「ひぐらしのなく頃に」ってゲームがありますよね? 最初は謎だらけのストーリーが章を追ってゆくごとにその世界観が明らかになっていくヤツです。 第一章の「鬼隠し編」では一級のホラーだったのが、最終の八章の「祭囃し編」まで知ってしまうと元の「鬼隠し編」が全く違う眼で見えてしまうと言う仕掛け…… 「ひぐらし」のネタバレになりますが、全てが主人公を拒絶していたと思われていたものは、視点がぶれれば実はそれらは主人公に差し伸べられていた救いの手だったという…… その昔、未熟な書き手がそんな仕掛けの作品を書いてみたいと挑戦してみて、見事に自爆したと言う作品があるらしいですよ?w ネタバレしないように書いてたら一章のダークなイメージがその作品の味だと思われて明るいはずの二章に入ってからもダークな展開を読み手さんに期待されて、書き手自身も明るい展開が書く事ができなくなってドスランプに陥って、その作品自体を書き手の黒歴史として封印してしまったという……w ……そんな作品もどこかにあるらしいです。 閑話休題 ************************************************* 「秋山家の陰謀 01・変貌する日常、清彦編」 「それじゃ清彦、留守番を頼むぞ。日曜の午後には帰るからな」 ・ 僕は清彦。このあたりでは昔から知られた資産家、秋山家の跡継ぎだ。 今日から両親は1週間のイギリス旅行に出る、その間の留守番を僕は任された。 「お前も来年は大学生だというのに未だにどうも頼りないところがある。 秋山家の跡取りであるという自覚を持って双葉と二人でしっかりと留守を頼むぞ」 留守中はたいした仕事もないからと普段からいる使用人も休暇をもらっていて、大きな家には最低限の仕事ができるようにと双葉だけが残された。 双葉というのは僕の家のメイド兼婚約者だ。 僕には双葉という父の決めた同じ歳の婚約者がいる。 秋山家の事を教育しながら高校にも通い、夜はメイドとしても働いている女性だ。 厳格な父が見込んだだけあって、容姿端麗、頭脳明晰、で健康そのもの家事一般全てこなし非の打ち所のない女性だ…… ただ僕にとって問題なのはその性格だ。 双葉は父の教育のせいか、夫になる筈の僕よりも”秋山家の為”を優先してしまうようだ。 ・ 「はい、お任せ下さい。清彦様とりっぱに留守を守らさせて頂きます」 「うん、双葉も留守番中の事は期待しているからな」 どうも父は僕よりも双葉の方を信頼している感じだ。 「よし、行くぞ」 「はい。では清彦、双葉さん、留守をよろしくね」 母はいつも父の後ろに静かに従っている、何を言われても逆らわずについて行く。 でも、そんな事を父には言えない。 そう、うちは昔から父が一番エライ、父の一言でなんでも決められてしまう。 両親の乗った車がゆっくりと発進し、家の門を出て行く。 「行っちゃったね……」 「どうする?」 「いや、別にないよ、僕は部屋でゴロゴロしてるだけだから」 「誰がのび太だ、自分の時間を自分の好きに使って何が悪いんだ」 「きついなぁ…… 本当に」 * * * 一日目は何という事もなく過ぎ、二日、三日とたった。 廊下ですれ違った双葉が清彦に尋ねる。 「いや、別に。こんな時くらい気軽にノンビリと部屋でゲームしたりビデオ見たりして過ごしてもバチは当たらないさ」 「大丈夫、二流とまでは行かないでも三流大くらいには入れるだけの学力はあるから。 どうせ、就職先はウチなんだから学歴は問題じゃないさ。そう言えば、お前は大学は行かないのか?それこそ一流大でも楽勝だろ?」 「すっかり、ダメ人間ですね?、私は高校を卒業したら、結婚して清彦様を旦那様として迎え、生涯を仕える事になるので、これ以上の学歴は不要なのです」 「仕えると言ってる割には言う事がキツいんだけどな、なんとかならない?」 そして、その時はそのまま話は終わった。 * * * 夜になり、食堂で夕食を食べていると急に眠気に襲われた。 後ろに倒れるように崩れ落ちる僕の耳に双葉の声が届く。 誰かの腕が体に伸びてきたのを感じながら気が遠くなっていった。 ・ ・ ・ 「おい、大丈夫か?双葉!」 「うぅん、頭がクラクラする……」 「え? あれ?なんで僕が目の前に?ここは?」 「済まなかったな、僕を支え損なってお前の方が床に頭を打ち付けてしまったようだな」 「どうした、双葉?どこか体の調子がおかしいのか?医者を呼んだ方がいいのか?」 「双葉?本当に変だぞ?」 「おいおい、双葉はお前の名前じゃないか?僕の顔もわからないのか?清彦だよ、お前の婚約者の!」 え?なに?どういう事だ?手を胸にやるとそこには有り得べかざるものがあった。 そして目の前に手鏡が翳された。 「ほら、これがお前の顔だよ、自分の顔も忘れたとでもいうのか?」 そんな僕の様子を見て目の前の”清彦”が声を掛ける。 「ちょっと、待ってろ!すぐにウチの掛かり付けの安田先生に往診にきてもらうから」 周りを改めて見回す、どうやらここは双葉の部屋のようだ。 暫くして清彦が安田先生を伴って帰ってきた。 ・ 先生は一通り僕を診ると口を開いた。 専門外なんで断定はできないけど、そう付け足して先生が続ける。 「なるほど、確かに双葉は責任感の強いところがありますからね。昼間も僕が秋山家について何もしないと怒られたばかりでしたし。知らず知らずのうちに掛けていた迷惑がこんなカタチで現れるなんて……」 僕は二人の会話をベッドで寝ながら打たれた精神安定剤の効果でぼんやりと聞いていた。 「……僕は初めから双葉だったのか?でも清彦としか思えないのだけど。 ……おかしいな、清彦としての記憶はあるのに、双葉としての記憶が思い出せない。 やっぱり僕は清彦なんじゃ…… だったら、今そこにいる清彦は誰だ?双葉なのか?でも自分で始めっから清彦と名乗っているし。 ……ダメだ、眠くって思考が働かなくなってきた。 ……明日、明日になったら ……きっと」 * * * 翌日、朝早く部屋のドアが開く音で目が覚める。 「おはよう、双葉。どうだい、体の具合は? やっぱりいつもに時間に起きられなかった処をみるとまだ調子が悪いのかな?」 次第に頭が覚醒してくる。 僕はベッドから起きあがり、目の前の清彦に詰め寄る。 「何を言い出すんだ、一体。見ての通り僕は清彦だよ、お前、つまり双葉のご主人様」 「ふぅ〜」 「どうなんだ!本当の事を言えよ!」 ふ、ふ、ふっふっふっ…… 僕の前でうなだれている清彦から笑い声が漏れ、顔が上がる。 「まぁ、こんな事で簡単に暗示に掛かって納得して下さるとは最初から思ってはいませんでしたから」 「どういう事だ?説明して貰えるかな?」 「我が顔ながら…… 美女に睨みつけられると被虐心をかき立てられますね。いいでしょう、お教えします」 「清彦さん、ご主人様が旅行に出かけられてからのここ数日の行動を改めて観察させていただきました。 私の役目は秋山家を支える事です。 幸いにも”双葉”の最低限の役目は跡継ぎを産む事です。 それくらいの事なら清彦様にもお出来になると思われます。 『それと、入れ替わっている事は他の誰にも知らせてはいけないよ、命令だ』 「何を言うとおっしゃるんですか?」 「うん、術は聞いているようですね。この術は体を入れ替えた者が入れ替えられた者を支配する事ができるのですよ、私が強く命令すると逆らえなくなるので覚えておいて下さいね」 「そんな……」 『それでは、双葉。 いつまでもそんな格好でいないでさっさと着替えて朝食の準備をしなさい。 そうそう、これからは君は双葉だからね、間違えてはいけないよ。命令だ、皆の前では今までの双葉と同じように対応するように。まぁ、最初から私のレベルで行動できるとは期待してないけどね』 「わかりました、清彦様」 自分の今の服装を確かめると夕べ双葉が着ていたメイド服のままだった。 何に着替えるのか判らずに戸惑っていると双葉が見かねて声を掛ける。 僕はそれを聞いて双葉に抗議の声を上げる。 「何を当たり前の事を言ってるんだ?お前の授業料は我が秋山家から出ているんだぞ。それなのに理由も無く無駄に休む事が許されるわけがないだろう」『判ったらさっさと着替えて朝食を作るんだ。お前は一々命令されないと何もできないのか』 部屋から双葉が出て行き、残った僕の心には早く着替えて朝食の準備をしなくては、と言う強迫観念のようなものが迫ってくる。 手をメイド服の背中に回し、ファスナーを下ろす。腕を袖から引き抜きメイド服が足下に落ちる。 ケースから替えのブラとショーツを取り出す。足にショーツを通し引き上げる。ブラのストラップを両腕に通し、背中のホックを留める。 胸を圧迫して背中に回る新しい感覚と下着が股間に貼り付く感触が恥ずかしい。 今まで付けていた下着も置き場所が判らずベッドの上のメイド服と一緒に置いた。 壁のハンガーに掛かっている制服一式もベッド上に並べるように置き、ブラウスを羽織り、いつもと反対にあるボタンをなれない手つきで止めていく。ウチの高校のオーソドックスな紺のプリーツスカートに足を通し引き上げる。 これもオーソドックスな紺色のセーラー服を取り上げ、頭から被る。背中の方のもぞもぞする感じに双葉の髪が長かった事を思い出し、両手を首に回し髪を梳き上げるようにセーラー服から外へ出す。スカーフを前で止めて着替えが終了した。 なれない着替えに時間を食ってしまった。早く食堂に行って朝食の準備をしないとまた双葉に叱られる、そんな思いを胸に抱き急いで食堂に向かう、昨日までとはまったく違ってしまった状況に戸惑いながら。 「遅い!何をしていたんだ、双葉!」 「すいません、着替えに手間取ってしまいました。すぐに朝食を準備致します」 「もういい!どうせ準備と言っても今のお前は何もできないだろう?学校から帰ったら一から教えてやる」 「なにをしてるんだ?」 「ご主人様が教えてやると言ってるんだ、何か言うことがあるだろう?」 「よし。時間も無い事だし、とりあえず今朝はそこにトーストを用意してやった。それを食べたら登校するぞ。 ・ 登校時間になり、やってきた運転手の山下さんが車を玄関に回す。 山下さんがドアを開けて待つ昨日までの僕の席である後部座席に当然の態度で双葉が座り、僕が助手席のドアを開けて乗り込むと車が発進される。 「今日もいいお天気ですね、双葉さん」 「おや?どうしたんですか?元気がないようですけど」 「いや、ちょっと昨日、僕が失敗しちゃってね。助けようとした双葉が床に頭をぶつけちゃったんだよ。慌てて安田先生に来てもらったんだけどね。 ちょっと元気がないんだ」 「そうですか〜頭は怖いですからね。気を付けた方がいいですよ」 違うんだ!双葉に体を取られたんだ!助けてくれ!そう伝えたいのに伝える事もできずに僕は車の助手席で黙ったままうなだれて、スカートから伸びる自分の太股を見つめるだけだった。 そうしてるうちに車は学校の門に到着した。 ・ 車から降り立つ僕と双葉。 横に並び、双葉を見上げる。 「さぁ、いくぞ、双葉。いつものようにちゃんと後ろから付いて来いよ。君は僕の大事な婚約者なんだからな」 僕と双葉は同じ教室だ。昨日までも僕と全く変わらない調子で双葉が教室にはいる。 「オハッヨー」 双葉そういった僕の友人達に笑いかけて窓際の僕の席に着く。 双葉にはこれと言って親しい友人がいないので通り一遍な挨拶をするだけで特別声を掛けられる事もない。 机に座り、これからの事を思うでもなくぼうっとしていると目の前を人影が差す。 顔を上げると、そこに双葉のにっこりと笑った顔があった。 周りの女子達がそれを聞いてツッコミを入れる。 双葉が照れながら僕の声でクラスメートと話す。 僕はただ会話に耳を傾けるだけだった。 本当に楽しそうに会話をしている…… これが本当に双葉か? 僕が立ち上がったのに気づき、双葉が振り向く。 「いえ、別になにもありません、清彦様」 「うわぁ、清彦様だって!本当にご主人様と使用人みたい」 「ははは、ダメだぞ、双葉。学校ではいつものように”清彦さん”でいいから。屋敷と学校は別なんだから、ここではお前もクラスメートなんだからな」 「わかりました…… 清彦さん」 クラスメートの前で自分自身を様付けで呼んでしまったのを聞かれた、僕は恥ずかしさで耳まで真っ赤になる。 ・ それからの一日は散々だった。 授業で生徒達が答えられない設問があると、教師は最終的に成績優秀な”双葉”を指名した。 しかし、中身が清彦な僕に皆が答えられないような設問がわかるわけもなく、黙って立ちつくすしかなかった。 体育は体育で、本来なら孤独バリヤーが張り巡らされた双葉に近づく女生徒はいない筈なのに、今の僕は油断し過ぎる雰囲気があったのか、今までの僕なら天国で有るはずの女子更衣室が地獄になった。 隅っこで着替えていると「双葉さん、前から思ってたんだけど胸おっきーよね?」そんな声と共に胸がガッシと掴まれた。 「ひゃっ!きゃう!」 「え?今の誰の声?」「双葉さん?」「意外とカワイー」「何で今まで気が付かなかったのかしら」 それからは反応を楽しむように胸は揉まれる、お尻は撫でられる、股間はなで上げられる…… それに対して気弱な女の子のような仕草をしてしまう僕はまさにオモチャだった。 授業は授業で体育の成績は悪くなかった筈なのに、慣れない双葉の体は胸の2つのウェイトと股間の頼り無さが著しくバランスを崩し、追い打ちを掛けるように僕のブルマ姿に突き刺さる男子の視線が僕の動きを制限させた。 ・ 放課後、屋敷へと帰る車の中で双葉が言う。 恥辱と悔しさに声も出ない、そんな思いも知らずに山下さんが僕に声を掛ける。 「ははは、僕はいつもそんなに双葉をぞんざいに扱ってますか?いつも感謝してるんですよ、双葉には」 ・ やっとくつろげる、そんな表情が出ていたのだろう、双葉が言ってくる。 「え?」 「僕は双葉じゃない!メイドでもない!」 「あれ?命令の効果が薄れてきてるのか?僕の命令に逆らうなんて」『双葉、命令だ、メイド服に着替えて僕の部屋に来い。これからのお前の仕事の手順を教えてやる』 「承知しました、清彦様」 しかし、すこし希望が出てきたのに気付く。双葉の命令は時間が立つと薄れる。 と言う事は素直に従って新しい命令をかけ直させなければ、行動の自由は取り戻せると言う事だ。 父が帰ってくるのは日曜の午後だ。今日は木曜だから後3日、3日間しのぎきれば反撃のチャンスがやってくる、 僕は双葉の部屋に帰り、ベッドの上に放り出してあった双葉のメイド服に着替えた。 「清彦様、着替えて参りました」 机でノートを広げていた双葉が目を上げる。 「馬鹿か、お前は?そんなところに放っておいたらシワになるのは当たり前じゃないか?」 「まさか、制服も放りっぱなしにしてないだろうな?」 「ふぅ、どうやら双葉には基本の基本から教えなくてはいけないようだな」 「わかりました、清彦様」 ・ それから僕は夕食時まで、双葉の部屋で服の取り扱い方、ベッドメイクの仕方から始まり、部屋を出てから掃除に洗濯の仕方までみっちりと覚えさせられた。 新しい命令を追加されて余計な制限を付けられないように必死に双葉の指示に従う僕を、双葉は従順の証しと取ったのか、機嫌は悪くなかった。 夕食については「双葉に食事をまかせるにはまだどんな物を出されるかわかったもんではないし、母さんが帰ってきたら母か料理人が作るようになるからそれまでは僕が作る」と免除された。 夕食を取っていると双葉がにやにやと笑う。 心にのし掛かっていたおもりの一つが外されたような軽さを感じる。 「最悪だ、何で僕がこんな目に遭わなくちゃ行けないんだ。学校ではセーラー服で、授業は難問ばかり先生が差すし…… 普通の設問なら僕にも答える事ができるのに…… あれじゃ僕がまるっきりバカみたいに感じるじゃないか」 「それは清彦じゃなくて本来の持ち主である私がバカに思われてるんだがな?いくらもう使わない体だと言っても今までその体で築いてきた信用を崩されるのは気持ちのいいものではなかったぞ?」 「体育は体育でブルマー穿かされて、イヤらしい男子の視線が痛いし、体型の違いで体のバランスも取れないから思うように体を動かせないし。 着替えの時は女子のオモチャにされるし…… 帰ってからもメイド服を着せられて仕事に追われるし…… 散々だ」 「常時、男子の視線に晒される女子の気持ちがよくわかって良かっただろ? それに体型の問題は単なる慣れだ、私はその体で女子の中では上位の運動能力をキープしていたぞ? それにお前は体型に不服を言うが、その小さめな体にその大きな胸は誇ってもいいと思うがな?他人の目で見るとなかなかよく似合ってるぞ、そのメイド服」 「なぁ、頼むから体を元に戻してくれないか?そうしたらちゃんと秋山家の跡取りとして恥ずかしくない行動をするから……」 「ダメだ。清彦という人間をずっと見てきたけど、清彦の反省は本当にのび太君レベルだから3日もすれば元に戻ってしまうのは目に見えているからな、これからは私が清彦だ」 「そんな…… ひょっとしてもう戻す事ができないのか?一度使うとダメになる呪方とか、アイテムを使ったとか?」 ふふん、と見透かすような目で僕を見て双葉が答える。 「…………」 「まぁ、帰ってきてからのがんばりに免じて少し教えてやろうか? 使った呪方は男女限定で発動する呪方だ、条件さえ満たしていれば何度でも使えるぞ、例えば、たった今でも呪方はできる」 「あぁ、今言った事は本当だよ、でも、戻す気は無いけどね。 さ、食事は終わりだ、後かたづけは頼んだぞ、双葉。 さっき、教えたように食器はちゃんと乾かしてから所定の場所に仕舞っておくようにな、あとでチェックするから手を抜くと僕の心証を悪くするぞ。 それと風呂の準備も忘れるな。 できたら報告に来るように。それが終わったら、学校の課題と予習復習を忘れないようにな、秋山家の人間が今日のようでは困るからな」『はい、それじゃ双葉に戻ってしっかりやれよ』 それだけの事を言うと双葉は僕の部屋へと帰って行った。 僕は食器を洗いながら考える。 体を入れ替える呪方は何度でも使えると双葉は言った。 ・ 食器を洗い終わり、バスルームの大きな湯船にお湯をはって、双葉の着替えを用意して双葉の部屋に行く。 こんこんっ 「清彦様、お風呂の用意ができました、どうぞ、お入り下さい」 双葉が部屋から出て行くのを待っていると双葉がこちらを振り向く。 お前が部屋から出て行くのを待ってるんだよ!とは言えない。 「はい、そうですが…… 他にご用はございませんか?」 僕は慌ててそれを否定する。 踵を返すと、後ろから声が掛かる 「わかりました、清彦様」 部屋を探ろうとしていたのを見透かされていたのか、それともただ僕をからかいたいのか、一緒に風呂に入るようにされてしまい、僕の計画は最初っから頓挫する。 と言うか、双葉の体で裸になった僕と風呂に入るのか?双葉! 双葉の部屋を漁ってパジャマを探し出し、バスタオルを持ってバスルームに行くと双葉が待っていた。 「遅いぞ、双葉」 「じゃ、服を脱いで先にお風呂に入って待っておいで」 「あの、清彦様?」 「ここで脱ぐんですか?その前に本当に一緒に入るのですか?」 僕はメイド服の背中のジッパーに手を掛ける。目の前では双葉がニヤニヤと笑ってみている。 「さぁ、下着も脱いだら中で待ってるんだ」 バスルームの中は誰もいない。居るのは素っ裸で恥ずかしさに目に涙を溜めている僕だけだ。 外では双葉が服を脱ぎながら鼻歌を歌っているのが聞こえてくる。何を企んでいるのかがわからないのが怖い。 小さな白い肌の体に大きめに膨らんだ二つの胸、締まった腰に張り出した尻。 そして股間のなだらかな茂みの先には細いクレバスがのぞく。これが今の僕の体。無力な僕の…… 感傷に浸っていると戸がガラッっと開いて双葉が入ってくる。 裸の昨日までの僕の体。今の僕には付いていない器官が目の前の股間に付いている。 「お、双葉には目の毒だったのか?顔を赤くして。ウブだなぁ、双葉は。ははは」 「それじゃ、お言葉に甘えて背中を流して貰おうか」 「平気なんですか?」 「なにがだ?」 「ん〜、別に。そんな事を気にするようなら最初から体の交換なんてしないさ。これはもう僕の体だからね。自分の体を恥ずかしがってどうする?しかも、この体は結構いい体じゃないか?自慢になっても恥にはならないだろ?」 「なんだ?双葉は自分の体が恥ずかしいのか?早く慣れないとダメだぞ、その体はこれからの一生を過ごす体なんだからな」 「よし、今度は僕が双葉を洗ってやろう」 背後では機嫌をよくした双葉が鼻歌を歌いながらスポンジにボディシャンプーを付けている。 背中にお湯を掛けながら双葉が声をかける。 「え!?」 「ちょっと、待って下さい。自分で洗えますから……」 「ふ、まぁいいか」 体を一通り洗い終わり、所在なげに座っていると湯船に入っている双葉から声が掛けられた。 何を言ってるんだ?コイツは?すでに双葉が入ってるじゃないか? そう返事を返すと双葉がニッコリと笑って言う。 僕が躊躇していると双葉の命令が下る。 背中に双葉の胸板が当たる。 暫くして双葉の膝に座っている状態に慣れてくると双葉が僕の耳元で優しげに口を開く。 やはり疑われていたのか?しかし、部屋を探ろうとしていたなどとはいえない。 双葉がそう言ったとたんに僕の2つの胸に両手が掛かり、揉み上げられる。 「や、やめて下さい、清彦様、はうぅ、あん……」 悶える僕を楽しむように胸を揉み続ける双葉。 「な、何も……」 片方の手が下がり、股間にあてがわれる。 股間に伸びた手はクニクニとクレバスの上部を刺激する。 「おや?乳首が堅くなってきたね、しまった、これはお仕置きになってないのかな?楽しんでるの?双葉」 「きゃうっ!ひぃぃ。楽しんでなんか…… あん……いや……」 「だから、何も……」 「粘るねぇ、双葉ちゃんは。なかなかの精神力じゃないか?」 「はうぅぅぅう!こ、これは?やめ、やめてぇ、痛い、痛いよぅ」 「ふふん、どう?女の子の感じは?気に入った?」 「そう?それならそれでもいいけど。 で、白状する気になった?」 「ひぃぃぃ!だから……あぅぅん、何も…………」 お尻の下で何かが膨張し始めている!まさか…… 冗談じゃない、昨日までの僕のアレを今の僕のソコに入れようと言うのか?それだけは死んでもイヤだ。 「あぁん、ひぃ、すいません、私が悪かったです、ふぅぅん、清彦様の部屋に体を入れ替える為の”何か”がないか探ろうとしていました、はぁうん!」 「はふ!ごめんなさい!ゆるして!」 「誓います、誓いますからどうか……」 「ひゃぁぁぁ!だめぇぇぇ!イク、イク、イっちゃうぅぅぅぅ!」 ・ 気が付いた時、僕の体はまだ湯船の中だった。 湯船のそばにはバスタブの縁に腕をかけて僕を眺める双葉の姿があった。 呆然と双葉を見上げる僕。 「気が付いたようだね、双葉。1分くらいかな?失神していたよ。余程、気持ちがよかったんだ?」 僕は恥ずかしさに体育座りになり、無言でその体を双葉から隠す。 「約束。 覚えてる?」 「結構。 それじゃ、後はお湯を抜いて、バスタブをきれいに洗っておくようにな。双葉、恥ずかしい物をお湯の中に出してたみたいだしね」 「手早く終わらせないと湯冷めして風邪を曳くからね、それが済んだら今日はもう用はないよ。 自由にしていいからな」 その後、僕は裸のままで湯船をスポンジで磨きながら、今の自分の非力さと立場を思いながら涙をこぼした。 * * * 朝。 目覚ましが鳴る。 六時か…… 早いじゃないか…… 登校時間までは二時間以上ある。 いつもなら双葉が起こしに来るまで一時間以上は眠っていられるのに…… しかし、今の僕は逆に双葉を起こしに行く立場だ。 重い体を起こし、ベッドから立ち上がる。 しかし、昨日のアレには心底参った、またあんな目に合うのはゴメンだ。 僕はのろのろとパジャマと下着を脱ぎ、新しい下着と学校の制服に着替えてその上からエプロンドレスを付ける。 双葉に朝起きたら一番に洗濯をして干すように指示をされているので、今脱いだ下着とパジャマを持って洗濯場に向かう。洗濯の仕方は昨日みっちりと双葉に教えられた。 今持ってきた下着と洗濯カゴに入っている双葉と僕の洗濯物を、色物と分けて二台の洗濯機の中に放り込みスイッチを入れる。 あとは朝食だが、朝食は双葉が用意するので早めに起こしに来るように言われている。 元の僕の部屋に行くと、すでに双葉は着替えて机に向かってノートを広げていた。 「清彦様、朝食の用意をお願いできますか?」 僕が声を掛けると双葉が返事を返す。 「今、しています」 一瞬、僕と目が合う。そのあと、目が下に移る。 「では、お願いします、清彦様。 私は玄関の掃除がありますので……」 ・ それから玄関の掃除が終わる頃には朝食が出来ていた。 ・ 食事が終わり洗濯物を干す僕。 まだ二日しか立ってはいないが隣のトランクスが懐かしい。 やっぱり、早く元に戻りたいという感情が湧いてくる。 下着を前に悩んでいると双葉の呼ぶ声が聞こえる。 悩んでいる内にそんな時間になっていたのか。 ・ 「お待たせしました」 玄関先で待つ双葉に声を掛ける。 「そうかそうか、双葉もわかってきたじゃないか。でも、いくらご主人様が気に入ったからと言っても学校にまでエプロンドレスを付けて行かなくてもいいぞ?」 その体にはまだエプロンドレスが付けられたままだった。 「ははは、まぁ、帰るまで来客はないだろうからそこにおいておくといい。行くぞ、双葉」 クソッ、絶対に戻ってやるぞ! * * * 学校に着き、クラスへと入る。 また、憂鬱な一日が始まるのか。 家では双葉だけだし、その双葉にしても中身は僕だとわかっているのだからまだマシだが、学校では不特定多数の前にこの姿を晒して女の子を演じ続けなければいけない。 昨日のストレスは相当なものだった。 そんな事を思っている僕に早速声が掛けられる。 そればかりじゃない、昨日はわりと静観状態だったのに、今日は男子の視線もわりとよく感じるような気がする。 冗談じゃない、僕が可愛い女の子扱いされて反論も出来ないなんて針の筵ってヤツじゃないか? 結局、その日は一日中皆が僕を女の子扱い(当然と言えば当然なんだが)して僕のストレスは最高潮に達していた。 放課後、僕は疲れ果てて帰宅の準備をしていると双葉がそばにやってきた。 「双葉、悪いが今日は山下さんの車で先に帰っていてくれないか?ちょっと高橋のウチに遊びに行く約束をしちゃったからね」 「あぁ、遅くなるようだったら先に夕飯は先に適当にすましておいていいから。 だからと言ってやる事はやっておけよ。さぼったり、手を抜いたりしちゃだめだぞ?後でチェックするからな。 あ、それとあの屋敷にお前一人になるから早めに戸締まりをしておいてもいいぞ、カギは持ってるから」 チャンス!これはチャンスかも知れない、高橋のウチは僕のウチから反対方向に五駅向こうだ。僕も遊びに行く時は翌日が休みの日の今日のような金曜日くらいしか行けない。 父が厳格な為に平日は気軽に行けないのだ。 今日は双葉は最悪でも八時までに帰ってくる事はないだろう。 お迎えに来た山下さんに清彦(双葉)が遅くなる事を伝えると同時に双葉から迎えの連絡が入ったら夕食の準備をするから忘れないで連絡して欲しいと頼む。 これで事前に双葉の帰宅がわかる。 連絡が入ってから、家捜しの痕跡を隠しても充分に間に合う。 そうして僕は山下さんの運転する車に乗り込み、屋敷へと帰る。 E N D |