「聖夜にスパークリングゼリーは如何?」
 作:luci
 画;爺さん


 あたしは最近、というよりこの一年ばかりずーっと思っていたことがある。崇のヤツが全然あたしに手を出さない事。確かに剣道ばかりしててなよなよした男からしたら力もあるし、身体も大きいし、他のコ達はあたしの事男勝りで女として見られないって思ってるのも知ってる。でもそんな事は崇も知ってて付き合ってると思ってた。でも、高校の時から付き合い始めて2年も経ってるって言うのに手も握らないってどういう事?そんなにあたしって魅力ないの?
 鏡に映った自分を見てみる。白い肌。切れ長の目。整った顔立ち。長いストレートの黒髪。若干胸は小ぶりだけどスタイルだって悪くない、と思う。剣道してるって知らない男からなら「綺麗」なんて言葉は言われ慣れてるし、自慢じゃないけどこれでも大学では言い寄る男だって結構いるのに。でも全部崇がいるからお断りしてるのに。
 去年のクリスマスは受験だったからあっさり済ませてしまった。あいつは推薦で入学決まってたから暇だったにも係らず。あたしは「お泊り」も覚悟の上で、結構アブない視線を送ってた筈なのに、あのニブチンは全然意に介してなかった。
 年始も二人で神社にお参りしたのに、手も繋がずじまい。わざわざ手袋していかなかったの分かってなかった。あたしは合格祈願じゃなくて、崇との仲をもっと進ませてよ、なんてお願いしていたけど。崇は何をお願いしたんだろう。
 今年の七夕なんて、違う大学に通ってるから「七夕デート」だね、何て言ってもずっと剣道の月刊誌読んでるし。

 崇にとってあたしって何なんだろう…。

 なんとか崇が手を出してくれないかな、何て思ってる事自体、オカシイのかも知れない。…でも、考えれば考える程、崇はあたしの事好きなのか判らなくなってくる。だってよく考えたらあたしから告白して好きって言ったけど、崇からは言われたこと無かったし…。
 アイテムでも、魔法でも、クスリでも何でもいいから、崇からアクション起して欲しい。えっちまで、なんて高望みしないわよ。せめて手を繋ぐとか、好きだって言ってくれるとか…。
 そうじゃなかったら、あたしも疲れちゃうよ、崇…。

   * * * * * * * *

 宮本由美子が脇田崇とのクリスマスデート用に、シャンペンを用意していない事に気付いたのは十二月二十三日の午後だった。剣道部の男女部会の懇親会、言ってみれば合コンがある日だったが、ちょっと抜け出して買いに出ようと思っていたのが甘かった。抜け出すどころか、かなり飲まされて、自分でも酔っているのが解る。
「もう、これいりょうはらめれすから。あしたもあるのれ、かえりましゅ」
 いつも毅然とした態度で近寄りがたい雰囲気で人気の高い由美子だったが、白い肌を真っ赤に染め、ろれつの回らないしゃべり方は有る方面の男にはツボだったらしい。ワラワラと傍に寄ってきてウザイ事この上ない。
 しこたま飲ませて酔った後のお持ち帰りを狙っている男共を蹴散らしながら、漸くコンパから開放されたのが九時だった。コンビニで買う事も出来るけれど、折角ならちょっといいモノで乾杯したい。繁華街を見て回るが、この時間ではシャンペンなど売っている店はなかった。
 ちょっと冒険して路地裏に入ると、ふと一軒のお店が目に留まった。クリスマスだと言うのに派手な電飾もモールも無い。看板には「リカーTS」とだけ表示されている。何てことは無い寂れた酒屋。しかし宮本は何となくその店に惹かれた。
 ミラーガラスのドアを開けると大型のワインセラーが一台置いてあるだけ。何やら怪しげな雰囲気を醸し出している。
(ありゃ?しっぱいしちゃったかにゃ?)
 酔っ払いと言えどもその辺は判る。宮本は長い髪を翻して早々に立ち去ろうとした。その時。
「お嬢さん、ちょっとちょっと」
 呼び止められた先を見ると、派手な赤いスーツを着込んだばかでかい恰幅のよい白人男性。豊かな口ひげとあごひげを蓄えた白髪の老人に見えた。由美子の身長が170位あるからこの派手なおやじは190はありそうだ。
「…あ〜、ごめんなひゃい、お店まちがっ、」
「お嬢さん、お困りごとがありそうじゃねぇ。うちのお店はねぇ、悩みなんて吹き飛ばすレアな品物ばかり集めとるんよ。わしに言うてみんさいや、ちょうどいい品物見繕ってあげるけぇ」
 あからさまに怪しい…。白人おやじで赤い服。これでもサンタクロースのつもりだろうか。この際、外国人がなぜ怪しげな広島弁をしゃべっているのか、その辺はしかとだ。
「…」
「ほぉほぉ、悩みは恋人の事じゃね?」
「!なんれ?!なんれわかるんれすか?」
 由美子はアルコールで潤む目を大きく見開き、怪しいおやじを見た。
「わしゃあのぅ、なぁんでもわかるんじゃけぇ」
 宮本は酔いも手伝ったのか、思いの丈をおやじにぶちまけていた。只の酔っ払いの戯言なら、恥ずかしさも薄れる。
「ほぉほぉ、そりゃあ切なぁのぉ」
「…あたし、そんなにみりょくないれすかあ?あしたこそっれおもっれるんれすぅ…」
 ふらふらと危なっかしい由美子には構わず、おやじは自分の話を続ける。
「ほんじゃぁのう、これを持って行きんさいや。モニター用のサンプル品じゃけど、効果は絶大で?いつもと違う崇がいつもと違う由美子をきっと『どうにか』するけぇ」
 おやじはワインセラーから二つのボトルを取り出した。シャンペンボトルをふた周り程小さくしたボトルには、「Sparkling jerry」とラベルが施されている。カウンターの上に置かれたソレを由美子はじっと見つめていた。
「これ、なんれすか?」
「こりゃあ、ゼリージュースの改良版でのぅ。相手のDNAを読み込んで、ああ、細かい事はええな。飲む前にあんたの彼の体液とか血液とかを混ぜてそれをあんたが飲むんじゃ。ほいで、あんたの体液とか血液を混ぜたのを彼に飲ましんちゃい。一人一本。混ぜたらあかんよ」
「これれ、ほんとに崇がてをらしてくれるんれすか?」
「まぁ、飲んでからのお楽しみじゃねぇ」
 半信半疑ながらも、宮本は一縷の望みをかけてそれを購入した。お値段一本千円。サンプル品という割にはしっかりしている。
「一応モニター用じゃけぇね。後で使用感を教えてぇや」
「あい。ありがとございました……」
 ふらふらと店を出ると、宮本は脇田の元へと歩いていた。

   * * * * * * * *

 日頃クールな脇田崇も明日明後日のクリスマスイベントには興奮を隠し切れなかった。
何しろ、一人暮らしのアパートに宮本を呼んで二人だけのイブを過ごす予定だったのだから。寝巻き姿で綺麗に部屋の掃除をして片づけに勤しんでいると、玄関のチャイムが鳴った。
(ん?誰だ、こんなに遅く。先輩か?)
 体育会系の部活では上下関係も厳しい。時として理不尽なまでに。先輩にいきなり呼び出される事などしょっちゅうだ。今夜もそうかといやいやながらドアを開ける。
「…はい、?!宮本っ?!なんだ、どうしたんだ?」
 ドアの外には、走ってきたのか息を弾ませた宮本の顔があった。頬を赤く染め、潤む目に見つめられると脇田の心臓は早鐘のように鳴り響いてくる。
「たぁかーしー…。会いたかったよお」
 しな垂れかかってくる宮本を脇田が抱きとめると、脇田は徐に嫌そうな顔を見せた。
「…なんだ、酔っ払ってるのか?しょうがないな、未成年の癖に」
「なぁによぉ。折角クリスマスイブイブのプレゼント持ってきたのにぃ。寒い〜中入れてよ〜」
 むくれながらも、玄関から進入してくる宮本に、脇田は苦笑いしながら迎え入れていた。
(なんだ、一日早まったな…。掃除しといて正解か)
 寒い屋外から暖かいコタツへ。宮本は既に酔いも覚めていたが、ちょっとだけ酔っ払いの振りをしていた。なんだかその方が脇田の態度がいいのだ。
「あのねぇ、面白いの買ってきたの。乾杯しよ」
 リカーTSで購入したスパークリングゼリー。美味しいのかどうか判らないけれど、取り合えず飲んでみない事には効果があるのかも判らない。宮本はこのゼリーが性的興奮を煽る成分でも入っていると思っていた。アルコールに弱い脇田の事だ。ちょっと酔わせて興奮させてしまえば、宮本自身の魅力も相まって手を出すと計算していた。
「シャンペンか。俺は酒弱いんだけどな…」
「一杯だけなら平気でしょー。ほれ、グラスグラス」
 脇田がグラスを用意する間、宮本はボトルの封を開け、そして…。
(安全ピンで…いったー…)
 指先を刺すとぷくっと丸く血液が出てきた。それをボトルの中へ一滴垂らす。
「ん?どうした指舐めて。切ったのか?」
「えーっと…。大丈夫大丈夫。それより開けようよ」
 宮本がボトルを逆さにして中のゼリーを出す。普通のゼリージュースより柔らかいのか、トロトロと綺麗な薄黄色のゼリーがグラスに出てくる。中には気泡が入っている。
「なんだよ、宮本は飲まないのか?」
「あたしは後で。自分のあるから。ね、感想聞かせてよ。モニター用の買ってきたんだから」
「俺は実験台か?まぁいいか」
 グラスを掲げ、一気に飲み干していく。ドロリとしながらも爽やかな舌触り。それでいて口内では炭酸がスパークしていく。味はシャンペンだか円やかで飲みやすかった。
「っくー。美味いけど、アルコールきついな。俺寝ちゃいそうだぞ、こんなの」
(ん?まだ興奮してこないのかしら?)
「まだまだ残ってるから、飲んで飲んで」
 宮本も服の胸元を開けたりして、視覚から刺激していたが、一向に興奮した素振りを見せない。脇田は結局一本開けさせられると、もう泥酔状態になっていた。
「…あ〜ぐるぐる回る…。宮本、寝ちまったら適当に、帰って…また……明…日……」
「ちょっちょっとっ、崇?ええぇ?寝ちゃうの?なんか忘れてない?夜中に女の子一人いるんだよ?………うそぉ、ひどい。何よっ、あのくそおやじっ!全然っなんにもっないじゃないっ。もう崇も崇だよっ。一人で帰れって言うの?なんなのよもう…」
 散々悪態をついて部屋から出ようとしたけれど、念のためと脇田の指を安全ピンで突く。ピクッと身体を震わせる脇田だったが、起きることは無かった。
 指先から出る血を自分用に取っておいたスパークリングゼリーに垂らす。脇田の時と同じようにグラスに少しだけ開けると、指に採って舐めてみる。
「あらっ?!味は結構いいんじゃない。………でも目的が果たせないんじゃね」
ボトルに栓をして脇田の冷蔵庫に入れる。
「あ〜あ。じゃね崇。また明日。…この時間じゃタクるしかないかー」
 タクシー代は崇に請求してやろうと思いつつ、明日こそはと決意も新たに宮本はマンションへ帰っていった。
った。

   * * * * * * * *

 クリスマスイブ。今日は宮本とずっと過ごす一日になる、筈だった。そして今日こそは、何とか宮本と…。この一週間と言うもの脇田はかなり興奮状態の中にあったのだ。宮本が心配する事など何も無かったのだが。
 しかし今の脇田は興奮というより狼狽していた。
(まじか、これ…)



 トレードマークの縁無しメガネをかけ、洗面所の鏡を覗き込む姿。普通自分が映っている筈のそこに、メガネをかけた宮本がいる。そして自分の姿はない。脇田が右手を動かせば、同じように鏡に映った宮本も手を動かす。大体、長い髪が自分でも判るのだから、脇田自身が宮本になってしまったのは明白だった。
(いやいやいや、待て待て。どうなってるんだ?昨日は…)
 昨日いきなり夜に宮本が来た。巷で流行っているゼリージュースの改良版を飲んだ。酔っ払って寝てしまった。寝ているときに宮本が自分の指をつついていた気がする。そこまでは確実に「脇田崇」だったと記憶している。

 そして。朝起きたら女の子に、宮本になっていました。

 夢かと思い頬をつねってみるが、痛い。恐る恐る寝巻きの上から身体を触ってみる。以外とふくよかな胸に括れたウェスト。張り出した腰。直接触った事などないけれど、どう考えても全身が宮本。
「なんで…って、え?」
 思わず呟いた自分の声に、少し驚いてしまう。いつも聞く宮本の声とは違うけれど、女性の声だ。
「あ〜、なんだってこんな…」
 脇田は頭を抱えこんでその場に座り込んでしまった。と、冬の朝に寝巻き一枚で洗面所にいたせいか、それとも朝起きてから一度もしていなかったせいか、不意に尿意が襲ってくる。我慢しようと思ったけれど、一日中我慢出来る訳も無い。そのまま横にあるトイレへ滑り込んだ。
 ゴクッと喉がなる。排泄するならトランクスを脱がないといけない。そうなると。
「…目瞑ればいいんだな」
 宮本に手を出していないのは、脇田が宮本に魅力を感じていないからではない。その反対だ。魅力的過ぎて手が出せない。もし拒否されたらと思うと、竦んでしまう。しかし今、目の前に、というより、自分が宮本の身体を持っている。見たいと言う欲望と穢したくないという心理が綯交ぜになって渦を巻いている。かかり稽古を三十分みっちりした位、心臓がバクバクと鳴っている。脇田は目をぎゅっと瞑り、そのまま寝巻きとトランクスを一気に下ろした。
 朝だというのになんの引っかかりもなく下りて行くトランクスと寝巻き。いつもだったらそれなりに膨れ上がったモノが邪魔をするはずなのに…。
 すとん、と便座に腰掛けると直ぐに勢い良く小水が流れ始める。いつもより跳ね返りの音が強い気がする。
(…だから女って流しながらするんだな)
 腰を前に突き出して座っていたからか、勢いがなくなってくるとお尻の方まで垂れてきていた。
「うわ、気持ち悪いな。拭かないとな…」
 手探りでロールペーパーを引き出すと適度な長さに千切って、そしてそこで躊躇した。触らないと拭けないのだ。あの美しい宮本のアソコを触る……甘美な疼きが脇田の心に沸き上がって来る。
(いやいやいや、そのままって訳にはいかんだろ。必要な事なんだ、これは)
 そろりとペーパーをソコに押し付ける。別に宮本の姿をしているだけで(本当に宮本と寸分違わぬかも解らないのだけれど)身体自体は脇田本人のもの。それなのに、ペーパーを通してくっきり、そしてはっきりわかるソコの造形に身体が大きく震えてしまう。便座の為に少し開いている秘裂からは、肉の花弁が覗いている。指から分かる秘裂の長さや花弁の形、柔らかさ、その全てが脇田の心を奪っていく。
「これが、宮本の、か…」
 重ねて言うけれど、宮本由美子の身体と同じかどうかなんて解らない。解らないのだけれど、脇田にはそうだとしか思えなかった。というより、宮本と同じ顔を鏡で見て、女の身体になっているという事実が、脇田に冷静な判断をさせる力を奪っていた。じっとペーパーを当てていると自らの小水が染みて益々はっきりとソコの形がわかってくる。目を瞑っているから尚更想像が掻き立てられてしまう。
 自分の股間にある小陰唇なんて変だ、とは解っていても、それが自分の身体とは切り離されて宮本のものだと思えてしまう。
「…すまん、宮本…、俺は…」
 雫を拭ったペーパーをそのまま下に落とすと、まだ湿り気のあるソコにゆっくりと触れてみた、直に。柔らかい粘膜の感触と、その触れたという事の自分の身体へのフィードバック。これまで剣道一筋で宮本にも触れて来なかった脇田は、その感覚にクラクラしてしまう。
「こんなに、柔らかいのか…」
 気持ちいいというより、その感触に陶然としてしまい、便器に座ったまま上半身を屈ませ足に付けてしまった。そしてそれが新たな感触を脇田に与えてしまう。
「!あ、胸?!」
 剣道で鍛えぬいた宮本の身体。全体に筋肉質だと思っていたけれど、それは間違いだった。19歳になって益々色気の出てきている身体は、柔らかで女性の美に満ちている。そしてそれ程大きくは無いけれど、形のよい乳房の感触が脇田の、膝に当たるに至ってそれを確信した。
「あ、う、宮もとっ。……ゆみこぉ…」
 男が女の、しかも今付き合っているのに手も出せない位の美女の身体になっている。こんなチャンス滅多に、いや絶対に無い。脇田はこの身体を触ってみたい、弄ってみたい、宮本の身体を味わってみたい衝動に駆られた。そんな事はいけないと思いながらも。
「ぅんっ…」
 左手で乳房を掴んでみると、一層柔らかさが堪能できる。やわやわと揉みしだくとジンとした感覚が身体の奥の方から立ち上がってくる。
「あぁ、由美子…」
 女の声、声帯から近いところから鼓膜を振るわせる声は、普段聞いている宮本の声とは違っている。しかし女の喘いだ声は、男の心をそぞろに乱していった。
 胸を揉む手を休めずに、指先をその頂点に移していく。乳輪から乳首へと触れるか触れないかの力加減で。そうすると先のほうからペニスへの刺激にも似た快美感を味わえた。
「うあっ、女ってこんなに凄いのかっ!」
 その快感にきゅっと下半身が反応する。声を殺したくても嬌声をあげてしまう。その声がまた脇田を高ぶらせた。
 腿で挟んでいた右手をそっと宮本のソノ部分へと持っていく。恐る恐る触ると、先程より小陰唇が出ている感じだ。そしてその合わせ目からはヌルリとした粘液が少し出てきていた。
「あ、俺、感じてたのか?濡れてる…」
 女性への免疫が少し不足気味な脇田だから、声に出して「濡れてる」と表現しただけで顔が真っ赤になってしまう。尤も今は宮本の顔だけれど。そのまま、濡れた中指を鞘で守られた肉芽へとずらして行った。
「ふあっ!」
(!うわ、なんて声出してしまったんだっ!)
 目を瞑っている脇田には見えないけれど、サーモンピンクの丸くしこった肉の宝石は十分に充血しきっていた。そこに触れた瞬間の快感は、脇田19年の人生の中でも最も衝撃的なものだった。
 ぎゅっと唇を締めて声を上げないようにする。それでも肉芽をくりくりと指先でなでまわすとくぐもった呻き声がトイレ中に響いてしまう。
(もう、止めないと。ああ、でも…)
 嬲る指を止めたいけれど、一度味わってしまった愉悦を消し去る事は到底出来なかった。鞘から丸く膨れたボタンを剥き出しにして摘むように扱くと、腰が意思とは関係なしにびくびくと動いてしまう。その度にプラスチックの便座がぎちぎちと変な音を立てる。
(あああっおんなすごいっ!こんなに気持ちいいなんてっ!)
 左の乳房を愛撫していた手を右の方へ移して、そして同じように揉みしだきながら乳首を蹂躙していく。堪らない程の甘い疼きが、胸の中心から下腹へ移動していく。ぽってりと膨らみきったラヴィアはしっかりとその花弁を開ききり、その奥で呼吸と共にざわざわと蠢く肉襞を持つ淫靡な口を見せていた。その口からはテロテロと透明な粘液が流れ出し、サーモンピンクの裂け目を濡らして行く。
 次第に性感が高まって膨らんだ芽を刺激する指の動きも激しくなっていた。
「あ、あ、あっアッあああ、んッ」
 男なのに女の快楽に負けている自分。嫌悪にも似た心情がこみ上げてくる。しかし同時にそう思う程に感じ易くなっても来ていた。
 クリトリスから指を離し、蠢く肉襞を分け入って指を「つぷッ」と挿入すると、それだけで瞼に映る暗闇がチカチカと色とりどりの光を発してくる。第一関節まで出し入れすると、もう腰が砕けてしまう。
(だめだだめだだめだだめだっ!なにかっきそう、だっ!)
 それがイキそうなのかどうなのか、女初心者の脇田には解らない。跳びそうな意識の中で、自分の身体がどんどん高まりに連れて行かれていく感覚だけは解っていた。
「ああっ、あっだめだっこれ以上はあっ」
 乳房が固くなるような感覚と、不意に「きゅぅ」っと自分の指を喰い締める襞穴。離さないとばかりにピッタリとくっ付いてくる粘膜に構わず、それでも指を出し入れすると、つま先まで力が入りこむら返りを起こしそうになった。そして。
(!!!!!)
 ビクビクっと身体全体が痙攣を起こした。その痙攣と同調するように膣が指を「きゅきゅっ」と締めて来る。あまりの快感に脇田は言葉も無く、イッてしまっていた。
 はぁはぁと荒い息だけが耳に届いてくる。それも女の。ぼーっとしたような痺れたような、それでいて身体はふわふわした感じ。靄が掛かったような意識が覚醒するに従い、脇田は薄っすらと目を開けた。目の前には白い脛とトランクスがある。
「はぁあああぁぁ…」
(俺は、宮本になんて事を…。こんなに自制心がなかったなんて…)
 深い溜息を吐き出しながら、悔恨の念と宮本への想いと、そしてちょっとだけ、女って凄い、と考えていた。

   * * * * * * * *

 昨日合コンが終わってから、あたしは変なおやじがやってるリカーショップに入った。それは覚えている。でもその後ってどうしたんだっけ?…確か、崇の事を言い当てられて、あ、これを持っていけばってシャンペンを渡されたんだ。
 …それから…崇に会いに行って…。あっ!あのおやじぃ。何が崇がその気になるって言うのよ。酔って寝ちゃってたじゃないっ。今度行ったら絶対文句言ってやる。
 気を取り直して、と。折角楽しいクリスマスイブなのに、カッカ来てたらだめだわ。
 まぁ、とりあえずは崇のところに行って。あいつも今日はあたしがお泊りって事で考えてるだろうし…ってあの崇じゃ「今日は楽しかった。また逢おう」って帰されちゃうかしら。
 別にね、襲ってくれって訳じゃないけど、手も握らないって言うのはどうかと思う。こっちは準備万端整ってるんだから。じゃなくて、あーもうやだなぁ。ちょっと欲求不満?
 ……………
 …………
 ………
 …
 今日は朝から夜の食事作ったし、後は行くだけ。あっと、もうそろそろいい時間だし、メールしておかなくちゃね。突然行ってもいいだろうけど、崇も心の準備がいるだろうし。って、昨日突然行ってたか。
『これから行くから 美味しいの持って』
 こんな感じ?送信。
 ……………
 …………
 ………
 ……
 …
 ちょっとっ!これどういう意味よっ。『すまん、今日は中止だ』って何なの?ずーっとずーっと約束してて今更今日はダメ?何なのよっ!二日酔いなんて病気じゃないわよっ!
 ……
 …
 留守電?電話にも出たくないって事?あったまきたぁ。
「崇っ、どういう事?ちゃんと説明してよっ。今から行くからねっ」
 あいつ何様?こうなったら直に行って聞いてやるっ。

   * * * * * * * *

 脇田は自慰でぐったりとしてベッドに横になりながら今後の事を考えていた。そして今日、宮本が何時に来るか、それまでに元に戻れるか考えてみた。結果は、戻れる訳が無い。
(原因がわからない以上、戻る方法もわからないと思った方がいいな)
 冷静に対処方法に思いを巡らせていた時、携帯電話がメール着信を知らせていた。宮本からだ。
(今はまずいだろう。この姿じゃ逢えん。それに…)
 宮本の姿で自慰行為に勤しんでいた自分が恥かしく、宮本の顔がまともに見られないだろうと思っていた。洗面所の鏡さえもまともに見られなかったのだから。
 ぺこぺことメールを出すと、途端に電話が掛かって来た。脇田は電話には出ずに留守電に切り替わるまで待っている。
『ただいま留守にしております。ピーという発信音の後にメッセージをお入れください。ピー』
『崇っ、どういう事?ちゃんと説明してよっ。今から行くからねっ』
 脇田の顔が途端に青くなり、嫌な汗が寝巻きの中の胸の谷間を下りていく。
「そりゃまずい…」
 宮本の住んでいるワンルームマンションから脇田のアパートまで、電車で20分。駅から歩いて15分。残り時間35分だ。どうしたものかと腕組みをするけれど、腕に当たる胸が気になって集中出来ない。
(着替えて外に出ておくか?いや、あいつの事だ俺が戻るまでいるだろう。大体俺が外に出ても行く宛てなんてないぞ。…かといってここで出迎えたら、『あたしが二人?』なんて言ったきり、違う世界から戻ってきそうもないな)
 ベッドの上で座禅を組み考え込むが、いいアイデアなど浮かばない。その間にも時間は刻一刻と迫っていた。

   * * * * * * * *

 一体どういう気なんだろう。こっちは楽しみにして朝から食事の用意していたっていうのに。思わずそれも持ってきちゃったけど。
 崇のアパートの前まで来たら途端に感情がむき出しになってきちゃった。棘の一杯ある感情…。このままだと言わなくてもいい事まで言ってしまいそう。少し深呼吸してみよう………。
 ひっそりと静まり返った部屋の前に来て、あたしは呼び鈴を押した。
 ……
 …
 返事がない?どこかに行っちゃったって事?電気とガスのメーターは、この時期だから人がいればくるくる回ってるハズ。ちょっとチェックね。…回ってる、見事に。いるんじゃないのっ。居留守使うなっ。
「崇っ、いるのわかってるのよ。開けなさいよっ」
 ドアを乱暴に叩きながら、あたしは怒鳴っていた。ちょっと間をおいてから、室内でごそごそと動く音がする。やっぱりいるんじゃない。早くドア開けてよ。こっちだって寒いんだから。

   * * * * * * * *

 どんどんとドアを叩く音がしていた。宮本がドアを開けろと怒鳴っていたのだから、当然叩いているのも宮本だ。相当怒っているのが脇田にも解っている。しかしこの身体では返事も出来ない。
(女の声で返事なんかしたら、もっと宮本が怒るに決まってるからな)
 何故か宮本には脇田が部屋にいるという確証があるようだった。宮本の性格なら、開けるまでドアの前で待っている事だろう。
(腹、くくるか。っとその前に…)
 ベッドから降りてごそごそと衣装ケースの中を探る。寝巻きの上からトレーナーとパーカを着て、家から持ってきたドテラも着込む。ファーストエイドキットの中にあったマスクを付けて、パーカのフードを目深に被った。そしていつもの縁なしメガネではなく、度入りのサングラスをかけた。
 のろのろと玄関まで行って扉を開ける。
「崇っあんたねっふざけ……」
 脇田の異形の姿を見て宮本が筆で書いたような美しい眉を歪ませる姿が脇田の黒いレンズに反射していた。

   * * * * * * * *

 ドアの鍵を開ける音がする。ドアが開いたら一気に文句言ってやる。あったま来てんだから、こっちは。
 ……
 …
「崇っあんたねっふざけ……」
 なに?この姿?赤いドテラ着てパーカ?マスク?ちょっと、風邪でも引いちゃったの?二日酔いなら判るけど…。あたし、お布団掛けて帰ったじゃない…。イブなのに。っていうかそのサングラスはなに?
「…なによ、風邪?ごめん、昨日あたしが飲ませたからかな…。でも、そうならそうと言えばいいでしょう?」
 かなりひどいのか背中を丸めて…?、崇ってこんなに背が低かった?あたしと変わらない気がする。
 声を出すのもつらいのか、部屋に入れって手招きしてる。
「お邪魔します…」
 ぐるりと室内を見回すと、カーテンを閉め切って薄暗くて陰気な感じ。ガスヒーターをつけているから、外から来たあたしにはありがたいな。
 崇が先にコタツに入って、また手で促している。あたしは荷物を置いてコートを脱いで崇の横に入った。足がぽかぽかして気持ちいい…。ってほのぼのしてる場合じゃないっ。
「崇、調子悪いならそう書いてよ。アレじゃわからないでしょう?熱は?ほら、おでこ…」
 あたしは若干怒気が残ってたんだろう。崇の胸元を掴んでぐいっと引き寄せた。その勢いと崇のおでこに手を当てた時、パーカから艶やかな長い黒髪が出てきていた…。

   * * * * * * * *

 豊かな黒髪がパーカから流れ出すと、宮本は切れ長の目を大きく見開きその様子に見入っていた。脇田は慌ててフードの中に髪を隠そうとしたけれど、時既に遅し。
「…あなた誰っ?ここで何してるの?顔見せなさいっ」
 放心から一転して宮本が詰問してくる。脇田はそれに答える事が出来ず、首を振るだけだった。と、脇田が宮本との間に手を翳して、ちょっと待てとジェスチャーする。バッグの中からボールペンとノートを取り出すと筆談しようと試みていた。
 コタツの上に置かれたノートとボールペン。そして脇田の両手。細く白い指先は、どこから見ても女性のものでしかない。宮本はそれを見て一気に心がヒートした。ばっとコタツから立ち上がる。
「あなた崇のなんなの?あたしは高校の時から付き合ってるのっ。大体崇はどこ行ってるのよ!」
 白い肌を朱に染めて、まるで夜叉のような表情をしている宮本。これ程の怒りの表情は脇田もお目にかかった事が無かった。手早くノートに何事か書き込むと、宮本の前に差し出す。
『待て 冷静になれ 俺が脇田だ』
「ふっざけるなぁっ!崇が女の訳ないじゃないっ。剥かれて寒空に叩き出されたくなかったら今すぐっその暑苦しいドテラ脱いで顔見せなさいっ!」
 今にも踊りかかってきそうな宮本に、脇田は一つ溜息を吐き、そしてもう一度ノートへ書き込んだ。
『目の前にいるのが脇田だ 気をしっかり持てよ』
 すっくと立ち上がり宮本と対峙する。そして明智小五郎が変装を解くかのごとく、ゆっくりとドテラを、そしてパーカを脱いでいく。宮本の目の前で、はっきりと女性と分かる体型が晒されていく。
(やっぱり!女じゃない。崇のヤツ…内緒で囲ってたんだ…)
 何故こんな日に男の浮気相手と対峙しないといけないんだろうと己の不運を嘆きながらも、宮本はじっと相手を見つめていた。
 脇田は自分に憎々しげな視線を投げつけながら少し赤くなっている宮本の目を見ていた。突然女の、それも宮本自身になってしまった己が不甲斐ない。そして宮本を悲しませてしまっている自分を呪った。
 長い髪に似たような背丈。というより同じ視線。脇田がサングラスを取ると、宮本の心にある種の疑念が灯った。
(似てる?)
 マスクをゆっくりと取り去り、薄明かりの中で「脇田の浮気相手」の素顔が晒されていた。戸惑いの色を帯びたその顔は、自分そっくり、だった。
「…あ、あたし?」
(なんであたしがいるのよっ?!)
 頭に血が上りすぎたのか、宮本はゆっくりと意識を失っていった。

   * * * * * * * *

 鏡を見てたんだろうか?暗くなっていく視界の中で、あたしがびっくりした表情で名前を呼んでいた気がする。変な顔って思っちゃった。
 …何で寝てるんだっけ?ベッドの上、かな?
 薄っすらと目を開けると、やっぱり心配そうな顔したあたしがいる。天井に鏡なんてつけた覚えないんだけ、ど。
『宮本、大丈夫か?ちゃんと聞けよ。目の前にいるのは脇田だ、崇だ。宮本の姿になってるが、崇だ』
 目の前のあたしが変なこと言ってる。あたしだけど、崇?あ、ここって崇の部屋だったんだっけ。
 がばっと起き上がって崇だと言っているあたしを見た。上から下まで、じろじろと。いつも鏡で見ているあたしにそっくりだ。あたしの視線を気にしたのか、向こうのあたしはちょっと顔を赤らめてベッドの横で正座してる。こんな状況なのに、その姿が可愛いって思っちゃうのは、あたしがナルな証拠なんだろうか。
「あんた、ほんとに崇なの?」
 
   * * * * * * * *
 
 それからの宮本は脇田を質問攻めにしていた。脇田本人であると確認しない限り、宮本も次へ進めないのは当たり前だ。高校時代の共通の友人の話、付き合い始めた頃の事。特に付き合いを始めたきっかけについて脇田が話すに至って、宮本も渋々ながらではあったけれど、信じない訳にはいかなくなった。
「で、どうして変わっちゃったの?」
 脇田が淹れた緑茶をずずっと啜りながら、ちらちらと脇田を見ながら宮本が言う。
「どうしてか、それは俺にもわからんよ。何も変わった事はしてないし、変わった人にも会っていないしな。突然朝起きたら宮本になってたよ。我ながらびっくりだ」
 それ程動揺も見せずに冷静な表情で茶を啜る。そんな脇田を見て宮本は苛立ちを感じてしまう。
「崇ぃ、そのままずっとあたしでいる訳?あたしはどうなるのよ、今日だって……………ああっ!」
 突然叫びを上げた宮本に、流石にびっくりした表情を見せる脇田。どうした?と湯飲みをコタツに置いて宮本の方に向きを変える。が、宮本はそんな脇田の事は目に入らず自分の思考へ没入していた。
 
   * * * * * * * *
 
 あの怪しいおやじっ。いつもと違う崇がいつもと違うあたしに何かするって…。これがそう言う事?ってそんな夢見たいな…でも、現に崇はあたしになってるし…。あ、だとしたら、いつもと違うあたしってどういう事?
 そうよ、崇があたしなんだから、崇はいつもと違ったあたしになったんだ。じゃあ、いつもと違う崇ってあたしだからいつもと違うあたしはいつもの崇?じゃないな、崇があたしであたしは崇になるの?へ?でも、あたし二人じゃない。崇がいなかったらあたしに何か出来ないよ?あら?あたしになった崇がいつもと違う崇で同時にいつもと違うあたし?じゃあじゃあ、あたしあぶれちゃうじゃないっ。なによぅもう。ごちゃごちゃしてて訳わかんないわよっ。
 あ、あのおやじ、DNAがなんたらって…。血に含まれてるDNA…それを飲んだから?スパークリングゼリーってなんなの?
 ………
……

そういえば都市伝説があったっけ。今思い出した。非売品のゼリージュースがあってそれで人と人を入れ替える事が出来るんだって話。これが、そういう事、なの?
 じゃぁ元に戻るのも、あの話の通りな訳、ね?

   * * * * * * * *

「宮本っ、宮本っ、しっかりしろっ。どうしたんだ?おいっ」
 束の間、宮本は硬直したように一点を見つめていた。叫んだ後のその状態に、脇田も動揺しながら呼びかけていた。脇田にしては積極的に宮本の肩を掴み揺らしながら。
「はっ、都市伝説ってホント…」
 胸を押さえながら宮本が唐突に言い出す。怪訝そうな顔を隠せない脇田。
(?都市伝説?、大丈夫か?って心配はないか。宮本に限って)
 ちょっと宮本には失礼な事を思いつつも、大丈夫かともう一度問うて見る。宮本は返事の変わりに少し畏まって脇田を見た。
「崇、その身体は多分あたし自身と一緒なのよ。でもちゃんと元に戻れるから、大丈夫。それよりちょっと聞きたいんだけど…」
「なんでそんな確信が持てるんだ?答えられる範囲でよければ」
 いたずら好きな子どものような眼つきで脇田を見る宮本に、脇田は真面目な顔をして質問を待ち受けている。勿論、その顔はサングラスから縁なしメガネに換えてそれをかけた宮本なのだけれど。
「あたしの身体、触った?弄った?味わった?どうだった?」
「!!!!!!!なななななな、なんだっいきなり。俺がそんな事、する、わけ…」
 真っ赤になりながら俯く脇田に、宮本は新鮮な感覚を味わっていた。でも見た目が自分だからちょっと変な感じもする。宮本は意地の悪い顔をしながら追求の手を逃さない。
「でもあたしの身体なのよ?多分全部そうでしょ?誰もいないのに?…嘘つくヤツは〜こうだっ」
「!?み、宮本?」
 
   * * * * * * * *



 あたしは言うが早いか崇を押し倒した。傍目から見たらあたしがあたしを押し倒してるんだろうな。でもっなんか新鮮。崇が、あの崇が顔を赤くしてもじもじしちゃうなんて…。分かってるって、オナニーしちゃったんでしょ。あんなに動揺してたら誰でも分かっちゃうよ。
 メガネを掛けたあたしがあたしの下にいる。何故?どうして?って顔してる。その戸惑いがあたしにも伝わって、胸がどきどきしてる。崇も絶対そう。これから何されるかって不安と期待が入り混じってる。ふふ。
「崇、あんたこんな事した?それともこうかな?」
 あたしの小ぶりな乳房をきゅっと触ると、びっくりしたんだろう、崇が小さな叫び声を上げた。そのままむにゅって揉んでみると目を瞑ってしまう。
 なに?よせよって。嫌よ、やめない。あたしはずーっと崇にこうして欲しかったんだから。崇に触れて欲しかったんだから。崇が何もしてくれないから、いっぱいお願いしたんだから。なんかちょっと違う気もするけど。
 だから、やめない。ブラなんてしてない崇の、あたしの可愛い胸。レズってこんな感じなんだろうか。自分の身体なのに触れても揉んでも気持ちよさはない。その代わり、崇が感じてる姿を見て思わず興奮しちゃう自分がいる。多分、あたしも顔が赤いだろうな。だって今の崇、可愛いんだもん。
「どお?素直に白状する?したよね」
 ふふふっ、ほらやっぱり。どもりながら「した」なんて。そんなに気持ちいい?どこまでしたの?胸触った?アソコ、触った?……あらっ、指まで入れちゃったの?意外、崇って結構えっちだったんだ…。ねぇ、自分でするのとされるの、どっちがいい?あたしはされたいよ。崇に触ってほしい。崇があたしの身体にしたみたいに。
 組み伏されてるメガネのあたし。ほんとはあたしがこうして、頬を染めてもじもじする筈だったのに。今触っているのは崇だった筈なのに。
 寝巻きの下に手を入れて直接触ると、まるであたしが触られてるみたいに感じる。ゾクゾクする快感が背筋に走っちゃう。崇もあたしの身体でちゃんと感じてくれてる?
 
   * * * * * * * *
 
 脇田は目の前の、そして今自分を取り巻く状況に対処出来ないでいた。あの、宮本が自分を押し倒して、そして宮本自身の身体をまさぐっている。何よりもその手から紡ぎだされる官能に、自分の精神が揺らいでしまっている。
「みや、もとっ。もうよせよ…。触ってすまなかっあ!!」
 直接肌を触られ、乳房を揉まれる感覚に息も絶え絶えになってしまう。やっと謝罪を口にしようとしたのに、宮本が「きゅむッ」と両方の乳首を摘んでしまい、新たな刺激に声が出せなくなってしまった。
「崇の身体なんだから、触ってもいいの。でも、あたしは…あたしに触って欲しかった。ずっと待ってたのに…。手も繋がないなんて…」
 そう言いながらも宮本は脇田の乳首をくりくりと弄ってくる。甘い疼きが脇田の胸に広がって、身体と心に染み渡って行く。
「はっあ、俺は、みやもとが、大事なん、」
「大事だったら、もっとあたしを見てよ。あたしが崇にされたい事、感じて」
 片方の乳首を摘んだまま、宮本は脇田の寝巻きを捲って乳房を露わにしてしまう。暖房をつけているとは言え、十二月の室内は少し肌寒い。宮本に触られているからか、冷気の為か、脇田のピンクの乳首が「ツン」と尖っていた。
「あたし、こうされると気持ちいいのよ。ね?」
 むにむにと揉みしだきながら、乳首を弾いていく。そうすると面白いように脇田が快感の声を上げる。じっとりとした快美感が脇田の腰を支配し、そしてオナニーで味わった性感が再び脇田の心を魅了していく。じくじくと身体の中心からねっとりした粘液が湧き出してくるのを感じてしまった。
「みやもとっ、もう、それ以上はっ、あ、ん!」
「感じちゃった?あ、濡れて来た?あたしも、濡れて来てる…」
 秘裂から滲み出るジュースが宮本のショーツを濡らしている。自分を犯しているようなそんな気分に、宮本は異常に興奮していた。脇田も次第に研ぎ澄まされる感覚に、日頃堅固な意識も溺れ始める。
「みやも…ンむっ」
 止せと言う積もりだったのに、見る間に迫ってきた宮本の唇。その柔らかな唇に脇田の言葉は抑えられてしまった。宮本との初めてのキスを女の身体で、しかも宮本の姿という事に脇田は少しショックを感じてしまう。
 胸からの快感と口内を蹂躙していく宮本の舌。その二つで脇田は身も心も蕩けてしまった。
「…由美子って言ってよ。いつまで苗字で呼ぶつもり?はい、由美子って」
 宮本が唇を開放すると、静かな声で強請った。脇田も名前で呼んでみたいと思っていたのだから、断る理由などない。多少慣れ親しんだ呼び方を変える事に気恥ずかしさはあったけれど、声に出そうとした。そこに、宮本が「つるり」とトランクスの中に手を入れて、もう充血していた肉欲のスイッチを「ちょん」と触れた。 
「…、ゆ、ゆみっああっそこはっあぅん」
 触れるぞ、と自分で覚悟して弄った時とは比べ物にならない刺激。宮本の不意な行動で、抗う術もなく大きな喘ぎ声を上げてしまう。自分とは違った人間が喘ぎ声を出しているように思えるけれど、その声は宮本が弄る度に同じように喘いでいるのが聞こえた。
「あたしのここはこうやって愛撫してね。すごく気持ちいいでしょう?ちゃんと覚えておいて。もう、堪らないよね。一度イカセてあげる」
 あまりの愉悦に脇田は朦朧として抵抗する気も削がれていた。それよりも股間が疼いて、粘液のトロトロと出て来ているのが恥ずかしく、それをどうにかして欲しいと思ってしまう。
 メガネの自分が呼吸する度に、大きく上下する乳房、うねる白いお腹。宮本は自分で見ても綺麗だと思ってしまう。ナルだ。
 素早く寝巻きとトランクスを引き下ろす。脇田に添い寝をするように後ろから抱きかかえにしながら、手を脇田の股間へ差し入れた。自分で自分を慰めるように、ゆっくりと筋目にそって指を這わす。途端に「ビクビクッ」と目の前の自分の身体が痙攣するように跳ねている。もう、宮本自身の秘裂もぐちゃぐちゃに濡れ、濡れたショーツはその色と形をはっきり見せるまでになっていた。
「こうして…優しくしてね…くりくりするといいでしょ?ここ、弱点なの。それと……。ここ」
 脇田の股間に置かれた手は狭い場所にも係らずうねうねと動き回る。その度に「ちゅくちゅく」と卑猥な音がアパート一杯に響いて、それが脇田を興奮させた。もう声を出す事すら出来ないくらい、性感が高まっている。
「刺激強い?でももう少しでイキそうでしょ。あとは…ここだけだね」
 くいっと指を折ったかと思うと、そのまま何かを待っているように口を開けていた肉筒へ先端を入れる。声にならない叫びを上げる脇田を横目で見て、びりびりと電気が走るような堪らない刺激が宮本にも訪れていた。
 細い指を「ちゅぷちゅぷ」とナカに出入りさせ、大量のジュースを床に溢れさせてしまう。指を入れたメガネの自分の膣は、襞が色々な動きを見せ楽しませてくれる。喉を反らせて快感に打ちのめされている脇田には悪いけれど。
「もうだめ?イキそう?いいから、イっていいからっあたしがどうしたらイクか感じてっ!」
 
   * * * * * * * *
 
 目の前であたしが、あたしの指を喰い絞めながらイッてる…。すごく卑猥な顔…。涎垂らして、崇、そんなに良かった?
 すごい、ビクビクってまだ指を絞めてくる。あたしが自分でしてもこんなにならないのに。なんかちょっと悔しいかも。でもこれで崇もあたしがどうしたら悦ぶか分かった筈だわ。
 ああン、あたしも早くして欲しいっ。あたしもすごく興奮してる。だって、ショーツの中は洪水だもん。
 ナカの痙攣が段々治まってきた。あたしは指を抜いてあげる。どう?気持ちよかった?え?くすぐったいから胸揉むなって?ちゃんとイッテるね。よしよし。
 もうよそうって、崇はいいけど、あたし気持ちよくなってないのよ、もう。あ、そうだ。冷蔵庫にもう一本…。
 これを飲んだらきっと…。え?飲んで大丈夫かって?いいから、そこで見ててよ。乳首摘んじゃうよ。…そう、いいコにしてて。
 ………
 ……
 …
 ?何にも、起こらないけ…ど…。昨日飲んだときも…。あ、なに?なんか身体がっ熱いっどうして?ゼリージュースって透明なゼリーみたいになるんじゃないの?痛いっ身体がばらばらになるみたいっ。崇、あたしっ……あ、ああっ?
 
   * * * * * * * *
 
 宮本の突然の叫びに、脇田も驚きを隠せない。半裸のまま身体を捻って宮本の方を見ると。宮本の姿が見る間に変化していった。
 長かった髪がどんどんと頭に引き込まれて短くなっていく。まるで男のように。身体も顔も「バキバキッ」と不快な音を立てながら、ごつごつした身体へと変化し同時に一回り程大きくなっていた。ウェストが太くなったせいだろうか、穿いていたスカートのホックが飛び、ジッパーも音を立てて下がって肉体の変化を何とか受け止めようとしている。「びちッ」とどこかで弾ける音がしたのは、丁度宮本の乳房が萎んでいって、変わりに筋肉が発達した胸板が現れた時だった。多分ブラのホックが千切れ飛んだのだろう。宮本が自分の肩を抱いていた手も、大きくそして節くれだっていた。脇田はなす術もなくその変化を見守っている。そして変化していく宮本を見ながら、その身体つきに見覚えがあると感じていた。
 変化が始まってから終わりまで、一分あるかないか。しかし二人に取ってこの一分は驚くほど長く感じた。
「み…ゆ、みこ。お前…」
 胸を肌蹴た状態で、宮本の身体を見ていく。どう見ても自分自身の身体。顔は宮本が俯いているから良く判らないけれど。髪の長さも、肌の色も、筋肉質の身体も、どれを取ってみても脇田崇だ。
「…いったぁいぃ…!………これって男の声?成功?!。」
 メガネの宮本の目の前には脇田の姿が佇んでいた。しかしその姿は先ほど宮本が着ていた服を着て、およそ男の格好とは言えない。スカートなどウェストの部分がぎゅうぎゅうになってしまっているし、上半身も同様だった。
(…ふぅ。これで、いつもと違う崇といつもと違うあたしになった訳ね。今一納得できないけど)
 宮本は逞しくなった己の肉体を、さも嬉しそうに動かしている。太い二の腕は、どんなに重い刀を振ってもぴたりと止めそうだ。ちろりと呆然とその姿を見ている脇田を見た。と言っても呆然とした自分なのだが。
「由美子…身体、何ともないか?」
 肌蹴た胸を隠しながら、心配そうに脇田がにじり寄ってくる。殆ど半裸の状態でまだ快感が抜けきらず濡れた目をして見上げる姿は、女性の宮本にしてもドキッとする程エロい。男の身体の反応が宮本の脳髄を刺激する。
「あ?あらっ?やだっ」
 今まで感じた事がない、下半身が徐々に立ち上がっていく感覚。新鮮と言うより不思議な現象に宮本は慌てて腰を引いていた。そうしないとショーツから飛び出そうとするソレが、スカートを持ち上げてしまう。
「どこか痛いのか?大丈夫か?」
 そんな男の生理現象など良く判っている筈の脇田も、宮本が女性であると言う認識しか持てないからか、自分の今の身体と服装が醸し出すエロさに一切構わずに、尚も宮本に近づいて来る。宮本の目にはふるふると揺れる自分の乳房と丸出しの白い下半身が見える。男の身体の我慢も少しづつ無くなっていた。そしてその身体に引きずられるように、宮本の心も更なる欲情に駆られていった。
 
   * * * * * * * *
 
 崇があたしの身体で近づいて来る程に、どんどん股間が熱く、固くなってくる。ずくずくする痛みみたいな感じがあたしの心を引きずって行くみたい。
 あの、ちょっとそんなに近寄らないでよ。…お腹痛いのかって?そういう訳じゃないからっ。あ〜もうっ崇っあんたも男でしょ?分かるでしょ、半裸の女の子が近くにいたらどうなるかって。あたしだって止めたいわよ。そんな目で見ないでよ、あたしだって恥ずかしいんだから。
 崇の目から膨れちゃった股間を隠そうとして、思わず手で触っちゃった……………。なんて、熱くて固いんだろう……。男の子ってこんなになるんだ…。そりゃちょっとは知ってたけど、週刊誌見たりもしたし、もう済ませちゃった友達の話も聞いたことあるし。でもっこんなになるなんて。崇の身体があたしの目を通して、あたしの身体に欲情してるんだろうか?考えてみれば考えてみるほど、変態的なシチュエーションだわ。だって自分を見て興奮してるんだから。
 あたしが近寄らないでって言ったらほんとに部屋の隅に行っちゃってる。後ろ向いていそいそとトランクス穿いて…。なんか、可愛いって思ってしまう。
 あたしの身体が崇になって、男の部分が芽生えて来たんだろうか。痛いぐらい固くなってる崇のアソコ。ソコに理性なんてないんだ。男の気持ちが初めて分かった。コレを崇の中に入れたいって、思う。鎮めたいって、思う。自分が崇にそうされたい事を、今したい。あたしの目と崇の身体を通してあたしの身体を味わってみたい。崇はどう感じてるんだろう?同じように女の子の気持ちになっちゃってるんだろうか。
 ………あたし、すごい変態だったんだ……。ごめんね、崇。でも、止められない…。
 
   * * * * * * * *
 
 宮本は部屋の隅で寝巻きを直している脇田へ近づいていく。息を殺そうとするけれど、男の身体がそうするのか、劣情に支配されて息が荒くなっていた。近づきつつ、脇田の身体に纏わりついた衣服を、もどかしそうに脱いでいく。一歩近づく度に一枚一枚と。ショーツ一枚になった時、脇田の真後ろへ来ていた。
 荒い息遣いが耳元で聞こえた事で、脇田が振り返ろうとした瞬間。
「ぅわっ?!なっなんだ?由美子っ?」
 宮本は徐にトランクスを掴むと一気に下まで引き降ろしていた。股間を隠そうと腰を引き加減にして、脇田が首を捻って振り返る。そこには欲情に染まった、自分のきつい目が、脇田を見下ろしていた。
「…崇の身体、あたしの身体に欲情しちゃってるよ。あたしももうダメ」
 その言葉に脇田は視線を落としていく。そこにはショーツの上からはみ出した自分のペニス。既に先端から粘液の玉が湧き出ている。
「う、ちょちょっと待てっ。早まるなよ。俺は男でお前が女だぞ?今の状況は逆だけ……」
 宮本が強引に脇田の口を塞いでしまった。その先は言わせないとばかりに。ぬろぬろと宮本が脇田の口内で暴れまくると、先程の刺激で脇田はトロンとした表情になってしまう。収まりかけた女の身体が、再び燃え上がってくるようだった。
「はぁ…」
 どちらからとも無く、熱い溜息が漏れる。唇を放すと脇田の表情は物足りなそうに見えた。宮本は脇田の身体を壁に押し付け、首筋にキスしながら左手で胸の膨らみを、そして右手を秘裂へ伸ばして行った。
「あっ、よせって、ふぁ、ん、ゆみこっ」
 胸を揉まれながら、さっき熱くなった肉珠を自らの愛液で濡らした指で「くりくり」と再度刺激され、脇田は色っぽい声を上げてしまう。必死にそれを隠そうとしても、「ちゅくちゅく」と秘裂から聞こえる音は、感じてしまっている事を隠し切れない。
「崇、すごく可愛いよ。あたしの身体気持ちいいでしょう?…このまま…」
「ああっ。指っ抜いてくれっ、これ以上はああ!」
 トロトロに溶けきった肉壷に、宮本が指を「ぬるり」と挿れてしまう。沸き起こる快感に、脇田は腰をフルフルと震わせてしまう。その様子に宮本はニヤリと口元を歪ませていた。
 中の襞を掻き分けるように指を抜き差しすると、「きゅん」とその指を喰い絞める。その度に脇田の口から溜息とも喘ぎとも取れる声が漏れていた。指のスピードを速めると透明な愛液が掌まで滴り落ちてくる。
 宮本は手を動かしながら脇田を見た。紅潮した頬は徐々に欲情を湛え始めた表情に彩を加えている。自分の顔なのにひどくエロく感じてしまう。上半身に寝巻きだけを着て、下半身は裸のまま男の指に翻弄されている。口を閉じ必死に声をあげないように、身体を震わせながら耐えている姿は、宮本の男の身体をより興奮させてくれる、痺れるような眺めだった。
 宮本の身体も、先端から先走り汁を出し、それが竿を伝ってショーツにシミを作っている。脇田の身体が反応する度に、宮本の凶悪そうな棒も呼応するように震えていた。
「崇の身体があたしを欲しいって。崇にも分かるよね?あたしの身体が崇欲しいって。だってもうこんなに…。」
「ひぅ、あっあっあっっっああっ」
 湿り気を帯びたリズミカルな音と、脇田のあげる喘ぎ。そして宮本の息遣いだけが室内に響いていく。
「こっここで挿れちゃっていい?ね、崇っ」
 切羽詰った声で尋ねてくる宮本に、脇田はダメだとばかり首を振り、自分の身体を蹂躙する指を止めようと腕を掴んだ。けれど、どれ程力を入れてもその動きが止まる事はない。力が違いすぎる。
「やっだっめ、だっあっあっ。はっ?!」
 宮本がショーツを下ろして裸になっていた。指を抜き強引に脇田の身体を自分へ近づけると、腰をグイッと前に突き出し、愛液でどろどろになった手でペニスの角度を調節する。そして、「ぐちゅ」っと亀頭を秘裂へつけていた。
「ひゃあっああっゅみこっ。よせっ」
「ああっ、気持ちいいぃ…先の方って感じるのね…」
 十分に濡れそぼった入り口に、宮本は先端を「にゅるぅ」と擦り付けていく。その摩擦による刺激は二人に堪らない愉悦を提供していた。
 陰核を亀頭で嬲ってやると、過剰な反応を脇田が示す。くぐもった声で呻きながら、宮本を押し返そうとする手の力が抜けているようだった。
「あ、ほら、入っちゃう、入っちゃうよ。あたしがあたしの中に、崇が崇の中にっ」
 自分を犯す自分。その倒錯的快感に宮本は次第に酔いしれていく。ゆっくりと先端を自分の身体に埋めていくと、熱い肉襞が待ってましたとばかり吸い付いてくる。
「やめっ、ゆみっ、あんぅ、せめて、べっ、」
「ベッドならいいのね?じゃあ」
 頭の部分だけが繋がった状態から素早く体を入れ替え、ひかがみに腕を差し入れてぐっと脇田の身体を持ち上げてしまう。脇田の身体はふわりと浮き、お姫様抱っこになってしまった。興奮といきなりな事で混乱した脇田は、思わず宮本の首に腕を回していた。
「…やっぱり崇って凄いわ。軽々だもんね」
 構わずベッドまで脇田を運んでくると、ゆっくりと降ろす。ぴったりと足を閉じて身を守ろうとする脇田がちょっとおかしく感じる。
「ほ、ほんとにするのか?マジか?」
「…マジ。止まらないってば。それに、今の崇って女の子みたいよ。ぐっと来るもんね」
 脇田に覆いかぶさりながら寝巻きの上から尖った乳首を甘噛みする。まるで自分がされたように宮本の心が震えていた。その震えがペニスへの刺激となって伝わってくる。
「…するのは、いいけどな。これ、使えよ」
 ごそごそと枕元を探ると、三つ程連なったコンドームを差し出してきた。その意外な品物に宮本も動きが止まる。
「え?崇、今日は…」
「そういうつもりがあった…。こんな事にならなけりゃ…」
 恥ずかしそうにぷいっと顔を背ける脇田に、宮本がニンマリと微笑む。ちょっと凶悪そうな笑みだ。
「そうなんだ…。なら遠慮なく使わせて貰います」
 受け取ったコンドームをびちびちとひとつづつに離し、パッケージを切る。中から少しゴム臭いピンクの防壁が現れた。初めて見るものに、宮本の心に軽い興奮が沸く。こっちが表だと思い、自らの股間に生えたペニスの先端へ被せクルクルと下ろそうとしたが…下ろせない。良く見ると裏表だ。反対にして下ろそうとしても、また下りない。今度はゴム同士がくっついていた。
「ああっもうっ、どうなってるのよっこれ!」
「…焦るなよ、ちゃんと待ってるだろ」
 いらいらした所に余計な事を言ってしまった脇田だった。ぎろっときつい目が自分の身体に突き刺さる。
「あたしが待てないのっ。崇、男なんだからこのままでいいよね?」
「ちょっ、ちょっと待ったぁ!あっ、よせってっ!おいっ!」
 宮本は脇田の足を割り広げ、じっくりと自分の身体の中心を見つめている。既に脇田の身体が我慢の限界なのは、脇田本人にも分かっていた。涎をシーツに垂れ流す一つ目小僧はこれ以上はない程に膨れて固そうだ。それが徐々に自分を奪おうと近づいて来る。
「…無駄な事は止めなさい。もう挿れちゃうからね。覚悟して」
「う、あ…」
 言葉が出ない脇田を尻目に、宮本がペニスの先端を「つぷっ」と秘裂へ当てた。

   * * * * * * * *
 
 崇の、あたしの足を開かせて身体を割り込ませた。びっくりしたんだろう、崇は声も出ないみたい。あたしも強引にされたらそうなると思う。でももう、我慢できない。崇の身体があたしの身体を求めてるから?それともあたしがオカシクなって、あたし自身としたいと思ってるから?どんなに取り繕っても、固くなったコレをナカに挿れたいって事には違いないね。
 ぬるっとしてる…先が、少しづつあたしの身体にもぐっていく…。入っていくだけでもこんなにも気持ちいいなんて…男ってズルイ。女は最初なんて痛いだけだって、誰か言ってたな。
 はぁ…ん、あ、ほら崇見て。頭だけ入っちゃってるよ。…恥ずかしいの?今更だよ。それにあたしにこうしたかったんでしょう?
 逃げちゃだめっ。痛いの?じゃあ触ってあげる、ココ。ふふっ気持ちいいよね。丸く膨れてるもん。弄りながら挿れてあげる…。多分気持ちよくて痛くないよ。だから、あたしとする時もそうして…。
 んッ、キツぃ。痛い?痛気持ちいいなんて。崇って女の子のエッチ、好きなんじゃないの?もう、ちょっと我慢して、あと半分だから。え?まだそんなにって…。自分のなんだから判るでしょ。
 ああっ、柔らかいのに、きゅ〜って締まって、すごっ、いいぃよ。全部入っちゃったよ。あたしが膣内にいるの判る?奥までいるのが判る?
 ごめっ、崇、腰止まんないっのっ。気持ちよくてっ、だって締まっててぬるぬるして、暖かくて包まれてるぅっ!あたしが、あたしを犯してるよっ。崇っあたしっ崇に犯されてるっ。やだっすごいいいっ。
 なんか快感がアソコに集まってくるみたい。いっぱいいっぱい、溜まってくるっ。ああっ。

   * * * * * * * *
 
 痛みもさることながら、身体の中に杭が嵌り込んだような圧迫感に、脇田は息も出来なかった。必死に宮本の動きを止めようとするけれど、自分の身体の力強さにどうしようもない。「ずちゅっ」とか「ぬちっ」とか、ひどく淫猥な音と、宮本の、自分の身体から発せられる嬌声だけが耳に届いていた。
「あっ、崇っすごい、締まってるよっ」
 意識しなくても痛みからか身体に力が入ってしまう。その度に膣を締めてしまい、自らの肉杭の固さを身を持って味わっていた。
「ふっ、ンっ、あっ、ぁぁっあっ」
 宮本が腰を叩き付ける度に、軽く息が漏れる。その吐息に小さな声が混じると宮本の動きが更に激しくなる。
「崇っ、また弄ってあげるっ、一緒に気持ちよくなろ?」
「んっああっ、やめっそれだめっだっ!ぁはああっん!」
 珠になっている快感を与えてくれる器官。そこを宮本が指先で「きゅ」と摘んでしまう。突然に刺激に大きな叫び声を上げてしまう。
(痛いのと、気持ちいいのが…、翻弄されてる、だめだっ)
 膣の痛みとクリトリスからの愉悦。痛みの方が強いけれど、それでもこの快楽はモノが違う。心の隙間にじわじわと染み渡って来ていた。
 
   * * * * * * * *
 
「?!あぅ、あああっなんだかっ?段々ぃ痛みがぁっ、ひっ?!」
 突然下半身を覆っていた痛みが消え失せ、目も眩むような快感だけが脳へと届けられていた。脇田はその感覚に戸惑いを覚える。
 一方で宮本も脇田の変化に気付いていた。明らかに声の調子が違うし、それまで身体を固くしていただけの状態から、必死に何かを隠そうと身体をウネウネと動かしているのだから。
(もしかして、感じてる?…なんでもいいわ、気持ちよくなってくれてるならっ)
 それまで直線的に動いていた腰を、ぐりぐりと置くまで差し込み揺らしてみる。何かが弾け飛びそうになるけれど、それを何とか押し留めて。脇田はその動きが堪らないのか、それまで宮本を押し留めようとしていた手で宮本の、自分の肩口にギリギリと爪を立てた。
「んーっ、ンーッ、ああッ、ハッあんっ」
 耐えようとすればする程甘美な疼きが下半身から立ち上って、声を押しとどめようとしても自然と声が出てしまう。脇田はその声が自分のものでは無いと思おうとしたが、響いてくる女性の声が宮本のものだと思うと、自分が嬌声を上げさせている錯覚に陥ってしまった。そしてどんどん声を上げてしまう。
「いいっ?あたし、すごくいいっ、ああ、ヤダっ気持ち良過ぎるぅううっ!」
「ああっ、もうっ、あはぁ…っ、そんなに、激しく、は、ダメだっ」
 血がついたペニスが激しく出入りする度に、愉悦の声を上げてしまう脇田。そしてそれを聞きながら、尚も固い竿を突き込む宮本。既にシーツは二人の汗と脇田の愛液で大きなシミが広がっている。ギシギシと音がするベッドの上で妖しく蠢く二人の身体は汗でキラキラと光りながら、腰から一つに融けていくようだった。
「ひぁ、ん、あっ。いいっ…」
 宮本が脇田のナカを抉るように突くと、電気が通ったように脇田が身体を反り返す。狭い肉洞がその動きで一層形を変え、宮本のペニスをあちこちから刺激していく。最早快楽に支配されてしまった脇田の口からは、意味を為さない音しか出てこない。その声を聞きながら決死の思いで耐えていた宮本だったが、もうそろそろ限界が来ていた。
「崇っもうだめっ、なんか出ちゃいそう!止めていられないのっ!」
 ぐぅっと自分の中で大きく固くなったペニスに、脇田は一瞬我にかえった。
「!あっダメだっ、外にだ、」
「あああんんッでちゃううううぅうううっ!!!」

   * * * * * * * *

 もう、堰き止めてられなかった。アソコの根元の方から沸きあがってくる熱いもの。それを出したくて、でもこのまま気持ちいいナカにいたくて、腰を振っていたくて。
 ああっなんて気持ちいいのっ!?男ってこんなに一気に気持ちよくなれるなんてっ。崇が、あたしの下でよがってる。それを見たら身体の興奮と心の興奮がシンクロして耐えられなくなった…。
 !!!!
 …ああっ、出てるぅ、出てるよ崇っ、たくさん、気持ちいいよお。ビクっビクってする度にまだ出てるよ。崇のあたしが、あたしの崇のナカに、いっぱい、いっぱい……。
 ………
 ……
 …
 あたし男としてイッちゃったんだね…。イク前までの女とは違う急激な上り詰め方。一気に放出する快感。めくるめくって感覚は、こういう事を言うのかしら。そして、全てを出し終わった後の虚脱感。
 崇の上に凭れ掛かりながら、過呼吸起すんじゃないかってくらい早く深い呼吸を繰り返していた。そうしないと死んじゃいそう。
 崇も呼吸が荒いのね。イケたの?初めてなのに?そんなに恥ずかしそうな顔しないでよ。ムリヤリだったけど、あたしが女だったら崇だって絶対強引だったと思うけどな。

   * * * * * * * *

「…由美子、重い…」
 脇田はベッドの上で大の字になりながら荒い息を整えていく。その上で宮本が脇田の胸に顔を埋めていた。二人とも武道をして来ているのだから、これ位の運動なら平気、とは行かなかった。セックスがこれ程まで体力を消耗するとは知らなかった。身体から全ての力を搾り出すようだ。
「……うー、こうやってるのも結構いい感じ」
 ゆっくりと身体をずらして脇田の横に添い寝するように横たわった。それを横目で見ながら脇田が深い溜息を吐く。
「シャワー浴びてくる…あっ」
 女の身体だからという訳でもないけれど、はだけた寝巻を正してゆっくりとベッドから足を下ろす。と、脇田の秘裂から「ドロリ」と大量の白濁の粘液が流れ出てきた。内腿をつたうそれを脇田は真っ赤な顔をして押さえようと手を添えた。指が敏感な部分に触れると「ちゅっ」と音がする。かえって女性自身に触れてしまった事で、散々味わった快美感が湧き出てしまう。感じてしまった。
(あ、…)
 その音と自分が感じてしまった事が宮本にばれていないか、脇田は思わず振り返ってしまった。宮本はきつい目を細めていやらしく笑っている。
「たーかし、今かん、」
「そ、そんな事ないぞっ。感じてなんか絶対ないっ」
 脇田の恥ずかしそうなその仕草に、宮本は下半身にぞくぞくした感覚が、そして再び血液が流れ込むのを感じていた。宮本はペニスが屹立しているのも構わずベッドから立ち上がると、そのまま脇田の手を引きながら狭い浴室へと誘う。
「お、おい、どうしたんだよ」
「え?今度はシャワーしながらしよ?クリスマス終わるまでにはまだまだ時間あるんだし。色々しよ。ね?どうせなら楽しまないとね」
「…………」
 それから直ぐに浴室から喘ぎとも嬌声ともつかない声が、アパート中に響いていた…。

   * * * * * * * *

 …崇、あたしの興味本位で男と女が変わっちゃったけど、初体験しちゃったんだね。丸一日、たっぷりと。すごく卑猥で自堕落で、だけど気持ちよくて、それに一緒になれて、あたしは嬉しかったのよ。崇もそうでしょ?…寝ちゃったの?流石に疲れたもんね。えっちがこんなに体力使うなんて思ってなかったわ。
 あと一時間もしないうちにイブが終わってクリスマス。いくら奇跡の夜って言っても、こんな体験誰に話しても信じてくれないだろうけど…あたしと崇だけが知ってればいいよね。ふぁぁああ…。あたしも眠くなってきちゃった。トイレにも行ってきたし、起きたら元に戻って、今度はほんとに、本来の姿で一つになろ…。
 …でも身体的には崇があたしに手を出してくれたって感じだけど、実際にはあたしがしたからなぁ。望みが叶ったっていうのとはだいぶ違う気がする…。取りあえずあのおじさんには感謝するけど、ね。
 ……………
 …………
 ………
 ……
 …

   * * * * * * * *

「ええええっ?なんでっ?どうしてっ?」
 二十五日の日付に変わってから、既に十時間近く経ち、明るい日差しが窓から差し込む脇田のアパート内で、脇田が突然声を上げていた。しかしその仕草はいつもの脇田とは違う。どことなく、というより完璧に女性の仕草。それも宮本の。
「な、なんだ?どうした?って声が?」
 その横でむっくりと起きあがった裸の宮本。長い黒髪が扇状に広がり白い肌に映えて美しく光っている。しかし起き出すと同時に、枕元のメガネを手探りで探している。
「崇?崇だよねっ?」
 脇田が宮本の肩を揺すりながら軽いパニックになりながら問いかけると、メガネを掛けながら宮本が頷いた。そして自分と脇田の身体を見つめる。
「…変わってない、な」
「なんで?排泄したら変身解けるって…噂なのに…」
 二人で顔を見合わせながら、入れ替わった身体が戻っていない事に呆然としていた。

   * * * * * * * *

 もうっあのくそおやじっ。いくらサンプルだからって戻る方法位言っときなさいよっ。ゼリージュースなら出せば戻ると思うじゃないっ。ああ、どうしようこのままずっとあたしが崇で崇があたしのままなの?
 あ、そうだ。モニターだからってお店に来てくれって言ってたっけ…。ならまだ大丈夫よね?そうなると…まだちょっと遊べるかな。
崇、何逃げてるのよ。変な事考えてるって?そんなことないわよ。
………
……

 ごめんね、崇。元に戻る方法ないみたいなの。だから…なりきりましょ。え?女のフリなんか出来ないって?何言ってるのよ。もう女の快感覚えてるじゃない。冬休みの間は立派な女になれるようにレッスンしてあげるからね。
 このまま一生変わったままだったら?その時は…………………その時は、あたしが崇から言って欲しかった言葉をそのままあげる。
「責任取って俺が一生面倒みてやるよ、由美子」


おわり


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