ここに哀れな男が一人いた。 彼は自室に戻るといつも嘆き悲しむのだった。 「真美ちゃん、会いたいよう」 真美ちゃんとは、彼が中学時代に憧れていたアイドルの胡桃沢真美のことだが、あるコンサートを最後にぷっつり姿をくらましてしまったのだ。 個人的に真美と親しかった彼は、彼女がなぜ姿を見せなくなったか知っていたし、理解もしていたが、心の奥底では彼女を切望していたのだ。 高校に入った後ほんの1時期、とある事故で彼女と再会することができたが、再度の別れはあまりにも突然だったため、彼はその思いをなおさら募らせることになってしまった。 男性としては華奢な彼は、彼女が復帰した時に映画撮影で彼女のスタントマンとなり、自分と真美は体型が似ていることを知った。 そのため、彼女がいなくなった後、コミケットや後楽園でアイドルであった彼女のコスプレにいそしんだ。 いつしか彼の心の中には彼女になりたいという願望が芽生えたのかもしれなかった。しかし、所詮男である彼の思いは決して満たされることはなかった。 そんなある日、彼は見つけてしまった。彼の思いを永遠に果たす方法を。 魔法の・・・ 作:toshi9 「俊雄、素敵なマンションでしょ。いつでも遊びに来てね」 彼は都内の大学に入学し、2年生になっていた。そして今年彼のガールフレンド、幼なじみの森澤優子も都内の私立高校に入学した。 彼らの家は都心から少し離れていたので、彼はアパート暮らしであったし、優子も彼のアパートの近くにマンションを借りることになったのだ。 彼女の入学式も終わり、明日から高校生活が始まる。2匹の猫が彼女の同居人だ。 「じゃあ、最後に乾杯だ」 彼は二人だけのパーティに持ってきたコーラを取り出し、グラスに開けた。彼女には見えていなかったが、それはまるでゼリーのようにドロリと容器から出てくるではないか。 「「かんぱーい」」 彼は自分はグラスにちょっと口を付けただけで、優子が飲むのをじっと見つめていた。 「何?これ、何か変わってるね。でもおいしい」 やがて彼女は体を突然ビクッと震わせたかと思うとその場に倒れ込んだ。意識がなくなったようだ。 「優子、おい優子」 彼は彼女を起こそうとするが、やがてにやりと笑ったかと思うとぽつりと呟いた。 「優子が悪いんだ。あんなに頼んだのに、『優は優だよ』だなんて」 やがて優子の体は、まるで空気が抜けるように萎み始めた。 「話は本当みたいだな。あのショップの親父素直に売ればよいものを、危険だから一般の方には売れませんだなんて。でも持ち出して正解だったようだな」 優子の体は空気の入っていないビニール人形のようにぺったんこになってしまった。 彼はそこから服を丁寧に脱がせ始めた。 ハイネックのセータ−、デニム地のミニスカート、白のハイソックス、お揃いの淡いピンクのブラジャーとショーツとすっかり脱がせると、お腹のあたりがモゾモゾと何かうごめいている。 彼は持ってきたボストンバックの中から変な形のナイフを取り出すと、彼女のお腹をサッと縦に切り裂いた。 すると血は一滴たりとも出ることは無く、代わりに15cm位の大きさのスライムがドロリと出てくる。 それを丁寧に皿に受けると、猫の内の一匹に差し出した。 「さあ、ポジ、お食べ」 猫がおいしそうに舐めていく。やがて全部食べ終わったその猫はブルブルっと体を震わせると左右を見回し始めた。そして彼を見つけると驚いたような表情で近寄ってきた。 「みゅー?」 「さあ、そこで見ているんだよ、優子」 彼は自分も裸になると、残された優子の皮を広げ、切り裂いたお腹の部分からまるでウェットスーツを着込むかのようにゆっくりと右足、左足と差し入れ皮を引き上げていった。 右手、左手と差し込んで首から下をすっかり着込むと、彼女よりも10cm程背が高いにもかかわらず皮は破れることなくピーンと伸び、彼の体に密着していった。 最後に頭の部分を差し入れる。ちょっと苦しげに両手で頭を抑え少し左右にずらすような仕草をすると、やがて無表情だった優子の顔は表情を取り戻し始めた。しかしにやりと唇を歪めるその笑い顔は、以前の優子の笑顔とはまるで違うものだ。 やがてすっかり優子の皮を着込み終えた彼の体は徐々に形を変え始めた。 切り裂いた部分がやがてすっかり無くなり、背はどんどん縮み始め150cm程になってしまった。腰は絞れ、胸とお尻は大きく膨らんでいく。 そこにいるのはもう誰が見ても裸の優子そのものだ。 「やった。これで真美ちゃんに会える。さあ、事務所にあったアレを着てみよう」 優子の姿になった彼は、ボストンバッグから服を出し始めた。それは真美のアイドル時代のステージ衣装とカツラだった。 優子のブラジャーとショーツを身に付けると、ひらひらしたノースリーブのミニドレスを纏う。 優子の化粧台で化粧を施す。カツラを被ってブラッシングすると、そこには紛れもないアイドル胡桃沢真美がいた。 「ああ、真美ちゃん、会いたかったよお。でもやっと会えたね」 彼は鏡に向かって真美の表情をしてみる。笑った顔、ちょっと拗ねた顔、上目使いにおねだりする顔……そして次に様々なポーズを取ってみる。 マイクを持つ仕草で完璧な真美の振りで歌い始める。声も真美そのものだ。 「小窓の夕日カカトに浴びながら♪〜」 1曲歌い終えると、彼は両手で自分の体を抱きしめた。 「真美ちゃん、ああ真美ちゃん、ボクは真美ちゃんなんだ。もう離さないぞ」 彼は望んでいたものを手にいいれた。しかし、本当に大切なものを永遠に失ってしまった。 かたわらでは猫になってしまった優子がいつまでも悲しげに、寂しげに泣き続けていた。 「にゃ〜ん にゃ〜ん ……」 (了) 2002年7月15日脱稿 (2008年8月18日修正) 後書き satoさん、ホームページ開設おめでとうございます。お祝いにしては未熟作かもしれませんが、寄稿いたします。ちょっとダークなものを書いてみたいと思っていたので、題材は古いですがアイデアを会社でまとめて、家で一気に書いてしまいました。ちょっと変な部分もあるかもしれませんが、ご勘弁。 それでは、これからも活動がんばってください。 |