清彦伯爵についてのいくつかの事柄 番外
 作:teru


「ふぅぅ……」
「うん、なかなか綺麗だったじゃないか、双葉」
伯爵が私を見て顎に手を当てて満足そうに微笑む。
「コルセットが苦しい…… です」
「女性は体型補正が大切だからね。 子供を二人も産むと体型も崩れるから大変だ」
そう言われる私の今の服装は、幾重ものパニエでふんわりと脹らんだスカート、コルセットで(拷問級に)引き締められた腰、ガーターベルトで引き上げられているストッキング。胸を大きく空け、零れるような双丘を際立たせたドレス。 これはもう拘束着ですよ、拘束着。
「あの……何故に私はこのような?」
「なにゆえもなにも、、今まで双葉は妊娠と育児の連続で公式に社交界に出てなかったからね? 二人目もようやく手を放れようとしてる今が社交界デビューのチャンスじゃないか?]
「社交界デビューはもう少し後でもよかったのでは?」
「ははは、何を言ってるのかね、この奥さんは。もう少し後になると俺達の身体を元に戻した後になってしまうではないか? それでは意味が無い」
そう言って酷薄に笑うご主人様、清彦伯爵。
               *
しかし、目の前で笑っている清彦伯爵の中身は元メイドの双葉。 そして、慣れないドレスに四苦八苦している元メイドで現伯爵夫人の双葉が、私、清彦伯爵なのだ。
いくらプロポーズをしてもいい返事をくれない幼なじみにして姉のような存在の双葉に対して、いい加減に痺れを切らした私は自分の趣味を兼ねて身体を入れ替えて強引に犯されたのだ。 
うん、既成事実ってやつだね。 しかも犯したのは双葉姉の方で犯されたのは私、つまり私は被害者。
しかし、この完璧な論理は怒り心頭の双葉姉の前に脆くも崩れ去った。
「孕んだのは清彦。孕ませたのは私。だったらその子の出産義務は清彦にある。ちがう?」
そう言って双葉姉は結婚の条件として私に出産を迫ったのだ。
出産から授乳期間が終わるまでの約二年間を私に双葉として過ごせ、と。その間はお互いの身体が入れ替わっていることを他人に知られないこと。
王国で数本の指に入ろうかと言われる実力者の伯爵ともあろう者がメイドと身体を交換して赤ちゃんを出産したと知られればこれ以上の醜聞はないし、そのような変態趣味の妻になる事は耐えられない、と笑う双葉。
絶対にこの状況を楽しんでいるのは明らかだったが、私にはこの条件を飲むしかなかった。
双葉に指摘されたが、なによりもこの絶体絶命の状況を心の底で楽しんでいる私がいたのも事実。
計算違いは授乳期間中に二人目を孕まされた事により、入れ替え期間を延長されたこと、
「俺は言ったよな?孕んだ者が産む責任があるって? だから、避妊をしてなかった双葉が悪い」
そう宣言されて逆らうことができずに三年半、やっと来月には元の身体に戻る許可を得たのだが……
               *
安心したのも束の間、突然に建国祭で賑わう王都に連れてこられて豪華なパーティドレスを着せられた私は元の身体に戻る前に社交家デビューさせられたのだ。
サディストの双葉姉、最後の嫌がらせというわけだ。
「と言う事で今夜の双葉の社交界デビューは完璧だった。 今までの三年は妊娠出産の繰り返しで身体の安全のために領地から出なかったからな。 俺も妻の身を案じて領地から出なかったから、俺も久しぶりの社交界だ」
そう言ってタキシードを着た胸を張る伯爵。 
さすがに三年も"清彦伯爵"をやっていると友人関係も完全に把握ができたから社交界デビューも問題ないと踏んだわけだ。 たしかに三年という年月は完全に"清彦伯爵"を自分の物にするには充分な時間だ。
鬱々と双葉をする私に対して、嬉々として私、清彦伯爵を演じる双葉姉。
「いやぁ、領地内での小さなパーティばかりで大きなパーティは初めてだったから面白かったな?」
そう言って私に誘うように手を差し伸べる清彦伯爵。
「なんで私も国王主催のパーティに出したんですか?」
私は差し出された手をおずおずと取る。
「そりゃ、せっかく夫婦でどうぞ、って招待状が届いたからな。 国王としては帝衛州帝国の食料庫と言われる清彦辺境伯爵領の領主を無視するわけにはいかないし、領主としても国王の面子を潰すわけにはいかないだろ?
三年も王都に出るのを断り続けていたからな。 ヘタに反乱などと痛くもない腹を探られるのは勘弁だ」
そう言って笑う伯爵。
「しかし、もし、身体を入れ替えているのがバレでもしたらと思うと……」
「清彦伯爵は元メイドの身体になって赤ん坊を二人も産む変態だ、という噂がその日のうちに王都を駆けまわっただろうな?あははは」
「あはは、じゃありませんよ。身分制度が厳しい貴族界でそれは冗談じゃシャレじゃ済まないんですよ?」
「そうだな。しかも清彦伯爵様は元メイドの身体を使っているだけじゃなくって……」
そう言うと私のドレスの裾を掴むと思いっきり捲り上げる。
「あ、なにを……」
スカート部分を捲り上げ、晒された股間には金属の光沢が光っていた。
「こんな物を自らの下半身に装着してると知られたら伯爵の名誉は地に落ちるな?」
鋼の貞操帯にがっちりと固められた下半身を隠すようにスカートの裾を伯爵の手から取り戻して元に戻す。
この貞操帯は二人目を産んだ時に地元の職人にこっそり作らせた。 前面にある錠の部分に私自身の魔力を通す事でのみ解錠される。 そんなものを装着してないといつ御主人様に孕まされるか判ったものでないのだ。
普通、貞操帯という物は御主人様以外の者との密通をさせないために御主人様からつけさせられる物だが、私の場合は御主人様からの狼藉から身を守るために私自身が装着しているのだ。
双葉姉は男の強引なセックスが気に入っているのか、しばしば無理矢理に近い形で私を犯す。 いくら避妊を叫ぼうが自分自身が女である事も忘れたかのように強姦してくるのだ。
このままでは三人目も孕まされると危機感を抱いた私は地元のその手の職人に頼んで、自分自身の下半身を防御するための"乙女のための鋼鉄の鎧、貞操帯"を作らせたのだ。
それ以来、常にこれを装着するようにしている。 でないと、隙あらば私の身体を狙ってくる双葉姉に対応できないから。 
うっかりと三人目を孕まないように…… 
しかし、さすがに三年以上も休み無く双葉を演じさせられて、それでも"身も心も双葉に堕ちない"のは双葉自身のせいだ。 双葉は今一つのところで私が清彦伯爵である事を忘れさせない。
魔法を使うのは貴族の特権。しかし、今の私に成り代わっている双葉は執拗なまでに魔法を覚えようとしない。
「私は自分の身体を捨てるつもりはないですよ? この身体はあくまでも伯爵からの預かり物ですから。 この身体で魔法まで使えてしまったら伯爵(あなた)の存在理由はないでしょ?」
そう言って農地の視察に行く際も私を連れて行き、馬車の中から魔法を使って干ばつの地区に雨を、雨期が長すぎる地方には晴れ間を私に提供させるのだ。
「私はね。清彦の家を乗っ取るつもりはないの。 清彦が困った顔をするのを見るのが好きなだけ。 三年もの間、私の身体に閉じ込められて赤ちゃんまで二人も産んで…… しかもそれが世間にバレたら身の破滅。 こんな状況をずぅっと私に提供してくれる清彦は最高よ?」
私の下顎に手を廻してクィッと顔を上げさせるとサドッ気たっぷりにニヤリと笑いかける。
「さてと。 清音の授乳期間もそろそろ終わってもいい頃だし、無事に王都での建国祭を終えて領地に帰ったら身体を元に戻しましょうか?」
伯爵が妖しく笑いながらそう提案する。
「え!?いいの?」
その言葉に思わず私は聞き返す。
「なに?戻りたくないの?」
「戻りたい!さすがに三年は長すぎだと思う」
「そうよね。ずっと入れ替わったままでは精神が慣れて飽きが来るものね。 だから一旦、元に戻してそれからふたたび……」
「戻りません!さすがにもう凝りました!"双葉"はもう沢山です」
「いいのぉ?ほんとうにぃ?元の清彦伯爵に戻ったらもう清彦を虐めることができる人間はいなくなるのよ?」
「うっ」
楽しそうにそう言われると考えてしまう。 
今は清彦に戻りたい気持ちは強いが、果たしてその気持ちをずっと維持できるかというと……多分、誰かに虐められたいという気持ちが出て来るかも知れない。 いや、出るだろう。 ……しかし、今は。
「い、いや大丈夫。私は清彦伯爵」
「それに……ちゃんと清彦伯爵に戻れるの?三年も双葉をやってきて女の身体に馴染んで、男だった事を忘れているんじゃない?この身体を取り戻してもオカマ伯爵にならない?」
「なりません!」
「そう?伯爵の姿で小指を立ててティーカップを持ったり、朝起きてすぐにいつもの習慣でメイドにお化粧させたりしない?」
「し、しません!」 ……ちょっと自信ないけど。
「まぁ、いいけど。 さてと、今夜のパーティで王都での目的は殆ど果たしたし、後は領地に戻って身体を元に戻せば本当に元通りの生活に戻れるわけだが」
「双葉姉は本当に私の奥さんになってくれるんだよね?」
「あぁ、しかもこの三年間、アナタが演じてきた"貞淑で従順な双葉奥様"を引き継いであげるわよ」
「くっ、やった!三年間の苦労が報われる時がやっときた!」
思わず拳を握って小さくガッツポーズをする。
「さてと、そうなると悔いが残らないようにしておくべきだと思わないかね、双葉ちゃん?」
「悔い?」
「うん、悔い。思い残し」
「何か思い残す事って有りましたっけ?」
伯爵が私の腕を掴んで引き寄せる。
「私はね。ずぅっと、夜の生活を奥さんに拒否されて欲求不満が溜まってるのだよ」
「いや、だってそれは妊娠しないための用心で…… で、でもその間、手や口で御奉仕させられましたよね?」
「男の欲求がそれで満足すると思うのか?」
そう言って私の背中に手を廻し、ドレスを締め付けるヒモに手を掛ける。
「ちょ!、ちょっと!なにを!?」
「だから、これから夜のい・と・な・み」
伯爵がそう言って笑うと背中の紐を引っ張り、胸の締め付けが弱まる。
私は屈み込むようにして、はだける胸を押さえてガードに走る。
「おや?ねぇ、私言ったわよね?元に戻ったら"アナタが演じる双葉"を引く継ぐって。つまり、これは元に戻ったら"夫の要求を拒む妻"を演じればいいって事かしら? 赤ちゃんを二人も産んだのだから貴族の妻の役目は果たし終えたと言ってもいいのよね」
「そ、そんな……」
「なにを情けない顔をしてるのかしらね? なに?それとも男としてのセックスに未練があるの?でも、安心して。アナタがやったように手や口でヌいてあげるわよ?」
「ちょっとそれはあんまりでは?」
「だから今、アナタが決めればいいのよ?アナタが求める理想の妻はどういう妻なのか?」
そう言って伯爵が私の腕を掴み、胸を隠す手を退かせる。
「………本当に今晩だけですよね?」
「アナタが素直になれば明日には元に戻るんだから当たり前でしょ?」
そう言って私の着ているドレスを大きく開くと、ドレスはその重さにより足下にバサリと落ちる。 更に腰を締め付けるビスチェを緩め、取り外していく。 ガーターベルトにストッキング、そして…… 貞操帯だけが私の身体を守るように残される。
「さて?どうするの?」
勝ち誇るように私を見る伯爵。 私がどうするか微塵も疑っていない目が悔しい。 でも……
俺は諦めたように腰に巻かれた鉄のベルトに魔力を通す。
かちっ
女の大事な股間を守っていたベルトがコトンと外れ落ちる。
「さぁ、こんな無粋なモノは外してしまおうか?」
私の腰に手をやって、腰に巻かれていたベルトが外されてしまう。
「ふふふ。 さぁ、双葉。 御奉仕の時間だよ?」
伯爵が自分のベルトに手を掛ける。 そして私を三年間悩ませ責め立てつづけた凶器がそこから鎌首をもたげる。
「あ、あの?本当に男に戻ってもいいんだよね?」
背後から腰を押さえられた状態で私は首だけを伯爵に向けて尋ねる。
「男に二言はないよ。 伯爵領に帰り次第、アナタの好きなタイミングで身体を戻せば……いいよ」
ズン!と私の秘所にペニスが押し込まれる。 すでに濡れていた私のアソコはすんなりとそれを受け容れる。
「はうっ! あ、あはぁ!あ、あうぅ!あ、あん、あん、あん……」
同時に動き出す、元は私のペニス。明日には返ってくる私の……
「うん。やっぱり男の感じって好きだわ。 女を支配して従わせる男だけに味わえる特権」
気持ちよさそうに私の腕を背後から捕まえ、逃げられないようにして股間に腰を打ち続ける。
「あはっ、あん、あ、あ、あ、あ、あ…… わ、私……」
「ん?双葉も気持ちいい?元に戻りたくなった?」
「あん。 戻る…… や、約束よ?」
「残念。 判ってるよ、男に二言はないって?」
愉快そうに私を責め立てる伯爵、それに耐える私。
「……でも、女にウソは付き物っていうよね?」
「え?なに?」
伯爵の小さなつぶやきに尋ね返す。
「なんでもないよ。今は最後の夜を楽しみましょ?」
愉快そうに笑う伯爵。
               *
そうして翌日、領地に帰った私達は三年ぶりに自分の身体に戻った。 そしてその夜、私は男として妻と床を共にした。 三年経ってやっと男としての初夜を果たしたのだ。
そして一年後。三人目の伯爵家の子供だけは双葉が出産した……

E N D















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