とある雑居ビルの2階にあるTSショップ。そこに一人の客が訪れていた。

「どうだい店主、例のものは出来上がったかい?」

「はい、お客様、こちらでございます」

「ほう、よくできてるじゃないか」

「はい。頂きました資料を基に、ご要望通りにお作りしました。
でも何故わざわざこのようなものをお使いになろうとされるので?
もう一度ゼリージュースをお買い求めになられればよろしいのでは」

「ふふふ、それだけじゃあ面白くないじゃないか。
もう飽きたし、明日のクリスマスイブはこれを使ってたっぷり楽しんでやるのさ。
そうさ、明日の聖夜、あいつにこれをプレゼントしてやるのさ。楽しみだよ。くっくっくっ」






プレゼント

作:toshi9






 今年もクリスマスイブの夜が来た。

 松原芳樹は、聖夜を恋人の美保真由美と二人で過ごすために、
ホテルのロビーで彼女が来るのを待っていた。

 その片手には綺麗にラッピングされた彼女へのプレゼントを抱えている。

 まだ若いながらも将来の幹部候補とその前途を嘱望され、社内では恐いもの無しの芳樹であるが、彼にも弱いものが一つあった。

 それは恋人の美保真由美。

 会社では受付嬢に過ぎない真由美だが、プライベートでは芳樹は真由美に頭が上がらない。

 そんな彼女と、今夜は二人だけのクリスマスディナー。

 芳樹はある決意を秘め、ひたすら彼女が来るのを待っていた。

(今夜はディナーして、酒飲んで、そして……そしてホテルの部屋で……)

 だが、おかしなことに約束の時間を過ぎても真由美はやって来ない。

「真由美も俺との食事を楽しみにしていた筈なのに、いったいどうしたんだ。そう言えば最近ちょっと様子がおかしかったけれど……」

 その時、じりじりとロビーで待ち続ける芳樹のケータイに、突然真由美から「うちに来て」というメールが入ってきた。

 芳樹はホテルのレストランをキャンセルすると、慌てて彼女のマンションに駆けつけたの
だった。





「真由美、いったいどうしたんだよ。折角予約してたのに」

 ドアが開くなり、真由美の突然の変心を問い詰めようとする芳樹。だが真由美のほうは、
そんな芳樹の様子を全く意に介する風もなく、にこにこと芳樹を迎え入れた。

「メリークリスマス、芳樹」

「え? あ、ああ、メリークリスマス、真由美」

「入って」

「おい、真由美」

「今夜はあなたと二人、私のおうちで過ごしたくなったの。いけない?」

「いや、いけないなんてことは……」

「じゃあ入って。そして乾杯しましょうよ」

(全くこいつときたら……)

 やれやれと苦笑しながらも、部屋に入る芳樹。

 しばらく後、リビングのソファーに座った二人の間で、ワイングラスが乾いた心地よい音を立てていた。

 二人静かにそのグラスを傾ける。

 一瞬の静寂が部屋を包んだ。

 だが芳樹はその静寂を破るように口を開いた。

「真由美、俺からのプレゼントだ」

 芳樹は少し照れ臭そうに綺麗にラッピングされた小さな箱を真沙美に手渡した。

「何だろう、ありがとう」

 嬉しそうにリボンを解いて紙包みを開ける真由美。

 中から出てきたもの、それはきらきらとダイヤの光るティ○ァ○ー製のネックレスだった。

「うわぁ、きれいだ。嬉しい」

 にっこりと微笑む真沙美。

 芳樹もその笑顔を見て、ようやく胸の中に溜まったもやもやが取れたように微笑返していた。

「ねえ芳樹、あたしもあなたにプレゼントがあるんだ」

「え? 俺にも? 何だろう」

「うふふふ」

 再び微笑む真沙美。

「あ・た・し」

「え?!」

「あたしをあげる」

「お、おい、いいのか」

「……うん」

(そうか、そういうことだったのか。俺のほうから「今夜こそ」と切り出そうと思っていたが、
遂にこの日が……真由美、おかしいと思ったら、ようやくその気になったのか。
よ〜し、今夜は真由美と……やっったぁ〜〜〜)

 叫び出したい衝動を必死で堪えようとごくりとワインを飲み干し、芳樹はじっと真由美を見返した。

 だが緩みかけた下唇がどこかだらしない。

(「結婚するまでは駄目」ってずっと拒まれていたけれど、これでやっと真由美とえっちできる)

 真由美と抱き合った己のことを想像し、ワインの味も感じられないほど興奮してくる芳樹だった。

 そんな芳樹の様子を見てふふっと笑うと、真由美はやはりラッピングされた大きな箱を取り出した。

「はい、これ」

「え?」

「だからあたしからのプレゼント」

(へぇ〜、真由美の奴、散々俺をじらしておいて、聖夜に初えっち宣言&プレゼントか。まさにハレルヤだな)

 頭の中ではそんなことを考えながらも、落ち着いた表情でプレゼントを受け取る芳樹。

「ありがとう。なんだろうな」

「うふふふ」

 にこりと笑う真由美の目の前で、芳樹はうきうきと紙包みを開けた。

 中には、いくつかの服のようなものが重ねられて丁寧に折り畳まれている。

 その一番上に乗っていたのは、手袋だった。

「服? それに手袋か。ありがとう、真由美。嬉しいよ。……でも、あれ? これって……」

 芳樹がその手袋を摘み上げてみると、どう見てもそれは男物の手袋とはいい難いものだった。

 すらりと細長い指の部分は見るからに婦人用の皮手袋を思わせ、とても芳樹のごつい指が入るとは思えない。しかも色がベージュだ。

「なあ、これって女物じゃないのか」

「ううん。そんなことないよ、ねえ早くつけてみて」

「つけてみてって言ったって、これサイズ合ってないだろう」

「大丈夫、ぜったいに芳樹にぴったりだから」

 一瞬妖しげな笑いを浮かべる真由美。

「そうかあ? ま、まあ、真由美がそう言うなら……わかったよ」

 促されてその手袋に自分の手を差し入れてみる芳樹。

 手袋は確かに彼の手よりも小さく見える。だが手を差し入れると、芳樹の指は何のストレスもなく、するするとその中に吸い込まれていった。

 そう、芳樹のごつい両手は、その小さな手袋の中にすっぽりと納まってしまったのだ。

「へえ〜? ぴったりじゃないか。でも……俺の手ってこんなに華奢だったっけ」

 芳樹が目の前にかざした手袋を付けた彼の手は、己の手とは思えないほど、
指が細長くほっそりと見えた。

「うふふ、いいからいいから。さあ、まだ箱の中にはいろいろ入ってるんだから、
どんどん出してみて」

 真由美に促されて手袋の下に折りたたまれていたものを取り出す芳樹、
それは長袖のハイネックシャツのように見えるものだった。しかもやはり色はベージュ。
おまけに胸のところにまるで女性の胸のようなデザインがあしらわれていた。

「お、おい、これってちょっと趣味悪くないか。それに小さいだろう」

「そお? あたしそれを着た芳樹の姿、見てみたいなあ。きっと似合うと思うわよ。
それに小さそうに見えるけれど、生地がよく伸びるから大丈夫」

「大丈夫ったって……」

「あたしからのプレゼント、着てくれないの」

 じっと芳樹を見詰める真由美。

「ま、まあ真由美の折角のプレゼントだからなあ。しょうがない、着てみるか」

 上着を脱ぐと、そのシャツを着ようとする芳樹。

「あ、ねえ、全部脱いでから着て頂戴」

「全部?」

「うん、これって体のラインがもろ出るから、下に下着を着ているとだめだよ」

「そうなのか?」

 まあいいか、そう思いながら上半身裸になると、芳樹はそのシャツを着込んだ。

 小さく見えたものの、確かに着てみるとシャツの生地は良く伸びて、ぴたっと俺の上半身に密着した。窮屈なんじゃないかと思っていた芳樹は、意外とそのシャツの着心地が良いことに驚いていた。

 だがどうも様子がおかしい。

 真由美はじっと視線を彼の胸を凝視している。

 芳樹は何気なく己の胸に目を移した。

「え゛」
  
 彼の目に飛び込んできたもの、それは自分の胸に盛り上がった形の良い二つの乳房だ。

「な、な、なんなんだ!」

 確かにデザインのように描かれていたけど、こんなに盛り上がってなんていなかったぞ。

「ふふふ、芳樹にもおっぱいができたのね。かわいい〜」

 真由美が芳樹の胸に手を伸ばす。

 ぐにゅ。

「はうっ」

 ぐにゅぐにゅ。

「あ、あ、あふっ……ふはあ、や、やめ……やめて……な……なんなんだこれ」

 盛り上がった胸から湧き上がってくる奇妙な快感に、慌てて真由美の手を払いのける芳樹だった。

「面白いでしょう。芳樹の上半身は女の子になっちゃったのよ。手も首も肩も胸も」

「はあ?」

 己の手をじっと見詰める芳樹。つけていた筈の手袋は何時の間にか消え失せ、そこにある細長い指先には桜色の爪が伸びていた。それは彼の手とは全く違うものだ。ほっそりとしなやかなその手は、そう、確かに女性の手のように見える。しかもじっと見ていると、それはどこかで見覚えのある手の形だった。

(この手、どっかで……)

 ふと、再び自分の体に目線を移すと、着た筈のシャツのほうもすっかり消えていた。
細い腕、狭くなった肩幅、盛り上がった胸、芳樹の上半身は確かに女性の体型に見える。

「ね〜え、芳樹」

「こ、これってどういうことだ」

「ねえ、芳樹、もっと変わってみたいと思わない?」

「はあ? 真由美、お前なにを言って……」

「ねえ、どうなの」

 芳樹の疑問を無視して、強い口調で質問を繰り返す。その眼差しは真剣だ。

「変わってって、どういうことだ」

「下半身も女の子になってみたくな〜い?」

「何言ってるんだ、そんなことできるわけ」

「それができるんだ。芳樹の上半身がほんとに女の子になっているのは、胸を揉まれてよくわかったでしょう。下半身だって女の子になってみることができるのよ。ねえ芳樹、興味ない」

 ごくっ。

(女の子のからだ……確かにさっきの胸の感覚って……自分の胸にこんなおっぱいが……下半身……ってことは……俺に女の子のアソコが……興味ないわけじゃない……が……
でも……)

 芳樹の頭の中を好奇心と自制心がぐるぐると回り出す。

「ま、真由美、だってそれじゃお前とえっちできないじゃないか」

「えっち? ふふふ、心配しなくても大丈夫よ。さあ芳樹、早く箱の中のものを出して」

 真由美に再び促されて、箱にのほうに目線を移す芳樹。

「興味あるんでしょう。ほら芳樹、早く」

 芳樹に強く促す真由美。 

「え? あ、ああ」

 芳樹が箱の中から摘み上げたもの、それはスリムパンツと言うにはやや頼りない、薄手の生地のストレッチパンツだった。しかもどう見てもサイズが小さい。いや、それはむしろタイツと言ったほうが相応しい感じだ。しかも、その股間の部分にはリアルな翳りが描かれている。

「な、なんなんだこれ」

「ねえ穿いてみて」

「穿いてみてって……お前……」

 真由美の目が妖しく光る。

「気持ちいいんだよ。それを穿くと、芳樹の下半身も女の子になるんだよ。芳樹のおちんちんの代わりにそこに女の子ものがそこにできるんだよ」

 ごくっ。

(俺に……女の子のもの)

 真由美からその言葉を聞いて、さらに興奮してくる芳樹。

(ううっ……まさか本当に俺に? まあ取り敢えず真由美の機嫌をとっておかないと、
結局えっちさせてくれないかもしれないしなあ。それに……)

 芳樹は自分の胸に盛り上がった乳房を右手でそっと触った。

「あううっ」

(確かにこれって感覚があるんだよなぁ。もしこのタイツを穿いたら、本当に俺の下半身も
女に変わってしまうのか……)

 再びごくりと生唾を飲み込む芳樹。

「し、しょうがないなぁ、じゃあちょっとだけだぞ」

「うん」

 にこっと笑う真由美。

「じゃあちょっと後ろ向いてな」

「うん」

 芳樹の言葉に素直に後ろを向く真由美。

(それにしても真由美の奴、今日はどうしたんだ。全くなに考えているんだか。
それに大体こんなものを何処で手に入れたんだ)

 そんなことを思いながらズボンとトランクスを脱ぎ、タイツを手で広げてゆっくりとその中に脚を通していく芳樹。

 すると、彼の脚もシャツに腕を通した時と同じように、するするとその中に入っていった。

 だがそのタイツをすっかり穿き終わった時、芳樹を不思議な違和感が襲った。

 ふと見ると、今まで真由美を見下ろしていたのに、背の低い彼女の顔が彼の目の前にある。

(真由美……急に大きくなって……どうして……違う! 俺のほうが縮んだんだ)

 その事実に気が付いて、愕然とする芳樹。
 
 そう、芳樹の背丈は彼女とすっかり同じになっていた。

「え? どういうことだ」

「うふふふ、芳樹、またかわいくなったね」

「ええ?」

 ぷりっと膨らんだ芳樹のお尻をさらりと撫でる真由美。

「ひいっ、こ、こら、やめろ」

「うふふふ、かわいいよ、芳樹ちゃん」

 にやりと笑って突然芳樹に抱きつく真由美。

 むにゅ。

 芳樹と真由美の間で、芳樹の膨らんだ胸が、セーターを着た真由美の胸につぶされる。

「う、く……くはっ」

 むにゅむにゅ。

 真由美が上半身を動かすと、芳樹の胸の先でぽちっと膨らんだ乳首がセーターにこすれ、さらに微妙な刺激をもたらした。

「ちょ、ちょっと、まゆみ……あ、あひ……う、あふん……やめてくれ……ふ、ふはぁ」

 柔らかな胸から、乳首からもたらされる感覚に、思わず快感の吐息を漏らす芳樹。その様子を見た真由美は、芳樹を抱いた腕を下におろすと、その股間をさらりと撫でた。

「ひ、ひやぅ」

 それは今までの芳樹には決して知り得なかった、そこに何も無い感覚。

 そう、そこにあったはずの彼の一物が間違いなく消え失せているのを、芳樹は実感させられてしまったのだ。

「こ、これって……」

「ねっ、あなたのココもすっかり女の子になったでしょう。芳樹ちゃん」

 さらに指でそこをさわさわと撫で続けられる。

「う、うあっ……や、やめ……あぅうう」

「芳樹ちゃんって、とってもかわいいわよ。ほら鏡を見てみなさい」

「え?」

「何てったって、あなたの顔以外はもうすっかり女の子なんだから」

「かわいいって、お前……」

「いいからいいから、ほら行きましょう」

 芳樹はプレゼントの箱を抱えた真由美にドレッサーの備え付けられたベッドルームに
引っ張っていかれると、鏡の前に立たされた。

 そこには裸の女の子、いや顔は芳樹なのに、体は……華奢な体、大きな胸、
細くくびれた腰、むちっとしたお尻、そして股間の翳りから覗く割れ目……
そう、すっかり女の子になってしまった芳樹の姿が映っていた。

「これ、これが、お‥おれ」

「そうよ、芳樹は女の子になったの」

 予想はしていたが、こうして鏡に映った今の自分の姿は衝撃的であり、何とも奇妙な気分だった。

 ごくり。

「ねえ、かわいいでしょう」

「いや、かわいいだなんて……俺の体が女になってるなんて、何か気持ち悪いよ」

 だが口ではそう言いながらも、自分の姿を見つめて、まんざらでもない芳樹だった。

(女になった俺ってもしかして結構かわいいかも……って……はっ、違う違う……真由美、
どうしてこんなこと。真由美の奴、俺に何をしようって) 

 そんな芳樹の心を見透かすかのように、真由美は喋り続ける。

「ふふふ、そんなことないよ。とってもかわいいわよ。ねえ芳樹、ちょっと女の子の格好して
みない」

「ええ?」

「あたしの服って、今のあなたにサイズがぴったりだと思うよ」

 真由美の……服。

 真由美の服を俺が着る? そして、それがぴったり?

 真由美の言葉に、ちらりと浮かんだ疑問は吹っ飛ばされ、頭の芯がくらくらとしてくる芳樹
だった。

「はい、これ」

 真由美はタンスの中から、己の下着を取り出した。

 それはフリルの付いたピンクのショーツ、そして同じ色のブラジャー。

「お前、それを俺に着せようっていうのか」

「そうよ、きっと似合うと思うよ」

「でもそれってお前の下着……」

「ふふっ、あたしは芳樹があたしのを着ても構わないよ。それにその体じゃ、もう自分の下着は着られないでしょう。ずっと裸のままでいるつもり?」

「裸……そうか」

(そうだ。今の俺って裸。それも女の子の体なんだ。それを真由美に見られているなんて)

 急に恥ずかしくなった芳樹は、思わず胸と股間に手を当てて隠してしまった。

「ふふ、でしょう。裸のままじゃ恥ずかしいよね。だからあたしの下着を着てなさいよ。ほら」

 真由美にぎゅっと彼女のショーツを押し付けられる。

(真由美のショーツ、俺がこれを穿くのか、それも真由美の目の前で)

 真由美はじっと芳樹を見詰めている。

「わ、わかったよ」

 観念するかのように、だが心の奥で湧き上がる何かの衝動に突き動かされるかのように、芳樹はショーツを広げて脚を通すと、するすると引き上げていった。
滑らかな生地がその股間にぴたりと密着する。

(ここに俺のモノがないなんて。何も無いなんて)

 その感触は、芳樹の気持ちを何処か不安にさせる。

「はい、ブラジャー」

「俺、ブラジャーなんて……」

「ふふっ、そうね、付けられないよね。じゃああたしがつけてあげるよ。手を上げて」 

 真由美はブラジャーを優しく芳樹の胸に当てると、背中でそのホックを止めた。

(これがブラジャーをつけている感覚……か)

 鏡には真由美の下着を身に着けた芳樹が映っている。

 サイズもぴったりのそれは、妙に芳樹にフィットしているように見えた。

「うふふふ、芳樹ちゃん、またかわいくなったわね」

「真由美、その『ちゃん』は止めろ」

「だってかわいいんだからいいじゃない。芳樹も自分でそう思っているんじゃないの?」

「は? いや、そんなこと……ないよ」

 だが口では否定しながらも、体を捻りながら、鏡に映ったピンクのブラジャーとショーツを
つけた自分の姿をじっと見つめる芳樹。

「わかったわかった。じゃあ次は服だね」

「え? 服?」

「下着のままって訳にもいかないでしょう。あたしの服も貸してあげるわ。
えっと……そうねえ……そうだ、これにしましょうか」

 ドレッサーの中を物色していた真由美が取り出したもの、それは……。

「お前、それって!」

 それは会社で真由美が着ている受付嬢専用の女子制服だった。

「どお、あたしの制服、かわいいと思わない」

「そりゃあかわいいと思うけれど……」

「ねえ芳樹、着てみようよ。今のあなたにもこの制服ってきっとぴったりよ」

「だってお前、俺がこんなもの着たって……き、気持ち悪いだけだよ。いくら体が女の子に
なっているからって、俺はこれ以上自分のそんな姿……見たくないぞ」

 だがそう言いながらも、芳樹はじっと真由美の持ったその制服を凝視していた。

(この制服ってほんとかわいいんだ。受付嬢姿の真由美ってほんといいんだよなぁ。
それを俺が着る……この俺が……今身に着けているブラジャーやショーツの上に)

 体を女の子に変えられ、真由美の下着を着せられた芳樹は、鏡に映る己の姿に
何時の間にかすっかり倒錯した気分に陥っていた。

「気持ち悪いなんて、そんなことないよ。あたしの下着がそんなに似合っているんだもん。
きっとこのかわいい制服も芳樹によく似合うと思うわよ」

 真由美が妖しく微笑んだ。

「で、でも」

「はいはい、じゃああたしが着せてあげる」

 真由美はそのやや光沢のある青いミニワンピースの制服のファスナーを引き下ろした。

「ほら、きっと似合うから、ちょっとだけ着てみようよ」

「そんなこと言っても……」

「男ならぐずぐずしない!」

「……わ、わかったよ」

 芳樹はどきどきと鼓動を高まらせながら、そのかわいい制服に脚を通した。

 背中のファスナーを真由美が引き上げる。

「うわぁ〜、やっぱりかわいい〜」

「ええ?」

「ほら、鏡を見てみなさい。ふふふ、そうしていると、芳樹もすっかりうちの受付嬢よ」

 鏡に受付嬢の制服を着た芳樹が映っている。しかもサイズがぴったりで妙に似合っている。だが……。

(俺、何でこんな格好してるんだ。……そうだ、何でだろう。真由美とクリスマスディナーして、酒飲んで、そして今夜こそえっちする。そのつもりだったんだ。それなのに何で俺がこんな
女の子の体になって、真由美の下着と制服を着て、鏡の前に立って……)

 ぼーっと鏡に映る自分の姿を見つめている芳樹に、真由美がにっと笑って声をかけた。

「さてと、それじゃあ最後のもの」

 真由美が箱の中に手を突っ込んで、そしてまた何かを取り出した。

 それはパーティで使うゴム製のマスクのようなものだった、しかも……。

「ゴムマスク? いや、これ……女の子の顔? それに、おい、この顔って、まさか……」

「そうよ、これはあたしの顔。これを被ったら、芳樹は顔もあたしの顔になれるの。
ふふっ、もうわかったでしょう。その手も、胸も腰も脚も、今の芳樹の首から下は全部
あたしのものなの。顔もあたしになったら、芳樹はあたしに、この美保真由美になれるのよ」

 「あたしになれるのよ」といいう真由美その言葉を聞いて、芳樹の興奮は極限に達しようとしていた。

(そうか、この手、どこかで見たと思ったら、真由美の手だったのか。この体に真由美の服がぴったりだっていうのは、そういう訳か。そして……これを、このマスクを被れば……俺の顔は真由美に……俺は真由美に……)

 ごくり。

 芳樹は何度目かの生唾を呑み込む。

(これを被って、これを被って俺は……)

 夢遊病のように、芳樹はするするとそのマスクの中に頭を入れた。

 そして彼が目の位置や鼻の位置を合わせていると、段々とマスクが顔にフィットしてくる。

 それにつれて視界が回復してくると、彼の目に、会社で見慣れた受付嬢の制服を着た真由美と、セーターにロングスカート姿の真由美、二人の真由美の姿が飛び込んできた。

 受付嬢姿の真由美は戸惑った表情を浮かべ、その後ろに立った真由美はにやにやと笑っている。

 そう、それは鏡に映った今の二人の姿だった。

「ね、ほら、これでもう気持ち悪くないでしょう。あなたはすっかりあたしになったんだから」

「気持ち悪くないって……え?」

(声が……俺の声が真由美の声に変わっている)

 鏡の前に立ち竦んで、芳樹はぶるぶると興奮に体を震わせていた。

(受付嬢の制服を着た、この真由美が……おれ)

「ふふふ、素敵よ、芳樹ちゃん、いいえ、真由美ちゃん」

 後ろから真由美が胸に手を回す。

 あううっ。

 スカートの中に、そしてショーツの中に真由美の指が滑り込む。

 くちゅ、くちゅ。

 真由美がショーツの中で指を動かすと、すでにじわりと湿り気を帯びていた芳樹のソコが段々と口を開き始めた。それにつれて芳樹の中から何かがこみ上げてくる。

「この感じ、これ……なに……あ……う……うう、ううん」

 ぐちゅ、ぐちゅ

「あ……あ……いや……く、くあ、あ、ああん」






「はぁはぁ、はぁはぁ、真由美、お前何を考えているんだ」

 すっかり真由美と同じ姿に変えられ、真由美の指でいかされてしまった芳樹は、
ぐっしょり濡らしてしまったショーツも顕わに、股を広げたまま座り込んでいた。

「何言ってるの、真由美はあなたでしょう、真由美ちゃん」

「え?」

「あたしは真由美って言ってみなさい」

「真由美、お前なにを……」

「あなたは真由美なの、受付嬢の美保真由美なのよ」

「はぁはぁはぁ、違う、俺は、俺は松原芳樹。真由美、もういい加減にしてくれ」

「ふふふ、あなたのどこが芳樹だっていうの。かわいい声をした受付嬢の制服が良く似合う
女の子。どこから見てもあなたは美保真由美じゃない」

「……いや、違う、真由美、もう止めようよ。おい、これってどうすれば剥がせるんだ」

 俺は真由美のマスクを剥がそうとした。しかしどこにも継ぎ目がない。

「ふふふふ、さあってと」

「おい、真由美、頼む、もういいから元に戻してくれよ」

「いやよ」

「え?」

「いやだって言ったの」

「いやって、お前……」

「素敵よ、受付嬢の真由美ちゃん。ふふふ、あっはっははは」

「真由美、どうしたんだ」

「あっはははは、おっかしい」

「真由美……」

「言ったでしょう、あたしをあげるって」

「いやそれはえっちしようってことじゃ」

「あたし、そんなこと言ったっけ?」

「え? あ、いや……」

「あたしをあげる。その代わりに、あなたをもらうわ。ネックレスじゃなくてあなたをね」

 いきなり恥ずかしげも無く服を脱ぎ始める真由美。

 そしてすっかり裸になってしまった真由美は、ドレッサーの中から箱を取り出した。

 そしてそのフタを開ける。

 取り出したのは手袋だった。大きめの男物のような手袋をその手につける真由美。

 途端に真由美の手が大きくごつごつしたものに変わる。

「ふふふふ」

「え? それって」

「まあ見てなさい」

 真由美はそう言いながら、箱の中からベージュ色の上着を、タイツを取り出して次々と
着込んで行く。

 真由美の背がぐぐっと伸びていく。肩幅が広がりがっちりとしたものになっていく。

 そして、その股間には男のモノがぶらりと垂れ下がっていた。

「真由美……お前……その姿」

「くっくっくっ、はっはっはっ。さてと」

 すっかり顔以外男の体になってしまった真由美は、楽しそうに箱の中からマスクを取り出した。

「そ、それって、まさか……」

 呻くように話しかける芳樹に構わずマスクを被る真由美。

 鏡に向かってマスクを頭にフィットさせるようにもぞもぞと手を動かすと、真由美は再び芳樹のほうを振り向いた。

 だがそこにいるのは最早真由美ではなかった。

「あっはははは」

 そう、真由美の姿になった芳樹の前で、笑い声を上げながら立っているのは、
それは……。

「お、俺」

「どうだい、真由美ちゃん」

 真由美の声はすっかり芳樹のものに変わっている。

 裸の芳樹が、真由美の顔で驚きの表情を浮かべている芳樹の前でにやりと笑った。

「真由美、その姿……どういうことだ」

「どういうこと? この俺が松原芳樹だっていうことだよ。これはある場所でお前の姿を
コピーして作ってもらったものさ。これを着た俺はもう誰が見ても松原芳樹って訳。

 そしてお前に着せたのは、真由美の姿をコピーして作ってもらったものさ。
それを全部着てしまったお前は、もう美保真由美そのものなんだよ」

「そんな、駄目だ、脱がせろ」

 芳樹は慌てて自分の体をまさぐった。だが彼の肌のどこにも継ぎ目はない。
最早どこを触っても、すべすべとした真由美の肌でしかなかった。

「ふっふっふ」

「脱げない、どうするんだ」

「こつがあるんだよ。でもそれを教える訳にはいかないな。
だって松原芳樹は一人で充分だからね。お前はもうこれからずっと美保真由美さ。
会社のしがない受付嬢で、この松原芳樹の恋人のな」

「そ、そんな、真由美……」

「あ、さっきえっちしたいって言ってたな。よし、じゃあこれからたっぷり楽しませてあげるぜ」

 芳樹の顔で、欲望に満ちた目でにやりと笑う真由美。

 そしてその股間のモノが徐々にそそり立ってくる。

「ひっ!」

 腰が抜けたようになって立ち上がれない芳樹の両脚の間に強引に体を割り込ませ、
芳樹の姿をした真由美は芳樹に圧し掛かってきた。
 そして手早く濡れたショーツを引き剥がすと、未だに濡れてぱっくり開いたままの芳樹の
股間に、己の硬くそそり立ったモノを押し当ててくる。

 華奢になった芳樹の肩に、真由美のごつい手がかかる。

「かわいいよ、真由美ちゃん」

「やめろ、真由美、やめろ〜。どうしたんだお前、どうして、こんなこと」

「どうして? いいじゃないか、これが俺からお前へのクリスマスプレゼントということ。
あっはっは」

「はうっ」

 圧し掛かった真由美の、今や真由美の持ち物となった芳樹のモノが、ずるりと芳樹の中に侵入してきた。

「や、やめろぉ…あ……あ……あうう」

 真由美の動かす腰の動きに、体を仰け反らせる芳樹。

「俺がたっぷりと楽しませてあげるよ。真由美ちゃん」 

「いやだ、俺が俺に……抜け、抜いて……あうう」

「うう、いい気持ちだ、やっぱり男のほうが……うっうっ」

「あ……あ……あうっ……あうっ……あひ、あひぃ」
 
「うっ、うっ、うっ」

「う……う……うん……あん……あん……あああ……うあっ……ああああ〜〜」






「はぁはぁはぁ、はぁはぁはぁ、お前、どうしてこんなことを……。
そうだよ、お前は本当に真由美……なのか? 
さっき変なことを言っていたな。真由美の姿をコピーした? いったいどういうことだ」

 自分の姿になった真由美に犯され、その股間から真由美が放出したばかりの
白濁した液をたらたらと漏らしながら、芳樹はふと感じた疑念をぶつけていた。

 だがもう一人の芳樹は、その言葉を無視して芳樹が脱ぎ捨てていた服を拾い上げては
一つ一つ着込んでいた。それを肩で息をしながら睨みつける芳樹。
いや、その姿は頬をぽっと桜色に染め、涙を滲ませた受付嬢姿の真由美にしか見えない。

「真由美? ふふん、真由美か。ふふふ、そろそろ美保真由美に成りすますのにも、
受付嬢のふりをするのにも飽きてきたところなんでな。だからもうお前にあげるよ。
今度はエリートサラリーマンってのをやってみたいしな」

「なにい? じゃあお前は・・」

「俺は真由美じゃないよ。彼女の姿をもらって、いや奪ってやったんだよ。
誰も気が付かなかったが、俺が真由美に成りすましていたんだよ。
ふふふふ、彼女のふりをして暮らすってのも、なかなか面白かったぜ」

 服を着終えて、手を広げて己の体を芳樹に見せ付ける偽の芳樹。

「誰だ、お前、誰なんだ」

「さあてな、まあお前のことをよく知ってる男さ。じゃああばよ。
明日から松原芳樹としての暮らしを楽しませてもらうぜ」

「待て! 真由美は、真由美は何処なんだ」

「真由美ちゃんかい。真由美ちゃんはお前だろう」

「そうじゃない、本物の真由美だ」

 ドアを半ば開いたままちらりと振り返る、偽の芳樹。

「ふっ、押入れを開けてみるんだな。彼女には別の姿になってもらっているよ。

 じゃあな。また明日会社で会おうぜ、真由美ちゃん。ちゃんと受付嬢をやるんだぞ。
あっははは」

 笑い声を残して出て行った偽の芳樹の後でガチャリと閉じられたドア。
芳樹はただそれを呆然と見ているしかなかった。





「はっ! 押入れの中って、いったい……」

 気持ちの悪さをもたらす股間のべたつきを拭き取ることも、ショーツを穿くことも忘れて、
芳樹は押入れに駆け寄ると扉を開けた。

「ん〜ん〜」

 そこには猿轡をされ、両手両足を縛られた、3歳くらいの女の子が寝転がされている。

 その傍らには、飲み残された黒い液体が入ったペットボトルが転がっていた。

「子供? ま、まさかこの子が真由美? そんな馬鹿な」

 だが芳樹の姿を見て、ぽたぽたと涙をこぼす女の子は、その瞳で何かを訴えようと
していた。

「真由美、お前は真由美なのか?」

 芳樹に猿轡を外さた女の子は、こくりと頷き何かを言おうとしたが、涙まじりで言葉に
ならない。

「あたし、あたし……」






 真由美になった芳樹と3歳の幼女となってしまった真由美、それから二人の奇妙な
共同生活が始まった。

 真由美に女性としての仕草や同僚のこと、仕事のことなどを教わる芳樹。

 そして翌日、会社の受付に座り、入ってくる客に応対する、受付嬢の制服に身を包んだ
真由美の姿があった。

 勿論中身は芳樹だ。

 だがその美しい姿はどこから見ても美保真由美であり、彼女の中身が芳樹だなどど
思う者は誰もいない。

 客の応対をしながら時折ため息をつく芳樹に、横に座った同僚の受付嬢が心配そうに
話しかける。

「大丈夫? 彼と何かあったの?」

「え? いや……あ、いいえ」

「そお、真由美、今日は疲れてるんじゃないの。昨日の彼とのえっちが激しかったのかな」

「そ、そんなこと」

「ふふふ、冗談冗談。あ、噂をすれば何とやら、ほら、真由美の彼氏が来たわよ」

 そう、小声で話す二人に向かって、エレベーターから下りてきた芳樹が、いや、芳樹の姿を
奪った謎の男が、爽やかに笑いながら近寄ってきた。

「げっ、お、お前……」

「やっ、真由美ちゃん、どうだい受付嬢のお仕事は。しっかりやるんだぞ。あっはははは」








(了)


                                     2004年12月20日脱稿



 後書き

 この作品、クリスマスイブスペシャルで書いてみた作品です。クリスマスイブに恋人から送られたプレゼント。でもそれはとんでもないプレゼントだった。そしてその恋人も実は……というアイデアで書き始めてみたものですが、如何でしたでしょうか。
 ええっと、それからこのお話は黒のゼリージュースも使っていますが、ほとんどおまけのようなもので、大部分は皮もの、それも分割加工された皮を使って徐々に変身させられていくというお話です。
 クリスマスイブの何日か前に、謎の男によって、黒のゼリージュースを飲まされてしまった真由美。彼女の意識は幼女の体に移され、動けないようにされてしまう。そして残された真由美の皮を着込んだ謎の男は、そのまま真由美に成りすましていたという訳です。真由美の姿で幼女になった真由美を弄んだり、受付嬢を楽しんだり。でも数日で真由美に成りすますことに飽きてしまった男は、今度は真由美の恋人でエリートサラリーマンの芳樹に目をつけ、真由美と芳樹の皮のコピーを作り、それを使って彼と入れ替わる機会を伺っていたという訳です。それも芳樹をも弄びながら。そしてそれが実行されたのが、この聖夜の夜だったということですね。物語の中でこの辺はきちんと説明できてないといけないのですが、全部書くと話がさらに長くなりそうなので、この物語に至る流れをここで簡単に説明させて頂きました。
 ということで、お読み頂きました皆様、どうもありがとうございました。

 それでは来年も「TS解体新書」をよろしくお願いします。

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