異国の地で 作:verdsmith7 俺はほとんど舗装もされていない田舎道を歩いていた。 この国の地図をもう一度開いて確認する。 このまま歩いていけば小さな町があるはずだ。 ただし、辿りつくまでにはまだ時間が掛かる。 俺は水筒の水を口に少しだけ流して喉の渇きを潤した。 この国へ来て2週間近く経った。 軽い思いつきでこの国を横断してみようと思いリュックサックと必要な物を詰めて旅を始めた。 徒歩とヒッチハイクで隣の国まで行き日本へ帰るという算段だ。 アルバイトである程度稼いだしこの国の物価も高くないので、余裕を持って旅することができた。 旅を始めて日本食を懐かしむ事が多くなってきたが、この国だと都市部の一部にしかないから当分食べられそうにない。 そんな事を考えていたらようやく小さな町へとやって来られた。 目立つ建物は教会ぐらいだろうか。他は平屋の建物ばかりで、2階建て以上の建物は稀だった。 俺は早速泊まれる場所を探そうと、近くを通りかかった人にこの町の宿やお店について聞いてみた。 この国で英語が通じたのはありがたかった。 俺も英語は上手くないが何とか話ができる。もっともまじめに英語の授業を受けていればもっと楽だったろうが。 俺は教えられた宿に向かった。 その途中で1軒の派手な建物があるのを見つけた。 その建物は他の建物と比べて一回りも二回りも大きかった。 外には女性が大勢いて、通りがかる男性に声を掛けていた。 「娼館か、こんな小さな町にもあるんだな」 大抵の国では、そこそこ人が集まる場所にはいかがわしいお店があるものだ。 俺がその店を横目で見ていると、一人のあどけなさが残る少女と目が合った。 10代半ばぐらいだろうか、俺よりも年下に見えた。 他の女性は明らかに成人以上だったが、なぜかその少女だけは若くみえた。 少女も俺に気づいたのか、俺の事を見つめ始めた。 少女は青い瞳を俺に向けジッと俺の方を見ていた。 その少女も他の女性と同じように、胸を強調して身体のラインがくっきり分かる服を身に着けている。 俺は一瞬声を掛けてしまいそうになったが、少女が急に建物の中へ入ってしまったので声を掛けられなかった。 「やっぱりあそこで働いているのか?」 あどけない少女が水商売とは不憫に感じたが、俺にはどうしようもできなかった。 宿は簡素なものだった。 部屋はベッドとテーブルがあるだけでトイレやシャワーは共同だ。 それでも野宿に比べたら天と地の差だ。 突然ドアからノックの音が聞こえてきた。 「ん? 何だ?」 俺がドアを開けると、そこには先ほど娼館にいた少女が立っていた。 「え? どうして君がここに?」 いきなりの事だったので、俺は少女が分かるはずもない日本語で質問してしまった。 「オ、シエテ」 意外な事だったが、彼女はカタコトながら日本語を話し始めた。 「君、日本語分かるの?」 「スコシ、ダケ」 この国で久しぶりに日本語を聞いた気がして俺は少し嬉しくなった。 「じゃあ、何を教えればいいの?」 「アナタ、ノ、コト」 どうやら少女は外国人の俺に興味があるようだ。 俺が身に着けている腕時計や服装を興味深そうに見つめている。 「いいよ、じゃあ部屋に入って。そういえば名前聞いてなかったね」 流石に相手の名前ぐらい知っておかないとな そう思った俺は少女に聞いてみた。 「マリー」 自分の顔を指さし、透き通るような声で少女は自分の名前を教えてくれた。 「そうか、よろしくね」 俺は部屋にマリーを入れると、自分の事や故郷の事を語った。 他にも俺が旅してきた土地やそこに住んでいる人のことなど、知っていることを教えてあげた。 マリーは俺の話に興味深々そうに聞き入り、分からないことがあればカタコトの日本語や英語を交えて質問してきた。 そんな風に嬉しそうに聞いてくるマリーに、俺も楽しく語ることができた。 「アリガトウ。タクサン、オシエテ、クレテ」 「いや、俺も君と話しができて嬉しかったよ」 ここ最近はこんなに話す機会がなかったから、俺もだいぶ楽しめた。 楽しい時間はあっという間に過ぎていった。 彼女はあの娼館で寝泊まりしているらしく、もう帰らないといけないらしい。 「コレ、アゲル、オレイ」 話しを聞き終えた少女はそう言うと、俺にネックレスを渡した。 そのネックレスは鉱石が連なってできたもののようだ。 無色透明や緑、黒色など様々な色の鉱石が紐か何かを通して形作られている。 「ありがとう、大切にするよ」 俺は彼女のプレゼントに感謝しながら別れた。 明日はもうこの町を出ないといけない。 短い出会いとはいえ楽しかった。できればもっと彼女といたかったのだが・・・ 「また、いつか来よう」 そうつぶやきながら、俺は彼女に貰ったネックレスを首に掛けた。 このネックレスを付けていればいつでもマリーの事を思い出せる、そう思いながら俺はネックレスを身に付けた。 翌朝周囲の雑音で俺は目を覚ました。 俺は何事かと思い布団から起き上がった。 「もう起きたのかい。今日はあんた休みだからゆっくりしていいんだよ」 俺が起きた事に気づくと、一人の女性がそう言ってきた。 その女性は俺の部屋を一通り掃除すると、次の部屋を掃除するため部屋を出ていった。 ホテルのチェックアウトにはまだ早い。 そもそも俺はどこで寝ていたんだ。 周りにこんなに布団はなかったはずだし、俺は昨日ベッドで寝ていたはずだ。何で床に布団を敷いて寝ていたんだ。 俺はふと疑問に思った。何でさっきの女性の言葉が自然に理解できたのかと。 凄く自然に頭の中で女性が何を言ったのか理解できてしまった。 一応英語は喋れるが、あんなにスラスラ理解できてはいなかったはずだ。まるで今まで英語で生活してきたかと思えるぐらい自然に感じた。 (あと「休み」って何だ? 俺はここで働いているわけでもないのに) そして違和感は更なる違和感を呼び寄せた。 「これ女物の服だよな・・・」 俺が寝た時はジーンズとシャツだったはずなのに、今では白いネグリジェを着ていた。 しかもその胸元を見ると・・・ 「これおっぱいだよな」 自分の胸にふっくらとした女性のみが持っているおっぱいがあった。しかもそれは大きくて重みが凄い。上半身のバランスを取るのが難しく感じるぐらいだった。 俺は起き上がり近くの化粧台へと向かった。 そして恐る恐る鏡を覗き込んだ。 そこには昨日一緒に話しをしたマリーの姿が映っていた。 「マリー!」 俺は咄嗟に後ろを振り返るが、そこには当然誰もいなかった。 もう1度鏡を見ると、マリーも鏡の方を向いた。 「俺、マリーになったのか?」 俺は自分の手で顔や身体をペタペタと触って、マリーが今の俺の身体であることを確認した。 「何で俺、マリーになったんだ? じゃあ、俺の身体は?」 俺は布団の近くに置いてあったマリーの服を見つけると急いで着替えた。 ネグリジェを脱いで下着姿になってしまったマリーの姿に一瞬ドキッとしてしまった。 マリーの身体に見惚れていると、俺の首には昨日マリーがくれたのと似たネックレスがある事に気づいた。 しかしその色は全部黒ずんでいて、ひびが入っているようにみえる。 もう少し確かめたかったが、俺がネックレスを持った途端、粉々に砕けてしまった。 一瞬呆気にとられたが、今は着替えないと・・・ 着替えを終えるともう一度鏡を見た。昨日出会った時のマリーの事が思い出される。鏡をどこから見ても今の俺はマリーだ。 そして俺は急いで昨日泊まったホテルへ向かった。 恥ずかしい、今俺は男性を誘惑するために作られた服を着ている。 胸元は開き胸の形を強調し、足元からはふとももが見える。 俺は恥ずかしさと自分の身体を見つけたいという焦りから走り出した。 ところが、走る度にマリーの胸が上下に激しく揺れてしまったため、そんな俺の姿を周囲の男性が嫌らしい目で見てくるのを感じた。 俺はそれに構わず息を切らしてホテルへと急いだ。 昨日泊まった部屋のドアをドンドンと激しくノックする。 頼むいてくれ! そう心に願いながら俺はドアを叩いた しばらくするとガチャリという音と共にドアが開いて中から男性、もとい俺が出てきた。 彼は俺を見るとニコッと笑い俺に部屋へ入るよう手招きをした。 「マリー?」 部屋に入ると俺は自分の身体にそう問いかけた。 「マリーは君だよ」 「違う俺はマリーじゃない。俺は・・・」 そう言うと俺は言葉に詰まってしまった。 昨日まで当たり前に覚えていたはずの自分の名前が出てこなかったのだ。 そして自分の頭の中では「マリー」という名前がパッと浮かんでしまった。 「ほら、やっぱり君がマリーだろ。ここで生まれて育ってきたマリーさ」 俺は必死でそれを否定しようとするが、なぜかそれができなかった。 俺自身も不思議な事に、そうだったのではないかと思えてしまったからだ。 「そ、それは、君が入れ替えたからで・・・」 「じゃあ、君が娼婦のマリーだって証明してあげるね」 そう言うと俺になったマリーは俺をベッドに押し倒してしまった。 俺は成すすべなくマリーに服を無理やり脱がされた。 「鏡を見てこれが今の君の姿だよ」 マリーは手鏡を俺に渡し、俺は今の自分の姿を確認した。 そこには裸になって怯えているマリーの姿があった。 この姿ならどんな男もイチコロだろう、そう思える程の美貌だ。 「そしてこれが今の君の仕事だよ。毎日男を誘惑してお金をもらい、気持ちよくさせるんだ」 マリーは俺の胸を揉みながらキスをした。 元の自分とは言え男に胸を触られてキスをされるなんて・・・と思ったがなぜかその時の俺は気持ちが良いとしか思えなかった。 止めてくれと叫ぶどころか、もっとこうしていたいとすら思ってしまう。 「あん、あん、はあ、はあ」 自分の口から喘ぎ声が聞こえても、なぜか嫌がるどころか自分でも興奮してしまう。 マリーの身体から溢れてくる快感に俺は委ねてしまう。それを見たマリーは嬉しそうに笑った。 「ほら、今度は君が俺にするんだ。それが君の仕事だよ」 そう言われて、俺はなぜか「そうだ彼にしてあげないと」と自分で思ってしまった。 俺は彼の服を優しく脱がせていった。彼の上半身が、彼の下半身が露になっていく。 毎日やっているようにむくりと起き上がり、彼の上へと馬乗りになる。 彼の身体の暖かさが俺と接している肌から感じられた。 そしてかつて自分の股間に付いていたモノを手で握り上下に揺すった。 「はあ、はあ、マリー凄く上手だ」 彼はそう言って俺の頭を撫でた。 俺は嬉しくなって、動かす手を更に速める。 (もっと彼に気持ち良くなってもらわないと) それがまるで今の自分の義務のように感じられた。 「はあ、はあ、あうう!」 そして私の手の中にある一物から白い液体が自分を含めて辺り一面に飛び散った。 俺の身体にもその液体が飛び散ってベトベトになってしまった。 本来ならそれに対して嫌悪感を抱くはずなのだろうが、その時の俺はそんな彼の姿を見てとれも嬉しかった。 少しして、お互いに息を整えた。 「じゃあ、そろそろ本番をしようか」 俺は横になり彼がアレを挿入するのを待つ。 彼は男のアソコを少しずつ俺の秘所へ近づけた。 凄くドキドキする。 マリーの身体はいつもやっていたはずだが、その身体に入っている俺にとっては初めてのことだ。 俺のそんな不安を察してか彼は優しく俺にささやいた。 「君はマリーになって初めてだろ、大丈夫優しくするから」 そんな彼の言葉に俺は安心した。 「うん」 俺は彼に頷いて本番への決心を固めた。 そんな俺に安心したのか彼は俺のあそこへ男の一物を少しずつ挿入していった。 怖いと最初は思ったが、意外とすんなり奥へと入っていく。 大きく暖かいものがドンドン自分の身体の奥へと差し入れられていった。 やがて一番奥へとたどり着くと彼は腰をゆっくり動かし始めた。 「はあ、はあ、どうだマリーの身体は?」 「最初は怖かったけど、今は凄く心地よく感じる」 私は自分の感情を素直に彼に伝えた。 それを聞いた彼は、満足そうな笑みを浮かべて腰を動かし続けた。 私の中を彼のアレが脈打ちながら動いているのが分かる。 そう、この感覚が楽しくて私は毎日男を誘惑しているんだ。 (も、もっと欲しい、気持ちよくなりたい) 私達はお互いに腰を動かし快感が同調していくのを感じた。 その感覚はとても不思議だった。 かつての自分の身体を離れ別の身体に入れられ、そして別人としてかつての自分の身体とセックスするのだから。 でもだからだろうか、相手が今どれぐらい気持ちよくなっているか自然と分かるような気がした。 そして段々とお互いの息が合ってくるとともに快感も激しくなっていった。 そう私は男性に毎日これをしている。 今までも、これからも・・・ 「ああ!」 「あーん!」 頭が真っ白になるほどの快感だった。もう今までの事がどうでもよくなるぐらいに。 「はあ、はあ、凄く気持ち良かったよマリー。ほらこれは報酬だ」 そう言うと彼は私に分厚いお札の束を渡してきた。 「いいの、こんなに?」 その金額はこの国では数カ月分の給料に相当する額だった。 私はなんだか申し訳ない気分になった、なぜならいつもと同じようにやっただけだから。 「それは今回の仕事の分と、君の人生の分だよ」 「え?」 私は彼の言っている意味が分からなかった。 「ごめんね、君の人生を・・・」 そこまで聞こえていたが、急に彼の話す事が私の理解できない言葉になった。 さっきまで自然に出てきた言葉は今はもう出てこない。 彼がさっきまで話していた言葉もテレビで急に吹き替えから外国語に切り替わってしまったように感じられた。 とてつもない不安が自分を襲ってきた。 もう今までの自分ではないと、急に自分に言い聞かされているような感覚だった。 彼はそれでも話しを続けているが、私にはもう何を言っているのか分からない。 「・・・奪ってしまって」 俺はそう言うとマリーが何か困っている事に気づいた。 さっきまで俺と会話できていたのに、急に俺が何を言っているのか分からなくなってしまったようだ。 「そうか、もう完全にマリーになったのか、日本語もその身体の記憶が完全に定着しないと使えないだろうな。少し勉強したけど難しかったから」 俺が日本語でそう説明してもマリーはキョトンとした顔で俺を見るだけだった。 そんな事を思いながら俺は時計を見た、もうお昼を過ぎている。 そろそろ行かないと。 俺は服を着て身なりを整えると道具を確認した。 日が暮れるまでには次の町に着きたい。 マリーは町の外れまでついてきていた。 その表情はとても悲しそうで、何かを伝えたいのに伝えられないもどかしさが滲んでいる。 俺はそんな彼女にお別れのキスをした。 「仕方がないんだ、君はここで生きていかなくちゃいけないんだ」 キスを止め彼女の唇を離すと彼女の瞳には涙が溢れていた。 「そんな顔しないで。仕方ない、最後に君にこれをあげるよ」 それは俺がしていた腕時計だった。 マリーはそれを受け取ると、何か考えるようにそれを見つめた。 「バイバイ、マリー」 俺はそう言ってマリーに背を向けた。 「モウ、モドレナイノ?」 突然マリーがそう言った。 俺は驚いてマリーの方を見る。 マリーは俺が渡した腕時計をギュっと握りしめ、俺の顔を不安そうに見ていた。 そして俺は口を開いた。 あれから1年の月日が流れた。 まるであの事が嘘だったかのように、私はあの後娼婦として生活している。 変わった事があるとすれば、男性客が私のテクニックが凄いと褒められることが多くなったことぐらいか。 まるで男のことを分かってるみたいだと客は口を揃えて言ってくる。 おかげで給料も少し上がり生活も少し楽になった。 本当は嬉しいはずなのだが・・・ 仕事が終わると私は自室へ戻り、彼から貰った時計を眺めた。 チクタクと小さな歯車が動いて時間を正確に刻んでいる。 それを見る度に私は鏡の前に立つ、そして・・・ 「ああ、気持ちいい・・・」 なぜだか分からないが、あの時計を見るとオナニーをしたくなる自分がいる。 いつも見ているはずのこの身体が愛しくてたまらなくなる。 まるで自分の身体なのに、他人の身体のように感じてしまうのだ。 私は自分の大きな胸をつかんで弄り、女の秘所へ手を入れる。 この1年で私の胸は更に大きくなり、腰のくびれも更にはっきりしてきた。 娼館の皆は、その内私がこの国一番の娼婦になるだろうと言ってくれる。 そうすれば都市に出て金持ちや役人からたんまりお金を稼げるだろうと。そして運が良ければそんな人達と結婚して玉の輿に乗ることができるだろうと・・・ そんな事を考えながら今日も絶頂を味わう時がきた。 「ああ! いい! いくー!」 私は絶頂が全身を駆け抜けるのを感じた。 そして、なぜかその後はいつも目から涙がこぼれるのだった。 この時計の持ち主はあれから戻ってこない・・・多分これからも。 私は鏡を見た。 裸のセクシーな身体をしたマリーが映っている。 今日がもう少しで終わる、明日が始まればまたいつもの仕事が待っている、マリーとして、娼婦として、この先もずっと・・・ 私は彼の最後の言葉を思い出した。 「君にはマリーの人生がお似合いだよ」 |