「秋山家の陰謀 番外編 継ぐ者たち、騒動する日常」



                   継ぐ者達 「発端」

「アキ、ちょっといい?」
「なに、青葉?」

夏休みの初日、家の食堂で遅い朝食を取っていると幼馴染みの青葉が声を掛けてくる。
青葉はウチの別棟に住み込んでいる社員の家族で昔から一家で家族同然の付き合いをしている。


「あのさ、相談があるんだけど…… って、何を嫌そうな顔をしてんのよ?」
「青葉がそうやってニコニコと声を掛けてくるときは高確率でロクな事はないからな」

「イヤイヤイヤ、何をおっしゃる清秋さん。私がいつ迷惑を掛けるような事をしたとおっしゃいますやら」
笑いながら青葉は僕にお茶を入れて持ってくる。

「いつと言われれば、一年365日殆どだけど…… で、相談ってなに?話だけなら聞くよ?」
僕はそう言って食後のお茶を飲む。

「えへへ〜、あのね?体を交換しない?」

ぶふっ!げふ!

お茶が喉の変なところに入ってむせ込む。

「はいぃ?!なんて?」
「だからぁ、体を交換しませんか?って」

「青葉って時々意味不明な事を言うのは知っていたが……」

「いや、だからコレ」
そう言ってテーブルの前に小さな薬瓶のような物を置く。 中にはなにやら小さな丸薬が何粒か入っているようだ。

「なに、これ?」
「換魂丹、さっき、お爺ちゃんにもらった。コレを使うと体が入れ替えられるんだって」

「俊彦爺ちゃんに?またおかしな物を渡すなぁ、つっか、また爺ちゃんの冗談だろ?担がれてんだよ、青葉」
「そんな事ないって! お爺ちゃん言ってたもの、コレは本当に効き目があって清香婆ちゃんも双葉母さんもこれで清彦父さんたちと体を入れ替えたんだ、って」

「ンなバカな」
僕の一蹴の一言に青葉がふくれる。

「信じてないなら、試しにやってみてもいいじゃない?何も起こらないと言うのなら何の問題も
ないでしょ?」
青葉の言葉に少し考える。もし、万一、お爺ちゃんが青葉に言った事が本当だったら……

「なぁ、青葉?お爺ちゃん他に何かこの薬について言ってなかった? 入れ替わったら戻れないとか?」
「ん、とね?薬は何度でも使えるから戻れるって。 ただ、女の子は処女を失うと薬が効かなくなるから戻れなくなるよ、って」

「却下!」
僕は即答。

「なんでよう!薬が効いて体が入れ替わっても元に戻れるんだからいいじゃない?」
「でも、青葉。 もし本当に入れ替わったら速攻で僕を襲おうと考えてない?そのまま僕の体を盗っちゃおうって?」

「うむむ、さすがは幼馴染み。こちらの考えはお見通しか?」
「昔から、青葉は男の体に憧れてたのは承知済みだからね、そんな莫迦な事で僕の体はあげられません、諦めてその怪しげな薬はお爺ちゃんに返しておいで」

しかし、青葉はイタズラっぽく笑いながら言う。

「ふっふっふっ、アキくん、全ては手遅れなのだよ、この薬はすでにそのお茶の中に……」
と、僕の飲んでいた湯飲みを指さす。

「な、なに?おい、こら青葉!冗談だよな?」
しかし、それが冗談ではないらしい事は襲い来る眠気が物語っていた。

          * * *

「いやぁ、すごいわ、本当に入れ替われるとは思わなかった。すっかりアキの体よね、これ?」
気が付けば興奮状態でくるくる回る僕の体が目の前に……

そして、僕の体には胸に二つの重りと股間の喪失感があった。 ちなみにミニスカートで素足を晒している感じが大変心許ない。

「はい、はい、薬は本物でした。わかった。わかったからもう元に戻ろうね、青葉?」
「なに言ってんのよ?こんな変わった体験は滅多にできないわよ?アキも少しは楽しもうと思わないの?」

「思わないよ!さっきの薬瓶はどこにやった?さっさと出せよ?」
「出せよ、と言いながらなんでテーブルの反対側に逃げるのかな、アキは?」

「そう言いながら、なんで青葉はテーブルを回り込んでくるのかな?」
「知りたい?」
そう言いながら青葉はイタズラっぽく笑う。

「知りたくない!だから薬瓶!」
薬瓶を要求しつつ青葉と一定間隔を取ろうとする僕。

テーブルを挟んでじりじりと睨み合う僕たち。
まさか、本当に青葉のヤツ僕を襲う気じゃないだろうな?

「アキちゃ〜ん、さぁ、こっちにいらっしゃ〜い」
猫撫で声でテーブルの向こうからおいでおいでをする青葉。

「ばか言ってないで!さっさと体を戻せよ!」
「ほぉら、怖くなぁい、痛くしないからこっちにいらっしゃ〜い」

「何を痛くしないんだよ?!怖い事を言うな!」
テーブルを挟んでゆっくりと牽制しあう僕と青葉。

「何を痛くしないって、年頃の女の子に言わせないでよ、アキったら。ふふふ」
「…………」

「大丈夫、アキは私に全てを任せて天井のシャンデリアの飾りの数でも数えてて。その間に全て終わらせてあ・げ・る」
怖ぇ!マジで怖ぇ!青葉のヤツ本気か?本気で俺の処女を奪う気か?


その時、食堂の扉が開いて誰かが入ってきた。

「あらあら、何か楽しそうね?」
入ってきたのは清香婆ちゃんだった。僕は清香婆ちゃんに駆け寄る。

「清香婆ちゃん!助けて!」
清香婆ちゃんはちょっと驚いたような目で僕を見る。

「あら、どうしたの?青葉ちゃん?アキちゃんと喧嘩でもしたの?」
「違うよ! 信じられないかもしれないけど、僕が清秋なんだよ! 青葉に体を盗られちゃったんだよ!」
そう言って、青葉を指さす。

指さした先の青葉はというと、ありゃ〜と言うような顔をして笑っている。本当にこの娘は!

「え?清秋?え?青葉ちゃん? ……ひょっとして、爺ちゃんから何か渡された?」
「知ってるの!?婆ちゃん! そうだよ、青葉のヤツ、爺ちゃんから変な薬をもらって僕のお茶に盛ったんだよ! そしたら体が入れ替わっちゃって!」

今度は清香婆ちゃんを間に挟んで牽制しあう僕と青葉。

「ふふふ、そうなんです。 さぁ、アキちゃん、だから最後の仕上げをしましょうね〜、こっちにいらっしゃ〜い」
清香婆ちゃんの前でも悪びれずに僕に声を掛ける青葉。
まぁ、この青葉のさっぱりしすぎる性格が僕は好きなんだけど、こういう場合は本当にやっかいだよな。

「あれ?」
そうやってると清香婆ちゃんが首をかしげる。

「どうしたの?ばあちゃん?とにかく青葉をなんとかしてよ」
「青葉ちゃん?ちょっとアキに何か命令してみて?強い感じで」

青葉がワケが分からないといった顔をするが、すぐに僕に向かって命令をする。
「アキ!こっちにいらっしゃい!」

僕は反発して清香婆ちゃんの陰に隠れる。
「ヤだよ!行ったら青葉、僕を襲うだろ!」

「あぁ、そう言う事。 さすがに爺さんも”支配”を付加する方の呪文は教えなかったんだ? 
さすがに青葉ちゃんに支配権を与えると大変なことになっちゃいそうだもんね」
何かを納得したように頷く清香婆ちゃん。僕はそんな清香婆ちゃんの声に質問する。

「なに、支配権って?まだなにかあるの?」
「えっとね、本当ならあの薬はね、入れ替わるときの呪文次第で相手に言う事を聞かせる事ができるの。 今回、青葉ちゃんが教えてもらった呪文はそれが付いてないみたいね」

「あ、青葉に支配される!? そ、そんな怖ろしい効果が!爺ちゃんの一片の良心に感謝したほうがいいんだろうか?」
「ちっ!そんな便利な機能があるなら、爺ちゃんそっちの方を教えてくれたらよかったのに」
とんでもない事をつぶやく青葉。

「そうすると、青葉の言ってる事も本当? 処女を奪われると薬が効かなくなるって言ってるんだけど?」
青葉の方から目を離さずに婆ちゃんに質問する。
「えぇ、それは本当。 その薬は非処女には効かなくなるから、元に戻るには男の子に体を許しちゃダメよ」

「いや、男と寝る趣味はないから。で、戻る為には同じ事をすればいいの?」
「そう、今、青葉ちゃんの持ってるあの薬を青葉ちゃんに飲ませるの」

青葉はその薬の小瓶を右手に持って、左手でおいでおいでをする。

「ね、婆ちゃん。青葉、本気で僕を襲うと思う?」
薬の瓶を思い切って取りに行こうかと迷いながら清香婆ちゃんに意見を求める。

「う〜ん、微妙なところね。 でも、あの薬には催淫効果みたいな物があって、性衝動が抑えにくくなるから意思に関係なく襲ってくると思うわよ?」
そう言って、楽しそうに笑う。 え?なんでそこで笑えちゃうの?孫の災難だよ?

「さぁ、アキちゃん。いい子にしてたら後で可愛いお洋服を買って上げる。 お友達とプールに行くための水着も買って上げる。 それで男の子を悩殺出来るわよぉ。 だから、こっちにいらっしゃ〜い」
そう言って、ネコ撫で声で手招きする青葉。

「いや、それ”ご褒美上げる”って風に聞こえるけど、明らかにイヤガラセだよね?どちらかと言うと拷問だよね?」
そう言いながら、そぉっと、扉の方を伺う。お婆ちゃんが入ってきたときに扉は開け放たれたままだ。

「とりあえず、青葉ちゃんの魔の手をかいくぐってお薬を取り戻しましょうね。 それからでないと話が始まらないから」
「婆ちゃんは取り戻してくれないの?」
僕は藁をもすがる思いで婆ちゃんに助けを求める。

「青葉ちゃん、そのお薬をお婆ちゃんにくれない?」
「やだ!」

「アキちゃん、婆ちゃんは全力を尽くしたけど、力及ばなかったみたい。ごめんなさいね?」
は、はくじょうもの〜〜!

僕は清香婆ちゃんを盾にして、扉に尤も近づく位置に来ると全力で外に駆けだした。
「あ、逃げた!」
青葉が追いかけてくる。

          ・

逃げ先は決めてあった。 自分の部屋が一番いいんだろうけど、青葉を閉め出し損なった場合、最悪になる。
ベッドのある密室…… そこに青葉と僕の二人っきり…… 結果は考えたくもない。

そうなると、後はリビングだ。 今の時間ならまだあそこでは母さんズがお茶をしてるはず。
仕事をしている父さんズ&爺ちゃんが家にいない今、唯一の頼みの綱だ。

         ・

追いかけてくる青葉を巻いて、僕はリビングに飛び込む。
中では予想通りテーブルの上にお菓子を置いてお茶を飲んでいる母さんズがいた。


いきなり飛び込んできた僕に驚く母さん達。
「青葉!さっきから何を騒いでるの!ホントにもうこの娘は!そんな格好で走り回ったりするからスカートの裾がまくれ上がって下着が見えてるじゃない!」
若葉母さんが僕を叱る。

僕は慌ててスカートの裾を治すと、清香婆ちゃんにしたのと同じ話を母さん達に話す。
「若葉母さん、違うんだ!聞いて!」

          ・

「まぁた、あの爺さんはワケの分からないイタズラをして!」
「へぇ?秋山家にはそんなのがあるって昔、旦那が言ってたけど、本当だったんだ?双葉さんが言うなら間違いないでしょうけど、本当に清秋くんなの?」
怒る双葉母さんと驚く若葉母さん。

「そうだよ、なんとかしてよ、母さん達」
そこへ青葉がやってくる。

「あ〜!母さんズに助けを求めるとは卑怯だよ、アキ」
「何が卑怯ですか!青葉!お茶に毒を盛る方が卑怯でしょ!ちょっとこっちに来なさい!」
若葉母さんが青葉を叱る。 いや、盛られたのは毒ではないのですが…… ま、毒みたいな物か……

「え?僕は清秋だよ、ほら?ほら?」
両手を広げて体を見せつける青葉。 何をいまさら……

「何を言ってるの!さっさとその体をアキちゃんに返しなさい」
「え〜、そんなぁ、せっかくアキになれたのにぃ…… まだ何もしてないんだよ? もう少しくらい楽しませてよ?双葉母さん、ダメ?」
おっとぉ、若葉母さんがダメと見て、矛先を双葉母さんに替えやがったよ?


「う〜ん、さすがにアキの体を上げるわけにはいかないけど、暫く交換するだけならアキ次第だね。 青葉ちゃん、もうアキを襲わないと約束するなら僕は干渉しないよ?」

「襲わない、襲わない。 暫く借りるだけ。 薬のせいで襲いたくなっても理性で止めて見せます!」
「こら!薬もらってすぐに何のためらいもなくお茶に一服盛るヤツの理性が信じられるか!」

「そんな!ほら、アキ。澄んだこの目を見て?嘘を言ってる目?」
「その目は元々僕の目だ。青葉のように邪心が無いから澄んでいて当たり前!」
「うわっ、アキ、自分でそういう事を言う?」

「若葉母さん、何とか言ってやって下さい」
僕は最後の頼みの綱、若葉母さんを頼る。

「ほら、青葉。アキちゃん嫌がってるじゃない。さっさと返して上げなさい」

「でも、ほら…… 母さん言ってたじゃない? 家のお手伝いを積極的にしてくれる娘が欲しかった、って?」
「それはアンタが何も家のお手伝いをしないからでしょ?それとこれとは話が違います」

「でもね、私がアキの体を借りてる間は私の体に入ったアキがウチに来るんだよ?」
えぇ?そうなのか? 僕が青葉の部屋で生活しなくちゃいけないのか? あれ?若葉母さん、何か考え込んでる?

青葉に説教していた若葉母さんが僕の方を振り向く。
「ねぇ、アキちゃん?ちょっとクイズなんだけどね?」
「はい?」

「ここに二人の娘が居るの。二人とも学業は学校で1,2を争う優秀さで文句なし。 ただし、片方の娘は服は脱いだら脱ぎっぱなし、洗濯すら自分でしない、料理をすれば焼け焦げだらけ、部屋は散らかり放題。 もう片方の娘は家事全般なんでもこなして、とくに料理はとても美味しいの。 その上、部屋はいつもキチンと片づいていてゴミ一つ無い環境が保たれているの。 さて、普通のお母さんはどっちの娘と暮らしたいと思うでしょう?」

えっと…… 気持ちは分からなくもないです、若葉母さん。 でも、いまはあえて……
僕は恐る恐る答える。

「えっと、前者の方が生活に張りが出ていいんじゃないかな〜〜?って……」
「ブッ、ブーーー、残念! ゴメンなさい、アキちゃん。 クイズに不正解だったアキちゃんを若葉母さんは守る事ができないの! 力になれなくてごめんね」

顔が笑ってますよ?若葉母さん?
多分、後者を選んでも『でしょ〜?アキちゃんも賛成してくれるわよね〜?』とか、言ったんだろうなぁ。



「ね?満場一致。いいでしょう、アキ?襲ったりしないから暫くアキにさせてよ?」
ニッコリと微笑む青葉。うぅ、四面楚歌?

「……暫くってどれくらい?明日まで?」
「そんなの短すぎるよ!一年?」

「ざけんな!一年も貸せるか!」
「そうだね、さすがに一年は長すぎるね、どう?夏休みの間だけって?」

「それでも充分長すぎだよ! 確かに学校に行く日はあまり無いから支障はないかも知れないけど、友達と遊びに行ったりする約束はしてあるんだから」

「それは大丈夫。 アキの友達は私の友達でもあるんだし、私の友達もアキの友達だから一緒に行動しても何の問題も無し!」

あっさり、却下ですか。 そうだよね〜、僕が遊びに行くと何故かいつも青葉も一緒に付いてきてるんだから……
青葉が遊びに行くときは僕も引っ張って行かれるし…… 
昔から付いたあだ名が「新婚夫婦」…… 
こういう時は確かに違和感無く行動はできるけど……


迷った時点で僕の負けだった。

その夜、帰ってきた父さんズ&爺ちゃんも青葉に言いくるめられて、僕は高一の夏休みの間、青葉として生活するハメになった。

しかし案の定というか、何度か青葉には寝込みを襲われた。 こっちも相手の行動パターンは読めるから危機は回避出来たが恐るべし、青葉。

約束通り、元の体を返してもらったのは夏休みの終わる3日前だった。


若葉母さんは余程、僕の入ってる青葉が気に入ったのか、僕が元の体に戻るのを引き留めた。

『やはり娘っていいものなのよね〜』って……いや、青葉が正真正銘本物の娘で、僕は男なんですが?

さすがに、もうプールサイドや浜辺をビキニで歩いたり、夏祭りを浴衣姿で連れ回される経験はもういいです。
他にも、夏の衣服の露出の高さは充分な羞恥プレイを堪能させてくれました。


『来年の夏休みもアキちゃん貸し出してくれない?』と双葉母さんに相談する声は聞かなかった事にします。

          ・ ・ ・

元の体に戻ったのはいいけど、副作用でしばらくの間は青葉を襲いたくなる衝動に駆られるのには参った。
青葉はあの時、この感覚に襲われていたのか、理性に歯止めを掛けない青葉の前に自分の処女がよく無事だったものだ。


そして、例の薬瓶は再び爺ちゃんの元に戻った。

家族は、もうそれは使う必要がないからと廃棄するように言ったけど、『面白いから』と言う理由で爺ちゃんはまだ保管しておくようにしたようだ。
頼みますから青葉の目の届かないところに保管願います。 ホントは僕としても廃棄が望ましいんだけど……

とりあえず、青葉の方も1ヶ月以上も僕をやったら、それなりに満足したようだ。 
どうせ、また暫くしたら新たなトラブルを持ち込むんだろうけど。


                    E N D


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                   継ぐ者達 「浴衣」


「アキ、用意出来た?」
「うわっ!いきなり入ってくるなよ!」

「おぉ!アキの浴衣姿だ。かわいい!ねぇねぇ、アレやっていい?」
「なんだよ、あれって? おいおい、後ろに回るなよ、気味が悪いぞ?」
「ふ、ふ〜ん。まあまあ」

「おい!こら!帯に手を掛けるな!」
「良いではないか、良いではないか」

「あ〜れ〜、ご無体な。クルクルクル…… ってバカ!脱げちゃったじゃないか。どうするんだよ!」
「いやいや、アキもなかなかノリがいいね。いい回りっぷりだったよ。 って、なに?アキってば浴衣の下に下着付けてるの?」
「付けてるよ!無しで着ろっていうのか? あ〜あ、浴衣がすっかりはだけちゃったじゃないか。どうするんだよ」
「もう一度着ればいいじゃない?」

「何を騒いでいるの?あれ?やだアキちゃん、何?その格好は? 青葉!またアキちゃんを襲ったの!あれほど言ったのに!」
「違う、違うよ、今回は襲ってないよ、ちょっとした冗談をしただけだよ。ね、アキ。そうだよね?」

「うん、まぁ…… 今回に限っては襲う意図はなかったかな?」
「ホントにぃ?アキちゃん、襲われたならハッキリ言ってね?すぐに体を返させるから」

「はい、わかってます。泣き寝入りはしませんから」
「ちょっと、それじゃまるで私が強姦魔みたいじゃないの?」

「強姦魔でしょ!すぐにアキちゃん襲いたがるんだから。 それじゃアキちゃん帯を結び直して上げる」
「いや、いいですよ、普段着で行きますから」

「「ダメよ!アキちゃんは浴衣がいいの!」」

「親娘でハモりますか? どうせ毎年、青葉が着てるじゃないですか?今年くらい着なくっても変わらないでしょ?」
「い〜え!中身が違うとこんなにも可愛く女の子らしくなるんだから、他の年はともかく今年の浴衣姿は必須です!」

「……えっと、若葉母さん?今年は中身が男なんですが?」


                      END


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                   継ぐ者達 「図書館」

「青葉!図書館に行こう!」

「うわっ!何よ、突然? 図書館って、確か朝、会ったときに課題の調べ物に行くって言ってなかった、アキ?」
「言ったよ!そして図書館に行ったんだ!でもナンパ野郎がやたら声掛けてきて全然課題がはかどらないんだ」

「あぁ、それで男連れなら大丈夫と?私は用心棒代わりなんだ?」
「どうせ、青葉も後で図書館に行くって言ってただろ?」

「うん、まぁ行ってもいいけど…… その格好で図書館に行ったの?」
「あ、これ?若葉母さんが、青葉と買ったのに全く着てくれないから、僕に着てくれないかって。やっぱりヘン?」

「いや、ヘンじゃないよ、よく似合ってる。さすがは青葉ちゃんの体、白い清楚なワンピースがお嬢様って感じだね」
「じゃ、なんで着ないんだよ?おかげで僕が着るハメになるんだぞ?」

「いや、母さんと買ったときはノリでね…… でも冷静になるとちょっと恥ずかしい感じが」
「男の僕はもっと恥ずかしいんだけどね?胸のフリルとリボンで助かってるけど、薄手だから胸が透けそうだしね」

「え?ふ、ふん?アキ?ちょっと回ってみてよ?」
「なんだよ?これでいいか?(くるり)」

「うん、いいよ。 そうか〜、アキは今日はピンクのブラかぁ、ははは」
「ピンク?え?え?ちょっと待て!ひょっとして背中透けてる?ブラ見えてる?」

「うん、ピンクの線がくっきり」
「うわぁ、ひょっとして僕これで街を歩いてきたのか?!着替えてくる!ちょっと待ってて」

「あ、ダメだよ。そのワンピースじゃなきゃ図書館に付き合ってあげない」
「なんでだよ?恥ずかしいよ。大体、青葉の体だぞ?透けブラで歩いていて平気か?」

「まぁ、今はアキの体だしね。それにやっぱり図書館デートなら女の子はかわいい方がいいもん。だから、そのまま。さ、行こう」

「いや、待て!引っ張るな!やっぱり図書館は明日でいいから!今日はいいから!」


                      END


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                   継ぐ者達 「水着」

「アキちゃん、はい、お土産!」

「なんだ、突然?」
「いいから、いいから。はい、これ」

何が入ってるんだ?この紙袋? って、これって……」
「うん、水着。アキちゃんに似合うのを買ってきたよ。明日、皆で海に行くのにいるでしょ?」

「いや、僕は泳がないから普段着のままでいいよ」
「ダメだよ、皆、水着なのに一人だけ服を着てたら」

「いや、ちょうどアノ日で……」
「アキは月に何回アノ日があるの!そんないいわけ聞きません!」

「でも、人の見てる前で水着になるのは…… うわっ!何、この水着!ビキニじゃないか?」
「うん、やっぱりいつまでもワンピースってのも子供みたいじゃない?今年の青葉はひと味違うよ? 大人の階段を一歩上がるよ」

「いや、上がらされるのは僕だから…… うわぁ、派手じゃないのか?」
「そんな事無いって、試しに着てみてよ、絶対に似合うから」

「う〜ん……」
「ほらほら、外に出ててあげるから。それとも見てた方がいい?」

「……出てけ、わかったから」

          ・

「ほら、似合うでしょ?」
「そうかぁ?でもやっぱり青葉だけでも見られてると恥ずかしいよ。明日、これ着なきゃダメか?」

「ダメ!せっかく私が買ってきたんだから!」
「うぅ、恥ずかしいなぁ。 ……あれ?」

「どうしたの?どこかヘンだった?」
「青葉が買ってきたって言わなかったか?」

「言ったよ?それが何か?」
「僕の姿で水着を買いに行ったのか?」

「うん、それを選ぶのにもあちこち回って、最後は一時間くらい迷ったよ」
「うわぁぁぁ!そうすると何か?今日僕はあちこちの水着ショップで女性物の水着を物色してる姿を街の皆に見られてたのか?」

「あぁ…… そう言う事になるね?大丈夫。私は気にしてないから」
「僕が気にするよ!クラスメイトにでも見られたらどうするんだ!」 

「大丈夫、皆、笑顔だった」
「会ったんだ?クラスメイトに……」

          * * *

「ア〜キちゃん!お風呂に入ってるの?」
「(ザブンッ)うわっ!青葉!卑怯だぞ!お風呂を狙うなんて!」

「違う違う!襲いにきたんじゃないって。信用ないなぁ」
「じゃ、なんだよ?お風呂まで来る用って?」

「ん、っとね、ちょっとお願いがあるんだけど」
「わかった、お風呂から上がったら聞いてやるから部屋で待ってろよ」
「いや…… お風呂の方が都合がいいお願い」

「お風呂の方が?なんで?」

「アキ、ビキニラインって知ってる?」
「はぁ?ビキニライン?まぁ…… わかるけど…… それが?」

「わかるんだ、それじゃ、これ」
「なに?シェイビングクリームと剃刀? ……ま、まさか!」

「うん、多分、アキが今想像したのでアタリ。ふふふ」
「いや、ちょっと待て、何でそんな事をしなくちゃなんないんだよ?」

「さっき、水着を試着したじゃない?その時にね…… さすがに言うのが恥ずかしいな。 まぁ、何というか……」
「えっと…… まさか、何かが出ていたとか……」

「うげっ!出てないよ!あぶなそうだったけど。 ……ま、そう言うことで、お願いね?明日は海なんだから」」
「ちょっと待て!僕にそこを処理しろって?そんな恥ずかしいことができるか!」

「はみ出そうなとこだけ処理してくれればいいから」
「いや、だって、それしようと思うとあそこを見ることになるんだぞ?!いいのか?」

「あまり良くはないけど、入れ替わったときに覚悟はできてたから大丈夫。 それともなに? 私が処理してもいいの?
だったら話が早い。 ちょっと足を開き気味にして、そこのバスタブに腰を掛けて……」
「うわっ!バカ!入ってくるな!出てけ!」

「ひっどーい、お湯を掛けること無いじゃない?じゃ、自分でする?」
「……わかった。わかったから出てけ」

「じゃ頼んだわよ?お風呂から出たらチェックするからね?」

うぅ、何で僕がこんな事を……

          ・ ・ ・

「アキ?まだ、お風呂から上がってないの? ……アキ?(ガラッ)」
「ふぇぇ……」

「うわっ!なに倒れてんの?湯当たり?のぼせたの?ちょっと、しっかりしてよ?」


          * * *


「おっはよ〜、アキ。いい天気だよ。海に行くよ、起きた、起きた」
「ん?んん〜、あ、おはよう、青葉。早いね」

「そんなこと無いよ、アキも早く用意しないとみんな来ちゃうよ」
「わかった、わかった、とりあえずトイレに行かせてくれ」

「もう、ゆっくりなんだからぁ、ここで待ってるから早くね」
ガチャ

          ・

ドタドタドタ、バタン!!

「おぉ、本当に早かった!すごいね?新記録?」
「青葉!聞きたいことがある!!」

「え?一体なに?血相を変えて?」
「夕べ、僕は風呂で倒れたよね?」

「うん、私が見つけたんだよ?大変だったんだから。アキを風呂場から出して体を拭いて、下着とパジャマを着せてここまで運んだんだから。 もちろん襲ったりしてないのは分かるよね?」
「うん、大変だっただろうね?襲われた様子もないよ? ……でもね?」

「でも?」
「僕は結局、躊躇してる間にのぼせちゃったからムダ毛処理をできなかったんだ」

「うん、お風呂場で見たときはできてなかったよ、見ちゃったのは仕方がないことだとわかってくれるよね?」
「まぁ、そこまでは仕方がないだろう。……だったら、何で僕のあそこはムダ毛どころか何もないんだろうね? トイレ入ってビックリだよ?!」

「あ、うん…… そうだね、報告を忘れてた。介抱するときについでだから剃っちゃった。朦朧としてたけどアキったら言うがままに剃らせてくれたんだよ」
「剃った…… 僕が剃らせた?orz」

「いやぁ、言い声だったよ、アキ。 いやん、はうん って」
「はうんって…… 僕の中で何かが壊れていく音がする……」

「自分の体を自分で処理しただけだから問題ないって。ははは」
「いや、問題大有りだよ。なんて事をするんだろうね?」

「でも、放っておいたら処理出来てなかったでしょ?」
「それはまぁ…… そうかも知れないけど、全部剃ること無いじゃないか? トイレに行ったときに見下ろしたらモロにあそこが目に飛び込んできたんだぞ!その時の僕の気持ちがわかるか?」

「きゃははは、うん、わかるわかる。だからもういいじゃない?海に行く仕度しよ?」
「ほんと、あっさりしすぎる性格だよな、青葉って…… ふぅ」


          * * *


「あれ?皆は?」
「あ、アキ。遅かったね?みんなは泳いでくるって、ほら。あそこ」

「あ、いたいた。青葉は行かないのか?」
「私は荷物番&アキ待ち」

「そういや、今日は僕は青葉なんだから間違えるなよ?アキって呼んじゃダメだからな?」
「アキ…… 青葉だって僕のことを青葉って呼んでるよ?」

「わかったよ、アキ……  ぷっ、なんかおかしい」
「ま、間違ったら間違ったでなんとかなるでしょ」

「ホント、アバウトだよな」
「ふふふ、そう言えば、やっぱりその水着似合ってるよ」

「そうかぁ?やっぱりハデじゃないのか?」
「いやいや、さすがにビキニライン処理した甲斐があるというものだよ」w

「まだ、ひきずりますか、それを?」
「ひひゃい、ひひゃい、ひょめん、ひょめん、もうひひゃひゃいから…… ひゅちからひゅびをひゅいて……」

          ・

「ところでアキ、日焼け止め塗った?」
「え?いや、何にも塗ってないよ?塗らなきゃいけないのか?」

「私の肌って白いから日に焼けると大変な目にあうよ?大やけどみたいな」
「え?そうなのか?そう言えば青葉の肌って白いよな?焼かないようにしてるのか?」

「そうじゃないけど、体質?お日様は天敵?みたいな。いや〜、その点、今年は遠慮無くお日様に対峙出来るのが嬉しいよね〜」
「はいはい、それはよかったね。で、僕は日焼け止めは必至な体なんだ?」


「うん、だからはい、これ」
「あ、日焼け止め?サンキュ」

「う〜ん、前は塗れてるけど、背中がダメだね?塗ってあげるから腹這いになって」
「え?いいよ、これくらい」

「ダメだって、背中も塗らなくちゃ。私の体で背中焼いちゃったらブラが拷問具に替わるよ?痛いよ?、だから腹這いにな……る!」
「うげっ!強引だな、まぁ、青葉の言う事ももっともだから頼むか」

「そうそう、最初から素直になればいいのよ」

パチッ

「おい!こら!今何をした!」
「ブラの止めを外しただけじゃない。塗るのにじゃまになるから。ほら、体を起こさない!胸が見えちゃうでしょ!」
「ひえ!ちょっと、ブラを付けてくれよ」

「ダメよ、まだ塗ってないんだから。ちょっとの間だから辛抱!」

          ・

「あの…… 青葉さん?」
「なあに?アキ」

「もう背中は塗り終わったように思うのですが?」
「うん、今は下の方に移ってる」

「ひゃ! だったら、もうブラを……」
「なに?アキったらブラフェチ?」

「いや、それがないと立てないだろ?胸が見えちゃって!」
「だから、今は日焼け止めを塗ってるんだから立たなくていいじゃん?」

「はう!だから、内股は止めて!股間は日焼けしません!」
「まぁまぁ、アキさん、遠慮なさらずに」w



「うわぁ、さすがにクラス1のバカップル。公共の場でも遠慮無いな」
「ホント、人目も何も関係なしね」

「あ、高橋に佐々木さん!助けて!青…… アキを引き離して!」
「ふふふ、ええのんか、ええのんか、ここがええのんか?」

「うわぁ、秋山くんがエロ親父化してる」
「本当に楽しそうだな、佐々木さん、邪魔しちゃ悪いからもう少しあっちに行ってようよ」

「そうね、じゃ秋山くん、青葉ちゃん、ほどほどにね」

……違うんです、本当に助けを求めてるんです。高橋、佐々木さん、行かないで〜 他の誰でもいいから助けて。


                      END
















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