『幽体離脱〜ミルフィーユの少女たち〜
 作:嵐山GO


第9章〜最終章  Hold on

 シャンデリアの薄明かりの下、二人は大きなソファの上で
身体を重ねている。
 僕は命じられたとおり、する事もなくただ宙に浮いたまま、
その行為を見下ろしていた。
「ふふ…ビッショリね。ねぇ、美結ちゃんだっけ?
…あなた、もちろんセックスの経験は無いのよね。
じゃ、毎日一人でオナニーとかしちゃってるのかしら?」
「そ、そんなこと…しません。だから、お願いです…
もうやめて…」
「駄目よ。彼を引き離したいんでしょ? 我慢しなさい。
それに口では嫌がっているけど、ここはそうでもないみたいよ。
どうなの?」

 ぐちゅ、ちゅるっ
 女の細いしなやかな指が溝に沿って何度も擦り上げると、
次には唐突に蜜壷を責めた。
「あ、ああ…そこは駄目ぇ…あんっ」
「観念しなさい。ほら、気持ちいいでしょ? 今、もっと奥まで
入れてあげるから」
「あっ、駄目! 入れないで。お願いです。私、処女なんですよ…
あうっ! んんっ!」
「いいじゃない、指くらい…それに中を擦る方がずっと気持ち
いいのよ。女同士だから、分かるのよ。ほら、この辺が
いいんでしょ?」

 ぐちゅ、にゅるん
 まずは長い中指が進入し、内部の様子を探る…
 女は「おや?」という表情を一瞬顔に出したが、すぐに不敵な
笑みを浮かべて顔を上げ、僕の方を見た。
 いや、正確には見えていないのだから、僕がいるであろう
方角を向いただけといった方が正しいかもしれない。

「美結ちゃん。あなた、もしかして…あ、いえ、なんでもないわ」
 女は何かを言いかけてやめ、再び膣内の指に神経を集中し、
ゆっくりと注送を始めた。
(さっき何を言おうとしたんだろう…彼女が処女でないって事?
もしかして僕が美結ちゃんの処女を許した事がバレた? いや、
そんな筈はない…だってこの女の人が美結ちゃんの事、処女だったか、
そうでなかったかなんて知るはずはない。でも、さっきの顔はまるで
全てを知っているように見えたなー…何を知っているんだろう?
それにこれが儀式とも言っていたけれど)

 僕がぼーっとして考えている間に、二人はお互いの陰部を擦り合わせ、
まさに絶頂直前にあった。
「あん、ああ、いやー、こんなの…駄目ぇ」
「イッていいのよ。ほら、イキなさい。気持ちイイでしょ? あなたは
私以上に、あのお茶の効果が出ているはずよ」
 ぬちゅっ、ぐちゅ、じゅるる…

「あっ、あっ、いやっ、だ…めぇ、もう…駄目。イク! イッちゃうー!
イクーーっ!!」
「私もよ! ううっ、はうっ!イクっ!!」
 二人は、ほぼ同時に果てた。
 だが美結が、ぐったりと気を失っているかのようにソファに
横になっているのに対して、女の方はどこからか取り出した茶色の小瓶
(こびん)を手にしていた。


きゅきゅっ、ポンッ
 きつく閉じられていたであろう瓶の蓋が開けられた。
 女は小瓶の口へ指を一本差し入れて、中の白い溶液のようなものを
掬い取った。
「さぁ、これを舐めなさい。それで終わりよ」

 朦朧としている美結の口を開けさせ、指先に付いた粘液質の液体を
舐めさせた。
「うぐっ! な、なんですか、これ? うえーぇ、苦ぁーい」
「吐き出しちゃ駄目よ。それはあなたの、ううん、彼をあなたに
入らせないために必要な薬なの」
「彼…?」
「ええ、彼はまだ大学を卒業したばかりの青年よ…といっても
あなたから見ればうんと年上ね。彼は宗谷純治君といって、
イベントで私の手伝いをして貰っていたの」

「幕張世界七大不思議展の会場ですね?」
 なんとか体調を取り戻した美結は、身体を起し服を手に取り聞いた。
「よく調べたわね。もっとも調べない事には、ここには辿り
着けなかったわけだけど」
 女の方も下着を着けながら、質問に答えた。

「何か冷たいものでも飲む?」
「いえ、結構です!」
「大丈夫よ。もう変なものは飲ませないから」
「それより、どうしてこんな事になったか知りたいんです。それと、
あと…あの男の人、まだいるんですか?」
「いるんじゃない? その辺に。でも、もう入ってこれないから
安心していいわ。ねぇ、宗谷君も私の話を聞いていてね。
あとで身体を返してあげるからね」

「全部話すとすごく長くなるから、かい摘んで要点だけ説明するわね。
質問があったら、その都度聞いてもいいわよ」
「はい…」
 二人は身なりを整え終え、ソファに仲良く並んで座った。

「もう何年も前になるけど私は、人間の生きた魂を全く別の人間に
憑依させる術方を古い書物で知ったの。それは大昔から世界各地に
伝えられている方法なんだけど、誰も今まで決定的なものを
発見できなかった」
「それは?」
「さっきの小瓶に入っていた液体よ。昔の文献の至る所に書かれて
いるのに、なかなか見つからない。例えそれらしき物が見つかっても、
すでに使用されて空になっているか、蒸発しているか…私はこれが
見つかった時、それはもう天にも舞い上がる気分だったわ」
 
「大昔の人は、その薬を何のために使っていたんでしょう?」
「一言でいうなら長寿、もしくは死なない身体かしら?」
「そうなんですか?」
「そう信じてたみたいだけどね。実際には、そんなに簡単な事では
ないの」
「???」

「この薬は今でいうところのクローン技術みたいなものかしらね」
「クローン…ですか?」
「お偉い人、例えば王様とかの寿命が近づいたり、不治の病に
倒れたりしたら別の若い身体に乗り移って生まれ変わらせる。
解る? クローン技術が進めば、似たような事をきっとやるでしょう。
長寿、若返りは人類最大の欲望であり、目標ですからね」
「そんな事って…」
「でもね、上手くいかなかったと思うの。でなければ今頃、
世界中のあちこちに大昔の王様や姫様が生き残り、古代からの
文明を引き継いで繁栄してる事になるじゃない? でも現実は
違うわよね? たぶん…
私が思うに、一度の憑依が限界だったのではないかと考えているの。
次から次へと憑依するのには限界があったか、もしくは憑依しても
時間的な制約があったか。それは、これからもう少し分析して
調べてみるけどね」

「でも、その発見は歴史的に貴重なものではないんですか?
使っちゃったりして…」
「科学者、発明家、冒険家、世の中には色んな人がいる…でもね、
求めているものが手に入ったとき、まずどうしたいと思う? 易々と
他人の手に渡してしまうの? 地位のため? 名声のために? 私は
あいにく、そんなものを必要としないほどのお金も名前も得て
いるわ。これは言い訳に過ぎないけれど、とにかく誰よりも早く
自分の手で、目でこれを試してみたかった。そういう事よ」

「それで、その実験体が私だったんですね?」
「うーん、それが正確にはあなたではなく彼の方だったのよ」
「では、私は?」
「あなたは、そうね。偶然に…偶然かな? ま、とにかく選ばれたに
過ぎないの」
「選ばれた…?」

「この術方を試すには色々と困難な条件があって…そうね、例えば
平たくいうと汚(けが)れた身体では上手くいかないの。
処女、もしくは童貞でないと。そういう意味では先程とは矛盾するけど、
王様…つまり子を持つ親では無理だったかも。他にもタバコやアルコール、
過度な糖分、カフェインなどを摂取した身体も駄目。他にもね、
血とか血族とか色々とあったのよ。でね、これも偶然といえば
偶然なんだけど、彼を見つけたって訳」

「それじゃ、私はどうして?」
「ちょっと待って。順を追って説明するわね。彼を知ったのは
イベント会場なの。初日に受付で販売するはずのカタログが届かず、
皆困っていた時よ。アルバイトの男の子は沢山いたけど、彼が自分から
取りに行くと言ってくれたの。8月の炎天下に誰も行きたがる子なんて
いないのにね。それでせめて初日分だけでも、って印刷業者まで取りに
行って貰ったの。その後、責任者の一人である私がお礼ついでに、
この話を、そっと持ちかけてみたのがきっかけよ」

「ああ、それで何か重いものを運んだ気がするって言ってたんだ…」
「乗り移ると断片的にしか記憶が残らないみたいね。この辺り、
完璧じゃないところがもしかしたら太古から継がれていない所以かも…
うん、いい事を聞いたわ。後で、もっと聞かせて頂戴ね」

「あの男の人に聞いた方が早いと思います。もう私とは無関係ですから」
「そんな風に彼に冷たく当たらなくてもいいんじゃない?
彼、あなたに一目惚れだったみたいだし。ね、宗谷君、覚えてるでしょ?」
 女がまた、顔を上げて僕に言った。
 だが肉体が存在しないので、答えようもない。

「それ、どういう意味なんですか?一目惚れって」
 美結が顔をちょっと赤らめて聞いた。
「とにかく色々とあったけれど、なんとか彼を丸め込んで実験に
協力してくれるように頼んだのよ」
「え?ええ…」
「彼にね、聞いたの。誰の身体に乗り移ってみたいかって。
でも純情なのか何なのか彼の周りにはそれらしい女性が誰もいないのよ。
普通、若い男の子ならちょっと気になる女の子といるもんでしょ。
そんで、その子の身体に入れたなら試してみたい事とか
あるわけじゃない。でも彼にはいなかったのよ。ま、こっちとしては、
その方が都合が良かったのかもね。初心(うぶ)なほどこの実験が
成功する可能性は高くなるような気がしたの」
「私のことは、どうやって?」

「うん。でね、彼にカメラを渡したの。直接の身体が望めないなら
被験者の画像でもいいからって。方法がちょっと違うけど、
根本的には同じ事なのよ」
「写真ですか? でもカメラが発明されたのは最近のことですよね?
大昔には無かった筈ですよね?」
「カメラのこと? あったわよ。遥か大昔から」
「え? 嘘…」
「あなたの使っているようなカメラじゃないけどね。ほら、小学校の時、
理科の実験で日光写真とかいうの作らなかった?紙の箱に針で穴を
開けて、長時間太陽の光だけで印画紙に画像を焼き付けたでしょ?
あれと似たような原理でね」
「あ、ああ…そういえば…」

「もともと憑依なんてもの、魂が抜け出して別の身体へと移動するのに
距離は関係ないの。被験者の画像があり、あとは術方さえ間違えなければ
…あ、そうそう、そんで彼に会期中に好みの子が見つかったら
撮りなさいって言って、持ってきたのがこれよ」
 女が先程、小瓶を取り出した時のようにテーブルの下から一枚の写真を
出して見せた。

「あ、これ私…です。駅のホームで電車を待ってる間に撮られたのかしら?
あれ? 後ろに写っているのは理香だわ。あー、夏休みに一緒に遊びに
行った時の格好みたい」
「りか?」
「あ、妹です。まだ小学生なんです」
「そう…ふふ、それじゃ、もしかしたら」
 またも女が不敵な笑みを浮かべ顔を上げて、言葉を漏らす。

(もしかして理香ちゃんに乗り移ったのもバレた?)
「妹がどうかしたんですか?」
 美結が心配そうに聞いた。
「え? あ、ううん。何でもないわ。彼には後で聞くことが山ほど
ありそうよ」

「それで、さっきの一目惚れの件ですけど…」
「彼、よっぽどあなたの事、気に入っちゃったのね。嬉しそうに
焼きあがったその写真を見ていたわよ」
「そんなこと…だって厭らしい事、考えていたに違いないんです!」
「そうかしらー?」
「え? じゃあ、理香も写真に写ってますけど妹にも乗り移れたんで
しょうか?」


「どうかしら? 無理じゃない? ちょっと焦点が合ってないし。
それに美結ちゃんみたいに愛しく想う強い心がないとね」
「ふう、良かった」
 どうやら女は僕を救ってくれたようだ。
 たぶん、これ以上問題や質問を増やされたくないんだろう…。

(助かった…)
 僕はちょっぴり安心したと同時に驚きもあった。
(でもどうして入れたんだろう…確かに理香ちゃんに入った感じは
美結ちゃんとは違ってた。先に姉の身体に入ったから、
入る隙間が出来たとか?)

「何でもそうだけど、発想やお膳立ては単純なものなのよ。
それを実行に移すための意気込みが大切なの。それに今回は画像と
薬と術方が書かれた本があったら楽だった。後は宗谷君と、
そして写真に写ったあなたが理想どおりであったなら…そして事実、
あなたは期待した通りの身体だったって訳よ。どう?」

「で、でもだからといって私は彼を許すわけにはいきません!
勝手に入ってきて…裸も見られちゃったし…他にも…」
「もういいじゃない。過ぎた事だし。それよりも私の重要な研究の役に
立ってくれたんだから相応の報酬を払うわよ。なんなら私のコネで、
お望みの大学への推薦状を書いてあげましょうか?
仕事がしたいのなら私の下で助手として使ってあげてもいいわよ。
ね? 悪くない話しでしょ」


「ホントですか? それは凄く嬉しいかも」
「じゃ、商談成立ね。ちょっと沢山喋ったんで喉が渇いたわ。
お茶にしましょう」
 女は机に向かい、インターホンを押し冷たい飲み物を持って
くるように命じた。

「あの男の人は、どうなっちゃうんですか?」
「うん、そうね。この後、目覚めてもらうわ。実際、そろそろ戻って
もらわないと危なかったのよ」
「どういう意味ですか?」

「もともと魂の無い抜け殻のような身体は、太古の人はすぐに
処分したか埋葬したか、だと思うの。新しい身体に入ったのだから
取っておく必要もないし、今のように保存しておくような医療機器が
あるわけではないから、腐敗が進むだけでしょう。
私の方はちゃんと、それなりの場所で保管してあったんだけど、
何にしても初めてのことでしょう? あと数日、遅かったら、
どうなっていた事か…」
「ええっ! どうなっていたんですか?」
「彼が戻れなかったら、その身体を二人で仲良く共有していたで
しょうね。ふふ」

「はあー、そうだったんですか。間に合って良かったー」
「彼は、そうは思っていないかもね。あなたとずっと一緒に
いたかったんじゃない?」
「嫌です! やめてください」
 そこまで話したところで、ドアがノックされ冷えた飲み物が
運ばれてきた。
 女が二人分のグラスに注ぐと、自分と美結の前に差し出した。


(また変な薬が入ってたりして。あ、あの人も飲んでいるから、
それはないか)
 二人は乾いた喉を潤ませると、再び会話を始めた。
「今回の事は口外しないでね。今、あなたに言った事も殆どは憶測に
過ぎないし、発表するかどうかも自分で決めたいの」
「私は何も言いません。こんな…恥ずかしいこと…」
「ありがとう、約束ね。守ってくれれば悪いようにはしないわ。
さっき言った事は必ず実行してあげるから、いつでも言ってね」

「はい…でも、あの人が喋っちゃうって事はないんですか?」
「大丈夫。まだ何も思い出せないかもしれないけど、彼とは綿密な
約束事が交わされているの。それは彼にとっても十分、有益な事よ」
「そうですか。では、あの人の…宗谷さんの儀式はいつ始めますか?」
「もう始まっているわよ」
「えっ?」

 女がグラスを置き、再び机に向うとリモコンを取り出しボタンを
押した。
グラッ、グイーーーーンン
 壁面の大きな書棚がモーター音と共に横にゆっくりとスライドを
始めた。
「あなた達が来るって聞いて、急ぎ隣の部屋に身体を移したのよ。
彼はベッドの上」
 書棚が完全に開き停止すると、中の部屋の明かりが点灯しベッドが
現れた。
「大丈夫なんでしょうか?」
「あら、心配してるの? 優しいのね」
「え?そ、そんなんじゃありません」
「彼なら大丈夫よ。ちゃんと医療機器の整った場所で、専門の
医師の下で診てもらっていたから。今は身体も常温に戻り、
宿主の帰還を待っているわ」

「…そうですか」
「さ、宗谷君、これがあなたの身体よ。戻れば少しずつ記憶も
戻るでしょう。さ、どうぞ」
 女はそう言うと、また別の小瓶から液を数滴、掬いとって僕の
口内に垂らした。
 暗記しているのか、何か呪文のような呟きを聞きながら、
僕は女の言うとおり自分の身体に覆い被さるようにして身体を重ねた。


「どうやら上手くいっているみたいね。僅かだけど筋肉が動いたわ」
「…」
「おかえり。どう? 耳を通して私の声が聞こえる? 無事に戻れて
良かったわね」
 僕は自分の身体に戻れたが、しばらく寝かされていたせいか、
思うように身体を動かす事が出来ないでいた。

「まずは軽くリハビリかしら? うふふ、目はどう? 開けられそう?」
 僕は重い瞼を懸命に持ち上げ、それと同時に指先にも神経を
集中して何とか動かしてみようと努力した。
「う…うう」
 瞼を開けると、眩しい光の中に僕を覗き込んでいる二人の顔が
確認できた。

「少しでも早く動かせるように私たちが手伝ってあげるわね」
 女は僕の身体に掛けられていた、真っ白なシーツを一気に剥ぎ取った。
「きゃっ!」
 美結が小さな悲鳴を上げた。
 それもそのはず、シーツの下の僕の身体は全裸だったのである。

「若くって、締まっていて均整のとれた素晴らしい肉体。美結ちゃんも、
そうは思わない?」
 女が僕の胸から腹部にかけて、やさしく手を這わせる。
「え…ええ。でも…私、男の人の裸って初めて見るから…」
「そうだったわね。ほら、ここへいらっしゃい。触れてみて。
心臓がこんなに激しく鼓動を始めた。興奮しちゃうわ」
 女が美結の手を取り、僕の胸の上に乗せている。

「素晴らしい…本当に素晴らしいわ。何日も仮死状態で、その間、
彼はあなたの身体の中にいて…そして帰ってきた。血液が正常に流れ、
脈打ってる。分かる?これは凄いことなのよ」
「はい…」
 美結が女の言葉に触発されたのか、耳を心臓のある辺りに当てて
聞いている。


「ああ…私、今…例えようもないくらい興奮してる」
 女が股間に手を伸ばし、ペニスの先端を自分に向けると、躊躇なく
それを頬張った。
 ぺちゃ、ぺちゃ、うぐ、んぐ…
「あ! な、何をしてるんですか?」
「何をって、フェラチオよ。これくらいあなたも知っているでしょう?」
「う、うう…や、やめ…ろ…」
 僕はまだ身体も自由に動かせず、言葉も切れ切れでしか発する事が
出来なかった。
「やめた方がいいんじゃないですか。彼、なんだか困ってます」

「嫌、やめない。私ね、今すごくエッチな気分なのよ。あなたも
そうじゃない? 同じものを飲んだんだから」
「ええーっ! また入ってたんですか! さっきのお茶?」
「そうよ。だから言ったでしょ。まだ儀式の途中なの。さ、あなたも
遠慮せずに彼の唇を吸って」
「い…嫌…だって私のファーストキッスなのに…知らない人となんて」
「もう知らない人でもないでしょう。それに彼、あなたの事、
ぞっこんなのよ。それでも嫌と言うならいいわよ。私が彼の初めてを
ぜーんぶ頂いちゃうから。いいの?」

 女がまた服を脱ぎ始めた。
「あなた、処女のままだとまた、誰か違う男の人に身体に入られちゃう
かもね」
「酷いです! もう何もしないって言ったじゃないですか」
「あら、私そんなこと言った? でも私がしなくても、彼以外の別の
実験体があなたの身体を狙うかもね。だってあなたは憑依される
側としては適任みたいだもの。うふふ」

 女が最後の一枚を脱ぎ捨て、ベッドに乗り僕の身体の上に跨った。
「凄いわー。ほら、こんなに大きくしちゃって。じゃ、いいのね?
私が食べちゃっても」
「えーん、分かりましたー。私がします。私がしますから、
もうやめてぇ」
 美結が半泣きで服を脱ぎながら、必死にお願いする。


「うふふ。素直な子、私は好きよ。じゃ、ほら、こっちにきて自分で
入れなさいな」
「…はぁい。ぐすん」
 美結は僕の唇に急いでキスをすると服を脱ぎ、女と入れ替わった。
「私…処女なのに…こんな格好で人前でするなんて信じられない。
だいいち、入らないかもぉ…」

「私がさっき指を入れてみた感じだと、大丈夫そうよ。あなたセックスの
素質もバッチリなんじゃない?初めてでも痛くない子っているもの」
「もう、やだー。素質だなんて恥ずかしいこと言わないで下さい。
えっと、この辺かな?」
 美結が僕のペニスを握り、膣内に導こうとしている。

 薬のせいだろうか、あれだけ主張していた僕への嫌悪感が
薄らいだようにも見える。
 それとも身体の内側から吹き上がる欲望の方が、勝(まさ)ったのかも
しれないが。
 くちゅっ
「あ、あ、あー、どうしよう…入っちゃう。入っちゃう」
「いいわよ。そのままズッポリといっちゃいなさい。
気持ちいいわよー。あー、私も見ていたら益々我慢出来なくなってきた。
お願いよ。しっかりと舐め上げてね」
 

 二人の女性が僕の身体の上で、向かい合い淫らな行為を始めた。
 女は僕の顔に陰部を近づけると、そのままゆっくりと腰を下ろす。
 それを見た美結は怒ったような、あるいは拗ねたような表情を
浮かべた後、一気に腰を落とした。



 ずりゅっ、ずりゅ!
「あうんっ! いやん。入っちゃった…あ、んん…はうん」
「どう痛くないでしょ? 私の言った通りだったでしょ?」
「う・・・ふんっ、そんなことないです!」
 美結は素直にはなれず、顔を背けて表面上は反抗していた。

「さ、舌を出して。私のほうもお願い」
 女は僕の突き出した鼻と唇に花弁を擦りつけると、さらに
舌先をも欲しがった。
 じゅる、じゅるる
 前後に腰を振ると、あとからあとから愛液が溢れ僕の唇を
濡らす。

 少しずつ感覚を取り戻してきた僕は、ヒダをしゃぶり舌先で
肉芽を突いた。
「あー、いいわー。その調子よ。感じるぅ」
 女は両方の乳房を自分で揉みあげながら、執拗に腰を動かす。

 一方、美結は自分が初体験でこんなにも感じている事に
戸惑いながらも、突き上げる官能に、もはやなす術も無く
ただ身体を震わせていた。
「や…はん…すご…奥まできてる。こんなに気持ちいいなんて…
なんで? あ、はう…初めてなのに…でもイイ…」
 あるいは目の前の女が感じている姿を見て、嫉妬と敵対心の
入り混じった感情を、美結なりの方法でさらけ出しているのか、
それは分からない。

 だがそれがどのような理由であれ、美結の身体は素直に男を
欲していた事は事実だ。
 そして、それはすぐに絶頂という形であらわれた。
「やぁん! 駄目ぇ! 何か来るー。あ、ああっ、駄目! 怖い」
「ふふ、イクのね。やっと本性を現したわね。それともお茶の
おかげかしら?」
「嫌っ!イクなんて、嫌だ。初めてのセックスで、しかも
知らない男の人にイカされるなんて。許せない…あ、あん、でも。
もう駄目、なんで…」
「私もイクわ。う、うっ、うう! イク! もっと奥まで舌を
ねじ込んで!!」
「やーん、駄目ぇっ! イク! イッちゃうーん。もう何でも
いいから奥まで突いてぇ!」


 二人とも僕の身体の上で勝手なことを言って、果てようとしている。
 僕の方は、ここにきて殆ど感覚が戻り、ペニスの中にも
欲望が膨らみつつあった。
(ちくしょう、僕だってイッてやるぞ。絶対に中出しだ!)

 ペニスを取り巻く美結の幾重ものヒダが、ふるふると
震えだした。
 今度こそイクのだろう…そして「あんっ」と一言漏らした直後、
膣内が激しく収縮した。
(ううっ! 締まる。キツイ。これならイケる!)
「出…るっ!」
「はぁーん、イクわ」
 美結に遅れて、僕と女がほぼ同時に果てた。
 脱力して、ぐったりとしている美結の膣内に大量の精子を
吐き続けた。
(まだ出てる。一体何日分の精液なんだろう妊娠しちゃうかな?)

 長い長い時間が経過したように思われた…。
 僕が起き上がり、女に続いて美結も正気を取り戻した。
 二人はたとえ薬のせいとはいえ、先程までの自分達の痴態を
恥じるかのように、そそくさと衣類を纏った。

「宗谷君…あなたも服を着たら? あなたの服はほら、そこの
ケースの中に入ってるから」
 僕は指差された、ベッド脇に置かれた衣装ケースのような箱を
開けた。
 中には見覚えのあるトレーナーとジーンズ、それに下着類も
入っている。
 後は財布や靴、携帯電話、ハンカチなど見るほどに蘇る記憶と
共に、それらを入手した。


「きゃ、もうこんな時間! 私、帰んなくっちゃ」
 美結も自分の携帯を取ると、時間を確認して驚きの声を上げた。
「ああ、そうね…そういえば私も大学に行く用事があったんだわ」
 僕を取り巻く饗宴は、今静かにその幕を閉じた。

「あなた達はもう帰りなさい。宗谷君も記憶はほとんど戻ったので
しょう? 一人でアパートに帰れるわね? 今回の事はまた後日、
日を改めてゆっくり聞くわ。それまで家で休んでレポートでも
書いていなさい。美結ちゃんもまた、遊びに来なさい」
「私、もう来たくありません!変なお茶ばっか飲ませられるし…
エッチまでしちゃったし」
 美結は頬を膨らませて、文句を言う。

「大丈夫よ。今度こそ、本当にそんなもの飲ませたりはしないわ。
だって儀式はとどこおりなく終了したんだもの。それにあなたには
報酬を払うって言ったでしょ。ちゃんと約束は守るわよ」
「だってぇ…」
 今度は僕の方を見ながら、頬を膨らませた。
「ごめんよ…でも」
「いいわよ。何も言わなくても。無理矢理された訳でもないし、
それに…ちょっとだけ、気持ち…良かったし…」
 頬を真っ赤にして何か小声で呟いたけど、僕の耳には届かなかった。


「さ、帰りなさい。私は出かける為の資料とか準備しなくちゃ
いけないの」
 僕らは背中を押されるように部屋を出た。
 玄関で待っていた先程のメイドが、僕らを門まで送ってくれた。

「宗谷様。お嬢様が、宗谷様の銀行口座にお金を振り込んで
おくので、何か買って帰るようにと言っておられました」
「何か…ですか?」
「はい。おそらくアパートに帰られても何も食べるものがないので、
その事を心配しておられるのではないでしょうか?」
「ああ…なるほど。分かりました。ありがとうございます」

「では、お気をつけてお帰り下さいませ」
 深々と頭を下げられて、僕らは屋敷を後にした。

「じゃさ、美結ちゃん。奢るから一緒に何か食べに行こうか?」
「何よっ! 馴れ馴れしいわね。私はあんたの彼女じゃないん
ですからね」
「分かってるよ…でも…」
 恥ずかしくて後に続ける言葉が出てこなかった。

「…奢りなのね?」
「え?」
「あんたの奢りなのね?って聞いたの」
「う、うん」
「じゃ、いいわ。うんと高いものを注文してやるぅ。デザートも
だかんね」
「…うん」
「お母さんに電話して、またご飯いらないって言わなくっちゃ」
「ご、ごめん」
「まったくよ」 
 美結が僕の腕に手を回してきた。

 太陽が僕ら二人分の影を一つに重ねる。
 ちゅっ
「キス、下手ね」
「ごめん。だって初めてだったし…いきなりで、ちょっと
びっくりして」
「もう! ちゃんとリードしてくんないと私の彼にしてあげないぞ。
それにキスは、
さっき…したでしょ…」「あ…あれは」
 僕は屋敷で起きた行為を思い出し、言葉に詰まった。

「ねぇ、あんた覚えてる? 初めて私の部屋に来て、乗り移った日の
こと。私の身体を鏡に映して言ったよね?…スタイルも、
顔も声も、ぜーんぶ僕好みだって言ったの」
「もちろん覚えているよ」
「私、あんなこと言われたの初めて」
「え?」
「いいわ。私の彼氏にしてあげる。それに…初めても
あげちゃったしね」
「そ、それは…君が…」
「はい。もう、この話しはおしまい。お腹空いちゃったよ。
早く行こっ」

 あんなに大変な事があったのに僕らは今、何も無かったかの
ように仲良く腕を組んで歩いている…。

(あの女の人と次に会ったら事の全てを話して貰えるんだろうか?
あ、そうか! もしかしたら美結ちゃんに二度もお茶を飲ませて、
僕とセックスさせたのもあの人の
作戦だったのか? …ま、いっか。終わったんだ。何もかも…
それにあの人を頼れば、僕と美結ちゃんの未来も安泰だ…)

 連綿と流れてきた時間という川の流れの中で、僕ら二人は過去の
遺物によって引き合わされた。
(これも運命というのかな?それとも案外、大昔の王子と姫が
先祖だったりして…)
 太陽はいまだ何も語らず、ただ去り行く二人の姿をじっと
見下ろしていた。


    終わり




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