タイトルが思いつかないけれども後編
作 まぐりょ


 新幹線は何事も無かったかのように減速し、明るく照らされたホームに滑りついた。数人の客が降
り、そして数人の客が乗り込んできたが、彼女は降りようとしなかった。手に持っていたはずの携帯
電話がブーツカットパンツの太もに落ちている。背もたれに力なく頭を付け、半開きの口。そして、
見開いたま動かない虚ろな瞳。まるで彼女の時間だけが止まっているかのようで、その全く動かな
い体からは生気すら感じられない程だった。
 アナウンスの後、ゆっくりと動き始めた新幹線。車窓から疲れた表情でホームを歩いている人達が
見える。泣きながら母親に負んぶをねだっている子供の姿もあった。
 徐々に加速し、風きり音が強くなり始めた頃、彼女の眉がピクリと動いた。止まっていた時間が再
び動き出したかのように指がピクピクと震え、瞳に光が蘇った。大きく深呼吸をした後、ゆっくりと
頭を動かし車窓に映る自分の顔を眺めている。2、3度瞬きした後、彼女の顔にニヤリと笑いが浮か
んだ。 コクンと唾を飲み込み、じっと車窓を眺める。その瞳は、反射して映る胸元を見ていた。
 Tシャツの生地を盛り上げている二つの胸は、呼吸に合わせてゆっくりと上下に動いている。その
動きとは対照的に、彼女の鼓動は激しく高鳴っていた。その鼓動を落ち着かせるためか、視線を
移し車窓の奥に見える風景を少しの間眺めた彼女。高速に移動する暗い風景は、何処となく寂しさを
感じさせた。
 耳に付けているインナーフォンから入ってくる音楽に意識を集中させる。

「これは……朋子が好きだと言っていた曲だな」

 彼女はそう呟くと、太もに落ちた携帯電話を手に取り、液晶画面に表示されている曲名をじっと
見つめた。曲名は良く分からないが、何度かテレビで見た事のある男性グループの曲のようだ。

「はぁ……そろそろ馴染んできたな。よし、とりあえず……」

 目の前で10本の細い指を開いたり閉じたりした後、彼女は耳からインナーフォンを外した。周り
をそれとなく見渡した後、足元にある小さめのキャリーバッグの中から緑色のポシェットを取り出し、
ファスナーを開いて財布を手にする。

「……なんだ。さっきの駅で降りるんじゃなかったのか」

 財布に挟まれていた切符には、随分先の駅名が印字されていた。先ほどの駅で降りなければならな
いのなら、この席には別の誰かが座る可能性がある。それに、乗務員に席を開けろと言われるかもし
れない。

 「慌てる事はなかったか」

 その後、運転免許証を取り出して身元を確認した。

「ふ〜ん、木見蔵 麻枝。24歳か。それにしても……今日は今まで最高の日だな」

 免許証にある自分の写真を見ながら話す彼女は―彼女自身ではなかった。すでに彼女の体は仁の
幽体によって完全に支配されているのだ。仁は、憑依した相手の意識を深い奥底へと追いやり、その
体を自由に操る能力を持っていた。だから今、木見蔵麻枝の体は仁の物。仁の思いを拒む事なく、忠
実に従う器なのだ。

――この能力を手に入れたのは1年足らず前。

 ストレスのせいかもしれない。忙しすぎた仕事に、現実逃避したいという思いがそうさせたのかも
しれない。不思議な事に、寝ているときに体から魂が抜け出す「癖」が付いてしまった。抜け出すと
言っても、せいぜい1m程度の範囲。それ以上、体から離れる事は出来ない。更に、自分の意思で体
に戻る事も出来なかった。
 その時は、このまの状態が続いて死んでしまうのでは無いかと本気で慌てふためいたが、目覚ま
し時計のアラームで体が目覚めると、強制的に魂が吸い寄せられ元に戻る事が出来た。
 体さえ目覚めれば元に戻る事が出来るのだ。それは仁の好奇心を掻き立てた。こんな事が出来るの
は自分だけだという優越感と共に、この状況を誰かに伝えたいという欲求も現れた。そうは言っても、
他人に知られるのは変人扱いされそうで嫌だから妻の朋子にだけ話そうと思った。この事は子供には
内緒にしている方がい。
 元の体に戻れるのだから、この奇妙な現象に恐怖心などは微塵も感じなかった。

「聞いてくれよ朋子。俺さ。眠っている間に体から魂だけが抜け出せるようになったんだ」
「魂だけが抜け出せるって……何よそれ?」
「幽体離脱というらしい。寝ている間に自分の体を眺める事が出来るんだよ」
「ば、馬鹿らしいわね。幽体離脱なんて」
「嘘じゃないって。本当なんだ」
「だってあなた。そんな事が出来たら気持ち悪いじゃない」
「そ、それはそうだけど……」
「いから、早く食事を済ませたら?子供に変な事を吹き込まないでね」
「あ、あ……分かってるよ」

 妻の朋子に話しても信じてもらえない。一緒に寝ていれば気づくかもしれないが、二人はいつの頃
からか別の部屋で寝るようになっていた。――セックスレスの関係。子供が大きくなったからかもし
れない。無理にセックスしたいとは思わないが、生活が子育てのみという日常には少し寂しさを感じ
ていた。 そんな状況がしばらく続いた後、仁に出張が入った。新幹線を使っての遠出張。座席で寝ている
間でも、自然と体から魂が抜け出てしまう。そこで気づいたのが、幽体になった姿は誰にも見えない
という事。そして最大の特徴が、他人の体に憑依できる事だった。
 最初は冴えない男の体だった。まさかそんな事が出来るなんて思ってもみなかったので、慌てたも
のだ。その汗臭い男の姿のま、急いで魂の抜けた体を揺さぶり起こした事がある。そんなやり方で
も自分の体に戻れたので―仁はふと面白い事を思いついた。
 もし女性の体に入り込んだらどうなるのだろうと。男なら、女性の体に興味が出るのは当然の事だ。
 それを実行したのが半年ほど前。自分の体から1mほどしか離れられないので、座っている席の周
囲にいる人間にしか憑依できない。たまたま前の座席に座ったのが45歳前後のおばさん。濃い化粧
に薄紫に染めた髪が気持ちを萎えさせた。ぽっこりとしたお腹に目を覆いたくなるが、背に腹は変え
られぬ。思い切っておばさんの体に飛び込んだのが、異性の体を手に入れた記念すべき最初の出来事
だった―― 。
 それから10回ほど出張があった。その中で、女性に憑依できたのは3回。若い女性もいたが、す
べて出張先に行く途中という事で、あまり長い時間操る事は出来なかった。もちろん、人目の多い列
車内では楽しめないし、頻繁に出入りしているトイレに長時間いる訳にはいかない。それに、幽体離
脱を行うと精神的に疲れるのだ。そんな状況では仕事に支障をきたす。だから、行きより帰りの方が
い。特に、他人に怪しまれる事が嫌な仁にとっては、乗客がほとんど乗っていない休日の夜が。
 今日は最良の日だ。こんな美人に憑依で来たのだから。これからしばらく、木見蔵麻枝の体は仁の
物だ。何時かはこういう時が訪れるかもしれないと思っていた仁は、出張の度に他人から怪しまれず
に楽しむ方法を考えていた。

「時間はたっぷりある。まずは持ち物検査だな」

 すでに麻枝の体を手中に収めた仁は、気持ちにも時間にも余裕がある。好きな食べ物は最後に取っ
ておくのが仁の性格。麻枝の魅力的な体の探索は後の楽しみとして、顔の横に垂れ下がる髪を気にし
ながらもブーツカットパンツを穿いた細い両足を左右に開き、足元のキャリーバッグを物色し始めた。
他人の持ち物を、しかも女性の物を堂々と触れる事に興奮を覚える。少女漫画や幾つかの雑誌の他
に、新幹線に乗る前か、もしくは前日に着ていたであろう服が入っていた。白いビニール袋に入れら
れていたのは、刺繍の入った水色のブラジャーと、お揃いの色で大人の魅力を漂わせているハイレグ
でセクシーなパンティ。キャリーバッグの中で広げてみると、股間の部分に出来た薄黄色のシミが使
用済みである事を知らしめていた。このパンティが麻枝の股間に張り付いていた事を想像すると、弥
が上にも欲情する。乗客の少ない車両内だが、全く人目が無い訳ではない。仁は使用済みのパンティ
を両手の中に隠すと、キャリーバッグから取り出して鼻に押し付けた。他人にばれないよう、くしゃ
みをする要領で両手を使って覆い隠す。

「シミが出来ているパンティか。す〜は〜。す〜は〜」

 何度も何度もパンティの匂いを嗅いでみた。仁だけが知っている彼女の変態的な姿が車窓に映って
いる。手の中に隠したパンティからは洗濯したての良い香りはなく、女性特有の匂いを少しだけ残し
ていた。この匂いが更に仁の鼓動を高ぶらせた。

「うわ……はぁ、はぁ。この何とも言えない匂いがたまらない……」

 車窓に向かって篭った声を出した後、パンティを手の中に隠しながらキャリーバッグに仕舞い込ん
だ。横目に自分の体を見る。かなり睡眠薬が効いているのであろう。起きる気配が全く感じられず、
終点の駅までずっと眠り続けていそうな感じだった。だからといって、今更後戻りなんて出来ない。
 仁は、周囲の人目を気にしながら自分の体が着ているスーツのポケットに手を入れ、中から幾つか
の小物を取り出した。他人が見れば、泥棒しているように見えるだろう。それらをブーツカットパン
ツのポケットに小分けにして移し変え、座席を後にする。底の固いパンプスで床を鳴らすと、座って
いるサラリーマンの数人がこの体に視線を送っていた。顔や胸、そしてお尻。普段の仁が女性に視線
を送っているのと同じだが、逆の立場ではこのように感じるのだ。麻枝本人としては、その視線を鬱
陶しいと感じるかもしれないが、仁は逆に優越感として感じていた。
 超高速でレールの上を滑る新幹線。整然と並んでいる座席の背もたれに手を添えながら、揺らぐ体
を支えるように歩いた仁は、車両間にある自動ドアをくぐって男女共用の洋式トイレに身を潜ませた。

「さて、そろそろ始めるか。それにしてもこの木見蔵麻枝という女性の体、スタイルいよなぁ」

 時折激しく揺れる列車。鍵を閉めたあと壁に凭れ掛かり、楽しみに取っておいた麻枝の体の探索を
始めた仁は、両手を使って程よい大きさの胸をいきなり鷲掴みにした。
 Tシャツ越しに感じるマシュマロの様な柔らかい手触り。胸にめり込む指が、その柔らかさを十二
分に表現していた。この胸、何回揉んでいても飽きない。

「はぁ、はぁ。すごく柔らかいな。この弾力がたまらない」

 白くてほっそりとした10本の指が、遠慮なく胸を揉みしだいている。グニグニと形を変える麻枝
の胸は何の抵抗もせず、仁のいなりになっていた。

「本当に最高だよな。この体って」

 振動で倒れないようにブーツカットパンツの生地が密着した細い足を左右に開くと、シャツの襟元
を両手で引っ張った。その中を覗き込むとボディーシャンプーだろうか、彼女のい香りが鼻を楽し
ませる共に、白いブラジャーに包まれた胸の谷間が自分の体ではない事を証明した。

「はぁ〜。このアングルが何とも言えないな」

 覗きを楽しんだ後、何のためらいもなくTシャツの裾を肩まで捲りあげる。フロントホックを外す
と、ブラジャーのカップに押し込められていた乳房がブルンと震えて飛び出した。その左右に広がる
揺れが仁の男心をくすぐる。お椀型の乳房に、硬くなり始めた赤ピンクの乳首がその存在を主張して
いる。仁が欲情する事で、麻枝の体が感じているのだ。捲りあげたTシャツの裾を顎で挟み、両手の
人差し指と親指を使って乳首を摘んでみた。

「うっ……」

 女性の敏感な感覚に驚いた仁が思わず顎を上げると、Tシャツの裾が乳首を摘んでいる両手をはら
りと隠した。そのま乳首を弄ぶ。こりこりと摘んで転がしたり、乳房に押し込んだり。更にはきゅ
っと引っ張っては放してみたり。あの車窓に映っていた美人が、トイレの中でこんな痴態をさらして
いる。しかも、仁のためだけに。麻枝の鼓動が激しく高鳴った。

「はぁ、はぁ。んっ、んっ。麻枝ちゃんの乳首、可愛らしくてすごく気持ちいな。ふっ…うぅ。
この気持ちよさに、思わず喘ぎたくなよなぁ」

 この麻枝の声を使って思い切り喘げば、さぞかし興奮するだろう。だが、誰かに不審に思われるか
もしれない。そういうところに神経質な仁は、しばらく乳首の快感を楽しんだ後、そろりとブーツカ
ットパンツの股間に手を伸ばした。
 のっぺりとして何もない丘。上下に優しくさすって、その張りと弾力のある丘の感触を楽しむ。こ
うしているだけでも幸せを感じた。本当なら勃起して大きなテントを張っているだろうに。
股間の中央にある縫い目。その上に中指を押し込み、上下に動かしてみた。
 指先にフニフニと程よい弾力を感じる。そして、縫い目がその弾力を左右に分ける働きをした。

「うっ……はぁ、はぁ。縫い目がワレメに食い込んで…すごくいやらしいな」

 そうやって何度も何度も擦っていると、ワレメが更に浮き出てきて生地越しにクリトリスを刺激す
る形になった。その感覚に、ビクビクッと体が震える。

「ひうっ!ここが……ク、クリトリスだ……すごいっ」

 縫い目の上からピンクのマニキュアが塗られた爪で引っかくと、生地越しにクリトリスから快感が
湧き出てきた。男の体では味わえない神秘で未知なる感覚。女性に憑依して多少の悪戯をした事はあ
ったが、こんなにじっくりと時間をかけて味見する事は無かった。更には憑依した麻枝の体が仁の理
想だという事で、快感も尚更大きく感じられた。もしかすると、女性の体によって感じ方が違うのか
もしれない。 開いていた足をギュッと閉じると、縫い目がワレメに食い込んでいるのがはっきりと分かる。その
姿は、普段の麻枝が持ち得ないと思われるほど淫乱な雰囲気をかもし出していた。

「んうっ、すごいな。ワレメの形がパックリと浮き出てるぞ」

 ブーツカットパンツを両手で引っ張りあげ、足を開いたり閉じたりする。縫い目がむっちりとした
 ワレメに沿って強烈に食い込み、左右に分かれた恥肉が膨れ上がる様は本当にいやらしいかった。

「はぁ、はぁ、はぁ。何ていやらしい格好だよ。この姿を本人が見たらきっと絶叫するだろうなぁ。
ふぅ……んっ。あっ……あ、こんな時間か。そろそろ出ないとまずいか」

 10分以上篭っていると、不審に思われるかもしれない。仁は、ポケットの中に仕舞っていた小物
を取り出した。

「まずはこれを…」

 手にしたのは白い楕円型をした2センチくらいのリモコン型バイブレーター。ブーツカットパンツ
のボタンを外してファスナーを下ろすと、ワレメに食い込んでシミの出来てしまったパンティを広げた。

 「ふっ……ん」

  バイブをワレメに挟み込み、クリトリスに接したところをパンティで覆う。更にはブーツカットパ
ンツのファスナーを閉めて包み込んだ。異物が当たっているのを感じる。そのまパンツのボタンを
留めると、ほんの少しだけ股間が膨らんでいるのが分かった。それが何か知っている仁は、一人興奮した。
 次にポケットから取り出したのはニップル型のバイブが2つ。それぞれにインナーフォンと同じよ
うな白いコードが付いており、まだポケットの中にある小さな四角いリモコンに繋がっていた。リモ
コンにはスライダーが付いていて、バイブレーションの強さを変化させられるようだ。それを勃起し
た乳首に貼り付け、ブラジャーで覆い隠す。更にTシャツを下ろして、見た目には全く分からないよ
うにした。ローライズのブーツカットパンツなのでポケットのリモコンとTシャツの裾との間、ウェ
スト部分にコードが見えている。それをさりげなく腕で隠しながらトイレを出て、自分の座席へと歩
いた。 相変わらず視線を感じるが、誰も気づいていない。この体に大人のおもちゃが取り付けられている
事に。そして、仁という男に操られている事に――

 股間にセットしたバイブのリモコンは、まだ仁のスーツに入ったまだった。同じようにスライダ
ーの付いたリモコン。人目を気にしながらそれを取り出し、右手に握る。胸に付けたニップル型のバ
イブのリモコンは、コードが通路の反対側、即ち左側に来るようにして左手に握った。
 これで心置きなく木見蔵 麻枝という24歳の美人を楽しめる。車窓に映る麻枝の表情。少し緊張
しているようでも、その瞳はこれからの行為を待ち望むかのようにキラキラと輝いたいた。大きく呼
吸をしながら、少し汗が滲んできた手に力を入れる。スイッチを入れば、すぐに麻枝の体が反応す
るのだ。まずは小さな振動から。しかし、どちらから入れようか。

 胸か?股間か?
 乳首か?クリトリスか?

 クリトリスは刺激が大きくて痛いかもしれないので乳首から攻めるか。いや、もうすでに濡れてい
るのだからクリトリスでもいか。気持ちよすぎてブーツカットパンツにまでシミが出来るかもしれ
ない。いや、シミが出来るほどずっと感じていたい。
 この木見蔵麻枝という女の性を堪能したい。今まで感じた事のない快感を味わってみたい。電池の
心配は無用だ。カバンの中に予備を持っている。

「よし決めた。ではまず……はぁ、はぁ」

 ゴクンと唾を飲み込み、ギュッと握り締めていたリモコンのスライダーに親指をかけた。最初はほ
んの少しだけ。こで大きく喘いだら確実に怪しまれるから。
 通路を、スーツを着た30代位の女性が歩いていった。その後姿を眺めた後、もう大きく深呼吸を
し、車窓に映る緊張した表情を眺めた。ジェットコースターで急勾配を滑り落ちる瞬間の顔。それと
同じ表情をしているように思えた。そして――

 カチッ。

 左手に握ったリモコンのスライダーを動かした。

「…………」

 トン、トン、トン――

 優しく叩かれている。小さな低周波が麻枝の乳首をはじき始めた。くすぐったいような、それでい
て薄っすらと気持ちよさを感じる。その小さな感覚に、安堵の表情が浮かんだ。思っていたよりも大
丈夫だ。先ほどトイレで乳首を弄んだときよりも軽い。しばらく続けた微妙な振動では刺激が少なす
ぎる。車窓に映る表情は物足りなさを表していた。ならばと、徐々にスライダーを真ん中あたりまで
移動させ、強めに設定する。

 トントン、トントン、トトン、トントン、トントントン―

 Tシャツ越しには見えないが、振動が強く、そして早くなった。それを乳首が敏感に感じ取ってい
る。

 「うっ……ふぅ」

 小さく切ない声を漏らした後、背筋を反らして乳首に神経を集中させる。周期的ではない微妙な振
動の変化は、麻枝の体から発する気持ちよさを増幅させていた。

「ふっ……ぅ。い……んっ。このはじかれ方……気持ちいい……」

 麻枝の声を使って呟いた。自分が出したセクシーな声に、下半身が火照ってくる。もっと強くした
ら、もっと気持ちよくなれるに違いない。そう思った仁は、スライダーを最大にした。

 ドンッ、ドンッ、ドンッ、ドドッ、ドッ――

「いっ!」

 その振動に驚いた仁は、胸を隠すようにしながらスライダーを下げた。強烈な快感が全身を駆け巡
ったわけではなく、単に痛かったからだ。乳首が悲鳴を上げるくらい痛かった。

「はぁ、はぁ、はぁ」

 一度完全に止めて、痛みの余波がなくなるのを待つ。胸をさすろうと思ったが、ちょうど乗務員が
ワゴンを運んできたので止めておいた。慌てた表情を見せまいと、平静を装って車窓を眺める。
 ゆっくりとワゴンを押して行った添乗員を横目で追った仁は、自分が周囲から見られていない事を
確認した。そしてリモコンを握ったま、Tシャツ越しに優しく胸をなでた。

「う、痛かったなぁ。あんなに痛いとは思わなかった」

 しかし、もしかしたら痛みが快感に変わって行くかもしれないなんて事も思った。

「とりあえず乳首は後で」

 今度はクリトリスに当てた楕円型のバイブ。ブーツカットパンツの足を揃えた状態でスライダーを
上げる。 ブーン。 非常に細かい振動がクリトリスを刺激し始めた。

「ぅっ……」

  こんなに振幅の小さな振動でも、直接クリトリスに当たっていると気持ちい。これこそ男性には
無い、女性特有の快感だ。バイブがクリトリスに押さえつけられるように、わざと細い足を組む。ま
だスライダーは少しか移動させていないが、これだけで十分。そう麻枝の体が訴えていた。

「うっ……はぁ、はぁ」

 艶かしい表情が車窓に映っている。しばらくこのまで――
 スライダーが動かないように気をつけながら、ブーツカットパンツのポケットに入れる。そして、
乳首につけているニップル型バイブのリモコンも、先ほど気持ちが良かった中くらいの強さに設定し、
左側のポケットに入れた。乳首とクリトリスを同時に責められている。しかも、人数こそ少ないが周
りには人がいる中で。

「ふっ……ん。はぁ〜」

 車窓に体が向く様に座りなおし、上半身の左側を背もたれに付けた状態でじっと目を瞑った。瞼の
裏に映る黒い空間。何も見えない状態が、それぞれの急所につけられたバイブの振動をはっきりと意
識させた。体中で感じているような錯覚に陥る。

「うっ……ふぅっ。はぁ、はぁ……はぁ。んっ……ん」

 知らず知らずの内に、上ずった声が漏れる。瞼を開くと、車窓に映っている麻枝の表情が艶かしい。
歪んだ眉に潤んだ瞳。ピンクの唇を半開きにし、じっと仁を見つめている。まるで私をどうにかし
て欲しいと訴えかけているようだった。
 ピクン、ピクンと体が震え、下腹部が更に熱く火照っているのを感じた。麻枝の体が男のシンボル
を欲しがっているに違いない。でも、男の仁にとっては、そこまでするつもりはなかった。男に犯ら
れるなんてごめんだ。
 両腕で麻枝の体を抱きしめながら、じっとその快感を味わう。腕の圧迫で乳首に押し付けられたニ
ップル型バイブにヒクヒクと反応した膣は、奥から愛液を染み出しパンティの生地をしっとりと湿ら
せた。

「はぁ、はぁ、はぁ…ぁ…ん。これ…すごい…」

 足を組みなおしたり、わざと胸を張ってみたり。20分以上、この状態で楽しんでいる。まだイク
ところまでは達しておらず、蓄積されてゆく快感をじっくりと味わっているようだ。車窓に映る麻枝
の顔を眺めている様は、そのセクシーな表情を目に焼き付けようとしている風に思えた。

「はぁ、はぁ。うっ……はぁ。んっ……んっふっ」

 普段の息遣いでは無くなっている。そろそろこの体でイッてみたい。仁は、右のポケットの生地越
しにリモコンを手探りで操作し、バイブレーションの強さを増した。
 ブーンという振動がクリトリスを更に責める。体を横に向けたま、ギュッと太もに足に力を入
れた。そして、体を抱きしめた。どの姿は寒さに震えているようにも見える。

「うっ、うっ……んん。ん、んん。はぁ、はぁ、はぁ。か、下半身が震えるっ」

 股間を中心にして、下半身全体に振動が伝わっていると錯覚するほどだ。男ならばすでに何度もイ
ッている位の気持ちよさ。でも、麻枝の体はまだ女性の絶頂には達していなかった。
 車窓の景色が徐々にスピードを落としていくと、次の駅に着くというアナウンスが流れる。降りる
用意をした乗客数人が、通路に背を向けて座っている麻枝の姿を見ながら歩いていった。括れたウェ
ストが妙にセクシーさを醸し出している。

「大丈夫?」

  背中を丸めて体を抱きしめている仁に、一人の乗客が声を掛けた。車窓に反射して映っているのは
濃い青のスーツを着た若いサラリーマン。優しそうな雰囲気に、少し心配そうな表情で見ている。

「寒いの?空調が結構効いているからね。頭痛がするのかい?」

 無言の麻枝に、数回話しかけてくる。一人でこの状況を楽しみたい仁にとっては、鬱陶しい相手だ。
 だからと言って、この体に悪戯している事を気づかれる訳にはいかない。

「ん……大丈夫だから」
「ほんとに?」
「うん」
「でも、顔色が少し赤くない?熱があるんじゃないの?」
「も、もういからっ……はぁ、はぁ。私の事は放っておいてよ」
「でも……」
「いいって言ってるでしょ」

 仁は少し頭を動かし、髪の毛の間からサラリーマンを見て片言の女言葉を使った。他人に対して女
言葉を使うなんて初めてだ。その声と言葉に違和感がない事に、自分でも驚いた。

「…………」

 麻枝の声を使った強気な言葉に、サラリーマンは何も言い返さず、通路をゆっくりと歩いて行った。

 ――このままイキたい。

 ホームで停まった新幹線。目を細めながら人々が行き交う様を眺めたあと、もうそこまで来ている
絶頂を全身で味わうべく座席に座りなおした。浅く座った後、内股に足を閉じて前の座席に両手を掛
け、前屈みになってかとを上げる。

「んっ。んっ。うう……。あっ、はぁっ、はあっ」

 乗車し、通路を歩いてゆく人達が麻枝をチラチラと眺めていった。前の座席に両手を掛けて俯く様
は、電車に酔って気分が悪そうな雰囲気を漂わせている。丸めた背中がそれを物語っていた。
 しかし、実際には女の快感に心を悶えさる仁が存在した。そして次の瞬間、登りつめた麻枝の体が
仁に向けて一気に快感を放出した。

「んっ、んっ!ふぁっ!あっ……はっ……ぁっ……あぁぁ〜」

 周りを気にする余裕なんて無かった。出来るだけ声を殺すのが精一杯。どうしようもない快感が全
身を襲った。無条件に震える体。男の「イク」とは比べるなんてナンセンスだ。どう表現すればい
のか見当も付かない。生きている間で、こんなに気持ちのい事が体験できるなんて――
 それは、女性という体の奥深さを知った瞬間だった。

「はぁ、はぁ、はぁ……う……」

 まだ動きつづけているバイブが、クリトリスと乳首を刺激しつづけている。絶頂後、ほんのしばら
くはこそばゆい感触が残っていたのだが、また快感が積もり始める。男の体よりも復活が早く、すぐ
にでも極上の快楽を得られそうな気がした。何時の間にか顎に垂れていた涎を手のひらでふき取ると、
今度は経験のない膣をターゲットにした。

「うっ……はぁ、はぁ。こ、このま膣に……」

 ブーツカットパンツの中は、愛液の洪水で大変な事になっているかもしれない。気持ちよすぎて思
考の鈍っている仁は、麻枝の虚ろな目でとりあえず周りを確認すると、股間の膨らみを生地の上から
指で押して移動させた。

「はぁ、はぁ、はぁ。んっ……」

 ヌルッという感触をワレメに感じる。とても滑りやすく、生地越しにでも簡単に移動する。振動し
ているので尚更動きやすい。
 動き始めている新幹線の中でアナウンスが流れている。振動と風きり音が大きくなり始め、加速す
る車窓の景色は駅周辺の明かりが灯る高層ビル群から平地へと変化した。

「んふっ。はっ……うっ!」

 ガクンという列車の揺れと共に、指先にあった膨らみが消えた。ワレメの間を移動したバイブが膣
の中に入ってしまったのだ。本来の平らな股間に戻った代わりに、膣の中に新たな振動を感じる。押
し込んでいないので奥まで入っておらず、手前の方で止まっているようだ。だが、その部分にはGス
ポットと呼ばれる急所が存在し、バイブはその急所を激しく振動させていた。

「すごっ……はうっ。んっ、んっ。んうっ……うっ。はぁ、はぁ、はぁ……ぁっ。くぅ」

 Gスポットと乳首の同時責め。イクなと言うほうが無理な状態。俯いたま指がめり込むくらいの
強さで太もを掴み、左右から閉じるように力を入れる。茶色のセミロングが隠しているが、麻枝に
とっては決して他人に見せたくない表情をしていた。気持ちよさで頭が混乱し、理性の壁が崩れそう
になる。 このま喘ぎ悶えたい。他人の目を気にせず胸を揉みしだき、「あんあん」と大きく声を出したい。

「はぁ、はぁっ。な、中で暴れまわって…はぁ、はぁ、はぁ。ぁっ、ぁっ。ん〜っ。んっ、ぁっ、ぁっ」

 それでも仁は、麻枝の口から激しい喘ぎ声を出さなかった。今度は太もの上で拳を作り、ギュッ
と目を閉じている。まるで我慢比べをしているように見えるが、仁にとってはある意味、本当に我慢
比べだった。

「んっ……んっ。はぁ、はぁ。ち、膣で……イクッ!」

 麻枝の体が、まだ絶頂を迎えようとしているのが分かった。クリトリスを刺激しなくても、膣だけ
で――Gスポットだけで十分にイケる。快感に耐えながら車窓に映る顔を見てみると、セミロングの
隙間から涎を垂らし、鼻息を荒くしている麻枝の険しい表情が見えた。鼻水まで垂れている顔は、麻
枝の美人としてのランクを激しく落としていたが、仁にとってはそんな乱れた表情にも挽かれるもの
があったのだ。

「来るっ!んっ、んっ、ぁぁ。はぁっ。んっ!んっ!んっ!……ん〜っ」

 唇をかみ締めながら、麻枝の絶頂を味わう。恐ろしいほどに濃厚でダイナミックな快感。もう脳が
溶けてしまいそうだった。

「ぁっ、ぁっ、あっ。ひぃ〜」

 両手で頭を抱え、体中で表現する。この瞬間、他人の事なんて考えられなかった。じんわりと股間
が温かくなり、ブーツカットパンツの生地が濃い色へと変化してゆく。そのシミは、太もからお尻
の辺りまで広がっていった。

「はぁ、はぁ、はぁ。うっ……はぁ」

 あまりの気持ちよさに、麻枝の体が失禁してしまったのだ。そのシミは座席にまで達した。

「はぁ……すごい……もうどうにでもなれって感じだ……」

 いつまでも動きつづけるバイブにこれ以上耐えられない。仁は、ポケットの中に手を入れてリモコ
ンを操作し、バイブを止めた。快感の渦から開放された体。乳首と膣にあるバイブの振動が止まると、
「ふぅ〜」と一息ついて背もたれにもたれかった。

「あ……何て事だ。こんなに気持ちがいなんて。これを味わったら男の快感なんて微々たるもの
に思えてしまうな……」

 生暖かい股間を見つめ、改めて失禁してしまった事を確認した。

「……このまじゃまずいよな。どうするか……」

 兎に角、車窓に映った酷い顔と小便で濡れた下半身をどうにかしなければならない。通路を行き交
う人に怪しまれる訳にはいかないのだ。

「そうだ。そう言えば……」

 仁はキャリーバッグの中を探り、ポケットティッシュで涎と鼻水をふき取ると、先ほど見つけてい
た服を取り出した。

「これに着替えればいか。でも、着替えているところを誰かに見られるかもしれないな」

 パステルブルーをベースにした可愛い花柄のついたワンピース。ついでに使用済みのブラジャーと
パンティ。更には丸めて放り込まれていたパンストを見つけた。隣で寝ている自分の体の足元にある
紙袋からお土産を取り出すと、代わりに服などを押し込んで座席を立つ。

「トイレで着替えよう」

 ブーツカットパンツの前も後ろも濡れているので、前は紙袋、後ろはそれとなく手で隠して足早に
トイレに入った。

「誰も失禁した事に気づかなかったかな。急いで着替えないと……」

 仁が着替えの入った紙袋を足元に置き、ブーツカットパンツに手を掛けた瞬間、カチャッという音
と共に、いきなり後ろから抱きつかれた。

「なっ!」
「静かにしろよっ!」

 揺れるトイレの鍵が閉められ、乱暴に胸を掴まれる。

「うっ。や、止めろっ!」
「声を出すなよ。見つかったらお前が恥ずかしいだけなんだからな」
「うあっ!や、止めろぉ」
「静かにしろと言ってるだろ!」

 振り向くと、鼻息を荒くした30代後半くらいの男性と目が合った。慌てたせいで鍵を閉め忘れた
のが運の尽きというところだろうか。か弱い体で抵抗しても無駄なようで、無理矢理ブーツカットパ
ンツとパンティを膝まで脱がされ、小便で湿ったお尻を曝け出された。

「見てたんだぜ、ずっと。お前、体に何か付けてるだろ」
「そ、そんなの付けてる訳無いだろっ」
「ションベンまで漏らすほど気持ちが良かったのか?えっ?」
「な、何を言ってるんだ。そんな事する訳……あっ!」
「こんなものを胸に付けていたのか。は〜ん。さてはお前、露出狂なんだろ」

 捲りあげられたTシャツ。胸に付けたニップル型のバイブから垂れ下がったコードの先に、ポケッ
トから出てきたリモコンがぶら下がっている。それを手にした男性は、いきなりスライダーを最大ま
で上げた。

「ぐあっ!」
「どうだ?乳首が気持ちいだろ」
「い、痛いっ……や、止めろっ」
「本当に痛いのかぁ?それにしては気持ちよさそうな顔してるじゃねえか」
「そ、そんなはず無いだろっ!い、痛いから早く止めてくれよっ」
「変な奴だな。男みたいな言葉使いやがって。まあい。このまマ○コを弄ってやるよ」
「お、おいっ。止めろって……や、やめっ……あっ……ふ、ふあっ!」

 後ろから抱きしめるようにしてクリトリスを執拗に弄られた後、クチュッという音と共に、男の指
が膣に入り込んでくる。その手を払おうとしても、思ったように力が入らなかった。

「すっかり出来上がってるじゃねぇか。ん?何だこれ」
「うっ……」
「は〜ん、マジかよ。お前、相当淫乱なんだな」

 男性は膣の中に指を入れ、異物が入っている事を確認した。

「何処にあるんだ?教えろよ」
「はぁ、はぁ、はぁ……」
「何処にあるんだよ。バイブのリモコンは」
「痛っ……」

 仁はブラジャーの上からニップル型バイブに手を掛けて、乳首から外そうとした。しかし、男性は
すごい力で胸から手を払いのけると、そのまトイレの壁に両手を付かせた。前屈みになった麻枝は、
男性に対してお尻を突き出す格好になっている。

「へっ。無いなら無いでも構わないさ。その代わり、バイブを奥まで押し込んでやるよ。俺のチ○ポ
でなっ!」
「なっ!い、いやだっ!やめろっ!男に入れられるなんてっ」
「何言ってんだよ、こんなにビチョビチョに濡らしやがって。男が欲しいから濡れてんだろ」
「ち、違うっ!」
「うるせえよ」
「や、止めろよっ!そんな事したら……いっ……んっ、んああっ!」

 男性はズボンとトランクスをすばやく脱ぐと、後ろから膣の入り口にチ○ポを添え、そのま一気
に押し込んだ。ヌルッという感触と共にチ○ポが挿入される。更には、先に入っていたバイブが子宮
の入り口にまで押し込まれたのだ。

「んはああっ!」
「い声で鳴くじゃねぇか。でもな、こでは静かにしてくれよ。」
「んぐぅっ!」

 左手で麻枝の口を塞いだ男性が、そのま腰を振り始めた。男に犯される気持ち悪さと、麻枝の体
が放つ快感。何度も突かれているうちに、後者の方が遥かに大きくなっていった。
 パンパンと肉がぶつかり合う音。しかし、その音は新幹線の騒音にかき消され、トイレの外に漏れ
る事はなかった。

「うっ、うぐっ、うぐっ。はぁ、はぁ、はぁ、あっ、はぁ……ぁぁっ」
「すげぇ締まる。お前、相当感じてるだろ」
「うっ、うっ、や、やめっ……んっ。はぁ、はぁ。んっ、んっ、んっ、はんっ。あっ……ぁんっ」

 乳首に痛みは感じない。それどころか、仁が思っていたとおり快感に変化した。気持ちよすぎて足
に力が入らない。床に膝を付こうとすると、男性に無理矢理腰を上げられて、更に奥まで挿入されて
しまった。バイブが子宮口にめり込もうとしている。

「そらっ、これでも咥えてろっ」
「はあっ、はぁっ……む、むぐぅっ!」

 足元に置いていた紙袋から使用済みのパンティを取り出した男性は、麻枝の口へ強引に咥えさせた。
 しゃべろうとしてもしゃべれない。再び激しく腰を降り始めた男性に、仁はされるがまになって
しまった。前後に揺れる体は、もう何も考えられない。麻枝の体が放つこの快感に溺れてゆくだけ。

「ふぅっ、ふぅっ。はぁ、はぁ……あうっ。んっ、んぐっ、あうっ、あうっ」

 太もを伝って流れ落ちる愛液。理性の壁なんて存在しなかった。麻枝の体は男性のチ○ポによっ
て完全に開放状態となり、仁に対してとめどない快感を放出し続けた。

「はぁ、はぁっ。新幹線なんかでオナニーするから、俺みたいな奴に目を付けられるんだぜ。今度か
らは、ばれないようにオナニーしろよ」
「はぁ、はぁ、はぁ。んぐっ……ん〜」

 もちろんばれないようにしていたつもりだった。しかし、木見蔵麻枝という女性の魅力、そして快
感という魔力が仁の警戒心を徐々に鈍らせていったのだ。

「はぐっ!あっ、うぅ、うぅぁ、あっ、あ〜」

 篭った麻枝の声は男性がイク瞬間に、より激しいものとなった。揺れる列車、狭いトイレの中。男
性は両手でしっかりと麻枝の腰を掴み、猛烈にピストン運動を繰り返した。

「うっ、はぁ、はぁ。くっ……イクぞっ!」
「はぁ、はぁ、はぁ、ふぐっ……あっ。お……いっ……んうぅっ!」
「はっ、はっ、はあっ、はあっ、はあっ……うっ……くっ……うっ、うっ……うっ」
「ふぐっ、ふぐっ……はぁ、はぁ、はぁ、うっ……ううう〜!」

 バイブが膣の中で男性の精液に包まれた。何度かお尻を引き付け、奥の奥まで注ぎ込もうとする。
 仁もセックスによる極上の快感に打ち震えると、そのま麻枝の体と共に朽ち果てたのだった――



――その後の事はよく覚えていない。


「お客さん、終点ですよ。早く降りてください」

 気づいたのは終着駅。乗務員に起こされた瞬間だった。

「ん、あっ……お、俺……どうしたんだ?」
「車庫に入りますから早く降りてください」
「……あ、あ……」

 頭がすっきりしない中、乗り越し料金を取られてホームに降りた。

「そ、そうだ!俺、確か……」

 降りてから少しずつ思い出した。そう言えば隣の女性に憑依していたのだ。慌てホームから列車
の中を覗き込んだが、仁が座っていた隣の席には誰もいなかった。いや、それどころか車両には一人
も乗っていない。仁が最後の乗客だったのだ。ホームには数人の乗客と、列車を待っていた清掃員し
か見当たらない。
 あれから一体どうなったのかが知りたかったのだが、男性にイカされた後に気を失ってしまったの
で何も分からない。もしかしたら、仁が気を失っている間に女性の意識が戻り、自分で行動したのか
もしれない。その可能性は大きかった。それにしても、あの状態で目覚めた麻枝本人は一体どう思っ
ただろうか?乗務員か警察に連絡したのか、それとも男性のいなりになって――



――次の日。

「すまん朋子」
「どうしてもっと早く帰って来れなかったのよ」
「だから仕事が忙しくて」
「そんな筈無いでしょ。まったく」
「ほ、本当なんだって」
「子供たち、遊園地に行くのを楽しみにしてたのよ」
「だから悪かったって」
「……どうせくだらない事、してたんでしょ」
「えっ?」
「あまり羽目を外していたら、子供を連れて出て行くわよ」
「ちょ、ちょっと待ってくれ。そこまで言う事ないだろ。俺はだな、仕事が……」
「大変ね、新幹線の中で仕事をするの。さぞかし疲れたでしょ。ねえ愛、将耶」
「…………」
「来週は出張、入れないでね」
「わ、分かってるさ」
「今度同じ事を繰り返したら、本当に別れるから」
「……じょ、冗談言うなよ」
「冗談じゃないわよ。私が何も知らないとでも思っているのかしら」
「なっ、何言ってんだ朋子。お前……」
「ほら、二人ともお父さんと遊んでもらいなさい」
「と、朋子」

 何か知っているのか?まさか夕べの出来事を?
 昼過ぎに家に着いた仁は、朋子の言葉に青ざめた。誰から聞いたのか?もしかしたら正気に戻っ
た麻枝が警察に話をしたのかもしれない。隣に座っていたスーツ姿の男性が怪しいですと。しかし、
仁が憑依していたという事実は誰にも分からないはず。
 朋子はキッチンへと歩いていく途中、くるりと振り向いて仁に一言呟いた。

「あなただけじゃないのよ。あんな事が出来るのは」



タイトルが思いつかないけれども後編
おわり


この物語はフィクションです。登場する人物、場所など、全ては架空のものです。また、著作権は
「まぐりょ」にあります。したがって、改変、転載、引用する事はお断りいたします。 inserted by FC2 system