白い闇の中で(後編)

作:toshi9





 3日目の朝、久美は俺に先に会社に行くように言った。

「私はちょっと用事があるから今日は遅れて行くわ。課長には後で連絡するから」

 既に松岡ひとみとして過ごして2日が過ぎ、何とか一人でも着替えと簡単な化粧はできるようになっていたので、言われた通り一人で会社に行くと、俺はひとみのロッカーを使って女子制服に着替えた。
 しかし、営業課の今の自分の席・・つまりひとみの席に座って仕事していると、昼休み前に何と広岡秀雄!が出社してきた。

 え?

「部長、急にお休みを頂きまして、すみませんでした」

「いやいや、それでお袋さんは大丈夫なのかね」

「はい、もう峠を越しましたので。これからは復帰前以上にガンガンやらせて頂きます」

「うん、その意気だ。がんばってくれたまえ」

 誰だ、あれは。

 席に座った広岡秀雄を見詰めていると、こっちを見てにやっと笑いかけてきた。

「おはよう、松岡くん。今日は安田くんお休みみたいだな。君、その分しっかり頼むよ」

「お前、誰だ」

「は、何言ってるんだ。さあ仕事仕事」

 もう一人の俺は俺の質問を無視するかのように、自分の席(もともと俺の席だ!)に戻り黙々と机に向かって仕事を始めた。

 誰なんだ、こいつ。

 結局その日、安田久美は出社して来なかった。そして広岡秀雄には時折り雑用を命じられるものの、特に話をする機会もなく夕方が訪れたのだが、あと1時間もすれば退勤時間というところで、突然広岡秀雄が声をかけてきた。

「松岡くん、今晩急にお得意さんの接待が入ったんだが、俺行けないから代わりに君が行ってきてくれないか」

「ええ!」

 もう一人の俺は俺をじっと見てにやにや笑っている。

「で、でも」

「君も今度はしっかりやってくれるだろう。悪いけどよろしく頼むよ」

「いえ、そうじゃなくて」

「それとも元に戻れなくても良いんですか。主任」

「え? どうしてそれを」

 もう一人の俺は小声で呟いた後、わざと皆に聞こえるような大声で俺に向かって話しかけた。

「松岡くん、ちょっとこっちに来てくれ。詳細を説明するから」

 そのまますたすたと部屋と出て行くそいつを、俺はあわてて追いかけた。

「お前誰だ」

「俺か、俺は広岡秀雄に決まっているじゃないか」

「違う、広岡秀雄は俺だ」

「何処が、あなたは松岡ひとみじゃない。あっはは」

「その話し方。まさかお前」

「まさかって」

「久美、安田久美か」

「ふふ、その通りよ。やっとわかった?」

「何でお前が俺の姿をしている」

「ひ・み・つ。それより、今日の接待について説明しますよ」

「そんなもんできるか」

「できなければ、アレを踏み潰すまで」

「くっ。わかった。とにかく早く俺を元に戻せ」

「この接待のお仕事が終わったら、ひとみに出社するように言ってみようかな」

「よし、確かだぞ」 



 久美が教えてくれた場所、そこはとあるホテルの中にある料亭だった。

「いやぁえらいべっぴんさんやな。今日は広岡はん来られへんで残念やと思っとったが、怪我の功名っちゅうやつやな」

「は、はぁ」

「ほな、いこか。まあ飲みなはれ」

「いえ、お客様こそどうぞ、お酌いたします」

「おお、おおきに。ん、うまいわー。酌も上手やなぁ」

「はぁ、ありがとうございます」

「じゃあ、あんさんもいこか」

「それでは一杯だけ」

 仕方なく、俺もぐいっと冷酒を飲み干す。

「おっ、いける口やないけ。もう一杯いこか」

「いえ、そんな。私ばっかり飲むわけには、どうぞ飲んでください」

「いやいや、べっぴんさんのいい飲みっぷりを見ているというのも、えろう楽しいもんや。さあ、いこいこ」

 とにかく飲まされた。

 酒には自信があったのだが、いつもより酒のまわりが早い。冷酒を立て続けに飲まされ、段々意識が朦朧としてきた。

「わらひ、もう帰らせていららきます」

「おや、客を置いていくのか。あかんなぁ」

「い、いえ、ろんな」

「そいならもっと飲も飲も」

「ひゃい」

 そのうち遂に意識が無くなってしまった。意識が途切れる間際に聞こえたのは、その客のおかしな呟きだった。

「広岡はんから、おまはんなら何しても大丈夫って言われておるんや。楽しませてもらうさかいになぁ」




「うーん」

「お、やっと気が付いたかいな」

「こ、これは」

 気が付くとすっかり服を剥かれて、ベッドの上に裸になって寝かされていた。どうやらホテルの一室らしい。

「さあて、今晩の二次会や」

「いや、それは……止めてください」

「いいや、止めんでぇ。今晩は思いっきり楽しむんやからなぁ」

「や、やめてくれ」

「ほら、ここはどないだ」

 男がひとみの脇をつつっと撫でる。

「ひゃっ、そ、そんなとこ」

「こっちはどないや」

 胸の先を指でころころと転がされる。

 く、くふっ、は、はふっ

 胸の先から段々と快感が湧き上がってくる。  

「や、やめてくだ、ひゃっ、いや、ちょっと」

 男は尚も執拗に俺の胸を指で転がし、今度はぐっと俺を抱き寄せると舌でぺろぺろと舐めてきた。その度に胸の先から伝わる快感は段々大きくなり、俺の体の芯が熱くなっていった。やがて男の手は俺の股間に伸び、その太い指が俺の股間にできている溝を擦り始める。

「い、いや、そこは、駄目です」

「何が駄目や、もう濡れてきとるでぇ」

 擦っていた男の指が、俺の中に入ってきた。

「い、痛っ」

「ほほう、もしかしてまだ経験少ないんか。ほな痛くないようぎょうさん気持ち良くしたるからなぁ」

 男がトランクスを脱ぐと、男の一物はすでにびくびくといきり立っていた。まさか本当に……

「ひぃ、や、やめて」

「さあて、ほないくでぇ」

 抵抗しようとしても、酒が効いていることもあり、力が全く入らない。男は俺の足を手に取り両手で広げると、無理やり一物を入れ込んできた。最初はゆっくりと、そして一気にぐうっと突き刺さる。

「く、く、くはっ、う、うん、は、はん」

 それは屈辱以外の何物でもなかった。男に犯され、あまつさえ俺はそれに感じている。

「やめ、やめろぉ、く、あ、あん」

「おうおう、嫌がるところもまたかわいいのぉ」

 男は自分のものをすっかり俺の中に沈みこませると、腰を激しく動かし始めた。

「い、いた、いたい」

「おっとすまんかったな。ほんまにまだ未開発なんやなぁ。でもすぐに良くなるでぇ。わしがこれまでいかせられんかった女はおらんのや。しっかりこいつの心地良さを教えてあげるさかいに」

「そ、そんな、あ……あ、あう」

「ほら、どんなや、気持ちええやろ」

「そんなことな、ひ、ひゃ、いや、うぷっ、んー」

 男は俺に唇を重ねると、再び腰を動かし始めた。そして男の一物が俺の中から出し入れされる度にどんどん快感が俺の体全体を覆いつくす。

「あ、あん、いやっ、いい、い、い、く、いく、いくう〜」

 やがて何も考えられなくなってきて、俺は遂にいかされてしまった。







 気が付くと、ホテルの部屋に男の姿は無く、代わりにもう一人の俺・久美がいた。

「どうだった、今日の接待は」

「どうもこうも、無茶苦茶だ。こんなこと……」

「あら、お客様満足されていたみたいよ。接待は成功なんじゃない。さすがは主任」

「冗談はよせ」

「そうね、あなたも気持ちよさそうだったしね」

「お前まさか、見てたのか」

「ふふ、よがるあなた・・かわいかったわよ」

 俺は恥ずかしさに顔を真っ赤にしてしまった。

「もう俺が悪かったよ。許してくれ。もう二度とあんなことはしない。俺がどんなにひどいことをしていたかよくわかったよ。ひとみにもみんなにも謝る」

「じゃあ許してあげようか。でもその前に」

「その前に?」

「あたし、男の感覚を味わってみたいの」

「男の感覚って……まさか」

 久美は服を脱ぎ始めた。俺の服を脱いだ俺の姿の久美、その股間には・・見慣れた俺の一物がぶら下がっていた。

「お前、それって」

「ふふっ、そう、あなたからちぎったアレをここにくっつけたの。さあ、これを舐めて」

「お、俺のもの」

 俺が俺のものを舐めるのか。そのことを思うと、俺の胸の奥が思わずきゅんと鳴った。そして体の芯がじゅんとしてくる。何だこの感じは。

「今まであなたに散々虐げられてきたけれど、今はあたしがあなたで、女のあなたを辱める立場になっている。こんな面白いことは無いわ。さあ、早く舐めるのよ。あなたのこれをあなた自身がね」

 俺が俺のものを舐めて大きくさせる。それってどんな感じだろう。舐めてみたい。

 胸の奥から不意に湧き上がってきたそんな奇妙な感情を抑えることができず、遂に俺は自分のものにむしゃぶりついた。

「はむ、ん、ん、んー」

「はぁ、いい、これが男の感じなの」

 丹念に自分のものを舐め、口に含んでちゅぱちゅぱとしゃぶり上げる。すると、口の中の俺の一物はぐんぐんと膨らんできた。俺も再び体の中が熱くなってくる。

「あ、あぁ、いい、何かこみ上げて、あ、ああ、くる」

 久美がしゃぶっている俺の頭を押さえつけ俺の頭を無理やり動かす。そして膨らみきったそれは、俺の口の中で弾けた。

「こ、こほっ、こほっ」

 久美が俺の口から放出し終えた物を抜くと、口の中に放出された白い粘液が口の中いっぱいに満たされていて、唇の脇からつーっとこぼれてくる。

「ふふ、こぼしちゃ駄目よ。全部飲むの」

 久美が俺の口に掌を当て、吐き出させまいとする。

 ごくっ

 仕方なくそれを飲み込むが・・苦い、いやな味だ。

「どお、自分のもののお味は」

「何をさせるんだ」

「さあて、じゃあ本番いこうか」

「ひっ! またやるのか」

「あら、さっきあんなによがってたのは誰かな。気持ち良かったんでしょう」

「そ、それは」

「ほらほら、ここをまたこんなに濡らしちゃって」

 久美は俺の股間に指を滑り込ませると、くちゅくちゅと音を立てさせ始めた。

「や、やめてくれ」

「ほら、あなたの体は欲しがっているのよ」

 久美の指はその動きをさらに激しくなり、俺は再び体の中から熱い快感を吹き上がらせていた。

「ほら、言いなさい。あたしにそれをくださいって」

「そんなこと……く、くぅ、いや、や、やん」

「どうしたの」

 その時にはもう、俺の中にどうしようもない切なさが込み上げていた。

 欲しい……これが、女の気持ち。

「く、ください」

「ちゃんと言う!」

「あ、あたしに・・・それを・・ください」

「はい、よくできました。じゃあご褒美よ」

 久美は俺の脚を両手で開くと、俺の股間に俺の一物を侵入させてきた。その感覚はさっきの男のものを受け入れた時以上に俺の全身を快感で包み込んだ。 

「は、はぁん、い、いい」

 久美が腰を動かす度に、俺の中の快感が後から後から止めども無く吹き上がっていく。

「ああ、いいわ、あなたのそこ、うん、うん」

「いや、い、い、いく」

「いくよ」

「きて、あ、ああぁ」

 どくっ、どくっ

 そして、俺たちは二人同時に果てた。 




「はぁ、はぁ」

「どお、気持ち良かった?」

 俺は久美に抱かれたまま呆然とベッドに横たわっていた。久美の広い胸に寄り添っていると、何だかとても安心できる。

 まだこのまましばらく抱かれていたい……はっ、俺は何を。

「も、戻してくれるんだな、こ、これで」

 俺はやっと声を絞り出した。

「あら、やっぱり戻りたいの」

「当たり前……だ、だろう」

 俺の中には、まだしばらくこうしていたいという気持ちが沸々と湧き上がっていたが、一刻も早く戻らねば取り返しの付かないことになる。このままでは自分が本当に女と化してしまう。そんな不安が頭をよぎり、そう答えた。

「そう、じゃあ戻してあげようかな。明日からひとみも復帰するって言っていたし」

「そうか、じゃあ頼むよ」

 俺は、それを聞いて半分ほっとし、半分は残念な思いに囚われていた。何でだ・・・

「じゃあこれ飲んで」

 彼女は俺にペットボトルに入った白い飲み物・・・カルピスみたいな・・・を渡した。

「それを飲めば、元に戻してあげるから」

 そう言えば、体を粘土細工のように変えられる前にこれを飲まされたような……そうか、これで元に戻れるんだな。

 俺は、それをごくごくと飲み干した。関西弁の男との、そして俺になった久美とのセックスの後で無性に喉も渇いていた。でも俺はそれを飲むのに夢中で、その時久美がまたあの冷たい笑いを浮かべていることに全く気が付かなかった。

「じゃあ、そこに横になって」

「わかった」

「ふふっ、ちょっと我慢してね」

「う、うっぷ」

 俺の顔に何か厚いゴムのようなものが被せられた。

「これはあらかじめ顔の型を取ったものなの。柔らかくなった今のあなたの体に新しい顔を写し取らせるためのね」

「そ、そうか。これで本当に戻れるんだ・・・」

「じゃあ、今のうちにあなたの体型をいじるからね」

 久美はそう言いながら俺の体をマッサージするかのようにまさぐり始めた。あちこちが久美の手でいじられているのがわかったが、ほとんど痛みも何も感じなかった。顔を覆われたまま横になっていると何となく心地よいもので、段々俺を眠りに誘われた。

 ・・・あれ、そう言えば久美は元に戻らないんだろうか。このままじゃ俺が二人になるじゃないか。それに俺のアレは・・そう思いながらそのまま眠ってしまった。





「・・起きて、終わったわよ」

「う、うーん」

「ふふ、目が覚めた?」

「ああ、終わったのか・・あれ、声がまだおかしい。それに何だ、お前まだ俺の格好で」

「ふふふ」

「お前、まさか」

「まさか、なんだって言うんだい。久美」

「なに? 久美だぁ。あれ、さっきより小さくなったけれど、胸がまだ・・」

「悪かったわね。はい鏡」

「こ、これは」

 鏡に映っている俺の姿、それは裸の安田久美だった。

「お前、俺を・・・」

「ははは、やっとこの時が来た。これからもずっと私が広岡秀雄よ。あなたは安田久美になるの」

「そんな、もう一度頼む」

「ふふ、もうあれは無いわ。今からあなたは一生私として暮らすのよ。大丈夫わたしがずっと一緒にいてあげるから」

「お前最初からそのつもりだったのか」

「まあね。私があなたのことを許すとでも思ったの。散々あなたにいい様に使われて、私には何の仕事もさせてくれなかった。お茶汲み、コピー取り、そしてセクハラの毎日、もういやなの。私はもっと自分の力を試したかった。そんな時あの白いゼリーのジュースを手に入れたの。何とか使う機会を狙っていたんだけれど、ひとみの自殺未遂がいいきっかけになったわ。みんなにひとみのためにあなたを懲らしめると言ったら協力してくれた。
 そして、あなたがひとみになっている間にうまい具合に私はあなたと入れ替わることができた。あ、女子社員のみんなには私がよーく謝っておいたから。これから心を入れ替えますってね。だって本当のことだもんね。
 だからこれからずっと私が広岡秀雄として仕事をやらせてもらうわ。あなたには私の代わりに私のアシスタントをやってもらうわよ。お茶汲みやコピー取りだけじゃない、雑用っていくらでもあるんだからね。
 これからずっとあなたは私・・いえ俺のもの。俺の言う事に逆らっちゃ駄目だぞ、はっはっはっ」

 久美は笑った。それは俺と全く同じ豪快な笑いだった。

「お前だってほっとしてるんだろう。これからもずっと俺に愛してもらえるんだって。わかっているんだぞ」

 久美は再び俺をぎゅっと抱きしめた。

 今の俺は力無くそれに従うしか無かった。

 これから女として生きていかなければならない? 俺が散々馬鹿にしていた女に? 

 そのことを考えると暗澹たる気持ちになったが、しかし俺の中には久美が言った通りそれとは別な気持ちがはっきりと生まれていた。

 ぎゅっと俺の体に抱かれて力が抜けるほどの快感に囚われてしまう自分がそこにはいた。

 一体どちらが俺の本当の気持ちなんだろうか。自分でもよくわからなかった。

 明日はさらに深い闇に落ちるのか、それとも新しい未来が始まるのか……






(了)

                                2003年6月16日脱稿



後書き
 「白い闇の中で」、約一ヶ月半ぶりの新作アップになりました。そして後編はTiraさんの「Ts・TS」と直リンクさせました「ゼリージュース!ワールド」オープン記念作になりました。
 さて、今回は新しい裏ゼリージュースを作ってみました。以前よしおかさんの書き込みで「黒より恐い白いゼリージュース」というのがあったのですが、それをヒントにしてみたものです。この白のゼリージュースは「飲むと体を自由に改造できる」というものです。ぐにゃぐにゃになった体を粘土のようにこねて変形させることも、ちぎったりくっつけたりすることも自由自在。どんな姿にでも自由に変えられるのです。けれども上手に変形させられれば良いのですが、もし失敗したらちょっと恐いですよね。そのために、オプションとして、顔をコピーするためのアイテムを付けてみました。まあ歯型を取るような速乾性の樹脂のようなものです。この白のゼリージュース、まだまだ色々な話ができそうです。部分変身とかも考えられそうですしね。
 それから話の中で出てきた怪しげな関西弁らしき言葉は記憶を頼りに考えたものなので、おかしなところがありましたら関西の皆様すみませんです。
 しかしこの会社、ひどい会社ですね(笑)。今どきはもうこんなセクハラに満ちた会社は無いと思いますが、もし心当たりのある人がいましたら、そんな方は気をつけないと。目が覚めたら・・・
 それでは、ここまでお読みいただきました皆様、どうもありがとうございました。

 toshi9より感謝の気持ちを込めて。
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