SKIN TRADE
 第3章 Part Of Plan(その6)
 作:嵐山GO


「紗枝ちゃん、そろそろ薬の効き目が切れるんじゃ
ないかな?少量しか吹き付けておらんからな」
「あ…そう言われてみると…」
 グッタリとソファに横たわっていたが、言われて
手足の動きを確かめる。

「このスプレーに関しては、そんなもんじゃ。
吸い込んだ量によって効果の時間が変わる。大体
1時間から5時間位じゃないか?麻痺の感覚としては
身をもって体験した訳じゃから説明いらんの。
ふぉっ、ふぉっ、ふぉっ」
 老人の笑い声を尻目に男は下着を取り、早々に
着始めた。
「なんじゃ?早いな。もう帰るのか?シャワーくらい
浴びれば、いいじゃろうが」
「いーえ、帰ります!おじいさん、酷い!私、…もう
来ないかも」
 
 スカートとキャミソールも着終える頃には、言葉も
楽に喋れるようになり怒りを込め返答した。
「怒っておるのかい?相変わらず、めんこいのう。
しかし、紗枝ちゃんもイキまくっておったじゃないか。
お互い様じゃろ?」
「知りません!帰ります。これは頂いていきますからね。
あれ?こっちの缶は?」
 
 老人が先ほど使用したものとは別のスプレー缶も
置いてある。
「そっちは、ただの催眠スプレーじゃ。吹きつける量に
関係なく2、3時間は眠り続ける。要るなら一緒に
持っていくがいい」
「じゃ、貰っていく」
 2つの缶をバッグに入れ玄関へと急ぐ。

「それにしても何をそんなに急ぐ。ワシの精液を垂れ流し
ながらバスに乗るつもりか?」
「あ!」
(そういえば、そうか…しかし時間が惜しい。ちっ、
ここにきてミニスカートが裏目に出たな)
 一旦、立ち止まったものの、やはり玄関に向かい
ヒールに足を通した。
「やはり帰るのか…寂しいのぉ」
 珍しく老人が情けない声を出す。

「また…来ますから」
(今日のことはシスターは知らないんだから当然、
来るだろう。その時、老人は何て言うのか…それとも、
また薬を作って悪戯するかな?ま、いいか。俺の
知ったこっちゃない)

 ドアーを開ける。まだ明るい陽の光が一気に差し
込んできた。
「うわっ、眩しいっ!」
「…」
 無言の老人の視線が背中に痛い。
「おじいさん、有難うね」
(一応、礼だけは言っておくか)
「ああ」
 相変わらず言葉少ない老人だった。
「さようなら」
 
 ドアーを閉めようとした時…
「あんた一体…」
「え?何?おじいさん」
「あ、いや…何でもない。ワシも夢を叶えて
貰ったしな…」
「何を言ってるの?」
「気にするな。それより、その薬くれぐれも犯罪などに
使用するでないぞ」
「分かってるってば。じゃね」
 今度こそドアーを閉め、大通りへと急いだ。

「時間がねぇー。もう2度とこんな時間に追われるのは
ゴメンだぜ」
 大股で足を早めようとすると、パンティの脇から
精液が零れ出したのが分かる。
「やっぱバスはやめてタクシーを拾おう。その方が時間も
短縮できるしな」
 
 路肩に立って空車を停め、急ぎ乗り込む。
 スカートは尻の下に敷かず、パンティも太股まで
摺り下ろして直に座った。こうすれば染み出す精液を
拭かずともイスの厚い生地が吸い取ってくれるのだ。
(下手にティッシュで拭きとろうもんなら車内に匂いが
充満するからな。運ちゃんには申し訳ないが)
 そ知らぬ顔で行き先を告げた。

(そういえば…)
 ひとしきり下腹部に力を入れ精液を吐き出すことに
成功すると、ひとつ思い当たる点があった。
(帰り際、老人は何か言いかけていたな…何だったか?)

『あんた、一体…』
 短い老人の言葉が思い起こされた。
(あの後に何が続くんだ?いや、待て!その前に…
俺の事を『あんた』って言ったな。『紗枝ちゃん』
じゃなく『あんた』と)
 何だか踏み込んではいけない領域の前に自分が
いる気がした。
 思い出すのが怖い、詮索してはいけない。
 分かっていながら、そうせざるをえなかった。

(正体がバレていたのか?それとも帰り際、慌てていて
俺が何か失態を犯したか?)
 懸命に思い起こそうとするが、何も思い出せない。
(何がまずかったかは、置いておくとして正体が
バレたのなら後に続く台詞はこうだ)
『何者なんだ?』
(間違いない、おそらくそうだ。老人は気付いたの
だろうか?通報するかな?いや、犯罪に使うなと
念を押したくらいだし、それに今日起きた事を警察に
説明するのは困難だろう。自分の立場も危うかろう
…シスターの件もある…)

(眠っている間にバッグの中身を見られたしても
素性がバレる物は一切、入っていない)
「ふうーっ」
 安堵からか大きな溜息が漏れた。
「お客さん、大丈夫ですか?顔色悪いみたいだけど」
 運転手がミラー越しに心配そうに声を掛ける。
「あ、大丈夫です。ちょっと考え事をしていただけ
ですから」
「そうですか。もう着きますからね」
「はい」
(多分、問題無かろう。俺はもう、あの学園には
行かないし、シスターにも会う気は無い。大丈夫だ。
大丈夫)

 自分の降りる場所が近づいたので最後にティッシュで
股間を拭き、パンティを穿いて整えた。
(あの老人…大戦中から生き延びてるらしいが、
KGBとかCIAとか、怪しい組織なんぞにコネが
あったりしないだろうな…まさか、それは無いか…)
 清算を済ますと、スカートの裾を翻してタクシーを
降り部屋に向かった。
「考えても仕方ねぇ。せっかくイイモノを手に入れ
たんだ。有効に使わせて貰うぜ)

 先ほどまでの悩みはどこ吹く風。男は早くも翌日から
別のターゲットを捜し求めた。



                    (終わり)



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