小話:男と悪霊
作:九重 七志


薄曇り、微風、昼下がりの神社。
巫女服を着た女性に、必死に頭を下げ続ける男が一人。

「お願いします! 本当なんです! 信じてくださいよ!」
「はぁ、そう言われましても……うち、そういうのは専門外ですし」

「そこをなんとか、お願いします! もう俺、このままじゃ気が変になりそうで……」
「ええと、その……いつからなんです? その……」
「悪霊、悪霊です!」
「はぁ、その悪霊? に……取り憑かれた? のは、いつ頃の話なんでしょうか」

「二週間前です! あれからずっと、殆ど寝る時間もとれなくて、そいつが――」
「ええと、それで……その、悪霊は、何をするんですか?」
「決まってるじゃないですか!」
やつれた顔の男は、派手な髪色の頭を振りかざして叫ぶ。

「生きてる人間の――精気を啜るんですよ!!」

「(この人、大丈夫かしら……)」
巫女服の女性は、首を傾げながら内心で溜め息をつく。
悪霊に取り憑かれたと称する、異様な風貌の男
その対応に、彼女はすっかり参ってしまっていた。

「(そんなことを言われても、うちは祓い屋さんじゃないんですよう)」
ただ神社の娘に生まれたと言うだけで、霊感があるわけでもなく、もちろん除霊の心得などある筈もない。
「(困ったなあ……今日はお父さんもいないし、お姉ちゃんは昨日の夜から帰ってきてないし……)」

おかしな参拝者の対応に慣れたハッタリの効く姉は、今頃どこかの男の家で二日酔いに苦しめられていることだろう。
近頃やたらと夜遊びに出掛けたがるのは奇妙と言えば奇妙だが、あの奔放な姉のことだ。特に気にすることもないだろう。

「(こういうときに限って居ないんだから……もう……)」
ともあれ、この参拝客には何とかしてお引き取りを願わねばならない。
いっそ姉の真似をして、それっぽい神楽を舞ってハッタリを押し通してしまおうか。
本殿の方は空いているし、道具の方も探せば見つかる場所にはあるだろう。

そんな事を考えながら、適当に相槌を打つ巫女服の女性。

――もちろん、彼女には"見えて"いなかった。

――ひっ!?
「巫女さん?」
「え、あ……え!? 身体が……!?」
突如として震えだし、ギュッと身をちぢこませる女性。
荒い呼吸を重ねる度に、短く揃えた黒髪が小刻みに揺れる。

「んっ……あ――ひっ!? なに、これ……い、いやぁ……」
隙間風めいた底冷えする寒気に襲われ、身動きがとれなくなる女性。
「あ、あぁあ……ひゃぁぁあぁ……!」
やがて震えは頂点に達し、ピンと背を仰け反らせて目を閉じてしまう。

「み、巫女さん……?」
男は巫女服の女性に向かって、恐る恐る声をかける。
既に身体からは力が抜け、だらんと首をうなだれて顔を伏せた状態になっている。
その表情は伺えないが――どことなく、"愉しそう"に笑っているような気がした。

「……あー、あー……うん。はい、なんでしょうか」
「え? あ、いやあの……大丈夫ですか?」
何事もなかったかのように、清らかな笑顔で応える女性。
軽い発作かなにかだったのだろうか……?

「ええ、大丈夫ですよ。ふふ、おかしなことをいいますねえ」
「そ、そうですか。それじゃあ、その……」
「はい、わかっています。"悪霊祓い"、ですね? こちらへどうぞ――」
「! は、はい! お願いします!」

先程の態度とはうって変わって、除霊に応じると言う巫女服の女性。
痩けた頬の男は、見出だした希望にすがるように、クスクスと笑う女性の後についていった――


「み、巫女さん!?」
社務所の裏、休憩所として使われている小さな部屋。
男を招き入れた女性は、内側から鍵をかけると――
「――ふふふ」
――服を、脱ぎ始めた。

「な、なにをするんですか!?」
「決まってるじゃないですか――"除霊"、ですよ?」
「だ、だからって――」
「これは除霊に必要な行為なんです、わかってくださいますね?」 「え、ええ――それは、はい――でも」
「――うふふ。それじゃあ、始めますね――」

ほどけた帯、はだけた白衣。ゆらりと男に近づいた女性は――
「えっ!?」
――男のズボンのチャックに手をかけ、手慣れた動きで引き下ろすと。
その白く綺麗な指先を奥へと伸ばし、男のダラリとした巨大な逸物を外へと引きずり出した。

「な、なにをするんですか――うっ!?」
チロチロと赤い舌先を這わせ、その逸物を的確に刺激していく。
「ん、んっ――ぢゅ……ずじゅっ――」
天を突くかのように屹立した黒光りする巨大な逸物を、舐め回し、啜り、ガポガポと音を立てて喉元を行ったり来たりする。

「うっ、こ、これ以上は――う、ぐっ――あああ」

ドゥブ、ドゥブ、デュルルルルッ!

粘りけに満ちた音を上げて、女性の口の中に噴出される濃白の液体。

舌を這わせ一滴残らず飲み干さんとするも、その小さな口には収まりきらず、溢れ零れて糸を引く。
すべて噴き出し頭を垂れるかに見えた逸物は、また息を吹き返しその堅さと勢いを取り戻す。

「う、あ……なっ! お、おい……!?」
口の端に白い糸を垂らす巫女服の女性は、その清らかな顔には似合わぬ品のない笑みを浮かべる。
そして押し倒した男の上に跨がり、濡れた緋袴の奥底にある一糸纏わぬ秘所に男を招き入れた。

「あっ……はぁ……っ! んんっ、あは、あは、あははははっ!」
一度たりとも男を入れたことのない小さな割れ目は、悲鳴を上げ赤い血を流し不躾な侵入者を必死に締め上げようとする。
ぐぐいと締め付けられかえって一層膨張した逸物は、女性の只中をひたすら無法に突き進む。

腰を上げ腰を落とし、幾度となく繰り返される上下運動に、双方ともに限界が近づくのは至極道理であった。

「……お、お前っ……まさかっ!」

快楽に呻き悶えながらも、何かを察したかのように目の前の女性を睨む男性。

「あははははぁっ、今頃……"気づいた"のかよォっ……んんんっ! あっ、ああっ、んあああんっ!!」
清廉な声で艶やかに嘲笑いながら、女性はきゅうと身を捩らせ、そして――

「んっ、んんっ……あ……んあああああああんっっ」
「く……ああ……うっ……あああああああああああ」

一組の男女は、同時に――果てた。


ぬっ、ずじゅっ、ごぽっ、たらぁ……。
力なく果てた逸物が引き抜かれ、赤の混じった白濁液が裂け目から滴り落ちる。
上気した頬、妖しげな目付き。ほどけかけたサラシからは、小振りで形のいい胸が顔を出す。

女性は男の腰に跨がったまま、己の乳房の先をくにゅくにゅと捏ね繰り回す。
あっ、と小さな声を漏らし、口の端から一筋の唾が垂れ落ちる。
「……うっ、ああ……」
滴った雫を顔で受け止めた男は、小さくうめき声を上げた。

「んっ……あっ……ようやくお目覚めかい、けけっ」
女性は胸元を弄ぶのを止め、意識を取り戻した男に顔を近づける。
「おまえ……やっぱり……いつから……どうして」
「はぁ、ヒトを"悪霊"呼ばわりするなんて、酷え奴だよ全く……こんな"いい思い"させてやってんのにさぁ」

奇妙なことを言う女性。男は掠れた声で、ただ懇願する。
「頼む……もう、やめてくれ……嫌だ……おれが……」
「そういやあこの身体、前の女の妹だったみたいだな。知ってたか?」
男の言葉を意にも介さず、女性はからかうような態度で話しかける。

「道理で体の感じが似てると思ったぜ……たまには胸の小せえ女も良いよなあ」
これ見よがしに胸元をチラつかせ、ツンと立った乳首を指で摘まんで見せた。
「――んあんっ! ……お?」
女性の股のあたりで、ピクンと動くものが一つ。

「へへっ、なんだ、もう復活したのか。若いねぇ」
「……ぐっ……違……」
「体なんて正直なもんさ。この身体も……んっ、濡れて……きたっ」
「……やめ……やめてくれ……もう、嫌だ……」
ぐいといきり立つ逸物、愛液を滲ます裂け目。男女の身体は再び、快楽を貪らんとその支度を進めていた。

「やめる?まさか! こんなに気持ちいいこと、止められるかよ!」
女性は狂笑しながら、血で穢れた秘所へと男の逸物をあてがい、腰をゆっくりと浮かす。

「だから――」
急に柔らかな声色になった女性は、清らかな微笑みを浮かべ――

「"わたし"と一緒に、愉しみましょう?」

はだけた衣装、穢された巫女、淫靡に嗤う女の姿。
”悪霊"は、男の"精気"を啜り上げた――

【男と悪霊】おわり
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