田中さん総合

 トイレ実験
 作:田中

 一般に他者変身において、変身された側(以後被験者と呼称する)は、変身した側(以後、実験者と呼称する)と性行為を行った場合、自らの姿を映し取られた被験者側が受け身になるとされている(田中 1999)。先行研究では姿を真似ると被験者側の同意を得ていたにもかかわらず、被験者は性行為の主導権を実験者側に譲渡し、自らは受け身の性行為を行った(toshi9 2002)。
 しかしながら、自分と同じ容姿をしているからこそこれを現実ではないと捉え、普段は抑圧されている無意識化の願望を性行為に反映させる例外がないとは言い切れない。実際に、ナルシズムが強い女性ほどその傾向にあることが先行研究によって明らかにされている。本研究では、このナルシズムが強い女性が、眼前の自分に対して主導権を握りうるか否か、新たな知見を提供することにあった。


 被験者は都内の風俗店にて「クイーン」と呼ばれる28歳の女性(K)。環境要因を排除すべく、あえて疑似的な実験室的環境を作り出すために、客に扮した実験者が、Kが帰宅途中、トイレに立ち寄るように誘導した。個室に入ったKを薬物によって一時的に酩酊状態に陥らせ、その隙に二人の実験者が同個室に入りKの姿を特殊な薬物にて模写した。人数を二人にしたのは、対立関係を作り出すことで力関係を均衡にするためである。その後、二人は本物のK同様に混乱した演技を見せ、罵倒することで主導権を握るという演技を行わせた。

 以下が結果であるが、大変興味深いデータが得られた。スリットの深いドレスを着ていたKは、驚くべきことに客を相手にした性具をそのまま身に着けており、酩酊状態から目を覚ますや、一転、高飛車な態度を取り始めた。実験者二人の本物争いはあくまでも言語による罵倒のみにとどまり、「アタシが本物だ」「偽物は黙ってろ」というものに過ぎなかったのに対し、Kは実験者の頭を鷲掴みにし、壁に叩きつけるなどと激しい暴力を用いた。後の調査によって、Kが潜在的なマゾヒストである兆候が読み取れたが、実験はそのまま進行した。
 Kは酩酊状態後の境遇を夢だと勘違いしたらしく、「なんでこんな汚いトイレで」と怒鳴ったのち、実験者の一人のドレスを引き千切ると、性具を使って実験者を犯し始めた。もう一人の実験者が慌てて止めに入ったが、これに対しKは平手を持って答えた。実験者に対するKの暴力的な性交はすさまじく、事実実験者はトラウマになるほどであった。ポーチの中から鞭を取り出したKは、裸同然にした被験者の背中に鞭を何度も振り下ろし「これが気持ちいいんでしょ」と怒鳴り続けた。怒鳴り声と性交に委縮した実験者を見下ろしたKは、実験者に自分と同じ性具を与え、茫然として両者を見つめるもう一人の実験者を犯すよう指示した。
 当時二人は完全に演技を忘れ、Kの迫力に呑まれていたという。しかし、実験者はKに殴りつけられ、恐怖から、言われるままにもう一人の実験者を犯した。
 実験者らの模様は映像・音声ともに記録されていたが、音声は二人の悲鳴を生々しく録音している。分析にかけると、両者が緊張と恐怖に襲われていたことがよくわかった。さらにt検定を行ったところ、恐怖と性欲に関して1パーセント水準での高い相関関係が見られた。
 Kは実験者を犯す実験者を、さらに後ろから犯し、二人に対して鞭を振りかぶった。実験者らは顔に跡が残るほど鞭でたたかれたのち、実験者同士で「本物」争いを行うことを強要された。Kの自分が本物であるという確信は揺るがないまま、実験者は自分たちが本物であるかのようにふるまうことを強制されたのである。
 実験は当初一時間行う予定であったが、あまりにもKの暴行が激しいために、実験は三十分を以って中止を余儀なくされた。この研究において、仮説は大いに裏付けられ、限定的ではあるものの田中(田中 1999)の他者変身時の性行為の定義を大きく書き換えることとなったのである。


*この物語はフィクションです。登場する人物・団体・名称等は架空であり、実在のものとは関係ありません。


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