黒の喪失(後編)
 作:toshi9


「ふふふ、すごいよね、あのジュースの力は。直接飲むより効果は遅いけれど、振りかけるだけでこんなことができるんだ」
「あ、そうなのね、あれのせいなんだ、コーラみたいなゼリーみたいな変なジュースの。それじゃ、あれを飲めば元に戻れるのね。早く飲ませてよ」
 あたしはアタシに掴みかかると、無我夢中でアタシの首を絞めていた。
「痛い、痛い、やめてよ、やめて」
「え? あ……」
 アタシの甲高い悲鳴に、あたしは慌ててアタシの首を締めていた手を離した。
「こほっ、こほっ、全くいきなり首を絞めるなんて。僕を殺す気かい?」
「え? そんなこと……」
「まあいいさ、自分に殺されちゃかなわないし……そうだな、元に戻せなくもないかな」
「え? それじゃあたしの体に戻れるのね」
「まあそうかな。でもあれを飲むだけじゃだめなんだよ」
「どうすればいいの?」
「ふふふ……そうだ、ねえ、場所を変えないかい?」
「え?」
「ホテル行こう、ホテル、ねえおじさん、アタシをホテルに連れてって」
 アタシは急に甘えたような声を出す。
「あたしの真似しないで! あたしのことおじさんなんて呼ばないで。それに、あたしは男の人に『ホテルに連れてって』なんて絶対に言わない」
「そんなのどうでもいいじゃない、行こうよ、ホテル行こうよぉ」
 アタシは駄々をこねる子供のようにあたしの腕をつかむ。あたしの声だけど、その口調はさっきのおじさんそのものだ。
「……ホテルに行って、何をしようって言うのよ」
「僕たちは男と女じゃない、ホテルでやることと言ったら決まってるでしょう。といっても僕がおじさんに買われた女の子で、君は僕を買ったおじさんってことになるけどね」
「そんな、逆じゃないよ」
「ホテルに入る僕たちを周りから見たらそうとしか思わないさ。とにかく僕はこの体の、女の子の、君の快感を早く味わってみたいんだ。せっかくなんだ、もっと楽しもうよ。それに男の快感だってなかなか気持ちいいよ」
「いや、そんなの嫌、この変態!」
「そっか、それじゃ君は一生僕の、安田康太の姿でいるんだね、お・じ・さ・ん」
 アタシはそう言ってにやっと笑った。
 あたしがこんな嫌な笑い顔を浮かべるなんて、いやっ。
「わ、わかった、言う通りにする。だからあたしを元に戻して」
「やっとわかったかい。それじゃ早くここを出てホテルに行こう。僕は着替えてくるから君の着替えが入ってるロッカーのナンバーと鍵の開け方を教えて。ロッカールームはあのマジックミラーの向こうだよね」
「ロッカーナンバーは011番、暗証番号で開くわ。暗証番号は〇〇〇〇」
「わかった。うわぁ、僕が女子校生の制服に着替えるんだ、楽しみだな、どきどきするな。君はここから僕の着替える様子でも見ているんだね。オナニーしても構わないからさ、きゃはは」
 するか、そんなもん
 あたしの心中を知ってか知らずかアタシはそう言うとスキップしながら部屋を出て行った。それがあたしの姿をしていても中身がおじさんだとわかっていると、ほんと頭が痛くなってくる。

 マジックミラーを見ていると、すぐに鏡の向こうの部屋にアタシが入ってきた。キョロキョロと部屋を見回すと、011番のロッカーに向かって……いかなかった。
 たくさんの衣装がかかっているクローゼットに気がつくと、アタシはそっちに向かっていったのだ。
「うわぁ、いろんな衣装が置いてあるんだ。ヤミちゃんの黒いゴスロリもいいけど、スクール水着にマイクロビキニ、OLスーツに婦警の制服、チャイナドレスもあるよ」
 アタシはその中からスクール水着を手に取ると、マジックミラーの前に寄ってきて体に当てた。
「これも似合いそうだよね。相本奈々、スクール水着に着替えまーす」
 アタシはそう宣言して鏡の前で背中のファスナーを下ろしてゴスロリのワンピースを脱ぐと、ピンクのブラジャーとショーツだけの姿になった。鏡の向こうに下着姿で立ったアタシは、改めてこちらから見てもスタイルがいい。

「ふふふ、ほんとに奈々ちゃんはスタイルが良いよなあ、それに胸も大きいし。ちょっと揉んでみようかな」
 鏡をうっとりした目で眺めていたアタシは、こちら側からああたしが見ているのを意識しているような口調でつぶやくと、自分の胸を揉みはじめた。
「ああん、変な感じ」
 変な感じはこっちだ。やめてよバカ。
 アタシの表情が段々と悩まし気に変化していく。何度も胸を揉んで、そのうちにブラをめくりあげる。顕わになった乳首をアタシはころころと転がすように愛撫しはじめた。
「ああ、気持ちいいよ、あ、ああん」
 アタシが嘆息を漏らす。あたしはその行為を鏡越しに見ているしかなかった。アタシが段々顔を赤くほてらせていくのがわかる。
「やめて、もうやめてぇ」
 でも鏡の向こうにあたしの声は届かない。その一方で、あたしの股間はスピーカーから聞こえてくるアタシの悶える声に反応するかのように、むくむくと大きくなり始めていた。
「な、なによこれ。アタシがあんな恥ずかしい事をしているのを見て、どうして……違う、違うよ」
 口ではそう言いながら、あたしは無意識にもっこり膨らんだ自分の股間をさすっていた。
「はうっ、なにこれ、なんか、気持ち、いい、はぁはぁ」
 ズボン越しに股間から初めての快感が伝わってくる。それは今まであたしが経験したことのない感覚だった。あたしはマジックミラーの向こうのアタシの痴態を見ながら股間の膨らみをさすり続けた。
 だが、アタシは突然胸の愛撫を止める。先輩のさゆりさんが鏡の向こうの部屋に入ってきたのだ。

「奈々ちゃん、あなた、なにやってるの」
「え? これ? あ、あの、鏡の向こうのおじさんにサービス」
「ふ〜ん? まだあっちにいるんだ」
 さゆりさんはそう言ってこっちを見ると、ちらりと侮蔑の表情を浮かべながら部屋を出て行ってしまった。まあ自分の客じゃないんだから見せ損だもんね。
「さてと、そろそろ着替えようかな、制服にお着替えか、ドキドキするな」
 アタシはようやく鏡の前から離れると、あたしが教えた011番のロッカーの扉を開いて中から制服を取り出す。
「うわぁ、霊南女子、名門女子校の制服じゃないか。これが僕のものなんだ、着ていいんだよね、はぁはぁ」
 アタシは興奮しながらあたしの制服を身に着け始めた。鼻の穴を広げてはぁはぁと荒い息をしている。
 あたしの顔であんな表情しているなんて、何か恥ずかしいよ。
 アタシは、ブラウス、ジャンパースカート、リボンタイ、そしてボレロの上着とひとつづつ着ていく。
 アタシがあたしの制服を着ていく、それをこっちから見ているのは何だか不思議な感じ。あたしの股間のモノは大きくなってピクピクとズボンの中で疼いたままだった。あたしも制服を着ていくアタシの姿を見ながら興奮しているのだ。無意識に再び股間をさすり続けている自分に気がついてはっとする。

「どうしたんだろう、自分の着替えを見てどうしてこんな変な気持ちに……ああ、気持ちいい、なんか、ここをさわっていると何か出てきそう、おしっこじゃない何か、だめ、もう我慢できない。出したいよう」
 あたしはもどかしくズボンのジッパーを下ろして股間のものを取り出した。いつもなら絶対に触ろうなんて思わない男の人の太くて長いもの。それをあたしは右手で握り締めてさすり始めた。
「ああん、なんかほんと気持ちいい、だめ、ああ、もう出でちゃう」
 股間のモノが一段と硬さを増したような気がした。興奮に息がはぁはぁと粗くなってくる。
「これ、あと何回かこすったら、いっちゃいそう、ああん」
 でも興奮が頂点に達する前に、部屋のドアがガチャリと開いた。マジックミラーに向かっていたあたしは慌てて股間のモノをズボンにしまった。
「おっと、やっぱりお楽しみだったんだね、どうだった? 僕のお着替えショーは」
 制服姿のアタシは、振り向いたあたしのズボンの股間に視線を移す。
「ぷぷぷっ、そんなにテント張っちゃって、興奮してくれたみたいだね。でもなんて情けない恰好なんだ。そうか、その様子だとまだイケてないようだね……ふふふ」
 バツが悪いことこの上ない。でもあたしの股間はあたしの意志に反してビンビンと膨張したままだった。胸の中はもやもやとした満たされない欲望で充満している。

「‥‥入れたい、入れてみたい、アタシのアソコに」
 あたしはアタシの制服のプリーツスカートの裾をじっと見つめていた。艶やかな太もも、そしてそれが交わったスカートの奥を想像する。ピンクのパンティ、そしてその中にある大事なアソコ、アソコにこれを入れてみたい。突っ込んで味わってみたい、手でこするよりも気持ちいいんだろうな……って、え? あたし、今なにを。
「どうしたの? 息が粗いよ」
 アタシはにやにやと笑いながらあたしを見下ろしている。イク寸前で止められたせいか、はぁはぁと荒い息が止まらない。
「そんなに欲望丸出しの顔しちゃって。僕も自分でオナニーしていた時はそんな顔だったのかな、おーやだやだ」
「そんなこと……」
「そんな表情しててそんなテント張った恰好でそうじゃないって言いたいのかい? まあいいか、続きはホテルでしようよ。この店の清算しておいてね。出口で待ってるから」
「なんであたしが清算するのよ」
「だって今の君はお客としてここに来た安田康太なんだよ。ポケットに僕の財布も入ってるだろう。ちゃんと店を出る前に料金を支払わないとダメなんだよ、ね、おじさん」
「いやっ、おじさんなんて。あ、ほんとだ」
 確かにズボンの尻ポケットには長財布が入っていた。チャックが開くようになったのと同じように、ポケットの中身を動かせるようになっていた。

 あたしは言われた通り清算を済ませると店を出た。出口ではアタシが言い寄ってる大学生らしい男をシッシッとあしらっている。
「やっぱり奈々ちゃんは最高だね、後から後から男が寄ってくる。さっきぶくぶくの姿で街に出た時とは大違いだ。それじゃ、行こうか」
 そう言って、アタシはあたしの腕に自分の手を回す。
「ちょ、ちょっと、やめてよ」
「ほら、アタシみたいな美少女に腕を回されて、皆が注目しているよ。いや、あれは羨ましいって目だな」
 すれ違う男たちは、アタシを見ながら振り返り、そしてあたしを見て、「なんで」って合点のいかない表情を見せる。
 アタシに向けられるのはさっきまであたしに向けられていた表情。それがおじさんに奪われたのだと思うと悔しかった。

 アタシに引っ張られるように街中を通り抜けると、あたしたちは1軒のホテルの前に立った。もちろんそれは大きなシティホテルではなく、えっち専用の小さなホテル。
「このホテルでいいか、うぁわ、ドキドキするな。男の君が先に入るんだよ、受付頼むね。ああ、アタシは今からここでこの人とエッチするのか……なんてね」
 アタシはすっかりホテルでエッチする前の女子校生気分に浸っているようだ。くそ。
 そのホテルは無人の自動受付だった。あたしが受け付けを済ませると、アタシはあたしを引っ張って2階の一室に入った。

「さてと、それじゃエッチしようか」
「エッチするって、どうするのよ」
「うーん、まず言葉遣い、気持ち悪いから体に合わせた言葉使いでいこうよ。アタシは女子校生の奈々でーす、あなたは?」
「あたしは……」
「あたしじゃないでしょう、『僕は安田康太だ』さあ、言ってみて、そしたらご褒美あげるから」
「ご褒美……それじゃ元に戻してくれる?」
 アタシは答えずに、にやにやと笑っているばかりだ。あたしに台詞を言えと、その顔が言っている。
 あたしは気持ち悪いのを我慢してその言葉を口に出した。
「僕は安田康太だ」
「よくできました。それじゃ、ご褒美」
 アタシがあたしの口を唇で塞ぐ。
「んーんー」
「ぷふぁあ、いい気持ち、キスするってこんなに体じゅうで感じるんだ、舌と舌が触れるだけで快感が脳天に突き抜けるよう。でも初めてのキスの相手が自分自身だなんて、笑える。きゃははは」
 口に右手を当てて、お嬢様のような仕草でアタシが笑う。中身があのおじさんだとは思えないような女の子っぽい仕草だ。変態おやじなのに。

「何がそんなに面白いのよ、もう、こんなのがご褒美なんて冗談じゃないよ。早く元に戻して」
「まあまあ、お互い男と女じゃない、もっと楽しもうよ。勿論アタシが女で君は男だけどね」
「そ、それは」
「ここは男と女が愛し合うホテルだろう。僕はね、女子校生になって僕自身に犯されてみたかったんだ、それもとびきりの美少女になって。ずっと妄想していた夢が今日こそ叶えられるんだ。おじさん、さあアタシを犯して」
 目の前のアタシは、そう言って制服のスカートをたくし上げた。
 こいつ、ほんっとに変態だ。
 あんなバイトをしていても、あたしが男の人の前でスカートをたくし上げてパンツを見せるなんてそんなことぜったいにしない。でも目の前のアタシは平気でそれをやってる。ほんっと、頭がくらくらしてくる。
「だめなの?」
「だめに決まってるじゃないよ」
「しょうがないなぁ。それじゃ、アタシがその気にさせてあげる。これも一度やってみたかったんだ」
 アタシはあたしに近づくと、いきなりズボンのジッパーを下ろした。

「な、何を」
「わかってるでしょう、男はこうすると喜ぶのよ」
 アタシはしゃがみこんでズボンの中からペニスを取り出すと、右手で軽くしごいた。
「うっ」
「どう、自分でするよりも、ずっと気持ちいいでしょう」
 そう言いながら、アタシは右手をすっすっすっと前後に動かす。気持ちいい!
「あ、ああん」
 体の中でもやもやと残っていた疼きが再び吹き上がる。股間のモノがみるみる硬く大きくなっていくのが自分でもわかった。
「も、もっと……して」
 あたしは思わずそんな言葉を漏らしていた。理性が飛んじゃいそう、この快感、だめ。
「僕のペニスを僕が美少女として、この白くてか細い手でしごくなんてね。でもほんとにやってみたかったのはこっちさ」

 かぷっ

 アタシは左手で髪をかき上げると、あたしの股間のものを口に含んでぺろぺろと舌先を使い始めた。
「はうっ、ちょ、ちょっとやめて、あたしがそんなこと舐めるなんて、きたない」
 股間に顔を埋めているアタシが顔を上げる。
「気持ちいいでしょう、女の子になったらやってみたかったんだ、どうだい、美少女にフェラチオされる気分は。もっと気持ちよくしてあげる、お・じ・さん」
 アタシはそう言って再び大きく膨らみ始めた股間のモノを再び口に含んだ。
「ちょ、ちょっと、アタシがそんな淫乱女みたいなこと、やめて、あ、あうう」
 アタシがあたしのものを口に含んだまま、あたしを上目使いで見上げる。目の中を潤ませた切な気な表情で。
 ぞくっ
「なによこの気持ち。アタシを見ているとなんか押し倒して、股を両手で押し開いて……犯してみたい。この子を僕のもので……違う、あたしがアタシを犯すなんて、あたしって何考えているのよ」

 アタシは口に含んだあたしのものに舌を絡めてなめ続ける。口の奥まで飲み込んでは外に出し、そしてまた舌を絡みつかせる。
「あ、あん、だめ、そんなの、だめ、やだ、いっちゃう」
「どお、おじさんも段々その気になってきたでしょう?」
 アタシが女言葉であたしを誘う。その切なそうな目を見ていると、興奮がさらに高まっていく。
 股間から出る、おしっこじゃない何か、何かが出てくるよ。もうだめ。
 でももう少しであたしがいきそうになる寸前、アタシは再び口を離した。

「あ、やめちゃうの」
 一瞬不満が頭をよぎり、思わず口に出てしまった。あたしは自分の言ってることに気がついてはっと口を押える。
「ふふふ、これだけやったらもういいだろう。うふふ、手の中でもない、口の中でもなくって、アタシのこの体を犯したいんでしょう、ほら、もう我慢できないでしょう、ここにそのビンビンになったものを入れたいんでしょう、いいのよ入れて」
 アタシはそう言って再びスカートをまくり上げると、ショーツをさらした。ピンク色の生地の中心が濡れている。
「自分のペニスを口に含んで舌を使っていたら何だかいい気持ちになってきて、下のほうがじゅんと湿ってきたのがわかったよ。早くこれをここに入れてみたいんだ。ねえおじさん、アタシの制服を脱がせて、そしてパンツをおろして」
 あたしにはその言葉に抗う気力はなかった。言われるがままに手を伸ばすと、震える手でアタシの着ている制服の上着を脱がせ、スカートのホックを外す。はらりとスタートが床に落ちるとショーツが再び目の前に晒される。はぁはぁと息が粗くなっていくのがわかった。
アタシはそんなあたしを見透かすようにリボンタイを外してブラウスを脱ぐと、ピンクの下着だけの姿になった。
「さあ、おじさんの手でパンツおろして、そしてアタシを押し倒して」
あたしはショーツをつかむと、ゆっくりとおろした。あたしの目の前にアタシのアソコが顕わになる。濡れたそこは、少し開いてピンクの襞襞が覗いていた。
「さあ、アタシを犯して、ここに入れて、お・じ・さん」
 あたしは無我夢中でアタシを押し倒した。もう何が何だかわからない。
 両脚の間に体を割り込ませてのしかかると、口の開いた股間のアソコに自分の股間のモノと押し当てて一気に力を入れた。
 硬くなったあたしのものは、ずぶずぶとその中に沈み込んでいく。

「あ、あん、入ってくる、硬いのが、こんなに体の奥に硬いのが、ああ、僕の中に入って、変な感じ、でも、気持ちいい、あ、ああん」
 あたしに押し倒されたアタシが嬌声を上げる。
「もっと、もっと突いて、もっと奥に。これが女の……胸も揉んで、キスして」
 アタシに促されるまでもなく、あたしは夢中で腰を使った。アタシにキスしていた。ブラジャーをずり上げると顕わになった胸を揉んだ。パンパンに張り詰めたあたしのペニスがアタシの中に何度も潜り込んでは出、出ては入っていく。
 ヌルヌルの粘液と絡みつくアタシの肉襞に刺激されて、例えようもなく気持ち良い。

「いいよ、とってもいい気持ち‥いい」
「ああん、いい、こんな感じ、ああ、い、いく、いくう」
 あたしの太った体に両脚を絡めてアタシも腰を振っていた。あたしも腰を突き動かした。
 そして……

 あたしは自分の体の中に溜まりに溜まったマグマのような何かが勢いよく股間から出ていくのを感じた。あたしはアタシの股間に自分の腰を強く押し込み、どくどくとそれをアタシの中に注ぎ込んでいた。

「ああああああ」
 体の中の全てを股間から吐き出したような感じだった。あたしはアタシの体に覆いかぶさるように倒れ込み、そして意識を失った。


……う、うーん

「気がついた? おじさん」
「え? ここは」
「もちろん、まだホテルの中よ」
 シャワーを浴びたのだろうか、濡れた髪でバスタオルを巻いたアタシが目の前に座っていた。
「まだゆっくりと快感を反芻していたかったけど、いきなり妊娠したくないから、中を洗ってきたんだ。今日は大丈夫なのかな」
「うん、安全日だけど……って、そうじゃない。もういいでしょう、満足したんでしょう。あたしを元に戻してよ、もうこんなのいや!」
「ほら、言葉遣いが女言葉になってるよ」
「ぼ、僕を元に戻すんだ」
「アタシの名前はなんだっけ?」
「……元に戻してくれよ、奈々ちゃん」
「はい、よくできました。でもね、もうアタシたちは元に戻れないんだよ、おじさん」
「何ですって…なんだと!?」
「一度この皮を着たらそのまんま、何したって無駄」
「そんな、だましたの?」
「男の快感を味わえて良かったでしょう。君は安田康太として、これから何度でもそれが味わえるんだよ」
「そんな、いやっ、何とかしなさいよ……してくれ。そうだ、あのジュースを飲んだら元に戻れるんだろう、アレを飲ませてくれ」
「そうね〜。わかったわ、じゃあ、これをあげる」
 アタシはバッグから新しい1本の黒いジュースを取り出した。
「もったいないけど、あげるわ。飲んでみて」
 あたしはひったくるようにそれを受け取ると、一気に飲んだ。ごくごくと。
 戻れる、これで元に戻れるんだ……あ、あれ? 頭がぼーっとして……これ……違う……


「結局皮が残っちゃったな」
 アタシは元の自分の皮をくるくると巻くとバッグにしまい込んだ。
「このゼリーはどっしようかな」
 アタシの目の前にはグラスに入れられたゼリーが残っている。ピンク色のゼリーが。
「んー、やっぱり取っておこうっと」
 アタシは安田康太の皮の中から出てきたゼリーを空になったペットボトルに入れた。
「さってと、これでアタシは今日から相本奈々、うっれしいな、うっれしいな」
 アタシは制服を着ると、自分の姿を鏡に映した。
「これがアタシ、アタシは相本奈々、かっわいいよな、明日から美少女として女子校生活か、楽しみだな〜きゃははは」
 ゼリーを入れたペットボトルもバッグに入れると、アタシは喧騒の止まない夜の街に出かけて行った。




……あたしは、あたしはどうしてるの? どこにいるの?
手足の感覚がない、何だか窮屈、狭いところに入っているような感じ。
ぼーっとして回りがよく見えないよ。
アタシの声が聞こえる。嬉しそうな笑い声。
でも聞こえている声が、段々遠くなっていく……

 あたしが世界を感じたのはそれが最後だった。


(終わり)




(後書き)
久々の黒のゼリージュース作品でしたが、いかがでしたでしょうか。またたまには発表できるといいなと思います。それでは最後まで読んでいただき、ありがとうございました。


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