娘と・・・


作:Sato


「アババァ」

 利恵がおどけた顔をして明紅(めいく)をあやしている。それでもまだ明紅は不快な表情をしていた。仕方なく利恵が明紅を抱いてやると、明紅は幸せの感情をいっぱいに表現してそれに応えてくれる。

「あはは、笑った笑った

 利恵はそれを見て無邪気に笑う。幸せいっぱいの家族の風景――傍目にはそう見えるかもしれない。しかし、わたしだけはそれがいつわりの光景であることを知っている。

「・・・!?」

 ふとわたしのほうを見た明紅のまなざしを見て、わたしの心は一気に冷え切ってしまった。そこにはわたしに対するあざけりの気持ちが全面に表れていた。

「フッ」

 明紅が一呼吸しただけなのにもかかわらず、今のわたしの目には、明紅がわたしを馬鹿にしているようにしか見えなかった。わたしに見せる表情と妻に見せるあの幸せそうな表情――そのギャップは子供にとっての母親と父親の違い、そんなレベルをはるかに通り越していた。

 近頃はわたしが近付いただけでも大声で泣き出す始末なのだ。そして代わりに利恵が近付いてくると、自ら尻尾を振るかのようになついていってしまう。わたしを避ける割には、今のような時には、わたしに向かって勝ち誇ったかのような顔を見せたりもする。

 わたしも最初はそれが、明紅の日々の成長の一つの過程なのだと思っていた。しかし、そんな態度には1歳と3ヶ月という年齢に相応しくない高い知性と落ち着きを感じもするのだ。

 わたしが明紅に知性を感じるのには他の要因もある。例えば、おしっこやうんちをもらしたりした時に、あからさまに不快な表情を見せるのだ。その表情にはかなりの屈辱感も見え隠れしている。わたしの兄夫婦の息子を同じ歳格好の時分に見たことがあるが、その子はそんな時にも当たり前という感じで平気な顔をしていたものだ。それとも明紅は誰かに、それが恥ずかしい行為であることを吹き込まれたりしたのだろうか?

「さ、明紅。キレイキレイしましょうね〜。じゃあパパ、お風呂行ってくるね」

「あ、ああ、うん」

 サッと明紅を抱き上げると、利恵は風呂へと向かっていった。その途中、利恵の背中越しに明紅が顔を覗かせた。

「ニヤリ」

 ――いつもこれだ。明紅はわたしとは風呂には決して入ろうとしなくなった。風呂が嫌いになったかと思えばそうではなく、こうして利恵と入るとなると、一気に上機嫌になるのだ。

 似たような話は他にもある。明紅にもそろそろ離乳食を試しはじめ、ある程度は移行しつつあったのだが、ここにきてまた逆戻りした感があった。あろうことか、ミルクには見向きもせず、もうほとんど出なくなっている利恵の母乳ばかりを求めたりするのだ。利恵は母性本能をくすぐられたようで喜んでいるようだが、わたしには不審に思われてならなかった。

 ――何かが狂ってきている。

 一人残されたわたしは、あまり明紅がおもちゃで遊ばなくなり、妙に片付いている部屋の中で大きなため息をついた。




(うわあ、やっぱり若い主婦ってのもいいよな♪肌のハリが違うものな。でも、この俺様だってあと10年ちょっとすりゃあ、こいつよりもハリのある肌になっちゃうわけなんだよな!
 それにしても赤ん坊がちゃんとしゃべることができないのは舌っ足らずってだけじゃなくて、やっぱりしゃべろうとしてないだけだったんだな。その気になりゃ、俺だったらペラペラしゃべることができたもんな。さすがにこいつらの前じゃそんなことはできないが。まあ、あと1年かそこらは『能ある鷹は爪を隠す』って感じでおとなしくさせてもらうぜ。その後は天才少女誕生ってか?あははは!
 こいつにあのゼリージュースを飲ませるのには苦労したもんな。しかし、苦労の甲斐はあったぜ!こんなオイシイ人生が待っているとは夢にも思わなかったからな。あー、これからの女の子ライフが楽しみだぜ♪)



(おわり)



あとがき

と言うわけで、tiraさんに倣って体験談シリーズを書いてみました。
今回はクリーム色の裏ゼリーです。
単純明快なお約束ストーリーですが、
このシリーズっぽくダークでもあります。

極端な年齢退行ですが、
将来を考えると楽しみではありますよね!(笑
女の子の人生を全て味わえる、
例えば胸が膨らんできたり、お赤飯・・・・(ゴホン!
なんて事も「自分の人生の1ページとして」体験できるのですから。

うらやましい限りですよね(笑

それでは短いですが、今回はこの辺りで。

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