『魂の淫楽』
作:九重 七志
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立てた教科書、枕代わりの腕、机に突っ伏した坊主頭。
"それ"を俺は、"真上"から見下ろしていた。
――ああ、またか。
退屈極まりない授業の最中。
日頃の夜更かし疲れを少しでも癒そうと、古式ゆかしい至極堂々とした昼寝を決め込んだ俺は。
またもこうして、間抜け面で惰眠をむさぼる"魂の抜けた"自分の姿を、
ぼぅと揺らめきながら覗き込むことになったのだ。
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この体質に気づいたのは、いつの頃だったか。
とにかく俺は、こうして『魂を体の外に出す』ことが出来る様になっていた。
いや、出来る――というのも語弊があるか。
というよりは、"なってしまう"と言った方が、むしろ正しい。
俺は言うならば『寝ている時、たまに、幽体離脱してしまう』体質なのだ。
誰かに相談できるものでもないし、しようと思ったことはない。
ああ、とうとうアイツはイカれちまったのか、と憐れまれるだけだろう。
基本的には偶発的なものであるし、自分が好きなときにそう出来るようなものではない。
だが、やってみると、なかなかどうしてこれが案外楽しいものなのだ。
空中を自由自在にのたうつ感覚は、重力に囚われた人の体のままでは決して得られない感覚だろうし、
着替えも風呂場もトイレも自由に、覗きたい放題だ。
自由……そうであればどれだけ良かったか。
正確には、『この体から、そう離れてはいけない』ようだ。
前に一度。洋モノに憧れて、地球の裏側まで飛んでいこうと思ったが、残念ながら途中で引き戻されてしまった。
リードを首輪に繋がれた飼い犬のように、見えない紐で体と魂が繋がれてしまっているらしい。
残念だ。すごく、残念だ。
おっと、そんなことはどうでもいい。
なにより、折角の機会を無駄にするのは勿体無い。
どうせ体は眠っているのだ。
魂だけが少し遊んできたところで、別段疲れるわけでもない。
――楽しまなければ、損というものだ。
しかし、学校で幽体離脱するのは久しぶりだ。
それも授業中と来た。
仮に今が夏場であったなら、プールの底から目の保養と洒落込んでやる所だが、生憎と今は冬だ。
さあどうしたものかと辺りを見回すと、"おもしろいもの"が目に入った。
二つ結びの長い髪、前後に揺れる小さな頭。
瞼は落ち、握っていたペンは机に転がり、うとうとと微睡みの淵に落ちつつある。
――ああ、丁度いい。
この授業を退屈に思っていたのは、自分ひとりではなかったようだ。
幽体を動かし、彼女の――クラスメイトの
『雨城 沙苗(あまぎ さなえ)』の頭上に移動する。
こくこくと揺れる彼女の頭。
もう少しで、完全に眠りに入ってしまうだろう。
まだ、まだだ……もうすこし……。
揺れが緩やかになり、すぅと寝息を立て始める――。
――今だっ!!
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がくんっ!と彼女の体が揺れる。
周囲からは、ただのジャーキング現象……入眠時落下感、眠りに入る時のビクンッとした感覚……それとしか思えないだろう。
だが、実際は違う。
俺は"白く細い右手"を伸ばし、目の前に持ってくる。
握り、開き、グーとパーを何度か繰り返し、"きちんと動く"ことを確認する。
「……はぁ〜っ……」
次第に早鐘を打ち始める心臓の鼓動を宥めるように、ゆっくりと長い息を吐く。
"俺"の喉から発せられた音は、か細く、高く、"まるで女のよう"だ。
にやりと口角を上げ、口の端を歪める。
――なに、どこもおかしな事じゃあないさ。
"彼女"の綺麗な顔が、どこか下卑たニヤケ顔に歪む。
"俺"は声を抑えながらクククと笑うと、胸元にある大きな2つの膨らみを握りしめた。
「……沙苗の体……頂きィ……!」
周りに聞こえないように、小さな小さな声で。
今や"俺のモノ"となった"彼女"の、柔らかな声で呟いた。
――そう。
"俺の魂"は、"彼女の体"に乗り移ったのだ。
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もにゅ、もにゅ、もにゅと、制服の上から胸を揉む。
「……ぁっ……」
思わず、声が漏れる。
幸い、周囲には聞こえていないようだ。
じんわりと股間に熱が集まってくる。
今まで何度か女性に乗り移ったことはあるが、この感度は中の上ぐらいか。
意識のない相手にしか乗り移ることは出来ないのが玉に瑕だが……それでも、異性の体は新鮮で、楽しい。
もし何かあったとしても、所詮は他人の体だ。気にすることもない。
とはいえ、クラスメイトが相手では多少の手心も加えてやりたくもなるだろう。
いつもキィキィと喧しい女子だが、かといって特に恨みがあるわけではない。
……今回は、マイルドに楽しませてもらうとしよう。
むにゅっ……。
服の上からでも分かるその大きな双丘は、グニュィと掴むと跳ね返るような弾力で応えてくれる。
流石に男連中の間で話題の『胸のデカイ女子ランキング』の上位なだけはある。
野郎どもの羨望の的だ。
……それをいま、俺が"独占"している。
「……ぁんっ……」
それも、"彼女自身の快感"付きでだ。
――楽しくないわけがないじゃないか!
……おっと。
胸ばかり弄っていては、ちょっと不審に思われるかもしれないな。
そろそろ――下の方も、だな……へへ。
俺はとりあえず、『また眠くなってしまった』ような演技をする。
あくびをし、目を閉じかけたり、たまにガクンと体を震わせてみたり。
――まあ、こんなもんで大丈夫かな。
準備ができたということにして、俺は沙苗の大きな胸を、机に押し付ける様にする。
そして顔を落とし、自分の胸に頭が乗る位置へと持っていく。
どこかひんやりとした感触と、ふにゅっとした柔らかさを、彼女の頬で感じる。
制服のリボン越しに触れる魅惑の谷間は、少し汗臭く、蒸れていた。
「(おっぱい枕……自分でやると別に気持ちいいもんじゃないな……)」
まあいい、本番はここからだ。
これはあくまでカモフラージュにすぎない。
俺は机の上にあった、ボールペンを手に取り、口に咥える。
「(一応、湿らせといたほうが良いよな)」
沙苗の唾液まみれになったボールペンは、てろてろと厭らしい光沢を放ち始めた。
そして、消しゴムを床に落とす。
落とし物を拾う――ように見せかけて、腕を机の下へと下ろす。
そして、濡れたボールペンをスカートの中へと忍ばせた。
さて、準備は整った……。
胸を枕にして、顔を伏せ、手はだらんと下に垂れたままになっている。沙苗の姿。
すこし変ではあるが、突っ伏して眠ってしまっている……と言われれば、そう見えなくもない格好だ。
もちろん、やることは決まっている……!
「……ッッ! っふ……ぁ……」
左手でショーツの隙間を広げ、右手のボールペンを女陰に突っ込んだのだ。
もちろん、まだあまり濡れてない割れ目では、奥に入るはずもない。
だが、その周りを刺激することは出来る。
あまりにも硬質的な刺激に、より強い感覚は明らかに痛みだ。
だが、それを追って快感もやってくる。
「……ぁぁッ!!……」
漏らさないように、声に出さないように、必死にこらえながら股間を弄る。
女の子が一番厭らしく喘ぐのは、声を抑えて喘ぐ時だ。俺はいつもそう思っている。
くちゅり、くちゅり、くちゅりと、ボールペンは膣の周りを刺激していく。
「……んっ、んっ……ん……っ」
痛みは次第に快感で上書きされ、快楽だけがそこに残る。
位置を変え、刺激が広がる。
そして――
「……ひゃぁぁッ!?」
強烈な快楽が弾ける。
――Gスポットだ、間違いない。
本当にそんなものが有るんだな……などとどこか冷静な気持ちで思いつつも、体はどんどん熱くなっていく。
周囲はざわついている。教師は怪訝な目を向けて、一言。
『ちゃんと起きてなさい』そういうと、また面白くもない授業を再開した。
周囲からはくすくす笑いが聞こえる。
眠っていて「何か変な夢でも見たんだろう」と、そんな無邪気な解釈をされたのだろう。
偽装工作の甲斐があったというものだ。
これ以上、声をだすのは不味いだろうな。
そう思い、俺は沙苗の鞄の中を漁る。
あったのは可愛らしい刺繍のされたハンカチだ。
これを口に詰めておけば、とりあえず声は抑えられるだろう。
俺は沙苗の小さな口を開き、口の中にするするとハンカチを詰め込んでいった。
そして、再開。
先程見つけた、Gスポットを小刻みに刺激する。
「……ッッ!! ッッ!! 〜〜ッッ!!!」
全身が快楽に飲み干されるかのようだ。
たった一箇所から全身のあらゆる所に広がる快感。
それはもしかしたら、今まで乗り移った女性の中でも一番強いものかもしれない。
俺は、もう限界だった。
それは即ち、彼女の体が限界に達したことを意味している。
「……っ、っ! ……っ!」
「……ッ! ンン! ンン――ッッ!!!」
――そうして、俺は。
クラスメイトの沙苗の体で、 最高の絶頂 を迎えたのだった――
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チャイム音、昼休み、授業の終わり。
俺は自分の席で、爽やかな昼寝から目覚めた。
目覚めはスッキリ、夜遊び疲れも解消だ。
さて、沙苗はどうなったかな? と、後ろの方の席を見る。
目覚めたばかりの沙苗は、自分の体がひどく火照っていることに戸惑いを隠せないようだ。
机の上に落ちたハンカチがべとべとに濡れていることも、何が何だか分からないらしい。
沙苗が立ち上がろうとする。まあ、トイレだろうな。
――その時、何かに気づいたかのように、顔を真っ赤にして、ぺたりと椅子に座り込んでしまう。
ボールペンがまだ、挿さったままだったんだな。ハハッ。
しばらくスカートの中でもぞもぞと手を動かした後、慌てた勢いで立ち上がり、沙苗は教室から去っていった。
ヘヘ、あんだけ気持ちよかったんだから、まだ体は物足りないだろうさ。
トイレでまた、オナニーするかな? するだろうなぁ。ヒヒ。
そして、沙苗の周りの席の男子どもは、未だ席に座ったままだ。
……まあ、そりゃあ、立てねえよな、ずっと立ちっぱなしなんだから。ヘヘッ。
ああ、楽しかった……さぁて。
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――次の幽体離脱が、楽しみだ。
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【魂の淫楽】おしまい |