奪われた花嫁(前編)
 作:verdsmith7


その日私は彼との結婚式をする事になっていた。
朝早く起きて準備をしていた。
疲れもあるがもう少しで愛しの彼と式を挙げられるので平気だった。
いよいよ今日の主役である私の方の支度を始めた。
メイクをして白いウェディングドレスを身に着けた。
鏡を見るとかつて憧れたウエディングドレス姿の自分が写っている。
私が着ているのはマーメイドラインと呼ばれるものだ。
体型に自信のある私はこの胸から膝までぴったりと張り付くようなドレスに惹かれて決めた。
昔気質の母親や父親はちょっと過激すぎじゃないかと言っていたが気にしなかった。
それに友人達からは私の体型にぴったりだと言ってくれた。


改めて結婚式の今日来てみると周囲の人達から「綺麗ですよ」と褒められて嬉しくなる。
自分でもよく似合っていると思う。
これにして本当に良かった。
自慢の大きな胸にくびれのある腰を強調したデザインで申し分ない。
膝の辺りまで生地がフィットするので歩きにくいのが難点だが期待通りの姿だ。
私が男でも見惚れる出来だろう。
だから早くあの人に見せてあげたい。
でも結婚式までまだ時間がある。

だから落ち着かないので少し外に出てみた。
最後の独身の時間をささやかに楽しんだ。
といっても少し散歩に出るだけだ。
少し一人になって外の空気を吸いたかった。
同じ景色なのにこの格好のせいか新鮮に思える。
ウエディングドレスと私の長い髪が風になびいていく。
式場の中庭もよく手入れされており凄く落ち着いた。
そこを歩いていると舞台のヒロインになった気分になった。
でも今日の主役が私であることに変わりはない。

ドレスが汚れるからあまり出歩かないようにと言われたが浮かれて少し遠くまで来てしまった。
本当はこの格好は動きにくいけど嬉しさで気にならなかった。
もうすぐ私も人妻になるのか・・・
今までは自分の事だけでもいっぱいいっぱいだった。
それなのに夫ができて相手との家族との付き合いもできる。
私なんかがその中で上手く接することができるだろうか。

ちょっとナーバスになってしまう自分がいる。
本当は今日が待ち遠しかったのはずなのに・・・
友達が結婚する時も少し不安になっている姿を見たことがあるが今の私がそれだった。

深く溜息を吐いてしまった時このままだといけないと思った。
もうすぐ結婚式が始まるというのに私は何をしているのだろう。
気を取り直そうと明るく考えた。
もうすぐ好きな彼と家族になれる。
今はそれだけで嬉しいはずだ。
私は自分の頬を叩いて気合を入れた。
少し気分が晴れた気がする。

流石にそろそろ戻らないといけない。
私が式場へ帰ろうとした時だ。
どこからか視線を感じた。
そこにいたのは男の子だった。
背丈からして小学生ぐらいだろうか。
もしかしたら親戚の子かもしれない。
今日の結婚式には小さい子も何人か来てくれているはずだ。
男の子はタキシードを着ている。
小さい身体で正装している姿が可愛い。


男の子はどうやら私の方を見ているらしい。
というよりもその場には私とその男の子以外に人はいなかった。
着ているウエディングドレスが珍しいのかジッと眺められた。
すると私の視線に気づいたのか男の子は急に視線を逸らしてしまった。
そんな姿が可愛く思えた。
そして私はそんな男の子に興味を持つと自分から近寄って行った。
「こんにちは。こんな所で何をしているの?」
「こ、こんにちは・・・」
軽く挨拶をすると男の子はまた私の方を見てくれた。
その顔は少し赤くなっていた。


その男の子からは不思議な雰囲気を感じた。
どこかミステリアスな感じだ。
「こんな格好でびっくりした?私今日は結婚式なんだよ」
「・・・そうなんですか。す、凄く綺麗です」
男の子は少し恥ずかしそうにそう言ってくれた。
男の子の素直な感想に嬉しくなった。
「ふふ、ありがとう。でも実はちょっとこれ似合う自信がなかったんだ」
「そ、そんな事ないです。凄く似合ってます!顔も凄く綺麗だし・・・」
その後も男の子は私の容姿を褒め続けてくれた。
聞いているこちらが恥ずかしいぐらいだ。

話を聞いているとどうやらやっぱり親戚の子らしい。
軽く雑談をしているといつの間にか時間が過ぎている事に気付いた。
「いけない、そろそろ戻らないと」
夢中になって話をしていた。
私が会場に向かおうとする。
「あ、最後にお願いがあるんですが・・・」
申し訳なさそうに私に言った。
何だろうと思って聞いた。
「あのキスをしてくれますか?」

男の子は顔を真っ赤にしてモジモジしながら私にそう言った。
普段なら絶対に断っていただろう。
でも今日の私は気分が上がっていた。
それに綺麗だと言ってくれたお礼もしたかった。
だから私は男の子にキスをしてあげることにした。
「じゃあ、ちょっとだけだよ」
私は屈むと男の子の視線に合わせた。
ニコッと笑うと男の子は少し恥ずかしそうになった。
そんな姿が可愛く思える。
そして私は軽く触れる程度に男の子に唇を重ねた。

「も、もう少しだけいいですか?」
意外な返事に少し困ってしまった。
でも結婚したらこんな事はもう異性とできない。
たとえこんな小さい男の子でも・・・
これが自分にとって最後の自由な時間だと感じる。
この子はまだこれから色々な事をしていくようになるのだろう。

そう思うと目の前の男の子が少し羨ましくなった。
「他の女の子にそんなお願いしたらだめだよ。好きな女の子以外には・・・」
「ぼ、僕お姉さんの事だけが大好きなんです!」
さっきまでの頼りない感じではない。
それは力強い私への告白だった。
その真剣な瞳に私は少し圧倒されてしまった。
「分かったわ。でもお姉さん今日は結婚するのよ。だからこれが本当に最後ね」
「わ、分かりました」
そう、これで本当に最後だ。
これで私の独身が終わる。
私はそんな事を思いながら男の子の唇にキスを続けた。
さっきよりも強く押し付けて少し深くしてあげた。
男の子は緊張しているのか少し震えていた。
それでもぎゅっと私に抱き着いてきた。
懸命に私とキスをしようとしてくる。
そんな健気な姿がまた可愛く思えた。
だから少しだけ長くキスをしてあげた。
男の子もぎゅっと私に抱き返してくる。

この子にはこれから結婚する私のような悩みはないだろう。
一人で自由な時間をたくさん過ごして楽しむことができる。
それが羨ましく思えた。
はあ、この子になって自由になりたい。
そんな事を願ってしまった。

その時突然大きな雷の音が空から聞こえてきた。
でも私達は構わずにキスを続けた。
そして次にひと際大きな雷鳴が響いた時だ。
周りが一瞬で真っ白になり私は目を閉じてしまった。
意識が飛んでしまったのか少しの間ぼんやりとした時間が過ぎた。
その間も私達はキスを続けていたようで唇は重ねられていた。。

気付いた時にはどうする事もできず私と男の子はそのままキスをしていた。
「ううん・・・」

轟音と衝撃が身体中に伝わってきた。
きーんと酷い耳鳴りがする。
それに頭もくらくらした。
一瞬雷が自分達に当たったのかと思った。
どうやらなんとか無事のようだ。
痛みはないし身体も動く。
安心した私はゆっくり目を開けた。
「ふう、びっくりした。君も大丈夫だった?あ、あれ?」

夢でも見ているようだった。
そうとしか思えなかった。
私がキスをしていた相手は他ならぬ私だったからだ。
「うん、大丈夫だよ。お姉さんも・・・え?」
目の前にいる私はそう私に返事をしてきた。
あの純白のウェディングドレスを着ているのは私だけのはずだ。
それなのに目の前の女性はそのドレスを着ている。
そして私と抱き合っていた。



確かに私はさっき男の子とキスをしていたはずだ。
それなのに今私は私にキスをされていた。
目の前の私は目を閉じてウエディングドレスを着て屈んで私にキスをしていた。
一体何が起こったのだろうか。
本当に夢でも見ているのだろうか。
唇と抱き合った身体を離すと目の前の女性も気付いたのか同じように私の方を不思議そうに見つめだした。
「ど、どうして僕がそこにいるの!?」
私の身体は私を見てそう言った。
喋っている声も同じだった。
全てが私と同じだった。
ただしそれは私であって私でない。
女性は私の意志に関係なく動いているからだ。


私は試しにその女性の驚いている顔を触ってみた。
柔らかい頬、サラサラの髪の毛、綺麗なウエディングドレスと触れた。
それは幻ではなく確かに私に違いない。
その顔も身体もホクロの場所まで全てが同じだった。

すると女性も私の顔を触ってきた。
綺麗で長いその指が私のほっぺたを撫でていく。
「ぼ、僕だ。僕がいる」
私の姿をした女性は私の事を指さしがらそう言った。
そして、その言葉を聞いて私は気づいた。
私はタキシードを着ていた。
それも子供が着るような小さいサイズのをだ。
それはさっきの男の子の格好だったはずだ。
「まさか私達入れ替わったの!?」
私は私に向かってそう言った。


背が低いので視線が凄く低く感じた。
だから目の前の自分が凄く高く見えた。
そして私達は再びお互いの顔に触れた。
私は私の姿をした目の前の女性に、目の前の女性は私の身体を触った。
自分達が入れ替わったなんてまだ信じられなかった。
「変なの、僕が僕の事を触ってる」

目の前の私は不思議そうに私を触っていた。
頭や肩、お腹などを触れてくる。
くすぐったいが今はそれどころじゃない。
自分にこうやって触られるのはなんだか変な気分だ。




「どこに行ってたの!?式が始まっちゃうわよ!」
向こうの方からそんな大きな声が聞こえてきた。
やって来たのは私と仲の良い友人だった。
今日までにも色々と手伝ってくれて今日の日を一緒に楽しみにしてくれていた。
そんな彼女が慌てた様子で私達の方へ向かってくる。
「ご、ごめんね。そ、それより大変なことが・・」
しかし、友人は私の事を気にも留めず私の身体になった男の子の方へ駆け寄ってしまった。
友人は急いでいるのか私の事は眼中にない様子だった。
私が必死で声を掛けても聞いてくれない。
一方の友人は私の身体になっている男の子に早く戻るように急かしていた。



「え、ぼ、僕、これから結婚するの?!」
男の子は結婚式の花嫁に自分がなる事を聞かされて驚いている。
「何言ってるのよ!他に誰がするのよ。みんな待ってるんだから早く来て!」
腕を引っ張ると会場に向かって走り始めた。
ウエディングドレスを着た私が友人に連れられていく。
「ちょ、ちょっと待って!」
私は急いで二人を止めようとした。
でも急いでいる友人は私の話を聞こうともせず私の身体になった男の子の手を掴むと会場の方へ向かって行った。
「お願い!待って!」
「ごめんね、このお姉さん今から結婚式なの!急いでいるから、じゃあね!」
そして時計を見るや駆け出した友人は連れて行ってしまった。
「ねえ、違うの!私が結婚するのよ!」
そう叫びながら追いかけるも短い男の子の足では大人の二人に追いつけない。
二人の姿はどんどん遠ざかっていき遂には見えなくなっていった。
私の身体になった男の子はヒールのせいでふらふらしながら何度も転びそうになっていた。


残された私は急いで追いかけた。
「ま、待って!それは私じゃないのよ!」
男の子の声でそう叫んだが二人が止まる様子はない。
私も一生懸命に二人の後を追った
友人は相変わらず私達が入れ替わっている事に気付いていない。

このままだと今日結婚するのは・・・
いや、今はそれは考えたくない。
とにかく早く追いかけないと!
二人が向かった方へ私も走りだした。
しかし、走っても走っても追いつけない。
全速力で追いかけているはずだ、それなのに更に距離を離されていく。
ウエディングドレスを着た私の身体が遠くに行ってしまう。
身軽な男の子の身体とはいえ足が短く体力が大人より少ないせいかすぐに息が切れてしまった。
体格が変わったせいか何度も転んでしまいそうになった。
身体のバランスが違いすぎる。
乗り慣れている車じゃなくて初めて乗る車で運転しているみたいだ。
突然乗っているのがワゴン車から原付のバイクになった気分だった。


「はあ、はあ、会場ってこんなに遠かったかしら?」
外に出て調子に乗って随分歩いたかもしれない。
もっと早く引き返しておけば良かったと思った。
今更だがさっきまでの自分の行いを悔いた。
そうしなければ恐らくこんな事には・・・
私は平らになった胸を一瞬見ると息を整えて会場へとまた走りだした。
だいぶ足を動かして移動したはずなのに会場の建物はまだはるか遠くにある気がした。
今の私はウエディングドレスに比べれば動きやすい格好のはずだ。
それでもさっきの場所からそんなに動けていなかった。
多分この男の子の短い足のせいだろう。
恐らく最初に来た時より倍近く動いている気がする。

やっとのことで建物に辿り着いた。
息を整えながら自分の身体を探しているさっき出てきた時とは違う事に気付いた。
「お、大きい・・・」
会場の建物が大きく見える。
扉や階段天井までが異様に広く大きい。
いや、正確には私が小さくなったせいだ。
大人の女性から小学生ぐらいの身体になってしまったからそのせいで全てが大きく見える。
会場に来ている大人達も巨人に思えるぐらいだ。
さっきは同じぐらいの背丈だったのに・・・
皆嬉しそうに今日の私達の結婚の事喜んでくれていた。
「早く私の身体を探さないと!」

私は更衣室へと向かった。
友人が私を連れて行くなら恐らくあそこだろう。
「こら!どこに行ってたの!?それにそこは花嫁さんが使う部屋でしょ!花嫁さんはこれから大事な用があるから邪魔しちゃダメよ!」
「え!?」
ドアに手を伸ばした時だ、突然私は知らない女性に怒られてしまった。
「は、はい?!わ、私ですか!?」
「もう!怒られるからってとぼけでもダメよ!」
いきなりすぎて私は自分に言われている事に気付かなかった。
それにもう少しで自分の身体に会えるという時に。
仕方なく私は無理矢理部屋に入ろうとした。
私の身体になっている男の子に事情を説明してもらえば分かってくれる。
「こら!言う事を聞きなさい!もうすぐ結婚式が始まるんだからママ達と一緒に席で待ってなさい!」
さっきりよりも大きな声で怒鳴られて腕を掴まれた。
私に怒っている女性は男の子の母親なのだろう。

「いえ、私はこの男の子じゃなくて本当は私が今日結婚する本物の花嫁で・・・」
「もうそんな言い訳はいいからこっちに来て一緒に大人しくしてなさい!」
女性は私の手を握ると無理矢理連れて行ってしまった。
私から更衣室が遠くなっていく。
もう少しで会えるはずだったのに・・・
「ちょっと目を離したらすぐどこかに行っちゃうんだから!」

会場の来客用の席へと座らされてしまった。
「あの、だから違うんです。私が花嫁でさっきこの子と入れ替わってしまって・・・」
「こら、もうすぐ結婚式が始まるんだから静かにしてなさい!」
男の子の母親は私がどこかに行ってしまったのをしつこく怒り全然私の話を聞いてくれなかった。
なんで私が怒られないといけないの・・・
勝手にどこかに行っていたのは男の子だ。
これ以上何を言っても聞いてもらえず私は黙るしかなかった。

会場の様子が変わった。
今日の主役の一人である新郎がやって来たのだ
私はそこへ向かおうとした。
会って全部話せば何とかなるかもしれないと思った。
「ちょっとどこへ行くの!?」
後ろからまた女性の怖い声が響き私はビクッと身体を震わせた。
「もういい加減にしなさい!ほら、これを持ってちゃんとやりなさいよ」
怒りながら女性は私に何かを渡してきた。
それは今日の結婚式で私達が交換する結婚指輪だった。

「もう忘れちゃったの。ちゃんと説明したでしょ。前からリングボーイを頼まれてるんだからしっかりやりなさい」
「え、私がリングボーイを!?」
どうやら女性は私の彼の知り合いでリングボーイを頼んでいたようだ。
可愛い男の子が結婚指輪を運んできてくれるという演出だ。
それをこの男の子がやることになっていた。
つまりそれは今の私の役目にもなっていた。

なんで私が!?
結婚指輪をのせたリングピローを持たされ私は席を離れた。
「これをちゃんとあの男の人に渡してくるのよ」
何度もしつこく注意された。
この指輪は今日の結婚式の為に用意したものだ。
それを何で私がこんな事を!?
これを受け取るのは花嫁の私のはずだ。
私はリングボーイでもないし男でもない!
そんな私の怒りをぶつける対象はない。
私は怒りの気持ちを押えながら彼の元へ向かった。
「ねえ、あの子指輪を運んでいるよ」
向かっている途中周りから声が聞こえてきた。
会場では来てくれた人達から「かわいい」と声を掛けてきてくれた。
でも今の私には全然嬉しくなかった。
違う!私は花嫁なのよ!
心の中でそう叫びながら私は今日夫になる予定の彼の元へやって来た。
私が来るのを嬉しそうに待っていた。

「あ、あの、変な事を言うけど。私、私なのよ」
この状況をどう言えばいいか分からなかった。
でもそれは本当の事だ。
「え、君は?」
待っていた彼は不思議そうに私の事を見下ろしていた。
いつも私を見る目じゃなくて初めて出会った時に見る目だ。
すると私が持っている指輪を見ると笑顔になった。
一瞬言っている事を理解してくれたと思った。
「ああ、君が結婚指輪を持って来てくれたんだね」
「え、ち、違うの。私が花嫁なのよ。今日貴方と結婚するのは私でさっき・・・」
「あはは、ごめん。悪いけど僕の花嫁さんは別にいるんだ。もうすぐ来るから楽しみに待っててね。凄く美人だよ。君も大きくなったら僕みたいに素敵な人と結婚できるといいね」

彼は私が言っている事を冗談としてしか受け取ってくれなかった。
まさか彼も私がこんな姿になっているとは思ってもいないだろう。
彼は私から結婚指輪を受け取ると私に感謝してきた。
でも今の私に必要なのは感謝の言葉なんかじゃない。
私はその後も心の中で気づいて、と願いながら目で彼に合図をした。
でも彼は私に関心なんてなかった。
あるのは花嫁の到着だ。
小声で話そうとしたが少し離れた所にいるこの子の母親に睨みつけられて下手に動くことができない。
大人しくしてなさいと言っているのがここからでも分かった。

「ありがとう、もうお母さんたちの所へ戻っていいよ」
私にとって無情な言葉だった。
彼ならきっと気付いてくれると思った。
それなのに全然そんな事はなかった。
男の子の母親の女性が私に早く戻るように手招きをしている。
私は新郎から離れて席へ戻るしかなかった。

リングボーイとしての仕事を終えて落ち着かずテーブルの上に用意されたジュースを口に入れた。
そうでもしないと落ち着かなった。
予定では花嫁が入場する事になっているはずだ。
その時遠くから拍手が沸き起こった。
その手を叩く相手は他でもないウエディングドレスを着た花嫁だ。

私の身体は友人に半ば無理矢理連れて来られている状態だった。
困った表情をしながら会場へと入ってくるが、相変わらずヒールでふらふらになっていた。
でもお祝いムードのせいか周囲はその様子を気にしていないようだ。
その時私は私の身体と目が合った瞬間私は駆け出していた。

「こら!どこに行くの!?」
後ろで男の子の母親が静止してくるが気にせず走った。
花嫁衣裳の私の身体へと駆け寄ると手を握った。
「あ、僕だ!」
私の身体になった男の子が私を見下ろしてくる。
「は、早く来て!」
私は私の手を引っ張ると会場から駆け足で離れた。
彼の心配する声や男の子の母親が怒る声も聞こえた。
「ごめんなさい!」
「あ、君!?」
逃げる途中彼が手に持っていた指輪を奪った。
私は心の中で彼に謝りながら走った。
これではまるで私が式場から花嫁と指輪を奪っているみたいだ。
でも違う、この指輪もウエディングドレスを着たあの身体も私のなんだ。
絶対に元に戻るからそれまで待ってて。
そう心の中で叫びながら走った。
「どうしたんだろう?」
会場にいた人達がざわつき始めていた。
折角来てくれたのに・・・
申し訳ない気持ちでいっぱいになりながら会場から逃げていった。



どうやら後ろからは誰も来てないようだ。
とりあえず化粧室の中に入った。
「はあ、はあ、ここなら大丈夫そうね」
息の乱れ
「えーと、僕じゃなくてお姉さんだよね?」
手を引かれていた私の身体の男の子がそう尋ねてきた。
私とは違って平然としている。
やはり大人と子供では体力が違うのだろう。
「はあ、はあ、ええ、そうよ。」
息を整えながら答えた。

「これが私!?」
化粧台にあげてもらい大きな鏡を見てみた。
朝から頑張って化粧と着替えをして完成させたウエディングドレス姿はない。
さっきキスをした男の子になっていた。
「やだ、これが私だなんて・・・」
タキシードを着た男の子が写っている。
着ている物や背丈から自分の身体が変わったと気づいていた。
しかし、こうやって今の自分の顔を見るのは入れ替わってから初めてだった。
短い髪に幼い顔立ちでタキシードを着た男の子、それが今の私の姿だった。


「お姉さん、僕達どうするの?」
私の身体になった男の子が私の顔で心配そうに尋ねてくる。
そんなの私の方が聞きたいぐらいだ。
「あ、でもそうなったら僕がお姉さんになれるのか♪」
冗談だろうと思ってスルーした。
もういっそ結婚式は延期するべきじゃ・・・
だけどどうやってこの状況を説明しようか。
私が男の子の身体で身体が入れ替わったと言っても子供の悪ふざけとしか受け取ってくれないだろう。
特に男の子の母親は私に怒っていたから話を聞いてくれるかさえ怪しい。
だとしたら私の身体になった男の子が説明すれば・・・
そんな事を考えていた。

「あ、あの、お姉さん・・・」
モジモジしながら声を掛けてきた。
「どうしたの?」
「ぼ、僕、トイレに行きたいんだけど・・・」

「ちょっとこんな時に何を言ってるの!?」
それに他人に自分の用で足されたくない。
それでも私の身体になった男の子は執拗に下半身を手で押さえて身体をくねらせながらお願いしてきた。
知らない人が見れば夜の街にいる危ない女性に見える。
「そ、そんな事言われても、お、お願い、は、早く行かないと、ぼ、僕、も、漏れちゃう・・・」
今度はそう言って屈むと上目遣いで頼まれた
自分の顔ながらに可愛いと思えてしまう。
しかもどんどん顔と身体を近づけてきていた。
「わ、分かったから、そ、そんなに近づかないで!」
このまま抱き着かれてしまわれるのではないかと思う距離で私は遂に根負けしてしまった。

その時下半身から妙な感覚が襲ってきた。
恐れていた事が起きた。
あんなにジュースを飲むんじゃなかったと後悔した。
さっきまでは走ったりしていたが冷静になった途端に下半身がムズムズし始めた。
でももう遅い。
お腹に入ったジュースの水分は今私の下半身へと到達していた。
そしれてそれは私のあそこから早く出たがっていた。
「わ、私も、が、我慢できない・・・」

結局私達はほぼ同じ場所へ向かうことになった。
身体の勝手が違うからなのか早くしたくてたまらない。
さもないと大変な事になってしまう
できることなら行きたくなかった。

私は男の子の身体で男性トイレに私の身体になった男の子は女性トイレに向かった。
「絶対に私の身体で変なことしなでね!」
女性用トイレへ向かう自分の身体に念を押して注意した。
見た目は私でも本来は幼いとはいえ一応中身は男だ。
注意しておいて損はないだろう。
これで私と入れ替わったのがエッチなおじさんとかだったらと考えるとゾッとする。

一応トイレの仕方も簡単にだが教えておいた。
私が私にトイレのやり方を教えるのも変な話だし言ってて恥ずかしくなった。
ウエディングドレスを着た私がトイレの仕方を聞いている姿は滑稽に思えた。
個室に入り座ってやる事、ウエディングドレスを絶対に汚さないように気を付けること、出した後は紙であそこを拭くことなどだ。
それでも男の子は聞いてくれた。

「それじゃあ今度は僕も教えてあげるね」
「え!?」
そうだ、今の私は男の子の身体だった。
となればトイレのやり方は当然男の子のアレですることになる。
そして男の子は聞いてもいないのに丁寧に教えてくれた。
聞いているだけで恥ずかしかった。
それを今から私がするの!?
できれば遠慮したい。
でも元に戻る方法も分からい現状私はこの身体でするしかない・・・

「じゃ、じゃあ、そろそろ行こうか・・・」
「うん、分かった♪」
無邪気な笑顔で私にそう返事をしてくれた。
とはいえ男の子が私の言っている意味を理解しているかは分からないが・・・
「じゃあ、行ってくるね♪」
私の身体になった男の子は嬉しそうに向かって行った。
相変わらずおぼつかない足取りで見ている方が不安になる。
せめて転ばないようにしてほしいと思った。
それは大切な私の身体なんだから・・・

そして私の方も急いで男性用トイレに入っていった。
女の私にとってここに入るのは凄く恥ずかしい。
ここはまるで異世界だ。
女性用トイレとは雰囲気がまるで違った。
小便器があり個室が少ない。
ただそれだけのはずなのに何かが違う。

私はまず個室に入ろうとした。
ここならいつも同じように座ってできるだろうと考えたからだ。
しかし、中には誰かが入っているようで鍵が掛かっている。
おまけに「今入ってる」と言わんばかりにノックで返事をされた。
空いているのは小便器だけだ。
なんで男性用のトイレは個室が少ないの!?
頭の中でそうぼやいた。
ここで五月蠅くしたら誰かが来るかもしれない。
今見つかれば面倒な事になる。
今の私に残されたのはこの小便器しかない。

「や、やっぱりしないといけないよね」
周囲の人に聞こえないように
個室に入っている人はまだ出てきそうにない。
我慢の限界が来そうだ。
私は小走りで普段使わないそこへ向かった。

恥ずかしい、私女なのに・・・
しかし、時間を掛ければ無駄に尿意が増すだけだった。
それにこのまま我慢しても苦しくなるだけで下手をしたら違う場所で出すだけだろう。
万一そんな事にでもなったら・・・

私はさっき男の子から教えてもらった事を思い出しながら小便器の前に立った。
背丈が小さくなっているせいか凄く大きい気がする。
まさかあれを実践することになるなんて・・・
生まれて初めてトイレを立ってする事になってしまった。
ズボンと白のブリーフを下した。
「うっ、やっぱりある・・・」
股間には女の私にはないはずのものがある。
まだ小さいとはいえ確かにそれは私についていた。
できれば見たくないしなんなら取ってしまいたい。
でも今はそれでトイレをするしかなかった。
そこから出したくて仕方ない。
男の子の身体になってまだ間もないが尿意は男も女も共通している。

ああ、もう我慢できない!
膀胱が破裂しそうだった。
私が無我夢中でそれを小便器に向けた。
「あ、ああ・・・」
その瞬間チョロチョロと男の子のアレから勢いよく温かい液体が流れ出した。
我慢していたせいかそれは中々勢いを失わず出続けた。
同時にその間私は男の子の身体で解放感を感じ続けた。
しばらくの間私の股間から流れ続けた。

これ拭かなくていいのかな?
いつもなら紙であそこを綺麗にするが周囲を見回してもそれらしき物はない。
なんだか汚いなと思った。
だから洗面所でよく手を洗った。
男の人って毎日こうやってるのか。
勉強になったと同時に不潔に思えた。
早く元に戻りたい思いがいっそう強くなった。
化粧室に帰ってきたが誰もいなかった。
私の身体になった男の子はどうやらまだ帰っていないようだ。

今更ながら一緒について行けば良かったと思った。
男の子の身体になってしまっているがもうこのまま女性トイレに行って様子を見ようかと思った。
その時私の身体になった男の子が嬉しそうに帰ってきた。
それを見てホッと胸をなでおろした。
「あ、お姉さんも帰ってたんだ♪」
トイレに向かう時と比べて少し雰囲気が変わった気がしたがその時は私は気にもしてなかった。

相変わらず状況は好転しない。
突然解消から去っていた私達を皆心配しているだろう。
早くなんとかしないと・・・
焦りばかり大きくなっていく。
私は小さな男の子の頭をフル回転させ何か解決策がないか考えていた。


「ふふ、これが今の僕なんだ♪やっぱり僕お姉さんになったんだ。ふふ、これお姉さんが着てたドレスだ。それにおっぱいもある!」
トイレから帰ってきた男の子は私の身体で嬉しそうに鏡を眺めていた。
こんな時に呑気なものだ。
私は一生懸命に頑張って元に戻る方法を考えているというのに。
はあ、何であの時初めて会った男の子とキスなんか・・・
その時私はある事を思い出した。
「ねえ、もう一度キスをしよう」

入れ替わったあの時と同じようにすれば元に戻るかもしれない。
単純だが試す価値はあった。
「これで元に戻るのかな?」
不安そうに私に尋ねてくるが私にも分からない。
「やれる事はやってみましょう。ほら少し座って私とキスをして」
私の身体になった男の子が私の顔と同じ高さまで屈んだ。
その時不思議と私はどきどきしていた。
近づいてくるのは鏡で毎日見ていた自分の顔に他ならない。
でもいつもよりもその顔が綺麗に見えた。
ウェディングドレスを着て化粧もしているせいもあるかもしれない。
ただ格好以上のものがあるように思えた。
白く柔らかそうな肌、ぱっちりした大きな目、程よく高く整った鼻、ふっらしたピンクの唇、それらが迫ってくる。
男の子の身体の左胸にある私の心臓の音がどんどん大きくなっていく。
顔が近づくにつれてそれは更に大きくなった。
触れるまで私の時間はスローモーションになったようだった。

そして柔らかい唇が触れた時私は全身に血が駆け巡るのを感じた。
はあ、はあ、柔らかい。
私の唇が私の口に当たっている。
それに凄く暖かい。
次第に私のズボンがきつくなっていったがキスに夢中で気付かなかった。
しばらくキスを続けた。
その時間が凄く長いように思えた。
その間にも胸が更に高鳴っていった。

好きな異性としているような感覚だった。
しばらくして唇を離してお互いの顔を見てみた。
まだ目の前にはウエディングドレスを着た自分の身体が立っていた。
「はあ、なんで元に戻らないのよ!」
期待していた結果にはならず苛立ちを隠せない。


「も、もう一回しましょう」
戻りたい一心でもう一度キスをした。
今度はもっと激しくすることにして無理矢理唇を押し付けた。
さっきよりも唇が強く触れた。
唇だけじゃない頬も鼻も当たっている。
顔全体をくっつけ合っているように思えた。
すると私の身体になった男の子がぎゅっと抱き返してきた。
え!?
身体が密着し大きな胸が当たる。
ちょ、ちょっと当たってる!?
そう思うと急に緊張が激しくなった。
自分の身体なのに意識してしまう。
私がしているのか男の子の身体がそうさせているのか分からないが私の胸は高鳴り続けた。
「ちょ、ちょっと何をしてるの!?」
唇を離して私は強く言った。
「だってキスしようって言ったのはお姉さんでしょ。お姉さんは元に戻りたくないの?」
「そ、そんなわけないでしょ!」
早く戻りたいに決まっている。
その身体も、ウエディングドレスもも、全部私のなんだから。
そしてその姿で早く結婚式をしないといけない。

「じゃあ、もっと激しくしてみようよ。それにもっとすれば元に戻るかもよ♪」
「え、激しくって?うっ・・・」
私の身体になった男の子からのキスで私は言い終える前に口を塞がれてしまった。
さっきとは違い私の方が攻められている。
背中に手を回されぎゅっと抱かれた。
さっきよりも更に強く胸が強く押し当てられる。
胸の柔らかな部分が私の肌で潰され広く私に触れる。
すると口の中に暖かい物が触れてきた。
それが舌だとすぐに分かった。
舌が私の口に入って絡んでくる。
温かい唾液がまとわりつきながら舌が重なってくる。
そして男の子は私の舌と口を使ってその状態で吸い始めた。

その時私はやっと自分が男の子とまずい事をしていると気づいた。
そ、そうよ、こんなのやりすぎよ。
いくら元に戻りたいからって、これじゃあ私と男の子が・・・
キスをしようと言い出したのは私だ。
でも、もちろんエッチな意味でしているわけじゃない。
元に戻る為に仕方なくしているだけだ。
しかし、この状況は元に戻るというよりエッチな事をしているだけだ。
急いでやめようとするがぎゅっと抱きしめられた状態なので離れられない。

「んん!」
じだばたと腕の中で暴れた。
しかし、私を抱く力が強く子供の身体の私には到底引き離せない。
見ると私の身体になった男の子はキスをしながら私の顔でクスクス笑っていた。
そして笑みを浮かべる瞳の中には男の子の身体になって困惑する今の私の顔が写っていた。

もうどれだけキスをしただろ。
諦めてしまったのかはたまたこの状況に慣れてしまったのか今の私は変になっていた。
幸せな気分になってくる。
気が付くと私の方から夢中でキスを続けていた。
いつの間にか私も抱き着き前の自分の身体を抱きしめた。
ウエディングドレスの生地が当たりその下にある温かい肌が伝わる。

頭から余計なモノが出ていく気がした。
事実今の私はとても落ち着いていた。
不思議な程今の状況が心地よかった。
身体が入れ替わったのに、元に戻らないのに、男の子の身体になってしまったのに、私の身体になった男の子に無理矢理キスをされているというのに・・・
はあ、気持ち良い。
もうちょっとこのままでいたい。
落ち着きと興奮が同時に感じる。
長いキスを終えたのはしばらく経ってからだった。
その時には最初のような困惑は消えていた。


唇を離すとお互いの口から唾液の糸が繋がっていた。
同時に冷たい空気が広がる。
改めてお互いの顔を見合った。
「はあ、はあ、なんで戻らないの!?」
息を切らしながら口を離した。
これ以上は無駄だったし、もう変になりそうだった。
「やだ、ど、どうして元に戻れないのよ!?」
最初に入れ替わった時はキスが原因だったはずだ。
それなのに元に戻れない。
私はどうすれば良いのかパニックになった。

「ふふ、ねえ、もう戻らないんだったらずっとこのままでいようよ。」
混乱している私とは反対に私の身体になった男の子は嬉しそうに袖口元を拭きながらそう言った。
一瞬耳を疑った、信じられない言葉だった。
しかも今から私は結婚するというのに・・・
「ちょっと何言ってるの!?私これから結婚式をするのよ!」
「うん、だから僕がお姉さんの代わりにお嫁さんになってあげるね♪」
「え!?」
意味が分からなかった。
男の子が私の身体で花嫁になるなんて理解できるはずがない。
「だーから僕がお姉さんの身体で今日結婚するんだよ。お姉さんは僕の身体でこれから生活してね♪」
呆れた様子でそう言った。
「じょ、冗談よね?」
「ふふふ、冗談じゃないよ。僕は本気だよ」
その目は嘘をついているようには見えない。
男の子は事の重大さを分かっているのだろうか。
そんな事になったら今までの私の身体だけでなく人生まで男の子のものになってしまう。
そして私は男の子の身体で生きていかなくてはならい。
そんなの嫌に決まっている。

「そんなの嫌に決まってるでしょ!」
「だって元に戻れなかったら仕方ないよ。僕も知らない男の人と結婚するのは嫌だけどお姉さんの身体になったんだから仕方ないよね。それともその身体で結婚でもするの?だったら僕がお姉さんの代わりに結婚するしかないよね♪」
そう言ってニコッとほほ笑んだ。
ウエディングドレス姿の笑顔は今の私にとっては眩しかった。
つい目を逸らしてしまう。

「ふふ、自分の身体なのに見れないの?僕になったお姉さん凄く可愛いね♪」
そう言って手を握ってきた。
ただ手と手が触れているだけのはずだ。
それなのに私の身体は勝手に火照っていった。
「お姉さんも僕の身体を気に入ってくれてるね」
見ると私の股間は大きくなっていた。
さっきトイレで見た時は違う別のものになっていた。
「今日は凄く楽しくて長い一日になりそうだね♪さあお祝いをしようよ、新しい身体と新しい人生の旅立ちにね♪」
ウディングドレスを着た私の身体になった男の子はそう言って笑うと私を押し倒してキスをしてきた。














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