何時の頃からだろう、あたしがその視線を感じるようになったのは。 学校の行き帰り、学校の中、そしてあたしの部屋の中に一人でいる時でさえも。 勿論辺りを見回しても誰もいない。でも誰かに見られている、そんな気がしてならないのだ。 学校で保健の先生に相談しても、結局「疲れているんじゃないの、夜更かししないでちゃんと寝ないと駄目よ」などと言われる始末だ。 でもあたしの感じる視線は、疲れとかノイローゼとか、そんなものとは違うような気がする。もっと生々しいのだ。 あたしは段々と言いようのない不安に襲われていた。だから自分で気が付かないうちに、いらいらしていたのかもしれない。 そして、その悪夢は起こった。 ゼリーソーダ 作:toshi9 あたしの名前は木本雛子、私立の女子高に通っている17歳の高校生だ。 東京近郊の町でパパとママの三人暮らしのあたしには、中学時代からの二人の親友がいる。 二人の名前は鮎川真希、そして木村悠美。 活動的な真希、真面目な悠美、そして自分で言うのも何だが、ちょっとおっとり気味のあたし。三人とも性格は全く違うけれども、あたしたちはどこか気が合っていて、いつも一緒だった。 その日の学校帰り、三人でハンバーグショップに立ち寄った時に、あたしは二人にあたしが感じている視線について打ち明けた。 「ねえどう思う」 「気のせいじゃないの、雛子って自意識過剰〜」 「あまり考え込みすぎないほうがいいよ」 真希はハンバーガーにぱくついていた手を休めてけらけらと笑いながら、悠美はシェーキのストローから口を離してちょっと心配しながら答えた。 「うん、だといいんだけれど。何だか気になって」 「それよっか、ねえ、雛子、悠美、今度の土曜日渋谷に行かない。マルキュウのお店に新作が入ったみたいなんだ」 「土曜日? うん、多分大丈夫だと思うけど」 「あたしも」 「じゃあ二人とも、またメールするよ」 「うん」 二人と別れて家に帰ったあたしは、ママに何気なく土曜日に三人で渋谷に遊びに行くことを話した。 でも……。 「ママのばかぁ〜〜〜」 「雛子、待ちなさい!」 ママに向かって怒鳴りながら、あたしは呼び止めるママの声を無視して玄関から飛び出していた。 「ぐすっ、ばか、ママなんて嫌いだ、ぐすっ」 駆けて、駆けて、家から少し離れた公園のベンチに座ったあたしはしばらくの間泣き続けた。 「真希はあたしの親友だよ。それを、ひっく、もう付き合うのは止めなさいだなんて、ひっく、ママなんて何にもわかっちゃいない、ひっく」 勿論、あたしにもママの言い分が分からなくもない。 真希は高校に入ってからというもの、渋谷に行き浸りになって、最近ではタバコは吸うわ、化粧は派手だわ、髪は金髪に染めるわで、まあ普通の親から見れば、決して所謂「いい子」には見えない。 ママも時折家に遊びに来る真希のことを、あまり快く感じていなかったのだろう。 でも、あたしにはそんな真希のことを、中学時代以上に眩しく感じていた。 それをママったら今更あんな言い方しなくたって……。 「ねえ、真希ちゃんって最近変わったわよねえ。雛子、もうあの子とは付き合わないほうが良いんじゃないの」 「なに言ってるのよ、ママ。真希は何にも変わっちゃいないよ」 「そうかなあ、ママは雛子にあんな子じゃなくて、もっといい子と付き合って欲しいんだけどなあ」 「なあに、あんな子って。じゃあママは真希が不良だとでも言いたいの?」 「そうは言ってない、言ってないけどねえ」 あたしはそんなママの態度に無性に腹が立ってきた。 「真希はあたしの親友だよ。ママなんか嫌いだ」 「雛子……」 「ママのばかぁ〜〜〜」 「雛子、待ちなさい!」 そしてあたしは家を飛び出してしまったのだ。 落ち着いてみると、あたしはどうしてあんなに腹が立ったんだろう。 ママに真希のことを馬鹿にされたから? ううん、それだけじゃなかったのかもしれない。 あたし自身が何処かいらついていたせいだったのかもしれない。 それもこれも、ここのところ感じるおかしな視線のせいだ。全く何なんだろう、あの視線は。 公園のベンチに座って涙目をこすっていると、何時の間に近寄っていたのか、目の前にカバンを抱えた中年のおじさんが立っていた。 でっぷり太った体に窮屈そうに背広を着たそのおじさんは、どこか愛嬌のある表情であたしのことをじっと見詰めていた。 「どうしたんですか、お嬢さん、さっきから泣いていましたけれど」 「え? いえ、何でもありません」 「そうですか、ほら、これで涙を拭いたら如何ですか」 「あ、ありがとうございます。でも結構です」 差し出されたハンカチを受け取らずに、あたしはスカートから自分のハンカチを取り出して、頬に伝わる涙を拭き取った。 こんな見ず知らずのおじさんに泣き顔を見られるなんて・・恥ずかしい。 「もう大丈夫ですか?」 「はい、すみません、何かご心配かけちゃって」 「いえいえ。あの、ところで、もしよろしければ、お嬢さんにちょっとお願いがあるんですが」 「え?」 まさか援交の誘い? そう思ったあたしは、思わず身を固くした。 「ああ、そんなに緊張しないでください。私はこういう者です」 おじさんはその太い手をポケットに突っ込むと、名刺を取り出した。そこにはある有名な食品会社の名前が書かれてある。 「商品調査室の、外山……光春さん?」 「はい。会社で商品の定量調査を受け持っている者です」 「定量調査……ですか?」 「定量調査と言っても普通の方には分かり難いですかね。ざっくばらんに言えば、商品のモニターをやって頂きたいんですよ」 「モニター?」 「はい、そうです。私の仕事は、会社の試作品を消費者の方に試食してもらって、そのアンケートを集めることなんです」 「へえ〜、面白そうね」 「で、今日の人数ノルマがもう少しで終わるんで、お嬢さんにも是非アンケートをお願いしたいと思いまして。如何でしょうか」 「う〜ん、まあ今暇だし……いいですよ」 「ありがとうございます。勿論お礼はいたしますから……って言っても私のお金じゃありませんけれどね」 おじさんはにこにこ笑いながら話し続けた。 いきなり試食をしてくれというこのおじさんの話、まあ東京の街中に行くとよく見かけるんだが、こんなうちの近くでもやっているなんて意外だった。 まあ気が紛れるし、いいっか。 そう、確かに面白そうではあったのだが、あたしたそれよりもママとの言い合いで、むしゃくしゃした気分を紛らわせたかったのだ。 「じゃあすみませんが、駅近くのビルの中にモニタールームがありますので、今から一緒に来て頂けますか。そこで試食してもらいますんで」 「え? 駅の近く? ここでやるんじゃないんですか?」 「はい。さあ、それでは行きましょう」 おじさんはにこにことあたしを見詰めている。 まあ、一度OKしたし、ちゃんとした会社の調査みたいだし、大丈夫よね。 あたしはベンチから立ち上がると、おじさんの後ろに付いていった。 おじさんはあたしを連れて、駅に程近い5階建てのビルの一室に案内した。 その1階の区切られた一室に入ると、そこには机と椅子が置かれており、机の上にはペットボトルに入った黄色い飲み物とプラスチックの小さなコップが並べられていた。 部屋の中には、あたしとおじさんの他には誰もいない。 「あのお、他の方はいないんですか」 ちょっと不安を感じたあたしは、おじさんに聞いてみた。 「ええ。他の調査員はモニター集めに出払ったままで、まだ帰ってきていないようですね。とにかく始めましょう。さあ、そこに座ってください。その黄色い飲み物を飲んで、このアンケート用紙に書かれている各項目について記入してもらいたいんですよ」 あたしは数枚のアンケート用紙をおじさんから渡された そこには 1.香りは好きですか。 2.味は好きですか。 3.…… などと、いくつかの質問項目が書かれている。 「ふ〜ん、これを飲んで、この質問に答えるだけでいいんですね」 「はい」 そう言いながら、おじさんはカップに黄色いその飲み物を注いで行く。でも何だか中身がなかなか出てこようとしない。 「さあ、どうぞ」 おじさんがむりむりっとボトルから出したその飲み物に、あたしは恐る恐る口をつけた。 「え? これってゼリーなんですか。それに炭酸が入っている」 「はい、ソーダのようなゼリーなんです。面白いでしょう」 「そうね、こんなの初めて」 それはレモンソーダのような味のするゼリーだった。 「如何ですか、お味は」 「ええ、おいしいですよ」 「それはよかった」 その時おじさんは、妙に嬉しそうににやりと笑った。 「でも炭酸の入ったソーダなのにゼリーだなんて、不思議ですね。こんなのどうやって作るのかしら」 「『ゼリーソーダ』という商品名になるらしいですけどね、どうやって作るのかは私にはわかりません」 (そうなんだ。でも『ゼリーソーダ』って、なんだかそのまんまじゃない) グラスに残っていた『ゼリーソーダ』を飲み干したあたしは、そんなことを思いながらアンケート用紙に記入していった。 でも、そうしているうちに、段々と何かがお腹からこみ上げてくるのを感じた。 ゲプッ (やだ、ゲップが。だから炭酸っていやなのよ) そう思いながら口を押さえてみたけれども、ゲップは後から後からお腹の中からこみあげてくる。 (あ〜あ、おいしいからって、調子に乗って飲みすぎるんじゃなかった) そのうちに、一段と大きなものが上がってくるのを感じた。 うううっ そして、突然あたしの口から、手を押しのけるようにぷくっっっと風船のようなものが出てきた。 (え? え?) 風船のようにあたしの目の前に浮かんだそれは段々と大きくなっていく。そしてあたしの口から完全に抜け出たその瞬間、あたしは気を失った。 気が付くと、あたしの体は何時の間にかふわふわと空中を浮かんでいた。 ふと自分の体を見ると、妙に透き通っている。 「え? あたしどうしちゃったんだろう。体が空中に浮かんでいる? それに透き通ってるなんて。こんなことって……」 下を見下ろすと、おじさんとあたしが、浮かんでいるあたしのずっと下のほうに座っている。 「え? あたしがもう一人?」 よく見ると、椅子に座っているもう一人のあたしは、意識がないのか腕をだらりと下ろし、うな垂れたままじっと動かない。 「え? あれって……まさか、あたしの体? あたし、あたしって死んじゃったの?」 透き通って空中に浮かんでいる自分、そしてじっと動かないあたしの体。これって魂が体から抜け出ちゃったってことだよね。 あたしは慌てて足元の自分の体に向かって下りようとした。けれども、思うように下りて行けない。あたしはただ空中をじたばたするだけだった。 「駄目、上手く動けない」 途方に暮れ、足元のあたしとおじさんを見下ろしていると、おじさんが突然口を開いた。 「ふふふ、このゼリーソーダはね、飲むとしばらくの間幽体離脱することができるんだよ。そして効果が切れると、抜け出た魂は空っぽになった元の体に戻るんだ」 おじさんはあたしの体に向かって語りかけている。 あたしはふわふわと浮かびながら、それを聞いているしかなかった。 「俺はこれを使って幽体離脱を繰り返して、ずっと君のことを見ていたんだ。いつもすぐ近くでね」 あ、あの視線の正体って、まさかこのおじさんが。 「だから君のことは何でも知っているよ。木本雛子ちゃん」 こ、このおじさんって……。 あたしは二人っきりでこんな部屋に入ったことを悔やんだ。 「そして、ある日俺は面白いことを思いついたのさ。そしてさっき一人で泣いている君を見た時、今日は何としてもそれを試してみたくなったんだよ。」 そう言いながら、おじさんはゼリーソーダをカップに注ぐと、ぐいっと飲み干した。 ゲプッ おじさんの口からゲップが出てくる。そしてそれが何度か続いた後、おじさんの口からぷく〜っと風船のようなものが出てきた。 その風船が完全に体から離れると、座っているおじさんが、がくりとうな垂れる。 一方風船のほうはぷかぷかと浮かび上がり、やがて少しずつ人の輪郭を取りはじめた。 「お、おじさん」 「おっ、雛子ちゃんそこに浮かんでいたのかい。生身でいる間は全くわからないが、こうして魂になるとお互いが見えるんだな」 「何なんですか、これ」 「さっき話したのを聞いていなかったのかい。部屋の中の何処かにいる君にも聞こえるようにと思って大声で話したんだが」 「幽体離脱って」 「つまりこういうことさ。今のこの体はゼリーソーダの力で体から抜け出た魂なのさ。俺たちは魂だけの存在になっているんだ」 「そんな、嘘でしょう」 「まあ信じるも信じないも君の勝手だけれどね。さてと」 おじさんは上手に空中を泳ぎながら、私の体に近づいていく。 「上手く動けないだろう。俺も最初はそうだったよ。でも段々コツがわかってきたのさ」 そしておじさんは私の体の前に下り立つと、あたしのほうを見上げてにやりと笑った。 「魂になった俺が、空っぽの君の体の中に入ったらどうなると思う?」 「え?」 「ふふふ、雛子ちゃん、君の体はもらったよ」 「ど、どういうこと? おじさん何を言って……」 「こういうことさ」 そう言うや否や、おじさんはぼーっと座っているあたしの体の口の中に頭を突っ込んだ。 すると、おじさんの頭があたしの口の中に変形しながら吸い込まれていく。 頭、首、肩、そして胸、腰、脚とおじさんはずるずるとあたしの中に入っていってしまった。 「お、おじさん」 呆気に取られて見ていると、突然あたしの体はぱちりと目を開け、そしてゆっくりと椅子から立ち上がった。 え? そしてあたしの体は自分の体を見下ろし、そして両手をじっと見つめると、にやりと笑った。 「うっふふふふ、成功だ」 そう言うや否や、あたしの体はその場でジャンプし始める。 「軽い、軽いぞ。ふひひひ、もうあんな重くて醜い体とはおさらばだ、これから俺は女子高生だ。ひゃっひゃっひゃっ」 ジャンプを止め、だらしなく目尻を下げたあたしの体は、今度は両手で胸を揉み始める。 「う、うはっ、乳が付いているってこんな感じなのか。うっ、ううっ、うん、何だか……いい、いいぞ。はぁはぁ」 段々息が荒くなってきたあたしの体は、スカートの裾を捲り上げ、自分の穿いているパンティを見てにやにやと笑った。そして椅子に座るといきなり両股をがばりと広げ、右手をパンティの中に突っ込んだ。何というあられもない格好だ。 「あ、あっ、く、くふっ、ふうぅ、何も無い、い、いや、う、うあっ、この感じ、あ、ああ、ああん」 「や、やめ、やめてえ」 自分の痴態を見せ付けられ、思わず叫び出してしまったあたしは、だがその時自分の体が何かに引っ張られるのを感じた。 そう、あたしはおじさんの体に向かって引き寄せられていたのだ。そしてその口に吸い込まれていく。 「いや、どういうこと、いや、いや〜」 おじさんの体の口に頭から吸い込まれ、やがてあたしは気を失った。 「う、う〜ん」 「うふふふ、目が覚めた? お・じ・さん」 「え?」 目の前で制服姿のあたしが、両手を腰に当てて、あたしのことを見下ろしている。 「あたし? おじさん? どういうこと……え? 声が」 おかしい、自分の声が妙に低くしゃがれている。それにおじさんって? 「こういうことさ」 部屋の鏡を指差す目の前のあたし。そこには指差しているあたしとおじさんの姿が映っていた。あたしが鏡を指差すと、鏡に映った蒼ざめたおじさんがあたしを指差している。あたしが頬に両手を当てると、おじさんも頬に手を当てる。 「これ……あたし……おじさん……」 「そう、俺たちは入れ替わったんだよ、あはっ、あははは」 あたしの体があたしの声で嬉しそうに笑う。 「入れ替わった? それって、どういうこと?」 「俺の魂が先に君の体に入ったんで、君の魂は仕方なく空っぽの俺の体に入るしかなかったという訳さ。つまり俺たちの魂が入れ替わったということだ」 「そ、そんなことって」 「ふふふ、今から俺は君として生きていく。これからは俺が女子高生・木本雛子だ」 「そんな、何言ってるの。返して、あたしの体返してよ」 「駄目だね。この体はもう俺のものだ。それにゼリーソーダがない限り、今更どうにもできないよ」 「何とかしてよ。それに家に帰らないと、パパやママが心配するもん」 「心配いらないさ。だって俺が君の代わりに君の家に帰るんだから。そう、君の家はもう俺の家、君のパパもママもこれからは俺のパパとママになるんだからね」 「やだ、そんな……返して、元に戻して」 おじさんがあたしになる? そんな、あたしはどうなるの。 おたしの体になったおじさんの言葉に逆上してしまったあたしは、立ち上がって、あたしの体の首をぎゅっと絞めた。細い首を、おじさんの太い手で……。 「や、やめ、自分の体を殺す気か、げほっ」 「はっ」 はっと我に返って、慌てて手を離したあたしの目の前で、あたしの体が苦しそうに喉に手を当てている。 「けほっ、けほっ、全く死ぬかと思ったぞ」 「何とかして、お願い、元に戻して」 「戻りたいかい」 「当たり前でしょう」 喉を押さえながら、しばらく考え込んでいたあたしの体のおじさんは、あたしを見詰めて言った。 「……実は地下室にゼリーソーダのストックがある」 「ほんと? ほんとなのね」 その一言に、あたしの目の前はぱっと明るくなった。良かった……元に戻れる。 「案内して、今すぐに」 「わかった、こっちだ」 あたしの体のおじさんは、おじさんの体になったあたしを連れて地下室に下りると、部屋の扉の鍵を開けた。 「この中だ、さあ入りたまえ」 あたしはおじさんに言われて、その薄暗い部屋を覗き込んだ。 と、背中をドンと押され、あたしはその部屋の中に転がり込んだ。 「きゃっ!」 「ふははは、ここにはゼリーソーダなんか無いさ。君はこの中で大人しくじっとしているんだな」 「騙したのね」 「ああ、元に戻る気なんて、俺にはないよ。ふふふ、俺は君みたいな女子高生に憧れていたんだよ。好き勝手に振舞って、俺たち中年のことをいつも汚らしいもののように見て。そりゃあくやしかったよ。でも今は俺が女子高生、女子高生だった君が中年のおじさんなんだよ。ねえお・じ・さん」 「あなたみたいなおじさんがあたしの振りをする? 気持ち悪い。そんなのすぐにばれるに決まっているわよ」 「そうかな。この顔、この姿、まさか中身が別人にすりかわっているなんて、誰も思うわけないだろう」 あたしの姿をしたおじさんが制服姿でくるりと回る。 すらりと伸びた自慢の長い脚、そして舞い上がった短いスカートの裾から穿いている白いパンティが丸見えだ。 「ふふふ、どお、だれがどう見たって、あたしは木本雛子よ」 「そんな、あんたなんか、いくらあたしの姿をしていてもパパもママも絶対あたしじゃないって気がついてくれるもん。真希や悠美だって……」 「そうかな、まあそうだったとしても、何とかごまかしてみせるよ。人というのは、最初は変だと思っていても、そのうちに慣れてしまうものなのさ」 「そ、そんなこと……」 「じゃあおじさんはここで大人しくじっとしているのよ。落ち着いたらまた来てあげるから。あ、非常用の水と食料がある筈だから食べてもいいわよ」 「え?」 「言ったでしょう、あたしそろそろお家に帰るから」 「いや、やめて」 「ふふふ、ビルの外に出たら、みんなが俺のことを女子高生として扱ってくれるんだ。楽しみだなあ。じゃあね、お・じ・さん」 あたしの姿のおじさんは、ふふんと笑いながら部屋から出て行った。 ガチャリ 腰を打って動けないあたしの目の前で、鉄製の扉は閉じられ、鍵までも閉められてしまった。 こんな体で、こんなところに閉じ込められて……これじゃ、たとえあたしがこのまま死んでしまっても、誰もあたしだとは気が付いてくれないだろう。 そう思った時、ぞくりと冷たいものが背筋を駆け抜けた。 薄暗い部屋の中に一人残されたあたしは、こみ上げてくる恐怖に、ただ叫ぶことしかできなかった。 「い、いやぁ〜〜〜〜」 (了) 2004年10月19日脱稿 後書き 久しぶりの裏ゼリージュースの新作、如何でしたでしょうか。今回の裏ゼリージュースは「ゼリーソーダ」。飲むと幽体離脱してしまうという代物です。但し、幽体離脱できるだけで、慣れるまでうまく動けないし、他人への憑依もできません。でももし魂が空っぽになった別の体があれば・・ということで考えてみました。 ところでこの作品には続きがあります。と言いますか、実はそちらの作品のほうが先に完成したのですが、その作品を書き上げた後でこの作品を書いてみたくなりまして、急遽書いてみたものです。 さて、その作品とは何かと言いますと、実は冬コミでミグさんのところで発表されることになる企画作品です。続きが気になるという方は、是非そちらの企画作品のほうを読んでみてください。 それでは、ここまでお読み頂きました皆様、どうもありがとうございました。 |