「秋山家の陰謀 番外編 意地っぱりたち、始まる日常」


「それで、清香を呼んだのは他でもない。あのバカの事だ」
秋山家の当主、晴彦に呼ばれて書斎に出向いた清香に当主が開口一番こう言った……

「やはりあのバカの事ですか……」
清香も何の用で呼ばれたかは、想像がついていた。

「清香までバカ呼ばわりか……」
「まぁ、バカを利口と言ったら悪口になってしまいますからね。バカをバカと言うのは正当な評価ですよ?」
冷静な口調で返す清香。

清香達が「バカ」と呼んでいるのはこの秋山家の跡継ぎ、俊彦の事だ。
「とにかく、あの人は商才という物が全くない。やる事なす事全てが裏目に出る。そのくせ、やる気と行動力だけはあるからタチが悪いですよ」

「まぁ、いい…… その俊彦の事なんだが。 ……廃嫡にしようと思う」
当主が苦悩の表情を浮かべて清香に告げる。 
「……はぁ?廃嫡?えっ?!、えっ!ちょ、ちょっと待って下さい?廃嫡って、あのバカを秋山家から追い出すのですか?確かに、あいつはバカで、強情で、自分勝手で、無駄に行動力に溢れた無能者ですが、それさえなければいい奴ですよ!?」
清香が慌てて、俊彦の弁護(?)をする。

「いや、それさえなければって、あいつからそれだけ取ってしまうと後は何も残らないぞ?」
晴彦が呆れた様に言う。

「……でも」
「いや、清香の気持ちはわかる。あれとつきあい始めて十数年、あれの後始末ばかりに追われて貴重な青春を費やしてしまったのだからな」
申し訳なさそうにいう晴彦。

「そうですよ。それと言うのも"秋山家"と言うご褒美がアレに付いてると思えばこそですよ?それなのにここに来て、そのご褒美がアレから引っぺがされたら、あれはタダの生きてるゴミですよ?」

「…… 本当に清香は遠慮がないな?正直者というか…… でも、本当は俊彦の事を想ってくれているのだろう?友人達は次々と俊彦を見放して離れ行き、後に残ったのは"秋山家の跡継ぎの俊彦"にタカる者達だけだ。その中で清香だけは……」

「えっと……旦那様?私の話を聞いてました?私は俊彦の事なんか、これっっっっぽっちも想ってませんよ? 私だって俊彦の肩書きに魅力を感じてるだけですから?」
拗ねた様な口調で言う清香。

「財産目当てでウチに目を付けたとしても、清香はよくやってくれているよ。亡くなった妻も清香の献身的な看病には最後まで感謝していたし」

「いや、財産目当てなら何でもしますから、私は」
そう言って、照れくさそうに晴彦から視線を外す清香。

「うんうん、そういう事にしておこう」
そんな清香を見て優しそうな目で微笑む晴彦。


「それで俊彦を廃嫡にするというのは?」
「あぁ、それだ。あいつが何かをする度に秋山家に損失が出る。さすがに自分で興した事業を潰しているうちはいいが、本家の事業を継いだときの事を考えると……」
苦悩を秘めた顔で語る晴彦。

「潰しますね。大資産家の秋山家と言えど、あのバカの無能の前に1年保つか、2年保つか……」
「冗談に聞こえないところが怖い。アレが一人息子でなければ他の兄弟に跡を継がせると言う手もあったのだが……」
そう言って、深くため息をつく当主。

「アレしか居ませんからねぇ。私がアレと結婚して、私に秋山家の全経営権を譲って下されれば何とかなりますけど」
「いや、正直、清香の能力を考えると、それが出来るなら望むところだが、アレがそれを認めるワケがない事は目に見えている。だから、清香には悪いがアレを廃嫡にして誰か優秀な人材に秋山家を譲ろうと思う」

「はぁ?いやいやいや、そうすると私はどうなるんです?ずっとあのバカのフォローをしてきて仕方なく許嫁になってやった私の立場は?」
慌てて清香が晴彦に問う。

「勿論、婚約は破棄してもらって構わない。充分な賠償額も出させてもらう。それでも俊彦と結婚してもらえるなら清香個人に結婚支度金も出させてもらう」
そう言って頭を下げる晴彦。

「あ、優秀な人材に秋山家を譲るというのなら、私に下さい」
そう言って、清香が子供がおねだりをする様に両手を前に出す。

「いや、秋山家はお菓子じゃないんだから。それに残念ながら清香では……」
「私では能力に不足だとでも?」

「いや、申し分はない、ないが……、女性差別をするつもりはないのだが……」
「つまり、私が女性であるから支障が出ると?」

「すまないな。まだまだ、世の中はそう言う事があるのだよ」

「くそう、いっそのこと、あのバカに抱きついて階段から落ちてやろうか」
「これこれ、ヤケになって、俊彦と心中する気か?」

「いえ、この間見たTVでやってたんですよ。男女が階段から転がり落ちた拍子にお互いの身体が入れ替わるって話を。私があのバカの身体になれば秋山家は私の自由になるし、あのバカが私になれば秋山家から追い出さずとも経営面では無力化できるでしょ?」

「なるほど、確かにそうなれば理想的かもしれんな。そう言えばウチにも……」

「おやじぃ。いるかぁ?ちょっと、資金を……」
晴彦が何かを言いかけたとき、話題の主の俊彦がドアを開けて入ってくる。

「出たな、バカ」
ポツリと清香が呟く。

「げっ、清香。お前、ここにいたのか?」
清香を目にして、少したじろぐ俊彦。

「なに?その顔は?また何かよからぬ事に手を出そうとしてるの?」
清香が俊彦を睨んで詰問する。

「なんだ清香。失礼だぞ?話を聞かないウチからよからぬ事などと。大体お前は俺より年下の女の癖に……」
「言ってみなさいよ?旦那様から資金を引き出して何をしようとしてるのかを?」
俊彦の言葉を途中で遮って、腕組みをして資金の必要な理由を問う清香。

「お、おぅ。この前、合コンで知り合った女性の知り合いが新しく発見した酵母を使って作り上げた健康飲料を独自の販売方法で売る為に共同出資者を募集してるんだ。今、応接間で……」

「ほほう?"ゴ・ウ・コ・ン"で知り合った女からの紹介ですか?で、その販売方法はどういうシステムで?」
清香が冷めた目で尋ねる。

「おう、聞いてくれ。まずは…… …… ……」

「どこにいるの!その話を持ってきたバカは!応接間か?!」
得意げな俊彦の説明の最初だけ聞いた清香は、憤慨して書斎を出て行く。

「おい。こら待て!清香!」
慌てて清香を追う俊彦。

一人残った晴彦が、手の平で顔を覆って呟く。
「あのバカはネズミ講も知らないのか……、思いっきり使い尽くされた商法だろうが?」


「出て行け!このバカ共!」
遠くの方で清香が訪問者を怒鳴りつける声が響く。



「俊彦も俊彦なりに秋山家の跡継ぎとして頑張ろうとしているのはわかるのだが……、ヤマっ気が多すぎる」
晴彦がため息をついてテーブルの上の鈴を振る。
すると、予めわかっていたかのようなタイミングで執事がティーセットを運んでくる。

          * * *


「大体、何でお前は俺の客を追い出して俺の金儲けを潰すんだよ!」
俊彦が訪問客が去った応接間で、清香に怒鳴りつける。

「金儲けって、典型的な詐欺話でしょ!私は何であんな話に俊彦さんが乗るのかが信じられません!」
清香も負けずに怒鳴り返す。

今まで何度も繰り返された光景だ。俊彦が新たな事業に手を出そうとすると、清香がそれをチェックして不備が有れば喧嘩になっても清香が止める。それでも清香のチェックを通って興された事業も何故か俊彦が関わると巨大な負債を残して頓挫する。その度にまた俊彦と清香は喧嘩になる。

「そんな事はない!今度こそ、利益の出る事業になるはずだったんだ!その為に、酵母を量産するバイオプラントを……」
「ちょっと、待って!まさか、工場を建てたなんて冗談はないわよね?!」
清香が目を剥いて俊彦に詰問する……

「い、いや……、まだ土地を仮押さえしてあるだけで、手付けも明後日……」
「も〜!信じられない!何かするときは私か旦那様に報告する様に言ってあるでしょ!」
清香が呆れた様に俊彦を睨みつける。

「う、うるさい!何で俺がお前に事前に俺のやる事を報告しなけりゃならんのだ!お前は何様だ!」
「貴方のお目付役で婚約者ですよ!」

「だったら黙ってお前は俺の後に控えていればいいんだ!女の癖に出しゃばるな!」
「出しゃばらせるのは誰ですか!俊彦さんが頼りないから私が出しゃばらなければいけないんでしょ!」

俊彦と清香の言い争いは続く。


          * * *


『うるさい!お前なんか別れてやる!出て行け!』
『えぇ、えぇ、こんなバカなんか放って置いて出て行きますよ!』
晴彦の書斎にまでその声は届いている。


「清香さんが俊彦さんと別れて出て行かれるそうですよ?」
その声を聞いて執事が落ち着いた声で晴彦に告げる。

「聞こえてる。だが、清香は出ていかんよ。別れ話なんか何度目だ?」
「学生の頃を入れると数え切れませんね」

「あの二人もなぁ。お互いに惹かれ合ってる癖に不器用だからなぁ」
「お互いに、強情で意地っ張りですからねぇ」

主従が若いカップルの口喧嘩をBGMにお茶を飲む。

「しかし、あの二人も付き合い始めたときは本当に素直な可愛いカップルだったんだがなぁ」
そう言ってサイドボードの上に飾ってる写真を見上げる晴彦。

そこには今より少しだけ若い晴彦と2年前に他界した彼の妻が揃って椅子に座り、その後ろにはセーラー服の中学生の清香と、高校に入ったばかりのブレザーを着た俊彦が微笑んでいた。


『黙れ!お前はさっさと俺の嫁になって家で大人しくしてればいいんだ!だいたい、その年になっても身体を許さないって何時代の女だ、お前は!』
『身を任すに足らない男が何を言ってるんですか!私とヤりたいってんなら、それなりの実績を示してみなさい!』

二人の言い合いはまだ続く。

「え?清香ってまだ処女だったのか?」
晴彦が少し驚いて執事に尋ねる。

「二人の間の事を私に聞かれましても…… でも、今の話ではそのようですね?」
執事が落ち着いた口調で口を開く。

「そうか……、清香はまだ処女だったのか……」
何事かを考える晴彦。

暫く考えた後、執事を見て口を開く。
「なぁ、田中。ちょっと蔵で探してきて欲しい物があるのだが」

「はい、なんでしょう?」
「実は…… ……」
何事かを執事に命じる晴彦。


          * * *


「俊彦のバカ野郎……」

清香は自分の部屋のベッドでビールを片手に静かに泣いていた。

いつも最後は「女の癖に」「嫁に入って家を守っていろ」だ。女である事が嫌ではないが、男と線を引かれるのが赦せない。能力的に男に劣っているワケではないのに、いつもいつも女である事を理由に自分を否定されるのは理不尽だ。

「大体、自分が危ないマネばかりしてるから私が口を出す様になったんでしょうが。確かに秋山家の跡継ぎとして人から認められたいのはわかるわよ。でも、私と一緒に協力してやってくくらいの度量は持ちなさいよ。それに、楽して稼ごうとか、他の女にいい顔したいとかいった理由で事業を興されちゃたまんないわよ!」

俊彦は父が高齢になってから出来た秋山家の一粒種だ。本来なら父親の晴彦は俊彦に全てを譲って引退していてもおかしくないのだ。それなのに、未だに引退できないでいる。全ては俊彦の行状の問題だ。


コンコン

ぶつぶつと愚痴っているとドアがノックされる。

「え?あ、はい?どうぞ」
清香が目を拭って、返事をすると晴彦がドアを開ける。

「清香、ちょっといいかな?」
にこにこと晴彦が清香に尋ねる。

「あ、旦那様。はい、いいですよ。どうぞ」
そう言って晴彦を部屋に招く。

「何だ?泣いてたのか?目が赤いぞ? ん?ヤケ酒か? すまないな、ウチのバカが世話を掛けさせて」
「いえ、いいんです。あははは、秋山家の財産を私の手中に収める為ならこれくらい……」
そう言って、ビールの缶を隠してもう一度目を拭う清香。

(本当にこの子は。俊明のせいで、本心とは違う偽悪的な事ばかり言うようになって……)
「そうか」
そう言って優しく微笑む晴彦。

「それで……、何か御用ですか?」
「あぁ、清香。昼に"入れ替わり"の映画の話をしていただろう?」

「え?あぁ、私があのバカで、あのバカが私の立場だったら、って話をしてましたね」

「実は……」
そう言って古びた文箱を出す晴彦。

          ・ ・ ・


「えっと、この…… 換魂丹……ですか? これを使うと俊彦と私を入れ替える事が出来ると?」
疑う様な不審な目で晴彦を見る清香。

「うん、まぁ、私も半信半疑だから、お遊びのつもりで持って来たんだ」
清香の隣に腰掛けて膝の上で手を組んで語る晴彦。

「昼間の続きだが、アレを廃嫡にするのは簡単だ。だが、その前にもう一押し何かができんかなと思ってな。それが本物なら何かのきっかけになれば……」

「ふ〜ん、換魂丹ねぇ……」
酔いの残った赤く染まった目元で、清香が不審そうに文箱の中の丸薬を眺める。

「ふふ、面白そうですね?」
ニヤリと清香が笑う。
「つまり、これを使えば私は秋山家の跡継ぎ、秋山俊彦になって、あのバカは俊彦の許嫁、清香になると? ふ、ふふふ、ははははは。面白い、面白いですよ。旦那様」

そう言って、晴彦の背中をばんばん叩く酔っぱらい清香。
「ま、まぁ、これの効果が本物なら俊明にキツいお灸を据えられるだろう。 それであいつの心境に何らかの変化でも有れば……」

「ねぇ?旦那様?一応、私も懲らしめる事に異論はありませんが、心境に変化がない場合、私が俊彦という男に成り代わってしまっても構いませんか?」
清香が酔っぱらった目で晴彦に尋ねる。

「……まぁ、清香に問題がなければかまわんが。その時は、清香になった俊彦を嫁にもらう事になるんだぞ? いいのか?」

「問題ありません。それどころか嫁として徹底的に教育してあげます」
そう言って、笑う清香。

「これを使う判断は清香の自由に任せる。それと、重要な事だが、処女を失ってしまうと薬が本当に効かなくなって元に戻れなくなる。さらに問題は服用後は媚薬のような効果があるらしいと言う事だ」

「……それって、かなり危なくありませんか?媚薬効果の中でセックスは禁止って?」

「だから、くれぐれも気を付けてくれ」
(結構、酔っているようだが、大丈夫かな?)


晴彦が部屋から去り、換魂丹が清香の手元に残る……

「ふ〜ん?秋山家って古くは陰陽師みたいな事もやってたらしいとは聞いてたけど、こんな物もあるんだ? 本物かなぁ? ……でも、本当に中身が入れ替えられたら楽しいだろうなぁ。あのバカが私をバカにしたようにあのバカを女呼ばわりして私に与えられた屈辱を味あわせてやれば……くく、"善は急げ"って言うよねぇ」
酔っぱらった頭で楽しそうに笑いながら部屋を出て行く清香。


          * * *


数時間後……

「ふん、ふふふ〜ん、愛しいフィアンセの為に愛情、その他を込めて、作った料理が出来ましたよ〜」
ご機嫌でシチューらしき物をかき回す清香。


          * * *


夕食の時間、食卓のテーブルに付いているのは晴彦、俊彦、そして清香の3人。

ただし、そのウチの一人、俊彦は清香の作ったスープに口をつけて暫くしたらテーブルに突っ伏して寝てしまった。

「清香?ひょっとして例の薬を?」
呆れて清香を見る晴彦。

「はい、早速、俊彦のシチューに試させてもらいました。本当に効くみたいですね?」
清香がにっこりと笑ってそう言いながら、平然と食事を続ける。



暫くして、清香達の食事が終わる。

「さてと。それじゃ……。旦那様、俊彦の事は本当に私の自由にしていいんですね?」
「あ、あぁ、清香に任せた。お前の好きなようにしていいが、今さらだが、行動はよく考えて慎重にな?」

「はい、わかっています。 ちょっとキツイお灸を据えるだけですよ。 それでは、田中さん。すいませんが、俊彦さんを運んで頂けますか?離れの座敷に部屋を用意してありますので」
微笑みながら晴彦の背後に控える執事に声を掛ける。

「旦那様?」
執事が確認をする様に晴彦に尋ねる。

「あぁ、清香の言う通りにしてやってくれ。俊彦の事は清香に任せたからな」
晴彦の言葉に執事は俊彦に近寄ると、その年齢に似合わない程の力で俊彦を抱き上げると、清香のあとを付いて食堂を出る。

二人が出て行った食堂で一人残った晴彦が呟く。
「さて、これが吉と出るか?凶と出るか?」


          ・ ・ ・


離れの座敷。

ベッドの上に俊彦が静かな寝息を立てて寝ている。

「さてと、ここからが本番ね。本当に身体が入れ替わるか、タダの睡眠薬なのか……」
清香はそう呟くと、口の中で"支配の呪文"を唱えながら俊彦に口づけをする。

そして、俊彦の身体の上に倒れ込む、清香……

          * * *


「いや、本当に入れ替わるとは……」
目覚めると俊彦の身体を得た事に気づいた清香が自分の手を眺める。

白く細い小さな華奢な手ではない、日に焼けたごつい太めの指をニギニギする。

「うわぁ、動く。俊彦の腕だ」
その後、身体のあちこちをまさぐり、確認する清香。

「あの重い胸がない。うわぁ、グロテスクなアレがあるぅ、思ったより小さいんだ?これが興奮すると大きくなるのかな?ひゃはは。面白ぉ〜い」
ズボンを下ろして、トランクスを大きく伸ばして自分の股間を眺める清香。

「うぅん……」
はしゃぐ清香の背後で清香の身体に入った俊彦が身動ぎをする。

「お?目覚めるのかな、俊彦? くふふ、驚くだろうな、俊彦の奴。気が付いたら自分が清香になっちゃってるんだからな。 くひひひ、今までの私に対する所業を反省するまで虐めてやるからな」
清香が意地の悪い笑い顔をしながら目覚めようとしている晴彦を見下ろす。


          * * *


「うぅ、なんだ?頭が……」
清香の姿をした俊彦が頭に手をやって起きる。

「目が覚めたか?清香」
清香が薄く目を開けた俊彦ににやついた顔で声を掛ける。

「あん?」
ボケた頭で、目の前に立つ男を不審そうに目を細めてみる俊彦。

「どうしたんだぁ、清香? 俺がいつも、いつも、いつも、いつも、多大な迷惑ばかり掛けまくるからボケてしまったのか?」
楽しそうに、上半身を起こした俊彦の肩を揺する清香。

「あ?え?俺? ……な、何だ、お前! え?誰だ?」
状況がわからずに戸惑う俊彦。

「あははは、本当にボケちまったのか?俺はお前の婚約者の秋山俊彦じゃないか?お前の将来の旦那様を忘れるなんて?」
それはもう楽しそうに俊彦に笑いかける清香。

「はぁ?何、言ってるんだ?俺は男と婚約した覚えはねぇよ!俺の婚約者は冬木清香という女だ。 え?」
ようやく自分の身体の異常に気づく俊彦。

「あぁ、そうだよ。俺、秋山俊彦の婚約者はお前、冬木清香だ。うんうん、ボケてはいないようだな?」
そう言って、手鏡を俊彦に渡す。機械的に手鏡を受け取った俊彦が自分の顔を映す。

「えぇ!なんだこれは!清香じゃないか!何で清香が鏡に映ってるんだ?!」
パニックに陥る俊彦。

「清香が鏡を見れば、そこに映るのは清香の顔なのは当たり前だろ?そこにお前の顔の代わりに俺の顔が映ってる方が驚くだろ?」
声を出して笑いたくなるのをこらえる清香。

スーツの上から胸を押さえる俊彦。
「え?なんだこれは?」
さらにタイトスカートの上から股間に手を宛う。
「はぁ?な、なんなんだ?」
立ち上がって、タイトスカートの裾を持って捲りあげる。
そこにはベージュのストッキングに守られた純白のショーツがのっぺりとした股間を包み込んでいた。

「なんじゃ、こりゃあ!!」
「松田優作か?」
俊彦の悲鳴に清香が楽しそうにツッコミを入れる。しかし、俊彦にはそれどころではなかった。

「な、な、な……」
身体中をぱたぱたと確かめる様にはたく俊彦。

「どうしたんだ、清香?どこか具合でも悪いのか?」
清香の書けた言葉に俊明が顔を上げる。

「……お前? 清香か?」
じっと清香を睨む俊彦。

「さっきから何を言ってるんだ?清香? 俺は見ての通り、俊彦じゃないか?」
楽しそうに自分を指さす清香。

「巫山戯るな!これはどういう事だ!俺に、俺たちに何をした?」
キッと清香を睨みつける俊彦。

それに対抗するかの様に笑顔から一転、真剣な目になる清香。
「秋山家に古くから伝わる入れ替えの秘術よ。貴方がどうしようもないから、私があなたと入れ替わって秋山俊彦になるようにしたのよ。貴方は今日から私の婚約者、冬木清香としての人生を歩んでもらうわ」

「秋山家の秘術?巫山戯るな、俺は俺だ。さっさと戻せ!」

「いやよ。あなたにこのまま秋山家を任せていたら秋山家は遠くない未来、没落するに決まっている。秋山家は直接、間接を含めて数千人の生活を支えているのよ?秋山家の問題はアナタだけの問題ではないわ」
冷めた目で言い放つ清香。
「だから、今日この時から秋山家の跡目は私が継ぐわ。アナタは私の嫁として私に従って生きていけばいい」

「巫山戯るな、女なんかに秋山家の跡目を継がせるワケが……」

「私は男よ?女はアナタ。アナタ、昼に言ってたわよね?女は家で大人しくしてればいいと?えぇ、全くその通りね。これからは全てを私に任せて女のアナタは、男の私のやる事を出しゃばったりせずに見ていなさい」
薄く微笑む清香。 

その時、清香は気づいていなかった。妙に自分の心がざわつき高揚している事に。必死な顔で睨みつける俊彦が心を高ぶらせ、興奮させていく……

「そんな事が許されるか!早く元に戻すんだ!親父だって許さないぞ!」

「旦那様がくれたんですよ。その入れ替わりの薬を?本当はアナタを廃嫡にして秋山家から放逐する事も考えておられたんだけど、この方法だと優秀な私が秋山家を継いで、あなたもその権力を行使する事を封じられた形で秋山家に居る事が出来る、名案よね?」

「親父が?」
「全てを私の判断に任せるそうですよ?まぁ、泣いて謝って、心を入れ替えて反省すると言うのなら考え直してあげない事も……」

「ふざけんな、誰がお前なんかに謝るか!」
得意げな清香の言葉を俊明の怒号が遮る。

「ほ、ほう?反省はしないと?元に戻りたくはないと?」
頬を少し痙攣させながら、怒りを抑えて冷静を装った清香が問いかける。

「戻りたいに決まっているだろ!さっさと元に戻せ!」
「……今までの事を反省はしないが、元には戻せ?どれだけ都合のいい事を言ってるの?」
顔を伏せて呟く様に問う清香。

「うるさい!」
興奮した俊明が怒鳴る。

「ふ、ふふふ、ふふふふふ。この薬を使うとね?何度でも入れ替えはできるの?でも、この薬が効かなくなる条件もあるのよ?」
そう言って小瓶に入れた薬を見せる清香。

「それをよこせ!」
俊明の手が薬瓶に伸びる。その手をがっちりと掴み挙げる清香。

「だ〜め。さすが男性よね?力が強いわ。どう?か弱くなった俊彦には逃げられないでしょ?それで話の続きだけどね。処女じゃない女性にはこの薬は効かないのよ?どう?処女を失ってみる?」
そう言って、ニヤリと笑って清香の姿をした俊明を引き寄せる清香。

「う、うわぁ!や、やめろ!ばか!冗談だろ?」
必死に腕を振りほどこうと暴れる俊彦。

「薬の効果の話は本当よ?どう試してみる?そう言えば、昼間言ってたわよね?この年齢になっても身体を許さないとは何時代の女だって?そうね。私もそう思うわ。いい機会だから私に処女を捧げて見る?」

「やめろ!バカ!放せ!」
必死に抵抗する俊彦。

「さっきから罵倒ばっかりしてるけど、他に言う事があるでしょ?ほら、今までのことを振り返ってみて?」
清香が楽しそうに俊彦に反省を促す。

「うるさい!誰がお前なんかに謝るか!俺は何も悪いこと何かしてない!」
無我夢中で放った言葉だった。冷静な時で有ればもう少し言葉も選べただろう……

「…………」
それまで陽気だった清香が無言で俊彦の腕を放し、ベッドに突き飛ばす。

「こ、このバカヂカラが……」
俊彦が掴まれて腕をさすりながら毒づく。

「何も悪いことをしていない?いいでしょう」『ゆっくりと服を脱ぎなさい』
清香が呟く。

「え?」
気が付くと俊彦はいつの間にか着ているスーツのボタンに手を掛けていた。

「まだ説明してなかったけど、この薬にはもう一つ効力があるのよ?」
清香が怒りを抑えた声で顔を下げたまま告げる。

「なに?」
上半身のスーツを床に落とし、すでにブラウスのボタンを外しに掛かっている俊彦。

「それはね。"支配の力"。薬を飲ませた時に唱える呪文次第で、二人の間に絶対服従の関係を結ぶ事が出来るの。それを結ばれた者は強い想いを込めて放った言葉に逆らう事ができなくなるの。今の俊彦のように」

「ば、ばかな……」
呆然とそう呟く俊彦の手はすでにスカートのホックを外し、残るはブラとショーツとストッキングだけの姿になっていた。

「ちゃんと反省さえすれば、何日かはそのままで女の苦労だけを味あわせて元に戻してあげようと思っていたんだけど…… 元に戻す必要は無いようね?」

全裸で立ちつくす俊彦を見てニヤリと笑う清香。

「じょ、冗談じゃねぇ!」
真っ裸のまま、この小さな離れの家から飛び出そうとする俊彦の背に声が襲う。

『あなたはこの離れから何があっても絶対に出られない!』
その瞬間、この小さな家は俊彦を閉じこめる牢獄となる。

玄関の戸を開けようとする俊彦の手がどうしても動かない。

ガタガタと戸を揺することは出来るが、引くことがどうしても出来ない俊彦の背に清香がゆっくりと近づく。
『部屋に戻って、ベッドに横になっていなさい』

俊彦の身体が意思に逆らって、清香の横を通り過ぎると今まで居た部屋に戻っていく。
俊彦も気づかなかった。清香の目が熱に浮かされた様に異常に興奮に潤んでいることに。

部屋に戻った俊彦はベッドの上に上がると身体を横たえると、それ以上は身体が動かなくなる。

「ま、まて!清香。冗談だろう?これはお前の身体だぞ?いいのか?こんな事で身体を汚してしまって……」
部屋に戻ってきた清香に横たわったまま、震える声で話しかける俊彦。

「あはは、それは私の身体じゃないわ。もう、あなたの身体よ?それに身体を捧げるのはあなたの大切な婚約者にだから問題はないわよ。私は、あなたの大切な未来の御主人様よ」
異常な笑顔で微笑む清香。 すでに手は自分のワイシャツのボタンに掛かっている。

すでに清香の心の中は異常な興奮に包まれていた。涙目で見上げるさっきまでの自分の顔が異常な程の加虐性を高ぶらせる。泣き叫ぶ自分を自分の物にしたい。気の強そうな顔が涙目になっている事に興奮する。どんな手段を使っても我が物にしたい。その身体に自分の印を刻印したい!目の前の女を支配したい。

さっきまで女の身体であったにも関わらず、違和感なく男としての暴力的な性衝動を受け入れている事に何の疑問も抱かない……

「な、なぁ?戻れなくなるってのはタダの脅しだろ?そうだろ?」
「さぁ?やってみてのお楽しみって事にしておくか?その方が希望は持てるだろ?」
ワイシャツを脱ぎ捨て上半身裸になる清香。

「それじゃ。やっぱり冗談……」
「ただし、後の絶望が深くなることは保証するけどな。ははは」
そう言ってニヤリと笑って、ズボンのベルトに手を掛ける清香。

「いやぁ!ちょ、ちょっと待てって!反省した!本当に反省した!これからは心を入れ替えてお前の指示に従うから!だから、ちょっと待てって!」
清香が本気である事を認めた俊彦がトランクス一枚の姿になった清香に必死に謝る。

「"お前"? お前、女の癖に男の俺になんて口を聞いてるんだ?まだ、現実がわかってないみたいだな?」
そう言いながらベッドの横に腰を下ろして横たわる俊彦の胸をゆっくりとなで回す。

「ひゃ、イヤ……、アナタ!アナタの指示に従いますから!だから考え直せ、いや、考え直して下さい」
「言い直した言うことは自分が女であることを認めたんだな?それじゃ素直に身体を開いてもらおうか?」
ふふふ、と笑いながら俊彦の股間に空いた手を宛う清香。

「あ、あぁん、や、やめろ!わ、わかってるのか?俺が元に戻れなくなるって事はお前も元に戻れなくなるってことだぞ?ひ。ひぃ……」

清香の愛撫に耐えながら必死に説得する俊彦。だが、換魂丹の効果ですでに清香の理性が飛んでしまっていて正常な判断能力が落ちてしまっているとは夢にも思わなかった。

「ふふふ、さぁ、清香。準備は出来たみたいだな?それでも身体は処女だから最初はちょっと痛いかも知れないが我慢しろよ?まぁ、愛する男を受け入れる喜びの前には耐えられるだろう?」
そう言いながら、全身を赤く火照らせた俊彦の横たわるベッドの上にのる清香。

俊彦が必死になって手足を動かして抵抗する。
清香の肩を押しのけ、殴りつけ。足で膝を押しのけ蹴り飛ばす。やがて、俊彦の足が清香の腰に当たり、蹴り飛ばす様に清香の身体を一時的に遠ざける。

「なんだ清香?まだ抵抗をするのか?仕方がないな?」『足を大きく広げて、俺を迎え入れる準備をしろ』
清香の"力有る言葉"に従い清香に向かって女性の大事な部分をさらけ出す俊彦。

「やめろ、わかってるのか!戻れなくなるんだぞ!お前は一生、男のままでいいのか!」
聞く耳も持たず、清香はすでに濡れぼそった俊彦の股間にペニスをあてがう。

「ふふふ、それでは清香の"初めて"を頂くとするか」
「やめろぉ!俺は清香じゃねぇ!清香はお前だろ!止めないと後で絶対に後悔するぞ!ひぎぃ!」
俊彦の抵抗も虚しく、清香の握った逸物が俊明の中に侵入を開始する。

「さすがは処女。清香の中はキツメだなぁ。かなり準備運動はしたのに」
楽しげに無抵抗の俊彦を攻め、侵入を計る清香。

「うっ……」
歯を食いしばって、涙目で無言で耐える俊彦。

「ほぉら?奥までちゃんと入ったぞ?どうだ?わかるか?」
「バカ野郎……入れたのならもうさっさと出せよ!これで気が済んだだろ!」
股間の引き連れる様な痛さに耐えて清香に訴える俊彦。

「あぁ、そうだよな。入れたら出すのが普通だよな?清香も覚悟は出来たんだ?」
そう言いながら、腰を動かす清香。

「ひ、ひぃぃ!痛い!痛いぞ、バカ!出すんじゃないのか!あ、あぁ!」
痛さに耐えながら清香に抗議する俊彦。

「そうだよ?入れたら出さなくっちゃな?たぁっぷりと中にな。清香、これで妊娠したら出来ちゃった結婚になるな」
嬉しそうに笑いながら、腰を徐々に強く動かし始める清香。

「中に……出す?ひぃぃ、や、やめろぉ!意味が違う!俺は妊娠なんかしたくねぇ!出すな!あぁん、あ、あん……」
次第に声に甘さが混じってくる俊彦と、女を支配する悦びに目覚めだした清香。


          * * *


俊彦を凌辱しまくり今までのストレスを発散して満足した清香と、生まれて初めての、男には経験が出来ない筈の経験に力尽きた俊彦が共にベッドに寝ている。

「あぁ、こんなに気分がいいのは生まれて初めてよねぇ」
頭の下で腕を組んで天井を見上げる清香。

「……よねぇ、ってお前。わかってるのか?」
清香とは逆に、俊彦は力尽きてベッドに寝そべって、ぼうっと枕を見ている。

「あぁ?なにが?」
「なにが、じゃねぇよ。本当に俺はもう元に戻れないのか?処女じゃなくなると術が効かないと言うのは本当なのか?」

「あっ!」
ここに来て冷静さを取り戻した清香が初めて事態の深刻さを悟る。
(しまった!ちょっと俊彦を懲らしめるつもりが…… 旦那様に注意されていたのに…… まさか、これほどとは…… 全く我を忘れていた……)
唖然とする清香。

「お前…… 今、あっ、て言ったよな?どうするんだよ?俺の身体を返せよ!どう責任を取るつもりだよ!」

「あ、あははは、なにを言ってるんだ?お前は清香だろ?夕べ、散々教えたじゃないか?今日からは俺が秋山家の跡取り、秋山俊彦だと?夕べ、その身体にたっぷりとその立場を教え込んでやったのにまだ諦めてないのか?」

「なにを虚勢を張ってるんだ?今、自分自身で驚いていただろ?」
俊彦が寝そべっていた身体を清香の方に向ける。

「い〜や、全ては俺の計算ずくだ。お前はもう俺の婚約者、清香だ。なんだ?まだ自分の新しい立場をわかっていないようだな?」
「居直りやがった、このバカ!嘘を吐くな!返せよ!俺の身体!この始末をどう付ける気だ!」

「清香はまだ、自分の立場に対する自覚がない様だな?お仕置きだ」『そこで四つん這いになって、尻をこちらに向けて俺を迎え入れる準備をしろ』

「な!止めろ!止めさせろ、バカ」
俊彦の抵抗も虚しく、俊明はベッドの上で四つん這いになると自分の指を股間に宛ってクチュクチュと清香を迎え入れる為に股間を潤していく。

「止めさせろ?バカ?女の癖に男に逆らうとは何様のつもり?」
腕を組んで俊彦を睨みつける清香。

その間も俊彦は清香を迎える為の儀式を続ける、股間からはまだ昨日の名残が滴り落ちる。
「はぅん、はぁはぁ、あぁん、や、め……させろ。はぁはぁ……」

「どうも新生清香ちゃんは自分の立場というものがわかってないようだから、自分の立場がよくわかる体位で自分を自覚してもらいましょうか?」
そう言いながら、背後から俊彦の股間をなで上げる清香。

「ひゃいぃ!やめろ、ばか!」
「夕べから人のことを馬鹿馬鹿と大安売りしてくれるわね?躾の意味も込めてあげる」
そう言って笑うと清香は尻を上げたままの俊彦の股間に向けて、今の上下関係を刻み込む様に後ろから攻め立てる。

「ひゃぁぁん、あ、あ、あぁん、あん、あん、あ、あん」
リズミカルな俊彦の喘ぎ声が離れに満ちていく。


          * * *


「それじゃ、俺はもう行くから。朝飯は後で持ってきてやる。あと、身体が汗くさくなるから風呂には入っておけよ?お湯は先に俺が入って落とさないでおいてあるからな?」
服を着なおした清香がベッドの上で力尽きている俊彦に声を掛けて出て行く。

「……くそう、清香の奴、本当に俺の立場を乗っ取る気か?  ……風呂か。くそぉ、身体がだりぃなぁ」
力無くそう呟きながら俊彦が仰向けに寝返りを打つ。

清香の"支配の命令"により、今や脱獄不能の牢獄となった離れ。風呂とトイレは備わっているので生活に不自由はないが、完全に自由を奪われた俊彦だった。

          ・

一方、離れの玄関を余裕顔で出た清香は本館に向かってダッシュ。

玄関の扉を開けて晴彦を捜す。
「旦那様、旦那様、旦那様ぁ〜!」

書斎の扉を開けるとそこに晴彦がいた。

「ん?なんだ、俊彦か?朝っぱらから騒々しいな?なんの用だ?」
目を通していた書類から顔を上げて闖入者を見る晴彦。

「確認ですが、あの薬は本当に処女じゃなくなると効かなくなるんですか?」
清香が晴彦に尋ねる。

「ひょっとして、清香か?本当に入れ替われたのか?」
「はい、そうなんですが、ちょっと調子に乗ってというか、売り言葉というか、薬効のせいというか……」

「性交渉を持ってしまったのか?だから、慎重にと言っておいただろう?」
「本当にあれほどの影響力があるとは思ってなかったんです!話をしてるウチにムラムラと……、気が付いたときには後の祭りでした」
複雑な顔の清香。

「元に戻る方法か…… もう片方の換魂丹なら可能なのだが……」
「まだ、他の薬があるんですか?」

「有るんじゃなくて、有った筈なのだが、行方がわからんのだよ。少量だが、残っていた筈なんだが蔵の中を全く整頓せずにどんどん詰め込んでいくだろう?見つかれば、元に戻れる可能性もあるが……」

「戻れるんですか?」
「換魂丹のオリジナルが見つかればな。田中に探させてみるが。 ……やっぱり戻りたいだろうな」
心配そうに清香に尋ねる晴彦。

「いいえ、全然、全く、これっぽっちも。男の人っていいですよね、色々と楽で。ただ、俊彦が元に戻りたがってるので、戻る手段があるのか確認を、と」
にっこりと笑ってそう言い放つ清香。

「は?」
「いえ、本当は、元に戻れることを条件にちらつかせて散々嫌がらせをするつもりが初日から、その手段を失ってしまったのでどうしようかと。あははは」

「いや、いいのか?自分の身体を他人に言いようにされるんだぞ?我慢できるのか?」
呆れた様な目で清香を見る晴彦。

「まぁ、中身は俊彦ですから問題はありません。他の男性に私の身体を使われるのは生理的に受け付けませんけど、俊彦なら」
そう言ってあっけらかんと笑う清香。

「それにどうしようか迷っていたけど、腹を決めました。 こうなったら、このまま私が俊彦に成りきって、あのバカを嫁にもらいます。いいんですよね?」
笑って尋ねる清香。

「いや、まぁ秋山家としては大歓迎なのだが……」
さっぱりした清香の言葉に返事に詰まる晴彦。

「わかりました。でも一応、薬の方は探しておいてもらえますか?」
「あ、あぁ、わかった」

「それじゃ、私は俊彦の説得に戻ります」
そう言って清香が書斎を出て行く。

「……本気だと思うか?」
晴彦がそばに無言で控えている執事に尋ねる。

「さぁ?清香さんも変わった人ですから。でも、楽しそうでしたね。昨日までのトゲトゲした感じが取れていました。よほど良いストレスの発散が出来たのでしょう」
静かに答える執事。

「まぁ、本人が良いというなら良いが…… 田中、聞いた通りだ。換魂丹のオリジナルを見つけ出しておいてやってくれ」
「わかりました」


          * * *


「は〜い、清香さん。朝ご飯を持ってきてあげましたよ」
離れの玄関を開けて朝食を持った清香が笑顔で入ってくる。

「もう昼前だぞ?何をしていたんだ!」
俊彦が布団の中から清香に怒鳴る。

「ちょっと用事があって外にな…… なんでまだ裸なんだ?風呂に入らなかったのか?」
小さなガラステーブルの上に朝食の乗ったお盆を置く清香。

「入った!だが、着る服が無いだろ!」

「はぁ?あるだろ?当分は着る物に困らない程度の下着と服をそこの衣装ケースに入れて持ってきてあるんだ。気が付かなかったワケはないだろ?」
「全部、女物じゃないか!」

「当たり前だ。清香は女の子なんだから女物だろ?」
そう言いながら、衣装箱を開けて着替えを取り出す清香。

「…………」
それを黙って睨んでいる俊彦。

「え〜と、これとこれ……、ショーツとブラはこれでいいな。ほら、着替えを出してやったからさっさと服を着て朝食を食え」

「朝飯は食うけど、着替えは断る」
そう言って、毛布を身体に巻いたままベッドから降りる俊彦。

『服を着ろ、清香』
「あ、バカ……」
清香の命令に俊彦の身体が勝手に反応する。

ショーツに足を通し、豊かな胸にブラを装着する俊彦。
「へぇ?ブラを付けたことがなくってもちゃんと装着できるんだ?身体が覚えてるのかな?」

「知るか!それより清香、俺にこんな恥をかかせて覚えてろよ?」
フリルの付いた白いブラウスを着て、淡いブルーのミニのタイトを穿く俊彦。

「どうも清香は状況がわかってない様だな?女が女物を着ることは恥じゃないだろ?これからは一生、女物を着るんだぞ?俺の妻としてな」

「巫山戯るな!さっさと俺たちの身体を元に戻せ!」
そう言いながらテーブルの前にドッカと座って箸を取る俊彦。

「こらこら、女性が胡座を組んで食事をするんじゃない。スカートが捲れ上がって下着が見えるだろ?これも命令して欲しいのか?」

「…… ふん!」
箸を持ったまま一瞬考えた俊彦が、座り直して茶碗を手に取ってご飯を口に運ぶ。

「それとな。一応、旦那様に確認を取ってみたけどもう絶対に元には戻れないそうだ。よかったな、これからは家の中で"奥様"をしていればいいんだからな」

「ぶっ、ごほっ、ごほっ!むぁ、まじか!本当に戻れないのか!」
口に入れたご飯に咽せながら聞き返す俊彦。

「あぁ、本当だ。もう一生、死ぬまで俺は秋山俊彦で、お前は冬木清香だ」
口の端を上げて笑いながら俊彦に告げる。

「……ど、どう責任を取るんだよ!人の身体を勝手に入れ替えて元に戻れないだと!?どう責任を取ってくれるんだよ!」
箸をテーブルに置いて清香を糾弾する俊彦。

「うんうん、俺もそれは考えた。俺も男だ、責任はちゃんと取るよ」
真面目そうな顔で俊彦の言葉にうなずきながらスーツのポケットから取り出した書類を伸ばしてテーブルの空いた所に置く清香。

「なんだ、これは?」
俊彦が手を伸ばしてその紙を取る。

「まぁ、俺からの始末書だ。名前はすでに書き込んである。お前もそこにサインしてくれ。あ、名前を間違うなよ?冬木清香だからな?」

書類に目を通した俊彦の手が震える。
「ふ、ふ、巫山戯るなぁぁぁぁ!!!これは婚姻届じゃないか!」
そう言うが早いか、立ち上がって婚姻届をビリビリに引き裂く俊彦。

「あ〜あ、何をするんだよ?せっかく、朝一番で役所から取ってきたのに。男と女の間で責任を取ると言えばこれだろ?」
屑籠に投げ捨てられた婚姻届の名残を見ながら清香がため息をつく。

「お前、何を考えてんだ?俺がなんで配偶者の欄に名前を書かなくちゃならないんだ?」

「それはお前が俺の妻になるからだろ?夕べから何度も言わせるなよ?お前はどうしようもないヤツだけど、俺との約束は守ってくれるのが唯一の長所だからな。自らの手で婚姻届にサインするという事はお前が俺の妻を自発的にやっていく事に納得した事になるから。だから、これだけは"支配"を使わずに自分でサインをさせないと意味がないし」

「……わかった、真面目に話そう。本気か?」
テーブルの前に座りなおして、冷静に清香に問いかける俊彦。

清香も俊彦の向かいに座る。

「本気だ。自分でもわかってるんだろう? お前に商才は全くない、人に寄っては"運がなかっただけ"という人もいるが、それは間違いだ。殆どの場合、予兆は有ったがお前がそれに気づかなかっただけだ。俺も旦那様もそれに気づいてないと思うか? なぁ?本当に俺の嫁になれよ?後のことは秋山家もひっくるめて、全て俺が引き受けてやるから」
清香が優しい声で俊彦の顔を見て語りかける。

「…………」
「…………」

「巫山戯んな…… 俺は秋山家の跡取り、秋山俊彦だ。女に責任を押しつけてのうのうと暮らせるか……しかも、お前の妻だと? 巫山戯るな…… 巫山戯……」
小さく吐き捨てるように口を開く俊彦。

「でも、お前も自分がわかってるからお義母さんが亡くなってから益々焦りが講じて、プレッシャーから放蕩に走ったんだろ?お前の気持ちはつき合いが長いからわかってるつもりだ」

「何がわかるんだよ!"女の癖に"出しゃばるんじゃねぇよ!何が俺の代わりだ!"女"に俺の代わりが務まるかよ!"女"に俺の気持ちがわかるか!」
この期に及んでまだ"女の癖に"と口走ってしまった俊彦に清香の口元が引きつる。


「そうか、そうか、清香はまだ自分の立場がわかっていないようだな?女の癖に?どっちが女だ?わかった。
お前が納得しないなら俺がこれから根気よく納得させてやる。お前が女で、お前の幸せは俺の嫁になる事だと心から思うまでな」『服を脱いでもう一度ベッドに上がれ!』

「やめろ!バカ!俺は男だ!女なんかの命令を聞けるか!」
口にした言葉と裏腹に身体は服を脱ぎ始める。

「あぁ、お前は男で、秋山俊彦だ。好きなだけそう言っていろ、思っていろ。この術は身体を自由に出来るが、精神まで自由に変えられないのが欠点だな。でも。安心しろ。俺は、お前が心から自分は女で俺の妻になる冬木清香だと納得するまでその身体を説得してやる!好きなだけ抗え!絶対に後悔をしないくらい抵抗しろ!俺がその全てを書き換えてやるよ!」

そう言って、ニヤリと笑いながら自分も服を脱ぎ始める清香。


「巫山戯るな!俺は秋山家の後継者としてちゃんとやっていける!」
全裸になり、胸と股間を清香の目から隠して叫ぶ俊彦。

「安心しろ、お前には秋山家の後継者として出来る新しい仕事がある。その身体で、次の新しい秋山家の後継ぎを産むという仕事がな。その胎内に新しい命を育み、その豊満な胸からその子に栄養を分け与える事がお前の新たな仕事だ」

今までの鬱憤を晴らすかの様にサドっ気の混じった顔で楽しそうに俊彦に迫る清香。


「それはお前の仕事だろ!俺の身体を返せ!」
涙目で、迫る清香から身体を後ずさらせる俊彦。

「まぁまぁ、怖がるなよ?これからたっぷりとその身体に俺の妻としての心得を叩き込んでやるからな?女性としての立ち居振る舞い、お化粧の仕方、その身体に強制的に教え込んでやるから、精神は後から付いてくればいい。お前は"女"なんだから"男"の俺に逆らわずについてこい。その代わり、これからのお前の人生は俺が守ってやる」
笑いながら清香が俊彦に迫る。


互いに相手を愛し合っている筈なのに、同じような性格が故に強情に意地を張り合って行き違う二人……
素直に本心を口にできない女と、過剰な責任感から人に頼れない男…… 

そんな男女の逆転人生がここから始まる


"秋山清香"が「秋山俊彦の裏に清香あり」「動の俊彦、静の清香」と言われる程、俊彦のバックアップに意外な才能を開花させるのはその暫く後の事であった。



               E N D



半月後。

「お前な?最近、素直に身体を開くようになってないか?」
「巫山戯るな。男に凌辱されることを素直に受け入れる男がいるか!てめぇが命令で強制するから身体が勝手に動くんだろ!」

「俺、フェラを命令したっけか?」
「このバカ、自分が命令したことも自覚してねぇのかよ!好きこのんで男がこんな屈辱的な事ができるか!」

「……だよな? で、どうだ?もうそろそろ俺の嫁になる気には?」
「ならねぇよ!ぜってぇになるわけがないから、もう諦めろ!毎日、毎日、人の事をしつこく犯し続けやがって!お前だって、体力が持つわけないだろ!諦めろ!」

「い〜や、こんなの全く苦にならないな。昼間はお前を犯す為に体力を温存しているからな。お前の方が限界が来てるだろ」
「ふん!それは俺だって同じだ!お前に絶対に屈服するわけにはいかないからな!」

「そうか、だったらもっと真摯に説得してやらないとな?」『俺のペニスを自分から挿入して腰を振れ』
「だ、誰がお前の言う事なんか…… あ、あん♪い、いい! ……絶対に くぅん♪ ……聞かないからな」

本当は昼間の俊彦としての活動で疲れて果てて動くのも億劫な清香の上に乗り、嫌がりながらも清香のペニスを自分の股間に挿入しながらうっとりと腰を振る俊彦。

「ほら、頑張って腰を振れよ。床上手は妻としてのつとめだぞ?夫への御奉仕に励めよ。あはは……」
「誰が床上手だ!さっさと俺の身体を…… はぁん♪ か、返せよぉ♪」

…………意地を張り続ける二人。














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