『標的は黒』
作:九重 七志


暗い部屋、揺れる蝋燭の火。
床に描かれた幾何学模様の円陣。

その傍らには、黒衣の少女
片目に当て物をし、何やら熱心に声を上げている。

「三柱合一たるエロヒムよ、
 群れたるエッサイムよ、
 我は求め、そして訴える」

そこで言葉を切り、目を見開くと。
一際大きい声で、最後の一節を詠唱する。

「我が呼び声を聞け――!」

一陣の風。激しく揺れる蝋燭。

ぼんやりとした光が部屋中に満ち、
円陣の中から蠢く大きな影が現れ――

――ない。

そんなものが現れる筈もない。
そんな非科学的な現象が起こりうる世界ではない。

ここは旧校舎の片隅、使われていないはずの廃部室。
制服の上に黒衣を纏った少女は、言うならば――

――ただの、厨二病だ。

……やれやれ、この先輩。
厨二病だとは思っていたが、ここまでやっていたとはね……。

俺は彼女を見下ろしながら、誰にも聞こえぬため息をつく。

まあ、だからといって特に支障があるわけでもない。

――今日の"ターゲット"お前だ、先輩。

俺はするりと宙を滑空し、彼女の背後に迫った――



幽体離脱薬

それを手に入れてから、の人生は変わった。

いや、表面的には何も変わっちゃいない。
傍から見れば、ちょっと昼寝の時間が増えたぐらいにしか思えないだろう。

だが、実際はそうではない。

幽体離脱。
文字通り、身体から霊体を切り離すこと。

まるで幽霊のように自由になった俺の霊体は、
他人の身体に入り込むことすら自由自在だ。

そして、その身体を乗っ取り奪い取り

本人以外には決して感じ得ない秘めやかな快楽を、
他人である俺が、楽しませてもらっている――という訳さ。

お堅い眼鏡の風紀委員オナニー漬けにしてやったり――

新米の女教師露出趣味に目覚めさせたり――

陸上部の女子の身体体力に任せた耐久オナニーをしたり――

遊んでそうで実は処女だった同級生筆おろしをして貰った事もあった。

とにかくそんな風に"ターゲット"を定めては、
女の身体の悦楽を、堪能させてもらっているのだ。

――さて。
そんなわけで、今日のターゲットだ。

名前は黒嶋 魅咲。三年の先輩だ。
どうやら部活動や委員会には所属していないようで、結果としてリサーチが遅れた形になる。

綺麗な黒髪を短く切りそろえたクール系の美人だが、
指ぬきの長手袋、夏場でも分厚い黒タイツ、
たまに左右逆につけた眼帯と、如何にもと言うか、
どこか痛々しい雰囲気を漂わせた危ない女だ。

だが、それでもスタイル抜群の美女には違いない。
せいぜい楽しませてもらおう。

俺はいつもの隠し場所に自分の体を横たえると、
甘苦く、形容し難い色合いをした奇妙な水薬を飲み干した――


「……失敗。また、上手くいかなかった……」

黒衣の少女はどこか消沈した様子で、
片手に持った過剰装飾の冊子を開く。

なにやらペンを走らせているところを見ると、
ノートか何かを綴り直したものなのだろうか。

「……呪文は完璧のはず。供物の不足?
 魔法円に問題はない。何か見落としが……?」

口元にペンの尻を当てながら、
ブツブツと独り言を漏らす少女

……ああ、全く。

――そんな心配、すぐにどうでも良くしてやるよ――

俺は薄揺らいだ口端を歪め釣り上げると、
彼女の白く光るうなじに手を伸ばし――

「……再検証が必要。
 もう一度魔術書の記述を――
 ――ひゃっ!?

――侵入を、開始した。


「!? ??? !!!?」

何が起こったのか分からない。
そんな表情をしているだろうな。

ああ、背後からだと顔が見れないのが少し残念だ。

まずは腕を先輩の身体に押し込み、
右手のコントロールを奪う。

とはいえ脳を掌握しなければ、
せいぜい動きを止める程度の意味しかない。

「……身体が、動かない――!!」

さあて、次だ。

まだ足は動かせるからな。
もしそれに気づかれたら、逃げられてしまう。

その前に、足のコントロールも奪ってしまわねば。

俺はジャンプするように足を浮かせ、
ズボンを履く要領で、腰から足先へと霊体を滑り込ませた。

「ひぁぁっ!
 なっ……なに、これぇ……」

口調が崩れてきたな……いいね、そういうのは堪らない。
"普段の態度"という仮面、これを引き剥がすのは大変な快感だ。

「やだっ、誰か、助けて……!!
 ……おねがい、誰か――」

だが助けは現れない。
――現れるものか。

好き好んで、こんな人気のない場所で。
たった一人で"何"をしてたか、考えてみるといいぜ。

「……ぁ……あぁ……う……」

抵抗が弱まってきた。もう少しだな。
俺は霊体の頭を、彼女の後頭部にねじり込む。

「――ぁッ!!!」

ビクンッと、彼女の身体が大きく跳ねる。
カッと目を見開いたのが"分かる"。

「……ぁ……あ……」

彼女の意識が刈り取られ――瞼がゆっくりと閉じる。

身体がグラリと揺れ、バランスを崩し、倒れそうになる――

「――! おっと……」

――ところを。"俺"は、足に力を込めて踏み留まる。

「んっ……! ――っとと……」

帰ってきた"重さ"の感覚。
しかしそれは、いつもの"それ"より遥かに軽く。

傾いた身体。乱れた呼吸。
荒い息を掻き出すごとに、揺れる胸元の膨らみ

肩に乗った厚い布の重み、細い足を締め付けるストッキングのむわりとした熱気。
うなじに触れるチクチクとした感触は、きっとその綺麗な黒髪が当たっているのだろう。

正面を見る。
――平面的だ、どことなく。
そう、まるで視力検査の時の――

「……ああ、そうだったな」

"俺"は左目に押し付けられた、邪魔くさいチャチなアイパッチを引き剥がす。
耳に引っかかり、少しゴムが伸びたが、そんなことはもう知った事か。

そして"俺"は、"彼女の顔"で、クールぶった彼女が"絶対にしないような表情"で、嗤う。

「――乗っ取り完了っ♪
 魅咲の身体、メチャクチャにしてくださいっ♪」

アイドルのするようなポーズ、眼帯を外した目でウインク、ワントーン高い媚びるような声。
そんな"彼女のアイデンティティを否定する"ような言動で、俺はある種の勝鬨をあげたのだった。


さて、準備は整った。
あとは、やるだけのことをするだけだ。

「さぁ〜て、まずは……」

下卑た表情、甘ったるい声。
俺は今、間違いなく彼女に成り代わっているのだ。

そして手でタイを外し、胸元を広げると、
中の下着の隙間から、細くきれいな手を差し込んだ。

「んっん〜、でっけえおっぱいだなぁ。さて、感度の方は――」

あ、ンッ――思わず溢れる喘ぎ声を、抑えるように押し留める。
この身体、思いのほか敏感だな……ヒヒ。

柔らかな乳房をムニュムニュと揉みほぐし、先端は見る間に固くなっていく。

「あぁあんっ……乳首ぃ、勃ってきちゃった……」

きっと彼女は、普段はこんな声を出したりしないのだろう。
そう考えると、ますます体の火照りが昂ぶってくる。

「ひゃぁんっ……ん……いいよぉぉ……」

……ん? いつの間にか、下半身に――どこか、濡れたものが触れる感覚がある。
俺は、緩みきった彼女の顔で、満面の笑みを浮かべる。

「あはぁ……もう、濡れてきちゃったぁ……魅咲、こんなにエッチな子だったんだぁ……」

俺は分厚い黒タイツを脱ぎ捨てると、びしょびしょになっていた下着に手を当て、撫でるように弄り始めた。

直ぐに、小さな塊に触れる。
そして――思い切り、こねくり回す。

「ひゃぁぁぁぁんっっ!!! いいっ! いいよぉ!! 魅咲はこんなに、エッチなことが大好きな女の子なのぉおおお!!」

湿り気がうっとうしい。もうこんなもの、取り去ってしまえ!

俺は下着を脱ぎ捨てた。
そして、可愛らしい彼女の小さな口の中に、愛液塗れでドロドロのショーツを含ませた。

じゅるり、じゅるり、じゅるり――

「ひあぁん……魅咲はぁ……魅咲はァ……
 自分のショーツをグジュグジュ食べてコーフンする、ヘンタイさんなんですぅ〜!」

クールな美女の姿て、演じる変態的な痴態。

――たまらない。

口の中に広がるのは、彼女自身の愛液の味。
正直、美味いのか不味いのかの判断はつかないが、その行為自体が興奮を促進する。

「ぁぁぁん……ほしい……欲しいよぉ……おち……ん……ちん」

興奮しきった彼女の身体が、その"穴"に入れる為のものを求め始める。

だが、近くには誰もいない。
俺の本体はいま保健室の中だ。

旧校舎に来る人間なんて誰もいない。

なら、玩具しかないだろう。

何か良い物は――おっと。

彼女の視線の先に、あるものを見つける。

……ケケ、素晴らしく準備が良いぜ。

「あぁん……偉大なる大悪魔さまぁ……いま、魅咲の血と、生命の雫を捧げますぅ――」

見つけたのは、先程の儀式に使っていたのであろう、邪神像。
見れば見るほど、丸く、硬そうで、つるつるで――熱り立った男根のような形をしている。

まあ、男根崇拝などというものは、どこの国にもあるものだろう。
そんなことはどうでもいい。いま、重要なのは――その形だ。

俺は彼女の身体を動かし、魔法陣の真ん中にしゃがみ込む。
そそり立つ邪神像の先端が、熱くほてった女性器に触れる。

「ひゃひっ!」

金属製の邪神像はとてもよく冷えていて、思わず変な声が出る。

だが、そんなことに構わず――

「んっ、んっ……」

開ききった女性器に、邪神像の頭部を招き入れ……。

「――!!!!」

思い切り座り込み、その全てを膣内へと丸呑みする!

ブチィ、ブチィと、何かが千切れるような音。
身体の中に、冷たい異物が入ってくる……違和感。

――そして。

「んぴぁやああああああああああ!!!!」

途方もない、痛み。

「……っぁああん! んぁんっ!! ああああああ!!!!」

そしてそれは次第に――

「ああああああっ……はぁぁ……ひいゃあああ……!」

快楽へと、変わる。

溢れ出る愛液の濁流に飲まれ、邪神像の凹凸がぐるぐると動く。

「ひゃぁぁぁん……あんっ……んあぁあああん……」

もはや座ってすらいられない快感に、彼女の体はごろんと床に転がり。

俺は――彼女の体から、はじき出された。


……ふぅ〜……まあ、こんなものか。

眼下には、周囲にドロドロの液体を撒き散らしながら、ビクビクと痙攣する魅咲の姿。

もちろん、普段のイメージと繋がるはずもない痴態だ
よし、これなら、上出来だろう。

――ククク、楽しかったぜ、魅咲 せ・ん・ぱ・い!
昔っから、悪魔への供物といえば、処女の生血って相場は決まってるもんなァ!
もしホンモノの悪魔が呼べたら、教えてくれよなァ!
そうでなくても、また身体を貸してもらうけどなっ!

俺は誰にも聞こえない高笑いを飛ばしながら、自分の体のある保健室へと飛び去っていったのだった――







【標的は
    おわり







――しかし、彼は、気づいていなかった

部屋を飛び去るその瞬間

幾何学模様の円陣が、にわかに光を放ち始めたことに――

【おしまい】
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