『セーラー服と水鉄砲』
 作:嵐山GO



終章 遥かなる空の果てに

 それからは早いもので、あっという間に2年近い年月が流れた。
「美月、高校合格おめでとう」
 姉の美鈴は、妹の部屋に入るなり言った。
「お姉ちゃんも晴れて大学生だね。おめでとう!」
「ありがとう。ま、当初狙ってた大学とは違うけどね。今の私の
実力だと、こんなものかな?」
「もう一個だけ年が近かったら同じ学園生活を送れたのにね。
この高校の制服って可愛いから好き。萌えちゃう」
「ふーん、マニアックなスケベ心は男の子のままね。
でも確かに同じ制服着て登校ってイイかも」
「トイレも一緒だよ」
「もう馬鹿っ。変な想像しちゃったじゃない」


「でも、お姉ちゃんの大学ってウチからちょっと遠いね」
「うん。だからパパとママに、大学に受かったら1人暮らしさせて
くれないかって頼んだのよ」
「うん、うん。そしたら?」
「ちょっと心配してたけど、最後には許してくれたわ」
「うわー、良かったじゃない。私も時々、遊びに
行ってもいいんでしょ?」
「もちろん!その為の1人暮らしだもん。いつでもおいで」
「やったーっ、お姉ちゃん、大好きっ!」
 以前は男だった2人が、仲の良い姉妹を演じ抱き合う。

「へへ、兄貴。これで休みの日は周りを気にすることも無く思う存分、
快楽に浸れますね」
 スケベネタに突入し、さっそく野蛮な男言葉を
発する安だった。
「ああ、性具も隠さずに堂々とヤれる。最近は
増えて隠す場所にも困っていたからな」
 兄貴の方も美少女の可愛い顔立ちから一転して、中年男のような
厭らしい笑みを浮かべる。
「バイブも極太や二股まで、ありとあらゆるモノを
買っちゃいましたね」
「おめーの小っちゃかったオマンコが、今じゃオレと
同じ太さを咥え込むんだからな」
「いやーん。だってそれは、お姉ちゃんが無理矢理、開げたからでしょ?」
 両手で口を隠すようにしながら、純な妹の口調に変え照れてみせた。

「うーーん、しかし…あれだな」
「なーに?」
「いやなに、2人とも進路も決まった事だし、もう
オレ達の役目は終わったのかな、なんて考えて
いたんだ」
「そうだね。お姉ちゃん…もしかして、抜けるの?
抜けたいの?」
「そういう訳でもないんだが、もし今抜け出たら
どうなるんだ?こいつら」
「確か…記憶が刻まれていくとか言ってましたから、
変わらず姉妹レズを繰り返すんじゃないんすかね。
玩具(おもちゃ)、使って」
 再び男に戻って話す。

「そうだろうな。ところで安、お前はどうしたいんだ?
抜けたいか?」
「いえ、いえ、あっしは出来れば今のまま、この姿で
生きていたいです。でも兄貴が出るというなら…」
「いい。分かった。みなまで言うな。オレも、お前と
同じ考えだ。抜け出て、仮に天国に行けたとして
今より果たして楽しいかどうか…な」
「生きていくのも大変ですけどね。大人になれば
尚更の事」
「ああ、分かってる。いずれは自立しなきゃならん。
このオレにまっとうな社会人が出来るか自信も無い」
「それなら大丈夫っすよ。頭もいいし、大手の会社にでも
入社してOL人生っす」
「会社員かぁ…どうもオレの性に合わないんだよなー」
「なら卒業してスグに結婚しますか?そのスタイルと
美貌を武器にすれば卒業までには幾らでも
釣れますぜ。まさに入れ食いっす」
「結婚?それこそ今のオレに最も似合わねえ言葉だな」

「そおっすか?大学の先生だか教授だかと、
くっ付いちまえば生涯安泰だと思いますが」
 2人ともスカートの裾が捲りあがるほどに、あぐらを
かき語り合っている。
「今は、こんな姿だが少なくとも40年以上も男を
やってたオレだ。今更、髭面の男に甘えたり出来か。
考えるだにおぞましい」
「それについては、あっしも同意見っすね。それじゃ、
どうです。将来、医者にでもなりそうな若い卵に
手を出してみては?」
「愚問だな。自分の年の半分も生きてねえような
ヤツと手なんか繋いで歩けるか」

「結局のところ、男とは一緒になりたくないって事っすよね?」
「ああ…どうせ親は先に死ぬんだ。そこからは、
とやかく言う奴はいねえ。オレ達、2人だけで死ぬまで一緒に
暮らしても、いいんじゃねえか?」
「え?という事は抜け出さないって事ですね?
あっしは大歓迎です。兄貴と死ぬまで一緒にいられるなんて…
ホント、何て言うか、俺っちの夢でしたから」
「けっ、何を言ってやがる。すでに一緒に添い遂げてるじゃねえか」
「あはは、そうでした」
 
「そうと決まれば…」
「祝杯、ですね?」
「ああ。やっとビールの味が分かってきたところだ。これからは
自分の部屋に冷蔵庫を置いて思いっきり飲めるぜ」
「あっしも飲みに行っていいですか?」
「お前は3年後には大学受験も控えてる。あまり飲み過ぎる
なよ」
「そうでした。じゃ、下からビール持ってきますよ」
「頼む。いつものように後で買い物ついでに買って
補充しておくから」
「へい」
 安は嬉しそうに姉の部屋を飛び出していった。


「祝杯…か」
 部屋に1人残されると、ポツリ漏らし始めた。
「進路を決めた事への祝杯なのか?何の進路だ?
2人の進学か?いや、そうではあるまい。抜け出る
ことを拒否し、人間の…いや女でいる事を決めた
記念日か」
 ゆっくりと立ち上がり、窓際へ向かうとカーテンを
引き、雲ひとつ無い天を仰いだ。
「神さんよ。オレ達、こんな風に決めちまったけど
いいかな?確か…いつ抜け出るかはオレ達の自由
だって言ったよな。なら、この姉妹の人生を任せては
くれないか?」
 柔らかな春の風が長い黒髪を揺らし、頬を撫でた。

「この娘達の生涯が閉じるとき、抜け出ることに
なるんだろう…それが、どのような形になるのか
オレには分からないが、姉妹がいい人生を送ったと、
きっと言わせてみせるからさ。誓うよ。な、神さん…
いいだろ?」
 当然ながら神からの返答は無かった。
 抜けるような青空を見ていたら、涙が込み上げて
きたのか、そっと手の甲で拭う。

 コン、コンッ!
「お姉ちゃん、ビール持って来たよー」
 振り返ると満面の笑顔で両手に缶を持った美月が
立っている。
「あ、うん…飲もっか」
「あれ?目が赤いよ。泣いてたの?」
「馬鹿っ、そんな訳ないじゃない。窓を開けたら目に
ゴミが入っただけよ」
「そうなんだ。気をつけてよ。もうお姉ちゃん1人の
身体じゃ、ないんだからね」
 その言葉がどんな意味をもって言ったのか
分からなかったが、美鈴は再び溢れ出る涙を懸命に
堪(こら)えていた。


      (終わり)



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