佳代さん 03 真相、佳代さんの視線 清彦くんの身体を奪って二週間が過ぎようとしていた。 元はと言えば、きっかけは旦那様の俊秋さんが出張先の海外で買ってきた怪しげな呪具だった。 そう、あの呪具さえ使えば、条件さえ満たせば何度でも入れ替わる事が出来る。 窓から隣の様子を伺ってみると、入れ替わった清彦くんはそれとは知らない俊秋さんが旅行に連れて行ってしまったようだ。 と言う事で、二人が旅行中の間は私が清彦くんとしてこの家で過ごしてみるのも悪くないと思った。 実は呪具を使うに際して、ひょっとして?と言う思いから、私は暫く前から清彦くんの周囲については清彦くん自身から聞き出していたので、清彦くんに化ける事は容易だった。 そして、男の子として過ごした二日間は意外と楽しい事に気付いた。 今の私には……、この男の子の身体には旧家のしきたりに捕らわれない自由と自分で選び取れる未来がある……、それは甘い果実だった。 しかし、この身体は清彦くんに返さねばならない身体だ。清彦くんが旅行から帰って来れば返さねばならない…… しかし、旅行から帰ってきた清彦くんは俊秋さん好みの可愛い奥さんになっていた。 後から聞いた話では、清彦くんは旅行中に俊秋さんと予期せぬ肉体関係を結んでしまったようだ。 そうして、二週間たった今、私は清彦くんを主婦に仕立て上げる事に成功している。 * * * 今日も学校が終わり、部活もしてない清彦くんの私は真っ直ぐに帰宅する。 中学も卒業して何年もたつと流石に勉強内容も忘れちゃってるわよねぇ? まぁ、徐々に思い出して来てるからいいけどね。それに清彦くんってわりと勉強は良くなかったんだ?中の下って処かしら? ま、勉強のコツのつかみ方さえ取り戻したらすぐに、本物の清彦くんの成績を追い越してみせられるしねぇ〜 私は鼻歌交じりに歩いているとポケットの携帯が鳴る。 おや?清彦くんからだ?また、料理かなにか失敗したのかな? ポチッ 「あれ?もしもし?佳代さん?」 「やだなぁ、俺は清彦ですよ?佳代さんは−−」 しかし、清彦くんの方にはその余裕はなかったようだ。 周りに人が居ないのを確かめて、あらためてそれでも用心して小声で清彦くんに話しかける。 「ちょっと、清彦くん、どうしたの?」 「怪我をして…… 血が止まらないんです。 バチが当たって……あんな事をしちゃったから……」 どうにも清彦くんの説明は要領が悪くって状況が飲み込めない。 私は携帯を切ると清彦くんのいる家へと急いだ。 ・ 「清彦くん!いる?どこ!」 「ここです……」 中に入っていくと清彦くんはトイレにいた。 スカートをまくり上げ、ショーツを足下まで下げて股間をさらけ出して便器に座ったまま、私を涙目で見上げている清彦くんが。 そばにはトイレットペーパーが大量に散乱している。 「えっと……」 泣きべそをかきながら清彦くんは私に状況を説明しようとする。 「佳代さん、俺、夕べ初めて自分から、グスッ、俊秋さんを誘っちゃって…… その時、お腹が痛いとは思ったんだけど……、ヒクッ、そしたらお昼にトイレに入ったら…… あそこから血が出てて… 「え〜と…… 清彦くん?生理って知ってる?」 あ〜、そう言えば私って生理前は身体が疼くのよね?清彦くんに言っておくべきだったかしら? とゆうか、中一男子の性知識ってどこまで知ってるのかしら?考えてみれば清彦くん、セックスの知識すら無かったんだっけ?清彦くんって性に関しては思った以上に子供だったんだ? 「え?なに?片づけの事?ぐすっ」 私は二階に言って必要な物を持ってくると、清彦くんを裸にして隣の風呂場に叩き込む。 「あ、こういうのがあるんだ?知らなかったな。ありがとう、佳代さん」 台所のテーブルに恐る恐る腰掛ける清彦くん。 「……う〜ん、どこから説明したものやら?」 「えっと、赤ちゃんってどうやったら出来るか知ってる?」 そうして。清彦くんへの性教育が始まった…… ・ 「毎月?これが……?」 私の説明を聞き終えた清彦くんは呆然としてスカートの中の股間を包むショーツを撫でる。 「お、俺は赤ちゃんなんか産みたくないよ!それまでには元の清彦に戻るんだから!」 「でも俊秋さんを誘ってまでセックスしたんでしょ?言ったようにセックスというのは赤ちゃんを孕む為の行為なんだから」 「それは……し、知らなかったから…… その白いのが赤ちゃんの素だったなんて……」 私の話は清彦くんに取ってかなりショックだったようだ。 「世の中の半分は女の人で、皆それで普通に生活してるんだから、清彦くんも大丈夫だって!ちゃんとやってけるって!慣れよ、慣れ!」」 「……慣れたくないです。 股間はアレだし、お腹は痛いし、頭はぼうっとするし…… 女の人ってよく平気ですね?」 「生理中は精神状態も不安定になるから、そのせいで気が弱くなってるのよ、清彦くんは。大丈夫! ヤケになって、入れ替わった事を清彦くんの両親に訴えられたら面倒な事になる。 すぐには信じてもらえないだろうけど、清彦くんしか知り得ない事などを話されたら、それを答えられない私はピンチに陥る。 ここは是非とも清彦くんには女性としての自分を納得してもらう以外に道はない。 「でも……」 「……嫌、……です。母さんや父さんにも会えなくなるなんて・・・」 「……うん」 「うん…… ごめん、佳代さん、俺……」 「いいのよ、突然、生理になって取り乱しただけだもん。今度なってもちゃんとやれるもんね?」 「やっと、笑ってくれたね、清彦くん。ごめんね、私の身体の事で悩ませてしまって」 私に向かって、力無く笑ってみせる清彦くん。まだ、ショックからは完全に立ち直ってはいないのだろう。 「まぁ、女は見かけほど楽じゃないけどね。 その点、清彦くんには悪いけど男の子って色々と楽でいいわぁ、本当に」 「ズルイなぁ、佳代さんは」 「しかし、家に帰る途中で清彦くんから鳴き声で携帯が掛かって来たから慌てて走ってきたんで疲れたわ」 「あ、すいません。俺の為に」 「ありがとう、喉が渇いてたからいただくわ」 「えっと、ひょっとしてこのマドレーヌって?」 「よかったぁ、時間がある時は佳代さんに言われたように、料理本をみて料理の練習をしてるんですけど、お菓子の本も有ったんで気分転換で俺でも出来そうなのを作ってみたんです」 か、可愛い!清彦くんの佳代ってなんて可愛いの? この清彦くんを俊秋さんが夜な夜な…… くそ、なんか悔しいわね? この清彦くんの身体がもう少し大人だったら押し倒すのになぁ? 男とは言え、精通もあったかどうかもわからない子供の身体で押し倒しても虚しいだけだしなぁ…… 「可愛い…… 意外、清彦くんって、こんな事もするんだ?」 「気分転換にお菓子作りって、清彦くんもすっかり女の子じゃない?なんだ、立派に女の子をやれてるんだ。私、安心したわ」 「褒めてもらったのは嬉しいけど、なんだかなぁ」 「だいじょうぶ!、絶対褒めてもらえるって!そしたら、清彦くんも自信が持てるでしょ?お菓子作りにも張り合いがでるわよ?」 すっかり最初の生理の鬱な気分からは立ち直ってる。 そうして暫くは清彦くんとワイワイおしゃべりをして、生理時の注意をいくつかすると私はマドレーヌをお土産にして家に帰った。 * * * それから数日がたった。 私が学校から帰ってくると清彦くんが庭で何かを考え込んでいる。 「き…、佳代さん、何を考え込んでるんですか?」 「風で洗濯物が?佳代さん、洗濯ばさみでちゃんと止めました? ただ物干し竿に引っ掛けておくだけじゃダメですよ?」 「でも、今日ってそんなに風がないでしょ?それでも飛んでっちゃったんですか?」 清彦くんの言葉に不思議なものを感じる。 「そうですよ、元俺の…… って、元にさえ戻れば俺のですよ。庭にいたら、隣から声を掛けられたんです。この前のマドレーヌの礼をね?佳代さん、本当にお母さんに食べさせたんですね、アレ?」 「そうよ、ウソ言うわけないじゃない?褒めてくれたでしょ?お母さん、あれ食べて美味しいって言ってたわよ?」 「で?お母さんと話したんだ?隣の若奥様は?」 「いや、でも事実でしょ?若奥様の清彦くん?」 「話題を戻した、と言って下さい!」 「それで買い物に行って戻ってきたらちゃんと止めてあったはずの洗濯物が飛んでちゃってたんです。 「さぁ?」 「はぁ? ……えっ?ちょっと待って?飛んでったのはショーツとブラ?ひょっとしてそれだけ?」 「そうですよ、それだけですけど?」 顔を上げてあらためて、清彦くんの干した洗濯物を見る。 「えっと、清彦くん?飛んでった下着ってそこに干したの?外からよく見えるあそこに?」 私は首を振って清彦くんの肩に手を置く。 「それって、多分風で飛んでったんじゃないわよ。清彦くん、下着泥棒って知ってる?」 「あのね、ああゆう下着は人目に付きにくいように他の洗濯物に隠して干すか、家の中に干しなさい」 「俺ってねぇ…… あなたは今は女性なんだから、りっぱに盗られる側に立ってるの!」 「いや、そんなの序の口ね?下着を鼻に押し付けてショーツに残った清彦くんの匂いをクンクンやって楽しんでるかもしれない」 「いや、案外、今頃はむさ苦しそうな男が清彦くんのはいた下着を穿いてるかも知れないわね」 「それどころか、今頃、清彦くんのショーツは男の精子まみれに………」 「だから、もう少し自覚を持ちましょうね?女性としての自覚を?」 「とりあえず、当分、下着は家の中に干す。外は今更隠しても手遅れね、リピーターが付いちゃってるみたいだから隠しても盗りに来るわよ?もう何回かやられてるんでしょ?」 「後は俊秋さんが帰ってきたら相談して、警察に届けておけば警察も少しは目を光らせてくれるでしょうし」 「ま、今できる事はそれくらいかな?それじゃ、私は帰るから俊秋さんが帰ってきたら今の事をちゃんと伝えるのよ?」 「お願いします、もう少しここにいて下さい。あの……お菓子ありますよ?食べません?お茶しましょうよ?」 「うん、それじゃご馳走になろうかな?」 ・ それから数日後、近所をパトロールしていた警官が下着泥を捕まえた。 * * * さらに数日が過ぎた。 「佳代さん、いますかぁ?」 「はーい、なんだ。清彦くんか」 「それはご苦労様でした」 「二階?何かしてるの?」 「引っ越し?どこかに引っ越すの?俊秋さんの転勤が決まったとか?」 「怖い事を言わないで下さい!そんな事になったら元に戻れなくなっちゃうでしょ!」 「俺の部屋から俊秋さんの部屋にですよ」 「…………」 「それで俺の寝ている部屋を俊秋さんの書斎にして、俊秋さんが今使ってる大きい部屋を二人の寝室にすることにしたんです。 ……けど、いけませんでしたか?」 「ううん、清彦くんの好きにしていいわよ?今この家にいるのは清彦くんなんだから、住みやすいようにしてくれていいから。 で、部屋の引っ越しをしていたと?」 「ちょっと見せてもらっていい?」 ・ 「ほお?」 「ベッドのあった窓際に俊秋さんからもらった不気味な人形が飾ってあったんだけど?」 「俊秋さんに言われて?清彦くんが捨てたの?」 「え、えぇ…… 俺もあの人形を気味悪く思ってたので捨てちゃったんですけど、佳代さんに聞くべきでしたか?」 「ん?いえ、いいのよ、私も気味が悪かったんだけど、俊秋さんから貰った物だったから捨てられなかったの。なんだ俊秋さんも捨ててもいいって思ってたんだ?それで清彦くんが捨ててくれたんだ?うん、よかった!」 私は笑顔で清彦くんを振り返る。多分、その笑顔は会心の笑顔だったろう。 そうか、俊秋さんが清彦くんに捨てさせちゃったんだ?あの人形。 ふふふ。 「そうですか。勝手に捨てていいのか迷ったんですけど、今朝がゴミ出しの日だったもんでつい」 「え?なにか?」 「あ、うん、母さんも出しに来てました」 「え?べ、別に何も……」 「実は……」 「いや、ゴミ出したらさっさと帰ろうと思ってたんだけど、二人の話してる内容が子供の事だったんでつい立ち去りそびれちゃって……」 「大好きって程ではないけど、私はわりと好きよ? 一度通った道だからどう勉強すれば、将来にどう影響するかがわかってるからね?」 「……そうなんですか?俺には理解できないです、勉強が好きなんて?」 「で、何となく立ち去り損なってたら母さんに捕まって。"子供と言えば、佳代さんは赤ちゃんは?"と話をふられてしまい……」 「出来てません!作る気もありません!セックスの意味を聞いて以来、俊秋さんには避妊に気を付けてもらってるんですから!」 「アドバイスもらっちゃたんだ?」 「ぷっ、あははは。それは貴重な体験だね、清彦くん」 「笑い事じゃないです、俊秋さんのアレはどうなの?とか、アレの時にちゃんとイカせてもらってる?とか、息子に聞く事じゃないでしょ?」 「いや、お母さんは知らないわけだから。 目の前の新婚の若奥さんが自分の息子だ、って」 「だからと言って…… 母さん達があんな話が好きだなんて思わなかったです。俺の話に二人して一々大ウケして聞いてくるんですから」 「それはお気の毒様。 主婦って家族と主婦同士では話す話題が違うからねぇ。清彦くんも主婦仲間と話す時は多少のエロトークを交えた方がいいわよ?」 「できません!そんなの!それは母さんが俺にしたように、母さんに父さんとのアレはどうなの?って息子の俺に聞けってんですか?」 「ぷっ。くふふふふふ。ごめん、でもダメ。その状況を想像しちゃったら…… あはははは」 「もう!本当に笑い事じゃないんですよ!早く元の身体に戻りたいですよ!佳代さんになってからロクな目にあってない気がします!」 ……でも、ごめんね、清彦くん。私の知ってる限りじゃ、もう元に戻れる手段は清彦くんの手によって廃棄されちゃったの。 清彦くんはこの先一生、主婦をやっていかなくっちゃならないのよ? 「まぁ、我慢してよ。戻れる手段がわからないんだから。清彦くんも大分、主婦にも慣れてきたみたいだから次は主婦同士のコミュニケーションにも徐々に慣れていってよ?」 「大丈夫!清彦くんなら出来るって!今までも何とかこなせて来たんだから。 主婦としても優秀よ、清彦くんは」 いつものように清彦くんを煽てて、それから少しの間、清彦くんの作ったオヤツをご馳走になりながらたわいない会話をしてから私は上機嫌で家に戻った。 |