「秋山家の陰謀 03・変異する日常、双葉編」


私は双葉。

資産家秋山家の跡継ぎである清彦様の婚約者だ。

その昔、この秋山家に引き取られて、秋山家を支えていく為に清彦様と共に英才教育を施されてきた。
そう、私の全てはは秋山家の為にある。

………なんちゃって。

          * * *

そんな私が旦那様の部屋に呼ばれたのは旅行に行かれる前日の日だった。

「お呼びでしょうか?旦那様?」
部屋に行くと旦那様と奥様が待っていた。

「あぁ、双葉。 入ってこっちに掛けてくれ」
そう言ってソファをすすめられた。

「早速なんだがな、双葉。 清彦を見てどう思う?」
「え?どうとは?質問の意味がよくわからないのですが?」

「跡継ぎとしての資質についてだ。忌憚のない意見を聞きたい」

う〜ん、資質ねぇ?ハッキリ言ってちょっと…… 考えた事が顔に出たのだろう、旦那様が話を続けた。

「私もアレはダメだと思う、性格的にも精神的にも秋山家の全てを背負って行くだけの力はないと思う」
「しかし、その分私が清彦様を全力で助け、立派に補佐していきます」

「うん、お前の力は信用している、何人かいる候補の中でもお前の才能はずば抜けている。だからこそ、婚約者として認めたのだが……」
だが?だがって?なに?ひょっとして私、何か失敗した?

「あの…… 旦那様? だが、というのは?私では何か至らぬ処がありましたでしょうか?」

旦那様は笑ってそれを打ち消す。
「いや、そうじゃない。お前にはなんの落ち度もない。あるのは清彦の方だ。 なぁ、双葉? 秋山家を補佐するんじゃなく、いっそ自分で支えてみないか?清彦をやる気はないか?」
「はい??」

私は旦那様の言った言葉の意味が理解できなかった。 秋山家を支える?当主になるという事かな?でも、清彦をやるって?殺る?犯る?演る? ここは”殺る”なのかな?日曜サスペンス劇場?当主を殺して秋山家を乗っ取る?


「変な顔をしているな。まぁ、意味がよくわからないだろう。まずはこれを見てくれ」
そう言って、旦那様が傍らから出したのは古そうな文箱だった。

          ・ ・ ・

説明を聞き終わり、私はさらに変な顔をしていたのだろう。

「信じられないか?信じられないだろうな?そんな胡散臭い話は」
「えっと…… まぁ。 仮にそれが本当にそんな力があるとして、私が清彦様になって跡を継いでしまっても良いのでしょうか?」

「あぁ、元々、秋山家は過去に何度もそういった事をやっていたらしい。 跡継ぎとしての資質に問題がある者が出てきた時はもっとふさわしい資質を持った者がその人物に代わって跡を継いだらしい。 それによって秋山家の直系の血と肉はちゃんと残されていくからな。 女性で処女にしか使えない秘術と言うのが欠点だがな」

「……まぁ、たしかにそれだと血と肉は残りますが。 でも、本当にそんな事ができるんですか? 魂の交換なんて?」
「できるさ。私の若い頃の話は聞いているな?」

「え?あ、はい。お若い頃は放蕩三昧でこのままではそう遠くない未来に秋山家は俊彦様に食いつぶされてしまうだろうと言われていましたが、結婚後はすっかり落ち着かれて秋山家はつぶれるどころか、ますます繁栄したと言う話ですか?親戚の方々から聞きました。案外、若い時は遊ばせておいた方がいいかも知れない、と……」

「ははは、遊ばせておくのも勉強だってか?莫迦なことを」
旦那様がその評価を笑い飛ばす。

……えっと、ひょっとして今の話の流れでいうとそれは? 目線が隣で控えている奥様に向く。

「なに?イヤだわ、双葉さん、おかしな目で私を見て」
そう言って、奥様は笑う。 そうよね、いくらなんでもそんな筈は……

「ははは、どうだ双葉?これが若い時に放蕩三昧で秋山家を傾かせた男だとは思えないだろう?」
「もう、恥ずかしいですわ、清香さん」

旦那様に向かって自分の名前を呼び掛ける奥様。 へ?と言う事は…… 


「当時のコイツはどうしようもなくてな。 いくら口を酸っぱくして注意しても態度を改めようとせん。で、先代の当主がこれを私に託されてな。お前の好きなようにして良いと。そこで、コイツの食事にこれを混ぜて体を交換して、それまでの恨みとばかりに寝ている間に座敷牢に閉じこめてやったんだ。起きた時のこいつの顔ったら。わははは」
「もう、あなた!」
奥様が旦那様の肩を恥ずかしそうに掴む。

えっと…… それは顔を赤らめて恥ずかしがる思い出なんですか、奥様?

「で、戻せ、返せと悪口雑言の嵐で大騒ぎ。でも、その時にはもう後の祭りさ。 生意気な口をきけないように換魂丹の説明をしてから、ここぞとばかりに犯しまくってやったんだ」
笑う旦那様。

「ふふふ、懐かしいですわね……」
いや、だからですね?

「もう必死で抵抗したもんな?泣き叫んで、殴るわ、蹴るわ、な、俊彦?」
「ふふ、あのときは本当に必死だったんですよ?わかってます?清香さん」
上目遣いで旦那様の腕をつねる奥様。

え〜と、必死感が伝わってこないのですが……

「それでも、こいつは凄かったぞ。 心を完全に折るまで一ヶ月は掛かったからな。 逆らう気が完全になくなるまで毎日、毎晩、犯し倒し! わははは」
「もう、あなたったら、ケ・ダ・モ・ノ」
旦那様の胸をポカポカ打つ奥様。

えっと、いや、もういいです……

「清彦を孕んだ時には俺にすっかり従順になってたもんな。 産んだ時には一生ついて行きますと清彦にお乳をやりながら笑ってたしな、うりうり」
奥様を引き寄せ、その頭を撫でる旦那様。
「もう、双葉さんが呆れてますよ、清香さん」

はいはい、今はラブラブで幸せなんですね?っと。

いつもの厳格な旦那様と貞淑な奥様とは思えないデレっぷりを見せつけられる。

          ・

そのあと、一通りノロけられて、私が尋ねる。
「……それで。 今度は私の番だと?」

「いや、双葉の番というワケではなく、どちらかというと清彦の番だという事だな。ずっとみてきたが、あれはダメだ。 跡を継ぐには押しが弱すぎるし、根性もない」

そのヘタレっぷりが清彦様の魅力なんですが? そう、私はそんな清彦様が大好きなのだ。私の母性本能を激しく刺激してくれる清彦様。

態度には絶対に出さないけどね……

「それは私には拒否権がない事なんでしょうか?」
「いや、あるよ」
旦那様があっさりという。

「こんな事を無理強いしてやらせても、そのうちに破綻するからな。 これは納得してやってもらわないとな」
「では、私が拒否したら私はどうなるのでしょう?」

「どうもならないさ。お前の才能は信用してると言っただろう?手放すには惜しすぎる」
よかった、このまま何もかわらないのか。
「その時は"清彦"は別の者にやってもらうから、双葉は引き続きその"清彦"を補佐してくれればいい」

え……?

「えっと、それは他の人と清彦様の魂を交換すると言う事ですか?」
「あぁ、そうだ。今の清彦では秋山家の跡は継がせられないからな」

清彦様、完全に見捨てられてますよ……(泣

「それは候補は決まっているのですか?」
「あぁ、今のところは秘書の若葉かな?」

げっ?あのタカビーの若葉?アレを将来、旦那様と呼び一生仕えていくの? ヤだなぁ。 それにそんな清彦様はヘタレてないんだろうな、しっかりした清彦様なんて清彦様じゃない!

「あれ?でも秘術は処女じゃないと使えないと……?」
「ん?事前に調べた処、若葉は処女だ。なんの問題もない」

あんのおんな〜!人と顔を合わすたびに「双葉さんも清彦様と婚約しているのはわかるけど、偶には男の人と遊ばなくっちゃだめよ?私の男を何人か紹介して上げましょうか?」だとぉ?! アンタも男なんかいないんじゃないか!

「どうした、双葉?顔が怖いぞ?」
旦那様が不思議そうな顔をする。

「いえ、別に。ほほほ。 ……あれ?若葉さんが清彦様になると言う事は清彦様の魂は?」
「ん?当然、若葉に入るな」

「清彦さんが旦那様の秘書になるんですか?清彦様に秘書なんかできます?」
「できないだろうな、それだけの能力があるならこんな話は出てこないさ。その時はどこか秋山家の系列の会社のOLにでも配置換えをする事になるな」

「はぁ、清彦様がOLですか?それもできるかなぁ?」
「できなくてもいい、若葉は見ての通り美人だ。 少しの間でも会社に顔を出していれば誰かが見初めるだろう?そしたら結婚して寿退社だ。 まぁ、能力のない嫁さんを貰う男には気の毒だが、仕方がないとあきらめてもらおう」

うわっ、何げに外道な事を言ってますよ、旦那様。 それにしても完全に見捨てられてるな清彦様。

「えっと、それらに対して秋山家のフォローは入るんですか?」
「いや、雇用関係のOLの一人一人の生活能力の面倒まで秋山家は見ないだろう?魂だけとはいえ、清彦とて例外ではない」

えっと……つまり若葉と魂を交換された場合、ヘタレ王の清彦様は完全に秋山家から見捨てられる、と?

じょ、冗談じゃない!あの若葉って、タカビーで同性から嫌われてるんですよ? 若葉だから自信満々でそんなのを跳ね返していられるんです!そんな体に入れられて、秘書からただのOLにおとされた清彦様が耐えられるわけないじゃないですか?女のイジメって怖いんですよ?わかってますか、旦那様? 

……とか、訴えても気にしないんだろうな、旦那様。(泣

「で、双葉としては清彦をやるのは気が進まないんだな?わかった。 変な事を頼んで悪かったな。すまなかった。それじゃ、もう休んでいいから」

そう言って、旦那様は座っていたソファから腰を上げようとする。 すかさず、その腕にすがり首を振る私。

「ン?どうした、双葉?」
「……考える猶予を頂けませんか?私も心の準備というものが」

少し意外そうな顔をする旦那様。
「確かにいきなり言って即答を求めるのは無理だったか。いいけど、なるべく早い良い返事を期待してるぞ。 とりあえず、その文箱は預けておくから好きにしていいからな」

そう言って、問題の文箱をこちらに差し出す。それを受け取りながら質問する。
「あの旦那様?旦那様は先代から頼まれた時は迷われなかったんですか?」

「あ、俺は即答。当時はこいつへの恨みと反感で一杯一杯だったからな、わははは。こいつをひどい目に合わせられるんだったら、なんの問題も無し! あれから人生が楽しくって、楽しくって」

「あん、外道な人!もうオニなんですからぁ!」
あ〜、幸せになって良かったですね、奥様。 旦那様、根が男だったんですね、最初っから。(泣

件の文箱を持って旦那様の部屋を後にする。

          ・

清彦様は完全に旦那様に見切られている。
若葉と清彦様の魂を交換させられると、私は中身が若葉の清彦様に使えて、清彦様は秋山家から完全に縁がない只のOLにされてしまう。

やはり、現時点のベストは私と清彦様の交換か?私が男?そりゃ性別が変わる事に戸惑いはあるけど、背の低さがコンプレックスの私に清彦様の背の高さはちょっと魅力。 
それにあの清彦様を私の好きにできる、ふふふ。うわぁ、なんか黒い心がわき出してきそう。
私になった清彦様ってどんな反応するんだろう? ……なんか、わくわくしてくる。 サドっ気があるのかな、私? 


そんな事を考えていると向こうから問題の清彦様が歩いてくる。

「あぁ、双葉。父さん、なんだった?旅行の段取り?お土産は食べるものでいいって言っておいてね」

あぁ、この人はどうしてこうもノンキなんだろう?
自分にかなりの危機が迫っているのに気付いてないんだろうなぁ。
何の話をしていたか言ったらパニックを起こすだろうなぁ。

いっそ、言ってやろうかな? 言ったら旦那様の処に抗議に行くかな? 
でも、旦那様の事だから笑って清彦様を拘束して旅行から帰ってくるまでか、私が決断するまで座敷牢にでも放り込んで旅行に出かけちゃいそうだなぁ。

「えぇ、そんなところです。 清彦様?清彦様は何をなさってるんですか? またゲームでもやっておられたんですか?」
あぁ、なんで清彦様と向かうとこんな冷たい話し方しちゃうんだろ?

「うん、まぁね、そんなところ…… じゃあね」
あ、逃げちゃった。もっと話したかったのに……嫌われてるのかな、私。面と向かうとこんな話し方しかできないから。


          * * *


「それじゃ清彦、留守番を頼むぞ。日曜の午後には帰るからな」
「うん、わかったよ」
旦那様の言葉に清彦様が応える。

「双葉と二人でしっかりと留守を頼むぞ」
私の方にも声を掛けられ、私は頭を下げて応える。
「はい、お任せ下さい。清彦様とりっぱに留守を守らさせて頂きます」

「うん、双葉も留守番中の事は期待しているからな」
私の肩に手を置き、顔を見つめられる。 言外にあの事を言ってらっしゃるんだろうなぁ。

「よし、行くぞ」
「はい。では清彦、双葉さん、留守をよろしくね」
旦那様と奥様が車に乗り込まれると車がゆっくりと発進する。


それを確認すると清彦様のノンビリした声が掛かる。

「行っちゃったね……」
「はい、行かれましたね」

「どうする?」
「どうすると言われましても私は私の仕事の続きをさせてもらうだけですが、清彦様には私に何かご用がおありでしょうか?」

「いや、別にないよ、僕は部屋でゴロゴロしてるだけだから」
そんな風だから旦那様に見捨てられるんですよ?

「部屋でゴロゴロですか?何か有意義な事をされてはいかがですか?のび太さん?」
ついつい、皮肉を言ってみたくなる。

「誰がのび太だ、自分の時間を自分の好きに使って何が悪いんだ」
いえ、悪くはありません、ありませんけど、それなりの自覚は欲しかったですね、もう遅いですけど。

「確かに…… それでは私は自分の仕事をしていますので、ご用がおありの時は呼んで下さい」
とりあえずは溜まった仕事でもこなしながら、今後の事を考えますか。 清彦様と私にとってのベスト案でも……

          * * *

一日、二日と時間は立つ。

考えはまとまらない。 現状維持 ……は旦那様が認めないだろうぁ、そうすると若葉のバカが清彦様になるのか。

若葉だったらその案を飲むかな? 
……飲みそうな気がするな、上昇志向はあるヤツだから。 
秋山家秘書から秋山家当主…… 破格な出世だもんなぁ 
男になる事に抵抗はあるかな?あの歳で処女って事は男を知らないんだよなぁ、確か今年で24だっけ?
処女の二〇代の身から(顔と容姿だけなら)イケメン高校生か?アイツならOKしそうな気がするなぁ。
女なら嫌な性格でも、男だったら長所に見えない事もないからなぁ……

やはり、私が乗っ取っちゃおうかな、清彦様。 
なんか、清彦様としての生活って楽しそうな気もするんだよね。
それにそうしたら、体こそ違えど大好きな清彦様とずっと一緒にいられるしね。 
もし、現状を維持できても将来、清彦様に別れると言われたら、私は捨てられる側の人間だもんね。
だったら、私が清彦様になれば、私が清彦様を離さなければ一生一緒にいられるし……

          ・ ・ ・

三日目。

廊下を洗濯物を持って歩いていると向こうから清彦様が相変わらずノンビリと歩いてくるのが見えた。
つい、強い口調で聞いてみる。
「清彦様、清彦様は旦那様が旅行に行かれてから家の事について何かなさっておられるんですか?」

「いや、別に。こんな時くらい気軽にノンビリと部屋でゲームしたりビデオ見たりして過ごしてもバチは当たらないさ」
「清彦様は今年受験なんですよ? そんなことでいいんですか? バチが当たってあとで困っても知りませんよ」

「大丈夫、二流とまでは行かないが三流大くらいには入れるだけの学力はあるから。 どうせ、就職先はウチなんだから学歴は問題じゃないさ。 そう言えば、お前は大学は行かないのか?それこそ一流大でも楽勝だろ?」

なんかすっかり流されるままの人生設計を立てておられる。

「すっかり、ダメ人間ですね? 私は高校を卒業したら、結婚して清彦様を旦那様として生涯を仕える事になるので、これ以上の学歴は不要なのです」
そうだよね?考えてみれば学歴がいらないのは私の方なんだ?なのに、学力は私の方があるんだ? 私が清彦様になったら今からでも一流大学は狙えるのよね?秋山家に相応しい学歴が清彦様に与えられる……

「仕えると言ってる割には言う事がキツいんだけどな、なんとかならない?」
そんな事を考えているとも知らず、清彦様が注文を付けられる。

「その時になれば、ちゃんと清彦様を立ててごらんにいれます。 それまでには清彦様も自覚を持って下さいね」
そうだよね?"双葉"なら清彦様でもできるんじゃない?

最初は嫌がるかも知れないけど…… ただ、私の後を付いてきて下さればいいだけ。
あのかなり抵抗を示されたと言う奥様も幸せそうに話してらしたじゃない? 案外、案ずるよりも産むが易しってヤツ? お試しでやってみましょうか?

ダメだったら戻せばいいしね。何回でも出来るんだから……

          ・

清彦様の夕食に旦那様から預かった換魂丹を入れる。 
効き目が現れると魂が離れやすくなって気を失うらしい。
本当に魂の交換なんてできるのかしら?旦那様達にからかわれただけかも知れない。
まぁ、実行はタダだし…… 

あれ?そう言えばこの薬って相当古そうだけど消費期限(?)ってないのかしら?

          ・ ・ ・

夕食。

何も疑わずに夕食をとる清彦様。

あ、手が止まって行く。 あ〜、そろそろ危ないかな?あ、あ、倒れそう。あ、持ち直した。 ……と、思ったら後ろに仰け反って、あ、…… あぶないなぁ。 私は立ち上がってそっと清彦様の後ろに回る。

「そんな所で寝るとあぶないですよぉ」
と、うしろに倒れそうになる所を背中から受け止める。

う〜ん、完全に寝ちゃってるわね?

さてとこんなにバランス崩して椅子に座らせておけないし…… 

二階の清彦様の部屋に運ぶには私では階段が危ないわね。 
仕方がない、下の私の部屋に運びましょうか。

          ・ ・ ・

さてと、清彦様をベッドに寝かせて。

えっと、薬が効いているうちに呪文を唱えてキスをすればいいのね?

こんな簡単な呪文でいいのかしら?
それで、薬の効き目が切れれば魂が固定されて目覚める、効果発現時間は約一時間後、と。

再び、交換する場合は同じ手順を踏んで相手に呪文を唱えるように命令すればいい、と。

”彼の魂を我が体内に捕らえ、我が魂を彼の肉体へと解放せよ”と”捕らえる”と”解放”を入れ替える事で命令権の主導が変わり、命令権を付与しない場合は”導く”と言い換えればいいのね?

よし!それじゃさっさとやりますか。

 交換せしは清彦と双葉の魂。
 彼の魂を我が肉体に捕らえ
 我が魂を彼の肉体へと解放せよ

そしてキスと…… うわっ、ファーストキスがこんな儀式だってのも哀しいわね?

チュッ

その途端、私の頭の中がブラックアウトする……

          * * *

…………あれ?いつの間に気を失ってたの?体が重い。誰かが私の上に被さってる?うわっ!私だ!

私のベッドに私が寝てて、その上に私が被さってる? 
えっと、本当に入れ替わったの? 私が清彦様?鏡、鏡!

私はベッドから起きあがり、私に被さっていた私の体を変わりにベッドに寝かせる。
そして、机の上に置いてある手鏡をのぞき込む。

うわぁ、清彦様だ、この顔は本物の清彦様だ。 ウソじゃなかったんだ、旦那様のおっしゃった事は。

ひといき体と顔を調べた挙げ句に、今度はベッドの上の私をのぞき込む。

う〜ん、これが清彦様?かわいい! なに?この寝顔。 私ってこんな顔して眠るんだ? うわぁ、なんだかワクワクしてくる。

あ〜、いくら見ていても見飽きない。かわいいなぁ、清彦様。 
これは是非ともこの姿でメイドもやって欲しいわね? 
ちょっと、からかってみようかな? どうせ戻すのは土曜の夜か日曜の朝まででいいでしょうから…… 
うん、そうよね。

          ・ ・ ・

そろそろお目覚めの頃だしね。私は清彦様の体に手をやる。

「おい、大丈夫か?双葉!」
私は清彦様のフリをして清彦様を揺する。少し、揺すっていると清彦様が目を覚ます。

「うぅん、頭がクラクラする……」
「大丈夫か?」

「え? あれ?なんで僕が目の前に?ここは?」
ふふ、混乱してる、混乱してる。 よし!

「済まなかったな、僕を支え損なってお前の方が床に頭を打ち付けてしまったようだな。 どうしたんだ、双葉? どこか体の調子がおかしいのか? 医者を呼んだ方がいいのか?」

ふふ、おかしい。清彦様、きょとんとしてる。

状況がよくわかっていないのね。 面白いから状況を把握されるまで、お芝居を続けてみよっと。

「誰だ?」
「双葉?本当に変だぞ?」

「双葉がどこにいる?僕は清彦だ、お前は誰だ?」
「おいおい、双葉はお前の名前じゃないか?僕の顔もわからないのか?清彦だよ、お前の婚約者の!」

「ほら、これがお前の顔だよ、自分の顔も忘れたとでもいうのか?」
「そんな…… バカな……」

「ちょっと、待ってろ!すぐにウチの掛かり付けの安田先生に往診にきてもらうから」
私は自分の部屋から飛び出す。あぁ、ダメ。あれ以上あそこにいると笑い出してしまいそう。

ドアを背に、お腹を押さえて笑い声を押し込める。


そうだ、ついでにお薬の影響が出てないか、先生に見て貰いましょ。消費期限書いてなかったしね。簡単な診察くらいしてもらっておいた方がいいわよね?

          ・

その後、会田先生を呼び、適当な会話で清彦様を見て頂いてる間に精神安定剤で清彦様は眠ってしまわれた。

さてと。先生は帰られたし、清彦様は寝ておられる。 私はどこで寝ればいいのかしら?やはり清彦様の部屋よね? 仕方がないわよね?日曜まで使わせてもらっちゃおうっと。 うふふ。

          * * *

朝。

夕べは面白かったなぁ、さて、清彦様。今朝はどんな顔をしておられるかな?

私は自分の部屋のドアを開けて清彦様に朝の挨拶をする。

「おはよう、双葉。 どうだい、体の具合は?やっぱりいつもに時間に起きられなかった処をみるとまだ調子が悪いのかな?」
「誰だ、お前は?」

はは、さすがに一夜空いたら気が付くわよね。でも、もうちょっと……

「まだ、頭の混乱が治まっていないのか?お前の将来の旦那様の顔もわからないなんて……」
清彦様がベッドから起きあがり、私に迫る。
「お前!双葉じゃないのか?」

「何を言い出すんだ、一体。見ての通り僕は清彦だよ、お前、つまり双葉のご主人様」
「違う!清彦は僕だ!僕が清彦なんだ!」

うぅ、かわいい!なんてかわいいんでしょ、双葉な清彦様!怒った顔が素敵だ。
ダメだ!ニヤケちゃう、下を向いて顔を隠す私。

「どうなんだ!本当の事を言えよ!」
「ふふふ……」あ、声に出ちゃった!

今までの反省を求める意味でもうちょっと苛めてみようかな?清彦様。

「まぁ、こんな事で簡単に暗示に掛かって納得して下さるとは最初から思ってはいませんでしたから」
「どういう事だ?説明して貰えるかな?」
うわぁ、ダメですよ、清彦様。 かわいい顔で怒ると私のスイッチが入っちゃいますよぉ!

「我が顔ながら…… 美女に睨みつけられると被虐心をかき立てられますね。いいでしょう、お教えします。 清彦さん、ご主人様が旅行に出かけられてからのここ数日の行動を改めて観察させていただきました。 秋山家に関する事業の事を何も知ろうともされず、それでは学業に専念されているかと言えば、遊んでおられるだけ。 あまつさえ大学は入れればどこでも良いと言われる始末。 そのような事では今後の秋山家の未来に関わります。 つまり、あなたは秋山家の次期当主としての資質がないと私は判断せざる得ません。 

私の役目は秋山家を支える事です。
そのために私は”秋山清彦”として秋山家を支える事に専念させて頂くと決めました。

幸いにも”双葉”の最低限の役目は跡継ぎを産む事です。 それくらいの事なら清彦様にもお出来になると思われます。

という理由から、ある秘術を使って体を入れ替えさせて頂きました。 今後は、卒業までは今まで通りの私の仕事を引き継いでもらい、卒業後はすぐに結婚して私の妻として子供を産む事に専念して頂きますので、よろしくお願い致しますね」

と、旦那様達も思っておられますが、そう言っても私の口からでは信用して下さらないのでしょうから口には出しませんね。

「ふざけるな!そんな事が許されると思っているのか!今すぐ戻すんだ!」
「ダメです、もう決めた事ですから」

そう言えばもう一つの特徴である”命令”は効くのかしら? 試してみますか。
『それと、入れ替わっている事は他の誰にも知らせてはいけないよ、命令だ』

「冗談じゃない!父さん達が帰ってきたら言ってやる!覚悟して置けよ、双葉!」
「何を言うとおっしゃるんですか?」

「決まってる、お前と僕が…………」
あ、声が止まった?効いてるの?凄いわね。これ。

「うん、術は聞いているようですね。 この術は体を入れ替えた者が入れ替えられた者を支配する事ができるのですよ、私が強く命令すると逆らえなくなるので覚えておいて下さいね」

「そんな……」
うわぁ、困った顔がまた何とも…… 
ダメです、清彦様。 双葉をこれ以上イケない道に誘惑しないで下さい。
双葉は、双葉は…… 楽しくなってしまいます。


それではややこしい事にならないように保険を掛けておきましょうね。

『それでは、双葉。 いつまでもそんな格好でいないでさっさと着替えて朝食の準備をしなさい。 
そうそう、これからは君は双葉だからね、間違えてはいけないよ。 命令だ、皆の前では今までの双葉と同じように対応するように。 まぁ、最初から私のレベルで行動できるとは期待してないけどね』

「わかりました、清彦様」
ふふふ、清彦様が私の事を”清彦様”だって。

楽しい、すごく楽しい。ポーカーフェイスを保てなくなりそう。

その後、清彦様を制服に着替えるように指示して、朝の日課をこなしに部屋を出る。

いや、本当は清彦様の着替えをずっと見ていたかったんだけど、あの涙目を見ていると理性が吹っ飛んで行きそうだったので逃げ出したんですけどね。

          ・

食堂で軽い朝食を用意して清彦様を待つ。暫くして清彦様が食堂にやってくる。

うわっ!そのモジモジした歩き方はポイントですよ!清彦様。お顔の赤さがさらに追加点!

「遅い!何をしていたんだ、双葉!」
思わず照れ隠しに怒鳴ってしまう。

うわぁ、ダメだ。ついつい感情をごまかす為に口調が厳しくなっちゃう。

          * * *

清彦様として学校に登校すると未知の体験に気分が高揚してくる。 それに比べて清彦様はすっかり意気消沈してらっしゃるようだ。 ちょっと、注意だけはしておこうかな?

「双葉?大丈夫か?秋山家の人間として恥ずかしくない行動をしろよ?」
周りの女子達がそれを聞いてツッコミを入れてくる。

「ハハハ、嫌ぁだぁ、清彦君。 それは清彦君が言われる事じゃない!」
「そうそう、双葉さんはいつも品行方正、成績優秀なんだから」
「うんうん、運動もできるし。清彦君の方がいつも双葉さんに負担を掛けてお世話になってるんだから」

これって私が褒められているのよね?結構、私って人から認められてたんだ?そうだ、ついでにフォローを頼んじゃお。

「うん、そうなんだけどね、双葉は昨日ちょっと屋敷でコケちゃってね、頭を打って気絶してから様子がおかしいんだ。 ほら見てよ?」
清彦様を指さす。

「あら?そう言えばいつもなら、すぐに一時限目の用意をし終わって今日の授業の予習復習に余念がないのに……」
「ホントだ、いつもみたいに目に力がないみたい、なんだか目が死んでない?」
「きゃは、ほんとだ、どちらかと言うと清彦君の方がいつもより目が生き生きしてる」
「ははは、ひどい言われ様だな。 とにかく、そう言う事なんで周りの君たちフォローしてやってくれないかな」

女の子達との会話を切り上げ、清彦様の席に戻ろうとすると、背後で清彦様が振り返る。

「うん?どうした双葉?なにか用か?」
「いえ、別になにもありません、清彦様」

うわっ!みんなの前で私を様付けですか?もうちょっと臨機応変に対応して下さい!恥ずかしすぎます!

「ははは、ダメだぞ、双葉。 学校ではいつものように”清彦さん”でいいから。 屋敷と学校は別なんだから、ここではお前もクラスメートなんだからな」
「わかりました…… 清彦さん」
うぅ、可愛い! 侮り難し、清彦様。

          ・ ・ ・

授業はそれなりにやり過ごせたのだけど…… 
なに?この清彦様のノート?ただ黒板の文字を書き写してるだけじゃない?
要点もなにもあったもんじゃない。こんなのでよく授業について行けてるわね? ほら、やっぱり指されても答えられない。

その答えって私のノート見れば書いてあるのに…… まただ、ほら、だから、黙ってないでノートに目を移して下さいよ、私の字って割と綺麗だって言われてるから読めるはずですよ。 アンダーラインをそのまま読めばいいんです。

……うぅ、ヘタレな清彦様。 ……そこが好き。ぽっ。

とりあえず、清彦様も気になるけど、問題はこのノートね、帰ったら私のノートを書き写して整理しなくちゃ。

          ・

体育の時間は至福だった。 ブルマーを穿いて一生懸命走り回る私の姿をした清彦様はステキ。 
いつまでも見ていたいくらい。
なんでも着替えの時は注目の的だったそう。 クラスの女の子達が言ってた。 
あぁ、なんでこの体は男の子なんだろう? 女子更衣室に入れないこの身がもどかしい。

          * * *

楽しい気分で学校から帰ってくる。

さて、それでは清彦様に双葉のお仕事を覚えて貰いましょうかね?家事をする清彦様…… ステキだろうなぁ。

「それじゃ、メイド服に着替えたら僕の部屋に来るように」
私がそう言うと清彦様が意外そうな声を上げる。

「え?」
「え?ってなんだ?朝言ったろう?メイドとしてのやる事を教えて調教してやると?忘れたのか、しょうがないなぁ、新生双葉は使えなくて」

「僕は双葉じゃない!メイドでもない!」
ありゃ?やはり薬が古かったのかしら?命令の効果が薄れてる?それとも元々こういう物なのかしら?
とりあえず、命令し直しておきましょ。

『双葉、命令だ、メイド服に着替えて僕の部屋に来い。これからのお前の仕事の手順を教えてやる』
「承知しました、清彦様」

清彦様が着替えに私の部屋に戻る。

その間に私はノートの書き写しをしておきましょ。って、清彦様の文字って読みにくい!これは大変だ。

          ・

そうこうしてるうちに着替えられた清彦様がやってくる。

きりのいい所まで書き写して、清彦様を見る。

うわっ!なに?!そのシワだらけの服は?いやだぁ、清彦様の魅力が台無し!ハンガーに掛けずにベッドの上に放置しておいたのね?これは基礎からお教えするしかないのね。ノートの整理があるのに、もう!

でも、清彦様に家事をお教えするのは楽しかった。私の言う事をハイハイと聞く清彦様は最高に可愛い。
さすがに料理は無理だろうからやって貰うわけには行かなかったけど。火の始末を怠って火事でも出されたらシャレじゃ済まないもんね。

          ・ ・ ・

食事中、気になって感想を聞いた。

やはり、双葉の姿で生活するのはイヤなようだ。
……でも、双葉がイヤなら若葉なんですよ? ただのOL、できないでしょ?清彦様。 慣れてくださいませんか?イヤでしょうけど…… ここは少し非情になっておこう。
ただ、交換の方法を知りたがっておられるのでヒントのような物だけお教えしたんだけど、甘いかな? 
惚れた弱み?

          ・

食事が終わって、いくつかの指示をしてからお部屋に引っ込む。さて、さっきの続き、続き、急がないと徹夜で写さなくちゃいけなくなる。

うぅ、何よ、このノート。本当に読みにくい!これじゃ本当に最初から私のノートを丸写しした方が早いんじゃない? 私が清彦様ノートと格闘していると清彦様がお風呂の支度ができたと報告にきた。

生返事をしてノートとの戦いを続けていると、清彦様の立ち去る気配がない。
顔を上げて清彦様を見ると何か部屋の中を見回している。 ははん、何か企んでるな?

「どうした、双葉。風呂の用意ができたんだろ?わかったから、もう用はないだろ?」

そう声を掛けると、清彦様は慌てて返事をする。

「はい、そうですが…… 他にご用はございませんか?」
ちょっとノートの事でイラッと来ていた私は意地悪をしたくなってしまった。

「あぁ、ないよ、それとも一緒に入りたいのか?僕はそれでもいいぞ、背中を流してくれるのか?」
「いえ、そんな事は。 では、失礼させて頂きます」

立ち去ろうとする清彦様、逃がしてなるもんですか。

「まあまあ、遠慮するな。ご主人様と使用人とはいえ婚約者同士じゃないか。資産家の秋山家とはいえ、倹約の精神は大事だ、一緒にお風呂を済ませてしまおうじゃないか」『双葉も早く着替えを持ってお風呂においで』
「わかりました、清彦様」

清彦様が命令に従って立ち去る。

…………え? 私、今何を言った?ウソでしょ!? 清彦様と一緒にお風呂?! イラついてたとはいえトンデモ無い事を言ってしまった事に気付く。
うわっ!な、なんて大胆な事を!ベッドにダイビングして顔を覆って転げ回る。

でも、命令しちゃったから私が行くまで清彦様は着替えを持ったまま待ってるわよね? ……入っちゃおっか、お風呂?

そうよね、お互いの裸なんだから見慣れてるわよね?恥ずかしくなんか…… いや、清彦様の体とはいえ見られるのは私の裸なんだから…… でも、清彦様とのお風呂…… 楽しいかな?うふ、ふふふ。 そうよね〜、命令しちゃった以上責任は取るべきよね〜、不誠実な事はいけないわ、清彦様の信用を無くしちゃうもん。 言った事はやらなくちゃね〜

るんるん、私は清彦様の下着とパジャマを持ってお風呂に向かう。

          ・

……遅い!清彦様は何をしてるの?私を待たせるなんて。

本当に清彦様なんだから! 暫くすると清彦様がやってきた。 着替えを探すのに手間取ったようだ。
そんなに分かり難くはないはずなんだけどな。


えっと、私が先に脱ぐべきなのかしら? でも、裸を清彦様に見られるなんて…… ここはやはり清彦様から先に……

「じゃ、服を脱いで先にお風呂に入って待っておいで」
「あの、清彦様?」
清彦様が不安げに声を掛ける。

「なんだい?双葉」
「ここで脱ぐんですか?その前に本当に一緒に入るのですか?」

「うん、そうだよ、双葉がちゃんと脱ぐところを見ててやる、婚約者同士だ、一緒にお風呂に入るくらいなんでもないだろ?
結婚したらもっと凄い事をするんだから。ほら、早くしないとお湯が冷めるだろ」
うわぁ、言っちゃった、なんて恥ずかしい事を口にできちゃうんだろ、私? 

……でも、恥ずかしげに服を脱ぐ清彦様って。 ……私の姿ってこんなに可愛いかったんだ。私もこんな顔をしたら清彦様の好感度が上がるんだろうか?

清彦様を先にバスルームに行かせて、私も服を脱ぐ。 やはり脱ぐ所をじっと見られるのは恥ずかしいからね。

しかし、いい体してるな、この清彦様の体。なにもやってないはずなのに。体質かしら?
……この体で清彦様の前に立ったらどんな反応されるかしら? ……ふふふ。 あぁ、ダメ。 どんどんイジメっ子になっていく私がここにいる。

そして、服を脱いでバスルームに入っていく私。


お風呂では背中の流しっこ、初めての流しっこ。相手は私の体だけど、清彦様の背中。

今、清彦様に振り向かれたら夢見心地の私のやに下がった笑顔にびっくりされるだろうな。
恥ずかしがって俯いておられるのが幸い。

さて、次は前を…… って、これはさすがにやりすぎよね?

体を洗い終わり、湯船に浸かると、所在なげに清彦様が外に座っておられる。寒いでしょうに?
私が入っているから遠慮されているんだろうな? ……でも、一緒に入れない事はないよね?
私の足の上に腰掛けて下されば、お風呂はわりと深めだし……


遠慮しておられる清彦様にもお風呂に入るように命令する。

こわごわ入ってくる清彦様を抱き留めるように太股の上に乗せる。 
お湯も温かいし、あぁ、なんだか幸せだなぁ。体を交換するのって楽しいかも。 
しかも清彦様にはなんでも聞いて頂けるし。


暫く湯船に浸かって、前の清彦様を見ているとまたイタズラ心がわき上がってくる。
昼間、女の子達が言ってたのよね? 清彦様って敏感で触ると反応が楽しいって? 何か理由を作って触らせて頂きましょ。

「なぁ、双葉。 さっき、僕の部屋に来た時に変な目で部屋を見渡していたろう? 何を考えていたんだい?」
白状しないで下さいね、清彦様。

「いえ、別に何も……」
グッジョブ!清彦様、それではいただかせてもらいます。

「本当にぃ?」
そういって、清彦様の豊かな胸に手を伸ばす。

「ひゃっ!な、何を……」
「ふふふ、双葉は正直じゃないなぁ、これはお仕置きだ」
そう、私は清彦様が正直にお答え頂けないから仕方なくお仕置きをするんです。
……だから、……だから、粘って下さいね?


胸を触りまくる私の手に期待通りの反応をして下さる清彦様。つい調子に乗って下半身の方にまで手が伸びる。
うわっ、楽しい!セクハラする中年オヤジの気持ちがわかるような気がする。

調子に乗った私は清彦様の大事な部分に指を侵入させる。 まぁ、どうせ私の身体ですから…… 
ふふふ、涙目の清彦様がたまんない!

暫く、清彦様を弄んでいたら、私の下半身に異常が発生してきてしまった。マズイ!これって男の人の生理反応とはいえ、私が体験するとは…… 困ったなぁ…… 清彦様に見られたくはないなぁ…… 

仕方がない、清彦様にはお気の毒だけどここは清彦様の目を避ける為にイってもらいましょ。

「もう2度とそんな悪い事はしないと誓う?」
「誓います、誓いますからどうか……」

「よし、今言った事を忘れるんじゃないよ?よし、お仕置きはこれで終わりにして上げよう」
そう言うと私は清彦様の下半身に入れていた指を激しく擦りまくる。


「ひゃぁぁぁ!だめぇぇぇ!イク、イク、イっちゃうぅぅぅぅ!」
イってください、お願いします!清彦様!

          ・

清彦様が絶叫を上げて失神されたのを見て急いでお風呂から上がる。

元気な私のお子様が凄い違和感を私の下半身に伝える。
えっと、これって冷やすと治まるのかしら?急いでシャワーの温度を下げてそこの消火に掛かる。血液の拡散が始まるのを確認すると腰の所にタオルを巻いて隠す。

清彦様はまだ湯船の中で失神しておられる。ごめんなさい、清彦様。

清彦様をしばらく眺めていると、まもなく気が付かれた。

とりあえず、体裁は整えておかないとね。
目が覚められた清彦様に語りかける。

「約束。 覚えてる?」
「はい」
小さな声で清彦様が返事をする。

「結構。 それじゃ、後はお湯を抜いて、バスタブをきれいに洗っておくようにな。双葉、恥ずかしい物をお湯の中に出してたみたいだしね」
はは、何を言っちゃうんだか私は。 恥ずかしさに笑いがこぼれる。

えらそうに適当な事を言って、私は風呂から逃げるように外に出る。

          ・

パジャマを着て清彦様の部屋に戻った私はドキドキする心臓を押さえるようにベッドに転がる。

なにやってるんだろ?私は。

男の体に精神が引きずられているのだろうか?まだ1日しか立っていないと言うのに……

結局、シャワーで押さえられなかったあそこの暴発はお手洗いで…… うわぁ!ヤだ! 
そりゃ、クラスの女の子達が猥談で話してるのを聞いた事はあるけど…… 
まさか、自分自身で経験してしまうとは……

顔を両手で覆ってゴロゴロとベッドを転がり悶える。

          ・

清彦様も寝てしまわれた後、私は戸締まりと火の確認に屋敷内を回りながら思案に暮れる。

うぅ、あんな事をやるんじゃなかった。 
つい、勢いで理性が本能に負けちゃったけれど、あれから清彦様の体が、お顔がちらついて精神が集中できない。
  
気分転換もかねて清彦様ノートの清書の続きを始めてみたが、気が付いたら"清彦様"だらけだった……
清彦様は幕府も開いてないし、関ヶ原でも戦ってません!

ダメだ。 このままでは私まで旦那様に見捨てられちゃう。



だいたい、ちょっと触られたくらいであんな顔をする清彦様が悪いんだ…… 
あれじゃ、私を誘ってるみたいじゃない?

そうよ、ちょっと胸を揉まれてクリを刺激されて、乳首をクリクリ〜と捏ねられて、ヴァギナに指を入れて激しく擦られただけじゃない? 

たった、それだけの事であんなに騒ぐなんて!あんな顔をするなんて!

……逆療法ってどうかしら?
我慢するから思いが残って集中できないとも考えられるわよね?
いっそある程度までヤっちゃたらスッキリするんじゃ?

……先っぽだけならまだ処女よね? 
処女ってどこまでがセーフなんだろ?
中出ししなければいいの?入り口から少しでも入ったらアウト? う〜ん?

でも、清彦様にも意思という物が…… 「清彦様ぁ、集中力を取り戻す為に犯らせて下さい」「うん、双葉の為ならいいよ」 ……言わないだろうな〜


おかしいな? 清彦様の身体になってから頭が微熱に浮かされてるような感じで思考がバカっぽくなる…… 清彦様の脳だから?! いや、そんなワケないよね? それだったら身体を交換する意味がなくなるし、旦那様も注意されるはずだ…… 多分私の意識が清彦様の身体に慣れてないせいだろう。

          ・

清彦様の部屋に戻り、再びノートを広げる。

          ・

だ、ダメ……う〜、集中力が…… 清彦様に元素記号なんて付けられてない!清彦様は核融合も核分裂もしない!

ふ、ふふ ……ふふふ、うふふふ。 もう、いいわ! 清彦様、双葉に犯られちゃってください。

朦朧とした眠たい頭で決心をすると私はベッドに潜り込んだ。


          * * *


六時に目が覚め、着替えながら考える。

やはり、清彦様に言っても素直に犯らせてはくれないだろうな〜、ここはひとつ納得する理由を付けて差し上げなくてはダメよね?

着替えが終わりノートを広げる。夕べは殆どできなかったから……

しかし、吹っ切ったら頭が働くようになった気がする、思ったよりノートの整理が進む。

ふふ、OK!一夜一夜に人見ごろ、人並みに奢れや、富士山麓に鸚鵡鳴く、鯛釣り船に米を食べ食べ……うん、完璧!

気分を高揚させていると清彦様が朝食の用意を促しにくる。
うわっ、あらためてみる制服の上からのエプロンが萌え?うふ、うふふ。

          ・

清彦様と朝食を取っている間中、私は笑いっぱなしだった。清彦様、不審に思われなかったかな?
朝食がおわり、部屋に戻り登校の準備をしつつ陰謀を巡らしていると山下さんの車が門から入ってくるのが見えた。

お仕事の終わらない清彦様を待って登校。

          ・

うふふ、早速、下準備、下準備。

クラスメートと会話しながら皆の注意が清彦様に向くように話題を振って回る。
昨日の事もあって、可愛い清彦様に注目率がぐっと上がる。

あぁ、慣れない双葉を演じてらっしゃる言うのにさらに一挙手一投足が皆に注目されて、かなりのストレスを溜めておられる様子。 きっと早く元の体に戻りたいと思っていられるのでしょうね。 なんてお気の毒な清彦様。

          ・

放課後。

うわぁ、かなり憔悴しておられる。
ここはひとつ、希望を与えて差し上げなくては。私は清彦様に近づき、声を掛ける。
「双葉、悪いが今日は山下さんの車で先に帰っていてくれないか? ちょっと高橋のウチに遊びに行く約束をしちゃったからね」
わぉ!なんて分かりやすい清彦様。目が輝いてますよ?何を考えておられるか手に取るように……

あのね、清彦様? 本来の清彦様ならばともかく、交友関係のほとんど無い無趣味な双葉がなんで高橋さんの家に遊びに行くと言う言葉に不審は抱かれないんですか? 人が良すぎます、清彦様。

席に戻ると高橋くんが声を掛けてくる。
「なんか俺の名前が出ていたような気がしたけど?」
「ははは、気にしすぎ。うちに出入りの業者さんの話をしただけだよ」
笑って誤魔化す。

清彦様は踊るような足取りで帰って行かれた。 ここまで人が良いと罪悪感に苛まされるなぁ…… 
清彦様がもう少し悪人だったらよかったのに……














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