそ、大事な存在だからこそ彼女の仕事の負担にならないように間違いのないように避妊をしていた俺。
そして、自分との子供を作る気があるのかということなんてとても聞けず、就職してからは帰りも遅くなり、一緒にいる時間が少なくなっていったことが不安だったアタシを。

「――いいよ、カズくん、アタシの中に、全部っ……!」

カズくん。カズくん、カズくん、カズくん!!
自分のもののはずの名前をそう心で、言葉で発する度に、どこか欠けていたような何かが満たされていくような気がする。
気が付けばアタシは、彼のモノを受け入れるためにギュッとその背中を抱きしめていた。

「俺も…!お前の、アキの中でっ……!!」
「お願いっ、全部っ♡♡♡♡アタシにっ♡♡♡♡い、イクっ♡♡♡好きっ♡♡♡♡カズくんっ♡♡♡♡あっ、あぁぁっ♡♡♡♡♡♡♡」

ドクドクと、お腹の中に温かいものが注がれていくのを感じる。
ずっと欲しかった彼との繋がり。ようやくそれが手に入って、心ごと満たされていくような幸せと共に、心地よい眠りがゆっくりと全身を包んでいった。





「う、ん……」

ふかふかとした布団に包まれる感触の中、少しずつ意識が覚醒していく。

「なんか胸が重…ああ、夢じゃなかったのか……」

視界にまず飛び込んだのはシャツに包まれた大きな双丘。どうやら昨日起きたことは紛れもない現実だったようで、いつも寝起きには元気な姿を見せていた相棒は影も形も無かった。
浴室の方からドライヤーの音がする。俺の身体になったアキは一足先に起きていたようだ。

「起きても戻ってないし、もしかして俺ずっとこのまま…?」

昨夜の情事を思い出し、そっと腹を撫でる。昨日のことが夢じゃないとすると、俺の身体のアキに流されるままにセックスをして、あろうことか……
最後の方なんかはもはや何もかも分からなくなり、自分がまるでアキそのものであるかのように俺の身体を求めてしまっていた。
でも、なんだろう。アキの身体になっているからかな。
なんとなくこのままでも、このままアキとしてあいつとの子供を産むことも悪くないって思うのは、俺がおかしくなってしまったからなんだろうか。
そんなことを考えていると、不意に女性の声が聞こえてきた。

「やっと起きたんだ、気分はどう?」

そこには俺の身体ではなく、今の俺と同じ姿をした女性、アキが立っていた。

「あ、アキ?え?どういうことだ?」
「いやあ、アタシも起きた時はカズくんの身体だったんだけどね?なんか急にお腹が痛くなってトイレで全部出したらこう、元の身体に戻ってたんだよね」
「と、トイレ……?」

思わず気の抜けたような声が出てしまう。
いや、もちろん元に戻れるに越したことはないのだが、まさかそんな簡単に戻れるとは……
一生元に戻れないことを覚悟していた矢先にそんなことを聞かされ、思わず力が抜けてしまった。

「あぁ…よかった、マジで一生このままかと……」
「よかった、ねぇ?そんなこと言う割には昨晩のカズくん、随分ノリノリだったじゃん?カズく~んだなんて、自分の身体に向かってさ」
「あ、あれはっ!そのっ!」
「ふふっ、でも嬉しかった。アタシのこと大事に思ってくれてたの、カズくんの身体から伝わってきたよ」
「アキ……」

思いがけない事態だったが、結果としては良かったのかもしれない。
もっと早くに伝えるべきだった、伝えられなかった想いがこうしてお互いに解ったのだから。

「……ところで、トイレで腹の中のものを全部出したら元に戻れたって言ったよな?アキはどのくらいで、その、便意が来たんだ?」
「え?いやぁアタシは起きてすぐだったけど……もしかして」
「もしかして?」
「いや、ほら、最近アタシ便秘気味なんだよね。その分出が遅いのかも……」
「べ、便秘って……え?出さないと元に戻れないんだよな?」

冷汗がすーっと頬を伝わるのが分かる。まさか便秘が治るまでこのまま……!?

「まあまあそんな青い顔しないでさ。そうだ!せっかくだし女の子同士でするっていうのはどう?アタシの身体だから、絶対気持ちよくしてあげられると思うんだよね!」
「ま、待て!落ち着け!待てってば、やめ、やめろ~~~~~~~!!!」



アキがもらってきた不思議なゼリージュース。
そいつのおかげで、どうやらしばらくは彼女のおもちゃにされる日々が続きそうだ。















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