『皮り種』
作:嵐山GO


第10章 帰巣(後編)

 色々とあったがバスは、ほぼ定刻通り終点に着いた。
 オレ達はさっそくホテルでチェックインを済ませ、レジャーシートや
浮き輪、それに財布などを持って水着姿で浜へ向った。
「最高の天気だねー」
「私、いっぱい焼いちゃおうっと」
「私は焼かないんだー。日焼け止め持ってきたの」
「瑞希は、どうするの?焼く?」
 チヨが聞いてきた。

「私?…私は、どうしよう?たぶん…」
(焼けるわけないよな…人工の皮膚なんだから)
「たぶん?」
「ううん。焼かない。っていうか焼けないと思う。体質なの」
「そうなんだ。でも、その方がいいよね。あとで痛いし、
皮が剥けてみっともないもんね」
「…うん」
(皮が剥けたら面白い事になるぞ。中から毛むくじゃらの男の
醜い皮膚が現れるんだ。みんな驚くだろうな)

 5人の内、麻衣子だけは短いスカートの付いたワンピースの水着
だった。
 美樹と加奈もデザインはまるで違うがビキニである。
 美樹は上下共に布の部分が極少の紐ブラに紐パン。
 加奈はタンクトップビキニ、いわゆるタンキニというやつだ。 
 シートを広げた後は、それぞれ泳いだり焼いたり、そして相変わらず
麻衣子は一人で何かを食べている。
「麻衣子ちゃん、焼かないんだっけ?日焼け止め塗ってあげようか?」
 オレは一泳ぎ終え、戻ると言った。
「私?もう塗ったよ。葵さん、塗ってあげよっか? サンオイル?
それとも日焼け止めにする?」
「じゃ、オイルをお願い」

 オレはシートの上にうつ伏せになり、麻衣子にオイルを塗らせた。
「葵さん、赤くならないんだね。羨ましい。それに肌も綺麗ね」
「ありがと。あ、んんっ」
 肩から背中、そして臀部へと麻衣子の柔らかな掌がオイルの上で
滑らかに滑ってゆく。
「やーん、葵さんたら真昼間からエッチな声出しちゃって。また狼達が
集まって来ちゃうよ」
「だって、麻衣子ちゃんの手がイヤらしいんだもん」

 そうなのだ。まだここへ着いて1時間ほどしか経っていないのに、
早くも飢えた男どもが何人も声を掛けてきた。
 だが美樹も加奈も麻衣子も、夜はホテルでオレとセックスする事を
楽しみにしているから、そんな軟派野郎どもは全く眼中にないようだ。
(あとはチヨをどうやって引き込むかだな…ま、全員が薬を飲むのだから
大丈夫だろうが)
(待てよ、ということは今夜はチヨともセックス出来るわけか。チヨに
入れるのは初めてだから楽しみだぞ)

 昼食は5人とも海の家で、粉っぽいカレーや具の少ないラーメンを
食べた。
「夜は美味しいもの食べられるからね」ホテルを予約した美樹が言う。
「わーい、楽しみー」一番喜んでいるのは、やはり麻衣子だった。
「食べたら、みんなで温泉だね」
「みんなで、どれだけ焼けたか見せっこしようよ」
「恥ずかしいな…」日焼けのせいか顔を赤くしたチヨが言った。

「じゃあ、お楽しみは温泉の後?」麻衣子が子供のように聞く。
「しっ、大きな声出すと誰かに聞かれちゃうでしょ!」美樹が言った。
「ごめんなさーい」


「瑞希、お楽しみって何?」チヨがオレの耳元で囁くように言った。
「お楽しみは、お楽しみよ」オレもチヨの耳元で小声で答える。
「ふーん…何かしらね…」

日が沈む頃、オレたちはホテルへ引き上げた。
 午後も軟派野郎は後を絶たなかったが皆、誰も相手にしなかった。
(ま、これだけ可愛い子が揃ってたら、男だったら声を掛けるだろうな)
 そんな事を考えながら、ホテルのウィンドウに映った自分の姿に、
見入った。
(改めて見直すのも照れるが、この身体…というか瑞希って完璧だよな。
スタイルもいいし。この膨らんだ胸、くびれた腰、ぷりんと突き出た尻
…うん、完璧だ)

「葵さーん、エレベーター来てますよー」
「あ…!」
 美樹に呼ばれてオレは、慌ててみんなの元へ走った。
「ごめん」
(さてと、待ちに待った夜が来る…)
 何もかもが予定通りに進む。豪華な食事に舌鼓を打ち、大浴場で
温泉を堪能し、そして全員が浴衣姿で『お楽しみ』を迎えた。


「ねぇ、ビールは、これで足りる?」
 一番大人っぽい加奈が、下の自動販売機からビールを調達してきた。
「そんだけあれば、いいんじゃない?部屋の冷蔵庫の中にも葵さん用の
ビールが何本か入ってるし」
 チヨを除く3人は、もう薄めなくても飲めるようになったので、
ある程度の数が必要だった。
(薬に対する免疫も出来てきたし…残る問題は…と)

「ねぇ、お酒なんか飲むの?」
 案の定、チヨが皆の行動を不安そうに見ている。
「大丈夫。薄めて一口飲むだけだから。あとね、これも一緒に飲むの」
 オレは早々に鞄から薬の入った袋を取り出した。
「何なの?それ」
「合法ドラッグよ。あ、今は違法なんだっけ?とにかく気分が高揚
してくる薬なんだけど、大丈夫。副作用も依存性も何もないから
安心して」
「ええ!?大丈夫…なの?」
 露骨に拒否反応を顔に露わにし、質問を続ける。

「平気だってば。私も飲むし、みんなだって大丈夫ですよね?」
 オレは準備が終わり、布団の上でジャレ合っている3人に言った。
「大丈夫でーす」
「変な薬だったら勧めないよ。先輩として、風紀委員のリーダー
としてもね」
「今日だけ試してみて、嫌だったらやめればいいんじゃない?」
 3人の経験者が、それぞれに言う。

「どういう意味?」
「うーん、実は時々、神谷さんのおウチにお邪魔してパジャマパーティ
してるの。その時、これを飲んで盛り上げってるって訳」
「…そうなんだ。それで、気分が高揚するって言ったけど、それだけ?」
「あとはね、夢を見れるの」
「夢って…?」
「うん。自分が見たいって思うものが見えるの」

「桃子ちゃんの頭には、たんぽぽが咲いたんだよ。私はね、天使の羽が
生えたんだよ。でも、もう最近は見えないんだ」
「葵さんの以外はね」
「言ってる意味が、よく分からないんだけど」
「あのね、暗示効果が強いから誰かが言った言葉が、そのまま全員に
見えるようになるの。『たんぽぽ』って言うとみんな、そこに
同じものが見えるって訳」
「瑞希のだけ見えるものとか言ってたけど」
「それを今から見せるわ。心の準備は出来た?」

「うん、まぁ…少しは。それにみんな飲むんでしょ?」
 全員が笑顔で、うんうんと頷く。
「まず私が飲むね」
 缶ビールを開け、錠剤を手にとってそのまま口中に流し込んだ。
 続いて先輩達も同様に飲み込む。
「チヨのは、うんと薄くしてあげるね」
 以前作ったように、グラスにビールを注ぎ水で薄めた。

「はい。飲んでみて。あまり美味しいもんじゃないけど。あと錠剤は
チヨだけ1錠ね」
 グラスと薬を渡すと、チヨは周りの3人を見回し何も異常が
無い事を確認すると素直に飲み干した。
「うえー、苦い。中学の時に茶道部の友達に飲ませてもらったお茶を
思い出したわ」
「うん。偉い。ちゃんと飲んだね」
 オレはチヨに口直しにとジュースを差し出した。

「そろそろ始めるか…」
 先輩達は早くも浴衣の帯を緩め始めた。この時が待ち遠しくて
仕方なかったのだろう。
(チヨは、と…)
 見れば彼女の方も身体が火照ってきたのだろう、しきりに掌で顔を
扇いでいる。
「チヨも浴衣、脱げば?私も脱ぐから。そしたらイイモノ見せてあげる」
 オレは言うと、皆に背中を向けショーツの中に手を差し込んで
ペニスを取り出した。

「イイモノって?」
「これよ」
 オレはショーツ姿になると振り返り言った。
「ええっ!?そ…それって男の人の…なんで瑞希に、そんなものが
付いてるの?」
 チヨの反応に美樹達も答えた。
「わー、出た、出た」
「やーん、早く欲しいよー」
「他の人のは見えなくなったのに、相変わらず葵さんのだけは
見えますね」
 先輩達は座ったまま、パチパチと手を叩いて喜んでいる。

「それは先輩達が、本当に心から望んでいるからですよ」
 オレはペニスを擦りながら言った。まだ勃起はしていない。
「そうかも。私、最近彼氏のじゃ全然、物足りないもの」
「うん…私もそう」加奈も美樹と同意見だった。
「私は彼氏いないけど、すっかり葵さんのオチン○ンに夢中でーす」
 3人は生まれたままの姿になると、餌を待つ雛鳥たちのように
見上げて待った。

「今日は誰に大きくして貰おうかしら?」
 オレはショーツを脱ぎ捨て聞いた。
「バスの中で順番を決めたの。最初が私で次は加奈。そして麻衣子、
最後は市合さん。どうかしら?」
 美樹が言う。
「チヨ、それでいい?」
「え…私は…うん、いいけど…ちょっと怖いな」
 まだ浴衣を着たままの、チヨが不安を隠せずに言った。

「じゃ、美樹さん。お願い」
「うん。じゃ、みんなゴメンネ。最初に頂くね」
 ちゅっ!ちゅば、じゅる…
 美樹が巧みなフェラで、ペニスを頬張るとすぐに勃起した。
「あー、いいなー。見てたら我慢できなくなっちゃった。麻衣子、
おいで。2人でしようよ」
「うん!そうだね」
 加奈と麻衣子が肌を寄せ合ってレズプレイを始める。

 ちゅばっ、じゅる、ちゅー
「ううっー、相変わらず巧い。もう入れたくなってきちゃった」
「私は…いつでも準備オッケーです」
 美樹もフェラしながら、自分でクリトリスを弄っていたようだ。
「チヨは…?と」
 視線をチヨに移すと、浴衣の裾を捲って一人で慰めていた。

「加奈さん」
 オレは麻衣子と抱き合っていた加奈に、そっと声を掛けた。
「加奈さん、お願い。チヨも仲間に入れてあげて。3人で出来るよね」
「ええ、いいですよ」
 そういうと加奈は、チヨの側に行き背後から抱きしめるようにして、
キスをした。
「あ、じゃあ私もね」
 麻衣子も起き上がると、チヨの浴衣の帯を解く。
 程なくして、チヨも生まれたままの姿になると2人に挟まれるように
して、愛撫を受けていた。

「凄いな…こんなの滅多に見れるもんじゃない」
 オレはフェラを受けながらも、目の前に繰り広げられる淫らな宴に
目が釘付けになっていた。
「葵さん、そろそろお願い…口が疲れてきちゃって」
 美樹がペニスを口から離し言った。
「あ、ごめんなさい。じゃ、入れるね」
 美樹を布団の上に寝かせ、両足を開かせるとすでに濡れそぼった熱い
蜜壷にペニスを入れた。


 ヌルーリ…
「ああ、いい感じ。滑らかで、それに襞が絡み付いてくる」
「いやーん…大きい…それに長くて…奥まで来るのが分かる」
 じゅぶ、じゅぶ、ぬぷぷ
 最深部に突き当たったのを確認すると、すぐにピストン運動を始めた。
「ああー、イイ…美樹さん…感じてる顔見せて」
 オレは浜での美樹の挑発的なビキニ姿を思い出しながら、気を高めた。
「やだ…恥ずかしい…あんっ、凄い…凄いの…」

「あんな小さなビキニ着けてるから、男たちにいっぱい声を掛けられてたね」
「う、うん…でもホントは葵さんに見て貰いたかったの…あんっ!」
「そお?ありがとう。じゃ、お礼にいっぱい突いてあげる」
 日焼けしないで残った両胸と陰部の白い三角地帯が、欲情に
さらに拍車を掛けた。 
 ぐちゅ、ぐちゅ、ぐちゅ!
「あ、あん!激しい!駄目ぇ、これだと、すぐに…あんっ、もうイッちゃう」
「いいよ。イッても。一番最初にイッてね」
「ああん、嫌っー。まだイキたくないのに…もう駄目!イク…
イッちゃう。
はうーん…あんっ!!!」
 美樹は絶頂を迎えると、そのままがっくりと気を失ったように布団に
沈んだ。

「次は加奈さんの番だよ。来て。しよう」
「うん…」
「加奈さんは、後ろから突かれるのが好きだったよね」
 オレは続いて加奈を抱きイカせると、麻衣子を抱いた。
「麻衣子ちゃんは騎上位だっけ?」
 オレはこの数ヶ月で、先輩達の好きな体位や性感帯を把握していた。
「いやーん、イク!イッちゃう、イッちゃう!やーん」
 すっかり性の虜になった麻衣子も、あっという間に果てる。 
(やっぱり、この年頃の女の子たちのイク時の顔は何度見ても
可愛いもんだ。
 オレもイク時は、あんな可愛い顔出来てるかな…)

「お待たせ、チヨ。身体の準備は出来た?」
「う…うん…まだ怖いけど」
 チヨの火照った身体を抱き寄せ、秘裂に指を伸ばすとすでにソコは
ぐっしょりと濡れていた。
「やーん、大洪水じゃない。これだけ濡れていれば、すぐに入れても
大丈夫そうね」
「あ…んん…」

 ずりゅ、りゅっ
 オレは久しぶりに向い入れるチヨの膣を気遣って、ゆっくりと
ペニスを進入させた。

「はあん、やっぱり、ちょっとキツイかな…中が狭い…」
「あ、瑞希のオチ○チン…入ってくるのが分かるよ」
「このまま根元まで入れちゃうけど、痛かったら言って」
「うん…平気みたい…薬のせいかしら?もっと欲しがってる」
「いいよ。全部あげるね」

 ずりゅりゅっ、ヌププ…
「もう子宮腔に当たったよ。経験が浅いから、麻衣子ちゃんみたいに
小っちゃな、オマ○コだね」
「いやん、エッチなこと言っちゃ。あんっ、そ…そこイイ」
「感じてるみたい?じゃあ、もう動くよ。実は私もそろそろ限界なの」
 すでに3人とセックスし、射精欲もこれ以上抑えられない所まで
きていた。


ずぶ、ずぶ、ぐちょ、ぬちゅ
「はん、あん…大きくって…息が詰まりそう。でも気持ちいい」
「たっぷり味わっていいよ。いっぱい食べてね」
 オレはチヨの細い腰を掴んで、腰をグラインドするようにして
膣内を掻き回した。
「あー、す…凄すぎ…こんなのって初めて。セックスが、こんなに
イイなんて…」

 ばん、ばんっ、ずばん!
 体位は全く変えず、激しく腰を打ちつけた。
「ああー、イイ!飛んじゃう!もう、おかしくなりそう…」
「イクときは思いっきりイッていいよ。私もチヨがイッたら、すぐに
イクから」
「だ…駄目。瑞希と一緒に…イキたい」
「うふふ、いいよ。でも我慢できるかしら?」

 ぬるーり、ずりゅ、ずばんっ!
 長いストロークを使ってペニスを引き抜いたかと思うと、次には
一気に奥まで突き上げる。
「あー、駄目ぇー、それ駄目ーぇ。感じ過ぎちゃう!」
「これ気持ちいいでしょ?焦らし効果の後に快感が突き抜けるの」
(チヨには悪いけど一緒にはイケないんだ。中に出す訳には、
いかないからな)
「イク!イク!イク!もう駄目!イッちゃうーーーーっ!!!」
 チヨが大きな声を出し、初めてセックスで絶頂を迎えた。

「イッたのね。じゃ、いい?私もイクよ」
「…ん」
「チヨ。私、イクときにオチ○チン抜くからミルク飲んでくれる?」
「え?…なんで、これは幻覚なんでしょう?中で出してもいいよ」
「うん、そうなんだけど、チヨのお口に出したいの。駄目?」
 オレは今すぐにでも射精しそうだったが、なんとか会話することで
ギリギリの所で遅らせていた。

「葵さん…なんなら私たちで飲んであげましょうか?いつもみたいに」
 加奈が背後で声を掛けてくれた。
「う…ん、そうね…チヨが飲むの嫌なら、そうして」
 オレは精液の行き先が決まったので、再び腰を激しく動かし始めた。
 ぱん、ぱん、ずばん!
「あ、あんっ!瑞希…いいよ。私の…お口に頂戴。あんっ」
「ホント?ありがとう…じゃ、もう私、我慢できそうもないからイクね。
飲んでね」

 ずぶっ!ずばん!!
「はうっ!締まって…駄目、イク!もう出る。チヨ、お願い!」
 射精寸前にペニスを引き抜き、チヨの小さな口内に放出した。
「うっ、ぐ…ごく、ごくん」
 オレは精液が残らないように、自分でペニスを絞って最後の
一滴まで、舌の上に垂らす。
 亀頭部に付いた液も柔らかな唇に円を描くように押し付け、
全部拭き取らせた。

「苦かったでしょ?はい、これ飲んで」
 テーブルの上に置いてあったジュースをまた飲ませる。
「あー、凄く気持ちよかった。あれも薬のせいなの?」
「そうよ。でも、そろそろ効き目が切れる頃じゃない?」
 オレはテーブルに向う時にみんなに背中を向けた一瞬を利用して、
ペニスを体内に仕舞いこんでいた。

 この夜は、昼間の疲れもあって一回戦で終了。みんなゆっくりと
羽を安め寝入った。
 チヨは、このプレイを気に入ってくれたようで、次からは神谷家の
パジャマパーティにも参加を約束してくれた。

そして運命の日。
 とんでもない事態がオレを待ち受けていたのだった。

たっぷりと睡眠を取ったオレ達は朝食を済ませ、さっさと着替えて
海へと向った。
「軽く泳いだら、すぐにホテルに戻ってチェックアウトよ。あまり
遠くまで行かないでね」
 美樹がみんなに忠告する。
「はーい」
 昨日同様、シートを広げ各自が私物を置いてゆく。

「あーあ、一泊なんてあっと言う間だね。もう一回来ようよ。
次は二泊三日で。ね、どう?」
 珍しく麻衣子が早々に立ち上がって、その小さな身体に太陽の
光を浴びている。
「みんなの予定がつけばね…」
 加奈が言った。

「痛っ!」突然、麻衣子がかがみ込んだ。
「どうしたの?」
 一番近くにいたオレが側に行って覗き込もうとすると、
「きゃーーーっ!!!」
 麻衣子は大きな声を出し、そのままオレの方へと倒れ気を失った。
「ど、どうした?大…丈夫…。あっ、これは!」

「どうしたの?」他の皆も心配そうに声を掛ける。
「来るな!こっちに、来ちゃ駄目だ」
 オレは言いながら腰に巻いたパレオの布を麻衣子の足に巻いた。

「何?何があったの?怪我したの?」
 チヨも心配そうに言った。
「チヨのパレオも貸して。それから美樹さんは救護センターに行って、
一番近い病院の名前と場所を聞いてきて。加奈さんはとチヨはここを、
片付けて三人でホテルに戻ってて」
「分かった。でも何があったのか教えて」
 
「かまいたちだよ。足の脛がまっすぐ縦に裂けて開いてる。普通は
寒い地域でよく起こるんだが、まさか夏にしかも海で起きるとは。
とにかくバイ菌が入らないようにしないと。早く病院に連れて行って
縫って貰わないとヤバイ」
「血は出てないの?」

「空気中の大気が一瞬だけ真空になって、近場のものを切り刻むんだ。
幸い今は出てないけど、この先どうなるか」
「じゃ、救護センターに連れて行った方がいんじゃない?」
「駄目だ。薬を塗られてしまうし、その後で結局、病院に連れて
行かれる。それでは遅いんだ。少しでも早く縫えば、跡が残らない
かもしれない。美樹さん、急いで。早く!走って行って!」
「は、はい!」

 美樹は何も持たず、一目散に駆け出していった。
 オレは麻衣子を抱き上げ、チヨに自分のポーチを取って貰うと、
「後は頼むね。治療が終わったら、すぐに戻ってくるから」
「大丈夫?私も行こうか?」と加奈が言った。
「いや、大丈夫。麻衣子ちゃんは自分の傷を見てびっくりして
失神しただけだから。それに縫うだけなら、2、30分もあれば
終わると思う」
「タクシー、拾うの?」チヨが聞く。
「うん。そのつもり。お金は持ってるし、帰りもタクシーですぐに
帰ってくるよ。三人で待ってて」
 オレは、そういい残して大通りへ向って歩き始めた。

(あー、しかし怪我したのが麻衣子で良かった。四人の中じゃ、
ダントツに軽いからな)
 それでも炎天下の下で、人を抱えて歩くのは重労働だ。

「葵さん!一人で行くの?」
 美樹が追いついて、声を掛けてきた。
「うん、平気。美樹さんも部屋で待ってて。それより病院分かった?」
「うん。太平病院ていうの。車で10分くらいだって。地図も
貰ってきた」
 オレは地図をポーチに入れてもらうと、美樹には三人と合流して
ホテルに戻るように言い別れた。

「さてと…大通りには出たが、タクシーは…と?
ん?あの車は…」
 見ると路肩に見覚えのあるスポーツカーが一台停めてあった。
「ドライバーはどこだ?…ちっ、又あんなとこでナンパしてやがる」
 麻衣子を助手席に下ろし、シートを倒した。
「ラッキー!キーが刺さったままじゃん。初心者はこれだもんな」
 すぐに戻るはずだったのか、キーはおろかエンジンも掛けっぱなしで
ある。

 ブウンッ、ブウンッ、ブオーーン!!!
「お、おい!君ー、それは僕の車だぞ」
 地図を見た後、車をユーターンさせていると持ち主が、やっと
気づいたようで慌てて戻ってきた。
「ごめんねー、ちょっと借りるねー。すぐに戻ってくるから、ここで
待ってて。じゃーねー」
 キュルキュルキュル!!ギューーン!
「おーい、返せー!泥棒ーっ!!」

「泥棒じゃないってば。それにアンタが運転するには勿体ないわ」
 アクセルを少し踏み込むだけで、面白いように加速してゆく。
「うわーっ、最高!!」
(まさかビキニ姿で湾岸を、この車で走ると夢にも思わなかったぞ。
おっと、そうだ。免許証持ってきてないんだった。どうか捕まりません
ように)

 祈りが通じたのか水着姿の女子高生が運転するスポーツカーは、
無事に病院へ着いた。
 オレは再び麻衣子を抱き上げた。
「う…うーん、葵…さん?」
「麻衣子ちゃん、気がついたの?足を怪我したの、覚えてる?今、
病院に着いたから先生に治療してもらうね」
「うん…ありがとう。葵さん、私…自分で歩くよ」
「駄目なの。傷口が開いちゃったら元も子もないから。私なら
平気だから、もうちょっと辛抱して」

「どうしましたか?」
 院内に入ると、すぐに察したのか看護婦がとんできた。
「かまいたちで、足を負傷しました。一応、傷口が開かないように
縛ってありますが、手当てをお願いします」
「分かりました。では、こちらへ」
 麻衣子をストレッチャーに乗せると、後はすべて任せオレは待合室で
一息ついた。


 麻衣子の傷が縫合されている間にホテルに電話し、すぐに帰るからと
告げた。
(あの車に乗ったなんて言ったら驚くかな?羨ましがるかもな)


「葵さん、お待たせ」
 麻衣子が足に包帯を巻いてヨタヨタと歩きながら、帰ってきた。
「大丈夫だった?」
「うん…応急処置が良かったのと、早く病院に連れてきてくれたから、
もう何も心配無いって、先生が言ってた」
「そう良かったね。痛い?」
「ううん。縫った場所がちょっと突っ張るくらい。抜糸もしないし、
跡も全く残らないんだって。これも全部、葵さんのお陰だね。
ありがとう」

「そんな事無いよ。じゃ、みんなも心配してるから帰ろっか?」
「うん。あ、治療代…」
「大丈夫よ。ちゃんと持ってきたから」
 オレは窓口で支払いを終え、薬を受け取って病院を出た。

「そういえば…ここには、どうやって来たの?駐車場を
歩いてたみたいだったけど」
「あ、あはは…それはね…ほら、あの車よ」
 オレは目の前の真っ赤なロードスターを指差し、言った。
「え?この車って昨日、バスの中から見てたあの車?」
 派手なデザインと色のせいか、麻衣子はしっかり覚えていた。

「うん、そうよ。ちょっと借りてきちゃった」
「だって…葵さん、運転できるの?」
「うん!ばっちり。でも、無免許だけどね」
「すっごーい!葵さんて何でも出来るんだね」
「うふふ。ちょっとドライブしてから帰ろうか?」
「やったー!嬉しい」
 麻衣子がオレに抱きついてきた。

 車は少しだけ遠回りをしてから、持ち主の元へと戻った。
 当然、男はカンカンだったが、オレの言葉を信じて警察には
通報していなかった。
 麻衣子とオレとで、懸命に事情を話し、お礼とお詫びを言うと
何とか許して貰う事も出来た。
 その後は、ホテルに戻り皆と合流しチェックアウト。

「ふー、大変な一日だったが何とか終わったな。しかし、さすがに
疲れたぞ」
 高速バスを降り、皆と駅で別れ再びバスに乗り込んで自宅へ向った。
「次は○○前ー。お降りの方は…」
 ピンポーン
 オレはボタンを押すと、ふと視線を窓の外に向けた。
 自分のマンションの前で一人の青年が立っている。
 孝明だった…。
(どうしたんだろう?今日は会う約束をしていないはずなのに)

 バスを降り、荷物を持ってマンションへと急ぐ。
「孝明…どうしたの?今日は私、友達と一緒に海に…」
 だが、そこまで言いかけて言葉は遮られた。
「お前、一体何者なんだよ」
「え?」


(続く)





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