クラブ『ワルプルギス』
 作:teru


その夜も私はすっかり馴染みになった会員制クラブの重厚なドアを開く。
照明を少し落としたそれほど広くない店内には静かな音楽が流れ、ホステスは勿論のこと、大きな声で騒ぐような無粋な客もいない。
               *
私は財界で少しは名の知られた「上杉商事」の社長、上杉清彦だ。
と言っても、上杉商事は私の会社ではない。会長である妻の母の会社だ。
正確には上杉商事は2年前に亡くなった義父の興した会社だ。 

当時、私は上杉商事に勤める社員の一人に過ぎなかった。しかし、当時社長だった上杉氏が数いる社員の中から才能や容姿が優れている者を選別し、溺愛する一人娘の若葉の婚約者に私を指名したのだ。
冷徹でワンマンで知られる社長の一言は絶対だ。それに逆らう事は社会的抹殺を意味する。私に拒否権というものはなかった。
幸いにも社長令嬢の若葉は容姿もよく、頭もよい女性だった。 
欠点は、社長に溺愛されていた為にいかにも「深窓のお嬢様」といった性格だったのと世間知らずな所がある点だった。

私が若葉の婚約者に決まって数日後、とんでもないことが起こった。 一人で街に飲みに出掛けた社長は酔ったはずみに道路に飛び出し、車にはねられてしまったのだ。 通行人の通報で病院に搬送されたが手当の甲斐無く、あっけなく逝ってしまった。

社長の突然の訃報にも耐えて会社を継いだ義母は自ら会長に就任、社長の遺志に従い私と娘の結婚を上げさせ、周りの反対を押し切って義理の息子となった私を社長の座に据えた。

若葉の婚約者として段階を踏みながら上に上がっていく筈だった私はいきなり転がり込んだ逆玉に戸惑いながらも、義母や妻の若葉に恥をかかせないようにがんばってきた。
皆に見下されないように、精一杯、前社長のように冷徹に振る舞い、時に傲慢とも思えるような決断も何度となくやった。 本来の私は人に頭ごなしに命令をする性格ではないのだ。それでも会社や家庭を守るために一生懸命に義父のやり方を踏襲した。 
 
半年前には娘も生まれ、生活は順風満帆に見えた。しかし、私の肩には常に重圧がかかり、ストレスも溜まる一方だった。

そして、ストレスが限界を覚え始めたある日、義父の遺品の中にこのクラブの名刺を見つけた。
仕事に疲れ果てていた私は、何の気なしに訪れたこのクラブの落ち着いた雰囲気をすっかり気に入ってしまった。 幸いにも会員だった義父の娘婿である事を世間的に充分に知られていた私は、紹介無しに会員にしてもらえた。
それからの私は時間に余裕があるとここを訪れるようになっていた。

そして……
会員としての資格を充分に見定められると、このクラブは更に別の顔を見せた……

               *

「いらっしゃいませ、上杉様。 今日は?」
「あぁ、奥に」
ボーイと短い会話をすると私は店の奥に案内される。
店の奥にあるドアを通過してエレベーターを上がると、そこには個室のドアがずらりと並んでいた。
ふかふかの絨毯の敷かれている廊下を歩きながらボーイが尋ねる。
「いつものように双葉さんで?」
「あぁ」
ボーイが個室のドアの一つをノックする。
「双葉さん。上杉様がお帰りです」
「あ、はい」
中から返事が返ってくるのを合図にボーイがドアを開ける。
ドアの向こうでは薄く軽そうな布地でできたイブニングドレスに身を包んだ若い女性が深々とお辞儀をして私を出迎えた。
「上杉様、おかえりなさいませ」
いつもの見慣れた光景だ。

そう、ここのクラブのもう一つの顔は高級娼館だ。オーナーに会員としての信用が得られると奥のドアを通る許可が得られる。そこには客を持てなす為に充分に躾けられた美女達が出迎えてくれる。
客がどの娼婦を選ぶかはその時の自由だ。大体の客は馴染みになった娼婦を選ぶ。その娼婦が他の客を取っている時は別の娼婦を選ぶ事もあるが、客に寄っては馴染みの客が空くまで表の店内で飲んで待つ事もある。
絶対の秘密厳守。店と客の間でそれがしっかりと守られているので馴染みになった娼婦には人には言わないような愚痴や悩みも安心して話せるからだ。
ふかふかのソファに腰を下ろすと、私好みのウイスキーの水割りが黙って出される。
私はそれに一口、口をつけ隣に座った双葉に笑顔を向ける。
「うん、いい濃さだ。 美味しいよ」
「ありがとうございます」
双葉もにこやかに笑顔を返す。
それからいつものように私達の会話はたわいの無い話から、私の色々なものに対する愚痴へと移行していく。
ここのよく躾けられた娼婦達は客の愚痴にイヤな素振りを微塵も見せずに、笑顔で聞いてくれる。
ただ黙ってうなづくだけでは無く、人の話に耳を傾けている証拠に、時には適切なアドバイスや感想を気分を害さないように挟んでくれるのが心地いい。
私の愚痴が一通り終わると、私の手は自然に双葉の胸に伸びていき、優しく全身を愛撫しつつその身体をベッドに運ぶ。 
そのあとは当然、ベッドの中で双葉の身体を俺の思うように堪能する。 双葉はその身体を俺に捧げ、好き勝手に蹂躙されていく。
そうして、いつものように素晴らしいひとときを送るのがいつものパターンだ。

「上杉様、素敵でした」
事が終わると、私の腕に抱かれた双葉がはにかんだような顔で甘えた声を出し、まるで素人娘のような顔で私の心をくすぐる。 こうゆう所はさすがは百戦錬磨の娼婦だ。
娼婦の手管だとわかっていても愛おしいと思ってしまう。
「ふふふ」
俺は微笑みながら腕の中で甘える双葉の頭を撫でる。
「満足いただけましたでしょうか?」
「あぁ、双葉は最高だな。 それにここは落ち着く。 私が唯一、落ち着ける場所だ」
「あら、お宅では落ち着けないんですか?可愛い奥様がいらっしゃるんでしょ?」
イタズラっぽい顔で双葉が俺の胸の中から見上げる。
「可愛い娘もね。 ただ、あそこでも私は"上杉清彦"なんだよ」
双葉の髪を優しく弄びながら苦笑する。
「おかしな事を言われますね? 上杉様は上杉様でしょう?」
「そう、私は上杉清彦だが、会社や家での私は常に"社長、上杉清彦"であり"上杉若葉の夫"で在らねばならんのだよ。 そこに個人"上杉清彦"は居ない」
「まぁ? 会社はともかく、お家でも?」
「義母の目があるからね。 上杉家の当主に相応しくないと思われてしまえば婿養子の私なんかすぐに追い出されてしまう。 妻の若葉もお義母さんの命令に従うからね」
「……上杉商事の社長さんも大変なんですね」
双葉が同情的な目を向ける。
「あぁ、だから私にはここが唯一、気が休まる場所だ」
そう言って双葉と唇を重ねる。
「くふ、うぅ。 上杉様……」
双葉が唇の間から吐息混じりに私の名前を呼ぶ。 
「双葉は可愛いなぁ」
豊満な胸を優しく揉みながら上半身を双葉に被せるように起こして、目を見つめる。
「上杉様、どうぞ」
双葉が俺の首に手を回して俺の顔を抱き寄せる。
私は再び双葉と口を重ねながら、私を求める潤んだ股間に手を伸ばす。
「くふ、あ、あぁん……」
「君は本当に素敵だよ」
「ふふふ、奥様よりも?」
「妻は堅い女でね。 正常位以外は変態行為だと思ってるんだ、セックスを楽しむと言うことを知らない。 その点、君は本当に素晴らしい。 男を楽しませると言うことを知っている」
そう言って双葉の乳首を軽く噛む。
「あぁん!ありがとうございます、上杉様。 今晩も納得がゆくまで尽くさせていただきます」
そう言って双葉の身体は再び私に向かって身体を開いていった。

               *

「また来るよ」
少しのチップを置いて、そう言って部屋をでると、エレベーターを降りてレジに向かう。
普通ならクレジットカードを渡して精算してもらうところを、現金で払う。
これはクレジットの請求が家に来るからだ。 さすがに浮気の請求書がウチに来るのはマズイからな。
財布から金を出しながら周りを見渡す。
「しかし、ここは本当にくつろげるな」
「ふふふ、ありがとうございます。皆さん、そう言って喜んでいただいております」
店のオーナーが静かに笑って俺を送り出す。
しかし、何とも不思議な店だ。 それなりの大きさの店なのに存在感というものをまったく感じさせない。 常連の私でさえ、店の場所を忘れる時があるくらいだ。
店を出て後ろを振り返ると、今出て来たばかりの店の扉をもう見失いそうになる。 本当に魔法でも掛かっているのかと思ってしまう。
私は首をひねりつつも、その店「ワルプルギス」に満足して帰途につく。

               * * *

「しかし、君たちはいいな。 男と寝ていれば仕事になるんだから」
「ふふ、本当にそう思います?」
いつものピロートークタイムに何気なくつぶやいた言葉に双葉が面白そうに尋ねる。
「いや、冗談だよ。 君たちには君たちの苦労があるんだろうな」
「まぁ、そうですね。 上杉様とは違う種類の苦労ですけど」
「そうだよな。 お互いに楽に生きられれば苦労は無いよな」
そう言いながら俺は双葉の胸に軽くキスをする。
「…… そうですね。 自分以外の者になってみたいと言う事なら面白い遊びがあるんですけど、聞きます?」
そう言って悪戯っぽく双葉が笑う。
「ん?なんだい?」
「あのですね……」
俺の問いに双葉が周りを見渡して声をひそめる。 まるで、そばで誰かが聞き耳を立てているのを警戒するかのように。
「その話をする前に。 この娼館、おかしいと思いません?」
「おかしい?」
「大っぴらなワケではないですけど、堂々と商売をしているのに警察の手が入らないんですよ? そりゃ、建前は会員制のクラブですよ? でも、わりと多くの会員を抱えているから誰かの口から漏れてもおかしくない」
「そう言えば、そうだね? 警察にコネでもあるのか?」
「そんなあやふやなものを使わないわよ。 人の約束事なんて当てにならないもの」
「じゃ、なんなんだい?」
双葉は更に声をひそめる。
「黒魔術」
「はぁ?黒魔術ぅ?!」
私は思わず声を上げる。
「しっ! ダメよ。大声を出しちゃ。 この事はお店の中でも極少数の限られた人間しか知らないんだから」
双葉は慌てて俺の口を手で覆う。
「いや、それにしても黒魔術? それならまだ警察の幹部に金を渡して、目をつぶるように言ってると言った方が信憑性があるだろ?」
「上杉さん、このクラブに出入りする時に違和感を感じたりした事はありませんか? お店の位置がわからなかったり、出たばかりのお店がわからなくなったり? ウチに害意、悪意を抱く者は店内にすら入って来れないの。 ウチのオーナーが黒魔術師なのよ」
「え? そう言えば……」
確かに…… でも黒魔術って言うのは……
「でね。 そこで本題。 その黒魔術の中に憑依術ってのがあるの。 魂を他人に憑依させる技術ね」
「憑依術ぅ〜?」
俺は疑わしそうに双葉を見る。
「えぇ。 憑依術。 ねぇ、上杉さん。 私の身体を自由に操ってみたいと思いません? 赤の他人になってみたいと思いません?」
悪戯っぽく笑う双葉。 からかってるのか?
「まぁ、本当にそれが出来れば面白そうではあるな」
「でしょ? ただし、特別料金を頂きますけど」
そう言って笑う。 まぁ、乗ってもいいかな?
「で、それはいくらだい?」
彼女はそれを聞いて値段を提示した。 それはさすがに私でもちょっと躊躇するような額だった。
「……冗談にするにはシャレにならない額だね?」
「でも、本当ですよ? その額を払えば約2時間、私の身体を私として自由に出来るんですよ?」
もし、本当にそんな事が可能なら面白いかも知れない。
「面白いな。 いいだろう、その冗談に乗ってみよう。 金は後払いでいいのかな?」
俺は双葉にそう言って笑いかける。
「結構ですよ。 それではちょっと待ってて下さいね?」
そう言うと双葉はベッドから起き上がりガウンを羽織って出て行った。
本気なのかな?それとも催眠術か何かの類で私を双葉だと思わせるとか? まぁ、退屈しのぎにはなるだろう。 
暫くすると、双葉はオーナーを伴ってやってきた。

「上杉様。 憑依術をお望みですか?」
オーナーがにこやかにそう言って俺の顔を見る。
「えっと、本当に憑依術なんてあるのか?」
「当クラブの極秘オプションです。 限られた会員の方にしか体験していただけません。 今回は双葉さんの推薦と言う事で」
オーナーの後ろに立つ双葉がにこやかにうなずく。
詳しい話をオーナーに聞く。
憑依時間は約2時間、2時間が経てば強制的に自分の身体に戻される。 
憑依中の私の身体はここに保管される、保管中は店が責任をもって保管する。
「えっと、正直言って未だに半信半疑なんだけど……」
「まぁ、論より証拠ってヤツですよ。 やってみますか?」
そう言ってオーナーは微笑みながら、床の絨毯を捲る。 そこには魔法陣のようなものがすでに描かれていた。
「前にもやったのか?」
「当クラブの極秘オプションですから、滅多にはおこないませんが」
そう言って私に魔法陣の中に座るように指示をする。
私はパンツ一丁のままで魔法陣の中に座る。 なんだかマヌケな感じは否めないな。
「それでは双葉さんの方をじっと見て下さい」
私は魔法陣の外で胡座をかく双葉を見る。
双葉も私を安心させるように微笑んでいる。
「−−−−−−−−」
オーナーが小さく何かに呪文を唱える。
「−−−−****」
呪文が次第に大きくなっていく。
私はいつしか目を閉じていた。
「****−−−−」
再びオーナーの声が小さくなっていく。
「終わりましたよ」
オーナーがそう言って声を掛ける。
はぁ?いや、何も感じなかったし、おこらなかったぞ?そう思いながら目を開けると…… 
目の前で胡座をかいて前のめりに倒れ込んでいる私が見えた。
オーナーはその私を抱え上げるとベッドに寝かせる。
「え?え?」
俺は自分の手を見る。 白く細い手だ?
思わず自分の顔を撫でる。 うっすらと髭が生えている感触は無い。滑らかな肌だ。
「まさか?」
自分の身体を見下ろして胸に手をやる。
ガウンの下に豊かな胸の膨らみを感じる。 揉んでみると揉まれている感触が胸から伝わる。
「ほんとうか?」
ガウンの下にある股間に手をやると何もないのっぺりとした感じがする。
「はうん……」
立て筋を指でなぞると思わず声が出る。

「いかがですか? 双葉の感じは?」
私の身体をベッドに寝かせたオーナーが姿見を私の方に向ける。
そこには目を丸くした双葉がこちらを見ていた。
「それでは2時間、その身体は上杉様の自由です。 どうぞ、お楽しみ下さい」
そう言って部屋を出て行こうとする。
「ちょっと、待ってくれ? 双葉は? 双葉の魂はどうなっているんだ?」
私は慌ててオーナーに尋ねる。
「双葉さんの魂はこれより2時間、その身体の中で眠りについていますから、上杉様が何をされようと知る事はできませんよ」
そう言って微笑むとオーナーは部屋を出て行ってしまった。

私は一人で部屋に残される。 私の他には"私の身体"がベッドで寝ているだけだ。
つまり、どんな破廉恥なことをしてもこちらから言わない限りバレないってことか。
私は双葉の身体をあちこち触りながら、撫でながらその感触を確かめる。
私は立ち上がって姿見の前に立つと、ガウンを脱ぎさる。
真っ白な透き通るような女性の肌だ。
豊満な胸、のっぺりとした股間。 
心臓がドキドキする。 それは決してスケベ心だけじゃなく、新しいオモチャを与えられた少年のようなドキドキだ。
「まったく違う自分か。 すごいな、まさか本当に可能とは……」
自分の胸を持ち上げて揉み上げる。
「はふぅん、あ…… あ。あぁ」
これが胸を揉まれるという感覚。
私はベッドのそばに近寄ると自分の身体を端に寄せて身体を横たえる。
「あ、は、はぁん」
片方の腕を下の方に持っていく。
「くぅん、くふっ」
なだらかな股間、その立て筋に指を這わせる。
これが女性の感じるって感覚か? やるせないような、何かを求めるような感覚。
「くふぅん、あ、あっ」
指の先がほんの少し、女性にしか無い部分にはいる。 禁断の地を犯したような罪悪感とそれを上回る好奇心が私を襲う。
「あ、あぁん、ら、らめ、はふん、くぅぅ」
胸を弄んでいた腕も股間に持っていく。 片方の指先がクリを、もう片方の指が膣を刺激する。
女の快感…… これが…… い、いい…… 私は快感に身を任せる。

「はぁ、はぁ…… 女の快感って際限が無いって本当だな…… 男は出したらそこで終わりだけど、女ってどこが終着点なんだ……」
ベッドで身体を上向きにして、まだ股間を優しく撫でながらつぶやく。
「あれ? ……そう言えば?」
さっきまで私は双葉と寝ていたんだよな? って事は? 
つい、さっきまでここには私のペニスが入っていたって事か?!
急に頭から血の気が引いていく。
つまり、私は私とセックスした身体に入っている? 気持ちが悪いとは言わないが、気持ちが悪い!
私はベッドから起き上がると素っ裸のまま風呂場に行く。
途中にある脱衣所には全身が映せる大きな鏡が置いてある。
つい、そこで立ち止まって自分の姿をみる。
火照った身体に尖った乳首。 股間からは今までの愛撫で湧いた泉の水が太腿に滴っている。
「あ、あはは。 これが双葉の身体…… 私が自由に扱える双葉の身体」
私は素っ裸のままで風呂場に入るとお湯の温度を低めにして身体を洗い流す。
汗ばんだ身体を暖かいお湯が身体を滴っていく。 お湯の筋が胸で三方に別れて落ちていく。
そのお湯の一部が今度は股間で中央を真っ直ぐに滴る。 こんな事にも女を感じる。
「いや、全てが新鮮ではあるな?」
スポンジにボディシャンプーをつけて、身体になすり付けていく。
「はぁぅ…… くふん…… あぁ……」
胸から股間から全てが泡で包まれていく。 身体が敏感だ。 慣れのせいもあるんだろうけど……
シャワーで泡を洗い落とすと脱衣所に行って備え付けのタオルで身体を拭く。
「しかし…… 双葉っていくつなんだ? ハタチは越えて……るんだろうな? じっくりと見ると肌のつやなんか若々しいな? 10代と言っても信じられるんじゃないのか?」
鏡に映る双葉の身体を腰を少し屈めて食い入るようにじっと見る。
その時、ふっと目眩のようなものに襲われる。
気がつくと私の目には天井が映っていた。

「きゃっ」
がたん!
どこかで女性の短い悲鳴が聞こえる。
「あはは、お風呂にはいっていたんですか? いたた」
そう言いながら双葉が奥から出て来る。
気がつくと私は自分の身体でベッドで寝ていた。 どうやら時間切れで元の身体に戻ったようだ。
「あ、もどったのか」
私は半身を起こして双葉を見る。
「どうしたんだ?」
「いえ、いきなり立った姿勢で気がついたもので。 コケてしまいました。 出来れば、座った姿勢か寝た状態で戻っていただくと……」
そう言って笑いながら膝小僧を撫でている双葉。
「あぁ、それはすまなかったな」
そりゃ、そうだよな。 立ったまま寝てるヤツはいないからな。
「で、どうでした? 私の身体は?」
興味津々という風に双葉が尋ねてくる。
「面白いな。 こんな事が本当に出来るとは思わなかったよ。 この身体を俺が操っていたのか」
そう言って近づいてきた双葉の腰を撫でるようにさする。
「面白いでしょう? また、ご利用してくださいね」
そう言って双葉がチョコンと頭を下げる。
「あ、あぁ」
「そう言えば、どこにも出掛けられなかったんですか?」
「どこにも?」
「ええ。 自分とは違う自分になってみたいということでしたよね? この身体でどこかに出掛けたりは?」
「……いや。まぁ」
まさか、自慰行為とシャワーだけで2時間を費やしてしまったとは言えない。
「私の身体を確認しただけで終わっちゃいました?」
見上げるように悪戯っぽく笑う。
「ふ、ふふ。 かなわないな、双葉は。 その通りだよ。 でも、外に出たりしてもいいのか?」
「いいんですよ。 私はこの娼館の娼婦ですから気軽に外には出られませんけど、上杉様はここの娼婦じゃないんですから自由に出入りしていいんですよ?」
「ん? 双葉だって娼婦とは言え、自由に出られるだろ?」
「私はここに借金があるんですよ。 ですから籠の鳥なんです。 外に出るにも許可がいるんです」
「でも、逃げられないワケじゃ無いんだろ?」
私はつい、声をひそめて尋ねる。 なにしろ、黒魔術師がオーナーなんだからな。
「魂に楔を打たれてるんですよ。 逃げられないように。 例えば上杉さんの身体を奪って逃げたりしても魂が捕まっちゃてるから逃げられないんですよ。 まぁこのお仕事も悪くは無いんで無理に逃げる必要もないんですけどね」
「楔?」
「まぁ、それはさておいて。 また、ご利用頂けます?」
「うん…… さすがに頻繁に出来るほどの金は無いけど、面白かったからな」
「ありがとうございます」
そう言って私は部屋を後にした。 
女の身体を自分のものにした余韻が私の身体に残っていた。 有りもしない胸の感覚が、何も無い股間の感覚が男の俺の身体に残っていた…… 
               * * *
それからの私は時々、双葉の身体に憑依するようになった。
2時間という限られた中で私は双葉の身体を満喫した。
外に出掛け、まったくの他人として"社長、上杉清彦"ではない自分を楽しむ。しかも、その他人は女性なのだ。
スカートを履いて街を歩く。 世の中には女装クラブというものがあって、他人になる事を楽しむというが、その気持ちがよく判る。 しかも、これは女装では無く完全な女性なのだ。 服をまとうのでは無く身体をまとうのだ。

「ふふふ、おもしろいな」
「ねぇ?君、可愛いね。 今、暇?」
「ごめんなさい。 用事があるので」
「ねぇ、どこかであったことない? ちょっとお話を……」
「うふふ、すいませんね」
何も知らないバカが嬉しそうに私に声を掛けてくる。 まぁ、身体自体は本物の女なんだがな。

               *

「それにしても随分と揃えましたね?」 
双葉が私にそう尋ねる。 いつもの部屋で私は自分自身の身体で双葉と寝ていた。
「あぁ?」
「服ですよ。 私が目覚める度にクローゼットの中身が増えていますよね?」
「あ、あぁ。 その事か。 迷惑だったか?クローゼットを占領してしまって?」
「いえ、別に。 私は服をあまり持っていませんから空きは充分ありますので。 それに服は上杉様が自分のお金で買われたものですし」
そう言って双葉がベッドから抜け出して、クローゼットを開ける。
そこには様々な服が揺れている。
「それにしても…… ひらひらのワンピースはとにかく、セーラー服にOL服、チャイナドレスにバニースーツ…… 上杉様の趣味って……」
「いや、さすがにアレかな、とは思ったんだがせっかくの双葉の身体だろ? 男には絶対に着られない服って着てみたいじゃないか?」
「ふふふ、まぁ、他人の趣味にとやかく言ったりしませんし、上杉様も楽しんでおられるようなので、結構ですが…… どこで買ってこられるんです? 恥ずかしかったりしませんか?」
「いや、さすがに自分が買うのは出来ないけど、双葉の身体で買いに言ってるからな。 ほら、そこのコスプレショップとか」
「あはは、どおりでこの間、ショップの女の子が"毎度ありがとうございます"って挨拶したわけね」
「いや、ショッピング含めて楽しいんだよ。 会社で部下達を怒鳴り散らしてるストレスを忘れられるほどな」
ホント、会社で使えない部下を散々怒鳴り散らしてストレスを溜めていても、ここで双葉の身体になって女の子っぽくショッピングを楽しんだりしてると嫌な事も忘れられる。
街をアイスクリームを舐めながら散策したり、ウィンドショッピングをしたりするのが楽しい。
意外と私は女性属性があったりするのかもしれない。
               *
「それで、今日はどうします?」
「残念ながら止めておくよ」
「あら? 飽きられました?」
「飽きるもんか。 ただ、金が無いんだよ。 婿養子の悲しささ。 ある程度は自由になるけど、憑依料金はハンパな値段じゃないからな。 さすがに妻に出費に不信を持たれるほど使うわけにはいかないらね」
そう言ってため息を付く。
「あらら、それは残念ですね。 それでは今日は普通に私の身体を楽しんで下さい」
そう言って双葉は私の服を脱がしていく。
私は双葉を抱きながら思う。
この身体を普段は私が憑依して動かしているのか。自分の好きなように…… 胸や耳を愛撫しながら、妙な興奮に包まれる。 犯す快感と犯される快感…… 私は今、双葉をこうやって犯している……
「はぁ…… あ、あぁん…… はぁ……ね、ねぇ、上杉様?」
俺の腹の下で双葉が吐息まじりに尋ねてくる。
「ん? なんだい?」
「上杉様は私の身体で好きなことをされてますよね? くふぅん……」
「は、はぁ。 あ、あぁ、それが何か? 不満か?」
「あ、あ…… いえ、不満なんて。 ただ、私の身体でセックスはしておられないようですけど?」
「くっ、はぁ…… セックス?さすがにそれはちょっとな…… いくら女の身体とは言っても、心は男なんだから男のペニスを挿入れるのは…… 自慰までだな、女の身体を楽しむのは。 くぅっ」
「あ、あぁぁぁ、いくぅ! は、はぁぁん、 そ、それは勿体ないですよ? あ、あぁん、あぁ〜!」
双葉が私のペニスに貫かれて身体を軽く仰け反らせる。
「もったいない?」
私は双葉の胸に口づけをすると、余韻が醒めていない双葉の身体はピクンと震える。
「だって本物の女ですよ? はぁはぁ。 男性に抱かれる快感を味わえるんですよ? それを体験しないなんてもったいないと思いませんか? ふぅ〜」
気持ちよさそうに息を整える双葉を見ているとそれが嘘では無いように思える。
「しかし、私は男だからな。 やっぱり抵抗が……」
「ふふふ、でも私の身体ですよ、使うのは? 別に男の上杉様が男性に抱かれるわけではないんですから。 犯されるのは私のか・ら・だ」
そう言って私の胸に甘えたように指をはわせる。
「いいのか? 双葉の身体が知らないうちに男と寝るんだぞ?」
「いやですね。 私は娼婦ですよ? 男と寝るのが商売なんですよ? 今更、男に抱かれることを躊躇したりはしませんよ。 上杉様って優しい」
そう言って悪戯っぽく笑う。
「いや、そう割り切れるものなのか?」
しかし、そんな双葉を見ていると確かに少し羨ましくも思う。 男に抱かれる…… ペニスを挿入される…… 未知の恐怖と好奇心がせめぎ合う。
「まぁ、無理にとは言いませんけどね。 上杉様の楽しみ方は楽しみ方で別にあるでしょうから」
そう言って可愛く笑う双葉を私は思わず抱き寄せる。
……私も男に抱かれてこうやって笑えるのだろうか? 女の子として男の胸に抱かれて…… 
そんな事を想像すると胸がドキドキする。 社長の俺が女の子として…… 
やばいなぁ。 禁断の快感に手を出してしまいそうな気がしてきた。
俺は暴れる心臓に手をやって気を落ち着かせようとする。
「ふふ、どうしたんですか? 興味が湧いてきました?」
「うるさい。 ほら、まだ寝かせてやらないぞ?」
そう言って、再び双葉の胸に顔を埋める。
「きゃぁ♪ 上杉様のけだものぉ♪」
楽しそうに俺に抱かれる双葉。 俺はほんの少し羨ましさのようなものを覚えていた。
               *
数日後、双葉に憑依した私はその裸身を鏡に映してみていた。

「男と……、か」
確かにこの身体は双葉の身体であって、私の身体では無い。
私に抱かれて蕩けるような顔をしていた双葉を思い出す。
ごくり。 思わず喉が鳴る。
女の快感…… そんなにいいものなのだろうか? 確かに時々この身体で自慰行為はするが……
股間に手をやって撫でてみる。 確かに気持ちはいいのだが、これ以上の?


私は裸身にイブニングドレスをまとうと下のサロンに降りていく。
「水割りを」
カウンター席について水割りを注文する。
ちびちびとグラスに口をつけて周りを見る。
今、サロンにいる客は顔見知りが殆ど。 この中から誰か、相手になる人間を……
しかし、顔見知りはちょっと気が進まないな。 かと言って、まったく知らない人間を相手にするのは……
こういう場合、この双葉という娼婦は便利だな。
双葉は娼婦のくせに客の選り好みが激しいらしい。 いくらお客さんに誘われようとも、好みではない男性とはまったく寝ようとはしないらしい。
というか、私が双葉と初めて寝た時は周りから驚かれた。
「え?双葉がOKしたんですか?」「あの双葉が客を取ったところなんで始めてみましたよ?」「さすがは上杉さんですなぁ、あの双葉を落とすとは」
双葉の部屋から帰ってきてここでこうやって水割りを飲んでいたら、廻りに寄ってきた他の客達が私を羨望の眼差しで見ていたのを思い出す。
お陰で私がこうやって双葉の身体で一人で酒を飲んでいても遠巻きに見ているだけで向こうから声は掛けてこない。 
……それって娼婦としてどうなんだろう?とは思うが、私としてはありがたい。 
私は娼婦じゃないから声を掛けられても、身体を使った接待なんて出来ないからな。
「どうしたんですか、上杉様?」
ふと目を上げると、カウンターの中からオーナーが微笑んでいた。
「あ…… おいおい、困るよ? この姿の時は双葉って呼んでくれないと私が上杉だとばれてしまうじゃないか?」
私は苦笑しながら声をひそめてオーナーをたしなめる。
「あ、失礼をしました。 双葉さん」
そう言って小声で謝罪をして頭を下げるオーナー。
「それで、どうされたんですか? 先ほどから周りを気にされているようですけど?」
「え?あ、あぁ…… そうだな。 オーナーは知ってるんだからいいか」
私は掻い摘んで事情を話す。
「なるほど。 双葉さんにそうそそのかされたんですか」
「まぁ、そそのかされたんだろうな。 でも、確かに興味はあるんだよ」
「しかし、双葉さんも…… 自分は全く客を取ってくれないくせに人にそう言うことをいいますか」
オーナーが苦笑する。
「まったく? 客を取らないのか?双葉は」
「取りませんねぇ。 殆ど、酒の場の接客だけでお金を稼いでいますから。 上杉様がお客に付いて下さったから、少し収入は増えましたけどね。 ありがたいことです」
そう言って笑う。
「あれ?でも双葉ってここに借金があるって?」
「ありますよ。 かなりの大金を貸し付けてますけど、利子分だけで殆ど返済されてません」
「……以外と図太い性格してるな」
「あはは、まぁ、ただのホステスを雇ったと思って殆ど諦めてますけどね。 それで、上…、双葉さんは誰か寝る相手を探しておられると?」
「う、うん…… まぁ、せっかくの女体なんだから何でも経験はしておこうかと思ってね」
「でも、迂闊な男とは寝れないと……」
「まぁね」
そう言ってそっとカウンターの背後のボックス席の方を盗み見る。 
まぁ、軽く声を掛け合う程度の知り合いではあるが、うっかり寝てしまうと男に戻った時になんか恥ずかしい思いをしそうな気がする…… 
いや、向こうは気がつかないだろうけど女として"初めて"を捧げた男と目を会わせられるかという問題が……
「だったら、私がお相手しましょうか?」
オーナーがニコニコと私に問いかける。
「あん?」
俺はきょとんとオーナーを見上げる。
「一応、娼婦達の教育は私がおこなっていますから、その辺りのことはビジネスライクに処理できますし、双葉さんもそれならおかしな負い目も感じられないのでは?」
「えっと…… 私に娼婦としての教育を?」
「あはは、違いますよ。 上…、双葉さんを娼婦にしてどうするんですか? 女性をどうすれば悦ばせられるか熟知してますよ、って事です。 いわば、ホストみたいな感じですか」
「ホストか…… ひょっとしてそれも金を取るのか?」
「いえ、最初はタダでいいですよ? 双葉さんには最近、頻繁におこし頂いて結構なお金を落として頂いておりますから」
そう言ってオーナーが微笑む。 
……最初は、って事は次からは金を取るんだ? でも、確かに事情を知っていてビジネスライクに処理するってのはいいかもしれないな。
「……まぁ。 タダだというのならちょっと付き合ってもらってもいいか……な?」
「わかりました。 それでは私の部屋に行きましょうか?」
そう言って、カウンターの中から出て来ると私に腕を差し出すオーナー。
「あ、あぁ。 よろしく頼むよ」
私は心臓が早鐘を打つのを抑えながら、マスターの腕を取ってエレベーターに乗り込む。

エレベーターから降りるとマスターが私の身体を持ち上げる。
「え?えぇ?」
「お姫様だっこというヤツですよ。 ここからの双葉さんは私のものですからね」
そう言って私を抱き上げたオーナーが私を見下ろして笑う。
「あ、あぁ」
なんだか、本当に女の子になったような気分だ。 妙に顔が火照ってくる。 ここに社長、上杉清彦は居ない、居るのは双葉という女の子だ。

部屋に入るとオーナーは私を優しくベッドに寝かせる。
「そんなに身体を硬くしないでいいですよ。 もっとリラックスしてください?」
ベッドの上で硬直している私にマスターがそう言って声を掛けながら背中のファスナーを下ろす。
「いや、まぁ判ってはいるんだが……」
「ふふ、まぁ、最初は誰でもそうなんですけどね」
私の上半身を裸にしながら微笑む。
「誰でも? 他にも私のように?」
「まぁ、憑依は誰にでもするサービスではありませんが、上杉様が最初ではありませんからね。 それで男女の関係を体験してみたいと言われる方の最初の相手を時々させて頂いておりますよ」
そう言って私に腰を上げさせてドレスを足から引き抜くオーナー。
「ふ〜ん、そうなのか。 でも、こういうサービスってどれくらいの人が利用してるんだ?」
下着姿になった私はオーナーに尋ねる。
「今は上杉様だけですね。 憑依自体、このサービスを他の女の子はあまり知っていませんし、知って
いる娘でもやっぱり自分の身体を他人に操られる事に抵抗があるようですから」
自分の上着を脱ぎながらオーナーが答える。
「あぁ、やっぱりそう言うものか」
「双葉さんは楽して稼げればそれでいいみたいですけどね。 ですから、憑依サービスをおこなうのは双葉さんだけです。 で、双葉さんは上杉さんだけにしか身を売りませんしね」
そう言って苦笑する。
「ふ〜ん? お金を儲けたいんだか、儲けたくないんだかよくわからないな……」
「まぁ、変わった人ですよ。 私としてはもっと稼いで欲しいんですけどね」
そう言って笑うと、私のブラの上から軽く胸を愛撫する。
「あ……」
「ふふ、そろそろリラックスできたようですね?」
どうやら今までの会話は私をリラックスさせる為の前振りだったようだ……
胸を軽く揉みながら、口を口で塞ぐ。
「うっ」
男に、男にキスを……
「ふふふ、双葉さんは女の子なんですから男とこういうことをするのは当たり前なんですよ?」
舌をぺろりと舐めてオーナーが微笑む。
「女の子……」
「そうですよ。 その身体は間違いなく女の子です。 男の上杉さんの身体は今は双葉さんの部屋の中で寝ていますからね」
そう言えばそうだ。 男の身体はちゃんと別にあって、ここにいるのは本物の女の子、双葉だ。
私はオーナーに身を任せるべく再び、身体を楽にする。
オーナーの手がショーツの上から股間を撫でる。
「うっ…… く… は」
「いいんですよ、思うままに声を出して? 本能の赴くままに」
クチュクチュ…… ショーツの中に入ったオーナーの愛撫に股間が潤ってくる。 片方の手は背中に回ってブラのホックを外す。
「ぁあぁん、ひぃ…… く、くぅ」
自分の出す声が自分の声と思えないほど可愛い。 それがまた自分の心を高ぶらせる。
「いかがですか? 女体の感想は?」
「い、いい。 なんだ…か、す、すごい…… はぁん、くふぅ! あ、らめ……」
「ふふふ、上杉様は意外と女性らしかったんですね」
「恥ずかしいことを……はぁん、言わないでくれ…… あ、あ、あぁぁ」
俺の、双葉の股間がすごいことになっている…… 
自分で自分を慰める場合、その手や身体がどこを触るかわかっているからその快感もある程度、享受できる。 しかし、他人に触られたり愛撫されたりするのは、次にどこをどうされるのか未知の部分がある。 
その未知がドキドキと心臓を高鳴らせる。 次は何をされるのだろう?次はどんな快感が襲ってくるのだろう?
いつしか私はブラを剥ぎ取られ、ショーツも脱がされて片方の足に引っ掛かっているだけになっていた。
「あ、ぁぁ、はん、は、はぁ、だ、らめぇ…… 女の子になっちゃう、こ、これ以上やると私……」
「ふふふ、すっかり言葉遣いも女性ですよ。双葉さん」
「双葉? 私は双葉…… くふぅん、は、は……」
身をくねらせオーナーの愛撫から身を逃れようとする。
「そうです、あなたは双葉。 この娼館の娼婦ですよ」
胸を、その先端を軽く噛まれる。
「私は娼婦…… はぁぁん」
禁断の言葉を口にした快感が私を更に高みに上らせていく。 社長という立場を忘れて、娼婦呼ばわりされる…… 私は娼婦…… 股間がやるせない。
「きて。 オーナーさん。 双葉のここにオーナーさんの物を…… くふぅぅん、お、お願い」
「ふふ、すっかり女性ですね。 それでは行きますよ、いいですか?」
私の両足を掲げるように持ち上げるとペニスの先端が私の股間をなぞるように動く。
「じ、じらさないで。 はやく、はやくぅ」
それでも精神は処女の本能から足を閉じようとオーナーの身体を締め付ける。
「だったら、もっと足を広げて下さい」
「恥ずかしい、恥ずかしいですから……」
「仕方がありませんね。 ほら?」
オーナーのたくましい腕が私の股間を大きく広げるとペニスが私を刺し貫く。
「あ、あぁぁぁぁ! いやぁ!」
股間から頭の先まで衝撃が貫く。
「どうですか? 女性の感じは?」
私の上でオーナーが微笑む。 股間にはペニスが刺さったまま停止しているが、その膨張度はまったく変わっていない
「すごいな。 股間に心臓があるみたいで脈打ってる…… はぁはぁ……」
「ふふふ、ここまではOKなようですね。 人によっては女性の身体でも男性に抱かれることに拒否感を覚えられる方もおられますから」
そう言うとオーナーはゆっくりと腰を動かし始める。
「あ、あ、あぁ!! ちょちょっと!ゆっくり! 初めてなんだから優しく……」
俺は目尻に涙を溜めながら俺はオーナーに懇願する。
「いいですよ。 私が楽しむ為にやっているんじゃなくて、これは上杉様が楽しまれる為にやっているんですから。 優しくですね?了解しました」
そう言うとオーナーのペニスが私の内壁をなで回すようにゆっくりとかき混ぜる。
「あ、くふぅぅん。あぁ。 く、くるぅ!腹の中をオーナーのモノが……」
下腹の中を別の生き物が這い回るような…… それがなんとも……
「どうです?気持ち良くなってきたんじゃありませんか?」
「そ、そんな事は…… いや、止めないで。 もっと突いて……」
私はオーナーの顔を見上げながら懇願する。
「ふふふ、いいですよ。 女の子を思う存分体験して下さい。 いきますよ」
そう言うとオーナーは私の股間に腰を打ち付けてくる。
「あ、あん、あん、あ、あん、あぁぁ〜 い、いぃ〜!もっと! もっと突いてぇ」
次第にオーナーのペニスが私の中で暴れ回り、私は息も絶え絶えに嬌声を上げる。
まさか私がこんな声を上げるとは…… それにしても女ってこんなに気持ちがよかったのか……
「ははは、それじゃちょっと姿勢を変えてみましょうか?」
そう言ってオーナーが私の身体を抱え上げると四つん這いにさせる。
「あ……」
獣のようにオーナー向かってお尻を突き出す形になる。
背後からペニスが私に突き刺さる。
「あ、あぁん、こ、これは……」
ペニスが更に奥に届くようになる。
「く、くぅぅぅ、あひゃ、ひゃ、ひゃ、ひゃ……」
「上杉様、意外と本物の双葉さんより女の子っぽくありませんか?」
「ひゃう、ひゃうん、ち、ちがう。 それはこの身体が女の子だから…… あ、あぁん、だ、誰だってこれを味わったら、ひ、ひぃぃ そうなってしまう…… それにオーナーのテクニックが……」
「ははは、お褒め頂き、ありがとうございます。 それではさらにサービスを……」
背後から私の身体を起こして脇から差し出された両手が私の胸を揉み上げる。
「ひゃぁ〜ん!あ、あぁぁぁ。いやぁ、くる、くるぅ!」
オーナーが私を動けないようにして身体を蹂躙する。
仰け反った体勢のまま、背後からペニスを挿入され、上半身は身動きが出来ないようにされて乳房を弄ばれる……
「はふっ、あぁん、ひやぅん、りゃ、りゃめぇ、きゃんじちゃう」
指の間に乳首を挟まれて、喘ぐ。 あまりの快感に口から涎が漏れる
「感じていいんですよ。 ここには誰もいませんから男としての羞恥心なんか捨てて、思う存分に女として女の快楽に身を任せて下さい」
全身が女の快楽に冒されていく…… 溺れるように私の精神が犯されていく……
               * * *
「どうでしたか?」
冷蔵庫からペリエを取り出し、ベッドの上で力なく横たわる私に渡す。
「あ、あぁ。 ありがとう。 すごいな、女の快感ってヤツは」
そう言って上半身を起こすと私は渡されたペリエに口をつける。
「満足して頂けましたか?」
「ん?あぁ…… まだ全身が余韻に包まれているよ」
まだペニスが股間に入っているような幻痛がする。
男にペニスを挿入れられる事がここまで快感になるとは思わなかった。 
自分は男だ。 自覚は充分にあるし、当然、心は本物の女でもない。 でも、気持ち良かった。
自分の胸に備わっている豊満な乳房を持ち上げる。 双葉という娼婦の身体に付いている胸と女性器。
私は股間に目を落とす。 そこはまだオーナーの余韻にテラテラと光っている。
「…………」
「それにしてもそこまで女性の身体と相性がいい人も珍しいですね」
そう言いながらベッド傍らに座ってオーナーもペリエに口をつける。
「そうなのか?」
「えぇ、女性の身体の快感を楽しまれる人はおられますけど、やはり男の名残というかそういったモノが最後の一線を越えきれないものですけど、上杉様はあっさりとその線を乗り越えてそちら側に来られましたからね。 案外、前世は女性だったのでは?」
そう言って笑う。
「ははは、前世なんか知らないよ。 それにしても凄かった…… 凄かったとしか言いようが無いな」
俺はため息を付いて今の身体を改めて見下ろす。
夢のような、まさに夢のような体験だった。 男の私が女として男に抱かれる。 
「ふふふ、相当気に入られたのですね」
「あぁ、何もかも忘れられるような体験だったよ。 最近、会社で上手くいかない事が多くてね」
そう言いながらも双葉の身体から目が離せない。 
双葉の身体を身にまとい、本物の女としての快感を身体に刻み込まれる。 
性的な意味以外でも興奮する。
会社では面と向かって私に逆らう者など誰もいない。 その私が男に組み伏せられ逆らうことも出来ずに身体を蹂躙される…… 入ってはいけない禁断の地に足を踏み入れたような興奮に身が包まれ、思わず身を守るように少し開いていた股間を閉じる。
あぁ、私は今、非力な女の子になっているんだな。 ふふふ……
「あぁ、そろそろ時間ですね?」
時計を見てオーナーがつぶやく。
「あ、そうだな。 部屋に戻らないと……」
「いいですよ。 お疲れでしょう? ここで休んでいて下さい。 双葉さんも同じ階でベッドの上にいるんですから文句は言わないと思いますよ」
「そうか、悪いな」
確かに身体が気だるくって双葉の部屋まで戻るのが億劫になっている。
「なぁ?この憑依時間というのは2時間しか効かないのか?」
俺はオーナーに尋ねる。
「おや? すっかり気に入られましたか? 時間はある程度延長可能ですがあまり長くして事故があると責任を持ちきれませんので2時間に設定させてもらっています。 双方で納得してもらえると3時間でも4時間でも、長ければ半日、一日と楽しんで頂けますよ? ただ、先ほど入ったように自分の身体を一日も他人に任せるのは躊躇するでしょうね、女性の側は」
そう言って笑う。
確かに、他人に自分の身体を一日も任せるのは嫌かも知れないな。
私は顎に手をやって考える。 しかし、双葉なら意外と受けてくれそうな気もするのだが? それは私の甘えだろうか?
そんな事を考えていたら、いつもの天井が目に映った。

「…… 戻ったのか? いつもの男の身体に?」
腕を上げてみるといつものごつごつとした男の腕が視界に入る。
身体を起こして周りを見渡すと予想通り、そこは双葉のいつもの部屋だった。
私は身を起こして衣服を身につける。 
シャツとカッターを来てズボンを履き、ネクタイを締めると高級素材のスーツを羽織る。
軽いドレスや身体を軽く締め付ける下着の感覚が一瞬よみがえる。 今日は更に身体にオーナーに刻み込まれた女性の感覚が追加された。 挿入るところも無いのにそこにペニスがあるような幻痛……
「こりゃ、ウチに帰っても妻は抱けないな。 男の感覚が鈍ってしまってる……」
私はそうつぶやくと双葉の部屋を後にする。
オーナーの部屋に挨拶をしておこうかとも思ったが、男の身体でオーナーに挨拶をするのも気恥ずかしいのでやめておいた。














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