河童と嫁取り
 作:teru



1.チンコ泥棒

無理矢理に参加させられた村の仮装盆踊り大会の帰り、土手を歩いていた俺はカッパに襲われた。


いきなり背後から何かが抱きついてきたかと思った時には、俺は見かけに寄らない強い力で地面にねじ伏せられていた。


「ケロケロ、お前の尻子玉をよこすケロ」
「え?河童?まさか?」
緑色したその生き物は俺の浴衣の裾を捲りあげると、強い力でトランクスを引っ張ると破り取ってしまった。


「尻子玉ケロ、尻子玉ケロ〜♪」
河童の手が股間に伸びて俺のタマを掴む。


「ばか!それは尻子玉じゃ無い!抜くなぁ」
「ケロケロ、女の子のここにあるのは尻子玉だけだケロ」


「違う!これは盆踊りの仮装で、俺は男……」
「あ、キュウリもあるケロ。これもいただくケロ」


スポン


俺の言葉に耳を貸さずに河童の手は俺の大事なモノを引き抜く。
その途端……


「うわぁ、身体が!身体が変わっていくぅ!」
股間にもぞもぞと虫が動き回る様な痒みともつかない感覚が這い回る。
そして、それは全身に薄く広がっていくとすぐに消え去った。


「もらったケロ、もらったケロ、尻子玉とキュウリをもらったケロ〜♪」
河童が踊る様な足取りで川の方に走っていく。


カッパが去っていった後、そこには浴衣を着た少女の姿の俺だけが残された。




「こんな身体で、帰って皆になんて言ったらいいんだ……」
俺は立ち上がって、はだけた浴衣の前を見る。


カッパに下着を剥ぎ取られたせいで、はだけた浴衣の下は何も付けられていない。
「キンタマとサオを盗られてしまったのに、痛みは何も感じないんだな?」


俺は身体を曲げて、チンコの跡地を力無く眺めた。そこには男性器の代わりに縦割れの溝が出来ていた。


「まるで本当に女の子みたいになってる…… カッパなんて非常識な生き物がいた事じたいも信じられないが、なんでチンコ盗られたらマンコになっちまうんだよ……」


いつまでも無くなったものを見ていても仕方がないので顔を上げると胸に手をやる。


「まぁ、上半身まで女になるわけはないか……でも、アレを盗られたせいか胸板まで柔らかくなった様な気がするな……」
そう呟いて胸板をなで回しながら、カッパが消えていった川上の山を見上げる。


「くそう、こうなるとわかっていたら先に帰らずにあんちゃん達を待ってればよかったな……」


仮装姿が恥ずかしいので、一緒に来ていた家族を置いて先に帰ってしまったのが失敗だった。人気のない土手を通って近道をするはずが、まさかこんな事になるとは……


俺はとぼとぼと家路についた。


家の前まで来ると家にはすでに明かりがついていた。
「皆の方が先になったか……」


カラカラカラ……
俺は玄関をそっと開けて中の様子をうかがう。


「あら?清彦?帰ってきたの?先に帰ったはずなのに遅かったじゃない?」
玄関の開く音を聞きつけて母が出てくる。


「た、ただいま……」


「まぁ!どうしたの!泥だらけじゃない?浴衣もぐしゃぐしゃだし?転んだの?怪我はしなかった?」
俺の姿を見た母が俺に駆け寄り、俺の浴衣の前を広げる。


「え?」
俺の身体を見た母の動きが止まる。
俺もどう反応したらいいかわからずに沈黙を守る。


「あらら、ごめんなさい。ウチの清彦と同じ浴衣だからてっきり、清彦だと勘違いしちゃった。えっと……、清彦のお友達……」
顔を上げて俺の顔を改めてみた母の顔に戸惑いの色が浮かぶ。


「え?え?あれ? きよ……ひこ?」
顔を上下させて、俺の身体と顔を代わる代わる見る母。


「……母ちゃん。俺だよ、清彦」


「え?え? えぇーーっ!」
母の絶叫が家の中に響き渡る。


母の絶叫に中から他の家族も何事かと出てくる。
父に年の離れた兄と、お爺ちゃん……




「え?君が清彦?」
「少しボーイッシュではあるが、女の子じゃないか?」
「孫は男の子の筈だが?だが、顔は確かに孫の清彦だ」


家族に取り囲まれてしげしげと見られる俺。


俺は帰り道に俺の身に起こった事を家族に説明する……


「カッパ?」
「あの甲羅を背負って、頭に皿を乗せてる奴?」
父と兄が俺の説明に疑わしそうな目で尋ねる。


「直接、襲われた俺だって信じられねぇよ!」
俺もやけくそ気味に言い返す。


「まだ、居たんだ?」
爺ちゃんがポツリとそんな言葉を漏らす。


『はぁ?まだ居たってどういうこと?!』
爺ちゃん以外の家族の声がハモる。


「ワシの子供頃は川の源流がある山奥に「河童淵」と呼ばれる淵があり、そこには河童が棲んでいるという事だった」


「河童が?迷信でしょう?」
母が信じられないと言う様に呆れた声を出す。


「あぁ、ワシも話だけで実際に見た事はなかったからな。ただ、その河童は女性が好きで、夏の夜中に一人で女性が河原の近くを歩いていると、悪戯をしたそうだ」


「ただの変態を河童のせいにしただけじゃないですか?」


父も常識的な意見を出す。いや、そうだよな。普通に考えれば河童に襲われた、というよりも変態に襲われたって方が信じられる。


「まぁ、全裸で背中に甲羅を背負って頭に皿を乗せた小柄で緑色の変態だという線も捨てきれんが……」
それは変態も度が越している……、男でも嫌だな、そんな変態に襲われるのは……


「でも、そんな話は僕は聞いた事がありませんよ?」
10歳の歳の離れた兄の清司が爺ちゃんに尋ねる。


「噂を信じて夜中に土手を一人で歩く女性が少なくなったのと、最近はお前たちも知っての通り、若い女性自体が少なくなったから、河童も里に下りてこなくなったらしい」
爺ちゃんが答える。


そうなのだ。この村は四方を山に囲まれた典型的な農村で、若い女性は街へと出て行ってここに戻ってくる事は少ない。
どこの田舎でもよく聞く嫁不足に悩む農村の典型だ。


おかげで街の若い女性の気をひく為のイベントとして「仮装盆踊り」なんてものが催されて、賑やかしに俺が参加させられた挙げ句にこんな事になってしまったわけだが。


「仮に河童が実在するとして、なんで清彦が?」
母が疑問を口にする。


「多分、山からは盆踊りの明かりがよく見えただろうから好奇心にひかれて、里におりてきたんだろう?そこに女装した清彦が一人で通りかかった……、河童にしてみれば何十年ぶりかの若い女性だ」 
爺ちゃんがそう推測する。





その時、玄関の戸ががらりと開けられた。
「清司君、いますかぁ?」


そこにいたのはこの村の大地主の一人娘で青年会の会長を務める清音さんだった。
「今日の盆踊りの後始末と明日の打ち上げの事なんだけど……」


清音さんの言葉がそこで止まる。


「えっと……、玄関先で女の子を裸に剥いて何をしてるの、清司君?」
俺たちを見る清音さんの顔がこわばっている。


「え?」
清音さんの視線に俺が顔を下に向けると、そこには浴衣の前を全開にした俺の裸が清音さんの目の前に……


「う、うわっ! ま、待って! ちょ、ちょっと!」
俺は慌てて浴衣の前をかき合わせると、母から浴衣の帯を奪い取って巻き付ける。


「……ねぇ、清司君?私、駐在さんに電話した方がいい?」
そう言って、携帯を取り出す清音さん。


「違う違う!これ、弟の清彦だから!別に犯罪行為はやってないから!」
兄が慌てて清音さんから携帯を取り上げる。


「はぁ?何を言ってるの。清彦君は男でしょ?どこの世界に胸が出てる弟が居るのよ?」
清音さんが兄にそう言って、取り上げられた携帯を取り戻す。


「いやいやいや、胸が出ていても股間が無くってもこれが清彦だから!」


二人の会話を耳にして何かが引っ掛かる。
「胸?」


俺はそうっと合わせた胸元を覗き込む。
そこには小さいながらも中学生くらいの胸が……


「うわっ!なんだこれ!む、胸が出てる!これじゃおっぱいだよ!」
俺はせっかく結んだ帯を解いて胸を確かめる。


「そ、そんな…… 帰ってくる時は胸なんか全然出てなかったのに!」


「あら?本当に。さっき、母さんが見た時は小学生の胸が膨らみかけくらいだったのに?大きくなってない?」
「いやいやいや、下半身は盗られたけど、胸はなんともなかったんだよ!?」


えぇ?俺ってまだ女性化が進行中なのか?ちんこを河童に盗られただけじゃなくって?




家族に、俺が河童にチンコを盗られた事を説明された清音さんは大慌てでどこかに連絡を入れた。


やがて、村長さんやお寺のご住職に神社の神主さんと、この村の要職にある人達が夜であるにも関わらず我が家に集まってきた。


「いや、河童とはねぇ……」
「何十年ぶりに聞く話だ?」
「本当に清彦だな。この女の子は……」


大座敷の中央に会議でもするかのように長机が置かれ、その先に俺が見せ物の様に立たされ、集まった人達の視線に晒される。


皆が集まった頃には、俺の胸は高校生くらいに育っていて、誰が見てもわかるほど着替えたパジャマの胸を押し上げていた。 数値にするとCかD?いくらなんでもそろそろ成長も止まるよな?




「しかし、弱ったな。せっかく嫁集めの為に催した仮装盆踊り大会で河童に襲われた者が出るとは」
村長が困った様に口を開く。


「あぁ、この事が表面に出ると余所から嫁を迎えるどころの騒ぎじゃなくなるな」
神主さんも沈痛な表情で同意する。


「しかし、なんで河童が清彦のモノを持って行ってしまうんだ?」
「清彦の話では、尻子玉とキュウリと勘違いしたそうだ」
「キュウリって…… 食べる気か?」


「とりあえず、河童が出た事は、この村の存続の為にも内密という事で」
「そうだな。何とか無事にイベントが終わって、余所からの参加者達にも好評だったのに、最後にこんなケチが付いては……」
「この村の嫁の来手が益々無くなるからな」


こらこら、ちょっと待て。あんたら俺の事より村のイベントが優先か?


そんな事を思った時、神主さんが口を開く。
「確かに村の嫁取りイベントは大事だが、清彦の事も忘れてはいかんぞ」


「え?あ、あぁ、そうだったな。清彦も大変だっただろう」
皆が気まずげに俺に声をかける。


「それで清彦。お前は大病を患った事はなかったな?身体も異常は?」
神主さんがそう言って俺に声をかける。


「え?えぇ。まぁ身体だけは頑丈に出来てますから」
「それで和枝さん、清彦の身体は本当に完全に女性に?見かけだけではなく隅から隅まで?」
今度は母に尋ねる神主さん。


「え?えぇ…… ちょっと、清彦。こっちに来なさい」
母が俺を手招きする。


「? なに?」
俺は意味がわからないまま母に近づくと、隣の部屋に連れて行かれる。


隣の部屋で母と二人っきりになったと思うといきなり母が俺のパジャマのズボンを引きずり下ろす。
「う、うわっ!ちょっと、母さん!何を!」


いきなりの事に畳みの上にへたり込む俺の股間に指を添えてじっと見る母さん。
「うんうん」
なにかに納得した様に立ち上がる母さん。


俺と母さんが座敷に戻ると母さんが神主さんに報告する。
「絶対にと保証は出来ませんけど、清彦は完全に女性になってると思います」




「そうか……」
神主さんが頷く。


「しかし、なんで河童にアソコを盗られただけで女になってしまうんだ?」
「古い言い伝えによると、あの河童は元々、水神様が堕ちたなれの果てだと言う事だから神通力の様なものが働いているんだろうな。腐っても神様だ」


「と言う事は河童を捕まえて清彦のチンコを元に戻しさえすれば、男に戻れる可能性があると言う事か?」
年寄り達が口々に俺の身体について語り合う。




「あぁ…… まぁ、そう言う意味で聞いたのではなかったのだが…… 清彦?」
神主さんが話し合いをしている年寄り達から、顔をこちらに向けて声をかける。


「なんですか、神主さん?」
俺は何かアドバイスを期待して返事をする。


「お前、川向こうの川口さんの息子を知ってるな?どう思う?」
神主さんがおかしな事を聞いてくる。


だが、その質問の意味を俺より先に察したのが年寄り達だった。




「そう言う事か!神主!抜け駆けはいかんぞ!ワシだって田沢の親父から嫁の世話を頼まれてるんだ!」
「ちょっと待て!俺は床屋の山口の息子と大工の宮沢の両方から……」
「それなら俺は鈴木の婆さんから孫の嫁をと!」
「清彦、診療所の大宮をどう思う?歳は少々言ってるが金は持ってるぞ?」


途端に大騒ぎになる。 ……えっと、この人達は何を言ってるのでしょう?


「くそう、清彦が兄弟でなければ清司の嫁にするのに!」
親父?あんたまで調子に乗って何を言っている?




てか、この村の嫁不足ってそこまで深刻だったのか?


そして机の端で今までの成り行きを黙って聞いていた清音さんがぶつぶつとつぶやいている。


「そうか…… 余所から嫁を迎えるのが難しければ、村の中で嫁になる女性を造るっていうのも手よね?」
顎に手をやって真剣に畳を見つめる青年会会長、清音さん。
いや、何か怖い事を言ったよ、この人。




さすがにやってられなくなり、逃げる様に座敷を抜け出す。
縁側に腰掛けて夜風に当たりながら自分の身体を見下ろす。


「何をどう見ても女の子の身体になってるよな?膨らむだけ膨らんだら、萎み始めたりはしてくれね〜だろうなぁ?」
そう言って、パジャマの上から胸に手を当てる。胸の膨張現象は治まった様だが、結局はDくらいの大きさになってしまった……


「そう言えば、服がねぇんだよなぁ?今はパジャマでいいけど明日になれば、何か着るものが……」


そう最初は浴衣から普段着に着替えようとしたのだが、ズボンの尻が入らなくなっていたのだ。大柄な父ちゃんや兄ちゃんのズボンを履いてみたのだが、それだと何か不格好になるのだ。




上は上でTシャツは着られたのだが、Tシャツを押し上げる胸のポッチがクッキリと…… 母ちゃんが自分のブラを付けてみるかと持ってきたのだが、堅く固辞させて頂いた。さすがに親の下着を付けるのは例えサイズが合っていたとしても嫌だ。


「しかし、どうなるんだろうな、俺。まさかこのまま、本気で村の誰かの嫁にされたりなんかしないだろうな?」


縁側で悩んでいると、前栽の向こうの垣根から顔が覗く。


「お〜い、清彦。お前ン家、今日は賑やかだな?」
隣の家の一人息子の俊秋あんちゃんだ。


俺と兄ちゃんは年が結構離れているので、昔からつるんで遊ぶのはもっぱら、隣の家の2つ上の俊秋あんちゃんの方が圧倒的に多かった。実の兄弟よりも兄弟っぽい間柄だ。


「あぁ、あんちゃんか。うん、ちょっと盆踊りの帰りに事件があってね……」
さて、どこまで説明したものか?


「ちょっと事件があってな、って。村長や神主の声が聞こえるし、表に止まってるのは清音さんの自転車じゃないのか?」
そう言って、俊秋あんちゃんが生け垣をヒョイと跳び越えてくる。
あ、ちょっと今は近づいて欲しくないな……


願いも虚しく俊秋あんちゃんが俺の前に立つ。


「あれ?清彦、なんだか雰囲気が変わった?」
俺を見て何か違和感を持った俊秋あんちゃんが俺を指さして首をかしげる。


俺は黙ってパジャマの裾を下に引っ張る。
パジャマが密着して胸が強調される。


「はぁ?なに、それ?」
俊秋あんちゃんの目が点になる。


「あ、あ、あはははは…… 俺、こんなになっちゃった……」
引きつった笑いで俊秋あんちゃんを見上げる俺。


俊秋あんちゃんは驚きで目が点になっている。


その時、俺が出てきた座敷の障子がガラッと開く。


「清彦。とりあえず、川口さんのところの息子と診療所の大宮が有力候補に残ったがお前はどちらがいい?好きな方に嫁に行かせてやるが?」
村長がそう言って俺に声をかける。


……本気で選んでたんだ?


「なんの話だ?」
事情がわからない俊秋あんちゃんが俺に小声で尋ねる。


「俺の嫁入り先を決めようとしてるみたい」
「なに?お前、嫁に行きたくて性転換手術でも受けたの?」
俊秋あんちゃんが呆れた様な声を出す。


「んなワケないでしょう!俺だってこんなになっちゃって困ってんだよ」


「それで清彦、どっちがいい?」
村長がズイッと身を乗り出す。
「年齢的にいっても、川口さんの息子が清彦には会うと思うんだが?」
村長の後ろから神主がそう言って笑いかける。


「あのねぇ……」
村長達に向かって何かを言おうとした時、俺の身体がフワリと浮き上がる。


「村長さん達、清彦が嫁に行くとしたらウチに決まってるでしょう?俺の嫁を勝手に取らないで下さいよ」
俊秋あんちゃんが縁側に腰掛けていた俺を抱き上げて、村長達に微笑む。


「それじゃ、清彦。俺んちで詳しい話を聞かせてもらおうか?」
俺が何か言うよりも早く、俊秋あんちゃんが俺を抱えたまま前栽を横切って木戸をくぐり、隣の家に俺を持ち帰る。




「しまったぁ、本田の俊秋が居たかぁ」
「確かに俊秋もまだ独身だし、あの二人は子供の頃から仲がよかったからのぉ」
「まぁ、独身者が少しでも減るなら、俊秋でもいいか?それじゃ、河童問題に話を戻しますか」


俊秋あんちゃんの素早い行動に俺たちを見送った村長さん達がぶつぶつ言いながらあっさりと座敷に引っ込んで、河童対策の続きを始める。




そして、俺は隣の俊秋あんちゃんの家に連れ込まれた。


「お隣さんから嫁さんを貰ってきたぞぉ」
俊秋あんちゃんは玄関を開けると中に向かってそう声をかける。


「ちょっと、ちょっと、あんちゃん、あんちゃん」
俺は慌てて声を上げる。


「冗談だよ。だが、事情は話してくれるよな?話がややこしそうだったからウチまで連れてきてしまったけど、よかったか?」
俊秋あんちゃんがそう言って笑って、玄関に俺を下ろす。


「まぁ、あそこにいると変な風に流されそうだったから助かったけど……」


「それで? なんで性転換手術なんて受けたんだ?お前の事は子供の頃から知ってるつもりだったけど、そういう性癖だとは知らなかったぞ?」
俊秋あんちゃんが腕を組んで俺を見下ろす。


「ちが〜う!!俺にもそんな性癖はないよ!これは事故、というか事件に巻き込まれたんだよ!」


「どうしたんだ?玄関先が騒がしいな?」
「あれ?清彦ちゃん?」
「あれ?俊秋が連れてきたお嫁さんって清彦?」


俺の抗議の声に本田さんの家族がぞろぞろと出てくる。


そして……、お隣の本田さんチに上がり込んでご家族の前でもう一度、事件の顛末を語る事になった。




「河童かぁ……」
「河童ねぇ……」
半信半疑で首をひねる俊秋あんちゃんとおじさん。
まぁ、そうだろうなぁ。俺だってこの目で見て、この身体で体験してないと信じられない話だもん。


「しかし、実際に清彦が女の子になってしまったのは事実だし。嘘を吐くならもう少し信憑性のある嘘を吐くだろうし……」
俊秋あんちゃんが俺の身体を見て口を開く。


「いや、まぁ、昔にウチの村の山奥には河童が本当に棲んでいるって話は聞いた事はあるけど、チンチンを持って行ってしまうと言う話は聞いた事がなかったな」
おじさんがそう言って、窓から見える川の土手を方に顔を向ける。


「今日は祭りで賑やかだったから、浮かれ出てきて酒でも飲んでたんじゃないのかい?河童は酒とキュウリが大好きだからねぇ」
お婆ちゃんがのんびりとした口調で言う。


「あぁ?ひょっとしてさっきからうちのポン酢が見あたらないのも河童に飲まれたのかしら?」
台所からおばさんが料理中なのかお箸を手に、そう言って出てくる。いや、お酒とポン酢は全く違うと思いますよ?


「それで清彦。元には戻らないのかい?戻らないのだったら本当にウチの孫の嫁にこないかい?」
お爺ちゃんがとんでもない事を言う。


「あぁ、それはいい考えね。清彦ちゃんだったら子供頃から知ってるし、お隣同士で親戚になればおつき合いも楽だし?」
おばさんが爺ちゃんの考えに賛同する。


「いやいやいや、お言葉は嬉しいですが、元に戻りますから!」
俺は慌てて手を振る。これじゃ家に居るのとかんわんないよ。


「元に戻るって、戻れるのか?」
俊秋あんちゃんが聞いてくる。


「今、家に居る誰かの話だと、河童に取られたんなら、河童の神通力で付ける事もできる可能性があるんじゃないかって。 ……だから、明日にも河童淵という所に言ってみようと思ってるんだけど」


「河童淵?かなり山奥の方だぞ?行くだけで半日以上掛かるだろ?」
俊秋あんちゃんが驚く。


「夏場は清美沢まで降りてきてるはずだから、河童淵までは行かなくてもよいはずじゃよ」
お婆ちゃんが俺たちの会話聞いて口を開く。


「え?婆ちゃん、なんでそんな事を知ってるの?」
俺が驚いて婆ちゃんに尋ねる。


「私の子供頃には時々、里にも下りてきていたからね」
「でも、ウチの爺ちゃんは河童の事は噂だけでしか知らなかったよ?」


「あの河童は男の前にはまず姿を見せないが、女の前には出てきたからね。 話もするし。でも、尻子玉を抜く様な悪戯はしなかったんじゃが……」
そう言って、婆ちゃんが首をひねる。


「とにかく、山の奥の方に行かなくても捕まえられるんだね?清美沢と言うと場所はたしか……」


「今は林道が近くに通っているから、昔より行きやすくなってるな」
そう言って、おじさんが場所を教えてくれる。


「わかった。それじゃ明日は俺も一緒に行ってやる」
俊秋あんちゃんがそう言ってくれる。


「俊秋が行ったらダメじゃよ」
しかし、お婆ちゃんが俊秋あんちゃんの同行を止める。


「なんでだよ?清彦一人で行かせるのも心配だろ?」
「人の話を聞いてなかったかい?男の前には河童は出てこんよ。河童は俊秋の姿を見つけた途端に逃げ出すさ」


「あ、そうか」
がくりと肩を落とす俊秋あんちゃん。


「そう言えば、河童ってどうやって捕まえたらいいんだ? あいつの力って小さいわりに簡単に地面に組み伏せられちまったから、あんちゃんの補助が望めないのはツライなぁ……、こんな田舎じゃスタンガンなんて手に入らないし……」
俺は腕を組んで考え込む。


「とりあえず、タオルかねぇ?」
お婆ちゃんが助言をくれる。


「タオル?」
「河童は皿が弱点だから、川から上がっている時に不意を襲って頭の皿の水を拭き取ってしまえば力は幼児並みに落ちるよ。失敗して川に逃げ込まれたり、頭の皿の水を拭き取り損なったりしたら、絶望的だから一発勝負だよ」
お婆ちゃんがそう言って笑う。


「えっと……、言ってる事が真剣な割にお婆ちゃんが楽しそうなのは何故かな?」


「失敗したら失敗したで、清彦は孫の嫁に来てくれるんだろ?どう転んでも私には嬉しいからねぇ。ふふふ」
……嫌な事を言ってくれるね、婆ちゃん。


って、そこの家族一同!なるほどって顔をして手を叩き合って笑いあわない!


「……まぁ、失敗する事は考えない様にして、それじゃ、明日の朝早くに清美沢に言ってみるよ」
そう言って、帰ろうとすると履き物がない事に気づく。


そう言えば、俊秋あんちゃんに抱きかかえられて来たから履き物はもってきてなかったんだっけ。


「あんちゃん、サンダルを貸してくれる?家に帰ったら持ってくるから」
「まぁまぁ、また抱きかかえて行ってやるからゆっくりしていけよ」
そう言って、俊秋あんちゃんが笑顔で俺の手を取って引き留める。


「えっとさ?俺、女の子になってから数時間も経ってないのにやたらと身の危険を感じるんだよね?あんちゃん?信じていいよね?」
俺は一応、確認する。


「まぁ清彦は本当に弟みたいなモノだから、弟が妹に変わった様な感覚だから男女の意識は"まだ"ないな。だから、安心していいぞ?」
そう言って俊秋あんちゃんが笑って引っ張る。


「えっと、なんか言葉のニュアンスに引っ掛かるところはあったけど、信じる事にするよ。もう少し、居させてもらいます」
仕方なく、ひかれるままに座敷に戻る俺。


「あれ?素直だな?」


「いや、今、ここからウチの方の様子をみたら、お客様たちがまだ騒いでいるんで戻るのは得策じゃないな、と」


そう言って首をウチの方に伸ばしてみると、かいま見えるウチの様子はガラス障子の向こうで、清音さんが楽しそうに何かを訴えているようだ。


俺は再び、あんちゃんチの座敷のテーブルの前に座り込む。


「清彦ちゃん、スイカ切ったけど、食べる?」
おばちゃんがお盆にスイカを乗せてやってきてテーブルの上に置いてくれる。


「あ。いただきます。 そう言えば、盆踊りの時に焼き鳥を3本ほど食べたっきりだったからなぁ」
そう言いながら、三角型に小さく切ったスイカに手を伸ばす。
あんちゃんや、おじさんたちも手を伸ばして食べ始める。


「そう言えば、清彦のウチで村長達は何を騒いでるんだ?」
爺ちゃんがスイカを食べながら、俺んちの方を見て首をひねる。


「せっかく仮装盆踊りが成功したと思っていた矢先に、この事件だから対策を練ってるんでしょ?人が河童に襲われるなんて評判が立ったりしたら、この村に来てくれる女性が居なくなってしまうのを心配してるんですよ」


「そうか。今晩の盆踊りは嫁探しを目的に開かれたんだったな」
おじさんもそう言いながらスイカをパクつく。


「青年会の清音さんが張り切って音頭を取ってんだ。 青年会に入ってる者は問答無用で全員が狩り出された。俺もさっきまでずっとトウモロコシを焼かされていたんだ。清彦はまだ女装姿で祭りに参加するだけで許されたからマシだぞ?」


「まぁ、この村で清音さんに逆らえる人は数える程しか居ないからね。ウチで騒いでる人たちも清音さんに招集されてきたもんな」
そう言いながら、俺もスイカを囓る。うん、よく冷えているし、甘いや。


パク、シャクシャク、プッ!ププッ、パクリ、シャクシャク……


ふと、皆が急に黙ってしまっている事に気づき、スイカから顔を上げると皆が俺をジッと見ている。


「え?なに? ぷっ!」
スイカの種を吐き出しながら尋ねる。


「いや、清彦。 そうやって大人しくスイカを食ってる姿がなかなか可愛いな?」
俊秋あんちゃんがそう言って笑う。


「うん、冗談抜きでほのぼのするというか……」
「本当に可愛いね。俊秋のお嫁さんにしたい可愛さね」


周りが妙に温かい目で俺を見ていた。


「はぁ?」
俺はスイカを手にしたまま、反応に困ってしまう。


「ねぇ?俊秋。やっぱり清彦ちゃん一人じゃ心配だから明日ついて行ってやったらどうだい?」
お婆ちゃんが俊秋あんちゃんに声をかける。


「いやいやいや!お婆ちゃん、ついさっき、男が付いてくると河童が逃げてしまって出てこないって言ったばかりだよね?」
「おや?そんなことを言ったかねぇ?」
惚けるお婆ちゃん。


「確かに、女の子一人で山に行かせるのは不安だな?おじさんもついて行ってやろうか?」
おじさんまでニヤニヤとそんな事を言い出す。
この人達は〜!


「あんちゃん、絶対に付いてこないでよ?河童が捕まえられないと本当に俺、女のままになっちゃうんだからね?おじさんも!」
俺は慌てて俊秋あんちゃんとおじさんに念を押す。


「大丈夫だよ。父さんも俺も付いていかないから。安心して河童を捕まえてこい」
そう言って笑う俊秋あんちゃん。


「本当に頼むよ?俺の"男"が掛かってんだからね?」





そして、俺はウチの客が去ったのを確認すると家に帰り、家族に俊秋あんちゃんチで聞いた事情を話して、翌日の為に風呂もそこそこにさっさと寝てしまった。















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