SKIN TRADE
 第3章 Part Of Plan(その1)
 作:嵐山GO


 度重なる学園内の陵辱行為に満足した男は、今回初めて
目的地を変えた。
 季節は、まもなく夏から秋へと移ろうとしていたが
依然、残暑の茹(う)だるような暑さに辟易していた。
「クソ暑いな、まったく。こんな格好でも汗が、
噴き出すんだから、男だったら、たまったものじゃない」
 バスを降りると辺りに誰もいないのをいいことに、
 男丸出しの粗野で乱暴な言葉で不平を撒き散らす。
 前回手に入れたシスターの姿で、紹介された老人宅へと
向かう。
 短いスカートに同じく生地の薄く少ないキャミソールと
いう服装。
「あのシスターが、こんなエロい格好をするとは想像
し難いが、スケベだという老人を誘惑するには持って
こいだろう。だが果たして、この程度で頼みを聞いて
くれるかどうか」
 慣れないハイヒールに苦労しつつ、一歩一歩足を
進める。


「この辺りのはずだと思うが…?おっ、ここか?」
 シスターに書いてもらった地図と住所のメモを
表札で確認する。
 ピンポーン!
 インタフォンに付けられたボタンを押すと、すぐに
返事があった。
「どなたじゃな?」
 スピーカー越しに年季の入った渋い声が聞こえて
きた。
「あ、私です。紗枝子です」
 紗枝子、それがシスターの名前だった。苗字も
聞いてはいたが、ここでは不自然だと思い、あえて
名乗らない。
「紗枝ちゃんか、お入り。鍵はかかっておらんよ」
「はい、お邪魔します」
 男はハンドバッグからハンカチを取り出すと額の汗を
拭いて、玄関のドアを開け入った。

「よく来たね。暑かったろう。まぁ、お掛け。今、
冷たいお茶でも入れてあげよう」
 老人はリビングで出迎えた。スラリとした長身、白髪
混じりだが髪はフサフサ、100歳近いとはとても
信じ難い。
(確かに若い…本当に若返りの薬を作れるのなら、
俺の欲しい物など造作もないはず…)
 冷蔵庫に向かう老人の逞しい背中を凝視しながら
思った。
 来客者が多いのかソファは大きく長く、しかも
テーブルを囲むように配置されている。

「そう言えば、この前の電話だと紗枝ちゃんは、
教え子を寄越すとか言ってなかったかい?小阪とか
言ったか」
 グラスに注いだ麦茶をテーブルの上に置き言う。
「あ、愛ちゃんね…急に来れなくなっちゃって」
(ち、すでに電話してやがったか。そりゃそうだな、
見知らぬ人間を行かせる訳だし)
 緊張を悟られまいと、まず麦茶を一口すすった。
「何だか、深刻な悩みを抱えているようだとか
言ってたが?」
「う…うん、でも一人で解決出来たみたいなの。
多分…もう大丈夫よ」
(何とか話題を変えないとな)

「そうか、なら良いんだが。ところで今日は
紗枝ちゃんにしては珍しくエッチな、と言うか
きわどい格好じゃないか?さては男でも出来たかい?
それともワシを誘惑しておるのか?」

 ソファーに座った時に少し捲れたスカートの裾に、
正面に座った老人の視線が注がれた。
「あん、やだ。もう、おじいさんのエッチ!」
(よし、このまま一気に話題をすり替えるぞ)
 男は裾を直すでもなく、むしろ前屈みになって
キャミソールの隙間から胸の谷間が見えるように言った。

「あのね…私、好きな人がいるんだけど片想いなの。
それでね、今日はおじいさんに頼みがあって来たの。
聞いてくれる?」
「紗枝ちゃんがワシに頼み事とは珍しいな。いつも
来ては顔を見ただけで、すぐに帰るくせに」
「だって、それはおじいさんが、すぐに私のお尻とか
触るからでしょっ!」
 これも事前にシスターより聞いていた情報である。
「ふぉっ、ふぉっ、良いではないか。減るもんでも
あるまい?いや、その男と付き合う事にでもなったら
減るかな?」
「そういう問題じゃありません!それで…私のお願いは
聞いてくれる?」

「他ならぬ紗枝ちゃんの頼みじゃからな。それで
何じゃ?惚れ薬でも作るか?」
「え?そんなの作れるの?」
「嘘じゃ。流石に、そんな物は作れん」
「なんだー、残念…あのね、言いにくいんだけど…
一瞬で相手の動きを封じ込めるスプレー式のガスとか
出来ない?可能なら意識はあっても、身体が痺れて
動けなくなるようなモノがいいんだけど」
 端的に要点だけを述べる。
「随分とまた、過激なものを欲しがるんじゃな。何に
使うんじゃ?」
 心なしか老人の目に鋭さが増した。
「え、えーと…痴漢対策…かな」
「それが本当の理由ではあるまい?」
「え?ど、どうして?」
「片想いとかいう男とは関係ないじゃろが」
「あ、そうね」
(さすがにボケてもいないし、頭も切れるな。
だが拒絶しない所をみると、作れるという事か。
だろうな。ナチで働いていたという位だし)

「どうなんじゃ?」
「う…ん、本当の事を言うね。もし、そんな薬が
あるなら彼に使って、その間に既成事実を
作っちゃおうかと思うの」
「押し倒して襲うのか?何とまた過激な」
「駄目ぇ?」
 思いっきり艶っぽい声を出して甘えてみる。
「駄目ではないが、後で後悔する事になっても
知らんぞ」
「うん、大丈夫よ、おじいさんに迷惑は掛けないから。
約束する」
「ふむ…それ程までに好いているという事か…」

「お願い!おじいさん、作って!お願い!」
 両手を合わせて懸命に頼み込む素振りをする。
「分かった。可愛い孫娘の頼みじゃからな。それに
今では会いに来てくれるのも紗枝ちゃんだけじゃ。
今後の為にも、ご機嫌は取っておいて損は無かろうな」
「有難う!これから私、もっともっと遊びに来るから」
(シスター、悪いな。適当なこと言っちまって)
「そいつは願ってもない、報酬じゃな」
「うん、それと私は孫じゃなくって、ひ孫よ」
「知っとるわい。じゃが孫娘にしていた方が近所の
目にも都合がいいんじゃ」
「そっか。おじいさん、若く見えるもんね」

「さてと、それじゃ、ちょっと薬を配合してくるか」
 老人が立ち上がった。
「え?もう作ってくれるの?」
「作れるよ。大戦中に似たような物を作っておった
からな。ま、そっちはもっと危険で死にまで至らしめる
物じゃが…あ、それとスプレー式じゃったかの?」
「うん、痴漢対策にも使いたいから。大丈夫?出来る?」
「ノープロブレムじゃ」
 発音の酷い英語を発して老人はリビングを出ていった。

「ふぅー…行ったか。バレたら、どうしようかと
思ったが何とかなるもんだな」
 緊張が解けたのか、両足をガバッと開いてソファーに
身を委ねる。
「しかし、あのじいさんマジでヤバイな。俺なんかが
作ってる物とは比べ物にならないぞ。あれで、
もし若けりゃ金儲けに走るんだろうが」
 嫉妬にも苛立ちにも似た感情が湧きあがり、再び
グラスを口に運んだ。
「とにかく今すぐ作ってくれるとはラッキーだった。
また来るのは面倒だし、第一、普段こんな大人の格好を
しないからなー」
 見せブラとキャミソールのストラップを交互に
引っ張ってみる。
「ま、いいか…」

 プチッ
 時間が掛かるのを想定してリモコンでテレビの
スイッチを入れた。
「昼間っから面白いものをやってるわけないな…」
 それでも他にやることもなく、しばらくワイドショー
などを流し見していた。

「すぐに出来ると言っても1時間位は掛かるんだ
ろうな…」
 そんな独り言を漏らしていたら、リビングのドアが
開いたので慌てて姿勢を正した。
「あ…おじいさん!もう出来たの?」
「ああ、出来たとも。これでいいんじゃろ?」
 そう言うと後ろ手に持っていたスプレー缶を出し、
いきなり男に向けて吹き付けた。
 プシュッ!
「あ、おじいさん…何を…?」
 突然の事で訳が分からず、男は吐き出された霧状の
ガスを少量だが吸い込んでしまった。


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