「秋山家の陰謀 04・奔走する日常、双葉編」



清彦様が迎えの山下さんの車に乗り込まれるのを確認してから私も徒歩で帰る。
あまり早く帰り着いても清彦様の事だから仕事を優先されて、家捜しはされてないでしょうからね。

途中、山下さんに携帯を掛ける。

「あ、山下さん? 僕。今日、遅くなると言ったけど、帰りは自分で帰れるから今日はもういいです、ご苦労様でした。 え?双葉が帰る時に夕食の準備があるから連絡するように? わかりました、帰る前に双葉に連絡します。 すいません、お手数掛けさせて。 では」

ほほう、夕食の準備ですか、清彦様が? 私を食べてって? いいでしょう、頂かせてもらいますよ。
ふふ。そう思いながら暫く歩く………… 

うぅ、自分ってこんなに黒かったのかしら?自己嫌悪に陥るわね、思わずしゃがみ込んで頭を抱える。
ここまできたら止める気はないけど……

          ・ ・ ・

お屋敷について、そっと中をのぞき込むと清彦様が掃除をされているのが見えた。

まだ、少し早すぎたわね?自分の屋敷を覗き込んでいるを近所の人に見られるワケにもいかないし。

私はそっと中に忍び込んで屋敷の中から見えにくい場所に身を隠し、中の様子を伺いながら時を待つ。 
……なにやってるんだろうなぁ、私。

          ・

暫く待つと玄関に鍵が掛けられる音がする…… 

やっと、行動を起こされるのね?清彦様。 二階に上がって行かれる気配を待って、持っていたカギでそうっと中にはいる。

上の気配を探るとお部屋のドアを開けようとされている。 
あまりにも簡単に入れると不信感をもたれると思って鍵を掛けておきましたからね。
でも、清彦様の部屋のカギは双葉の部屋に掛かってるカギ束の中にありますから、簡単に侵入できますよね?

あ、降りてこられた、応接間に身を隠す。 
って、あれ?なんでこっちに?慌ててソファの後ろに寝ころぶ。

応接間に入ってきた清彦様は鼻歌を歌いながらテーブルの上の小物入れを探って、そこからカギを持って出て行かれた。

こんな所にも鍵を放置しておられたのか? カギの意味がありません、清彦様。 

それにしても、明かりを点けられなくてよかった、丸わかりになっちゃいますからね。 見つかったらすごくバツが悪いったらなかったでしょうね……

上の方ではゴトゴトと音がする。 そろそろ頃合いのようね。 そっと階段を上がる。

          ・

ドアを開けると案の定、清彦様があちこち探しておられる。

おや、ベッドの下をのぞき込んで固まった。 
あぁ、あれですか。清彦様のお宝本? ひょっとして今まで見つかってないと思われてた?
自分の部屋の掃除を誰がやってると思ってらっしゃるのかしら? 何もしないでもホコリが溜まらないとでも思ってらっしゃるのかしら? ベッドの下ってホコリが溜まりやすいんですよ?清彦様。

そうか、今朝、あれの参考に読んだ時にいつもはそのまま置いておくのに、うっかり揃えて戻しちゃったから…… 

あ、立ち直って動き出した。

          ・

それじゃ、そろそろ行きますか。 うふふ、心臓がドキドキしちゃう。

ドアを開けて中に入り、ノックをする。コンコン。
ふふ、どんな顔をして振り向かれるかしら?
 
……気が付いて下さらない?も一度。コンコン。

……宝探しに夢中ですか?清彦様?よし、力一杯。 ゴンゴン! あ、やっと気付いて下さった。

ビックリした顔で硬直される清彦様。

「ノックの音にも気付かないほど夢中でなぁにをしてるのかな〜、双葉ちゃんは?」
驚いてる、驚いてる。くすっ

「え?あれ?な、なんで清彦様が……」
「昨日の約束。 覚えてる?」

「は、はい……」
「で?」

「入れ替えの証拠を探していました。すいません、ごめんなさい、もうしません」
「どうやら双葉には学習というものが無いようだね、残念だけど。 信用した僕がバカだったのかな? 何か違うお仕置きが必要だね、双葉には。 とりあえず、散らかした部屋を片づけてもらおうか」

「……わかりました」
私って大悪人。わかってる、わかってるけどね。 やりすぎてるよね。 もうここまで来たら毒を喰らわば皿まで、よ。 後で謝ってもどうなるものでもないなら、一気に行っちゃえ!

          ・

腕によりを掛けて夕食を作り、清彦様と食事を取る。

あれ?そう言えば終わった後にお風呂の用意をしておいた方がいいのかな?シャワーで事足りる? 
……やはり、お湯に浸かった方が落ち着くのかな?
清彦様にお風呂の用意をしておいて貰おう。

          ・

食事が終わり、洗い物をしている清彦様に声を掛ける。

「双葉、それが終わって、風呂を入れたら言いに来るようにな」
「あ、あの清彦様?」

「ん、なんだ?」
「あの…… 今日も一緒…… に?」
あ、怯えてる?昨日のトラウマになってる?

「なんだ?癖になったのか?ひょっとして一緒に入りたいからあんな事をしたのか?」
清彦様は首を横にブンブンとふる。
「いえ、とんでもありません!昨日だけで充分です」

「そうか、なら一人づつでいいじゃないか」
そう言って私は二階へと上がっていく。すいません、今日はさらに酷い事をします。

ベッドの上に体を転がす。そ のまま手をベッドの下にやり、清彦様の秘蔵本をランダムに取り出し、ページを広げる。
うわっ、私はこんな事を清彦様にしようとしているのか?
うわ、すごい、こ、これは?次々とページを繰る。

心臓がドキドキと跳ねる。落ち着け、落ち着け、一度だけ……
一度だけ、ヤっちゃったら度胸も据わるし、集中力も戻ってくる。
 
おぉ、凄い。こんな体勢でもできちゃうんだ?あ、これ……?この体勢はいいかも。 後ろからなら私の顔は見られない。 少なくとも、顔をあわせづらい。 でも、清彦様には屈辱的な体位なのかな? ついつい夢中で清彦様の教科書(?)を眺めていると階段を上がってくる足音が聞こえる。

清彦様だ!私は慌てて本を下に放り込み、机に向かって勉強しているフリをする。


ドアがノックされ、清彦様が中に入って私に声を掛ける。

「清彦様、お風呂の準備が整いました」
顔をまともに見れない私は机に顔を向けたままだ。 さて、それでは…… あれ?その前に…… お布団って汚れちゃうかな? 古いのを敷いて置いた方がいいよね?

「そうか、ご苦労だった。双葉、もう一つ仕事を頼もうか。 下のリネン室に言ってお客様用の奥にある敷き布団を持ってきてくれないか?行ったらわかるところにある筈だから。あ、シーツも忘れるな?」
「わかりました、清彦様」
そう返事をして階下に降りて行かれる。

それじゃ、こっちの新しい布団は畳んで下ろしておきましょ。

          ・

しばらく待つと清彦様がお布団を持ってきて下さった。それをベッドに敷いてもらう。

さて、本番開始。


「できました、清彦様」
清彦様の声に振り返り立ち上がる。

「うん、いい出来だ。綺麗に敷けてるね。 うんうん」
これからのことを思うとついつい顔が綻ぶ。 

さて、それじゃあ……

「それじゃ、まずショーツを脱いでベッドの上に四つん這いになってもらおうか?」
私の言葉に清彦様がポカンとした顔をする。

「聞こえなかったのかい?双葉」

「あの、清彦様。ショーツを脱いでベッドの上にって……」
清彦様がビックリした顔で聞き返す。

「なんだ、聞こえてるじゃないか。うん、そうだよ、早くしなさい」
「早くしなさいって、何を一体……」

「決まってるじゃないか、お仕置きだよ。 二度とあんな事をしないようにね」
うふふ、そうよ。 これは清彦様に対する罰なんだから? そのついでに少しだけ、私に男の子の悦びを経験させて下さいね?

『はい、さっさとショーツを脱いで!』
私の命令で清彦様の手は自分のメイド服のスカートの中へと潜り込み、ショーツを掴み下ろす。

「待って!二度としません!しませんから許して下さい、お願いします!」
だ〜め。 ここで止めちゃったら昨日からの私の悶々とした思いが不完全燃焼したまま残っちゃうんだから。

「何を言ってるのかな? 昨日、あれだけの目に遭いながらもあっさりと誓いを破った人の言葉にどれだけの意味があると言うのかな?」『さぁ、脱いだらベッドに上がって四つん這いになる!』
私の命令で清彦様は、ベッドに上がり四つん這いになる。

「清彦様。一体、何を……」
「だから、お仕置きだって。双葉ちゃんは記憶力にも問題があるのかな〜?」
清彦様のスカートを捲り上げて、今は清彦様の物である自分の股間部分を眺める。

うわっ、自分のあそこをこんな形で見ることになるとは夢にも思ってなかったわね? でも、私のあそこって結構、綺麗よね?
思わず指の先を清彦様の性器に這わしてみる。

「ちょ、ちょっと待って下さい!」
清彦様が抵抗の姿勢を見せる。 もう、五月蠅いなぁ?

『動くな!』
私は清彦様に強く命令して身体を固定させる。

さて、それじゃぁ私の性器を観察するという貴重な体験を続行させて貰いますね、清彦様。
指の腹で私の大事なところを優しく擦ると、ジワリと湿り気を帯びてくる。

「あ…… だめ。 や、止めて……ください、き、清彦さ、まぁ!ふぅん」
「なかなか感じてきたようだね、双葉。 じゃ、下の方もやっておこうか?」

「止めて……くだ、さい…… これ以上…… は」

清彦様の嘆願をスルーして、そのまま続行。
「何を言ってるんだい、双葉。 充分に濡らしておかないと痛いぞ?いいのか?」

「い、痛い? ……痛いって ……きゃう!な、なにを?……」
「ははは、何をって決まってるじゃないか?僕のモノを双葉が受け入れるんだよ」

「そ、そんなぁ…… お願いし、ます。 ハァ 許して下さい。 もう 二度と…… 絶対にしませんから……」
「夕べのその言葉、信じてたんだけどなぁ。ほんっっとうに残念」
そう言って、私は指を私の体の大事なところにに少しだけ埋める。

「ひぃん!で、でも…… なんで、お仕置きが…… これ、な、なんだ…… ハァハァ」
清彦様が私に尋ねる。 私は清彦様の反応に夢中になって、生返事で答える。

「あ、そっか。教えて欲しい?体を取り替えた呪方ってね、もう僕にできないんだよ?」
「ハァ、ハァ、え?それは…… どういう…… ひっ!」
内壁を刺激すると清彦様が泣きそうな声でよがる。

「あれはね、女性にしかできないんだよ?だからね、現在、体を取り替える事が出来るのは双葉ちゃんの方なんだ」
「はぅんはぅん、それじゃ…… 僕がやり方を知れば……ひ!」

「うん、すぐに戻れるね」
侵入した指が二本に増える。 清彦様の股間はびっしょりと濡れてきている。 私は清彦様への愛撫に夢中になりながら、適当に夢心地で清彦様に語りかける。

「でもね、覚えてる?条件さえ満たせば何度でも出来るって言った事?」

「はぁはぁ、ひ。 は、はい」
「その条件って言うのはね、使用者は処女じゃないと発動しないって事なんだ」
私は熱に浮かされたように清彦様を愛撫する。
うりうりうり!指の刺激が激しくなる。

「ひぇん!そ、それって……」
「うん、二度と呪方が使えなければ双葉ちゃんもバカな事を考えないだろうと思ってね。だから、双葉ちゃんを処女じゃなくしちゃおうと、ははは。さぁ、充分濡れてきたかな?受け入れOK?」

えっと…… なんだっけ? 何か大事なことを忘れているような気がするんだけど? 
…… ま、いっかぁ? 今は清彦様に集中させてもらおう。 私の男の子としての初体験を私の身体で試させてもらうんだ。

私は自分の言ってることの意味さえ深く考えられずに、清彦様に夢中になっていった。
「でも、安心してね。処女を失う時くらいは双葉ちゃんの希望通りにして上げるからね」

「え?」
「双葉ちゃんのベッドの下の資料を参考にさせてもらった結果、双葉ちゃんはバックから犯されるのが好みみたいだからね?」

そう言いながら、私は今は自分のモノになっている限界まで膨張した清彦様のモノをズボンを下ろして取り出すと清彦様が向けて近づく。

「待て、待って!はう、違う、そ、それは違う……はぁはぁ、犯るのはいいけど、犯られるのは……」
「ふふふ、 ……あぁ、その前に。 服はやっぱり邪魔かな?脱ごうか?」

清彦様の背中に手を伸ばしメイド服のファスナーを下げると露わになった背中のブラのホックを外す。

「はい、腕を上げて。 はい、もう片方も」
メイド服とブラが腕から引き抜かれ、足下へと落ちる。

「やめて、止めてくれ!お願いだから」
清彦様がよつんばいの姿勢のまま、可愛い声で懇願する。

「だからダメだって。これは双葉の自業自得なんだからね?さぁ、覚悟はいいかな?」
そう言って、私は清秋様のお尻を掴むとあそこにオチン〇ンを狙い定める。

「い、いやぁぁぁ!勘弁してくれ、たのむ!たのむから!」
清彦様が私の命令によって動けない身体で必死に懇願するが、かえってそれが私の嗜虐心を刺激する。

私は私の物となった清彦様のモノを今は清彦様が入っている私の身体へとゆっくりと侵入させる。

「ひぃぃぃぃ!痛っ、痛い、痛いから!あぁぁぁぁ!嫌ぁぁぁ!」
清彦様が初めてのその感覚に悲鳴を上げる。


私のオチン〇ンが清彦様の中へとすっぽり入り込む。 あぁ、私の中ってこんなに暖かいんだ? 
そして……、なんだか感動! 今、私が清彦様を自分のものにしているんだ?

ふと、清彦様の様子を伺うと涙目で息も荒くハァハァと口で呼吸しておられる。
「双葉、大丈夫かい?初めてだからかなり痛いのだろうね?ふふ」

清彦様は口を開くのも億劫そうだ。 
「さて、それじゃ再開しようか?」
「ま…… ハァ、待って…… もう…… ハァ、これで終…… わり ハァ、なんじゃ……」

「何を言ってるんだい、双葉?今からちゃんと中に出して確実に呪方が使えなくして上げるからね」
そうそう、そう言う建前でしたもんね。 私はゆっくりと清彦様の中のモノを動かし始める。

最初はゆっくりだった動きを少しずつ早くしていくと、清彦様の膣壁が私のモノをキュウキュウと締めつける。
私はその初めて経験する快感に夢中になって、清彦様を陵辱し続けた。

          ・

やがて、清彦様の口から漏れる小さな悲鳴が甘いものに変わっていく。

「くぅん、はぁん、や、ふぅぅん………」
清彦様のその声が益々、私の快感を刺激する。

意外と清彦様もこの状態に満足されておられるんじゃ? 

あ、だめだ。 私のオチン〇ンが限界かも? その先から何かが飛び出しそう……
「どうだい、双葉?身動きも取れずに男に征服される悦びを感じてる?さぁ、いくよ? うっ!」

私の言葉が言い終わらない内に我慢の限界が切れ、清彦様の胎内に熱い物が放出される。

「あ、あぁぁぁぁぁぁ!」
清彦様が大きな口を開けて愉悦の叫びを放ちながら失神される。

          ・
          ・
          ・


………… えっと? あれ? 気を失われた清彦様を見て、精を放ち終わった私は正気に返る。

          ・

そして、終わったばかりのセックスに股間をひくひくさせて気を失っておられる清彦様を見る。
その股間からはたった今、私が放ち終わった白いモノが垂れ出してきている。

指で清彦様の股間のその白濁をすっとなぞって目の前に持ってくる。 ……えっと、私が清彦様の中に出した子種……

え?え?え? ちょっと待って?! 私、清彦様を犯しちゃったのよね? 

えっと、処女じゃないとあの薬は効果を発揮しないって……
ついさっき私自身が清彦様に宣言していたじゃない? え?清彦様、私の身体に固定されちゃった?

え? あれ? ダメじゃない! 清彦様の身体は週末には返すつもりだったのに? それなのになんで私、清彦様を犯しちゃったの? そうよ、確かに昨日は先っちょだけ清彦様に入れてみようかな?とか思っちゃったりはしたけど……


それがなんで? えっと、あれ? 思い出せない。 いつの間に私は清彦様を犯すことを目的にしてたんだろ? 夕べからの私の行動が熱に浮かされたようにもやが掛かって明確に思い出せない。

頭から血の気が引く。

取り返しのつかないことをしてしまった。 清彦様はこれから一生、私?双葉? なにをどう言いわけしようと、この事態を招いてしまったのは私だ…… 私は私の意志で清彦様を犯した……

呆然としてると清彦様が身じろぎをする。 いけない、清彦様が目覚められる。

謝ろうか?『すいません、清彦様。 ついうっかり犯しちゃいました。 清彦様は一生、双葉の身体に固定されてしまいました』…… いくら、ヘタレで温厚な清彦様でも怒るだろうな。 軽蔑されるかも知れない……

          ・
          ・
          ・

誤魔化そう! 

私は『ついうっかり』なんてやってない! 

私には何か考えがあって犯ったんだ! そうなんだ! 

私には何か深い考えがあって、何もかも計算づくで行動したんだ! 

どういう計算での行動だったかは後でゆっくり考えよう!

そうして、清彦様が双葉として暮らす為のベストな道を考えよう!


そう腹を決めた時、清彦様の目がゆっくりと開かれていった。
さぁ、自信満々で三文芝居を始めよう!

          ・ ・ ・

「ふふふ、そんなによかったのかい、双葉。 いい顔で失神していたよ」
私は楽しそうに眼を開けた清彦様に告げる。

清彦様の目がハッとして見開かれる。
「ぼ、僕! 処女?! え?戻れなくなったのか!僕は処女を失ったのか?」

「うん、そう。 双葉の股間から垂れ出している物が証拠♪ それ、気持ち悪くないかい?先にお風呂を使っていいよ?」

清彦様は起きあがり、ベッドに腰掛けるようにして自分の股間を確かめられる。 そこには処女を失った確かな証が……
「そ、そんな……」

とりあえず、お風呂に入って身体を洗い流して貰おう。
「お風呂。行かないのかい?それとまだやる?僕はそれでもいいけどね」

私の言葉に清彦様がくやしげに私を睨む。
「なにか言いたいのか?双葉。これで心おきなく双葉の仕事に専念出来るようになってよかったじゃないか?」
そう言って笑う。 ゴメンなさい、ゴメンなさい、ゴメンなさい、清彦様。

          ・

「お風呂、使わせて頂きます……」

少しの間、私を睨んでいた清彦様は力無くそう言うと部屋を出て行った。

その姿を見届けた私は思わずベッドの端に座り込み、息を吐く。
「ふぅ〜、緊張したぁ! さすがに温厚な清彦様でも怖い顔で睨んでたなぁ…… 同時に魂の抜けたような顔もしてたけど…… 大丈夫かな? まさか、お風呂場で早まったことをしないでしょうね?」

私は清彦様の様子を見る為に静かに部屋を出た。

          ・

そっと反対側の階段から下におり、先回りをして風呂場の隣の洗濯場に身を隠し、清彦様の来るのを待つ。

清彦様は幽霊のように廊下をゆっくりと歩いてこられる。常夜灯しかついてない暗い廊下をゆっくりと素っ裸のままで、着替えを手に引っ掛けるように垂らして…… ん?笑ってる?真っ青な顔して笑っておられる?怖い、怖いです、清彦様。


やがて清彦様は私の隠れている前を通り過ぎ、お風呂場に入られた。中からは体を洗っておられる気配がする。 自殺とかは大丈夫なようね? 



私はそのまま、洗濯場の隅で体育座りになって考え込む。

本当になんでこんな事をやっちゃったのかなぁ? 浮かれすぎだよね、双葉……
まるで途中からは自分の意思がまともに働いてないかのようだった。 終わってみればまるで夢の中をフワフワと歩いていたような……

って、言うか頭が冷えてみれば、私自身も元の身体に戻れなくなっちゃたのよね? 私の身体の中には清彦さんが固定されちゃったワケだから…… いや、この際、私のことはどうでもいい。 私の場合は自業自得なんだから……

さて、どうしようかなぁ?
天井を見上げて、今後の策を練ろうとするが何も思い浮かばない。

考えてみれば、これって旦那様が望んだ展開よね。 旦那様なら笑って『そのままでいい』って言われそうよね? 帰ってらしたら謝って元に……戻す手段がないのよねぇ……

このまま清彦様が私の身体で生きて行く為のベストな選択……

悩んでいると湯船から清彦様が出てこられる気配がする。 いけない、いけない、見つからないうちに戻らなくっちゃ。

そっと、洗濯場を出て階段を足音を立てずに上がる。

          ・ ・ ・

部屋に戻り、お布団を元に戻して雑誌を読んでいるフリをしていると清彦様が上がってこられる。

「清彦様。お風呂先に使わせて頂きました。 あとは何かありますでしょうか?」
「うん、今日はもう別に……」
平静を保つようにして、清彦様の方を振り向き声を掛けようとして驚いた。

なに?その洗いざらしの乱れた髪は? 幽鬼のよう…… さっきよりも怖くなってる。
髪を梳くほどの気力も無いのか……

私は清彦様をソファに座らせ、自分の部屋に櫛を取りに行くと清彦様の御髪を直す。

「あの…… 本当に僕はもう元に戻せないんですか?」
グサリ、清彦様が私の触れて欲しくないことを聞いてくる。

「う〜ん、戻せないねぇ。少なくとも僕の知ってる方法では無理。僕が双葉に話した事は全て本当」
だから困ってるんですってば……

髪を梳き終わると清彦様が次の指示を聞いてくる。

今日はもう解放しようと思ったが考え込む。
とにかく、今日は清彦様のそばから離れたくない。 万一、私がしでかしたことが原因で、清彦様の心に魔が差せば……

「……寝てもいいのでしょうか?」
清彦様が聞いてくる。

『そこのベッドで寝るように』
私はベッドを指さす。

「えっと、まだ何かお仕置きの続きが……?」
清彦様が不安げに尋ねる。 私の気力が落ちているので命令が”命令”として機能してない。
ダメだ、双葉。 双葉はいつも自信満々!

『そこで寝るように!』
私は気力を込めて清彦様に”命令”を下す。

布団に潜り込む清彦様をみて、私は再び雑誌を読んでるフリをして清彦様が寝られるのを待つ。
さすがに、私ががベッドに入っていくと今の清彦様はショックを受けられるかも知れないから。

清彦様が寝息を立てられている事を確認して、雑誌をテーブルの上に置き、そっと近寄り見つめる。

目尻に涙の後がある…… まいっちゃったよねぇ? 軽い悪戯が悪戯ですまなくなっちゃった。

私の身体で眠っておられる可愛い清彦様の顔を見ながら考える。

          ・

わかった、もういい!

清彦様にはこれから女性として、双葉として私の婚約者として幸せになってもらう!
方針に変更はない! 私は謝らない!謝るなんて行為でやった事を間違いと認めない! 下がる事なくこのまま突き進む!!! 

私は清彦!貴方は双葉! これからは手に入れられるだけの名誉名声をこの体に刻みつけてやる!
清彦様に相応しいだけの勲章を! その上で清彦…… 双葉様を幸せのドン底にたたき込んでやる!
そこから這い出す事のできないほど幸せまみれにしてやる!

これは傲慢な私の我が儘だ! 清彦様に拒否権なんか認めてあげない! 
できる、私の能力と秋山家の力なら可能だ!よし、OK! 

私の心中を清彦様に気付かれるな、明日の朝起きたらわたしはいつも通りの双葉な清彦だ!

そう決意すると、私は清彦様の横に潜り込み、眠りについた。

ホント、これって図らずも旦那様の狙い通りの展開よね?


          * * *

朝。 

ゆっくりと目を覚ます、隣に人のいる気配がする。顔を反転させるとそこには私の眠る顔があった。
ああ、そうか、この顔は清彦様だ。 昨日、私が破壊の限りを尽くした大切な人。

清彦様の顔を眺めていると、寝返りを打って向こうを向いてしまわれる。 寝ていてさえも嫌われた?

くそう、そうまで私を拒否りますか?清彦様。 私は清彦様に優しく声を掛ける。
「おはよう、双葉。 まだ起きなくていいのかな?」

振り向かれた清彦様は私の顔を見るなりベッドから飛び出した。
ガーン!それほど嫌われてしまいましたか、双葉は?

体をまさぐっておられる清彦様。 寝ている間に襲われたと思っていらっしゃるのだろうか。

えぇ、そうです、そうです、そう思われても仕方がない事を双葉はしてしまいました。
してしまいましたけど、そんなにあからさまにすること無いじゃないんですか? えぇ、えぇ、全ては双葉の自業自得です。 

あ、だめだ、反省はしても一朝一夕に癖は直らない。気が付いたら清彦様に話しかけていた。
「ふふ、朝から可愛いじゃないか、恥ずかしそうに身を守る仕草で顔を赤くした姿が素敵だぞ? で、仕事を後回しにしてまでそこにいるという事は僕を誘っているのかな?」

あ、飛んで出ていってしまわれた。 可愛いなぁ、清彦様。
なんか昨日の一件以来、清彦様を見る目が微妙に変わったような気がする。 庇護欲を一層そそられるようになったっていうか……

とにかく、私もベッドから出て着替えよう。

          ・ ・ ・

今日はどうしよう?土曜で学校はお休みだし、とくにすることもないし。

清彦様は…… う〜ん、私の姿のままでは家の中に引きこまれるだろうなぁ…… この広いお屋敷の中で私と二人っきり…… あぁは決心したものの、なにかすごく気まずいわ……


食堂に降りて、朝食の用意をする。

どこかへ出掛けようかな?でも、清彦様を屋敷に置いておくのは心配だし…… 
一緒に出掛ける?まぁ、一緒にお屋敷にいるのと一緒に外に出掛けるのでは外の方が気分的に楽かな?
そんな事を考えながら朝刊に入っていたチラシを眺めていたら隣町のショッピングモールの中の映画館の広告が目にはいる。

あ、これクラスの女の子達が言ってたラブロマンス映画。
凄く良かったって言ってたっけ?見たいなぁ。 でも行く相手がいないからこの手の映画って見た事がないのよね。一人で行く物でもないし、清彦様はアクション物しか見られないし……


……今なら清彦様と行けるんじゃない? どうせ、行く所も思いつかないんだし。清彦様に付き合ってもらおうかな? 

………初めてのデート?いや、そんなこと頼める分際じゃないんだけど、清彦様が誘って下さる可能性なんてゼロ以下なんだから…… いいよね?一回だけ、もう一回だけ我が儘を聞いてもらっちゃおう。
 
          ・

それにしても清彦様遅いなぁ。 朝食の用意もとっくにできたというのに。

朝食が冷めちゃうじゃない?何をやっておられるのかしら? また、家捜ししてるのかな? もう好きに捜されても双葉は止めませんけどね。 でも、朝ご飯にはキチンと来て欲しいな? 保管場所お教えした方が手間が省けるかしら? あちこち散らかされても困るから。 旦那様に言われた地下の倉庫に返しちゃったから、この屋敷内をいくら捜されても出てきませんもんね。


そんな事を思いながら、清彦様探索の旅に出ると玄関のお掃除をしておられた。
あれ?私の邪推だった?ただ単にお掃除に手間取っておられただけ?


清彦様と朝食を取りながら、外出の件を話すとなんだか躊躇しておられる。
あ〜、そのお顔は?本当に分かりやすい清彦様。はいはい、換魂丹の在処ですね、お教えしますよ。

          ・

「えっと、行っていいんでしょう ……か?」
疑っておられる、私のせいで人間不信になっておられる…… 
でも、この件の真の黒幕の正体をバラすとさらに人間不信に陥られるだろうな。

「いいから、教えたんだが?不服か?」
「いえ、不服なんて……」

「ま、昨日なら教えなかったけど、今日ならもう教えたところでなんの差し支えもないからな、できればさっさと諦めて今の状況を受け入れてくれると嬉しいんだがな」
と言うか、納得ずくで受け入れてもらいます、覚悟して下さいね?

「そう言う事で10時には出かけるからな。それまでは好きにしていていい」
そう言って清彦様を見る。

あ、その服で倉庫の中を歩き回るのは無理かな?汚れちゃうし、スカートの端でも引っ掛けられて陶器でも棚から落とされてはかなわないですね。
割と高価な物もあそこには保管されてますから。

「しかし倉庫に行くなら、あそこは埃だらけだからその服は脱いで上下をジャージに着替えて行けよ、そう何着も汚すとクリーニングが追いつかなくなるからな」
「でも夕べ、メイド服を汚したのは私ではなく、清彦様では……」
うわっ、清彦様の反撃だ。

「ほほう、僕のせいだと……?」
「いえ、すいません、ごめんなさい」

いや、だからなんでそこで謝ってしまわれるんですか?ヘタレな清彦様。もう!知りません!
「うん?いや、いいよ、確かにそうだね。僕が汚したんだ。怒ってないから、まぁとにかく、そういうワケで」『倉庫に行くなら、あそこは埃だらけだからその服は脱いで上下を半袖ブルマに着替えて行けよ』
わぁい、やっちゃったい! なんでそこでイジワルしちゃうかなぁ、私?

          ・

朝食が済んで上で時間をつぶしを含めて教科書を広げていると清彦様がやってきた。

「失礼します。清彦様?あの〜倉庫のカギはどこにあるのでしょう?」
「え?倉庫のカギ?」
あぁ、そう言えば夕べも応接間から自分の部屋のカギを持って行かれたんでしたね。
「はい、鍵が掛かってるんですが……」

「で、カギの場所がわからない、と?」
「はい」
本当に興味のない事には興味を示されないんだ?
カギの場所を教え、地下倉庫のカギの場所も教えようとしてある事実に気付く。

地下倉庫のカギは旦那様の部屋の金庫に返そうと思っていたのに、忘れて清彦様の机の引き出しに仕舞ったままだった事を。

えっと、清彦様? 確か夕べ家捜しされた時に自分の机の引き出し最初に調べられませんでしたっけ? 
一体何を捜しておられたんですか? 双葉は悲しいです。 見つけておられたら私が踏み込んだ時にはすでに目的は達成されておられたのに。自分の所持するカギも認識されておられないんですか? こんなに大きいカギなのに……  見慣れない鍵を見つけたら怪しいと思って下さいよ?

カギを清彦様に渡すと踊るように駆けて行かれた、ブルマ姿で……

          ・

再び、教科書を広げていると、また清彦様がやってきた。

「あの〜、清彦様?」
振り向くと、ドアをそっと開けて清彦様が体半分だけ中に入れられて、こちらを見つめられている。

うわっとぉ!なに?それ?申し訳なさそうに上目遣いで私を見つめるそのお姿は! 
なんか、可愛い、可愛すぎ! ダメよ、ダメ! うっかり清彦様に手を出しちゃ、また暴走しちゃう。 
ここまで私の母性本能をくすぐりまくる仕草をいつの間にマスターしたんですか? 
清彦、……怖ろしい娘。

だめだ、にやけちゃダメだ。多少ぶっきらぼうに聞こえるような声で返事する。

「で?今度はなに?」
「すいません、清彦様、草書体って読めます?」

あぁ、そういえばミミズ文字でしたっけね、それ。
私も読めないけど、旦那様からの受け売りで多少はわかります。

清彦様にそこに書かれてある文字にそって、旦那様の受け売り情報を教える。

「あきらめ、ついた?」
一通り解説し終わり、清彦様に声を掛ける。
「つきません、つきませんけど…… つけなきゃいけないのかな?」

顔を下げたまま、微動だにされない。
その伏せた顔の下にはどんな顔があるのだろう?怒った顔?泣きそうな顔? いっその事、殴りかかってこられないだろうか? 大声で私を罵倒して下されないだろうか? 私はそれを甘んじてうけます。
何かされた方が私の気が晴れる。

でも、清彦様は何も行動を起こされない。それが清彦様の短所で長所。
あ〜、ダメだ、また罪悪感が沸き出しそう、気分を切り替えるんだ。 吹っ切る!昨日の事は。

「さて、そろそろ出かけるから、用意をするように」
私は清彦様に声を掛ける。

「え?」
「10時から出かけるからと言っておいただろ?」
「あぁ、そうでしたね」
そう言って、清彦様が立ち上がる。

そして、ドアの所まで歩いた清彦様が振り返る。

「あの、清彦様?」
「ん?なに?」

「外に出かける言う事ですが、メイド服のままでしょうか?それとも制服?」
「あぁ、私服でいいよ、と言うかメイド服で外を歩くのも抵抗無くなった?」
首を横へとブンブンふる清彦様。まぁそうでしょうね。

「私服ってあったんですか?クロ−ゼットの中はメイド服と制服しかありませんでしたが?」
「失礼なヤツだなぁ、双葉は。 私服くらい私にもあるさ。少ないけどな。 ……よし、わかった、服を選んで上げよう!」
そう言って立ち上がる。

まずは埃だらけの清彦様にシャワーを浴びるように指示する。 

……しかし、なんでそこまで汚れますか?よくよく見れば満遍なく汚れまくりですよ?
確かにあそこは汚れるとは言いましたが、そこまで汚れるとは…… うわっ、背中まで?

清彦様がシャワーを浴びているうちに私は着替えを用意すべく自分の部屋に行く。
お着替え、お着替え。 

……あれ?本当に私服持ってない、私? 
改めてクローゼットを見ると目の前にあるのはTシャツ数枚とジーンズにミニ…… えっと…… 
そう言えば出掛けないからなぁ。 屋敷に引き籠もり気味な生活が長い私はメイド服と学校の服だけで事足りてたからなぁ。 でも、ここまで少なかったの、私の私服?



 −双葉、お前ねぇ、もう少し服を買ったらどうだ?年頃の女の子なんだからさぁ。
 −いえ、別に必要ありませんから、着ないものは買っても無駄になりますし、それに私服は沢山ありますよ?

 −いや、そのメイド服は私服って言わないだろ?
 −私の趣味で着てますから私服ですよ。

 −清彦に何を言われたか知らないけど、そこまで着続けなくてもいいだろ?
 −き、清彦様は関係ありません。私の趣味です。

 −そうかぁ?まぁ趣味でもいいけど、オーダーメードでメイド服を何着も作って
  私服にしてる中学生ってのもなぁ?
 −ダメでしたか? オーダーメードだと体にぴったりして緊張感を保てますし、
  デザインや材質を変えて何着か持ってるので  飽きる事もありませんが?

 −いや、それ明らかに清彦の目を意識してるだろ? ……まぁ、お前に渡してあるキャッシュカード
  で何をどう使おうと自由だからダメじゃないけど、普通の服も持ってた方がいいぞ?


ですよね〜、旦那様。まさか、あの時はこのような日が来るとは。
双葉の私服が本当に少ないと清彦様に思われたら…… うぅ、女の子失格でしょうか、清彦様。

          ・ ・ ・

シャワー中の清彦様に着替えを渡し、玄関で清彦様を待っていると山下さんが通りかかる。

「あれ?今日はどうしたんですか、山下さん」
「あ、清彦さん、どこかへお出かけですか? お送りしましょうか? 明日は旦那様の帰国なんで車を洗っておこうと思って出て来たんですけど、他の車も空いてますからどうですか?」

「そうなんですか。 ……まぁ、悪いからいいです、ゆっくり歩いて行きます」
「わかりました。双葉さんとデートですか?珍しいですね」
その言葉に、ちょっと動揺する。

「は、ははは。そんなもんじゃないですよ、ちょっと映画を見に行くだけですよ」
「ははは、双葉さん、そういうのをデートって言うんですよ。じゃ、楽しんできて下さい」
そう言って、山下さんは車庫の方に消える。

「はい、じゃあ」
そうか〜、他の人の目から見てもやっぱりデートに見られちゃうんだ。ちゃんとデートなんだ、これ。

          ・

清彦様が着替えて来られたのを待って屋敷を後にする。

山下さんに言われた言葉が頭の中をリフレインする。 デート、デート、デート……
いや、清彦様とデートなんかできる資格なんて無いんだけど…… それでも私は嬉しい。浮かれた私は清彦様とどんな話をしたかもわからないうちにバスに乗ってショッピングモールに着く。

          ・

さて、映画にはまだ時間があるし…… 清彦様の服を買おうかな? さすがに私服の少なさはなんとかしたいわね。 どこのお店がいいのかしら?

          ・

適当なお店に入り、清彦様の服をあれこれ選ぶ。試着させられまくった清彦様はお疲れの様子。 一番可愛いワンピースを購入。
今朝、急に思いついたもんだからお金を下ろすヒマがなかったので清彦様のお財布を借用。後でちゃんと戻しておきますので、許してくださいね。 

でも、今日はお財布は返しません。 返すと自分で払うって言われるに決まってるから。

お金を支払っていると後ろから清彦様の声が掛かる。
「あの?清彦様?ちょっといいですか?」
「ん、なに?」

「メイドのお給金っていくらもらってたんですか?お小遣いとかは……」
「なにを言ってんだか双葉は。 双葉はあのお屋敷で中学の頃からこの生活をやってるんだよ? お金なんて払ったら雇ってる事になるじゃないか? 未成年に仕事をさせると罪になるんだよ? メイドは単なるウチの手伝いと行儀見習いの修行さ」

えっと……、やはり忘れておられる? 私のメイドは趣味なんですよ?職業じゃありませんよ? 私は元々、清彦様の学友になるように言われてきたのを何もしないのも居心地が悪いからと、旦那様に成績を下げない事を条件に家の家事をさせて貰うようにしたんですよ? もう忘れておられるんだろうなぁ、この生活長いから。


 −ねぇ、父さんうちもこんなに大きいんだからメイドさんとか居てもいいんじゃないかな?
 −何を言ってるんだ、うちは家の中は母さんも双葉も家事をやってくれてるし、
  外廻りは山下を初めとしていろんな人が面倒見てくれてるから必要ないだろ?
 −そうか〜、残念だな。


 −あれ?双葉、どうしたの、その服。
 −あ、これですか? 家のお仕事をする為に作業用にと購入したのですがヘンでしたか?
 −いや、ヘンじゃないよ、似合ってるよ。 うん、双葉が着ると凄く可愛いよね。いいよ、それ。


う〜ん、さすがにあの一言だけで四年間着続けてるのも問題ですよね。
あの後、調子に乗って旦那様から預かってるキャッシュカードで一気に五着作っちゃいましたもんね。
今じゃ…… 何着あるんだろ?十四、五?

そんな事を考えていると清彦様から追い打ちが……

「ひょっとして、私服はこれしか持ってなかったり……」
うわっ、バレた!私服といえる物が無い事が即バレ? どう思われただろ?思わず清彦様を見つめる。

「いえ!なんでもないです!わーい、清彦様にお洋服買ってもらっちゃった!嬉しいな」
あ、よかった。喜んで貰えたんだ、ワンピース買った事。 
そうよね、私服が少ないといやでしょうからね。

勘定を済ませると映画の開演が近いので清彦様の手を取って映画館に向かう。

          ・ ・ ・

映画はとっても良かった。凄く感動的な映画だった。
映画が終わって場内が明るくなり、隣の清彦様を見ると泣いておられた。

どうやら、気に入ってもらえたようで私は嬉しかった。

映画館を出ると、遅い昼食を取る為に入った喫茶店で清彦様と映画の話で盛りあがってしまった。
夢中で、なんのわだかまりも気兼ねもなく映画の話に花を咲かせるその時間、私はとても幸せだった。


そのあと、もう少し清彦様の私服のレパートリーを増やすべくショップ巡りをしていくつかの服を買い、夕食まで済ませてからお屋敷に帰った。

          ・

部屋に戻った私はベッドに寝ころんで今日の出来事を思い起こしながら幸福感に浸り、今日も清彦様の横で眠った。

          * * *

朝。

今日はいよいよ旦那様の帰国の日。


旦那様が帰ってこられたら言うんだ。

全ての責任を取って私は清彦様として生きていきます、清彦様の幸福の為なら全てを投げ出して生きていきます、と。

隣で寝ていた清彦様の方を見ると、なんだかおかしな顔をしておられる。

「なにをおかしな顔をしてるんだ、双葉。 さぁ、起きるぞ」
笑顔で清彦様を促す。

二人で朝食をたべ、それぞれが好きな事で過ごす。

……しかし、清彦様。すっかり私をメイドだと思ってらっしゃるんですね?
休みの日くらい、メイド服を着なくっても…… 
昨日、あれだけ服を買って差し上げましたのに着て下さらないのかなぁ?

          ・

リビングの前を通りかかると中で清彦様がTVを見ておられた。

ふと、中を見た時にその姿はとても自然で違和感がなかった。そんな事を感じていると清彦様がこちらを振り向かれ目が合う。

えっと、目を逸らすのも不自然なんだし、かと言って何か話す事があるわけでもないし……
戸惑っていると清彦様が口を開く。

「なにか?」
「ん、いや別になんでもないんだけど……」

私はなんとなくリビングにはいり清彦様の対面に座る。
じっと清彦様を見ているとある事が頭に浮かぶ。

「昨日から感じていたんですけど、ひょっとして本当に女の子に、双葉に馴染んできてませんか?」
「馴染んでなんかいません」

「そう?なんかそうやってTVを見ている姿が凄く自然に見えたんですけどね」
「それは三日も立つと多少体の動きに慣れも出てきますから、そのせいなんじゃないんですか?」
「ふ〜ん」

そうなのかな? 女の子に自然に馴染んで下されれば、申し訳ないけど私は少しだけ救われるんだけどな? 女の姿がいやなままで生きていかれるより。


「あのですね、私の事を憎んでますよね?こんな事をして」『正直に思った事を自由に言って下さい』
もういい、命令なんてバカげた物に清彦様を縛り付ける事はもうしない、好きにしてください。
無理な女言葉も敬語もいりません、自由に自分のお言葉で話して下さい。

「憎んではないかな?怒ってはいるけど、なんでこんな事をしたんだ? 僕か秋山家が憎かったのか?
行動に出る前になんで相談してくれなかったんだ?」


こんな事ですか、本当になんでしてしまったんでしょうね。 私がヘンに羽目を外したせいですけど。
旦那様に言われた時に私は強硬にそのままの清彦様を補佐したいと訴えるべきだったんですよね。

秋山家には……、旦那様や清彦様にはとてもよくしてもらってますから感謝する事こそすれ、憎む事は何もないんですけどね。

でも、こんな事をしてしまった私が言っても信じて貰えるか…… お話は帰国された旦那様からお聞きしてください…… 

でも、怒ってはいるけど、憎んではいないと言ってくださった。 どういうお心から出たかは知らないけど、そのお言葉だけは今の双葉には宝物です。

「そうか、憎んでおられないんだ。そうか〜」
そう言って、私はリビングをあとにする。


そう言えば、奥様はどうだったんだろう?秋山家の後継者という座を清香様に奪われ、一ヶ月間も陵辱されたという話だったが、本当に笑って話せるほど、わだかまりを残されなかったのだろうか?

          ・ ・ ・

昼食を清彦様と取り、お茶を飲む。昼前に山下さんが旦那様を迎えに行かれた。 

もうすぐだ、もうすぐ。落ち着け、落ち着くの。心臓が踊ってる。私は旦那様が帰ってこられたら私は正式に清彦様を引き継ぐ事を旦那様に宣言するんだ。
そうこうしているうちに、旦那様の乗った自家用車が帰ってきた音が聞こえてきた。

          * * *

玄関で待っていると旦那様が奥様を連れて入ってこられた。

「おぉ、清彦。留守中はどうだった?なにも変わった事はなかったか?」
旦那様は私にそう言って声を掛けらた。

清彦様と私が入れ替わっている事に気付かれておられないようだ、脱いだ上着を清彦様に預けられる。

私が清彦様と入れ替わった事を報告する前に奥様に昔の事を聞いてみたい衝動に襲われる。
奥様に清彦様として声を掛けてみる。

「それで…… 母さん、ちょっと話があるんですが?」
「あら?清彦が私に相談なんて珍しい。なにか失敗したの?」
そう言って奥様は私に微笑まれる。

「えぇ、まぁ…… ちょっと……」
どう切り出したら良いかもわからずに言葉を濁す。

「いいわ、なぁに?双葉さんに聞かせられない話?それならリビングの方に行きましょう。
そう言って奥様はリビングに向かわれる、それを追うかのように私もついて行く。

          ・

リビングにはいると奥様はお茶を入れて自分と私の前に置いてくださる。
「で、お話ってなあに?清彦」

私は意を決して口を開く。
「奥様、お聞きしたい事が……」

それを聞いた奥様が怪訝な顔をされて、首をかしげられる。
「奥様……? あれ?ひょっとして双葉?双葉なの?」
「はい、双葉です」

それを聞いた奥様が笑い出す。
「あはは、使ったんだ?あの薬。で、どう?清彦になった感想は?」

「実はそのことでご相談があるのですが……」
「ふ〜ん、なにか暗そうね? ……ひょっとして、清彦を襲っちゃったとか? イヤがる清彦の処女を無理矢理奪って二度と元に戻れ無くなっちゃったとか?」
はい、大当たりです、奥様。

私が黙っていると奥様は全てを察せられたようだ。
「あぁ、そうなんだ…… 若い性を暴走させちゃったんだ?だから暗いんだ?」
そう言って少し考えた後、再び口を開かれる。

「あのね、双葉。 あなたがしたことをあまり気に病む事は無いのよ?」


私は奥様の言われた意味がわからず問いかけた。

「え?それはどういう……」

「それは薬のせいだと思うから。あの薬を使うと魂が抜けやすくなると同時に体内に残った薬はなんて言ったらいいかな? 例えて言うなら、遅効性でアッパー系の媚薬?そんな効果を体に及ぼすみたい」

「はぁ!?それはいったいどういう事ですか? まさか、入れ替わった相手を襲いたくなるとでもいうんですか!?」

「さすが、双葉ちゃん。察しが良いわね〜。 うちの旦那様の時がそうだったのよ。 最初はね、私を座敷牢に閉じこめて反省したら元に戻ろうと思ってたらしいのよね?でも、閉じこめた私を見てるうちにイタズラしたくなってあちこち触りまくっているうちに段々興奮してきて犯したくなってきたみたいでね。 あはは、何考えてそんなお薬をつくったのかしらね、うちの先祖は?」
笑う所なんですか?どうも奥様という人がよくわからないわね?

「それで乱暴されてしまわれたんですか?」
「そう、それはもう人が変わったみたいに陽気に犯されまくったわよ?『わはははは、もうこれでお前は元に戻れないんだぁ』ってね、ふふ」
ですから、なんでそこで笑うかな?自分の事でしょ?でも……

「一緒だ…… 私の時と…… じゃ、あれは薬の影響?」

「まぁ、そう言う事でしょうね? やっちゃた後、すごく落ち込まなかった? 旦那様は正気に返った後にすごい顔で落ち込んでたわよ?というか、自分でヘンだと思わなかったの? 双葉ちゃんって清彦命な娘だから厳しい事は言っても、普通は傷つけるような事はしないと思ったんだけどな?」
私は全身の力が抜けて床にへたりこむ。

「言っておいて下さいよぉ!そう言う大事な事は! 知ってれば必死に耐えたのに。おかげで私は取り返しの付かない事を……」
「大丈夫、大丈夫、一回ヤられちゃったくらい犬に噛まれたと思って忘れさせちゃいなさい」
軽い、なんて軽い人なんだ。

「いや、でももう元に戻れないんですよ? 双葉の、女の子のまんまなんですよ? 犬に噛まれたで済ませる話じゃないです」
「犬に噛みちぎられたと思って、で済ませちゃえば?」
噛みちぎられたって、あなた?
  
「ですから、そんな軽い物ではないですから」
「う〜ん、私の場合はそれで済ませちゃったんだけどね〜、あはは」

「あ、そうそう、その事をお聞きしたかったんです。奥様は旦那様に全てを奪われてしまわれたんですよね? それに対してのわだかまりとか、そのような物は無かったんですか? 旦那様に普通に接する事ができたんですか?」

「う〜ん、私の場合はね〜、取られて惜しい物ってそんなに無かったから。 姿こそ変わっちゃたけど、秋山家の人間である事は変わりないからね。 財産取られたという意識はないかな? 友人は秋山家の資産に付いてきた友人ばかりだったから惜しくなかったしね。 あはは。あの当時は喧嘩相手の旦那様さえいれば、後はどうでもいいかな?って」

「そうなんですか?ダメだ、清彦様とは精神構造が違いすぎてあまり参考には……」
「なにげに失礼な事言ってない、双葉ちゃん?」


「すいません。今後、清彦様とどう接したらいいのか助けのような物が欲しかったものですから……」
「あぁ、そう言う事。 ん〜、私たちと同じ事してみる?私たちはうまくいってるわよ?」

「奥様達と同じ? 教えて下さい、是非!」
私は藁をも掴む思いで奥様の声に耳を傾ける。

「間違いを間違いと認めないで、そのまま清彦を拉致監禁して女の悦びに目覚めるまで犯し続けるの。 
もう男になんの未練もないと思うようになるまで。ふふふ」
返せ!傾けた耳を返せ!

「バカな事を言わないで下さい!そんな事をしたら清彦様は壊れてしまいます!って、奥様そうだったんですか!?」
「えぇ、まぁ、それだけでもないけど、女でもいいかなぁ?ってね」
ダメだ、やっぱりこの夫婦ってヘン。まったく参考にならない。


そんな会話をしているとリビングの隅の内線が鳴る。

「はい、えぇ、居ますよ。わかりました」
受話器を置くと奥様が私に声を掛けられる。
「双葉ちゃん、旦那様がお呼びよ。書斎に来てって」
あ〜、そう言えば清彦様、旦那様について行ったから事情を話されたのね。

「それじゃ、奥様、失礼します」
頭を下げてリビングを後にする……

          ・


……
「あの、奥様?なんで付いてくるんです? なにか用事でも?」
「いえ、だって、面白そうな予感がしない?ついて行っちゃダメなの?」

「いいです、ご自由に。 だめと言っても来るんでしょ?」
「うん♪」
はぁ、なんでしょうねぇ。 この家に引き取られて5年になるけど、こんな性格の人たちだったとは気付かなかったなぁ。

          ・ ・ ・

書斎のドアをノックして中に入る。

中には予想通り旦那様と清彦様。奥様は後から静かに入ってきて後ろのソファーに腰掛けられる。


旦那様の前に立ち尋ねる。
「なんでしょう、旦那様」

「双葉、清彦になにも言ってないのか?」
あぁ、そう言う事ですか。 確かに旦那様から聞いた入れ替える目的だけしか清彦様には説明してなかったっけ?

「当主の資質に欠ける清彦様の代わりに私が替わって清彦様になります、と説明は致しました」
私の説明に旦那様が清彦様に振り返る。

「なんだ、言ってあるんじゃないか、清彦」
そう言って清彦様の肩を笑顔で叩く旦那様。

いえ、旦那様?そんな単純な話じゃないでしょ?補足して下さいよ?
「ただ、旦那様の薦めでおこなったとは言っていませんが。 私が言っても信じていただけるかわからなかったので」


「あぁ、そう言う事か。 いいか、清彦。我が秋山家には代々伝えられた秘薬がある。これを使うと魂の入れ替えができるというものだ。 実際に使ってみたんだから真偽のほどはわかるな? 秋山家では当主の資質に欠けるものが次期当主となって秋山の家を傾かせると現当主が判断した時、より資質に恵まれたものに魂の交換を行わせて、当主を任せる事になっている。 残念ながら清彦、当代ではお前がそれに当たる事になってしまった。 肉体さえあれば秋山家の血はちゃんと次に継がれていくというのが古来からの秋山家の考え方だ。残念だったな、清彦」

旦那様は清彦様にそう告げると、私の方を見て尋ねられる。

「で、どうだ双葉?これからも清彦をやっていくのか?やっていく自信はあるのか?」
「はい、これからは私が清彦様をやらせていただきます。どうぞよろしくお願いします」
それしか、私には残されていません。 そして、ずっと清彦様を守ってお幸せにします。

「聞いたとおりだ、双葉。 これからは清彦を助け支えてやるんだぞ。 俺と清香のようないい関係を築けよ」
清彦様に『双葉』と呼び掛けて旦那様は笑う。

旦那様と奥様のような関係? それはちょっとヤかも…… 幸せそうなのは認めますけど……

顔を上げられた清彦様と目が合う。

大丈夫、これからも私がついています。 双葉である事はどうしようもないけど絶対に不幸になんかはさせませんよ。 私は清彦様に安心してもらおうと微笑みかける。


しかし、その瞬間、清彦様の体が崩れ落ちる。
「え?清彦様?!」
私は清彦様に駆け寄る。

「ん?どうしたんだ、清彦は?」
旦那様が清彦様を覗き込まれる。

「ショックだったんですよ。 貴方が頼みの綱だったのに、仕掛けた張本人だったと知って。 かわいそうに……」
奥様が旦那様を軽く非難の目で見られる。

「それより、清彦様です!どうなってしまわれたんですか?」
「あぁ…… だから、ショックで気を失っただけだろ?気の弱いヤツだなぁ、すぐに目を覚ますさ」
旦那様は気楽そうに言われるけど、本当に大丈夫なんだろうか?
















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