「ひぐらしのなく頃に」ってゲームがありますよね? 最初は謎だらけのストーリーが章を追ってゆくごとにその世界観が明らかになっていくヤツです。

第一章の「鬼隠し編」では一級のホラーだったのが、最終の八章の「祭囃し編」まで知ってしまうと元の「鬼隠し編」が全く違う眼で見えてしまうと言う仕掛け…… 

「ひぐらし」のネタバレになりますが、全てが主人公を拒絶していたと思われていたものは、視点がぶれれば実はそれらは主人公に差し伸べられていた救いの手だったという…… 



その昔、未熟な書き手がそんな仕掛けの作品を書いてみたいと挑戦してみて、見事に自爆したと言う作品があるらしいですよ?w

ネタバレしないように書いてたら一章のダークなイメージがその作品の味だと思われて明るいはずの二章に入ってからもダークな展開を読み手さんに期待されて、書き手自身も明るい展開が書く事ができなくなってドスランプに陥って、その作品自体を書き手の黒歴史として封印してしまったという……w

……そんな作品もどこかにあるらしいです。


閑話休題


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「秋山家の陰謀 01・変貌する日常、清彦編」



「それじゃ清彦、留守番を頼むぞ。日曜の午後には帰るからな」
「うん、わかったよ」

          ・

僕は清彦。このあたりでは昔から知られた資産家、秋山家の跡継ぎだ。

今日から両親は1週間のイギリス旅行に出る、その間の留守番を僕は任された。

「お前も来年は大学生だというのに未だにどうも頼りないところがある。 秋山家の跡取りであるという自覚を持って双葉と二人でしっかりと留守を頼むぞ」

留守中はたいした仕事もないからと普段からいる使用人も休暇をもらっていて、大きな家には最低限の仕事ができるようにと双葉だけが残された。

双葉というのは僕の家のメイド兼婚約者だ。 僕には双葉という父の決めた同じ歳の婚約者がいる。
僕が秋山家を継ぐ為にしっかりと補佐のできる女性をと父が捜し出し、身よりのない双葉を見つけ家に連れてきた。

秋山家の事を教育しながら高校にも通い、夜はメイドとしても働いている女性だ。

厳格な父が見込んだだけあって、容姿端麗、頭脳明晰、で健康そのもの家事一般全てこなし非の打ち所のない女性だ…… ただ僕にとって問題なのはその性格だ。 

双葉は父の教育のせいか、夫になる筈の僕よりも”秋山家の為”を優先してしまうようだ。
はっきり言って自分の好きな事を優先する僕にはきつい、苦手なタイプだ。

          ・

「はい、お任せ下さい。清彦様とりっぱに留守を守らさせて頂きます」
双葉が隣で父に深々と頭を下げる。

「うん、双葉も留守番中の事は期待しているからな」
双葉の肩に手を置き、顔を見つめる。

どうも父は僕よりも双葉の方を信頼している感じだ。


「よし、行くぞ」
後ろに控えている母に声を掛けると父は運転手がドアを開けて待つ自家用車に乗り込む。

「はい。では清彦、双葉さん、留守をよろしくね」
そう言って、母も父の待つ車へと急ぐ。

母はいつも父の後ろに静かに従っている、何を言われても逆らわずについて行く。
僕もできれば、そういう人と一緒になりたいものだ。双葉みたいにきつい性格の人じゃなく。

でも、そんな事を父には言えない。

そう、うちは昔から父が一番エライ、父の一言でなんでも決められてしまう。
誰も父に逆らう事などできないのだ。


両親の乗った車がゆっくりと発進し、家の門を出て行く。

「行っちゃったね……」
「はい、行かれましたね」

「どうする?」
「どうすると言われましても私は私の仕事の続きをさせてもらうだけですが、清彦様には私に何かご用がおありでしょうか?」

「いや、別にないよ、僕は部屋でゴロゴロしてるだけだから」
「部屋でゴロゴロですか?何か有意義な事をされてはいかがですか?のび太さん?」
ため息をつきながら双葉が呆れた声を出す。

「誰がのび太だ、自分の時間を自分の好きに使って何が悪いんだ」
「確かに…… それでは私は自分の仕事をしていますので、ご用がおありの時は呼んで下さい」
そう言うと双葉は屋敷の中へ入っていってしまった。

「きついなぁ…… 本当に」
僕もため息をつきながら自分の部屋へと帰る。


          * * *


一日目は何という事もなく過ぎ、二日、三日とたった。

廊下ですれ違った双葉が清彦に尋ねる。
「清彦様、清彦様は旦那様が旅行に行かれてから家の事について何かなさっておられるんですか?」

「いや、別に。こんな時くらい気軽にノンビリと部屋でゲームしたりビデオ見たりして過ごしてもバチは当たらないさ」
「清彦様は今年受験なんですよ?そんなことでいいんですか?バチが当たって後で困っても知りませんよ」

「大丈夫、二流とまでは行かないでも三流大くらいには入れるだけの学力はあるから。 どうせ、就職先はウチなんだから学歴は問題じゃないさ。そう言えば、お前は大学は行かないのか?それこそ一流大でも楽勝だろ?」

「すっかり、ダメ人間ですね?、私は高校を卒業したら、結婚して清彦様を旦那様として迎え、生涯を仕える事になるので、これ以上の学歴は不要なのです」
有っても無駄です、そんなニュアンスで答える双葉。

「仕えると言ってる割には言う事がキツいんだけどな、なんとかならない?」
「その時になれば、ちゃんと清彦様を立ててごらんにいれます、それまでには清彦様も自覚を持って下さいね」

そして、その時はそのまま話は終わった。

          * * *

夜になり、食堂で夕食を食べていると急に眠気に襲われた。
「あれ?」

後ろに倒れるように崩れ落ちる僕の耳に双葉の声が届く。
「そんな所で寝るとあぶないですよ」

誰かの腕が体に伸びてきたのを感じながら気が遠くなっていった。

          ・ ・ ・

「おい、大丈夫か?双葉!」
誰かに揺すられて気を取り戻す。

「うぅん、頭がクラクラする……」
「大丈夫か?」

「え? あれ?なんで僕が目の前に?ここは?」
目の前には自分の顔があり、僕は見慣れない部屋のベッドに寝かされていた。

「済まなかったな、僕を支え損なってお前の方が床に頭を打ち付けてしまったようだな」
え?どういう事だ?自分の顔を手でなぞる。

「どうした、双葉?どこか体の調子がおかしいのか?医者を呼んだ方がいいのか?」
「誰だ?」
朦朧と回らない頭で目の前の自分に問いかける。

「双葉?本当に変だぞ?」
「双葉がどこにいる?僕は清彦だ、お前は誰だ?」

「おいおい、双葉はお前の名前じゃないか?僕の顔もわからないのか?清彦だよ、お前の婚約者の!」
起こした体を強く揺すられ、上半身にいつも感じない揺れを2つ感知する。

え?なに?どういう事だ?手を胸にやるとそこには有り得べかざるものがあった。

そして目の前に手鏡が翳された。

「ほら、これがお前の顔だよ、自分の顔も忘れたとでもいうのか?」
「そんな…… バカな……」
僕は呆然とする。 鏡の中にはいつものメイド服を着た双葉が目を丸くして僕を凝視していた。

そんな僕の様子を見て目の前の”清彦”が声を掛ける。

「ちょっと、待ってろ!すぐにウチの掛かり付けの安田先生に往診にきてもらうから」
そう言って、部屋を飛び出していった。

周りを改めて見回す、どうやらここは双葉の部屋のようだ。

暫くして清彦が安田先生を伴って帰ってきた。

          ・

先生は一通り僕を診ると口を開いた。
「倒れた食堂は深いカーペットがクッションになって、それほどの衝撃はなかったと思うんですが、頭だからねぇ…… 外傷はないみたいだけど、何らかの記憶の混乱が起こっているんじゃないかな」

専門外なんで断定はできないけど、そう付け足して先生が続ける。
「日頃からの精神的な重圧も関係してるんじゃないのかな?”秋山家を自分が支えなくては”と言う思いが自分を清彦君だと思いこませてしまったとか」

「なるほど、確かに双葉は責任感の強いところがありますからね。昼間も僕が秋山家について何もしないと怒られたばかりでしたし。知らず知らずのうちに掛けていた迷惑がこんなカタチで現れるなんて……」

僕は二人の会話をベッドで寝ながら打たれた精神安定剤の効果でぼんやりと聞いていた。


「……僕は初めから双葉だったのか?でも清彦としか思えないのだけど。 

……おかしいな、清彦としての記憶はあるのに、双葉としての記憶が思い出せない。

やっぱり僕は清彦なんじゃ…… だったら、今そこにいる清彦は誰だ?双葉なのか?でも自分で始めっから清彦と名乗っているし。  

……ダメだ、眠くって思考が働かなくなってきた。 

……明日、明日になったら ……きっと」


          * * *


翌日、朝早く部屋のドアが開く音で目が覚める。

「おはよう、双葉。どうだい、体の具合は? やっぱりいつもに時間に起きられなかった処をみるとまだ調子が悪いのかな?」
目を開けると僕がベッドのそばに立っていた。

次第に頭が覚醒してくる。
「誰だ、お前は?」
「まだ、頭の混乱が治まっていないのか?お前の将来の旦那様の顔もわからないなんて……」
目の前の清彦が落胆したような顔をする。

僕はベッドから起きあがり、目の前の清彦に詰め寄る。
「お前!双葉じゃないのか?」

「何を言い出すんだ、一体。見ての通り僕は清彦だよ、お前、つまり双葉のご主人様」
「違う!清彦は僕だ!僕が清彦なんだ!」

「ふぅ〜」
目の前の清彦がため息をつき、うなだれる。

「どうなんだ!本当の事を言えよ!」
それでも僕はなおも問いつめる。

ふ、ふ、ふっふっふっ…… 僕の前でうなだれている清彦から笑い声が漏れ、顔が上がる。

「まぁ、こんな事で簡単に暗示に掛かって納得して下さるとは最初から思ってはいませんでしたから」
自分のニッコリと笑った顔がなんだか怖い。

「どういう事だ?説明して貰えるかな?」
僕は双葉を睨みつけながら聞いた。

「我が顔ながら…… 美女に睨みつけられると被虐心をかき立てられますね。いいでしょう、お教えします」
そうして双葉は説明を始めた。

「清彦さん、ご主人様が旅行に出かけられてからのここ数日の行動を改めて観察させていただきました。
秋山家に関する事業の事を何も知ろうともされず、それでは学業に専念されているかと言えば、遊んでおられるだけ。
あまつさえ大学は入れればどこでも良いと言われる始末。 
そのような事では今後の秋山家の未来に関わります。
つまり、あなたは秋山家の次期当主としての資質がないと私は判断せざる得ません。 

私の役目は秋山家を支える事です。
そのために私は”秋山清彦”として秋山家を支える事に専念させて頂くと決めました。

幸いにも”双葉”の最低限の役目は跡継ぎを産む事です。 それくらいの事なら清彦様にもお出来になると思われます。
という理由から、ある秘術を使って体を入れ替えさせて頂きました。
今後は、卒業までは今まで通りの私の仕事を引き継いでもらい、卒業後はすぐに結婚して私の妻として子供を産む事に専念して頂きますので、よろしくお願い致しますね」
淡々と双葉が語るのを聞いていた僕は思わず怒鳴った。
「ふざけるな!そんな事が許されると思っているのか!今すぐ戻すんだ!」
「ダメです、もう決めた事ですから」
冷淡言い放つ双葉。

『それと、入れ替わっている事は他の誰にも知らせてはいけないよ、命令だ』
「冗談じゃない!父さん達が帰ってきたら言ってやる!覚悟して置けよ、双葉!」

「何を言うとおっしゃるんですか?」
「決まってる、お前と僕が…………」
突然、僕の声が出なくなる。一体どうなってるんだ?

「うん、術は聞いているようですね。この術は体を入れ替えた者が入れ替えられた者を支配する事ができるのですよ、私が強く命令すると逆らえなくなるので覚えておいて下さいね」

「そんな……」
僕は絶望に囚われる。

『それでは、双葉。 いつまでもそんな格好でいないでさっさと着替えて朝食の準備をしなさい。 そうそう、これからは君は双葉だからね、間違えてはいけないよ。命令だ、皆の前では今までの双葉と同じように対応するように。まぁ、最初から私のレベルで行動できるとは期待してないけどね』
僕そっくりの口調になった双葉が僕に命令する。

「わかりました、清彦様」
僕の口から双葉の声が意思を無視して発せられる。

自分の今の服装を確かめると夕べ双葉が着ていたメイド服のままだった。

何に着替えるのか判らずに戸惑っていると双葉が見かねて声を掛ける。
「何をやっているんだ双葉。朝は登校するんだからそこに掛かっている制服に着替えるんだろ!下着はそこのケースに入ってるからそれも着替えるんだぞ!」

僕はそれを聞いて双葉に抗議の声を上げる。
「待ってください。私はこの姿で学校に行かなくてはいけないのでしょうか?」

「何を当たり前の事を言ってるんだ?お前の授業料は我が秋山家から出ているんだぞ。それなのに理由も無く無駄に休む事が許されるわけがないだろう」『判ったらさっさと着替えて朝食を作るんだ。お前は一々命令されないと何もできないのか』
双葉の、昨日までの僕の口から厳しい言葉が浴びせられる。

部屋から双葉が出て行き、残った僕の心には早く着替えて朝食の準備をしなくては、と言う強迫観念のようなものが迫ってくる。

手をメイド服の背中に回し、ファスナーを下ろす。腕を袖から引き抜きメイド服が足下に落ちる。
ブラとショーツだけの姿で床に広がるメイド服を拾い上げ、どうしていいのか判らずベッドに置く。
手を背中に回しブラのホックをあれこれ弄くって外し、ショーツを下ろして足から抜く。
これがいつでも元に戻れる状態だったなら体をあちこちさわってその感触を楽しんだりできるんだろうけど、今の僕にそんな余裕はない。

ケースから替えのブラとショーツを取り出す。足にショーツを通し引き上げる。ブラのストラップを両腕に通し、背中のホックを留める。

胸を圧迫して背中に回る新しい感覚と下着が股間に貼り付く感触が恥ずかしい。


今まで付けていた下着も置き場所が判らずベッドの上のメイド服と一緒に置いた。

壁のハンガーに掛かっている制服一式もベッド上に並べるように置き、ブラウスを羽織り、いつもと反対にあるボタンをなれない手つきで止めていく。ウチの高校のオーソドックスな紺のプリーツスカートに足を通し引き上げる。
腰のホックを留めてジッパーを上げる。

これもオーソドックスな紺色のセーラー服を取り上げ、頭から被る。背中の方のもぞもぞする感じに双葉の髪が長かった事を思い出し、両手を首に回し髪を梳き上げるようにセーラー服から外へ出す。スカーフを前で止めて着替えが終了した。


なれない着替えに時間を食ってしまった。早く食堂に行って朝食の準備をしないとまた双葉に叱られる、そんな思いを胸に抱き急いで食堂に向かう、昨日までとはまったく違ってしまった状況に戸惑いながら。

「遅い!何をしていたんだ、双葉!」

「すいません、着替えに手間取ってしまいました。すぐに朝食を準備致します」
僕の意思通りの言葉が出てこないもどかしさに困惑とも怒りとも判らない感情が湧く。

「もういい!どうせ準備と言っても今のお前は何もできないだろう?学校から帰ったら一から教えてやる」
僕は双葉の言葉に含まれる軽蔑したようなニュアンスに立ちつくす。

「なにをしてるんだ?」
「え?」

「ご主人様が教えてやると言ってるんだ、何か言うことがあるだろう?」
「……よろしくお願いします、清彦様」
怒りを押し殺しながら、僕は昨日までの僕の名前を様付けで口にする。

「よし。時間も無い事だし、とりあえず今朝はそこにトーストを用意してやった。それを食べたら登校するぞ。
いいな?双葉」
「はい、わかりました」
言葉に必要以上に”双葉”を含ませて今現在、僕が双葉の立場である事を強調している事にどうしようもない屈辱感を感じる。

          ・

登校時間になり、やってきた運転手の山下さんが車を玄関に回す。


山下さんがドアを開けて待つ昨日までの僕の席である後部座席に当然の態度で双葉が座り、僕が助手席のドアを開けて乗り込むと車が発進される。

「今日もいいお天気ですね、双葉さん」
隣で山下さんが僕に話しかける。
「えぇ……」と続けて、僕と双葉が入れ替わっている事を告げようとするが、口が開かない。
ふと、後ろを横目で見ると双葉が見透かすような眼で僕を見て口元を緩ませていた。

「おや?どうしたんですか?元気がないようですけど」
運転しながら山下さんが僕を気遣う。

「いや、ちょっと昨日、僕が失敗しちゃってね。助けようとした双葉が床に頭をぶつけちゃったんだよ。慌てて安田先生に来てもらったんだけどね。 ちょっと元気がないんだ」
後ろから双葉が山下さんに話しかける。

「そうですか〜頭は怖いですからね。気を付けた方がいいですよ」

違うんだ!双葉に体を取られたんだ!助けてくれ!そう伝えたいのに伝える事もできずに僕は車の助手席で黙ったままうなだれて、スカートから伸びる自分の太股を見つめるだけだった。

そうしてるうちに車は学校の門に到着した。

          ・

車から降り立つ僕と双葉。

横に並び、双葉を見上げる。
あぁ、そうか、昨日から色々と混乱していて気付く余裕がなかったけど、僕と双葉はこんなにも身長差があるんだ。
僕の視線が双葉の胸板を見つめる。

「さぁ、いくぞ、双葉。いつものようにちゃんと後ろから付いて来いよ。君は僕の大事な婚約者なんだからな」
自分の顔が笑顔で僕を見下ろす。

僕と双葉は同じ教室だ。昨日までも僕と全く変わらない調子で双葉が教室にはいる。

「オハッヨー」
「おぉ、清彦」「うぅっす!」「よぉ!」……
双葉の声に僕の友人達が返事を返す。

双葉そういった僕の友人達に笑いかけて窓際の僕の席に着く。
僕は黙って廊下側の席に鞄を置いて座る。

双葉にはこれと言って親しい友人がいないので通り一遍な挨拶をするだけで特別声を掛けられる事もない。
かといってイジメに遭うかと言えば、「秋山家の使用人兼、次期当主の婚約者」と言う立場がイジメからも対象外にされているので、そういった事からも無縁だ。

机に座り、これからの事を思うでもなくぼうっとしていると目の前を人影が差す。

顔を上げると、そこに双葉のにっこりと笑った顔があった。
「双葉?大丈夫か?秋山家の人間として恥ずかしくない行動をしろよ?」

周りの女子達がそれを聞いてツッコミを入れる。
「ハハハ、嫌ぁだぁ、清彦君。 それは清彦君が言われる事じゃない!」
「そうそう、双葉さんはいつも品行方正、成績優秀なんだから」
「うんうん、運動もできるし。 清彦君の方がいつも双葉さんに負担を掛けてお世話になってるんだから」

双葉が照れながら僕の声でクラスメートと話す。
「うん、そうなんだけどね、双葉は昨日ちょっと屋敷でコケちゃってね、頭を打って気絶してから様子がおかしいんだ。ほら見てよ?」
双葉が僕を指さす。 

僕はただ会話に耳を傾けるだけだった。
「あら?そう言えばいつもなら、すぐに一時限目の用意をし終わって今日の授業の予習復習に余念がないのに……」
「ホントだ、いつもみたいに目に力がないみたい、なんだか目が死んでない?」
「きゃは、ほんとだ、どちらかと言うと清彦君の方がいつもより目が生き生きしてる」
「ははは、ひどい言われ様だな。 とにかく、そう言う事なんで周りの君たちフォローしてやってくれないかな」

本当に楽しそうに会話をしている…… これが本当に双葉か?
「うん、いいよ。 だから、また今度、何か奢ってよね?」
「うん、OK、OK。 お願いするね〜」
そう言って僕に背を向ける双葉。
ちがう!僕は双葉じゃない!そこの清彦が僕なんだ!そう言って立ち上がろうとしたが、やっぱり声は出ない。

僕が立ち上がったのに気づき、双葉が振り向く。
「うん?どうした双葉?なにか用か?」

「いえ、別になにもありません、清彦様」
僕の口から出てくるのはこれだけだ。

「うわぁ、清彦様だって!本当にご主人様と使用人みたい」
女子の一人がつぶやく。

「ははは、ダメだぞ、双葉。学校ではいつものように”清彦さん”でいいから。屋敷と学校は別なんだから、ここではお前もクラスメートなんだからな」

「わかりました…… 清彦さん」
「うわっ、清彦君、偉らそー」

クラスメートの前で自分自身を様付けで呼んでしまったのを聞かれた、僕は恥ずかしさで耳まで真っ赤になる。
「あれ?双葉さん、真っ赤、本当にいつもと違うね、なんだかカワイ〜!!」
「うん、なにかキツさが取れてるよね?災難を喜ぶようで悪いけど、このままの方がいいよ?」
「ふふ、じゃ頼んだよ?」
そう言って、双葉は僕の席に戻っていく……

          ・

それからの一日は散々だった。

授業で生徒達が答えられない設問があると、教師は最終的に成績優秀な”双葉”を指名した。

しかし、中身が清彦な僕に皆が答えられないような設問がわかるわけもなく、黙って立ちつくすしかなかった。
窓際の双葉を見ると、呆れたような視線や軽蔑したような視線が返ってくるので、最後には机を見てうなだれる事しかできなかった。
そんな様子に教師は真剣に僕の健康を案じた。

体育は体育で、本来なら孤独バリヤーが張り巡らされた双葉に近づく女生徒はいない筈なのに、今の僕は油断し過ぎる雰囲気があったのか、今までの僕なら天国で有るはずの女子更衣室が地獄になった。

隅っこで着替えていると「双葉さん、前から思ってたんだけど胸おっきーよね?」そんな声と共に胸がガッシと掴まれた。

「ひゃっ!きゃう!」
思わず声が出る。

「え?今の誰の声?」「双葉さん?」「意外とカワイー」「何で今まで気が付かなかったのかしら」

それからは反応を楽しむように胸は揉まれる、お尻は撫でられる、股間はなで上げられる…… それに対して気弱な女の子のような仕草をしてしまう僕はまさにオモチャだった。

授業は授業で体育の成績は悪くなかった筈なのに、慣れない双葉の体は胸の2つのウェイトと股間の頼り無さが著しくバランスを崩し、追い打ちを掛けるように僕のブルマ姿に突き刺さる男子の視線が僕の動きを制限させた。

          ・

放課後、屋敷へと帰る車の中で双葉が言う。
「双葉、今日は久しぶりに楽しかったぞ、お前もすっかり女子とうちとけた様じゃないか、その調子でこれからもがんばれよ」

恥辱と悔しさに声も出ない、そんな思いも知らずに山下さんが僕に声を掛ける。
「よかったですね、双葉さん。清彦さんがそんなふうに双葉さんを褒めるなんて初めてじゃないですか?」

「ははは、僕はいつもそんなに双葉をぞんざいに扱ってますか?いつも感謝してるんですよ、双葉には」
そんな会話を繰り広げながら車は屋敷に到着する。

          ・

やっとくつろげる、そんな表情が出ていたのだろう、双葉が言ってくる。
「それじゃ、メイド服に着替えたら僕の部屋に来るように」

「え?」
「え?ってなんだ?朝言ったろう?メイドとしてのやる事を教えて調教してやると?忘れたのか、しょうがないなぁ、新生双葉は使えなくて」

「僕は双葉じゃない!メイドでもない!」
僕が抗議の声をあげる。

「あれ?命令の効果が薄れてきてるのか?僕の命令に逆らうなんて」『双葉、命令だ、メイド服に着替えて僕の部屋に来い。これからのお前の仕事の手順を教えてやる』

「承知しました、清彦様」
つかの間、自由になったと思った僕の意思は再び双葉の元に戻る。

しかし、すこし希望が出てきたのに気付く。双葉の命令は時間が立つと薄れる。 と言う事は素直に従って新しい命令をかけ直させなければ、行動の自由は取り戻せると言う事だ。
父が帰ってくるまで、「入れ替わった事を人に知らせてはいけない」と命令されなければ、その頃には命令は殆ど効果を発現させなくなっているだろう。

父が帰ってくるのは日曜の午後だ。今日は木曜だから後3日、3日間しのぎきれば反撃のチャンスがやってくる、
それまでの我慢だ。 見ていろ、双葉。

僕は双葉の部屋に帰り、ベッドの上に放り出してあった双葉のメイド服に着替えた。
そして再び僕の部屋に行き、双葉の前に立つ。

「清彦様、着替えて参りました」

机でノートを広げていた双葉が目を上げる。
「なんだ?その服は?シワだらけじゃないか?双葉、服はちゃんとハンガーに掛けておいたのか?」
「いえ、ベッドの上に……」

「馬鹿か、お前は?そんなところに放っておいたらシワになるのは当たり前じゃないか?」
双葉が呆れたように言う。

「まさか、制服も放りっぱなしにしてないだろうな?」
双葉の問いに僕はおずおずと答える。
「いえ、全部ベッドの上に置いてあります」

「ふぅ、どうやら双葉には基本の基本から教えなくてはいけないようだな」
ため息を付きながら、立ち上がる。
「ほら、付いてこい。まずはお前の部屋から始めよう」

「わかりました、清彦様」
僕は双葉に頭を下げて、廊下を堂々と歩いていく双葉の後ろに従う。

          ・

それから僕は夕食時まで、双葉の部屋で服の取り扱い方、ベッドメイクの仕方から始まり、部屋を出てから掃除に洗濯の仕方までみっちりと覚えさせられた。

新しい命令を追加されて余計な制限を付けられないように必死に双葉の指示に従う僕を、双葉は従順の証しと取ったのか、機嫌は悪くなかった。

夕食については「双葉に食事をまかせるにはまだどんな物を出されるかわかったもんではないし、母さんが帰ってきたら母か料理人が作るようになるからそれまでは僕が作る」と免除された。


夕食を取っていると双葉がにやにやと笑う。
「しかし、学校でも思ったんだが新生双葉は表情が豊かで面白いな、どうだ、今日一日を双葉としての送った感想は?」『思った事を言っていいぞ?』

心にのし掛かっていたおもりの一つが外されたような軽さを感じる。

「最悪だ、何で僕がこんな目に遭わなくちゃ行けないんだ。学校ではセーラー服で、授業は難問ばかり先生が差すし…… 普通の設問なら僕にも答える事ができるのに…… あれじゃ僕がまるっきりバカみたいに感じるじゃないか」

「それは清彦じゃなくて本来の持ち主である私がバカに思われてるんだがな?いくらもう使わない体だと言っても今までその体で築いてきた信用を崩されるのは気持ちのいいものではなかったぞ?」
双葉が冷淡に言い放つ。

「体育は体育でブルマー穿かされて、イヤらしい男子の視線が痛いし、体型の違いで体のバランスも取れないから思うように体を動かせないし。 着替えの時は女子のオモチャにされるし…… 帰ってからもメイド服を着せられて仕事に追われるし…… 散々だ」

「常時、男子の視線に晒される女子の気持ちがよくわかって良かっただろ? それに体型の問題は単なる慣れだ、私はその体で女子の中では上位の運動能力をキープしていたぞ? それにお前は体型に不服を言うが、その小さめな体にその大きな胸は誇ってもいいと思うがな?他人の目で見るとなかなかよく似合ってるぞ、そのメイド服」

「なぁ、頼むから体を元に戻してくれないか?そうしたらちゃんと秋山家の跡取りとして恥ずかしくない行動をするから……」

「ダメだ。清彦という人間をずっと見てきたけど、清彦の反省は本当にのび太君レベルだから3日もすれば元に戻ってしまうのは目に見えているからな、これからは私が清彦だ」

「そんな……  ひょっとしてもう戻す事ができないのか?一度使うとダメになる呪方とか、アイテムを使ったとか?」

ふふん、と見透かすような目で僕を見て双葉が答える。
「戻れないと言ったら諦めて双葉になりきれるのか?それとも戻れると聞いたら僕のご機嫌を取って戻して貰おうとでも言うのか?」

「…………」
考えた事を見透かされた僕は黙るしかない。

「まぁ、帰ってきてからのがんばりに免じて少し教えてやろうか? 使った呪方は男女限定で発動する呪方だ、条件さえ満たしていれば何度でも使えるぞ、例えば、たった今でも呪方はできる」
「本当か?!本当に戻せるのか?!」
僕は希望に顔を輝かせて双葉に聞き返す。

「あぁ、今言った事は本当だよ、でも、戻す気は無いけどね。 さ、食事は終わりだ、後かたづけは頼んだぞ、双葉。 さっき、教えたように食器はちゃんと乾かしてから所定の場所に仕舞っておくようにな、あとでチェックするから手を抜くと僕の心証を悪くするぞ。 それと風呂の準備も忘れるな。 できたら報告に来るように。それが終わったら、学校の課題と予習復習を忘れないようにな、秋山家の人間が今日のようでは困るからな」『はい、それじゃ双葉に戻ってしっかりやれよ』

それだけの事を言うと双葉は僕の部屋へと帰って行った。

僕は食器を洗いながら考える。

体を入れ替える呪方は何度でも使えると双葉は言った。
だったら、戻るチャンスは父の帰りを待つまでもなくあるはずだ。
大体、双葉はどこでそんな呪方を知ったんだ?いくら天才だと言っても自分で考え出せたとは思えない。
どこかにやり方を書いた本があるんじゃないか?またはそれを行う為のアイテムとか?それを見つけ出せば僕でも使えるんじゃないのか? どこだ?どこにある?それは?
双葉の部屋か?でも、双葉の部屋は今僕が使ってる。見つけられるような場所に双葉が放置しっぱなしと言う事はないだろう。 じゃ、僕の部屋か?最初に僕が眠らされた時に双葉の部屋から僕の部屋に移して隠したのか。
これは探ってみるか、双葉のいない時を見計らって僕の部屋を探してみよう。見つければ元に戻れる可能性は高い。
それまでは双葉を油断させるんだ。

          ・

食器を洗い終わり、バスルームの大きな湯船にお湯をはって、双葉の着替えを用意して双葉の部屋に行く。

こんこんっ

「清彦様、お風呂の用意ができました、どうぞ、お入り下さい」
課題をやっていたらしい双葉が顔を上げずに返事する。
「あぁ、わかった」

双葉が部屋から出て行くのを待っていると双葉がこちらを振り向く。
「どうした、双葉。風呂の用意ができたんだろ?わかったから、もう用はないだろ?」

お前が部屋から出て行くのを待ってるんだよ!とは言えない。

「はい、そうですが…… 他にご用はございませんか?」
「あぁ、ないよ、それとも一緒に入りたいのか?僕はそれでもいいぞ、背中を流してくれるのか?」
ニヤリと笑って双葉が言う。

僕は慌ててそれを否定する。
「いえ、そんな事は。 では、失礼させて頂きます」

踵を返すと、後ろから声が掛かる
「まあまあ、遠慮するな。ご主人様と使用人とはいえ婚約者同士じゃないか。資産家の秋山家とはいえ倹約の精神は大事だ、一緒にお風呂を済ませてしまおうじゃないか」『双葉も早く着替えを持ってお風呂においで』

「わかりました、清彦様」

部屋を探ろうとしていたのを見透かされていたのか、それともただ僕をからかいたいのか、一緒に風呂に入るようにされてしまい、僕の計画は最初っから頓挫する。

と言うか、双葉の体で裸になった僕と風呂に入るのか?双葉!


双葉の部屋を漁ってパジャマを探し出し、バスタオルを持ってバスルームに行くと双葉が待っていた。

「遅いぞ、双葉」
「す、すいません遅くなりました」

「じゃ、服を脱いで先にお風呂に入って待っておいで」
服を脱いで?脱いでって双葉はここでそれを見てるのか?冗談じゃない。

「あの、清彦様?」
「なんだい?双葉」

「ここで脱ぐんですか?その前に本当に一緒に入るのですか?」
「うん、そうだよ、双葉がちゃんと脱ぐところを見ててやる、婚約者同士だ、一緒にお風呂に入るくらいなんでもないだろ?結婚したらもっと凄い事をするんだから。ほら、早くしないとお湯が冷めるだろ」
そう言って双葉は明るく笑った。

僕はメイド服の背中のジッパーに手を掛ける。目の前では双葉がニヤニヤと笑ってみている。
顔が赤くなっているのを自覚しながらジッパーを下ろす。
袖から腕を抜くと、胸のブラジャーが露わになる。
メイド服がするっと足下に落ちる。ブラとショーツだけの姿を双葉の前に晒す。恥ずかしさに涙がじわっと滲む。

「さぁ、下着も脱いだら中で待ってるんだ」
「わかりました、清彦様」
双葉の命令に従って僕はブラとショーツを脱衣カゴに入れて、バスルームの戸を開けて中にはいる。

バスルームの中は誰もいない。居るのは素っ裸で恥ずかしさに目に涙を溜めている僕だけだ。

外では双葉が服を脱ぎながら鼻歌を歌っているのが聞こえてくる。何を企んでいるのかがわからないのが怖い。
ふと、鏡に映る自分の姿が目にはいる。

小さな白い肌の体に大きめに膨らんだ二つの胸、締まった腰に張り出した尻。 そして股間のなだらかな茂みの先には細いクレバスがのぞく。これが今の僕の体。無力な僕の……


感傷に浸っていると戸がガラッっと開いて双葉が入ってくる。
「なんだ、双葉。先に体を洗ってればよかったのに」
にっこりと僕の顔で笑う双葉。

裸の昨日までの僕の体。今の僕には付いていない器官が目の前の股間に付いている。
「前を隠して下さい、恥ずかしい」

「お、双葉には目の毒だったのか?顔を赤くして。ウブだなぁ、双葉は。ははは」
そう、見慣れているはずなのに、それを他人の目で見ると顔が赤くなる。

「それじゃ、お言葉に甘えて背中を流して貰おうか」
そう言って、僕に背を向ける双葉。

「平気なんですか?」
僕は双葉の背中を流しながら質問する。

「なにがだ?」
「私の体で裸になる事です」

「ん〜、別に。そんな事を気にするようなら最初から体の交換なんてしないさ。これはもう僕の体だからね。自分の体を恥ずかしがってどうする?しかも、この体は結構いい体じゃないか?自慢になっても恥にはならないだろ?」
いともあっさりと言い切る双葉。

「なんだ?双葉は自分の体が恥ずかしいのか?早く慣れないとダメだぞ、その体はこれからの一生を過ごす体なんだからな」
笑う双葉の背中の石けんを洗い流しながら、今の言葉に再び絶望感が迫る。
「そんな……」

「よし、今度は僕が双葉を洗ってやろう」
双葉はそう言うと、僕の背中を掴み、鏡の前に座らせる。目の前には僕に背中を掴まれた双葉が動く事も出来ずに羞恥に顔を赤くしている。 そしてその顔を赤くしてる双葉こそが今の自分である事を今更のように自覚させられる。

背後では機嫌をよくした双葉が鼻歌を歌いながらスポンジにボディシャンプーを付けている。
僕は目の前の鏡を直視できずに顔をうつむけたまま、黙って双葉のなすがままにされる。

背中にお湯を掛けながら双葉が声をかける。
「はい、後ろは終わり!次は前だ。さ、こっちを向いて」

「え!?」
「え、ってなに?前も洗ってあげようと言ってるんだよ、優しいご主人様だろ?さ、早く」

「ちょっと、待って下さい。自分で洗えますから……」
慌てて僕が断ろうとする。しかし、双葉は意外とあっさりと引き下がった。

「ふ、まぁいいか」
そう言うと双葉は自分の体の残った場所を洗い始めた、僕も自分の体を恥ずかしさに耐えながら洗った。

体を一通り洗い終わり、所在なげに座っていると湯船に入っている双葉から声が掛けられた。
「何をしてるんだ、双葉。湯に入らないと湯冷めするだろ?早く入れよ?」

何を言ってるんだ?コイツは?すでに双葉が入ってるじゃないか?
「でも清彦様が入っておられるので上がられてから入らせて頂きます」

そう返事を返すと双葉がニッコリと笑って言う。
「遠慮する事はないぞ、双葉。一緒に入れよ、さぁ」
「でも……」

僕が躊躇していると双葉の命令が下る。
『湯船に入れよ、双葉』
「はい、清彦様」
僕は双葉の入っている湯船に足を入れ、双葉の延ばした足に乗るように湯に浸からされる。

背中に双葉の胸板が当たる。
まるで背後から抱かれるような姿勢だ、なんだか落ち着かない。

暫くして双葉の膝に座っている状態に慣れてくると双葉が僕の耳元で優しげに口を開く。
「なぁ、双葉。さっき、僕の部屋に来た時に変な目で部屋を見渡していたろう?何を考えていたんだい?」

やはり疑われていたのか?しかし、部屋を探ろうとしていたなどとはいえない。
「いえ、別に何も……」
「本当にぃ?」

双葉がそう言ったとたんに僕の2つの胸に両手が掛かり、揉み上げられる。
「ひゃっ!な、何を……」
「ふふふ、双葉は正直じゃないなぁ、これはお仕置きだ」

「や、やめて下さい、清彦様、はうぅ、あん……」
「ふふふ、本当に双葉は可愛いなぁ、うりうり」

悶える僕を楽しむように胸を揉み続ける双葉。
「はうん、だ、だめ…… や、やめてくだ ……さい」
「で、何を考えていたのかな、双葉?」

「な、何も……」
「結構がんばるね、ここも刺激をくわえようか」

片方の手が下がり、股間にあてがわれる。
「そ、そこは……、は、はう……」

股間に伸びた手はクニクニとクレバスの上部を刺激する。
「ひぃっ、あうん…… や、ふぅん、やめ……」

「おや?乳首が堅くなってきたね、しまった、これはお仕置きになってないのかな?楽しんでるの?双葉」
そう言って笑いながら、尖ってきた乳首を親指と人差し指でつまんで揉みほぐす。

「きゃうっ!ひぃぃ。楽しんでなんか…… あん……いや……」
「それじゃもう一度聞くよ?僕の部屋で何を考えてたの?」

「だから、何も……」
命令すれば僕は白状してしまうのに、あえてそれをせずに体を嬲り続ける双葉に憤りのような感覚を覚えるが、体に与えられる刺激がその感情を押し流してしまう。

「粘るねぇ、双葉ちゃんは。なかなかの精神力じゃないか?」
そう言ったかと思うと双葉の手の人差し指が、股間にあてがわれた僕の未知の領域へと侵入する。

「はうぅぅぅう!こ、これは?やめ、やめてぇ、痛い、痛いよぅ」
今までの僕の体にはない場所に指が入る感触が気持ち悪くも痛みと共に不思議な感じを脳に伝える。

「ふふん、どう?女の子の感じは?気に入った?」
そう言いながらも双葉の愛撫は休む間もなく続けられる。
「はう、うん……あ、 あうん…… そ、そんなの気に入る……ワケ ……な、い ふうぅん……」
目に快感の涙を溜めながら否定する僕。

「そう?それならそれでもいいけど。 で、白状する気になった?」
下半身の指がさらに奥を撫で上げる。

「ひぃぃぃ!だから……あぅぅん、何も…………」
その時、僕のお尻の下の双葉の下半身に違和感を覚える。

お尻の下で何かが膨張し始めている!まさか……
「まだ強情張るんだ?双葉のそうやって抵抗する可愛い表情が僕の何かを刺激するねぇ。気が付いてるんじゃない?双葉の昨日までの体の事だもんね?」
そうやって、僕の顔を双葉の方に向けさせる。
そこには明らかな”男”の顔があった。

冗談じゃない、昨日までの僕のアレを今の僕のソコに入れようと言うのか?それだけは死んでもイヤだ。
その瞬間、僕は落ちた。

「あぁん、ひぃ、すいません、私が悪かったです、ふぅぅん、清彦様の部屋に体を入れ替える為の”何か”がないか探ろうとしていました、はぁうん!」
「ふふ、やっと白状したね、そんな悪い事を考えていたんだ、双葉は?」
胸が強く揉まれる。

「はふ!ごめんなさい!ゆるして!」
「もう2度とそんな悪い事はしないと誓う?」

「誓います、誓いますからどうか……」
「よし、今言った事を忘れるんじゃないよ?よし、お仕置きはこれで終わりにして上げよう」
そう言うと下半身の指の動きが激しくなる。

「ひゃぁぁぁ!だめぇぇぇ!イク、イク、イっちゃうぅぅぅぅ!」
絶叫を上げて僕の頭の中は真っ白になり、気が遠くなっていく。

          ・

気が付いた時、僕の体はまだ湯船の中だった。

湯船のそばにはバスタブの縁に腕をかけて僕を眺める双葉の姿があった。

呆然と双葉を見上げる僕。

「気が付いたようだね、双葉。1分くらいかな?失神していたよ。余程、気持ちがよかったんだ?」
そう言って立ち上がり、湯船の中の全裸の僕の女の体を見下ろして笑う。

僕は恥ずかしさに体育座りになり、無言でその体を双葉から隠す。

「約束。 覚えてる?」
「はい」
小さな声で僕は返事する。

「結構。 それじゃ、後はお湯を抜いて、バスタブをきれいに洗っておくようにな。双葉、恥ずかしい物をお湯の中に出してたみたいだしね」
僕の顔が赤くなるのを自覚する。それに引き替え、双葉の口元は笑ってる。

「手早く終わらせないと湯冷めして風邪を曳くからね、それが済んだら今日はもう用はないよ。 自由にしていいからな」
そう言って笑いながら双葉はバスルームを出て行った。

その後、僕は裸のままで湯船をスポンジで磨きながら、今の自分の非力さと立場を思いながら涙をこぼした。


          * * *


朝。

目覚ましが鳴る。

六時か…… 早いじゃないか…… 登校時間までは二時間以上ある。 いつもなら双葉が起こしに来るまで一時間以上は眠っていられるのに…… しかし、今の僕は逆に双葉を起こしに行く立場だ。

重い体を起こし、ベッドから立ち上がる。
夕べの風呂で喘ぎまくった体の疲れと股間には痺れるような感覚がまだ残っている……

しかし、昨日のアレには心底参った、またあんな目に合うのはゴメンだ。
ほとぼりが冷めるまでは大人しくしていた方が良さそうだ。それか父の帰宅まで待って父に対処して貰う方が賢明かも知れない。

僕はのろのろとパジャマと下着を脱ぎ、新しい下着と学校の制服に着替えてその上からエプロンドレスを付ける。

双葉に朝起きたら一番に洗濯をして干すように指示をされているので、今脱いだ下着とパジャマを持って洗濯場に向かう。洗濯の仕方は昨日みっちりと双葉に教えられた。 今持ってきた下着と洗濯カゴに入っている双葉と僕の洗濯物を、色物と分けて二台の洗濯機の中に放り込みスイッチを入れる。


あとは朝食だが、朝食は双葉が用意するので早めに起こしに来るように言われている。
案外、僕に毒を盛られるのを用心しているのかも知れないが……

元の僕の部屋に行くと、すでに双葉は着替えて机に向かってノートを広げていた。
夕べ、僕がトイレに起きた時は部屋から明かり漏れていたのに朝もすでに起きているとは…… こいつ、いつ寝てるんだ?

「清彦様、朝食の用意をお願いできますか?」

僕が声を掛けると双葉が返事を返す。
「うん、わかった。用意するまでに玄関の掃除を終わらしておくようにな。 それと洗濯は終わったのか?」

「今、しています」
「そうか、まぁ、洗濯物を干すのは朝食後でもいいか」
そう言って、顔を上げて僕の方を振り向く。

一瞬、僕と目が合う。そのあと、目が下に移る。
「ふふふ、双葉。そのエプロン姿はなかなか可愛いぞ。 サマになってきたんじゃないか?毎朝、僕がしていた姿の筈だが、やはり表情の豊かな双葉だと見栄えが違うな。入れ替わって正解だと思わないか?」
そう言って屈託なさそうに笑う。

「では、お願いします、清彦様。 私は玄関の掃除がありますので……」
僕はこれ以上何か言われる前に急いで部屋を後にする。

          ・

それから玄関の掃除が終わる頃には朝食が出来ていた。
食事中、双葉は僕の姿を眺めてご機嫌だった。余程、僕のエプロンドレス姿が気に入ったらしい。 
機嫌の悪そうな双葉よりはマシだが、僕のこの姿を見られての事だと思うと気分は複雑だった。

          ・

食事が終わり洗濯物を干す僕。
元の僕の服と下着を干し、隣に今の僕の服と下着を干す。
つい、カラフルなブラとショーツを眺めてしまう。これが今の僕が身につけている下着…… 

まだ二日しか立ってはいないが隣のトランクスが懐かしい。

やっぱり、早く元に戻りたいという感情が湧いてくる。
しかし今度、双葉に見つかるとどんな目に遭うかリスクが大きい。

下着を前に悩んでいると双葉の呼ぶ声が聞こえる。
「双葉〜、まだ終わらないのか〜、山下さんが迎えに来たぞ〜」

悩んでいる内にそんな時間になっていたのか。
「はい!わかりました〜、すぐに行きます!」
僕はそう叫ぶと、慌てて双葉の部屋に戻り、鞄を取って玄関へと急ぐ。

          ・

「お待たせしました」

玄関先で待つ双葉に声を掛ける。
振り向いた双葉の顔に笑いが浮かぶ。

「そうかそうか、双葉もわかってきたじゃないか。でも、いくらご主人様が気に入ったからと言っても学校にまでエプロンドレスを付けて行かなくてもいいぞ?」
その言葉に僕は自分の体を見下ろす。

その体にはまだエプロンドレスが付けられたままだった。
顔を赤くして慌ててそれを外し、畳んで下駄箱の上に置く。

「ははは、まぁ、帰るまで来客はないだろうからそこにおいておくといい。行くぞ、双葉」
上機嫌で双葉は山下さんの待つ車に向かう。 急いでそれに追いつく僕。

クソッ、絶対に戻ってやるぞ!

          * * *

学校に着き、クラスへと入る。

また、憂鬱な一日が始まるのか。

家では双葉だけだし、その双葉にしても中身は僕だとわかっているのだからまだマシだが、学校では不特定多数の前にこの姿を晒して女の子を演じ続けなければいけない。 昨日のストレスは相当なものだった。

そんな事を思っている僕に早速声が掛けられる。
「双葉ちゃん、おはよう」
「双葉ちゃん、おは〜」
挨拶を返す僕。
「あ、おはようございます」
……って、なに!?”ちゃん”?勝手に親密度が上がってる?昨日の失敗が尾を引いてるのか?

そればかりじゃない、昨日はわりと静観状態だったのに、今日は男子の視線もわりとよく感じるような気がする。
ふと、視線を感じて顔を向けると慌てて視線を逸らす事が度々あるので決して僕の気のせいではないだろう。

冗談じゃない、僕が可愛い女の子扱いされて反論も出来ないなんて針の筵ってヤツじゃないか?
双葉の方を見ると男子達とわいわいと楽しそうに話していて、こちらを見ようともしない。

結局、その日は一日中皆が僕を女の子扱い(当然と言えば当然なんだが)して僕のストレスは最高潮に達していた。
クソッ、絶対に元に戻ってやるぞ。



放課後、僕は疲れ果てて帰宅の準備をしていると双葉がそばにやってきた。

「双葉、悪いが今日は山下さんの車で先に帰っていてくれないか?ちょっと高橋のウチに遊びに行く約束をしちゃったからね」
「え?高橋…… くんのウチに?」

「あぁ、遅くなるようだったら先に夕飯は先に適当にすましておいていいから。 だからと言ってやる事はやっておけよ。さぼったり、手を抜いたりしちゃだめだぞ?後でチェックするからな。 あ、それとあの屋敷にお前一人になるから早めに戸締まりをしておいてもいいぞ、カギは持ってるから」
それだけを小声で言うと高橋のそばに行って話を始めた。

チャンス!これはチャンスかも知れない、高橋のウチは僕のウチから反対方向に五駅向こうだ。僕も遊びに行く時は翌日が休みの日の今日のような金曜日くらいしか行けない。 父が厳格な為に平日は気軽に行けないのだ。
そして、遊びに行った日はついつい引き留められて遅くなってしまうのが常だ。


今日は双葉は最悪でも八時までに帰ってくる事はないだろう。
早く帰って、ばれないように部屋を探ろう。 僕にもやっと希望の光が見えてきた。


お迎えに来た山下さんに清彦(双葉)が遅くなる事を伝えると同時に双葉から迎えの連絡が入ったら夕食の準備をするから忘れないで連絡して欲しいと頼む。

これで事前に双葉の帰宅がわかる。 連絡が入ってから、家捜しの痕跡を隠しても充分に間に合う。 



そうして僕は山下さんの運転する車に乗り込み、屋敷へと帰る。


          E N D














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