お昼になっても帰ってこない兄さん。
早くゼリージュースについて話がしたいのに。
俺は兄さん…俊行兄さんの帰りをずっと待っていた。

インターネットで見た、あの食品会社のサイト。

ゼリージュース(イチゴ味)
このゼリージュースであなたは不思議体験をする事になります。
冷蔵庫で冷やしたゼリージュースのフタを開けて飲み干してください。
5分ほどであなたは透明でプルンプルンの身体となるでしょう。
それはまるでゼリーのよう・・・
さあ、そのまま誰かの身体に覆い被さるのです。
あなたの身体はその人の身体に溶け込む事でしょう。
そして10秒だけ待ってください。
10秒以上経ったら、その人の身体から抜け出しましょう。
するとあなたの身体はその人の身体に・・・
 

ゼリージュース(ブルーハワイ味)
このゼリージュースであなたは不思議体験をする事になります。
冷蔵庫で冷やしたゼリージュースのフタを開けて飲み干してください。
5分ほどであなたは透明でプルンプルンの身体となるでしょう。
それはまるでゼリーのよう・・・
さあ、そのまま誰かの身体に覆い被さるのです。
あなたの身体はその人の身体に溶け込む事でしょう。
そして10秒だけ待ってください。
10秒経ったら、あなたはいつの間にか瞑っていた目をあけてください。
あなたの視界はその人の視界となり、その人の身体はあなたが
動かすことに・・・
 

ゼリージュース(パイン味)
このゼリージュースであなた達は不思議体験をする事になります。
冷蔵庫で冷やしたゼリージュースのフタを開けて二人で飲み干してください。
5分ほどであなた達は透明でプルンプルンの身体となるでしょう。
それはまるでゼリーのよう・・・
さあ、そのままお互いの身体を重ねるのです。
ゼリー状になったあなた達の身体は一つの固まりになるでしょう。
そして10秒だけ待ってください。
10秒経ったら、お互いに離れてください。
するとあなた達の身体はお互いの身体に・・・
 

このゼリージュースを作ったのは俊行兄さんなんだ。
昨日、雪菜に変身できたイチゴ味のゼリージュース。
そしてあとの2つの味は、どんな感じになるんだろう。

自分の気持ちを抑え切れなかった俺は、昼飯を食べたあと
俊行兄さんの帰りも待たずに無我夢中でTSFショップに向かった…
 
 
 
 
 

ゼリージュース!(青色)前編
 
 
 
 
 

いつの間にか手に汗を握っている。
電車に乗って、TSFショップの扉の前まで来た俺。
俊行兄さんにはダメだって言われたけど、どうしても試してみたい。

俺は息を整えながら、目の前にあるドアをゆっくりと引いた。
 

「…いらっしゃい…」
 

この雰囲気。前に来た時と同じだ。
部屋の中は市販されているジュースや食べ物が並んでおり、奥にあるカウンターには
中年男性がいた。
 

男性:「また来たのかい」

広幸:「うん…」
 

俺はカウンターに立っている男性のところまで歩いて行った。
 

男性:「この前のゼリージュースは使ったんだね」

広幸:「使いました」

男性:「そうかい」

広幸:「それで今日は別のゼリージュースを買おうと思って」

男性:「……やめといたほうがいいよ」

広幸:「え…」

男性:「やめといたほうがいい。癖になってしまうからね」

広幸:「で、でも…俺…」
 

このおじさんも俊行兄さんと同じ事を言ってる。
でも…それでも試してみたいんだっ。
 

広幸:「俺、ほしいんだ。他のゼリージュースも試してみたいんだっ」

男性:「でもねぇ…」

広幸:「だって、それならどうして売ってるの?最初から売る必要なんて
          ないじゃないか」

男性:「そうだね。でもこれは普通では買えないものなんだよ。君だって分かるだろ」

広幸:「そ、そりゃ分かるけど…」

男性:「一般の人には手に入らないものなんだ。偶然君が手に入れただけさ。だからこれ以上
          関わらない方がいい」

広幸:「……で、でも…それを作ったのは俺の兄さんなんだからっ!」

男性:「…」
 

男性が何も言わなくなった。もしかして俊行兄さんの事、知っているのか?
じっと俺の眼を見つめる男性。
でも、カウンターの後ろにあるドアが開く音が聞こえると、俺から目をそらしてゆっくりと
そのドアの方へ振り向いた。
俺も反射的に開いたドアを見る。
そこには、ブルーのスーツを着た綺麗な若い女性が立っていた。
 

男性:「瞳美さん…」

瞳美:「……」
 

その瞳美という女性が俺の方に近づいてくる。
長いストレートの黒髪が蛍光灯の光を反射させてとても綺麗に見える。
 

広幸:「あ…」

瞳美:「ねえ、このゼリージュースがどんな物か知ってるんでしょ」

広幸:「…は、はい…知ってます」
 

カウンター越しに俺を見つめるその女性は、少し冷たい雰囲気を漂わせている。
俺はその雰囲気に飲まれて、思わず敬語を使って話してしまった。
 

瞳美:「あなた、これを使って女性になりたいんでしょ」

広幸:「ま、まあ…」

瞳美:「どうして女性になりたいの?」

広幸:「そ、それは…」
 

じっと俺の眼を見つめて話す瞳美さん。
俺は恥ずかしくて目をそらしてしまった。
 

瞳美:「女性の快感を知りたいんでしょ」

広幸:「あ…そ、その…」

瞳美:「女性になってエッチな事したいんでしょ」
 

すごくストレートに話す瞳美さんの顔を見る事が出来ない。
俺はずっと俯いたまま、汗をかいた手のひらをギュッと握り締めた。
 

瞳美:「それならやめておきなさい。癖になるだけよ。あなたは男として生まれたんだから
          男として生きなさい。男が嫌じゃないんでしょ」

広幸:「も、もちろん男として生きたいけど…でも…女性の事も知りたい…」

瞳美:「女性の何を知りたいの?」

広幸:「だ、だから…その…」
 

自分が不純な気持ちで女性になりたいと思っている事は分かっている。
きっとこの瞳美さんも俺の事を分かっているのだろう。
まるで俊行兄さんと同じ事を言っている。
 

瞳美:「世の中にはね、知っていい事といけない事があるのよ。あなたは知ってはならないことを
          知ってしまったの。だからもうゼリージュースの事は忘れなさい」

広幸:「…わ、忘れろって言ったって…」

瞳美:「徳永さん、この子にゼリージュースは売らないでね。今ならきっと忘れられるから」

男性:「は、はい」
 

ずっと話を聞いていた男性、徳永っていう名前なのか…
そんなことはどうでもいいが、徳永という男性がガラスケースの鍵を閉めてゼリージュースを
取れないようにしてしまった。
俺はそれを見てムカッと腹が立った。
 

広幸:「な、何で売ってくれないんだよ。これ、売り物なんだろっ!それなら売ってくれたっていいじゃないか!」

徳永:「瞳美さんの話を聞いただろ。これは君が知ってはならない物なんだ。君のためを思って言ってるんだ。
          分かるだろ」

広幸:「そんなこと言われても分からないさっ!だって世の中にはそれを買ってる人がいるんだろ」

徳永:「いるさ。でも君にはこれを飲む資格が無いんだ。君はちゃんと男として生きていけるんだから
          この前は売ってしまったけどね」

広幸:「…だって…だって…俺もそれを使いたいよ。ねえ、お願いだから売ってくれよっ」

瞳美:「ダメよ。早く帰りなさい」
 

二人から説教されているような感覚になる。
そう言われたって…俺は絶対試してみたいんだ。俊行兄さんが作ったゼリージュースを!
 

広幸:「うう……あっ!俊行兄さん、そうだ!これを作ったのは俊行兄さんなんだ。俺、俊行兄さんの弟なんだよ。
          分かるだろ、小野俊行。俺、小野広幸なんだ」

瞳美:「…仮にあなたがこのゼリージュースを開発した小野俊行の弟だからと言っても、
          ゼリージュースを買う事とは全く関係ないでしょ」

広幸:「開発者の弟なのに?」

瞳美:「それがどうしたの?」

広幸:「そ…それじゃあ俊行兄さんに言ってゼリージュースを販売できないようにしてやるっ!」

瞳美:「……そんなこと出来るわけ無いでしょ」

広幸:「出来るさっ。俺の兄さんなんだからっ!」
 

何を言っても売ってくれそうも無い…
俺はもう、どうしようもなく腹が立ってしまった。
だから二人を思い切り怒鳴りつけると、そのまま走ってこのショップを駆け出した…
 
 
 
 
 

徳永:「……あれでよかったんですか…瞳美さん、いや、小野俊行さん」

瞳美:「そうね…あれくらい言わないとあいつは引き下がらないからな」

徳永:「小野さんの事、全く気づいていなかったみたいですよ」

瞳美:「そうだな。うちの会社の瞳美ちゃんの身体を失敬してきて正解だったよ。日曜日だと言うのに
          うちの会社は休ませてくれないんだからなぁ…」

徳永:「しかし小野さんも好きですね、瞳美さんが」

瞳美:「どうして瞳美ちゃんばかりだと思う?」

徳永:「だから好きなんでしょ」

瞳美:「違うさ。彼女は受付嬢なんだ。1人で受付しているから身体を借りやすいのさ」

徳永:「そうだったんですか」

瞳美:「大変なんだ。他人に気づかれずに彼女の身体に入り込むのは」

徳永:「そりゃまあ…そうでしょうが」

瞳美:「すごくスリルがあるんだ。透明な身体になった後、受付カウンターの後ろに回って彼女の身体に溶け込むのって」

徳永:「周りにたくさん人がいるんですか?」

瞳美:「出来るだけ人がいない時を見計らうんだけど、不意に走ってくる人とかいてさ」

徳永:「ははは、それは大変ですね」

瞳美:「透明だから多分見えないだろうけど、バレないとは限らないから」

徳永:「まったくです」

瞳美:「まあ…そんなことはどうでもいいんだが、広幸の事、どうしようか…」

徳永:「すいません。私が前に売ってしまったばかりに」

瞳美:「いや、あれは俺がまずかった。パソコンのソフトさえちゃんとアンインストールしておけばよかったんだ。
          徳永さんのせいじゃないさ」

徳永:「はあ…」

瞳美:「あいつがちゃんと自分の理性を保てれば、少しくらい使わせてやってもいいんだけどな。あの調子じゃまだ
         分からないだろうから」

徳永:「そうですね。ちょっと心配です」

瞳美:「ああ。でも…俺が一緒についていてやれば大丈夫か…」

徳永:「きっと歯止めは利くでしょう」

瞳美:「う〜ん…でもなぁ…もう少し考えてみるか」

徳永:「ええ、よく考えた方がいいですよ。でないと弟さんの人生に関わる事になりかねませんからね」

瞳美:「だな…うん。まあ、帰ってから話すとするか。あいつも俺の帰りを待っているだろうし…」
 
 
 
 
 

…俊行兄さんは夕食時に帰ってきた。
俺が俊行兄さんの事、待っているのを知ってるくせに…
 
 

広幸:「兄さん、どこ行ってたのさ」

俊行:「会社に決まってるだろ。今日も会社だったんだ」

広幸:「日曜日なのに?」

俊行:「ああ」

広幸:「……後で俺の部屋に来てよ。話したい事があるからさ」

俊行:「…ああ。飯食ったら行くよ」
 
 

俺は先に夕食を済ませると、部屋で俊行兄さんが入ってくるのをしばらく待つ事にした。
今日TSFショップに行ったことは…黙っておこう…
どうにかしてあのゼリージュースを手に入れたい。
俊行兄さんなら…俺の気持ちをきっと分かってくれる。
いや、そう信じたい…
 

…20分くらい待っただろうか。
部屋のドアを叩く音がした。
 

広幸:「兄さん?鍵開いてるよ」
 

俺はドアを見つめながら話した。
ドアがゆっくりと開いて俊行兄さんが入って…来なかった。
ドアの前に立っていたのは妹の雪菜だったのだ。
 

広幸:「雪菜、どうしたんだよ」
 

雪菜は何も言わずにドアを閉めると、俺のベッドの上に荒っぽく座った。
そして一言話した。
 

雪菜:「さて、話を始めようか。広幸」

広幸:「えっ……」
 
 
 
 
 

ゼリージュース(青色)前編…おわり
 
 
 
 
 

あとがき
一人称で書くのは、私には難しいです。
で、次からは多分三人称で書きます(^^;

どうしても他のゼリージュースが試してみたい広幸。
俊行兄さんの帰りを待たずにTSFショップに行ってしまいました。
瞳美に乗り移り、タイミングよく店に現れた俊行兄さん。
きっと広幸がこの店にくる事、分かってたんでしょうね。
それで瞳美の身体を借りて、こそっと裏の部屋に隠れていたのです。
弟想いというかなんと言うか…自分が開発したゼリージュースによって、
弟がダメになっていくのを見たくは無いのでしょう。
誰だってそうかもしれません。

さて、部屋に現れたのは俊行兄さんではなく、妹の雪菜でした。
まあ…すごく分かりやすくて申し訳ないのですが、
次回、雪菜と広幸が色々と話をするようです(^^
広幸はゼリージュースを手に入れることが出来るのでしょうか?

それでは最後まで読んで下さった皆様、本当にありがとうございました。
Tiraでした。 inserted by FC2 system