憧れの美少女とストーカーの入れ替わり

 作:verdsmith7


幸里ちゃんは皆からの憧れの存在だった。
僕自身今のアイドル以上に可愛いと思っている。
でも単に見た目が美人なだけじゃない。
性格も優しくて常に誰かの為に率先して動ける人でもある。
だから男女問わずに人気があった。
僕の手に届くはずのない存在だ。

学校や地域で話題の美少女ともなればテレビに呼ばれるのもおかしい話ではなかった。
噂では街を歩いていた所をスカウトされたらしい。
そう、彼女はタレントとして活動していた。
CMやドラマにも出演し雑誌に取り上げられる事も少なくない。
テレビを点ければ毎日どこかの番組で顔を見ることができた。
名前は知らなくても顔は知っているという人も多い。
あの時出した写真集が今も大事に持っている。
ところがある事件を機に芸能界を去って行った。
当時は皆がそれを知ってショックを受けた。

幸里ちゃんは今は普通の女子高生として過ごしている。
テレビに出なくなった後も未だに人気は高いし今でも多くの人から復帰を望まれている。
僕は今そんな皆が憧れる幸里ちゃんと一緒に歩いている。
少し前までなら考えられないぐらいに凄い事だ。
内気で目立たない僕が彼女といられる。

僕が幸里ちゃんの顔を覗き込むとニコッと微笑んでくれた。
その表情は僕を簡単にドキドキさせた。
こんな間近にいられるなんて、しかも顔が近い。
そんな憧れの彼女の手を握っている。
しかも軽く触れる程度なんかじゃない。
しっかりとお互いの指を絡めて手の平をくっつけ合っている。
柔らかくて暖かい綺麗な幸里ちゃんの手をこうやって握っている。
彼女の手の温もりが直に感じられた。
僕は必死で幸里ちゃんの歩幅に合わせた。

「また一緒に映画を見に行こうね」
幸里ちゃんは嬉しそうに映画へ誘ってきた。
勿論断る理由なんてない。
「うん、ちょうど見たいのがあるんだ」
休日に映画に行く事を約束した、これは正確にはデートの約束だ。
次の休みが楽しみになった
その後もしばらく僕と幸里ちゃんは学校であった出来事を話したりしていた。
僕の話を聞いて幸里ちゃんが嬉しそうにすると僕まで笑みがこぼれてしまう。
クスクス笑うその表情から目が離せない。
口の中に見える白い歯もその可愛い顔を引き立てる。
ずっとこの時間を楽しみたいと思った。
周囲からすると僕達は付き合っているように見えるだろうか。
こうして手を握って楽しくお喋りをしている。
しばらく僕は幸里ちゃんとの会話を楽しみながら歩いた。

僕達は大きな通りから外れた裏道を通っていた。
この辺りは人通りが少ない。
次第にすれ違う人は減り風景も寂れてきた。
知っている人はここへは近寄らない。
それに治安も悪く尚更避けるべき場所と認識されている。
よく事件が起きている事も有名だ。
少し前には強盗事件があった。
本来なら僕達が通る場所ではない。
でもあえて僕達はそこを歩いた。
もう周囲には誰もいなくなってしまった。

僕達の周りに誰もない。
これを求めて僕と幸里ちゃんはここに来ていた。
「もう誰もいないよね?」
「うん、誰もいないよ」
僕と幸里ちゃんはもう一度周囲を見回した。
すると終始にこやかだった幸里ちゃんの表情が変わった。
「ふう、やっと誰もいなくなったか。笑顔を作るのも大変なんだよな」
それは僕が言ったのではない。
僕の隣にいる幸里ちゃんの口から出ていた。

「やれやれ毎日憧れの美少女をやるのも大変だな」
僕の手を離すとそう言って大きく背伸びをした。
首を左右に振りコキコキと骨を鳴らす。
「はあ、おっぱいがでかいのも苦労するぜ」
そう言って幸里ちゃんは胸を持ち上げた。
その光景に僕の股間が反応した。
口では不満を言いつつニヤニヤとした表情を浮かべている。
さっきまでとは明らかに雰囲気が変わった。
「さっき俺達の前を歩いてきたおっさん、絶対俺を見てたな。へへ、見た目に騙されやがって」
人を見下したかのような言い方をした。
「まったく皆が憧れる美少女の生活ってのもだりいよな。いっつも誰かに見られるし、話し掛けられるし落ち着く暇がないぜ」
可憐な見た目に反して口汚い。

「無理はしないでね」
「おいおい、俺は幸里ちゃんなんだぜ。皆の憧れの幸里ちゃんが無理なんかするかよ。それにしても女子の制服は慣れねえな。スースーして落ち着かねえしよ」
幸里ちゃんはスカートの裾を持った。
ストーカを短くしていたせいで幸里ちゃんの可愛い下着が見えてしまっている。
「ちょ、ちょっと見えちゃってるよ」
慌てて僕は隠すように注意した。
それなのに幸里ちゃん自身は気にしていない。
むしろ更に見せる為にスカートの裾を持って上げるぐらいだ。

「誰もいないからやってるんだろ。今日はちょっと暑かったからな」
明らかに僕が戸惑っているのを面白がっている。
僕の目の前でブレザーを脱ぐとシャツのボタンを外し始めた。
プチプチとボタンが一つずつ外れていき中が見えていく。
そこには幸里ちゃんの白い肌とブラが見えた。

「え、何をしているの!?」
「ああ、窮屈だったからな。」
「だ、だめだよ。そ、それを外しちゃ・・・あ!?」
言ってるそばからブラのホックを外してしまった。
「これの外し方も完璧だな。ふう、やっと楽になったぜ」

胸を固定していたブラが外されて包んでいた胸が丸見えになってしまった。
僕は慌てて視線をそこから逸らした。
「男のお前には分からないだろうが一日中これしてるの結構辛いんだぜ。ふう、この解放感がたまんねえな」
振り返ると幸里ちゃんはブラジャーを指でくるくると回していた。
シャツの下は何も着けてないので当然胸が丸見えになっている。
僕はなるべくそこを見ないようにした。
幸い周囲には誰もいない。

「は、早くそれを隠してよ」
せめて何かで隠してほしい。
僕の理性がどうにかなってしまいそうだ。
それにもしこの状況で誰か来たらどうするのか。
「なんだよ、これぐらい何度も見てるだろ。ったく、うるせえな」
ぶつぶつ言いながらもやっとシャツのボタンをしてくれた。
やっと直接見ることはできなくなり僕は視線を幸里ちゃんに戻せた。
それでも胸がシャツの上から透けて見えてしまっている。
なるべくそこを見ないようにした。

「ふぃー、学校終わりの乳揉みは最高だな」
安心したのも束の間だった。
幸里ちゃんは僕の目の前で胸を揉み始めた。
「ちょっと、外でそんな事しないでよ!」

幸里ちゃんは僕にブラジャーを投げてきた。
「ほら、お前はこれで楽しんでな。匂いを嗅ぐなり触るなり好きに使いな。何なら下の方も渡してやろうか」
幸里ちゃんはノーブラの胸を揉みながらそう言った。
「まったくもう・・・」
僕はそう吐き捨てながら渡してもらったブラジャーを見つめた。
寸前まで幸里ちゃんの胸を包み込んでいた物だ。
当然まだブラの生地には温もりが残っている。
僕はそれを顔に当ててたっぷりと残り香を吸い込んだ。
とてつもない良い香りがする。

そう今までならこんな事ができるはずがない。
だけれども今の幸里ちゃんとならそれができる。
なぜなら彼女は幸里ちゃんであって幸里ちゃんでないからだ。




その日僕は帰りが遅くなっていた。
そして近道をする為にここを通っている。
普段なら絶対に近寄らない場所だ。

すると前方で人影が見えた。
僕は警戒した、もしかしたらそれほど注意する必要はないかもしれないが場所が場所だ。
犯罪に巻き込まれないとも言い切れない。
こんな事なら遠回りになったとしても人通りの多い方を歩けば良かったと今更思った。
最悪なのはそこを通り抜ければ家までもうすぐという事だった。
ここまで来て引き返したら更に帰る時間が遅くなってしまう。
僕は仕方なくこのまま進むことを選んだ。
この先に人がいるのは間違いない。
何事も起きない事を願いながら近くへと向かって行った。

念のために僕はこっそりと物陰から遠くを確認してみた。
そこにいたのは幸里ちゃんだった。
遠くから見てもすぐに分かった。
アイドルのような顔にモデル並みのスタイル、腰まで掛かる長くて綺麗な髪はここからでも視認できた。
制服を着て学校の鞄を持っていることから帰っていたのだろうか。
でもどうしてこんな所にいるのだろうか。
そう思っていると近くにもう一人の人物がいる事に気付いた。

何やら話をしているようだが相手は男性のようだ。
地味な服装に清潔感のない顔をしている。
言っては悪いが冴えない雰囲気が漂っている。
幸里ちゃんとは明らかに不釣り合いに思えた。
そんな二人が何をしているのか僕は興味本位で遠くから眺めていた。

目を凝らして見ると幸里ちゃんと話している男性には見覚えがあった。
そしてその男が幸里ちゃんのストーカーだという事を思い出した。
かつては幸里ちゃんがテレビに出ていた頃の熱心なファンにだった。
最初は純粋に応援する程度だった。
でも次第にその行動はエスカレートしていった。

恐らく他のファンと同じく幸里ちゃんと交流したかったのだろう。
ただその限度を超えていた。
楽屋だけでなく家の前や学校にまで押しかけてきた。
当然幸里ちゃんは迷惑がったがストーカー行為が止まることはなかった。
その一方的すぎる行為により幸里ちゃんはストレスで押しつぶされてしまいそうになっていた
もちろん警察には何度も相談した。
しかし、いくら注意しても捕まえられても反省する気はなかった。

自分だけでなく家族や友人にまで迷惑を掛けられた事に幸里ちゃんは我慢の限界が来た。
幸里ちゃんは遂にテレビに出なくなった。
テレビに出なくなったのもそのストーカーのせいだというのは有名だった。
その原因を皆知っているからかつてのファン達からはもちろん学校の生徒もそのストーカーを憎んだ。
それなのにも関わらず未だにストーカー行為を繰り返していた。

学校にまで現れたことがあり大騒ぎになったこともなる。
幸里ちゃんを盗撮しようとして女子更衣室にいる所を見つかって警察沙汰になった。
だから校内でもその存在は有名で顔も悪い意味で覚えられている。
見かけたらすぐに先生に言うか警察に連絡するように注意されている程だ。

そんなストーカーが幸里ちゃんの目の前にいる。
ただ事ではない事はすぐに分かった。
遠くなので二人の会話はよく聞こえないが何やら言い争いをしているようだ。
幸里ちゃんは怒りながら男の人に何かを喋っている。
ここからでもその気迫が伝わってきた。
でもストーカーはそんな状況にも関わらずなぜか笑っていた。

見るとストーカーは股間を膨らませていた。
何で興奮しているのかは明らかだ。
幸里ちゃんも相当に警戒している。
ストーカーはニヤニヤと薄気味の悪い笑みを浮かべながら幸里ちゃんに近づいていった。
後ずさりをする幸里ちゃんだが後ろの壁がそれを阻んだ。


ストーカーは懐から何かを取り出した。
それはどうやら飲み薬のようだ。
何の薬かは分からないが緑色をしている。
そして蓋を開けると飲みだした。
その隙に幸里ちゃんは逃げようと駆け出した。
一瞬逃げ切れると思った。
しかし、後少しという所で腕をストーカーに掴まれてしまった。

捕まえられた幸里ちゃんは激しく抵抗している。
腕をばたばたと振った。
何度かその手がストーカーの顔に当たるも本人は気にも留めていない。
そしてストーカーは幸里ちゃんの身体を引き寄せた。
身体を密着させる。
ストーカーと幸里ちゃんの胴体や股間がくっつき合った。


そしてストーカーは次にその汚い顔を幸里ちゃんの綺麗な顔へと寄せていった。
幸里ちゃんの驚愕の表情が浮かぶ。
はっきりとは見えないがここまでそれが伝わってきた。
そして遂に幸里ちゃんとストーカーの唇は重なってしまった。
幸里ちゃんはストーカーキスをされてしまった。
その瞬間幸里ちゃんの肩に掛かっていた学校の鞄が地面に落ちた。
見ているこっちの方が苦しくなる光景だ。
幸里ちゃんは汚いストーカーにキスをされていた。
唇を重ねられながらも幸里ちゃんはストーカーから離れようとしている。
でもストーカーは幸里ちゃんの背中に腕を回して抱きしめて身動きができない。
このままじゃ危ない、僕じゃなくても誰にの目から見てもそう思えただろう。
それまでを目撃していた僕は遂に動いた。
ポケットの中にあったスマホで警察に電話をした。

幸里ちゃんが目の前で襲われている事を早く言わないといけない。
その焦りから僕も慌ててしまい警察に上手く説明できない。
電話に出てくれた女性が落ち着くように言ってくるが、とても落ち着ける状況じゃない。
僕もパニックになっていた。
ここの場所を伝えようにも正確な住所が分からなかった。
目印になる建物を探して何とか大体の場所を伝えることはできた。


僕が警察に電話をしている間にも幸里ちゃんはストーカーに唇を重ね続けられていた。
見るとストーカーは幸里ちゃんに口移しで何かを流し込んでいた。
幸里ちゃんも必死に抵抗するが重ねられた口が離れることはない。
むしろストーカーに力づくで身体を引き寄せられて更に密着させられていた。
事情を知らなければ恋人同士が激しいキスをしているようだ。
勿論現実は真逆で幸里ちゃんはストーカーに襲われている。

僕が電話をしながらも心の中で幸里ちゃんを応援するも無駄だった。
遂には幸里ちゃんの喉に何かが流れ込んでいくのが見えた。
何かを無理矢理飲まされている。
少しずつストーカーの口の中にあったものが幸里ちゃんの身体の中へと流れ込んだ。
すると幸里ちゃんの様子が変わった。
諦めてしまったのか目を閉じて苦しそうにしている。
その時になってやっと僕は警察に早く来るように伝え終わった。
そして一刻も早く警察に来てくれと願った。
しかし、未だにパトカーのサイレンの音さえ聞こえてこない。

その時僕は妙な事に気付いた。
さっきまでストーカーが無理矢理幸里ちゃんにキスをしていた。
それなのに今はまるで幸里ちゃんの方がストーカーに積極的にキスをしているようだ。
心なしか顔も喜んでいるように見えた。
逆にストーカーの方が嫌そうにキスをしていた。
僕はその光景をそれ以上見ていたくなかった。

警察はまだ来ないのか。
その時どこからともなくサイレンの音が聞こえてきた。
しかし、まだ遠方なのか微かに響いている程度だった。
ここに到着するまではまだ時間は掛かりそうだ。
僕は居ても立っても居られなかった。
このまま助けに行こうと思った時だ。
突然幸里ちゃんはストーカーを突き飛ばした。
さっきまでしっかりと抱きしめられていたはずなのに不思議な程あっさりと振りほどいた。
意外だったが僕はホッとした。
ストーカーは転んで痛がっている。
これはまたとないチャンスだ。
あとは幸里ちゃんが逃げれば大丈夫だ。
もうすぐ警察もやって来る。

でも幸里ちゃんは逃げる様子はない。
幸里ちゃんは袖で唇の周りを拭く余裕さえ見せている。
僕はそれを不思議に思っていると倒れていたストーカーが起き上がってしまった。
しまった、これで幸里ちゃんがまたストーカーに襲われると思った。
しかし、幸里ちゃんはともかくストーカーの方も動く様子はなかった。
なぜか幸里ちゃんを見つめるだけだ。
二人の様子がおかしい。
どこがとは正確には説明できない。
さっきまでとは違うと僕には分かった。
幸里ちゃんは笑いながら、ストーカーは驚きながらお互いを見ている。
すると幸里ちゃんは笑みを浮かべながら自分とストーカーの指を交互にさした。
するとストーカーは更に驚愕した表情になった。



何がどうなっているのか僕には理解できなかった。
二人の声もここからでは聞こえないので何を喋っているのかさえ分からない。
分かっているのは何かが二人に起きているという事だけだ。
ストーカーは再び幸里ちゃんに襲い掛かろうとした。
僕はまた捕まると思った。
しかし、幸里ちゃんは身軽な身体でサッと避けることができた。
避けられたストーカーは勢いよく転んでしまった。
それを見て幸里ちゃんはクスクスと笑っている。

なぜか幸里ちゃんにキスをしたストーカーの方が凄く怒っていた。
突き飛ばされて逆ギレをしていのかもしれないがどうもそれが原因ではないらしい。
そして逆に今まで怖がっていたはずの幸里ちゃんは喜んでいた。
よく分からないが起き上がったストーカーは幸里ちゃんに詰めよった。

幸里ちゃんは余裕の表情で避けようとしたが間一髪の所で腕を掴まれてしまった。
それが予想外だったのか幸里ちゃんの表情は一気に変わった。
そしてなすすべもなく幸里ちゃんはストーカーに押し倒されてしまった。
さっきのキスをする前と同じ光景が広がっている。
幸里ちゃんは抵抗しようと暴れているがストーカーの方が力が上だった。
再びあの惨劇が繰り返されるのは時間の問題だ。
しかもこのままではさっきよりも酷い事になるかもしれない。
それほどストーカーの表情は怒りに満ち溢れていた。
ストーカーは幸里ちゃんに馬乗りになると顔を近づけていった。

幸里ちゃんの悲鳴がここにいる僕にも聞こえた。
それが僕を駆り立てた。
僕は幸里ちゃんを助ける為に走りだした。
「うああ!」
僕がストーカーに敵うかどうかさえ分からない。
でも助けたい一心で飛び出した。
「うああ!幸里ちゃんから離れろ!」
幸里ちゃんに襲い掛かっているストーカーに僕は全速力で体当たりをした。
「え!?」
ストーカーは幸里ちゃんに夢中だった為完全に無防備だった。
全身に衝撃が走った。
幸里ちゃんの上にストーカーは吹き飛んだ。
僕も当たった際に地面に転んでしまった。
僕はすぐに立ちあがった。

「うう・・・」
ストーカーは地面で呻いている。
痛みのせいか動く気配もない。
その隙に僕は幸里ちゃんの元へ駆け寄った。
「はあ、はあ、さ、幸里ちゃん、大丈夫?!」
「・・・」

幸里ちゃんの反応はなかった。
僕の顔を呆然と見つめているだけだ。
でも怪我はしていないようだった。
「幸里ちゃん、大丈夫だよ、僕が守るから!」
自分の言葉とは思えないセリフが口から出た。
そして倒れている幸里ちゃんに手を差し出した。
「え、ああ、うん・・・」
幸里ちゃんは頷くと僕の手を掴んだ
僕は幸里ちゃんを起き上がらせた。
でも幸里ちゃんはまだ状況が理解できていないようだ。


「うう、いたた・・・」
腕を手で押えながら痛そうにストーカーが起き上がった。
幸里ちゃんを僕の後ろに隠すとキッと睨んだ。
さっきみたいな不意打ちはもうできない。
最悪僕が時間稼ぎをする。
それで幸里ちゃんが逃げる事ができれば本望だ。
このまま身を挺して守る。
僕にもう迷いはなかった。
ストーカーを睨みつけて身構える。
「ちょっと待って!そいつは・・・」
ストーカーは何かを叫ぼうとした。
でも、その時にパトカーのサイレンの音でかき消されてしまった。
到着した警察官が降りてストーカーに駆け寄った。
その時のストーカーの表情は不思議だった。
一瞬警察を見るとなぜか安心した表情になった。
しかし、警察から取り押さえられそうになると絶望の表情になっていた。

「え!?ちょ、ちょっと、ち、違うんです!」
ストーカーは諦めが悪く尚も言い訳をしている。
そんな事を言っても誰も信じてくれないのにまだ何かを言い続けている。
結局ストーカーは大人しくなる事はなく集まった警察によってパトカーに無理矢理乗せられる形になった。
その間ずっと騒がしくなった。
今も乗せられた車の中でも何かを喚いているようだ。
でも何を言っているのか分からないし聞きたくもない。

僕はパトカーに乗せられたストーカーを睨みつけてやった。
こんな奴が幸里ちゃんを襲ったのか。
それはもはや哀れな男だ。
なにせ僕は一部始終を全部見ていたんだ。
言い逃れなんてできるはずがない。
するとストーカーは僕に気付くと何か言ってきた。
でも車の中にいるのでよく聞き取れないので何を言っているのかまでは分からない。
ストーカーの言おうとしている事だ。
大した事ではないだろう。
きっと僕への恨みつらみを吐いているだけに違いない。
僕が聞こうとしない事が分かると今度はストーカーは悲しそうに僕を見つめてきた。
でも謝ったところで遅いし今更許すつもりもない。
今まで散々幸里ちゃんを困らせてきた上に今日は襲ってきたんだ。
幸里ちゃんにあんな事をしたというのに本当に許せない。




変な事といえばさっきから幸里ちゃんの様子がおかしかった。
どことなくだが学校での印象やいつもの雰囲気とは違う気がした。
まあ、ストーカーに襲われたのだから無理もない。
ショックを受けて取り乱しているのかもしれない。
いつもと違うのは当然だ。
僕はそう納得した。

すると警察が僕達に話しかけてきた。
事件について聞きたいらしい。
勿論僕は幸里ちゃんの為に全部話すつもりだ。
しかし、幸里ちゃんは違った。
「後は任せた」
僕にそう言うと少し離れた場所に立ち去ってしまった。
「え、ちょっと!?」

僕は警察の相手をするように頼まれた。
それはいいが被害者の幸里ちゃんの話が一番大事なはずだ。
そこで僕は思った。
まだ落ち着いて話せないのかもしれない、それかさっきの出来事を思い出したくないのだろう。
だから僕は代わり起こった出来事を全部警察に話した。
これで少しでも罪が重くなればいい。
二度と幸里ちゃんに近寄れないぐらいずっと刑務所に入ればいいと思った。

結局僕がほとんど警察に事情を話した。
そして今までの出来事を話しながら幸里ちゃんの様子を確かめた。
幸里ちゃんは僕達から少し離れた所にいた。
余程怖かったのだろうと思ったが、見た感じそれほどショックを受けているようには見えない。

幸里ちゃんは何かをしているようだ。
手を眺めたかと思えばスカートを気にしている。
突然自分自身を抱きしめた。
あんな事があった直後だ
まだ動揺しているに違いない。

だから警察にはできる限り僕が説明してあげた。
当然起こった事は全部話した。
これで罪が少しで重くなればいいと思った。
二度と幸里ちゃんに近づかせたくなかった。


落ち着くにはまだ時間が掛かるかもしれない。
なぜなら時折身体を小刻みに揺らしているからだ。
近くにいうとまだ震えているのが見えた。
それに鼻を鳴らしている音まで聞こえる。
きっと泣いているに違いない。
僕は今はまだ一人させておくべきだと思ってその場を離れた。




「警察の人が話したいって」
そう言われた幸里ちゃんは明らかに嫌そうな顔をした。
「ごめん、さっきの事を思い出すのは嫌かもしれないけど。これも幸里ちゃんの為だから」
僕は何とか幸里ちゃんを説得した。
そして渋々話す事に納得してくれた。
それでも幸里ちゃんは終始面倒そうに警察に話していた。

とりあえず警察とのやり取りを終えた。
集まった警察の人も少しずつ減ってきている。
幸里ちゃんは笑っていた。
やっとストーカーが捕まって喜んでいるのだと思った。
パトカーの中ではストーカーが相変わらず恨めしそうに僕達の事を見つめてきた。
特に幸里ちゃんへの視線は異様だった。
逆に幸里ちゃんはそんなストーカーに手まで振っている。
パトカーが動き出すと最後に投げキッスをしていた。
やっと僕達はストーカーから解放された。
これでやっと全部解決したと思った。

「へへっ」
幸里ちゃんは笑っているようだ。
ストーカーが捕まって喜んでいるのだろうか。
「じゃ、じゃあ、帰ろうか。送っていくよ」
家の人を呼ぼうと思ったけど幸里ちゃんはそれを断った。
家族に心配を掛けたくないのだろうか。
でもこれから一人で帰らせるのも不安だ。
さっきあんな事があったばかりだ。
せめて送ってあげないといけないと思った。
「ねえ、幸里ちゃん、どうしたの?」
「・・・」
幸里ちゃんは僕が呼んでいるのに見向きもせず何かを考えているようだ。
真剣な表情で眉間に皺までできている。
「幸里ちゃん?」
「ん、幸里ちゃん?ああ、今は幸里ちゃんだったな・・・」
まるで他人の名前で呼ばれているような反応だった。
「幸里ちゃんか・・・ねえ、もう一度俺、いや、私の名前を呼んで」
「え、うん、いいけどどうしたの幸里ちゃん?」
僕が幸里ちゃんの名前を口にすると幸里ちゃんは笑った。
「幸里ちゃんか♪」
幸里ちゃんはそう言ってクスクスと笑いだした。
ただ「幸里ちゃん」と呼ばれただけなのに嬉しそうにしている。
やっぱり幸里ちゃんは変だ。
疲れているせいだと思った。
だとすれば早く休んだ方がいい。

「ねえ、今日はもう帰ろうよ。送っていくからさ」
「ふふ、ねえ、それよりお前、いや君の部屋に行っていい?」
「え!?」
さっきあんな事があったばかりだ。
今日は早く家に帰ってゆっくりした方がいいに決まっている。
僕は無理にでも家に送るつもりだった。

「助けてくれたお礼がしたいの。ねえ、行っていいでしょ?」
女の子からのお礼を期待しない男はいない。
それが好きな子なら尚更だ。
僕に断ることはできなかった、それに断る理由もなかった。


歩き始めて少しして僕は不思議だった。
どうしてさっきから手や腕の匂いを嗅いでいるのだろう。
「スーハー」と吸う音が聞こえる。
ストーカーに抱き着かれて気になっているのか。
それに嬉しそうに腕や脚を触っている。
さっき横目でチラッと見た時は胸を揉んでいるように見えた。
でもはっきりと見て確認したわけじゃない。
僕は幸里ちゃんとこうして一緒に歩くだけでいっぱいだったからだ。
それらを気にする余裕なんてなかった。
直視なんてできなかった。
それに時間が経てばいつもの幸里ちゃんに戻るだろうと思っていた。




僕の家に幸里ちゃんが来る。
こんな事なら前の休みに部屋を片付けておけばよかった。
事前に分かっていたら絶対に掃除はしていたはずだ。
日頃から綺麗にしておかなかった自分が憎い。

「どうぞ、散らかってるけど・・・」
ゴミ屋敷という程ではないが漫画やゲームの箱が散らばっていた。
まあ、普通の男子の部屋らしい状態だ。
「なんだよこれ、汚ねえな」
部屋に入るなりストレートに言われた。
できれば聞き間違いだと思いたい。
でも実際そうなんだから仕方がない。
今度からは部屋を定期的に掃除する事を心に誓った。
それに幸里ちゃんはさっき大変な目に遭ったばかりだ。
そうだ、きっと疲れているせいだ。
「ごめん、すぐ片付けるよ」
僕は慌てて部屋を綺麗にしようとした。


「いや、それより一人にさせてくれ」
「ねえ、本当に大丈夫?やっぱり家に帰った方が・・・」
心配になって声を掛けてみた。
「うるさいな!今良い所なんだよ!」
何もしてないのに怒鳴られてしまった。
「ご、ごめんね。あんな事があったからまだ不安だよね」
「え、あ、ごめんね。お願いだからちょっと一人にさせて」
すると幸里ちゃんも悪いと思ったのか謝ってきた。
「うん、分かった。何かあったら呼んでね」
僕は幸里ちゃんに気を遣いそそくさと静かに部屋を出て行った。
一人になりたいのは分かる。
とても怖い思いをしただろう。
少し時間を置いて戻ってこようと思った。



部屋から離れようとしたが僕は気になった。
幸里ちゃんの様子がどこかおかしい。
扉を少し開き部屋の中をこっそりと覗き込んだ。

幸里ちゃんは僕のベッドに腰を掛けていた。
見た所さっきとは変わらない。
相変わらず腕を顔に押し当てていた。
やはり余程ショックだったのだろう。
僕に見られないように泣いているのだと思った。
しかし、それは違った。

幸里ちゃんは泣いているのではなく自分の腕の匂いを嗅いでいた。
僕にもはっきりと聞こえるぐらいに「スースー」激しく吸っている。
「ああ、何度嗅いでもどこを吸っても良い匂いだ」
まるで香水を嗅いでいるようだ。

「そういえばこれが俺の声か。女の声で喋るのって変な感じだな。まあ、悪い気はしないな。あー、あー、私は幸里です。おー、幸里ちゃんの声で喋るのやばいな。おっとあまり騒ぐとあのガキが戻ってくるかもしれないからこれぐらいにしておくか」
そう言うと声を小さくした。
「さて次はこの身体のチェックでもするか」
次に幸里ちゃんはなぜか鏡を覗こうとしていた。
何をしているんだろう。
鏡に写っている幸里ちゃんの顔をじっと見つめている。
身なりを整えようとしているのかと思った。
でも髪や服装を整えようとしているわけじゃない。
幸里ちゃんは顔を右に向けたり左へ動かしたりしている。
自分の顔のはずなのに何をあんなに驚いているのだろう。

「これが俺の顔か。はは、本当に幸里ちゃんの顔になってやがる」
幸里ちゃんが鏡の中の幸里ちゃんの顔を見て喜んでいる。
それは不思議な光景だった。
自分の顔のはずなのに幸里ちゃんは物珍しそうに顔を触ったり指で突いたりしている。
「いてて、ああ、良かった。やっぱり夢じゃないんだな」
その後も頬を撫でたり引っ張ったりする。

次に鼻を触ったり摘まんだりした、そして鼻の中を覗いた。
「綺麗な鼻だよな。結構高いし、ふーん、俺と違ってやっぱり鼻毛もないな。見えない所までちゃんと綺麗にしてるんだな。鼻くそさえ見えねえぞ」
鼻の中を覗いている。
普段の女の子がしている見てはいけないものを見てしまっているような気がした。
でも僕はそのまま部屋の中にいる幸里ちゃんを眺め続けた。

「やっぱり柔らくてサラサラの髪だな。まあちょっとうざいけど幸里ちゃんの大事な髪だから大切にしてやるか」
そう言いながら髪を引っ張ったりしている。
「それにこんなに髪がくっ付いてるのも久しぶりだからな。色んな髪型に変えてみるのも面白いかもな。ああ、幸里ちゃん、幸里ちゃん・・・」
鏡に写った自分に向かって幸里ちゃんは自分の名前を愛おしそうに呟いた。
そして鏡に近づくと更に言葉続いた。
「ああ、凄く可愛いよ。もう我慢できない」
幸里ちゃんが鏡に写った自分を褒めながらキスをしている。
鏡の表面は幸里ちゃんの唇の後が付けられていった。
「好きだよ。これからはずっと一緒だね」
幸里ちゃんは自分自身に向けてそう言った。
どうして幸里ちゃんはさっきから笑いながら自分の身体を見ているのだろう。
取り乱しているからとかもはやそんな問題ではない。
まるで別人のように振舞っている。

「前より身体が軽いな。ん、ここだけ妙に重いぞ。ああ、これが幸里ちゃんのおっぱいってわけか。おお、本物だ。おほっ、これが幸里ちゃんの胸だ。う〜ん、これが俺のおっぱいか。女はこんなのがくっ付いているんだな」
鏡の前で胸を持ち上げた。
大きな胸が幸里ちゃんの手に押し上げられる。
こぼれ落ちそうな大きさで手に乗っている。
幸里ちゃんは興味深そうにそれを見つめた。
「おお、思ってたより大きいな」
制服の上から胸を触った。
その途端に幸里ちゃんの口元が緩んだ。
可愛い笑顔というより下品な笑みだ。
口の端を吊り上げてニヤニヤしている。
「っへへ、柔らけぇな。今日から触り放題だ。何度も幸里ちゃんのおっぱいを触るのを妄想したけどやっぱり生は想像以上だな。おお、揺れる揺れる。折角こんなに良い物持ってるのに見せないなんて勿体ないよな」


「俺がスカートを履いてるのも変な話だよな。女装してる気分だ。でも似合ってるからいいけどよ」
スカートの中に手を入れてしまった。
ごそごそと何かを探しているような手つきになった。
「おっ!?やっぱりチンポはねえか。まあ当たり前だよな。あれがなくなったのは少し残念だけど、これからはこれで楽しむんだから仕方ないよな。さて、じゃあ、幸里ちゃんのを拝むかな」
幸里ちゃんがスカートを脱ごうとした時だ。
「ん?へへっ、おい、こそこそと何を見てるんだよ」
運悪く幸里ちゃんは後ろで覗いている僕に気付いてしまった。
「あーあ、見られちまったか。もう少し幸里ちゃんのフリをするつもりだったんだけどな。おい、入って来い。二人で話そうぜ」


部屋に入った僕と幸里ちゃんが二人っきりになった。
これはもしかして幸里ちゃんのイタズラかと思った。
このまま二人きりになって良い雰囲気にして僕を揶揄ってくるのではないか。
そして僕が戸惑う所を楽しむつもりだと・・・
でも残念ながらこれは幸里ちゃんのイタズラではないとすぐに分かった。

まず幸里ちゃんは扉に鍵を掛けた。
「よし、これで邪魔は入らないな」
そして部屋に置いてある僕の椅子にドサッと座った。
弾みでギシッと大きな音が鳴った。
今の幸里ちゃんには普段の物静かな感じはない。
見た目こそいつもの幸里ちゃんだがまるで不良のような雰囲気が漂っている。
「これは冗談かイタズラだよね」
「冗談じゃねえよ。だから何度も言ってるだろ。俺と幸里ちゃんは入れ替わったのさ」
幸里ちゃんは面倒そうに僕にそう答えた。
振舞い方だけでなくその口調まで不良の男子のようだ。
これが幸里ちゃんの演技であれば相当なものだ。

「う、嘘だよ、だってそんな事できるわけ・・・」
「それができるんだよ。おかげで持ってた金を全部使っちまったけどな。まあ幸里ちゃんの身体に比べたら安い物だけどな」


今度は足を組んで座り乱暴な口調でそう言ってのけた。
僕にスカートの中が見えても恥ずかしげもなく話し続けた。
「ははっ、まさかストーカーの俺を助けてくれるなんてな!いや本当に助かったぞ。おかげで邪魔者は消えて俺は晴れて幸里ちゃんの身体を手に入れることができたんだからな」
ニヤニヤと人を見下すような笑みをして幸里ちゃんがしないような表情を浮かべる。
それはストーカーが幸里ちゃんと入れ替わる前に浮かべていたものにそっくりだった。
「そ、そんな、それじゃあ本物の幸里ちゃんは・・・」
「ああ、お前が警察を呼んで捕まえたのは正真正銘本物幸里ちゃんさ♪可哀そうに今頃ストーカーとして檻の中だな」
僕はそれを聞いて愕然とした。
まさか僕が助けようとした幸里ちゃんが偽物だんて、しかも捕まえたのが本物の幸里ちゃんだったなんて・・・
今までの記憶が頭に蘇る。
僕は幸里ちゃんがキスをされて襲われていたから助けたかっただけだ。
そういえばあの時から幸里ちゃんとストーカーの様子がおかしくなった。
そして僕はそのストーカーを傷つけたり酷い言葉を浴びせた事を思い出した。
「幸里ちゃんの事で気に病んでるのか?安心しろ、これからは俺が新しい幸里ちゃんになってやるんだからな」
その言葉に怒りを覚えた。

「今すぐ幸里ちゃんを元に戻せ!」
僕は幸里ちゃんに怒鳴った。
正確には幸里ちゃんの身体を奪ったストーカーだ。
「そんなでかい声だすなよ。それに今から警察に行ってさっき捕まえた男が幸里ちゃんだって言うのか?」
「くっ・・・」
「まさかストーカーの俺を助けてくれるなんてな。お前には感謝してるぜ。なにをお前のおかげで幸里ちゃんの身体を手に入れられたようなもんだからな」
「う、うるさい!いいから幸里ちゃんを元に戻せ!」
半分は僕のせいかもしれない。
でもそうは思いたくなかった。
だから、僕は幸里ちゃんの身体になったストーカーに迫った。
あの愛らしい幸里ちゃんが今は憎らしく思える。
「大人しいくせに幸里ちゃんの事になるとムキになるな。そんなに幸里ちゃんのことが好きだったのか?」
「え、い、いや、それは・・・」
幸里ちゃんの顔でそれを言われると何も言い返せない。

「やっぱりな、あ、そうだ・・・ふふ、実は今まで言ったことは嘘なんだよ」
幸里ちゃんは突然口調を変えた。
「お、お前はストーカーだろ?!」
「何を言ってるの?この顔にこの身体、私が幸里だよ」
その喋り方はいつもの幸里ちゃんに思えた。
「え!?」
「ふふ、私のストーカーの演技上手だったでしょ。でもお芝居は終わりよ。次はストーカーから私を助けてくれた君にお礼をしないとね」
幸里ちゃんが可愛い顔で身体を近付いてきた。
僕は後ずさりしたが幸里ちゃんはどんどん近くに来る。
とうとう壁に追い詰められた。
少しでも動けば触れてしまいそうな距離まで迫られていた。
こんなに幸里ちゃんの顔を近くで見たのは初めてだった。
幸里ちゃんは僕の事をジッと見つめてくる。
幸里ちゃんが呼吸をすると僕に暖かい息が掛かった。
髪からはシャンプーの香りがする。
幸里ちゃんの身体の匂いがはっきりと感じられた。
そして僕は女の子に対しての免疫がなかった。
それに異性と交際したこともない。
そんな僕がこんな状況になれば緊張で動けなくなってしまったのも無理はない。
自分でも顔が赤くなっていくのが分かる。

「実は私ふざけてただけなんだよ。私は幸里よ。それにさっきお礼をするって言ったよね」
幸里ちゃんは目を閉じると唇を僕に差し出してきた。
「ほら♪」
僕の目の前にピンク色の瑞々しい幸里ちゃんの唇が待っていた。
幸里ちゃんはゆっくりと僕にそれを近づけている。
このまま何もしなくても唇は重なるのは時間の問題だ。
それからすぐに何かが唇に触れた。
しかし、それは幸里ちゃんの唇ではなかった。
僕の唇に触れたのは幸里ちゃんの唇ではなく幸里ちゃんの指だった。
「ぷっははは!」
突然高笑いを始めた。
「はは、本当に分かりやすい奴だな」
そこで僕は騙されたのだと気付いた。

「くっ、いい加減にしてよ!」
僕は遂に怒った。
さっきから揶揄われてばかりだった。
「おいおい、そんなに怒るなよ。ちょっと揶揄っただけだろ。それに言っただろ。お礼をしてやるって、この幸里ちゃんの身体でな♪だからお願い、皆にはこの事は黙っておいてね」
顔をぐっと近づけて上目遣いで頼んできた。
幸里ちゃんの手が僕の手を握ってきた。
憧れの幸里ちゃんが僕の手を触っている。
そう思うと僕の身体が熱くなってくる。
少なくとも僕は緊張していた。
あの幸里ちゃんが僕にこんな事をしてくる。
騙されちゃダメだ。
見た目は幸里ちゃんでも中身はあのストーカーだ。
僕は必死に自分へ言い聞かせた。

幸里ちゃんが身体を寄せてくる。
近づくにつれて僕の心臓はどんどん激しく動いた。
良い匂いがした。
女の子特有の甘い香り、しかもそれは好きな女の子のものだ。
意識しなくても勝手に鼻へと入ってくる。
しかも僕は無意識の内にどんどん吸い込んでいた。


「私の事好きなんでしょ。だったら今は私のやりたいようにやらせて」
「な、何を言ってるんだよ!?お前は幸里ちゃんじゃない。幸里ちゃんの身体で勝手に変な事をするな!」
いくら幸里ちゃんの身体を使っているからといっても所詮中身はストーカーだ。
「ねえ考えてみてよ。前の幸里ちゃんが君みたいな童貞君にこんな事をしてくれる?今の私だからこうしてあげてるんだよ」
恐らくそれは正しい、今までのままなら幸里ちゃんとこんな事をしてもらえる前に会話すらできなかっただろう。
「ね、我慢しなくていいんだよ。私を受け入れてくれればいいの。そしてこれは私と君だけの秘密にするんだよ」
「や、やめて、う!?」
僕が喋ろうとしたら幸里ちゃんの手で口を塞がれてしまった。
「ほら良い子ぶんなよ。今は大人しく幸里ちゃんに気持ち良くさせられろよ。同じ日陰者同士仲良くやろうぜ。それにお前にとっても悪い事じゃないんだ」
口から手を離すと今度はその手で頬を撫でてきた。
「ふふ、野郎が俺の顔を見てそんな反応をするのは新鮮な気分だ。やっぱり美少女の顔は得だよな。なあ、そう思うだろ」
幸里ちゃんは満面の笑みを浮かべながらそう言った。

「ねえ、私と良い事しようよ。私、今すごくエッチな事したい気分なんだ」
わざとらしいぐらいに甘えた声で言った。
そして僕を物欲しそうに見ながら制服を脱ぎ始めた。
「え、ちょっと待って!」
僕が止めるのも聞かず着ていたブレザーを脱いでしまった。
すぐに白いシャツ姿になってしまった。
まだ脱げきってもないのに僕の心臓は激しく鳴っていた。
女の子の着替え自体見たことがない。
それを今目の前で見せられている。
しかも服を着るのではなく脱いでいく。
でも当然そこでもまだ終わらない。
幸里ちゃんは笑みを妖しい浮かべながらシャツのボタンをプチプチと外した。
シャツの下からはブラジャーと幸里ちゃんの綺麗な肌が見えた。
「ああ・・・」
僕は言葉を失ってしまった。
そして止めることもできず幸里ちゃんが脱いでいくのを見る事しかできなかった。
幸里ちゃんの下着姿を妄想したことはいくらでもある。
でも僕の妄想と実際に見るのとでは全然違った。
可愛らしいブラジャーに包まれた幸里ちゃんの豊満な胸がこれでもかと強調されている。
そして僕はその胸の谷間に視線を集中させてしまった。

次にスカートを下ろすとあっという間に幸里ちゃんは下着姿になってしまった。
残すはブラジャーとショーツだけだ。
「は、早く何か着て!」
我に返った僕はこのまま見たらダメだと思い視線を逸らしながらそう言った。
その時僕の背中を温かい物が覆ってきた。
僕は幸里ちゃんに下着姿のまま抱き着かれていた。
「君になら見られてもいいよ。それにこの身体を好きにしていいよ♪」
耳元でそう囁かれた。
そして息を吹きかけられてしまった。
全身ががゾワゾワする。
「ねえ、こっちを見てちゃんと私を見て」
この幸里ちゃんを抱きたい。
そう思って一瞬気を許してしまった。
僕は言われた通り振り返った。

「わっ!?」
突然僕の視界が反転した。
何が起こったのか分からない。
すると頭上に幸里ちゃんの可愛い顔が現れた。
「な、何を!?」
僕は幸里ちゃんに押し倒されてしまっていた
すぐに幸里ちゃんが僕の太ももの上に跨ってくる。
幸里ちゃんの生足が僕の太ももに重なった。
それだけで僕の身体が熱くなった。
「ははっ、またあっさり騙されやがった。やっぱり幸里ちゃんの顔だと男はすぐに油断してくれるな。いや、お前が幸里ちゃんに無防備すぎるのかもな」
意地悪そうな笑みを浮かべている。
「なな、何をしているの!?」
「言っただろ、お礼がしたいって。だからこうしてやるのさ」
「ちょ、ちょっと!?」
幸里ちゃんは下着姿のまま僕に上から抱きついてきた。
温かい幸里ちゃんの身体が僕を包んでくるようだった。
「あ、ああ!?」
緊張しすぎて声すら上手く出せなかった。

女の子と抱き合ったことなんか一度もない僕にとってこれはとてつもない事だ。
僕は必死で意識しないようにした。
でもそんなのは何の意味もない。
身体が熱くなり僕の呼吸はどんどん激しくなる。
抱き着いてくる幸里ちゃんに何もしないだけで精一杯だった。


やっと幸里ちゃんの身体が離れた。
「おい、大人しいと思ったらこっちはガチガチにしてるじゃないか」
大きくなった僕の股間を触って笑ってきた。
「なんだ結局幸里ちゃんの身体目当てか。助けた幸里ちゃんにエッチな事をしてもらいたかったんだろ。夢が叶ってよかったな」
「ち、違う!僕はただ幸里ちゃんを助けたかっただけなんだ!」
「下手な言い訳すんなって。男なら誰でも思うことだろ。それにこんなにチンポをガチガチにでかくしてよく言えるな」
幸里ちゃんは僕の大きくなった所を触ってきた。
「幸里ちゃんに触ってもらえてるんだ。勃たないわけがないよな。おっ、まだまだ大きくなるな。ほらほら♪」
幸里ちゃんが触れば触るほど僕の股間はむくむくと大きくなる。
別に大きくしたいわけじゃないのに勝手に膨らんでいく。
憧れの女の子にこんな事をされたら何も感じないはずがない。
「幸里ちゃんにこんな事してもらえてお前はラッキーだな」
「うるさい、お前は幸里ちゃんじゃない」


「おいおい。これは正真正銘幸里ちゃんの身体さ。だからお前は今幸里ちゃんに気持ち良くしてもらってるんだ。だから俺に感謝しろよ」
「あうう!」
幸里ちゃんの手が僕の股間をひときわ強く握りしめた。
僕は耐えられず情けない声を出してしまった。
「おいおい、変な声を出すなよ。萎えちまうだろ」
幸里ちゃんがつまらなそうに手を離した。

このまま冷めてやめてくれたら助かる。
でも目の前の幸里ちゃんは一向に僕から離れようとしない。
さっきから何かを考えているようだ。
少ししてから幸里ちゃんはまたニヤニヤと笑いながら僕に言った。
「そうだ、ゲームをするか」
それが楽しいゲームでないという事はその表情からすぐに分かった。
「ゲーム?」
「ああ、お前が黙ってたら最後までやってやるよ。声を出したけりゃ出していいんだぜ。その時はお前の人生が終わるけどな。俺は幸里ちゃんのフリをしてお前に襲われたって言ってやる」
それは幸里ちゃんが勝手に決めたルールだった。
「何で僕がそんなことを!?」
そんなの僕がやるはずがない。
「おっとお前が逃げたり嫌がったらすぐに叫んでやるからな。耐えたら天国、我慢できなかったら地獄が待ってるんだ。どうだ、おもしろいだろ」
聞いてて僕にとっては面白い要素は何もなかった。

だがゲームはすぐに始まりそうだった。
幸里ちゃんの手がまた伸びてくる。
そして僕の股間の上に乗せてきた。
幸里ちゃんが僕の上にいるので逃げることもできない。
僕に選択する権利はなかった。

「じゃあ、ゲーム開始だ。今から一言も漏らすなよな」
すぐにズボンの上から僕の股間を撫でてきた。
股間の表面に沿って生地の上から触っていく。
するとまた僕にとてつもない刺激が股間から溢れてきた。
僕は頑張って口を塞いだ。
一声も漏らさないように手で口を押えた。

「ああ、本物の幸里ちゃんならこんな事絶対してくれないよな。ほら!」
そう言って掴んでいる手をぎゅっと握った。
股間が締め付けられると同時に刺激が伝わる。
「!?」
危うく声を漏らしてしまう所だった。
代わりに身体をビクビクと揺らしてしまった。
「ん、随分大人しくなったな。さっきまでの威勢はどこにいったんだよ?ああ、そうか今はゲームの最中だったな。ならもっと気持ち良くさせてやるか」

まるで快感を絞り出されていくようだ。
嬉しくないはずがない。
だって憧れの幸里ちゃんにこんな事をしてくれているんだから。
でも目の前にいるのは幸里ちゃんじゃない。
幸里ちゃんの身体を奪ったストーカーだ。
それなのに僕は幸里ちゃんの見た目をしたストーカーに気持ち良くさせられている。

「どんどん大きくなるな」
僕の股間が大きくなるのを見て喜んだ。
こんなのを見られて僕は凄く恥ずかしい。
幸里ちゃんは僕の股間が大きくなるのを嬉しそうに眺めながら触り続けた。
その間も僕は耐えることしかできない。
一言も漏らさないように必死で頑張った。
気が緩むと口から声が出てしまいそうになる。
それでもまだ耐えていた。
「へえ、意外と我慢強いな。じゃあ、これでどうだ?」

幸里ちゃんは僕を無理矢理座らせると背後に回った。
すると僕の背中に何かが当たった。
柔らかくて丸みを帯びたもののようだ。
でも僕の後ろには幸里ちゃんしかいない。
そこで僕は理解してしまった。
当たっている物の位置から想像できるものは一つしかない。
「やっと分かったか。それは幸里ちゃんのおっぱいだよ」
背中に当たっているのは幸里ちゃんの胸だった。
また身体が反応してしまう。
勿論股間にもすぐ伝わっていき幸里ちゃんにも知られてしまった。

「これで驚いているようじゃ先は長くないぞ。それじゃあ後半戦をしていくか」
言い終わると同時に後ろから幸里ちゃんの手が伸びてきた。
綺麗な手が僕のズボンに入っていく。
手がお腹に当たりくすぐったいと思ったのも束の間だった。
それはとうとう僕ののパンツの中に手を入れてしまった。
「!?」
僕の大きくなった股間を幸里ちゃんの手が直接触れた。
「凄く大きい。それに凄く熱くなってるよ。ほら撫でてあげる」
すべすべの柔らかい幸里ちゃんの手が股間に触ってくる。
今まではズボンの上から触られていた。
それが今は幸里ちゃんの手が直に当たっている。
それを敏感になった僕の股間が感じとってしまう。

「うふふ、そんなに息を荒くしちゃって凄く気持ち良さそうだね」
僕は手で口を塞いで必死に耐えていた。
それでも手の隙間から息が漏れてしまう。

「それじゃあゲームももうすぐ終わりだね。頑張って最後まで我慢してね」
そう言って幸里ちゃんの手の動きが変わった。
ただ手で撫でるだけじゃない。
長い指を絡めながら上下に手を動かした。
力もさっきより入っている。
それはもう僕の股間から全てを搾り取るような感じだった。
先端を優しく手が包み込んできた。

憧れの女の子にされて長く耐えられるはずがない。
なんとか我慢していたがすぐにそれも終わりを迎えた。
幸里ちゃんの手に掴まれたたまま僕は盛大に出してしまった。
終わってしまった焦燥感が僕を襲ってくる。
もう少し幸里ちゃんにして欲しかったと思ってしまう。
すぐに出してしまった自分が情けない。
でも幸里ちゃんは僕が出し切ったのを見て嬉しそうに言った。
「最後まで静かにできたね。ああ、そうだ。ゲームは君の勝ちだね。私も楽しかったよ。これはご褒美だよ」
僕は頬にご褒美のキスをされた。
幸里ちゃんの柔らかな唇が触れた。
「ふふ、それにしてもいっぱい出しちゃったね♪」
履いたまま出したので部屋はそれほど汚れなかった。
でもズボンと下着と幸里ちゃんの手には白い液が掛かっている。

「はあ、はあ、ど、どこに行くの?」
息も絶え絶えでやっと出た言葉がそれだった。
幸里ちゃんはティッシュで僕の股間から出た白い液を拭き取ると立ち上がった。
「勿論俺の新しい家に帰るんだよ、幸里ちゃんとしてな。お前は散々楽しめただろ今度は俺が楽しむんだ、幸里ちゃんの身体でな♪」
もう僕にはいかされて体力がない。
普段の運動不足のせいもある。
追いかけたいのに追いかけられない。
幸里ちゃんはそんな僕を嬉しそうに見下ろしながら鞄を拾うと嬉しそうに言った。
「それじゃあこれからもよろしくな♪じゃあね、今日は楽しかったよ♪」
最後に幸里ちゃんらしく僕に別れを告げるとそのまま部屋を出て行ってしまった。



夕食を終えお風呂に入った僕は冷静になった僕は今日の出来事を思い返した。
まさか幸里ちゃんの身体がストーカーに入れ替えられてしまった。
そして幸里ちゃんは警察に捕まりストーカーは幸里ちゃんの身体を手に入れた。
ありえない光景と出来事に僕は混乱した。
良かった出来事や悪かった出来事が頭の中でぐちゃぐちゃになっている。
そういえば中身はストーカーとはいえ幸里ちゃんとこんなに話したのは初めてだ。
同じクラスなのにほとんど会話をしたことはない。
更にはあの幸里ちゃんが僕の部屋に来た。
そう考えると感慨深くなった。
ほんの少し前までここに幸里ちゃんがいた。
まだ部屋の中に幸里ちゃんの残り香がある。

股間に触れられていた幸里ちゃんの手の感触が忘れられない。
いや忘れられるはずがない。
僕の憧れの女の子なんだ。
そう思うとまた大きくなってしまった。
僕は股間に手を伸ばした。
幸里ちゃんがしたように動かす。
そして頬に触れた幸里ちゃんの唇を思い出した。



まだ眠気が取れない。
昨日はあまり寝られなかった。
あんな事があった後だ眠る余裕なんてなかった。
寝不足なせいか身体が重い。
外は晴れて爽やかな朝となっている。
通りには学生や社会人がいつも通り登校や通勤している。
そんな光景を見ていたら昨日の出来事が夢だったのではないかと思えた。

そもそも人の身体が入れ替わるなんて非現実的なことが起きるはずがない。
そうだ、きっとあれは夢だ。
学校に行けばいつも通りの幸里ちゃんがいるはずだ。
そして会話はしないけどさり気なくその姿を目に焼き付ける事ができる。
そんな僕の日常がいつも通りになるだけだ。
そんな事を思いながら僕は朝食を食べていた。
すると玄関の呼び鈴が鳴り母親が出た。
しばらくすると戻って来た母親にこう言われた。
「幸里ちゃんていう子が迎えに来てくれてるわよ。可愛い女の子ね。昨日も遊びに来てたけどいつの間に仲良くなったの?」
食パンを口に入れたままの僕に嬉しそうに言ってくる。
「どうして幸里ちゃんが!?」
僕は急いでパンを口に詰めると着替えをした。
すると母親に身なりが汚いからと注意された。
「女の子の前なんだから綺麗にしておきなさい」
そう言って僕の寝ぐせや制服の皺を伸ばした。
母親の勘違いも甚だしい。
僕に可愛い彼女ができたと思っているのか妙に嬉しそうにしている。


幸里ちゃんが迎えに来てくれたと聞いて嫌な予感がした。
いつもの幸里ちゃんなら絶対に僕の家に立ち寄ることなく学校へ向かうはずだ。
そう、本来なら幸里ちゃんはここへやって来るはずがない。
僕が玄関に出るとそこにいたのは他でもない幸里ちゃんだった。
「おはよう」
眩しい笑顔を見せられた僕は挨拶を返すのでやっとだった。
「お、おはよう」
凄く嬉しそうに笑みを浮かべて僕を見てくる。

「幸里ちゃん?」
「じゃあ、二人ともいってらっしゃい。車には気をつけてね」
僕が幸里ちゃんに呼びかけようとしたら母親にそれを邪魔されてしまった。
「はい、ありがとうございます。じゃあ、行こうか」
幸里ちゃんは母親と軽く挨拶をすると僕と一緒に外へ出た。

「どうしたの?早く行こうよ。」
「え、う、うん・・・」
その光景は普通のものに思えた。
幸里ちゃんもいつも同じように見える。
少なくとも昨日おかしくなった幸里ちゃんの雰囲気はない。


幸里ちゃんとの登校が始まってしまった。
そもそも誰かと一緒に学校へ行く事自体がない。
いつも一人だった。
それが今日は随分賑やかになっていた。
なにせ僕の隣には幸里ちゃんが歩いている。
そして同じ学校へと向かっていた。
「ねえ、幸里ちゃん」
「うん、何か話したいことでもあるの?」
幸里ちゃんは僕の方を向いてそう言った。
「い、いや別に・・・何もないよ」
本当にこれはストーカーではなく幸里ちゃんなのだろうか。

道を歩いていくと人通りが少なくなってきた。
そして行き交う人が見えなくなった時だ。
「な、やっぱり誰も気付かなかっただろ」
二人っきりになると突然幸里ちゃんはそう言った。

「何驚いた顔してるんだよ。昨日散々見てたし説明を聞いただろ。俺だよ」
その乱暴な男口調は昨日散々聞かされた。
見ると表情もあの下品な笑い方になっていた。
「まさか、やっぱり・・・」
「もしかして昨日のが夢だと思ったか。残念だったな。この通り俺は幸里ちゃんの身体のままさ」

どうやら幸里ちゃんの家族も中身が入れ替わっている事に気付けなかったらしい。
それはストーカーが幸里ちゃんの身体になってから今まで誰も気付かなかったという事だ。
「幸里ちゃんの振る舞い方や喋り方はちゃんと観察してたからな。家族関係や友人関係も全部知ってるぜ。ま、幸里ちゃんの友人にお前は入ってなかったけどな」
それを聞いてムッとした気分になる。
言いたい事を言ってくれる。
確かにそうかもしれないが直接言われると腹が立った。


「そうだ、どうだ、幸里ちゃんの制服姿可愛いだろ」
ストーカーは幸里ちゃんの身体や服を自分のモノのように自慢してきた。
「感想はどうだ?」
分かりきってるくせにあえて僕に尋ねてきた。
「べ、別にいつも見てるし・・・」
確かに同じ学校なので当然幸里ちゃんの制服姿はいつも見ている。
でもこんなに近くで堂々と見ることはなかった。
でも身体も制服もいつもと同じはずなのにどこか違う。
幸里ちゃんの表情なのか制服の着こなし方のせいなのか。
そういえばスカートの丈はいつもより短い気がした。
そのせいで脚がいつもより長く感じた。
「見たけりゃ見ていいんだぜ」
「や、やめてよ!他の人が見たらどうするのさ!」
幸里ちゃんはスカートを捲ろうとしたので僕は慌ててそれを止めた。
本当に心臓に悪い。

「こうやって下を見れば幸里ちゃんのおっぱいが見えるんだ」
襟元を引っ張って中を覗き込んだ。
「お前も見てみるか?良い眺めだぞ♪」
見せつけて来ようとした。
「い、いや、いいよ!」
僕はまたも慌てて止めた。


下手をすれば昨夜一緒にした事以上に緊張する。
本音では幸里ちゃんと一緒に登校する事自体は凄く嬉しい。
ただしそれは本物の幸里ちゃんであればの話だ。
今の彼女の中身は幸里ちゃんの身体を奪ったストーカーだ。
見た目こそ本物だが断じて僕の隣にいるのは幸里ちゃんじゃない。
他人の身体を平気で奪う奴だこれから何をしでかすか分からない。
たとえ身体が幸里ちゃんだとしてもだ。
今は幸里ちゃんの姿で僕を油断させているだけかもしれない。
僕は気が気でならなかった。

幸里ちゃんの身体になったストーカーは嬉しそうに僕の隣で歩いていた。
僕はそれを隣でチラチラと気づかれないように眺めた。
見た目だけはあの憧れの幸里ちゃんそのものだ。
でもその雰囲気や仕草は違っている。

「見ているだけでいいのか?」
その言葉に僕はドキッとした。
見ると幸里ちゃんはまたニヤニヤとしている。
「こそこそ見すぎなんだよ。そもそもそれでバレてないつもりかよ」
心の中を読まれているのかと思った。

「ほら手を貸してやる」
さっと幸里ちゃんの腕が伸びた。
そして一瞬で僕の手を掴んだ。
「え!?な、何をするの!?」
「驚きすぎだろ。手を繋いでるだけじゃないか。でも幸里ちゃんにこうしてもらえて嬉しいだろ」
僕の手を握ったまま満面の笑みを浮かべた。
その表情にドキッとしてしまう。
手に変な汗が流れたので、それが気付かれないでくれと願った。
そう、手を繋いで一緒に歩いているだけだ。
それだけのはずだ。

幸里ちゃんの手が僕の指先や手の平がくっつく。
密着することで手の温もりや肌の瑞々しさが伝わる。
誰がストーカーなんかと手を繋ぐものか。
本心ではそう言ってやりたい。
でも差し出した幸里ちゃんの綺麗な手がそうさせてくれない。
何とか理性を振り絞ってさり気なく手を離そうとした。
しかし、幸里ちゃんは僕の手に深く絡んだ上に力強く握ってきた。
「へへっ、お前といると本当に退屈しないな」
笑顔でそう言われた。
中身はストーカーなのにそう言われて嬉しくなってしまった。
「じゃあ、行くか。学校に遅れちまったら幸里ちゃんの評判も落ちるからな」
僕は幸里ちゃんと手を繋いだまま学校へと向かった。



「おお、若い身体になったせいか世界が違って見えるな」
幸里ちゃんの姿で嬉しそうに歩いている。
中身がストーカーでなければ僕も一緒に楽しく歩けただろう。
そう、僕の隣にいるのはストーカーで幸里ちゃんじゃない。
これから何が起きるのか僕は不安でいっぱいだった。
心配になりながら歩く僕とは逆に幸里ちゃんの方は鼻歌まで歌っていた。

「ふああ・・・」
歩いていると幸里ちゃんは眠そうに大きなアクビをした。
普段の幸里ちゃんなら口の奥が見えるような下品なアクビを絶対しない。
ただのアクビ一つでも気になってしまう。
「ふああ、昨日は興奮して全然眠れなかったぜ。まあおかげで幸里ちゃんの身体を楽しめたけどな」
僕の方を見ながら思い出すように語った。
「お前の部屋でやった事なんて比べ物にならないぞ。鏡を見ながら恥ずかしそうに脱いだら本当に幸里ちゃんがそうしているように見えるんだ。女の身体は男と全然違うんだ。まあ、聞けよ、幸里ちゃんの綺麗な声だ。ずっとこれで喋ってたんだ。俺の名前を呼んで好きだと言ったり卑猥な言葉を言ったりしてな。お前の名前も呼んでやろうか?」
それを聞いた僕は幸里ちゃんがオナニーをする姿を妄想してしまう。


「昨日はこれを揉みまくったんだ。凄く良かったぞ」
ブレザーの下から盛り上がっている幸里ちゃんの胸をさした。
「や、やめろ!そんなの聞きたくない!」
「そんな事言ってさっきからしっかり聞いてるな。このムッツリ野郎♪なら、これでどうだ。幸里ちゃんのここすっごく感じやすいんだぜ」
幸里ちゃんの股間を僕の足に押し付けてきた。
「幸里ちゃんのここすっごく感じやすいんだぜ」
「くっ!うう・・・」
僕は聞いて堪えるしかなかった。
こんなのが学校に到着するまで続くかと思った。
すると突然幸里ちゃんは離れていった。
見ると周囲には僕達と同じ制服を着た生徒達が歩いていた。
学校に近づいたからだ。
「ふふ、残念だったな。でもお楽しみはちゃんと後に残しておいてやるよ。さあ今日から通う学校を楽しむか」
まだ何かをしてくるようだ。
でも今はまだその時ではないのかそれ以上は何もしてこなかった。

学校が更に近づいて来る。
他の生徒達の数も多くなってきた。
流石に人前ではストーカーとしてではなく幸里ちゃんとして振舞っていた。
それを見て少しだけ僕は安心できた。
幸里ちゃんの身体で変な事をして評判を落とすのではないかと心配だったからだ。

すると学校の生徒達が僕達に気付き始めた。
「幸里ちゃん、どうしてあいつと一緒に登校しているんだ?」
そんな声が聞こえてきた。
僕が幸里ちゃんと一緒にいる事が不思議がられているようだ。
普段なら一緒にいるどころか話しさえする事もない。
そんな僕が幸里ちゃんと登校している。
話題にならないはずがなかった。


「おはよう、幸里ちゃん」
挨拶をしてきたのは幸里ちゃんの友人だった。
「おはよう♪」
幸里ちゃんは嬉しそうに挨拶を返していった。
それはいつも幸里ちゃんがしている光景と同じだった。
でも周りに人がいなければ幸里ちゃんの顔はストーカーの表情になった。
「本当は挨拶とか学校なんて面倒だけどな。でも幸里ちゃんとして学校生活をするなら別だよな。ここが俺が通う学校か。今日から学校生活を楽しむかな。幸里ちゃんとして♪」
出席確認では先生が幸里ちゃんの名前を呼んだ時はひと際大きな声で「はい♪」と嬉しそうに返事をした。


教室に入った時からストーカーの事件が噂になっていた。
学校では勿論事件として話題になっていた。
誰に言ったわけでもないのに皆が昨日幸里ちゃんがストーカーに襲われた事件を知っている。
でも、肝心な部分を皆知らない。
僕だけがその事実を知っている。
幸里ちゃんがストーカーに入れ替えられてしまったという事を・・・・

幸里ちゃんは話題にされて凄く嬉しそう。
そして話題になっていたのは幸里ちゃんだけではなかった。
「あいつが幸里ちゃんを守ったんだって」
そして幸里ちゃんを助けてストーカーを捕まえたのは僕のお手柄という事になっていた。
僕の周りには普段顔を見る事のない男子や女子達が集まってきた。

「ふふ、皆私達の事を言ってるね」
幸里ちゃん本人は気にしている様子はない。
むしろ注目されているのが嬉しそうでさえある。
僕は内心この視線に耐えられない。
普段は皆から注目を集めるなんて事はない。
誰の興味を引くでもなく地味に過ごしていた。
それで良いと思っていたからだ。

教室に着くとそれまでとは比べ物にならないほど早速僕と幸里ちゃんは事件の当事者として皆の注目を浴びることとなった。
「おい、意外と度胸があるんだな」
「あいつ普段は大人しいくせにやる時はやる奴だったのか」
いつもなら絡む事のない男子達が僕にそんな言葉を掛けてくる。
それだけじゃない、女子達も同じだ。
「ストーカーから幸里ちゃんを守ったんでしょ。本当見直しちゃった」
可愛い女の子から言われると照れくさく思えた。
いつもなら僕の事など話題にさえならない
それが今日は時の人として見られていた。
皆が僕の事を褒めてくる。

少し嬉しい気持ちもあったのは確かだ。
でも素直にそれらの言葉が受けとめられない。
なぜならその原因は僕の視線の先にあった。




幸里ちゃんも皆に囲まれて心配そうに声を掛けられていた。
流石にこれだけ見られているから変な事はできないだろう。
幸里ちゃんはいつも通りに振舞っていた。
いつものように笑顔で皆に接している。
「本当に大丈夫だった?」
「ああ、昨日の事件な。大丈夫だったぜ、あ、いや、大丈夫だったわよ」
それでも時折男っぽい口調になった。
何度か言い直しているのが聞こえてきた。

幸里ちゃんの身体は無事だし怪我もしていない。
でも中身はあいつだ、そう、ストーカー本人だ。
僕は誰か気付いてくれと心の中で願った。
でも願いが届くことなく皆は幸里ちゃんの事を心配している。

「ああ、うん、大丈夫。全然平気だよ」
幸里ちゃんは尋ねられる度に適当な返事をしている。
当たり障りのない事を言っていた。
もっとも皆同じ事を聞いてくるからだ。
だから段々と返答が面倒そうになっていった。
「そう、無理しないでね」
友達はそう言うと幸里ちゃんから離れていった。
恐らく気を利かせてあげたのだろう。
昨日の事件がショックだったから今は休んで欲しいと

いつもの幸里ちゃんと違う。
それは僕だけじゃなく他の生徒にも分かっていたはずだ。
周囲の友達は不思議に思っていただろう。
でもそれはあの事件のせいで一時的なものだろうと思っていたようだ。
「無理していつも通りに振舞ってるみたい。今は休ませてあげよう」
幸里ちゃんから離れた皆からそんな言葉が聞こえてくる。


「はあ、だりぃな」
やっと周りに誰もいなくなった幸里ちゃんの口からそんな言葉が出たのを僕は聞き逃さなかった。
違う、ここにいるのは幸里ちゃんじゃない。
そいつが本物のストーカーなんだ。
心の中で僕はそう言った。
でもそんな僕の心の声が聞こえるはずもない。
そうとは知らず皆は幸里ちゃんとして接していた。
誰かが気付いてくれるかもしれないという僕の希望はもろくも崩れた。

なら僕が皆に説明するしかない。
ここにいる幸里ちゃんは偽物だと、でもそれを口に出せない。
僕にその勇気がないのも一つだが、たとえそれを言った所で誰が信じてくれる?
幸里ちゃんとストーカーが入れ替わったなんて誰が信じられる。
しかも当の幸里ちゃん本人は警察に捕まってしまっている。
その警察を呼んだのは他でもない僕だ。
僕が本物幸里ちゃんを・・・そう思うと申し訳ない気持ちでいっぱいになった。
だからなんとしてでも幸里ちゃんを元に戻さないといけないと思った。

授業がもう少しで始まる。
クラスメート達が次第に席へ着き教科書を出し始めた。
僕も教科書とノートを出して先生が来るのを待っている。
授業中なら他の生徒から声は掛からないし隣にいる幸里ちゃんの事を心配しなくてもすむ。
僕と幸里ちゃんの席の席だ。
今までは近くにいるだけで幸せだった。
この席で時折横にいる幸里ちゃんをこっそり眺める。
それだけで良かった。
こうやってさり気なく幸里ちゃんの横顔を見るのがささやかな楽しみだった。
その時僕は気づいた。
「ちょ、ちょっと見えてるよ!」
僕は幸里ちゃんにだけ聞こえるような声で言った。
幸里ちゃんはあろうことか足を組んで座っていた。
そのせいでスカートの中から白い下着が見えてしまっている。
幸い僕達の席は一番後ろの窓際にある。
なので僕以外には見えてなかったはずだ。

「ああ、見えてたのか。ちっ、スカートって面倒だな」
スカートの裾を少し引っ張って面倒そうに座り直した。
相変わらずガニ股だったが今は他の生徒は皆前を向いているし大丈夫だろう。
「まあ、この脚でも触ってるか」
幸里ちゃんはそう言うと今度は脚を撫で始めた。
綺麗な太ももをニヤニヤしながら触る。
皆がいる教室の中だというのに何をしているのか。
「や、やめてよ。先生がもう来ちゃうよ」
「なら来るまでならいいよな♪」
僕は必死でお願いしているのにまた触ってる。
こんなのが今日ずっと続くのかと思うと授業が始まってもないのに僕は疲れてしまった。

「そうだなそろそろ授業も始まるし大人しくしてるか。なら教科書を貸してくれ」
「は?」
「昨日はこの身体で楽しんでたから支度する時間がなかったんだよ」
しかも理由が理由だった。
自分のせいでこうなったのに何で僕が巻き込まれないといけないんだ。
「な、なんで僕がそんなことを!?」
当然ながら僕は教科書を1冊しか持ってない。
これを渡せば逆に僕が教科書を忘れたみたいになる。
それにストーカーの為なんか絶対に嫌だ。
だから僕はきっぱりと断るつもりだった。
「悪いけど、これは・・・」
「ねえ、お願い♪」
「!?」
幸里ちゃんはいつの間にか僕の机に詰め寄っていた。
顔を近づけ甘い声で頼まれる。
僕の手の上にそっと幸里ちゃんの手を乗せてきた。
「うう・・・」
憧れの幸里ちゃんの頼み。
それに教科書がなければ幸里ちゃんは先生に叱られてしまう。
そうなってもいいのか。
僕は幸里ちゃんの笑顔を前にそう自分に問いかけた。
好きな女の子を断わらなといけないという罪悪感が僕に降りかかる。
教科書を貸すのも貸さないのも簡単だ。
自分の為に断らなければならない、でも幸里ちゃんの為に断りたくない。

僕がどうするか迷っていると先に幸里ちゃんが口を開いた
「無理を言ってごめんね。忘れちゃったのは私のせいだし先生に怒られちゃうけど仕方ないよね」
その言葉が僕の決め手になった。
「わ、分かった・・・」
それにこのまま幸里ちゃんの評判を落とすわけにはいかない。
「分かったよ。ほら・・・」
僕は渋々自分で使う為に用意した教科書を渡した。
「うふふ、ありがとう。凄く助かるよ♪」
本物の幸里ちゃんのように感謝された。
その笑顔につい見惚れてしまう。
中身は違うのに、でも嬉しいと素直に感じてしまう。
勿論その後、教科書を持ってない僕が先生に怒られてしまった。
その様子を隣の席にいる幸里ちゃんがニヤニヤと笑いながら見ていた。

授業が進んでいく。
僕は先生に言われて隣の幸里ちゃんが持っている教科書を一緒に見せてもらうことになった。
勿論それは他でもない僕の教科書だ。
「ほら、見せてあげるよ♪」
優しくそう言われたけど全く嬉しくない。
そんな顔を表面に作った。
でも内心僕は喜んでいた。
「ほら、授業をちゃんと聞いてないとまた叱られちゃうよ」
そんな事をしていると幸里ちゃんにそう注意されてしまった。

先が思いやられる、このまま幸里ちゃんの姿をしたストーカーに一日中揶揄われ続けるのではないかと思った。
しかし、それも長くは続かなかった。
先生の授業を聞いていて、さっきから隣がやけに静かだと気付いた。
それまではちょっかいを掛けられてとても授業に集中できなかった。
いつの間にかそれもなくなり僕は授業を聞くことができていた。
そういえばさっきから大人しい。
何か悪だくみでも考えてなければいいがと思いながら隣を見た。
幸里ちゃんは教科書を壁にしてスヤスヤと眠っていた。
僕にだけ聞こえる程度の「スースー」という静かな寝息をたてている。
そういえば一緒に登校した時に寝てなかった事を聞いた。
あの言葉からして恐らくほとんど眠っていなかったのだろう。
それはうたた寝というより爆睡だった。
そんな光景を見て一瞬ムッとしたもののその寝顔が可愛いと思ってしまう自分が情けない。
隣で気持ち良さそうな眠っている姿を見ていたらいつの間にか怒りは消えていた。
逆にその可愛い寝顔に僕は癒された。
僕の傍で無防備に幸里ちゃんが眠っている。
見ると口の端からヨダレが垂れていた。
こんなだらしのない幸里ちゃんは初めて見た。
いつもは凛として真面目に授業を受けている。
あまりに気持ち良さそうに寝ているから僕は起こさないように注意した。
とはいえ普通に授業を受けているだけだがこの状況は僕にとって心地が良かった。

授業に飽きてきた頃僕は隣にいる幸里ちゃんの事を考えていた。
こんなになるまで昨夜は何をしていたのか。
僕が幸里ちゃんの身体になったら・・・そう思うとまた僕の股間が疼く。
いや、今考えるべきではない。
それにストーカーが幸里ちゃんの身体で何をしていたのかなんて考えたくもない。

僕はしばらくこの状況を楽しみながら授業を聞いた。
でも寝顔を見ながら授業を時折先生の話聞いたと言った方が正しいかもしれない。
どっちにしろ先生が言っている事は話半分でしか聞いてない。
すると黒板に書いた問題を解く人を探し始めた。
先生が指名した人物、それは僕の隣で寝ている幸里ちゃんになってしまった。

恐れていた事が起きてしまった。
幸里ちゃんが指名されてしまった。
しかし、当の本人はまだそれに気付かずスヤスヤと眠っていた。
「ね、ねえ、先生が呼んでるよ」
僕は先生に聞こえないように耳元で言った。
一番後ろの席で少し離れているから先生もまだ気づいていない。

先生は何も言わない幸里ちゃんが問題の解き方に悩んでいるのだと思っている。
普段は授業中に寝るなんて事は絶対にしない。
それに容姿に負けない程成績も抜群だった。
だから幸里ちゃんは他の生徒達からはもちろん先生達からも信頼されていた。

僕はなんとか教科書の後ろで眠っている幸里ちゃんを何とか起こそうとした。
小声で起こそうとしたが何の反応もない。
「ねえ、早く、起きてよ」
やきもきする僕とは違い幸里ちゃんは気持ち良さそうに眠ったままだ。
僕は仕方なく幸里ちゃんの背中を軽く叩いた。
寝ていることがバレるよりはマシだと思い幸里ちゃんの柔らかな背中に手を当てた。
するとやっと反応があった。

「う、うーん、ああん、何だよ!?」
目を擦りながら寝ぼけた声を出す。
起きたばかりだから仕方ないがまだ眠そうだ。
「うるせえな、もう少し寝かせろよ」
相変わらず寝ぼけたような声を出した。
というより完全に寝ぼけている。
「ほ、ほら、先生に呼ばれてるんだよ。早く答えて!」
僕は早く黒板の答えを言うように急かした。
折角先生から呼ばれている事を教えてあげているのに幸里ちゃんは実に気怠そうな顔だった。
幸里ちゃんのそんな表情は初めて見た。
でも思ったよりも悪くない。
いや、今はそんな事を考えている余裕はない。
「ほら、これが答えだよ。早く言って!」
僕は急いで問題を解くと答えを教えた。
そして幸里ちゃんがやっと答えてくれた。

結局幸里ちゃんはその後も授業を真面目に聞いている様子はなかった。
先生もクラスメイトも幸里ちゃんの様子がおかしいとは薄々感じているようだ。
でもあのストーカーの事件で疲れているからだと思っている
他の先生も大目に見てくれたおかげで助かった。


その日は僕自身も代わる代わる誰かに声を掛けられた。
あまりにしつこく昨日の事を言われたので流石にちょっと疲れてしまった。
幸里ちゃんが面倒そうになった気持ちも分かる気がした。

幸里ちゃんは少し挙動が口調がおかしくなりながらもいつもの幸里ちゃんとして振舞っていた。
だけどトイレに行くときは妙に嬉しそうだった。
逆に戻ってくる時は物静かになっていた。


空の太陽も西に傾いた頃やっとその日の学校が終わった。
幸里ちゃんは一部の時間を除けば常に人が周りにいたので変な動きはなかった。
やっと肩の荷がおりた気分だ。
流石に幸里ちゃんの家に行って見張るわけにもいかない。
少なくともやれる所まではやった。
僕が鞄を持って帰ろうとした時だ。
「ねえ、一緒に帰らない♪」
綺麗な声が聞こえた。
それは明らかに僕に向けられた言葉だと分かった。
後ろを振り返るとそこには夕日に照らされた美少女がいた。

「幸里ちゃん!?」
昼間とは違った雰囲気を持っていた。
男子なら誰もが見惚れてしまう光景だった。
「ねえ、これから一緒に帰らない?」
普通の男子ならどんな事があっても一緒に帰るだろう。
僕だって一緒に帰りたくないわけがない。

このまま一緒に帰るのも悪くない。
でも僕は理性を振り絞った。
「ごめん、今日はちょっと用事があるから!」
僕は幸里ちゃんを置いて逃げるようにその場を後にした。



僕は緊張しながらその時が来るのを待った。
ここに来るのは初めてだ。
できれば一生訪れることがない所だと思っていた。
でも今はここへやって来た理由がある。

学校で事前に調べておいた。
多少迷ったが何とか辿り着いた。
手続きも調べた通りに書いたら問題なく進むことができた。
働いている職員の人達が僕がいるのを不思議そうに見てくる。
案内された僕は部屋に置かれた椅子で待った。

しばらく待つと後に扉が開きゆっくりと開いた。
そして入ってくる人物がいた。
あの時幸里ちゃんを襲ったストーカー本人だ。
学校を終えた僕は彼に会う為に留置所へ来ていた。
ここはアクリル板で仕切られた小さな部屋だ。
ストーカーは身体を重そうに引きずりながら部屋に入ってきた。


髪の毛は非常に少なくほとんど禿げかかっている。
囚人服の袖口には腕毛がびっしり生えているのが見えた。
髭も剃っていないのだろう。
清潔感が全く感じられない顔だ。
正直に言って嫌悪感を抱く見た目と言っていい。

そのストーカーには全く生気が感じられない。
魂が抜けたように幽霊のように歩いてきた。
ゆっくりと置いてある椅子に座るも僕の前に座ってからもずっと俯いていた。
「あ、あの・・・」
どう声を掛けたらいいのか分からなかった。
面会が始まったものの未だに男は僕の方を見ようともしない。
「僕が分かる?」
「・・・」
試しに声を掛けたが返事はないし、その気力があるようにも思えなかった。
これが本当にあの幸里ちゃんなのだろうか。
どう見ても人生に絶望した中年の男にしか見えない。
僕には到底信じられなかった。
あの皆の憧れの幸里ちゃんを思い浮かばせるものは何もない。

「幸里ちゃんだよね?」
今度はそう問いかけてみた。
僕がそう呼びかけるとそれまで何もしようとしなかったストーカーからやっと反応が返ってきた。
ゆっくりと顔を上げ身を乗り出してこう言った。
「え?今何て言ったの!?」
幸里ちゃんの綺麗な高い声とは違う低い声だったが、その喋り方や振る舞い方は幸里ちゃんのものであった。
「ね、ねえ、私だって分かるの!?」
アクリル板に寄りかかりながら必死で僕に近づこうとしてきたので一瞬襲われるのかと思いつい身を引いてしまった。
「やっぱり幸里ちゃんなんだね」
「うん、私が幸里よ」
ストーカーは汚い声でそう答えた。
見た目や声こそはストーカーだがその喋り方はまるで女の子のような口調だった。
そして同時に僕は確信した。
幸里ちゃんとストーカーが本当に入れ替わっている事を。

「じゃあ、本当に幸里ちゃんなんだね」
ストーカーは頷いた。
それにしても目の前のストーカーを「幸里ちゃん」と呼び掛ける違和感のは抱かないわけにはいかない。
幸里ちゃんのように振舞っているがその姿はあのストーカーそのものだからだ。
「うん、こんな顔だけど私だよ」
本人は顔を気にしているよだが顔以外もだいぶ変わってしまった。
「それは元々は幸里ちゃんの身体ではなくストーカーのなんだから仕方がないよ」
「それにしてもごめんね。最初、君が私のクラスメイトだって気づけなくて・・・」
ストーカーは申し訳なさそうに僕に謝った。
最初僕が面会に来た時に僕が誰か分からなかったらしい。
情けない話だが同じクラスとはいえ関わる機会は滅多になかったのだから仕方ない。
「いや、いいよ。それに最初は僕も幸里ちゃんだって気づけなかったんだし」

最初は僕もあの幸里ちゃんの面影すら感じられなかった。
それに今は僕の事はどうでもよかった。
一番は幸里ちゃんがこうなってしまった事だ。
身体が入れ替わったことで幸里ちゃんはストーカーになって警察に捕まりストーカーは幸里ちゃんになって学校へ通っている。
状況は最悪だった。

「どうやって身体が入れ替わったの?」
「分からないの。私、気が付いたらこんな身体になってたの」

あの日身体を入れ替えられた時の事を教えてくれた。
塾の帰りで近道をする為にあの道を通っていたらストーカーに待ち伏せされたらしい。
逃げようとしたが捕まりほとんど抵抗できないまま口移しで薬を飲まされてしまった。
でもパニックになっていたからほとんど覚えていないらしい。
その後突然意識が薄くなっていき気が付いたらストーカーの身体になっていた。
それらは僕が見た事と全部一致した。

「私、何度も言ったのよ。私が幸里だって・・・」
警察に捕まった後のことも話してくれた。
自分が本当の「幸里」だと何度も言ったが間に受けてくれなかった。
それを説明する時の表情は本当に悔しそうだった。

「本当にありがとう。やっと入れ替わった事を知ってくれて本当に良かった。本当の事を言ってるのに誰も信じてくれないんだもん」
幸里ちゃんは憎らしいストーカーの顔で笑みを浮かべた。
でもあの人を見下したようなイヤらしい笑顔ではなく優しい笑顔だった。
幸里ちゃんは警察に捕まった後ずっと本当の事を言い続けたらしい。
自分が幸里だと・・・
でも当然ながらその姿のせいで誰も信じてくれなかった。
そのせいで頭のおかしいストーカーとして扱われていた。
あのストーカーは自分の事を幸里ちゃんだと思い込んでいると。
それで諦めてしまい僕が面会に来た時にあの状態になっていた。




家にも連絡を入れようとしたがそもそも電話を使わせてもらえない。
たとえ連絡できたとしてもその姿では家族からも信じてもらえないだろう。

「はあ、私だって信じられないわよ」
大きなため息を吐きながらそう言った。
その気持ちは僕にもよく分かった。
それは僕も一緒で未だに信じられない。
こうして二人から話しを聞いてやっと確信が持てた。
それまでは半信半疑だった。
「私がストーカーと入れ替わった事を知っている人はいないの?」
期待の表情で僕にそう聞いてきた。
「え、ごめん、知っているのは僕だけだよ・・・」
「え、なんで!?どうして言ってくれないのよ!」
「うん、分かってるよ。ごめんね」
僕は申し訳なく謝るしかできなかった。
そうは言うけども事が事だけに誰かに簡単に言えるはずもない。
下手をすれば僕も頭が変だと思われてしまう。


「それに、やだ、あいつ私のフリをしてるの!?もう本当許せない!」
「う、うん・・・」
ストーカーが幸里ちゃんの身体で登校して学校で過ごした事を話すと凄く怒った。
幸里ちゃんが偽物だとすぐに皆が気付いてくれると思っていたらしい。
あんなストーカーに自分のフリなんかできるはずがないと思っていたのだろう。
もしかするとそれが唯一の望みだったのかもしれない。
でも僕が見る限り先生もクラスメートも皆入れ替わった事に気付いてなかった。

「ご、ごめんね。さっきからあんなに怒ったりして」
少し冷静になったのか謝ってきた
「私、身体が奪われただけじゃなくてストーカーの身体で生きていかないかもしれないと思うと・・・」
そう言われて僕はハッとした。
そうだ、入れ替わって一番驚いているのは幸里ちゃん本人だ。
「大丈夫だよ、幸里ちゃんの事は僕が守るから」
僕はそう言った。
そして毎日幸里ちゃんに会いに来ると約束した。
少なくとも二人が入れ替わった事にやっと確信を持つことができた。
問題はどうやって幸里ちゃんの身体を戻すかだ。

「まあ、そう簡単に見つかるはずないよね」
元に戻る方法はまだ見つからなかった。
一応ネットでも調べてみたが何もなかった。


面会時間の終わりが近づいてきた。
そろそろ部屋から出ないといけない。
「あの、その、言いにくいことなんだけどもう一つだけいい?」
僕が立ち去ろうとすると小さな声でそう言った。
ストーカーの身体にされて具合でも悪いのだろうか。
それとも別の問題でも起きたのか。
心配になってきた。


「僕に答えられることなら遠慮せず何でも言ってよ」
少しでも幸里ちゃんの力になりたかった。

「あ、あの、これ、どうすればいいの?!」
恥ずかしそうにストーカーが指をさした方向にあったもの。
それはストーカーの股間だった。
そこには大きなテントが張られていた。
「幸里ちゃん、それって・・・」
「そ、それ以上言わないで!」
言わずとも事実は変わらない。
幸里ちゃんはストーカーの身体で勃起していた。
「気が付いたらこうなっちゃってて、我慢しようとしたら余計に意識しちゃって大きくなっちゃったの」
男性ならそれが起きても不思議でも何でもない。
でも女の子の幸里ちゃんにとっては異常な光景だった。
「こんなのじゃ恥ずかしくて歩けないの!」
ストーカーの顔で困った表情を浮かべる。
だいぶ戸惑っている、どうすればいいのか分からないようだ。
それもそうだろう、今まで正真正銘女の子として生き続けてきたのだからそれが何なのか理解できないのも無理はない。
「ねえ、知ってるならどうすればいいか教えてよ!」

僕の目の前でストーカーが股間をギンギンに勃たせていた。
目の前で大人の男性があそこを大きくしている。
幸里ちゃんには申し訳ないが気持ち悪いし怖い。
先日の幸里ちゃんを襲った時のストーカーを思い出してしまった。
ああ、そうだ、ストーカーのせいで幸里ちゃんは・・・
目の前にいるのは幸里ちゃんのはずだがストーカーの見た目をしている。
僕は何とか敵意を向けないように頑張った。

「ねえ、聞いてる?」
「え、うん、聞いてるよ!?」
未だにそれが何か分からない様子でストーカーはもじもじとしている。
どうすればいいのか困っていた。
女の子が男の身体の事なんてほとんど知らないだろう。
少なくとも何もなければ一生女の子が知る事はできない。
でも幸里ちゃんはストーカーの身体でそれを体験させられていた。
「お、お願い教えて!意識しちゃうとまた変になってきちゃった!」
返事に困っていると血気迫る勢いで僕にどうすればいいのか聞いてきた。

恥ずかしいのか手で股間を隠している。
大の大人の男性にどうすればいいのか聞かれる。
本当に不気味な展開だった。
でもこのまま帰るわけにもいかない。
僕は何をすればいいのか正直に伝えた。

「じゃ、じゃあ、教えるよ」
「うん、ありがとう」
これで解放されると思ったのかストーカーの顔が一気に明るくなった。
でもそれも長くは続かなかった。
僕が話しを続けるとストーカーの顔の雲行きがまた怪しくなっていった。
話しを終えると元から赤くなっていたストーカーの顔は更に激しくなって真っ赤になってしまった。
「ほ、本当にそうすればいいの?」
話し終えた僕に何度もそう聞いてきた。
「う、うん」
僕は知っている事を全部話した。
少なくとも僕はそうしているし嘘は言ってない。
他に方法があるのならばそれを伝えた。
「わ、分かった、教えてくれてありがとう」
感謝しつつも戸惑いを隠せていない。
「それじゃあ僕はそろそろ帰るね、そ、その頑張ってね」
僕なりに精一杯応援したつもりだった。
幸里ちゃんが男の身体でオナニーをしなければならない。
女の子の幸里ちゃんからしたら押し付けられた身体でするなんて絶対に嫌だろう。
しかもそれはストーカーの身体だ。
とにかく今日僕のできる事はした。
あとはどうするかは本人次第だ。


正直もっと話したかった。
面会できる時間が限られているせいだ。
面会自体はまた来ればいいだけだ。
僕以外の面会はないので会おうと思えばできる。
でも元に戻す方法が分からない。
このままだと幸里ちゃんがストーカーの罪を全部被せられてしまう。
調べたらストーカーの罰則は1年以下の懲役または100万円以下の罰金と書いてあった。
学生の僕にとって100万円は大金だ。
みすぼらしいストーカーにそれほど貯金があるとも思えないし、持っていたお金は全部使ったとまで言っていた。
そうなると刑務所に入れられてしまう。
今までのストーカー行為もあるし当然幸里ちゃんはストーカーの罪を認めようとしないだろう。
現に幸里ちゃんは本当に何もしていない。
でもそれを判断する人は幸里ちゃんとストーカーが入れ替わっている事を知らない。
反省してないと見られたら更に罪が重くなるかもしれない。
そうなってしまったら外に出られるのは当分先になる。
その間ストーカーは幸里ちゃんの身体で好き放題できる。
何とかして幸里ちゃんを元に戻さないといけない。


「やっぱりここにいたんだ」
建物を出てすぐ聞き覚えのある声が聞こえた。
「中々出て来ないから待ちくたびれちゃった」
壁にもたれかかっていたのは幸里ちゃんだった。
置いてあった鞄を拾い上げると僕の方へと向かってきた。
「どうしてここを!?」
「入れ替わっている事を知っているんだったら行く所は一つに決まってるじゃない。幸里ちゃんは元気にしてた?ああ、今はもうストーカーだったわね♪」
「五月蠅い、お前のせいで何も悪くないのに幸里ちゃんが捕まったんだ!」
このやり取りも何度もした。
「ねえ、ここじゃ人がいるし。場所を変えない?」
確かに周りでは僕達のことを何事かと眺めている人達がいた。

結局幸里ちゃんはまた僕の部屋に来ていた。
母親に軽く挨拶をすると家の中に上がりこむ。
そして二人っきりになると幸里ちゃんはまたあの表情になった。
「で、何を聞きたいんだ?」
「あの、元に戻らないの?自分の身体なんでしょ」
僕は直接聞いてみた。
身体を入れ替えたとはいえ元は自分の身体だ。
このまま一生幸里ちゃんの身体で過ごすとは思ってなかった。
しかし、それは僕の間違いだった。
「ああ、何も感じないね。もうあれは俺の身体じゃないしな」
幸里ちゃんは冷たくそう言ってのけた。
「俺が一時の快楽の為だけに身体を入れ替えたと思ってるのか。俺が欲しかったのは幸里ちゃんの身体だけじゃなくて幸里ちゃんの人生そのものなんだ。もう俺が元に戻る理由なんてないのさ。だから俺が一生幸里ちゃんになってやるんだ」
「それじゃあ幸里ちゃんはどうなるんだよ?」
「せいぜい汚いストーカーの身体になった幸里ちゃんに優しくしてやることだな」
多少なりとも元に戻る意思があればと思っていた。
でも話した限りでは全くそのつもりはないようだ。


「なあ、もう全部受け入れろよ。幸里ちゃんは少し雰囲気が変わってストーカーはいなくなる。ただそれだけだ」
そう思えば簡単なのだろうがそうはいかない。
「なら、正直に言うけどお前の事は気に入ってるんだ」
またそういう事を言ってきたと思った。
冗談なのか本気なのかは分からない。
たとえ幸里ちゃんの姿でそれを言っても何も証拠にはならない。
「ふん、どうせまた冗談か揶揄っているだけなんだろ」
何度も同じ手口に引っかかっていたからもう騙されないと思った。
こうやって幸里ちゃんにキスをされるまでは・・・

それは触れる程度の軽いキスではない。
お互いの口をぎゅっとくっつけ合い舌まで入れてきた。
僕は呆然としながら幸里ちゃんの舌に重ねる事しかできない。
その時間がしばらく続いた。
終わる頃には僕の口の中は幸里ちゃんの唾液だらけになっていた。
「これで信用したか?」
唇を離すと少し顔が赤くなった幸里ちゃんはそう僕に聞いてきた。
僕は「うん」と頷くことしかできなかった。
幸里ちゃんのその表情は真剣そのものだった。
いつもの凛とした幸里ちゃんのようでもある。
「やっぱりお前は面白いな」
キスを終えると幸里ちゃんはそんな言葉を口にした。
褒められているのか貶されているのか分からないが顔の表情からして恐らく前者だと思った。
それより僕の頭の方が追いつかない。

「本気だって知りたいんだろ。なら見せてやるよ。お前も気になってただろ、幸里ちゃんの身体♪今から見せてやるよ」
ウインクをしながら僕にそう言ってきた。
また揶揄われるのかと思ったが今回は前回と違った。
本当に全部着ている服を脱いでしまった。
シャツやスカートだけでなく下着までもだ。
だから幸里ちゃんは今裸になっている。
モデル並みのスタイルを惜しみなく僕に見せてくる。

「ほら、どうだ好きな女の子の裸は?ってお前、いつもチラチラ見てばかりだな。たまには真正面から堂々と見ろよ」
確かにずっと見ていたが気付かれていたとは知らなかった。
「それに見た目だけじゃないぞ。それに幸里ちゃんのオナニーも凄いんだぜ」
幸里ちゃんの口からとんでもない言葉が出た。
恥ずかしがる様子もなく堂々と話している。
「まさかしないとでも思ったのか。憧れの女の子の身体を手に入れたんだ。夜にする事は決まってるだろ。へへ、気持ち良かったぜ。幸里ちゃんの身体♪」
幸里ちゃんがどんな一人エッチをしているのか興味がないはずがない。
想像しただけで興奮してしまう。
「やっぱり興味あるよな。幸里ちゃんの身体」
幸里ちゃんがニヤニヤと意地悪く笑っている。
明らかに僕が興味がある事を知っている

「女って不思議だろ。見ろよ、このおっぱい。根本からくっ付いてやがる」
僕の目の前で持ち上げた。
「こうするとどうなると思う」
幸里ちゃんは胸をぐいっと引っ張った。
「昨日はずっとこうやって触ってたのさ。幸里ちゃんのおっぱい凄く気持ちがいいぞ」
ニヤニヤとしたイヤらしい笑みを浮かべる。
ふっくらとした幸里ちゃんの乳房が引っ張られ伸ばされていく。
柔らかさと弾力性がある事が分かった。
「ほらほら、こんな事もできるんだぜ」
幸里ちゃんが上半身を揺らすと胸がその振動で揺れて表面が波打った。
上下にブルブルと大きく揺れ動く。
触ってと言っているようなものに感じられた。
その様子を僕は目に焼き付けてしまう。
僕は唾を飲み込んでしまった。
理性が保てない。
あれを触りたい、吸いたいと思ってしまう。
「ほら、触ってみろよ」

すると幸里ちゃんは僕の手を掴んだ。
「まずは軽くこれからだ」
触らされたのは幸里ちゃんの頬だった。
すべすべの柔らかな肌が僕の手の中にある。
「気持ちいいだろ。幸里ちゃんの肌だ。でも今の俺はこんな事もできるんだ」
僕の指を口に入れてしまった。
そして中でペロペロと指を舐めた。
やっと出してもらえると僕の指は幸里ちゃんの唾液がついていた。

「じゃあ、次はお前の一番触りたかったのを触らせてやるよ」
そう言うと僕は無理矢理胸を触らされた。
手を離したいのに腕を掴まれているせいで離せない
僕の手が感じ取る、僕の手の中にある幸里ちゃんの胸を。
「今触ってるのが何か分かるか?そうだ、幸里ちゃんのおっぱいだ。凄く大きくて柔らかいだろ」
ニヤニヤしながら僕にそう言ってきた。
僕の方はといえば触れているだけでいっぱいいっぱいなのに幸里ちゃんの綺麗な声を掛けてくるせいでパニックになっていた。
「ちょ、ちょっと、何をしているの!?」
それは夢にまで見た事であることに変わりはない。
しかも無理矢理それをさせられていた。
「昨日はこれをずっと揉み続けてたんだ。女ってずるいよな。自分で触って気持ち良くなれるんだからな。まあ今は俺も女だけどよ。ほら、もっと揉んでみたいよな」
するうと幸里ちゃんは後ろ振り返った。
幸里ちゃんの僕の前で無防備に背中を向けている。
そして前から手を伸ばしてまた僕の手を無理矢理胸に持って行った。
「幸里ちゃんのおっぱいを揉む気分はどうだ?」
「うう・・・」
「知ってるか。女の身体って好きな奴におっぱいを触られると凄く気持ち良くなるんだぜ」
明らかに僕のことを揶揄っている。
だけど僕はその言葉で簡単に興奮してしまった。
この触っているのは幸里ちゃんの胸だ。
僕は今それを触っている。
今まで触れてきたものの中で一番と言っていい程の柔らかさと気持ち良さだ。
僕は手に力を込めた。
「自分で触るのも悪くなかったけどおっぱいを触られるのも悪くないな」

僕はしばらく前にいる幸里ちゃんの胸を後ろから揉ませてもらった。
最初はどうすれば良いか分からずされるがままだった。
でも次第に僕は自分からこの胸をもっと揉みたいと思うようになった。
それが伝わってしまったのか段々と僕は手に力を込めてしまった。
すると幸里ちゃんは次第に呼吸が早くなっていった。
そして胸もどんどん硬くなって膨らんだ気がした。
「ふふ、いいぞ」

僕は感じていた。
僕も幸里ちゃんも段々と身体が熱くなっていた。
「ふふ、いいぞ。俺も一人でなら散々したからな。じゃあ、そろそろ本番といくか」
欲求不満な女性のような事を言ってきた。
「え!?」
「幸里ちゃんの身体でどう感じるのかずっと気になってたんだ。その相手がお前だ。嬉しいだろ。それにお前もやりたいだろ。俺を幸里ちゃんにしてくれた礼だ。感謝しろよ。そしてたっぷり味わえよ」
「それは流石にだめだよ!」
胸を触る程度ならまだしもこれはやりすぎだ
でも幸里ちゃんは本気でやる気のようだ。
僕が散々揉んだせいなのかは分からないが僕よりも興奮している。
「さあ、早くやるぞ」
「だ、だめだって!」
幸里ちゃんの力は思ったより強かった。
僕が多少抵抗したぐらいではびくともしない。
元々運動神経は良かった。
それに下手に暴れて幸里ちゃんの身体を傷つけるかもしれないから僕も乱暴にできなかった。
僕は幸里ちゃんに押し倒されてしまった。
そして着ている服を脱がされた。

「ねえ、一緒に楽しもうよ。私の中に入れて少し動くだけだよ」
幸里ちゃんのように僕を誘ってくる。
でも内容が内容なだけにそう簡単にやるわけにはいかない。
僕は拒もうとしたが幸里ちゃんにこう言われた。
「私は真剣だよ。君とやりたいの」
その顔と声で言われると僕は何も言い返せなかった。
次第に僕までその気になってしまった。
「しっかりと堪能しろよ。お前と幸里ちゃんの貴重な初めてになるんだからな」
僕と幸里ちゃんの初めて、その言葉に少し嬉しくなってしまう自分がいた。


僕の上に幸里ちゃんが跨る。
そして股間の口を広げて僕の股間の大きくなった物に被せていった。
大きくなった僕の先端が幸里ちゃんの股間の穴へと入っていく。

先が入り込むとその部分が温かくなった。
次第にそれは少しずつ下の部分にも広がっていく。
幸里ちゃんは上から被せていくように腰を下ろしていった。
僕の大きくなったものが幸里ちゃんの股間に奥へと進んでいく。
突きさしていくようにメリメリと入った。
「感じるぞ、お前の大きいのが入ってくる」
僕の股間に幸里ちゃんの中が密着していく。
幸里ちゃんの切ない声が奥に入るにつれて大きくなる。
その声は僕を興奮させてきた。
そして完全に奥にまで入ってしまった。
そこは温かく湿った空間であり幸里ちゃんの大事な所でもある。
もう僕と幸里ちゃんは大事な部分で繋がっている。

「どうだ、憧れの幸里ちゃんの中に入れられた感想は?」
少し動くと幸里ちゃんの中に入った部分が擦れた。
「幸里ちゃんの身体が淫乱なせいなのか。俺も身体が熱くなってきたな」
「うう、幸里ちゃん、ごめん」
僕は幸里ちゃんに謝りながら腰を動かした。
憧れの幸里ちゃんを汚している。
幸里ちゃんの中で僕のアレが暴れさせた。
「謝らなくてもいいんだよ。だって私は凄く嬉しいんだもん。さあ、早くやろう♪」
優しいというより嬉しそうだった。
だけど僕はそんな幸里ちゃんの言葉に救われた
あの幸里ちゃんが僕とやりたがっている。
更に気持ち良くなりたがっている。

幸里ちゃんが僕を求めてくる。
腰を振って中に入った僕のアレが動くのを感じてくれている。
ならば僕も頑張らないといけないと思えた。
腰に力を入れ前後に揺する。
すると僕の股間が幸里ちゃんの中で更に強く締め付けられた。
幸里ちゃんも身体を動かし僕を刺激した。
僕は更に力を入れる、その繰り返しだった。
次第に身体全体から汗が噴き出した。
「へへっ、やっとその気になったか」
幸里ちゃんが薄気味悪く笑う。
でもその顔が可愛く思える。

「す、好きだよ。幸里ちゃんがしないその顔、その言葉遣い、全部好きだ」
幸里ちゃんは意外そうな顔をした。
「まったく、お前のそういう所嫌いじゃないぜ」
幸里ちゃんが照れくさそうに笑った。
でもいつもの人を見下すような嫌味な笑顔でなく心の底から嬉しそうだった。

「今の幸里ちゃんが好きなんだ。だから一緒にいてよ」
僕は改めて幸里ちゃんに言った。
それは僕なりの告白だった。
するとどんどん幸里ちゃんの顔が赤くなっていった。
「まったくお前は最初に会った時から俺をドキドキさせるな」
肯定も否定もしない返事をした。
でも勿体ぶっているのではない。
嬉しくて中々返事ができなかっただけだ。
「いいぜ、お前となら上手くやれそうだ」
「うん、よろしくね。幸里ちゃん」

不思議だった。
言いたい事を言えたらなんだか吹っ切れた気がした。
もう幸里ちゃんは遠くで見つめるだけの存在ではなくなった。
今は僕の目の前にいる。

お互いを求め合うも申し訳ない気持ちはまだ多少あった。
でも、それは得られる快感でどんどん上書きされていく。
そしてそれを肯定するかのように目の前の幸里ちゃんは喜んでくれた。
「ああ、これが女のセックスか。突かれるってのも案外悪くないな。むしろ男のより全然良いぞ!そ、そうだ、もっとやれ!」
幸里ちゃんは腰を振りながらそう言った。
その幸里ちゃんの表情は嬉しいというよりも感激しているようだった。
目を輝かせながら腰を振ってくる。
「お前も感じるか。これが幸里ちゃんの中なんだ。凄いだろ♪」
「うん、凄いよ」
気持ちが良いなんてもんじゃない。
僕たちの相性はピッタリだと思った。
身体も精神もどちらも僕達は相性が凄く良い。
「おっ、おっ、いいぞ」
この通り幸里ちゃんの方も同じ意見だ。

僕があの幸里ちゃんを突いている。
そして幸里ちゃんは嬉しそうに僕に突かれている。
夢でも見ているかのようだ。
幸里ちゃんとこんな事できるはずがなかった。
それが今こうやってできている。
それもこれもこの新しい幸里ちゃんのおかげだ。

「このままやれ!」
命令口調で僕にやるように言ってきた。
「で、でもそんな事したら・・・」
「いいから中に出せ!お、お前と最後までやりたいんだ・・・こんな事、言わせんな、恥ずかしい!」
顔を赤くしながらそう言った。
視線は僕から逸らしているから余程恥ずかしかったのだろう。
口調は乱暴だったが、でもそれ以上に可愛いと思えた。
中身はストーカーのはずだ。
それなのにどうしてこんなに可愛くて綺麗に見えるのだろうか。

「お、お願い、私と・・・」
「別に幸里ちゃんみたいに言わなくていいよ。僕は好きだよ、今の幸里ちゃんがね」
僕は幸里ちゃんのように振舞おうとするのを止めてそう言った。
「え・・・」
幸里ちゃんは僕の言葉を意外そうに聞いた。
「だから最後までやろう」
「う、うん、ありがとう・・・」
最後までやるという事は僕にとっても幸里ちゃんにとっても取り返しのつかない事になる。
でも幸里ちゃんの中にこのまま出してしまいたかった。
たとえこの後僕と幸里ちゃんに何が起きてもいい。
たとえこれが幸里ちゃんでなかったとしてもだ。
この幸里ちゃんと最後までやりたかった。
それでもいいと思ってしまった。
あの幸里ちゃんとできる。
他の事は全部どうでもよかった。
「いくよ」
「ああ、いいぞ、やってくれ」
幸里ちゃんも準備はできていた。
僕は力を込めて腰を大きく振った。
その瞬間から幸里ちゃんの口からは声が漏れ出続けた。
可愛い声とドスの効いた低めの声が入り混じっている。
幸里ちゃんは僕に揺すられる度に口から声を漏らした。
それでどれだけ気持ち良くなっているのかが分かる。

「お、俺、いくのか?」
幸里ちゃんはもう限界のようだった。
身体がさっきからヒクヒクしている。
呼吸も相当に乱れていた。
終わるのは時間の問題だった。
だから僕は少し意地悪をしたくなった。
「じゃあ、やめようか?」
冷たく僕はそう言い放った。
すると幸里ちゃんは慌てて言った。
「い、意地悪するなよ。お、お願いだ、最後までやってくれ、頼む!」
それが今の幸里ちゃんの精一杯の願いだと僕には伝わった。
「ふふ、じゃあ、いくよ、幸里ちゃん!」

僕と幸里ちゃんは腰を振り合った。
「きて、私の中に出して!」
「幸里ちゃん出すよ!幸里ちゃん!」
僕は幸里ちゃんの名前を呼びながら中に出してしまった。
弾けるような衝撃が股間から広がった。
その瞬間ドクドクと温かい液が出ていく。
感じる、幸里ちゃんの中にそれらが流れ込んでいく。

幸里ちゃんのひと際大きな声が僕の耳に聞こえてきた。
身体をビクビクと唸らせている。
でも幸里ちゃんは全部受け止めてくれた。
「はあ、はあ、こ、これからも私と一緒にいてくれる?」
幸里ちゃんの表情は凄く幸せそうだった。
僕はそんな幸里ちゃんにキスをした。
「もう絶対に離さないよ」



次の日僕は約束通り面会にやって来ていた。
表情を見る限り昨日会った時より元気そうに見えたので安心した。

「そういえば私の身体はあれから変わったことはなかった?」
その言葉を聞いて僕はドキッとした。
「え、ううん、ないよ・・・」
僕は無難にそう返事をした。
「そう、良かった。お願い、あいつが私の身体で変な事をしないか心配だったの。また何かあったら教えてね」
「う、うん、分かった・・・」
その日はそれで面会を終えた。
外に出ると僕は待っててくれた幸里ちゃんと家に帰った。
言えるはずがない。
こんな事になってるなんて・・・
僕と幸里ちゃんがあんな事をしたなんて・・・

僕は面会をしながら幸里ちゃんとの交流を深める日々を送った。
そして時間だけが過ぎていった。
「ほら、早くしなさい。幸里ちゃんが迎えに来てくれたわよ」
朝食を食べていると母親からそう言われるのにも慣れた。
「そうだ、フルーツでも切るから食べていきなさいよ」
「いえ、もうすぐ授業も始まりますから」
母親と幸里ちゃんはすっかり顔馴染になった。

食事をしに来たことも何度もある。
娘ができたみたいだと喜んでいた。
そして夜は僕の部屋で一緒に寝た。

僕のベッドに入り一夜を共にする。
最近は更に綺麗になった。
身体つきは大人の女性になっている。
そして胸がまた一回り大きくなっていた。
以前着ていた服だと胸が飛び出しそうだ。
いつもこれだけ間近で見ているから分かる。
その証拠に僕の口に入りきらなくなってきた。

変わった事といえば実は意外と多い。
綺麗好きの幸里ちゃんだったが今はその傾向はなくなっていた。
たとえば股間を見ればムダ毛が全く処理されていない。
見えない部分は手を抜いているのだろう。
毛むくじゃらになっている。
でも僕はそんなだらしのない所まで愛おしい。

「はあ、美少女になっただけでこんなに世界が違うんだな」
幸里ちゃんは新しい人生を堪能しているようだった。
本物の幸里ちゃんのように振舞えるようになっていた。
その言葉遣いも振る舞いも年頃の女の子だ。
何も問題はないし以前よりも笑顔が増えた気がする。

僕以外の人物と接する時は幸里ちゃんとして振舞い僕といる時だけ本性を現した。
誰も彼女がストーカーだなんて気づいていない。


その日も僕は面会に来ていた。
昨日会った時よりも元気な姿を見られて僕も来た甲斐があった。
「ああ、来てくれたんだな。そうか、元に戻る方法はまだ分からないのか」
少し喋ったが僕はすぐ違和感に気付いた。
「幸里ちゃん、その喋り方は?」

「あ、ごめんね。また、口が悪くなってたわね」
僕が指摘すると前と同じく幸里ちゃんの口調に戻った。
でもさっきは確かに口調が男性のそれになっていた。
「この顔だから男の人みたいに喋らないと変に見られちゃうのよ」
中で会話をする時は当然男性同士が多いらしい。
そこで女性のように話していると変に思われてしまうのだとか。
それを聞いて僕は納得したと同時に少し不安になった。
それでも最近まで女の子として過ごした幸里ちゃんがあんなに自然に男性のように喋れるだろうか。
幸里ちゃんはストーカーの身体でいることに抵抗がないように思えた。

変化は日を増すごとに加速していった。
あれから少し時間が経っていた。
会う度にその変わり様に驚かされた。

最近は僕にストーカーの身体でオナニーをした事を恥ずかしげもなく話された時は少し引いてしまった。
最初はストーカーの身体でいる事だけでも嫌がっていたはずだ。
僕はそれを指摘した。
「だってしょうがないでしょ。こうしないと変になりそうなんだもん。あれをしている時だけ楽になれるんだもん」
その日はそれ以上話せなかった。

「待っててくれたんだ」
外では幸里ちゃんが今日も待っててくれていた。
僕は幸里ちゃんと手を繋ぎ家に帰った。
そんな日々が続いた。
しかし、変化はもう留まることはなかった。


ストーカーの身体で変わり果てていく幸里ちゃん。
一方で僕は新しい幸里ちゃんと過ごす時間が長くなっていた。
「本当にいいの?」
「お前といる方が俺も楽だしな」
学校では僕達は付き合っていることにした。
そうすれば幸里ちゃんは男子から声が掛かる回数が減る。
まあ、それは表向きだ。
僕達はもう恋人以上の関係になっていた。
周囲は僕がストーカーから幸里ちゃんを助けたから惚れられたと思われている。
嫉妬してくる男子もいたが所詮負け犬の遠吠えだ。
すぐに僕と幸里ちゃんは学校でも公認の仲になっていた。

僕は新しい幸里ちゃんを受け入れてしまった。
それと同時に童貞を卒業することができた。
その相手は憧れの幸里ちゃんだ。
こんなに嬉しい事はない。
僕は幸里ちゃんのサポートを幸里ちゃんは僕にその身体を提供した。
ずっと幸里ちゃんの事を見ていたから喋り方や振る舞い方は元のストーカー以上に知っている。
それに学校で困った事があれば僕が幸里ちゃんの彼氏としてフォローした。


「ねえ、本当に幸里ちゃんなんだよね?」
ある日面会室に入るとガラの悪い中年男性のように足を組んで座っていた。
「ああ、そうか、俺、幸里ちゃんだったんだよな。もっとオナッておけばよかったな」
自分の身体なのに他人事のように言っていた。

「最近変じゃない。雰囲気が変わったというか・・・」
正直以前とはかなり変わってしまった。
口調や振る舞い方はストーカーのそれになっている。
「あの、それ・・・」
「し、仕方ねえだろ。こいつの身体すぐ勃起しちまうんだから。俺だって困ってるんだからよ」
ズボンの股間部分は大きく起立していた。
以前なら少し大きくなっただけで戸惑っていた。
最初は大騒ぎだったのも遠い昔のようだ。
今はそんな状態になっているというのに羞恥心はないらしい。

まるで男性のように自然現象だと受け入れている。

「元に戻る気はあるんだよね?」
「ああ、勿論あるに決まってるだろ」
それを聞いて僕はホッとした。
でもそれは僕の期待している答えではなかった。
「あの身体に戻ればいつでも好きな時に触り放題だもんな」
「え!?」
一応元には戻りたがっているようだがその理由は元の自分の身体に戻りたいという感じではない。
「早く元に戻ってあの乳を揉みまくってやりてえ。あのでかいおっぱいをしこたま触ってやるんだ」
唾を飲み込みながらニヤニヤとした顔つきになる。
そしてイヤらしい手つきで胸を揉む仕草をしてみせた。
その光景はスケベな男そのもの、もっと言えばかつての汚いストーカーそのものだ。
「お前も早く元に戻ってほしいだろ」
そう言って僕に同意を求めてきた。
「う、うん」
でも僕はそんな今の姿が気持ちが悪いと思った。


「これで分かった?」
面会室から出ると待っていた幸里ちゃんがそう言ってきた。
この時僕の気持ちは完全に決まっていた。


その日もいつものように面会室にやって来た。
「ああ、今日もやって来たのか」
ぶっきらぼうにそう言われながら入った。
「今日はお客さんが来てるんだ。どうしても会いたいんだって」

「ん、誰だ・・・おい、そいつは!?」
「うん、幸里ちゃんが久しぶりに会いたかったんだって。」
僕は後ろにいるその人物を紹介した。
「久しぶりね、ストーカーさん♪」
「おい、そいつは偽物だぞ!」
面会室に大きな声が響いた。
「知ってるよ」
「じゃあ、なんでそいつがいるんだ!?」
「今日はお別れを言いに来たんだよ。これで会いに来るのは最後なんだ」
僕は淡々とそう言った。


「そうよ、彼は貴方じゃなくて私を選んだの」
幸里ちゃんはストーカーにそう言いながら僕の背中に手を回して抱き着いてきた。
「貴方がいけないのよ。彼が貴方を好きなの知っていたのにその思いにこたえてあげないんだものね」
幸里ちゃんの手が僕の股間を触る。
そして見せつけるように頬にキスをしてくれた。
「ふふ、見て、私が彼にとっての理想の幸里なの」
「ち、違う!お前がストーカーだ!俺が本物の幸里ちゃんなんだ!」
「ふふ、これからもそうやって自分が幸里だって妄想を言えばいいわ。その身体でね」

「それじゃあ、そろそろ行くわね。あ、そうそう言い忘れてたわ。これからテレビに出るの。だって迷惑なストーカーはもう捕まったんだものね。復帰するって言ったら皆大喜びしてくれたわ」
ちなみに僕はテレビ復帰には乗り気ではなかった。
幸里ちゃんと会う時間が減ってしまうからだ。
それでも本人がかつてのようにタレントとして活動したいと言ったので僕も応援することにした。
それにテレビに出ればかつてのように可愛い衣装を着た幸里ちゃんを見られる。
「くそ、それは俺の身体だ!勝手に使うな!」
「だからこれからはその身体で頑張ってね。ああ、まずはストーカーの今までの罪を償わいとね。あと強盗もしたのよね。一体いつ自由になれるのかしらね」
「くそ!そ、そうだ!知ってるぞ!お前がどうやって身体を入れ替えたのか。あの薬を使ったんだろ。ここを出たらすぐにあれを・・・」
「それってこれのこと?」
僕はポケットからストーカーが言っている薬を出した。
妙な色の液体が中に入っている。
「そ、そうだ、それだ!よくやった。早くそれで元に・・・」

僕は瓶の蓋を開けると中身を全て床に流し落とした。
「お、おい!やめろ、何してやがる!?」
僕は止めることなく全部中身を捨てた。
瓶の中にはもう一滴も残っていない。

「おい!な、なんて事をしやがる!」
それは唯一二人が元に戻れる手段だった。
つまり幸里ちゃんとストーカーはもう二度と元に戻れない。
「ネットで調べたけど貴方が買ったサイトはもうどこにもなかったわよ。もっともあったとしてもそれを買うお金もないわよね」
最初に手に入れたというネットのサイトを探したが結局見つけることはできなかった。
あったとしてもとてもこのストーカーに払える額ではない。
「必要がないんだ。僕と今の幸里ちゃんにはね」
そう言って僕はストーカーの前で幸里ちゃんとキスをした。
「や、やめろ!それは俺の身体だ!」
「ふふ、これは私の身体よ。ストーカーさんが私に憧れるのは分かるけどもう自分が幸里だったていう妄想はやめた方がいいわよ」

幸里ちゃんは止まらない。
その身体を全部見せつける。
その綺麗な身体を遠慮なく隅々まで見せた。
ストーカーはそれから目を離せない。
股間がどんどん大きくなる
「目に焼き付けなさい。かつての自分を、憧れの幸里ちゃんを」
「やめろ!」
ストーカーはそう叫びながら自分の股間を触り続けた。

「じゃあね、ストーカーさん♪」
僕と幸里ちゃんはストーカーにそう言って別れを告げた。
面会室を出た後もストーカーの声がしばらく聞こえてきた。
「行こう、幸里ちゃん。もう、ここに用はないよ」
そう、僕達にここにこれ以上はもう用はない。
二度と会う必要もなかった。



そしてしばらくした後新聞では幸里ちゃんがストーカーの逮捕を機にテレビへ復帰した記事が書かれる事となった。
その記事は今も大切に切り抜いて保管している。
写真には嬉しそうな幸里ちゃんが芸能復帰をする瞬間が収められていた。

いくばくかの月日が過ぎた。
その夜幸里ちゃんはテレビの撮影を終えて帰ってきた。
「お帰り、お疲れ様」
「ただいま。はあ忙しかった」
扉を開けると僕の彼女である幸里ちゃんがいた。
僕達は卒業したと同時に同棲することになった。



苦労はしているようだが今の所テレビでは幸里ちゃんとして完璧の振る舞いを見せてくれた。
周りの人に気を遣いながらも幸里ちゃんの魅力をアピールできていたと僕は確信する。
部屋の中ではテレビの収録の話を聞かせてくれた。

「当たり前だろ。俺は幸里ちゃんなんだぜ。理想の幸里ちゃんを演じるのなんて朝飯前さ」
本人も自信があったらしい。
テレビではちょうど収録した番組が放送されている。
それは皆の憧れるあの幸里ちゃんの姿だった。
そして見比べてみるとここにいる幸里ちゃんと同一人物とは思えなかった。
優等生のように振舞うテレビの幸里ちゃん、そしてダラダラと横になっている隣にいる幸里ちゃん。
とても同じ人物とは思えない。

「はあ、今日も疲れちまったぜ」
テレビでは絶対に言わないような口調でだらしなくベッドに横たわり足を組んだ。
当然スカートの中の下着は見えている。
僕はそれを注意せずさり気なく覗かせてもらった。
テレビで見る清楚な雰囲気とは全く違う。
「ほら、あの司会者は俺の胸ばかり見てくるんだ。まあこの衣装が派手すぎたんだけどよ。次はもっと過激なのを着るかな」
幸里ちゃんはそう言いながらテレビで着ているのと同じ衣装で胸を揉んでいた。
胸元が開いた衣装で実にエッチな姿だ。


そうだ、この幸里ちゃんこそが僕の望んでいる幸里ちゃんだ。
僕はベッドで横になっている幸里ちゃんの隣に行き抱き寄せてキスをした。
幸里ちゃんは最初に驚いたようだった
「こら!疲れてるって言っただろ。まったくしょうがない奴だな。少しだけだぞ」
僕は幸里ちゃんを押し倒しながら服を脱がせていった。
周りが見たら僕達は恋人同士に見えるだろうか。
お互い裸でこんな事をしているんだ。
少なくとも友達以上に思われるのは間違いない。
それに僕達はもう友達とか恋人とかという関係以上になっていた。
結婚していないのが不思議なぐらいだ。

僕は横になっている幸里ちゃんの胸を吸った。
相変わらず大きくて綺麗な胸だ。
「まったくお前は本当に変わり者だな。もっと可愛く振舞ってやってもいいのによ」
唇を離すと綺麗な顔でそう言われた。
口調はあのストーカーのままだ。
あえて僕はその喋り方にしてもらった。
やろうと思えば元の幸里ちゃんのように話せるがそれは僕も本人も望んでいない。

学校でもテレビの中でも勿論こんな姿は見せない。
僕の前でだけ見せてくれる。
これが今の本当の幸里ちゃんの姿だ。
そして僕はそんな幸里ちゃんが大好きだった。
「へへ、俺もお前といる時が一番楽だからな」
照れくさそうにそう言った。
それは僕と一緒にいる時だけ見せる顔だ。
僕と幸里ちゃんとの二人だけの秘密でもある。

「ほら、幸里ちゃんの口でキスをしてやるよ」
幸里ちゃんが激しくキスをしてきた。
僕もそれに応えて唇を重ねた。

また胸が大きくなったようだ。
「吸いたいんだろ。早く吸えよ」
身体を揺らしてピンクの乳首を揺らして僕を釣ろうしてくる。
「早くしろよ」
顔を赤くしながら僕にそう言ってきた。
本当は恥ずかしいらしい。
でも僕に早くして欲しいのが分かる。

「そんなに強く吸うなよ。変な声が出ちまうだろ」
僕は構わず幸里ちゃんの大きな胸を吸い続けた。
「こ、こら!人の話を聞いてるのか!」
怒りながらも照れている所がまた可愛い。
それに僕に胸を吸わせてくれ続けていた。
口では嫌がっても気持ち良さそうな声を出している。
何度もしているが未だに飽きない。

幸里ちゃんの呼吸が早くなっていく
もうさっきのような乱暴な言葉も減ってきて今は純粋に気持ち良くなっていようだ。
身体に汗が流れておりその刺激的な匂いがまた僕を興奮させる。
「はあ、はあ、そろそろいいか?幸里ちゃんのおま○こが待ってるぜ」
最初は疲れたからと嫌がっていたのに今は自分からやりたがっている。
「いくよ、幸里ちゃん」
「うん、いつもみたいにして♪」
今度は幸里ちゃんの口調を注意しなかった。
この可愛い幸里ちゃん乱暴な幸里ちゃんが僕は大好きだ。
これが僕だけの幸里ちゃんだ。



「ふふ、凄く気持ち良かったよ」
「ほら、また幸里ちゃんの喋り方になってるよ」
僕は幸里ちゃんの喋り方を注意した。
僕と二人だけの時はその喋り方にしないという約束をしているからだ。
「あ、ごめんね、いや、悪い、最近はあの喋り方が最近多いからな。癖になっちまってた」
幸里ちゃんは慌てて喋り方を直した。
最近は注意しないとすぐに幸里ちゃんのように振舞ってしまったり喋ってしまう。
だから僕はなるべく注意した。
いつまでもそのままでいて欲しいからだ。
「いや、いいんだよ。僕も少し怒ってごめんね。でも僕は今の幸里ちゃんが好きなんだ。だからずっとそのままでいてね」
すると幸里ちゃんは顔を赤くして恥ずかしそうにした。
テレビでも学校でも見せない顔になった。
「まったく、このまま幸里ちゃんにさせてくれたら楽なのによ。ほら、キスしてやるから顔だせよ!」
昔のように揶揄ってくることもない。
それは本気のキスだった。


テレビでは本物の幸里ちゃんのように難なく振舞っている。
だからテレビに出ても違和感なく復帰した幸里ちゃんとして人気を得ることができた。
昔のファンはもちろん新しいファンもどんどん増えている。
でも彼らは知らない。
この幸里ちゃんの正体を。
それを知っているのは僕だけだ。
それに元の口調のままでいるように言ったのは僕の方だ
このまま元の幸里ちゃんになって欲しくない。
そうなったら僕の元からいなくなってしまう。
だから僕は今の幸里ちゃんのままでいて欲しかった。
すると新しい幸里ちゃんの方も僕の考えを嬉しがってくれた。
「本当馬鹿な奴だな。ほらさっきの続きをするぞ!」
言葉は悪いがその表情は優しさに溢れていた。
元の幸里ちゃんよりも可愛く思えた。
「妊娠したら責任持てよな」
「そうしたらずっと幸里ちゃんを支えるよ」
僕はもう幸里ちゃんを手放すつもりはない。
そして元に戻すつもりもなかった。
なぜならこれはもう僕だけの幸里ちゃんだからだ。















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