俺の名前は神崎行宏。今年大学を卒業して、ある食品会社の飲料部門の研究室に配属されて半年たったある日、俺は研究室の冷蔵庫で『ゲルルンジュース』にそっくりなゼリージュースを見つけた。 妹の美鈴共々『AIR』ファンの俺たちは二人でそれを飲んでみると、顔はそのままなのに体がそっくり入れ替わってしまった。しかも他人には俺たちの顔も体もすっかり入れ替わって見えるらしい。 早く小野先輩に会って元に戻してもらうように相談しなければ。ああ、でも勝手に飲むんじゃなかったな。 ゲルルンジュース・ラプソディ(後編) 作:toshi9 次の日はコスプレフェスタのある日曜日。前日なかなか寝付けなかったのに、美鈴に朝早く起こされてしまった。 「お兄ちゃん、お兄ちゃん」 「ん〜、もうちょっと」 「ほら、早く起きてよ」 「ん〜、誰だよー」 「あたしよ、美鈴だよ」 「美鈴がそんな声・・・声、こえ、あれ、俺の声が・・おかしい」 「ほら、何寝ぼけてるの。今日の準備をしなくちゃ」 「えーと・・・そうか、観鈴ちゃんのコスプレ!」 「ほら、起きて」 美鈴はすでにカジュアルなカラーシャツとジーンズといういつもの俺の普段着に着替えていた。俺はまだぼーっとしたままだったが、ベッドの上で上半身を起こして自分の体を見下ろすと、美鈴のピンクのパジャマを着ていて、しかも胸元のボタンが外れて中身がちらりと見えていた。 「お兄ちゃん、何か変なことしたんじゃないでしょうね」 「ば、馬鹿、そんなことするわけないじゃないか」 「そおぉ、その胸元・・怪しいなぁ」 「俺の寝相が悪いだけだよ。それよりお前言葉使い直したらどうだ。顔はお前でも、俺の声で女言葉を話されると何か気持ち悪くて」 「悪かったわね。お兄ちゃんだって今日はずっと女言葉使わなきゃ駄目だよ。勿論観鈴のコスプレの時には観鈴の話し方でね」 「げ!そうか」 「お兄ちゃんなら全部憶えているでしょう」 「み、観鈴ちん、だぶるぴんち」 「うーん、何かぎこちないなぁ。もう一度」 「お前なぁ」 「あたしのこともお兄ちゃんって言わなきゃだめだよ、へへへ」 「お、お兄ちゃん」 「声が小さい」 「本番はきちっとやるから、もう止めようよ」 「だめ、咄嗟に男言葉使われたらぶち壊しなんだから。頼むぞ美鈴」 「え!」 「これからお兄ちゃんのことをもう美鈴って呼ぶからね。お兄ちゃんも、おっと美鈴もしっかりね」 「わ、わかった・・わ・・よ」 美鈴の特訓?はそれから延々と続いた。言葉遣いの練習をしたり、制服の着替えの方や観鈴ちゃんのコスプレの仕方(制服を着れば良いってもんじゃないらしい)を教わったりした。美鈴の真似をして女言葉を使うのはとっても恥ずかしかったけれど、時間も無くなり、まあ何とか格好がついてきたかなといったところで、俺たちは二人で後楽園に向かうことにした。 「じゃあこれに着替えて」 美鈴は新しいショーツとブラジャー、それに薄手のセーターとスリムジーンズを出してきた。 「え、また下着も替えるのか」 「当り前でしょう。更衣室では上着を脱ぐんだから下着も綺麗なのを着けてなきゃね。ほら上手くできるか見ててあげるから」 ひえ〜、もう止めてくれ〜 俺は美鈴の視線を気にしながらも何とか教えられた通り着替えることができた。しかし、このジーンズきついなぁ。 俺がしきりにぴたっと下半身を締め付けるジーンズを気にしていると、美鈴が後ろから俺のお尻をさわさわっと撫でてきた。 ひゃっ ぞくぞくっとした感覚が俺を襲う。 「何するんだよ」 「だってお兄ちゃん・・美鈴、かわいいんだもん。つい・・ね」 「何言ってるんだ、お前の体だろう」 「そうか、そうだったね。へへっ」 「まったく、どうして、そんなことするかな・・・」 「よしよし、なりきってるじゃない」 「にはは・・・」 俺たちはそれからやっと家を出ると、電車で水道橋まで向かった。東京ドームの前を過ぎて後楽園遊園地のチケット売り場の前で他の二人を待っていると、程なく待ち合せしている二人が一緒に現れた。 「おっはよー美鈴」 「おっはよー千佳、夏美」 (おいおい、お前は俺の兄だろうが、お前が声かけてどうするんだ) (いっけない、へへっ) 「あれ、どうして私たちのこと知ってるの、美鈴、そっちの人は?」 「あ、ああ、えっと、あたしの兄貴なんだ。今日は一緒に行きたいって言うから連れてきたんだ(ほっ、うまく言えたよ)」 「そっか、よろしくね、美鈴のお兄さん」 「行宏です。よろしく」 「じゃあ美鈴、着替えに行きましょうよ。ところでお兄さんは誰のコスプレやるの」 「え、いや今日は見に来ただけだから」 「コスプレって見ているだけよりも自分でやったほうが絶対面白いですよ。お兄さんも一度試してみたら。絶対はまりますから」 「そうですね。まあ今日は準備して来なかったんで(そんなことわかってるよ、千佳)」 「じゃあお兄さんはここで待っててくださいね」 俺は二人と一緒に女子更衣室に入った。そこには・・・今まで俺が夢見ていた世界が広がっていた。きりっとした制服姿の二人組はSEEDの艦長と副長か、あれはKanonの面々、アンナミラーズのウェイトレスさんもあちらこちらで着替えをしている・・・ 「ほら、美鈴、何ぼーっとしてんの早くしましょう」 「え、そうだね、うん」 俺は着ていたセーターとジーンズを脱ぐと、美鈴が用意した観鈴ちゃんの制服を目の前に広げた。俺が・・これを着ていいのか?・・いいんだよな。今の俺って美鈴以外の人には女の子にしか見えないんだから。 制服は美鈴に着方を教えてもらったので着替えるのに戸惑うことはなかったものの、どうしてもぎくしゃくしてしまう。パフスリーブのブラウスに両腕を通し、左右逆のボタンをちょっとぎこちないながらも留めていく。ジャンバースカートに脚を通し、肩のボタンを留めて脇の下のファスナーを引き上げる。白のストライプの入った赤いストレートのネクタイを付けて、紺のハイソックスを穿く。髪をブラッシングして後で大きな白いリボンでまとめる。ようやく着替え終わって更衣室の鏡の前に立ってみると、そこに映っているのは観鈴ちゃんの格好をした・・俺だった。 この格好で外を歩くのか。 それは俺の願望ではあったものの、いざとなると観鈴ちゃんの格好で人前に立つことが急に恥ずかしくなってしまった。 「美鈴、今日は着替えるの遅いよ。さあ、早く行こう」 「う、うん」 鏡の前で躊躇していた俺は、結局すでに美凪ちゃんと佳乃ちゃんの格好に着替え終えていた二人に押し出されるように更衣室から外に出た。 観鈴ちゃんの格好で遊園地の中を他の三人と一緒に闊歩する。最初のうち、俺は人に見られることが恥ずかしくて堪らなくてうつむき加減だった。 「どうしたの美鈴、どっか調子悪いの?」 「え、いや、ううん大丈夫」 「そう、じゃあもっと胸張りなよ」 「そうだよ、おにい・・じゃなかった美鈴、もっとしゃんとして!コスプレって自分がキャラクターになりきって堂々としていないと全然らしく見えないんだから」 そうか、俺は今観鈴ちゃんなんだ、そうだよな折角来たチャンスだもんな。 そう気が付いた俺は段々と落ち着いてきた。そうだ、わたし・・観鈴。観鈴ちんの隣に美凪と佳乃。 「すみませーん、写真撮らせてくださーい」 「はい、いいですよ。かわいく撮ってね」 夏美ちゃんが声をかけてきた男の子に答えて俺たちを呼び寄せる。 「ほら、ポーズポーズ」 「え、えーと確かこうだったかな」 俺は美鈴に教えられたポーズをとった。 カシャ、カシャ 「ありがとうございましたぁ」 俺は段々のってきて、カメラに囲まれる中、美鈴を往人に見立ててみた。 「ちゃんと、ちゃんと・・・わたしのこと、学校まで送ってくれるのかな」 うぉー、パチパチ 一斉に巻き起こる拍手 「すみませーん、もっと何かやってくださーい」 「・・・往人さんがいいな・・・往人さんがいてくれたら、他には誰もいらない」 うぉー、パチパチ 再び巻き起こる拍手とシャッターの嵐 それは至福の時間だった。こんな世界があるなんて。本当にはまりそうだよ。 時間は瞬く間に過ぎフェスティバルの時間が終わった。 「あー面白かった。でも美鈴、今日は何か新鮮だったね」 「え、どういうこと」 「何か場慣れしていないというか、でもそれがまたかわいっぽくて、なりきってたんじゃない。私達今日は負けたよ」 「えーと、それってもしかして褒めているのかな」 「もしかしなくてもそうだよ。研究したね。私も負けられないな」 「じゃあまた今度ね」 「うん、じゃあお兄さん。また一緒にやろうね」 夏美ちゃんが美鈴にウィンクする。 俺たちは二人と別れると家に戻ってきた。 「お兄ちゃん、今日の感想どうだった」 「コスプレ・・・いいなぁ」 次の日の朝、俺は美鈴の高校の制服を着ていた。長袖のブラウスに白いカーディガン、プリーツのチェックのミニスカート、赤いリボンタイ、白のハイソックス・・・うう、恥ずかしい。 そう、美鈴の代わりに学校に行くというのはこういうことなんだということを、俺は朝になるまですっかり失念していた。そして、それに気が付いた時には俺は両手でスカートの裾を握り締め、ぶるぶると震えていた。 鏡に映っているのは美鈴の制服を着た俺、顔は俺なのに体のラインも髪型も美鈴のまんまなので、それが妙に似合っていたりする。 「じゃあお兄ちゃん、しっかり頼むね」 「やっぱり休もうかな」 「駄目、今日はテストがあるんだから。でも今日の授業はテストだけ。午前中に終わるはずだよ」 「ええ、そんなの聞いてないぞ」 「うん、言ってないもん。へへ、ラッキーラッキー」 「お前なぁ〜」 とにかく今日はどうしても小野さんに会わなければいけない。仕方なく俺は美鈴から高校の場所、教室の場所その他の情報を受け取ると、美鈴の高校に行くことにした。 高校の校門をくぐると、妙な感慨が沸き起こる。 俺が女子高生の制服を着て通学するなんて、それを誰も変に思わないんだからなぁ。 その時一陣の風が俺のスカートを巻き上げた。 「きゃあ〜」 思わずスカートを押さえつけるが、その時自分がすっかり女の子しているのに気が付いた。 (はっ、俺って・・・・うう、自己嫌悪) 上履きに履き替えて、教えられた美鈴の教室に入る。 「みっすず〜、おはよ〜」 「あ、おはよう」 昨日会った千佳と夏美がいた。へぇ同じクラスだったんだ。 「昨日はおもしろかったよね。また行こうよ」 「う、うん。そうだね」 「美鈴さん、おはようございます」 「え、はい、おはよう」 隣に座った子が俺に声をかける。へぇかわいい子だな。 「雪菜、おはよ〜」 「おはよう、夏美さん」 そうか、雪菜さんっていうんだ。うーん、男の時にお近づきになりたいな。 この日は美鈴の言う通り授業は無く、半日ずっとテストだった。あいつちゃっかり・・って今は俺が美鈴なんだから仕方ないのか。はぁ〜疲れるな。 テストはさほど難しいものではなかったものの、むしろ自分の体が気になって仕方がなかった。鉛筆を持つ手、頬にかかる髪、ひんやりとした椅子に直接触れる太股。テスト用紙に向かう目もつい膨らんだ胸元にいってしまう。そして胸の下のミニスカートから覗く白い太股をついまさぐりたくなってしまう。 何とか雑念を振り払いながら問題を解いていったものの、どのテストも問題を全て解き終わるのに時間ぎりぎりまで掛かってしまった。 ようやくテストが全て終わると、もう我慢できなくなった俺は女子トイレに駆け込んだ。教室を出る時に隣の雪菜さんが何か言いたそうだったけれど、無視していた。個室に入って便座の扉を閉めたまま腰を下ろし、制服の中に両手を入れてブラジャーを持ち上げると自分の胸をまさぐった。胸の先・・乳首が大きくなってきている。それを指先でころころところがしてやると何とも言えない快感がそこから広がっていった。 「ん、ん、何これ、ん、ん」 左手で手首をころがしながら右手をスカートの中の股間にぴたっと当ててみる。そこには何も無い、そのことがますます俺を興奮させた。俺って今本当に女なんだな。 右手をショーツの中に差し入れる。中指と人差し指を使ってそのあたりをいじってみると、何だか切ないようなじわっとした快感がこみ上げてくる。 「あ、は、・・・ん、ん、んぁ、んーっ」 指が段々湿っぽくなってくる。俺のここ濡れてきているのか?美鈴の・・ ・・・美鈴の・・か。 困ったような美鈴の顔、そして悶えている今の自分の姿が頭の中に思い浮かんでくると、そのまますーっと興奮が収まっていった。 美鈴、ごめんよ。 女子トイレから教室に戻ってくると、雪菜さんが声をかけてきた。 「美鈴さん、どうしたの慌てて出て行って」 「へへ、ちょっと我慢できなくなっちゃって(目的が違うけれど、まあ嘘じゃないよな)」 なあんだとばかりに雪菜さんが微笑んだ。雪菜さんほんとうにかわいいな。 「美鈴さん、今日これからどうするの」 「え、ちょっと高原ビューティクリニックに行ってみようかなって思っているんだけれど」 「へぇ美鈴さんもそうなの。私も今そこに通っているんだよ。じゃあ今日は一緒に行かない?」 そうか、雪菜さん通っているのか。 断る理由も見つからず、結局彼女と一緒に渋谷に行くことになってしまった。 「美鈴さんって何かそういう悩みってあったの?」 「ううん、ちょっと会いたい人がいて」 「へぇ知り合いがいるんだ」 「うーん、知り合いって言う程じゃないんだけれど、相談したいことがあるんだ」 「そっか、私もこの前初めて行ったんだけれど、あそこなら気軽に相談に乗ってもらえると思うよ」 「雪菜さんはどうして・・」 「うん、今正しいダイエット方法っていうのを習っているんだ」 「ふーん、そうなんだ」 高原ビューティクリニックの受付に着くと、早速用件を告げた。 「あのう、小野さんって方にお会いしたいんですけれど」 「開発室の小野ですか」 「はい」 「お約束はされています?」 「え、いいえ、急用だったので」 「そうですか、ちょっと聞いてみますね」 受付嬢が内線で電話している。 「へぇ、美鈴さんが会いたい人って私と同じ苗字の人なんだ」 「ああ、そういえばそうだね」 雪菜さんもそういえば苗字は小野、小野雪菜だったな。 「今手が離せないから、またにしてくれって申していますが」 「困ったな、桃色のゼリージュースの件でって伝えてもらえます」 「はい、ちょっとお待ちくださいね」 また受付嬢が電話で話をしている。 「一時間後なら大丈夫だそうですよ」 「そうですか、じゃあ待っていますんで」 「美鈴さん、じゃあ一緒にメディカルチェックのほうに行ってみない。一時間もすれば終わると思うわよ」 「そうか。じゃあそうしましょうか」 それからメディカルチェックルームに雪菜さんと一緒に行ってみたんだけれど、行ったらびっくりした。 「はい、これに着替えて」 手渡されたのは、緑色のビキニの水着だった。 「ええ!そんなの聞いてないよ」 「チェックし易いようにこれに着替えなきゃいけないのよ」 雪菜さんは恥ずかしげもなく制服を脱ぎ着替え始めた。仕方なく俺も制服を脱いでそのビキニに着替えたけれど・・・ひぇ〜恥ずかしいよ〜。 「じゃあ私が先みたいだから、先に行くね」 雪菜さんが先に呼び出されて、一人待合ルームで待っていると、鏡に映る自分の姿が目に入った。そこには緑色のピッタリしたビキニを着て椅子に座っている俺が映っていた・・何やってるんだ俺って。 はい、次の方。 恐る恐る中に入ると、髪を金髪に染めた白衣姿の女性がいた。 「えーっと、神崎美鈴さんね、あなたは何が悩みなのかな、やっぱりダイエット?そんなにスタイルいいのに?」 「い、いえ、小野さんっていう方にお会いしたくて来たんですが、成り行きで」 「小野?小野俊行のこと」 彼女の目がキラリと光ったような気がした。知り合いなのかなぁ。 「はい」 「どういった用件かしら」 「・・・・・・・・」 「本人でないと話し難いかな」 「・・・はい」 「じゃあちょっと待ってて、連れてくるから」 「ご存知なんですか」 「ええ、一緒に働いてるの」 彼女はちょっと微笑んで出て行った。しばらく待っていると、程なくして一人の男性が中に入ってきた。 「さっきの受付からの電話はもしかして君かい。僕が小野だけれど、君は」 「はい、ああ小野さん、やっと会えました。同じ飲料研究室に配属になった神崎と言います」 「ん?確か今年は男性が一人入ったとは聞いているけれど」 「はい、それが俺です」 「どう見ても君は女子高生にしか見えないが」 「実は・・・」 「何だって、あれ飲んだのか」 「はい、すみません」 「すみませんじゃないだろう。全く人の試作品を」 「あまりにゲルルンジュースみたいだったんで、つい飲みたくなっちゃいまして」 「しかし、アレはただ飲んだだけで入れ替わるわけはないんだがなぁ」 「いえ、入れ替わっているというか、顔だけは二人ともお互い元の自分に見えるんです。他の人には全く入れ替わっているように見えるみたいなんですけれど」 「そうか、アレの効果ってそういうことなのか。でもよく上手くいったもんだなぁ。下手すると命が無かったところだぞ」 「そ、そんなに危ないものなんですか」 「まあ、使い方次第ではな。そもそもアレは危険なんで保存サンプルだけ残して廃棄するつもりだったんだ。その保存品を君たちが飲んだというわけだ」 「元に戻れるんですか」 「・・・無理かもしれないな」 「ええ!そんな」 「冗談冗談。あのゼリージュースをもう一度飲めば、多分元に戻れるよ。ただし間違いのないように僕が立ち会うようにした方がいいな。アレは今日作っておくから、明日二人でここに来るんだな。会社には僕から言っておくよ」 「お手数かけます」 「全くだぞ。もう人のものを勝手に飲むなよ」 「すみません。よーく反省しますんで」 「ははは、まあわかれば良いさ。じゃあそういうことで、今日は帰りなさい」 「はい。ところで小野さん」 「ん?まだ何かあるのかい」 「いえ、お会いしたら前から聞いてみたかったんですけれど『AIR』はプレーしたことあるんですか」 「いや、無いよ。ゲルルンジュースのことかい。あれよりもゼリージュースを発売したのが少し早かったからな。偶然さ。ところで僕も一つ聞いていいかな」 「何ですか」 「女子高生になった感じってどんなだい」 「は?まあ妹の体ですから・・その・・でも男の自分とは全く違うのが新鮮でした。体は勿論ですが、立場っていうか、相手の反応が全然違いますよね。元に戻るのがちょっぴり勿体無い気持ちもあります」 「そうか、でもこのことは明日で忘れるんだぞ」 「・・・はい、わかりました。じゃあ失礼します」 俺は小野さんと白衣の女性に挨拶するとメディカルルームを出た。部屋の外では雪菜さんが待っていてくれた。 「美鈴さん遅かったね。結局、何をすることにしたの」 「ごめん、待たせちゃったね。うーんと、結論が出なかったんで明日もう一度来ることにしたから」 「ふーん、そっか。私は明日は来れないけれど、じゃあまた一緒に来ようね」 「うん、そうだね」 雪菜さんとこうして話せるのも明日までか、ちょっと残念だな・・・ 「俊行さん、あたしに何か隠してない?」 「別に。彼が飲んだのは、組み合わせを失敗した試作品ですよ」 「ふーん・・・」 次の日俺と美鈴の二人は一緒に高原ビューティクリニックに行くと、再び小野さんに会った。 「良く来たね。そっちが妹さんかい」 「はい、美鈴です」 「そうか、僕には君達が入れ替わっているようにしか見えないんだが」 「そうみたいですね。でもあたしにはあたしの顔はやっぱりあたしの顔に、お兄ちゃんの顔はお兄ちゃんの顔にしか見えないんです」 「そうか、昨日神崎くんが言った通りなんだな」 「はい」 「君は男になってどうだった」 「へへ、背が高くなって、力も強いし、お兄ちゃんを妹扱いできたし、何か楽しかったです」 「おい、美鈴お前やっぱり」 「それだけかい。他に良いこととかなかったのかな」 「え!」 その時、美鈴の顔にちょっとだけ赤味がさしたような気がした。あいつまさか・・・ 「はは、まあいいさ。じゃあ元に戻してあげよう。さあ、これを二人で飲むんだ」 渡されたのは、あの『ゲルルンジュース』そっくりのピンクのゼリージュースだった。またこれを飲むのか。 「最初はちょっと苦しいかもしれないけれど、大丈夫。後は僕に任せるんだ」 これが最後か・・美鈴の体から元の自分に戻ることにちょっぴり寂しさを感じた俺は、ゼリージュースを手に自然とあのセリフを口にしていた。 「ゲルルンジュース・・・あのね、ぎゅってパック握ると出てくるの」 俺と美鈴は二人で一緒にそのゼリージュースを飲んだ。程なくしてまたあの感覚が襲ってくる。 「あ、熱い、顔が」 「お兄ちゃん、熱いよ」 美鈴の顔がピンクに染まっている。俺の顔も多分・・・ 「もうちょっとの我慢だ」 小野さんの声が段々遠くなって、俺はそのまま意識を失ってしまった。 気が付いた時、俺と美鈴はベッドの上に寝かされていて、小野さんはすでにそこには居なかった。そして自分の体を確かめると、俺たちの体は無事に元に戻っていた。 「はぁ、一時はどうなることかと」 「でもお兄ちゃん、あたしの体になっていた時って嬉しそうだったよ」 「ば、馬鹿、そんなことないよ」 「そうかなぁ、後楽園で観鈴のコスプレしている時なんて本当になりきっていたし、写真撮ってもらうのがとっても楽しそうだったよ」 「うーん、そんな風に見えたのか」 「うん」 「・・・たまにはまた入れ替わってみたいもんだなぁ」 「え、何か言った、お兄ちゃん」 「ん?独り言さ」 (了) 2003年4月25日脱稿 後書き この作品はナールカムさんからリクエストがありました、裏ゼリージュースを使ってライトな作品が出来ないでしょうかという要望を元に考えてみたものです。 お読みになれば解ります通り、この話は「ゼリージュース!外伝」のサイドストーリーになっています。時系列的には「今宵ブルーハワイをご一緒に」と「気分はトロピカル」の間位になるでしょうか。 また、ネタになっているゼリージュース(ピンク)とゲルルンジュースがそっくりだという話は、ゼリージュースのモデルになっている飲料が発売された時期に「そっくりだ」「リアルゲルルンジュースだ」とネット上で『AIR』ファンの間で結構話題になったと記憶していたところから持ってきました。 前編をアップした後できるだけ『AIR』の調査・・特に観鈴の台詞について・・をしましたが(笑)toshi9は『AIR』を実際にプレーしたこともコスプレの会場に行ったこともありませんので、もしおかしなところがありましたらすみません。 それではお読みいただきました皆様、どうもありがとうございました。 toshi9より 感謝の気持ちを込めて。 |